湯浅比呂美が仲上家に入った日


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==注意!読むと鬱になるかも!危険を感じたら途中で止めてください==

湯浅比呂美が仲上家に入った日

やべぇ、ほんとに来るのかなぁ。楽しみって言ったらそうだけど。
何ていうか、学校のヤツラに何言われるんだろう? うーん、へへへ。
同じ家に住んで、一緒にメシ食べて、テレビ観て、おやすみぃ~、とか。
ん?
<仲上眞一郎君のプライベートです。ご遠慮下さい>
ま、やっぱ楽しみだよなぁ。よし、寝よう。

比呂美がこの仲上に来ることが決まってから、しばらく経った夏も終わりに
近づいたある日。そう、とうとうその日がやってきた。父さんが車で向うの
家まで迎えに行っているらしい。なんだか落ち着かない。母さんはちょっと
キゲンがわるいような気がするけど、ま、いっか。ちょっとキゲンがわるい
方がこっちをかまってこないし、好都合だ。
「しんちゃ~ん」
母さんが呼んでる。おおっ、とうとう来たんだ
喜んでいると思われたくないので、なるべくいつものような調子で比呂美を
出迎える為に靴を履き、眞一郎は入り口まで歩いていった。
キッ。
車が止まり、比呂美が助手席から降りてくる。
おおお~、来ましたよ~、比呂美が~、ん?…最初の違和感…
「お世話になります」
比呂美は目を伏せて、腰を深く折り曲げて挨拶してくる。
あれっ?なんだか仰々しいなぁ。丁寧なんだな、うん、挨拶は大事だからね。
眞一郎も何度か頭を下げて挨拶を返す。簡単な挨拶が終わった後、母さんは
さっさと家に戻ってしまった。まあ、何か準備しているんだろうな。
「さ、荷物運ぶのを手伝いなさい」
父さんは車の後ろに回って、こっちに向かって手招きしている。
よし、いっちょやりますかっ。
「でも、いいですから」
比呂美は小さな声で遠慮しているが、
「今日からウチの子なんだから、皆もそのつもりで」
「はい」
従業員の返事を聞きながら、あまり大きくないダンボールを運ぶ眞一郎。
「ごめんなさい」…最初のごめんなさい…
比呂美は先に自分の部屋に行ったみたいだ。まあ、母さんが場所教えるでしょ
う。引越しの荷物は既に運び込んであるみたいで、ダンボールは最小限の荷
物みたいで、それほど重くない。
比呂美は部屋の前で待っていた。
「ここでいいです」
「えっ?運ぶよ?」
「しんちゃん、お部屋に入ることないでしょ?」
ああ、そっか。女の子の部屋だもんな。そうだった、そうだった。
部屋の前にダンボールを置いた後、眞一郎は部屋に戻っていった。

うーん、比呂美だ。やっぱり来たよ。
眞一郎は、落ち着かない様子で部屋の中で動き回っている。同年代の女の子、
しかも小学校からずっと同じクラス、何回か一緒に遊んだこともある。最近
はそれ程時間を共にしたことはないが、気になる子が自分の家で一緒に住む、
というのは、少年にとって大事件である。絵本を手に取ったり、椅子に座っ
てみたりと、何も手に付かない様子なのは致し方ないであろう。

午後12時半。
「しんちゃ~ん、ごはんよ~」
「はーい!」
あれ?もうそんな時間?なんにもしてないよなぁ、今日。
いつの間にか時間が経っていて、既にお昼時を回っていた。居間に行くと、
既に両親と比呂美は座っている。眞一郎もいつもの場所に座り、全員そろっ
ての初めての食事となる。
「いただきます」
「今日は暑いから、そうめんにしましたよ。はい、しんちゃん」
「うん」
たしかに暑いなって思っていたから、ちょうどいいや。
眞一郎は、ばくばくと次々に食べていくが、比呂美はゆっくりと少しずつ
食べている。
やっぱ緊張してんのかなぁ、そりゃそうか。
その時、そうめんを取ろうとした眞一郎の箸が、比呂美の箸とぶつかりそ
うになった。
「ごめんなさい」
あっという間に自分の箸を下げる比呂美。
「あっ、ごめん。いいよ、とりなよ」
「…」
こちらを見ようともせず視線を下げている比呂美に、眞一郎は困惑した。
「…」
「…」
比呂美も何も言わずに、じっと自分の手元を見ている。
「しんちゃん、取ったら?」
「うん」
母親に言われて、やっと眞一郎が箸を動かしそうめんを取る。眞一郎は違和
感を感じていた。いつもそれ程会話のある食卓ではないが、今日は違う。
比呂美がいるせいではない、母親の雰囲気が違うのだ。それが食卓全体に及
んでいるような気がする。
「ごちそうさま」
「はい」
眞一郎は手早く食事を済ませて、部屋に戻った。

