仲上比呂美の第一歩・前編


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第一回 True Tears 比呂美ショートストーリー

   『仲上比呂美の第一歩・前編』
                                           作 レンビンダミナ



 比呂美との結婚式を翌日に控えた今日という日。俺、仲上眞一朗は、局所的に集まってきた親戚達の相手に奔走していた。
 「お前のおしめを換えたこともあるんだぞ」なんて言われても、覚えているはずもなく。
それ以外にも初めて見るような人達が一同に会するのも、こういったイベントならではの特徴なのかもしれない。
 昼間からドンチャンガヤガヤの大騒ぎの大宴会の中、俺はあちらこちらに呼ばれ祝福されつつ、お酌をしてまわるのに必死だった。
 そんな時、比呂美が追加のつまみと料理を持って部屋に入ってきた。
 「眞一朗、一人にしてごめんね。お義母さんがこっちはいいから眞一朗のところについててやれって」
 そう言って比呂美は屈託なく笑った。
 あの色々なことがあった青春時代から早数年。本当に色々とあったけど、一時険悪な関係だった母さんと比呂美も、
今では本当の親子以上に仲が良い。仲上の家の中では暗い顔ばかりだった比呂美は、いま俺の目の前の彼女のように、
誰はばかることなく最高の笑顔を浮かべている。
 何もかもが幸せで……順調すぎて……。
 そんなことを考えていると、比呂美が心配そうな顔をした。
 「眞一朗、大丈夫? 疲れたのなら、少し部屋で休んでいたほうがいいんじゃ――」
 「へ? あ、いや、違うんだ。比呂美の顔を見てたら、なんだか幸せだなってあらためて思って……」
 そう正直に話したら、比呂美は頬を朱に染めて、一瞬口をぽかんと開いたかと思うと、斜め下に視線を動かした。比呂美が照れているときによくやる仕草だ。
 「も、もう! そういうことをこんな所で言わないで」
 言葉は荒いが、顔は耳まで赤く染まっていた。
 「思ったことを言っただけだって。じゃあ、どこならよかったんだ?」
 「どこって……こんな時間からそんなこと聞かないでよ。眞一朗のエッチ」
 桃色トークで身も心もでれでれになりかけたその時。
 「――ごっほん!!」
 「い!? 母さん?」
 俺と比呂美の間に位置するかたちで、母さんがそこに立っていた。
 「いつから!?」
 「ほとんど最初からよ。あなたたちが入り口でお喋りしているから通るに通れないし。入るに入れない雰囲気なんですもの……そういう会話は、
夜二人きりのときにでもすることね」
 あいかわらずの嫌みな口調だけど、昔のような刺々しさはない。さっきよりも真っ赤に顔を染めている比呂美を見て、母さんはそっと唇を綻ばせた。
 「ごめんなさい、私お仕事の最中だったのに――」
 比呂美が本気で恐縮したように頭を下げた。いくら仲が良くなったとはいえ、今の関係は嫁と姑のそれに近く、お世辞にもフレンドリーとは言い難い。
 あやまる比呂美を見て、母さんが小さく溜息をついた。
 「いいのよ。どうせ眞ちゃんに捕まったいただけなんでしょうし」
 そう言った母さんの表情は、どこか寂しげなものだった。
 比呂美は気付いていないのだろうけど、実は母さんはもっと比呂美に甘えてもらいたいらしいのだ。
最近では、仕事中ほとんど比呂美の相手ができない俺に代わって、母さんが家事や仕事を教えているらしく、
比呂美も俺といる時間よりも母さんと一緒にいる時間のほうが多い。元々が素直で、飲み込みの早い比呂美には、
母さんも色々と教え甲斐があるらしい。そんな母さんが、ある日めずらしく俺に愚痴った言葉が、
「あの子ったら、いつまでも私に対して畏まった態度でいるから少しだけ寂しいなって思うことがあるのよ。
まあ、家に来た頃からの私の態度が原因なんでしょうけど、もう少し甘えてほしいって思うのよ」、ということだった。
比呂美に遠回しに母さんのことを聞いてみたら、「尊敬する人。私の大切な人を産んでくれた人だもの」、と軽く惚気ながら言われてしまった。
 深々と頭を下げる比呂美を見ていると、とてもじゃないが母さんに甘える姿など想像できない。だけど、いつかはそんな日もくるのかもしれない。
 「じゃ、比呂美。さっきの話しの続きをしに俺の部屋へ――」
 ほんのすこしだけ重たくなった空気を払うべく、意識して軽い声をだして比呂美の肩に手をのばした。
 その手をばしりと叩かれる。
 「なにいってるの眞ちゃん……あなたたちは今回のために集まってくださった皆様のお相手でしょ」
 「痛っ……わかりましたよ。不詳仲上眞一朗、立派に皆様方の接待役をはたしてご覧に入れましょう!」
 やけくそ気味に言って騒ぎの中へと戻る。一連の俺達のやりとりを見て、比呂美がくすくすと笑っていた。
 幸せだ……。



