仲上家の騒々しい正月


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仲上家の騒々しい正月

大雪になった元旦。
午後から多くの訪問客で、仲上家の大広間は埋め尽くされていた。どちらを
見てもそれなりに整った正月らしい服装をしている。

午前中から酒を飲んでいるであろう年配者達は、大きな声で話しながら肴を
つまみ、酒を飲んでいる。中には仕事の話をしているようで、赤い顔をしな
がら真剣な顔も見て取れる。誰も彼も楽しそうに1年で最初のイベントを楽
しんでいるのは、年の始まりを告げにふさわしいといえる。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

仲上家の父は、訪問客に囲まれながらいつものように静かに相手をしている。
さすがに正月から新聞を読みながらとはいかず、表情を隠すことが出来ない
状況でたまに困ったような顔をしているのは、眞一郎にとって滅多に見れな
い貴重な機会だ。

眞一郎は父の隣に座して、居心地悪そうにしている。酒を飲めない(ことに
なっている)彼としては、相手をするにも話題すら思い浮かばない。
しかし、周りの酔っ払いたちは彼に話しかけ、からかい、笑っている。しき
りに酒を勧める者が後を絶たないので、父の様子を伺いながら「しょうがな
いな」というタイミングを、実は虎視眈々と狙っていた。胃に食べ物を入れ、
飲み始める準備はいつでも出来ている。後はきっかけだけだ、と考えていた。

仲上家の母は、近所や親戚の主婦達と楽しそうに忙しくしていた。やはり、
1年の最初の仲上家のイベントして、粗相のないようにするのは本人にとっ
て充実した時間になる。微笑しながら働いている姿というのは、滅多に見ら
れない光景でもある。

そこへ艶やかな晴れ着姿の少女が、料理の入った小鉢を持って大広間に入っ
てきた。比呂美である。薄紫をベースとした振袖を身に付けて、にこやかな
笑顔で、すすすと歩く姿は何とも美しい。少女らしく化粧は控えめだが、正
月でもあり晴れ着に合うようにしているため、可愛らしい顔立ちを"女性"ら
しく見せている。
「おお~」
「ほぉ~」
早速何人かの酔っ払いが目を付けるが、酔った勢いで不埒な真似をする者は
いなかった。比呂美はまっすぐに眞一郎のところまで歩いて行き、彼の斜め
後ろで膝をついて、料理を差し出す。
「これ、上手に出来たよ。食べて、食べて」
眞一郎、失神寸前。晴れ着姿、控えめだが良く似合った化粧で彩られた笑顔、
媚びるわけでもなく何かを訴えかけるような声、まさにKO一歩手前だ。口を
半開きにして、倒れないだけ精一杯、一言も話させない。

「?」
自分の姿に全く自覚のない比呂美は、小首を傾げて眞一郎の顔を見る。
眞一郎、その素晴らしく可愛げな仕草に思考停止。彼の中で時間が止まり、
他の全てが意味を失くす。
「坊ちゃん!見とれすぎ!」
「だらしないですよ!その顔!」
「抱きついてもいいですよ!誰も見ていませんから!」
次々と酔っ払いが眞一郎をからかう。しかし、彼には聞こえない。
「そろそろ"坊ちゃん"じゃなくて、"若旦那"かな!」
「おおおおおおお~」
「んじゃ、そちらのお嬢様は"若奥様"か!」
「ぅおおおおおお~」
このからかう声と歓声にさすがの眞一郎も目を覚ます。比呂美の顔が赤く染
まっていき、固まってしまう。

「…」
「…」
状況を忘れて見つめ合う二人。
その時、二人の後方で"覚醒"しつつある女性がいることを大広間にいる人々
は気づかなかった。無表情で全身に力を漲らせている。何かの感情をおさえ
ながら比呂美に声をかけてきた。
「ひっ、比呂美さん!こちら、手伝ってちょうだい!」
残念ながら心の動揺は隠すことができず、声がうわずってしまっている。
しかも大勢の前で"比呂美さん"と呼ぶのは初めてだ。
「はい!」
比呂美も我に返り、そちらを振り向いてからもう一度眞一郎へ向かって、
「じゃ、また後で他のも出来たら持ってくるからねっ」
眞一郎、一瞬だけ垣間見えたうなじを繰り返し脳内再生中。
今度は別の酔っ払いが大きな声で言う。
「"比呂美さん"か!もう"嫁"扱いだ!」
「ぅおおおおおおおおおおおおお~」
「"姑"に負けちゃダメだよ"お嫁さん"!」
「だっははははっ………はっ!」
この一言は余計だった。致命的だった。眞一郎の母が"覚醒"の時を迎えた。
その単語、"姑"だけは出してはいけなかったのだ…
<ここで、金色のオーラに包まれるママンをご想像下さい[ゴゴゴゴゴゴ]>
一瞬で静まり返る楽しかったはずの大広間。
仲上家の母は肉食動物が獲物を物色するような視線で、周囲を一瞥してから
奥に消えるまで、誰も話すことも動くことができないまま、じっとしていた。

「ははははは、ま、飲みましょう、飲みましょう!」
仲上家の父が珍しくその場をとりなすように声をかけて、自ら酒をあおって
いる。次第に先ほどの賑わいが戻ってきた。
眞一郎はここぞとばかりに自分も酒を飲み始める。

その後、比呂美は少しずつ料理を眞一郎のもとへ運び、その度にからかわれ、
何度も何度も台所と大広間を往復する。一度に持っていけばいいのに、とい
う周囲の視線を感じながら。
比呂美が行き来する度に、酔っ払い達がからかい、その一言一言に反応する
"覚醒"した眞一郎の母が周囲の人々を脅す、ことが何回も繰り返された。

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「ふう」
「ふう」
そして深夜、昼間の喧騒が嘘のような仲上家の部屋で二人はベッドに並んで
寝転んでいた。
「なんか、すごい大騒ぎだったなぁ」
「毎年こんな感じなの?」
「いやぁ、違ったと思うけどな。どうだったか」
「お酒飲むから、忘れちゃった?」
「そんなに飲んでないって、比呂美も飲んだ?」
「ちょっと舐めただけ」
「楽しかったね」
「すごく楽しかった」
「いっぱいからかわれたなー」
「…」
「ん?」
「思い出しちゃった」
「…」
「…」
二人は何度も言われたことを思い出して、天井を見上げたまま黙ってしまう。
「…」
「…」
「…」
「あ、あのさ」
眞一郎は答えない。
「すー…」
「寝てるし」
比呂美は、眞一郎の寝顔を見ながら、昼間のからかわれたことを思い出す。
(若奥様、若奥様、若奥様、若奥様、若奥様…)
(お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん…)
一人頭の中で繰り返し再生する比呂美、顔は真っ赤、昼間の眞一郎に負けな
いくらいのだらしない表情。
「ふふふっ♪眞一郎くん♪」
うれしい気持ちを声に出してから、キスをする。
「うぷっ…」
酒臭かった。飲みすぎはいかんぞ、眞一郎。

END

-あとがき-
最初に比呂美エンド後のエピローグを書こうと思ったのは、このようなエピ
ソードがアニメやゲームでは蛇足的なものとなり、あまり目にしないからで
す。
調子に乗っていくつも書いてしまったので、そろそろどうかな?と考え中。

最後に、読んで下さってありがとうございました。
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