午後2時すぎ。
かなり緊張してるなぁ、比呂美のやつ。まぁ、しょうがないかな、今日はな
んだか母さんのキゲンわるいしなぁ。ったく、母さんもちょっとは比呂美に
気を使ってやればいいのになぁ。
眞一郎は比呂美が気になって仕方ない、いつも見ている比呂美とは全く違う
様子が心配になっている。
よし、比呂美がこの家に慣れるまでは、こっちが色々と話しかけてあげない
とな。そりゃ誰だって緊張するって。あ、ちょっとトイレ。
眞一郎は、1階のトイレに向かうべく階段を降りていく。ちょうど廊下の角
を曲がったところで、比呂美にぶつかりそうになる。
「ごめんなさい」
ちょうど眞一郎の口の辺りへ比呂美は視線を下げ、また謝った。
「あっ、こっちこそごめん」
「…」
「そうだ、何か手伝うことあったら、言ってよ。今日ヒマだしさ」
眞一郎は努めて明るく申し出てみる。
「大丈夫、自分で出来るから」
比呂美の言葉は、小さく、平坦で、およそ生気というものが感じられない。
眞一郎はさらに言ってみる。
「でもさ、ほら、重たいものとかあったりするだろ?」
「ごめんなさい」
比呂美は、またも視線を少し下げたまま謝り、眞一郎の横を通り過ぎていく。
もう、何も言うことはできなかった。
それからの眞一郎は、用事もないのに2階と1階を行ったり来たりして、テ
レビの部屋や、居間や、庭に行ってみたりしていた。比呂美に会うことはで
きなかった。

午後7時。
眞一郎の困惑は、夕飯の食卓でも続いている。
相変わらず会話はない、眞一郎が何か言いかけようとするが、雰囲気がそれ
を遮るようにしているため、結局会話というものがなかった。
「ごちそうさまでした」
比呂美は小さな声で言い、頭を軽く下げてから居間を出て行く。ほとんど彼
女は食事に手をつけていない。そのまま、部屋に向かったようだ。
だが、その時眞一郎の耳に想像もしなかったものが飛び込んできた。
眞一郎の箸が止まる。

「うぅ、ぐぅぅ…」
比呂美がトイレで吐いている…

会話のない食卓に音が聞こえてきてしまった。
眞一郎はどうすることもできない気持ちになっていた。食事なんて手に付か
ない。いたたまれない気持ち。
しばらくの後、扉越しに小さな、小さな比呂美の声が聞こえてくる。

「ごめんなさい、今日、体調が悪かったみたいです。本当にごめんなさい…」
か細く、弱弱しい、比呂美の声。
「先に休みます。おやすみなさい…」
ぱたぱたぱた。スリッパの音が遠ざかっていく…

「おやすみ」
なんとか眞一郎が返事をした時には、比呂美の気配すらなかった。

午後11時。
眞一郎はどうにかして、絵本を書こうと机に向かっていた。白い紙には何も
描かれていない。何も浮かばない。彼の頭をよぎるのは比呂美の姿。

         視線を下げ、「ごめんなさい」

眞一郎はその比呂美の姿と声を振り払うことができない。夕食の後テレビを
つけていた気がするが、どうだったろうか?

         視線を下げ、「ごめんなさい」

比呂美の姿と声。

         視線を下げ、「ごめんなさい」

いつも笑っていた比呂美。

         視線を下げ、「ごめんなさい」

比呂美が来てうれしかった眞一郎。

         視線を下げ、「ごめんなさい」

眞一郎にとって、それからの日々は楽しいものになってもよいはずだった。
しかし、彼には何もできなかった。比呂美の笑顔を仲上の家で見たい、彼は
そう思うようになっていった。ただ、それだけ。それが彼の望みとなった。
自分の無力さを彼はこれからゆっくりと味わうことになるだろう、思い知る
ことになるだろう。もしかすると、それこそが彼を縛り、積極性を失わせ、
自ら動かなくなる原因の一つかもしれない。

  彼にできること、やらねばならないこと、真の望み、それは何か?


         視線を下げ、「ごめんなさい」

END

-長いあとがき-
えーと、申し訳ありません。暴走しました。
比呂美を追い詰めすぎました。ご気分が悪くなったのであれば謝罪します。

レスで眞一郎視点が見たい、とありましたので15歳の少年になったつもりで
書きました。
本当は比呂美が来る日の彼の、どきどきわくわくな日を書くつもりだったの
です。書き出しを見ていただければおわかりになると思います。
眞一郎視点という言葉で連想したのが、1話で回想された比呂美が仲上家に
やってくる映像でした。
しかし、セカイノナミダを繰り返し聞きながら書いたのがいけなかったので
しょうか?反省しています。
SSを書く時は、何も考えません。連想した映像が浮かぶと、そのまま勝手に
ストーリーが構成されます。おそらくTV5話までのことが色々よぎりながら
キーボードが叩かれたのでしょう。今回も最初の映像から次々とその日の二
人と周りの状況が浮かんできて、こうなりました。尚、意図的に比呂美の表
情についての描写がないのではありません、浮かんできませんでした。心理
描写も同様です。あの日、比呂美は自分が来たことでうかれている眞一郎と
会って、何を感じ、思ったのでしょうね?想像したくないです。
また、時間が途中で入っていますが、これらは二人の1年間の時間経過を表
現するためです。もっとゆっくりと物事は進んだのかもしれませんが、SSな
ので1日で消化させました。

これらの理由で、タイトルは"来た日"ではなく"入った日"なのです。
くれぐれも申し上げます、当たり前ですがこのSSとアニメ本編には全く関連
性がありません。普通にTVアニメを楽しんでいるだけなのになぁ…
このアニメのキャラ設定、凄いと個人的に思います。作った人を尊敬します。
他のキャラも隙がないように感じています。

最後に、読んで下さってありがとうございました。懲りないでまた読んでね。
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