 お義母さんと一緒にご飯を作って、経理の仕事を手伝って、夜はベッドの中で眞一朗くんとたくさんお話をする。
 それが私、湯浅比呂美のここ最近のあたりまえの日常だった。
 お義母さんも、良い思い出ばかりではないけど、今はとても尊敬できる私の大好き人になっていた。
 私達の結婚式のために集まってくれた、仲上の家の方達に挨拶をしながらも、私の視線は常に眞一朗くんを追っている。
 気付いているだろうか、私がどれだけあなたを愛しているのかを。
 幼い頃から抱き続けた恋心は、今でも色褪せずに私の心の中に在る。
 眞一朗は私を見ていてくれるし、仲上のお義父さん、お義母さんもとても優しくしてくれる。こんなにたくさんの人達からも祝福されて……。
 こんなに幸せでいいのだろうか、と不安に思ったこともある。こんなに幸せなのに、もっともっとって思ってしまう自分は、
酷く醜いのではないのだろうかと考えたこともある。だけど、私と一緒に居て、とても幸せそうに笑ってくれる眞一朗くんを見ていると、
私の頭に浮かんでくる小さな不安な気持ちは吹き飛んでしまうのだ。
 結局のところ、私の幸せは眞一朗くんの幸せで、私はただ愛する人のことを幸せにすることだけを考えていればいい。
こんな温かい気持ちがあるってことに、最近になってようやく気付くことができた。
 そんなことを考えながら、少しの間だけぼうっとしていると、さっきまで眞一朗くんがいた場所に、彼の姿がなくなっていた。
 部屋の中をきょろきょろと見渡していると、眞一朗くんの姿はすぐに見つけることができた、のだけど……。
 今年大学に入ったばかりだという仲上家の遠縁の女の子が、眞一朗くんの腕にくっついて下から見上げる形で何やら楽しそうに談笑している。
 眞一朗くんは、今や絵本作家兼小説家として、ちょっとした地元の有名人になっていたりするので油断ならない。
 (我慢よ……比呂美! 私は眞一朗の妻になるんだから、これくらいのことでヤキモチ焼くなんてみっともないわ)
 比呂美が目の前の厄災に必死に堪えている頃。眞一朗にくっついた少女は、さっきよりも体を密着させて、媚びるような目で何かを必死に語りかけていた。
 (ちょっと! さっきよりもくっついてる! 胸! 胸当たってるよ!)
 ギリギリギリと、比呂美が無意識で発生させた歯軋りの音が部屋に轟く。
 (もう我慢できない! 私の眞一朗くんから離れなさい!)
 あまりの光景に我慢ができなくなった私が席を立とうとした、その時。
 「いったあああああ!!」
 眞一朗くんが悲鳴をあげ、その勢いでくっついていた女の子をはじき飛ばした。見ると、お義母さんが眞一朗くんの脇腹を後ろからおもいっきりつねりあげている。
 「こんなところでサボっているんじゃありません。町内会長さんがお祝いを持っていらっしゃってるから、はやく行って挨拶してきなさい」
 いつもの凜とした声で、眞一朗くんを叱りつける姿がたのもしい。
 ぶつぶつ何かを言いながらも、しぶしぶ立ち上がる眞一朗を見送り、もう一度お義母さんのほうを見ると目があった。
 お義母さんは、微笑をたたえて親指だけを上に向け、私にむかって大きく頷いた。私も真剣な顔でそれに応えて親指を出した。
 (お義母様……一生ついていきます)
 そんなやり取りの最中に、眞一朗に突き飛ばされた女の子が目に入ってきた。さっきの勢いで頭をぶつけたらしく、涙目で頭をさすっている。
 こんなとき、ざまあみろなんて思ってしまう私は、悪い子なのかな。なんてね……。

