二人でお買い物


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=このSSの時系列は仲上家の騒々しい正月の後、かなぁ

二人でお買い物

その日、朝から比呂美は忙しかった。
「次はこっちをお願いね!」
「はい!」
眞一郎の母による嫁いびり、ではなく、家のお手伝い指示である。眞一郎は
昼食後、自室で絵本を描いている。午前中は何か自分も手伝おうとうろうろ
していたが、「「じゃま!」」と息の合った言葉にすごすごと引き下がって、
テレビを見ていたようだ。

嫁いびり、ではなく、様々な指示は少しだけ厳しい、嫌味などは言われない
が手を抜くことは当然ながら許されないので、比呂美はそれなりに真剣な表
情でお手伝いをしている。柱を拭いている時に声がかかった。
「ちょっと比呂美さん?、来てくれる?」
「あ、はーい」
比呂美が行くと、戸棚を覗き込んでちょっと困った顔の"おばさま"がいた。
「あら、いつの間に無くなったのかしら"これ"…」
「?」
「まあ、いいわ。比呂美さん、"これ"買ってきてくださる?」
空き箱を示しながら次なる嫁いびり、ではなく、お手伝い指示が下る。
「えっ!?"それ"ですか?」
少し比呂美も困ってしまう、"それ"だった。
「そうよ、別に恥ずかしい物じゃないでしょ?」
「まあ、そうですけど…」
「お願いね。お金は渡しますから、待ってて」
「はい…」

遠ざかる"おばさま"に取り残されて、比呂美はちょっと元気が無い。
(はぁ、"それ"を買ってくるなんて、ちょっぴりイヤだなぁ…)
だが、ここで比呂美に救いの手が差し伸べられることになる。
「何?買い物に行くの?じゃあ、一緒に行こうかな?」
いつの間にか眞一郎がそばにいて、同行を申し出てきたのである。

「えっ!?しんちゃん、買い物に行くの?じゃあ、私が…」
眞一郎の母が最後まで言い終わらない内に、
「コート!取ってきます!」
ぴゅーん、という勢いで比呂美が駆け出していく。(やられた!)という表
情の母親を見て、複雑な心境の眞一郎であった。

玄関でしばらく待っていると、"デート仕様の比呂美"が少しだけ息を切らせ
て登場した。
「お、お待たせっ」
どこからどう見ても単なるおつかいの格好ではない、細部まで検討し尽され
た立派なお洒落着である。
「行ってきまぁす」
「行ってきます!」

その二人の様子を見て、"お義母さん"はひしひしと敗北感を感じていた。そ
の敗北感が次なる嫁いびり、ではなく、お手伝い指示の燃料に還元される。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

二人で仲良く手を繋いで歩きながら、眞一郎が話し出す。
「思ったよりもうまくいったよ」
「タイミングを測ってたの?」
「まあ、測っていたと言うか、何と言うか」
「わかんない、教えて?」
「実は午前中にちょっと、仕込みをね」
「"あれ"を隠したの?」
「まあ、そんなところ。他にもいくつか」
「…」
「何?」
「後で見つかったら、怒られない?」
「いやぁ、まあ、その時は一緒に怒られればいいんじゃない?」
「私まで?」
「だって一緒に出かけてるしさ」
「私が頼んで隠したってことになったら、どうなるか…」
「あ、そうだった。あっちゃぁ」
「ちゃんとっ!庇ってね!」
「もちろんでございます。若奥様」
「!!!、って、そんなんじゃ誤魔化されないよ!」
と言いつつ、もの凄くうれしそうな比呂美。その言葉には弱い、とにかく弱い。
眞一郎も歩きながら笑顔になった時、段差に引っかかり少しよろめいた。
「おっと」
…ぷよん…ふにっ…<何の音か?わかりますよね?>
「あっ」
「あ……、ごめん…」
「う、ううん…」
手を繋ぎながら、頬を染めて立ち尽くす二人。この様なアクシデントは、未
だに慣れていない、とかそういう問題ではないようだ。
比呂美は答えた後にちょっと手に力が入って、きゅっ、と握った。
「!」
眞一郎は何を勘違いしたのか、自分も比呂美の手を握り返した。
…きゅっ…
「!」
比呂美はちょっと驚いたが、握り返してみる。
…きゅっ…
その後、二人は少し俯いて頬を染めながら手を握ったり、握り返したり。
…きゅっ……きゅ……きゅっ……きゅっ……きゅ……きゅっ……きゅっ…
えーと、次の文は声に出して読んでいいですよ。「いい加減にしろ!」

