アスカ・シンのデイパックには一枚の手紙が入っていた。
内容は、アスカが愛する女──ユミムラ・リョウの命が惜しければ、この殺し合いで優勝しろ、というものだった。
ほかには、変な丸い石だけが入っていた。
説明書によると、この石は使用者の思うような形になる不思議なアイテムらしい。
アスカは全て読み終え、歩き始めた。
──君だけを守りたい。
それが手紙への答えだった。
□
イデは木陰に隠れながら、アスカ・シンの様子をじっと見ていた。
自分の支給品であるスタンガンを手に構えながら。
殺すつもりはない。警戒しているだけだ。
そもそもこんなものでは心臓の悪い親父くらいしか殺せないだろう。少なくとも、若く活発そうな青年を殺せそうにはない。
それにしても、殺し合いをしろとはどういことなのか? イデは冗談なのか本気なのか。考えてみた。
人が一人死んでいる。──トリックと言えないわけでもないが。
アスカが、説明書のようなものを読み始めたのに気付き、イデは自分のデイパックにもないか確認してみた。
説明書を発見し、手に取ったときには、アスカがこちらへ動き出していた。
そのとき、イデは自分の失態に気付いた。
木陰に隠れているのにこちらへ来られたら、逃げる場所がないのだ。
□
アスカは、木の後ろで何かが動いたのを確認した。
すぐに腰のガッツブラスターを抜き、木に狙いを定めた。
「悪い……。俺は戦わなければならないんだ!!」
□
銃声が聞こえて、アスカの腕から血がポタポタと垂れていた。
エージェント・エス──沢渡スミレがウルトラガンでアスカを狙撃したのだ。
「どんな状況であろうと、人を殺すのはよくないわ」
エスがアスカをにらみつけた。
「そうかもしれない……。だが、俺はリョウのために戦わなければならないんだ!!」
アスカは撃たれてないほうの腕──左腕で支給品の石を投げた。
──”光”の力はこんなことに使えないよな……
「怪獣になれ!!」
石の形が少しずつ、銀色の何かに変わっていった。
「一体何を!?」
変化が終わったとき、そこにあったのはアスカ・シン──ウルトラマンダイナを苦しめた怪獣の姿だった。
電脳魔神デスフェイサー。2メートル程度に縮小されているが、その強靭そうな機械の体はそれに違いなかった。
「悪いな姉ちゃん。……デスフェイサー! その女を殺せ!」
デスフェイサーの腕のガトリングガンが、エスを捕らえた。
エスはデスフェイサーにウルトラガンで攻撃するが、全く効果は感じなかった。
エスは自分の死を予感した。
──人生はチョコレートの箱と同じ。開けてみるまでわからない。……私の人生は、ちょっと苦いビターチョコだったかな……。
しかし、直後にデスフェイサーはただの石に変わった。「倒した」と感じたアスカは「殺す」という思いを失ったのである。
「どういうことだよ!?」
戸惑うアスカに、イデのスタンガンが接触した。
ただでさえ腕に攻撃を受けているアスカはその電撃を喰らい、倒れた。
□
「あなた、名前は?」
エスが訊いた。
「イデって言います」
「私はエージェント・エス。本名は抹消済みよ。……と言っても名簿にはどういうわけか私の本名が書かれているけど」
「本名と言いますと?」
「沢渡スミレよ。まあ、自己紹介は済んだし、チョコレートでも食べる?」
エスはイデに銀色の箱を差し出した。イデはその中からチョコレートを一つ取り出した。
「失礼します。……いや~それにしても散々ですね。突然殺し合いをしろだなんて言われて。でも、このイデにかかればこの首輪の解除も楽勝ですよ! 安心してください!」
イデの自信にまみれた顔に、エスは疑問を抱いた。
「本当に解除できるの?」
「ええ。……たぶん。あ! それよりどうします? あそこで倒れている男。どうやら訳アリって感じでしたよ?」
「置いていくわ」
エスは無情にもそう答えた。
「大丈夫よ。水と食料は置いてある。……それより、気になるのがこの氷ね」
エスが自分のデイパックに入っていたシャイナー05をイデに差し出した。
彼女の支給品はこれらしい。
「それを食べるとミイラ化するの。ご丁寧に説明書にまでそう書かれていたわ」
「そりゃあ大変なものですね。早く処分しなきゃ」
「待って。このシャイナー05は回収されたはずなの。覚えてない? といっても最近のニュースだから知らないわけがないわね」
「……私は知らないんですけどね」
エスはそれを聞いてイデの手元のシャイナー05を森に捨てた。
「まあ、知らない人もいるわね」
エスは、今度は手紙を取り出した。
「あの男は、この手紙を見て殺し合いに乗ったんだと思うわ」
「なになに……えーっと。ユミムラ・リョウの命が惜しければ、この殺し合いで優勝しろ……と。……そうなるとあの男、放って置けませんね」
「私は放っていくわ……と言っても首輪が解除できるって言ってるあなたとはぐれるのは痛いわね。……仕方がないわ」
そういうと、エスはポケットから支給品である手錠を取り出し、アスカの右腕と近くの細い木につけた。
「もし彼を説得しても殺し合いに乗るならばこのまま置いていくわよ」
エスは木にもたれかかるように座って、チョコレートを一つ食べた。
【アスカ・シン@ウルトラマンダイナ】
【1日目 深夜】
【現在地:I-5 森林】
【時間軸】:最終回後
【状態】:気絶中。右腕から流血。左腕は手錠で細い木とつながれています。
【装備】:リーフラッシャー@ウルトラマンダイナ
【道具】:基本支給品一式
【思考・状況】
1、優勝してリョウを助ける。
2、ただし、ウルトラマンダイナの力を使おうとは思わない。
【イデ@ウルトラマン】
【1日目 深夜】
【現在地:I-5 森林】
【時間軸】:12話開始以前
【状態】:健康。
【装備】:スタンガン
【道具】:基本支給品一式、不明支給品(0~2個)
【思考・状況】
1、首輪を解除する。
2、倒れている男(アスカ)を放っておけない。
3、エスと協力する。
【沢渡スミレ@ULTRA SEVEN X】
【1日目 深夜】
【現在地:I-5 森林】
【時間軸】:第6話終了時点
【状態】:健康。
【装備】:ウルトラガン@ULTRA SEVEN X、ギャンゴの石(1時間使用不可)@ウルトラマン、ガッツブラスター@ウルトラマンダイナ
【道具】:基本支給品一式、チョコレート
【思考・状況】
1、イデに協力する。
2、倒れている男(アスカ)を説得する。
3、アスカが説得を聞かなければ放っていく。
最終更新:2008年09月29日 18:25