 午前十一時からはじまった仲上家の宴会は、そのまま夜の十一時まで続いてやっとお開きになった。
 手の空いている女性陣で部屋を片付けて布団をしき、酔いつぶれた人達を誘導するのにかかった時間が一時間。
それから洗い物をしたり、お風呂に入ったりしていてさらに時間がたち、私と眞一朗くんの住む部屋に戻った頃にはすでに真夜中になっていた。
 色々な人への挨拶などで疲れ切っていたし、さすがに眠っているだろうと思い、そっと部屋の扉を開けたのだが、
眞一朗くんは仕事机に向かって描きかけの絵本の続きに勤しんでいた。
 「よ、遅かったな」
 ちらりと視線を私へ向けて、あまり興味がないみたいに、また仕事机のほうに顔を戻している。
 「うん。お片付けをして、お風呂に入ったらこんな時間」
 お風呂あがりで、まだほんのり湿った髪をタオルで撫でながら、私は同じ部屋で暮らすと決めたときに買ったダブルベッドに腰掛けた。
 「そっか。俺もさ、やりかけの仕事の締め切りが近いから、できるだけ進めておこうかと思って」
 眞一朗はそう言った。だけど、これは大嘘。彼の仕事の締め切りは、実はまだまだ先のことで余裕がある。
家事や仕事で少し部屋に戻るのが遅れる日は、こうしていつも仕事をしながら私を待っていてくれる。
どんなに疲れていたって、どんなに寝不足だって、夜はかならず私とお喋りをしながら眞一朗くんは眠る。
こんなに優しい嘘をつく、眞一朗のことが私は大好きだった。
 「そろそろ終わりにして寝たら? 明日はきっともっと大変だもの」
 「そうだな……ま、なんとか終わりは見えてきたし」
 眞一朗くんは腕をのばして軽くストレッチをしながら、ベッドに入った。私もそれに続く。
 「電気けすね」
 「おう」
 パチリと音をたてて消灯する。最後に残した小さな電球が、橙色の光であたりを朧気に照らしていた。
 布団に入ると、眞一朗くんとさっそく目が合った。
 「疲れただろ? 大丈夫だったか?」
 自分だって疲れているのに、こうしていつも私のことを心配してくれる。
 「ううん、大丈夫。みんなおめでとうって言ってくれて、すごく嬉しかったよ」
 「そっか。ならいいんだ――」
 眞一朗くんがいつものように、私の髪を撫でようと手を伸ばしてきたとき、「――痛っ」という眞一朗くんの苦しそうな声が聞こえてきた。
 「どうしたの!?」
 私の頭の中に、たくさんの不安がよぎる。なにかの悪い病気ではないのか、と。
 (神様! 眞一朗くんを病気にするなら、その病気を私にください……)
 勝手に盛り上がってしまった私の感情は、涙という形になって目からこぼれおちた。
 「わ、ちょっ! なに泣いてんだよ。昼に母さんにつねられたところが内出血してるだけだって」
 「――ぐすん。な、ないしゅっけつ?」
 「そうだよ。母さんのやつ、あんなに強くつねらなくったっていいのに……」
 「うっ」
 その件には深くかかわっている。私の中に罪悪感がむくむくと膨れあがったが、あのときの眞一朗くんのでれでれした顔を思い出したら、
一瞬で萎んでいった。涙と共に。
 「それは、眞一朗くんがぼーっとしてるからいけないんじゃない」
 私に同情してもらえると思っていた眞一朗は、顔を情けなくゆがませてこちらを見た。
 「なんだよ。お前は母さんの味方なのか? もうちょっと優しい言葉をかけてくれたって――んっ」
 油断していた眞一朗くんの唇にキスを浴びせる。触れただけの軽いキス。
 「でへへ」
 今までの不機嫌が嘘みたいに、眞一朗の顔にとびっきりの笑顔が浮かんだ。こんなことを思ったら失礼なんだとおもうけど、眞一朗くんは単純だ。
 不意に、眞一朗くんの手が私の胸までのびてきた。エッチをしたくなったときの眞一朗くんのわかりやすいサイン。
 手なれた手つきで優しく胸をもまれると、ほんの少しその気になってしまいそうだけど……。
 「だーめ」
 私はあらんかぎりの理性を働かせて、眞一朗くんの手を胸から離した。
 「疲れてるのにこんなことしてたら、明日本当に困るよ?」
 時間は午前二時をまわっている。いつものように盛り上がってしまったら、下手をすると寝るのは朝頃になってしまいかねない。
 「ちぇ。わかったよ。それじゃあ、夢の中の比呂美といちゃいちゃしてやる……」
 一瞬、夢の中の私に本気で嫉妬してしまいそうになった。けど、少しふてくされながら横を向いた眞一朗くんからは、
心地よさそうな寝息が聞こえてくる。なんだかんだと言いながらも、本気で疲れていたのだろう。
 (ごめんね。でも明日からはたくさんしようね)
 そんなことを考えながら、私は愛しい人のほっぺたにキスをして、いつものようにこう言うのだ、「……おやすみなさい」、と。








あとがきノヨウナモノ

幸せな比呂美を早く見たい……そんなことばかり考えていたら、我慢ができなくなって生まれてはじめてショートストーリーとやらを書いていました。
こんな感じで大丈夫なんでしょうかね?
しかし、僕がなぜここまでアニメのヒロインに肩入れしているかといえば、やはり比呂美の自分で穴を掘って自分から飛び込む、
所謂自爆癖とやらに原因があるのではないかと思います。
基本的に恋愛ものは好きなほうなので、メディアを問わず色々と見たり読んだりするほうなのですが、
ここまで幸せになってほしいと願うキャラクターには初めて出会いましたね。
アニメの比呂美の恋が成就するよう祈りつつ、これからも一視聴者として楽しみにしていたいと思っています。
後編の結婚式当日も、そのうち書くかもしれません。 
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