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

とりあえず"あれ"を買う目的はあるのだが、少し遠回りしようか?、という
提案からショッピングモールに入っていく。手の握り合いっこは、思い出し
たようにどちらから、という訳でもなく続いていた。…きゅ…

あちこちの店に入って品定めをしながら楽しそうにしている二人を、少し離
れた場所から監視している集団がいる。
「面白くないね」
「うん」
「休みの日まで見てしまう、っていうのはちょっと」
「それよりも!さっきすれ違ったのに気付かれないのは、さすがに、ね」
「問題あるよね」
「あんなにわざとらしく大きな声で話したのにね」
「友達っていう言葉の意味、忘れているのかな?」
「教えたあげた方がいいと思う」
「賛成」
「うん、賛成」
「じゃあ、そういうことで」
「決まり!」
比呂美と眞一郎は店を出たところで、その集団に捕まる。
「!」
「あっ!みんなどうしたの?買い物?」
偶然ねという言い方は、その集団に対して最も悪い選択であった。
「喉が渇いた」
「ちょっと歩き疲れたよね」
「そうね、あのオープン・スペースでいいんじゃない?」
「うん、それなら全員で一緒に座れるし」
「何を話してるんだ?」
眞一郎にはさっぱりわからない。
「さあ?」
当然、比呂美にもわからない。
「あのねぇ、さっきすれ違ったのに気付かなかったでしょ?」
「そうなの?」
「おごって」「おごって」「おごって」「おごって」「おごって」
有無を言わせず、"おごって"連続攻撃。
「…」
「…」
とにかく機嫌が悪いことはわかったので、大人しく引きずられるようにして
連行されていった。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

オープン・スペースに席を確保し、二人に飲み物を頼んで集団は話し始める
が…
「あっ、あの二人手を繋いだままお金を払ってる!」
「信じられない!そこまでするっ!?」
「懲罰ものね」
「まず、女を捕らえましょう」
「男は?」
「流刑」
最後の言葉は朋与である。
飲み物を持ってきた二人を、心から歓迎する集団に笑顔はない。先程よりも
機嫌が悪いと見て、ひるんだのは眞一郎だ。
「はい、あんたはそっちの席」
「…」
女子だけ一つのテーブルにぎっちりと座り、眞一郎はテーブルに椅子一つと
いうなんとも寂しい状態を強制される。比呂美もさすがに抵抗できない。

最初だけは比呂美を糾弾するような雰囲気で話し始めたが、次第にいつもの
"わいわいがやがや"という感じで話が盛り上がっていく。近くに眞一郎がい
るので、"そっち"や"あっち"方面の話はできないが、それでなくても話題は
尽きることなく、時間があっという間に過ぎていった。

「あっ!もうこんな時間!そろそろ帰らなきゃ」
おそらく外は暗くなり始めているであろう時間になって、比呂美が言った。
「あ、ほんとだ。じゃあ、お開きにしましょうか?」
「眞一郎くん、一人にしてごめんね?」
比呂美は申し訳なさそうに話す。
「あぁ、いいよ」
だが、眞一郎は怒るでもなく、いつもの穏やかな表情。
「だってずっと一人にしちゃって、ほんとにごめんね?」
謝りながら、手を握る比呂美。
「だから、いいって。最近友達とあんまり話してなかっただろ?」
「うん」
「ちょうど良かったじゃない、偶然会えてさ。たくさん話したし」
「うん」
ちなみに、二人は話しながら手の握り合いっこをしている。…きゅ…きゅ…

「…」「…」「…」「…」「…」
取り残された集団は、あっけにとられる。さっきまで楽しく話していたのに、
ちょっと目を離すとこれである。放っておいて帰る選択が無難だった。しか
し、さすがに黙って帰るのは腹の虫が収まらない。それぞれに捨てゼリフを
残していく。
「いつまでもそうしてなさい!」
「最後にどっと疲れた」
「私も男が欲しい」
「後片付けは?」
「二人に任せましょう?共同作業ってヤツよ」
比呂美と眞一郎が気付いた時には、飲み物のグラスだけが残されていた。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

二人が家に帰るとご立腹のお方が待ち構えている、腕を組んで。
「ずいぶんと時間がかかったわねぇ?」
結局デートをしてしまって、"あれ"を買ってくるのをすっかり忘れていたし、
隠していたこともバレてしまっていた。長時間のお説教が開始される。当然、
夕食の準備は後回しにされた。

「夕飯は?…」
父の空腹で弱りきった声がむなしく響く、仲上家の夜。

END


-あとがき-
すみません、最後まで"あれ"を何にするか思いつきませんでした。

最後に、読んで下さってありがとうございました。
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