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dlA+u9a0O

399 名前:まだまだ続けたいんだが[わん] 投稿日:2008/01/23(水) 02:14:39.51 ID:dlA+u9a0O
昔むかし、ある雪の降る日のことでした。
男「…」
ある男が仕事を終え、家の前まで着いたところ、
女「…」
男の家の門扉の前で、一人の娘が白い息を吐いて座っていました。

白い息で小さな掌を暖める彼女に、男は声を掛けました。
男「何だ、お前」
女「…」
娘は返事をしません。
多分、無視でした。シカトでした。
正直めんどくさいな、と男は思いました。
じゃあ何で俺の家の前にいるんだよ、とも思いました。

仕方がないので、娘を無視し、門に手をかけました。
すると、娘が並々ならぬ早さで門が開くのを制止しました。
男「…」
女「…」
漫画やアニメであれば、両者の眼の間には火花が描かれるであろう、力の入れ具合でした。
どちらも本気でした。
いい勝負でした。
力の入れすぎで、指が白くなっていました。腕がわなわなと震えていました。
こんなに力を入れなくてもいいのに、とお互いが思ってしまう程のガチンコでした。
あ、男が脚を使い始めました。
娘が、脚と男の顔を睨みました。
女性よりも先に、手段を選ばなくなりました。卑怯です。


400 名前:如何せん[つー] 投稿日:2008/01/23(水) 02:16:23.79 ID:dlA+u9a0O
両者は思い付く限りのファウルプレーを一通り使い切り、もう話を聞いた方が早いんじゃね?的な空気が流れました。
潮時です。
ここからは、どちらから譲歩をするかの探り合いです。

男「ま…まずは…話を聞こうじゃない…か…」
女「…ありがと…ご…ざいますっ…」
男「…じゃあ…手を…離そうか…」
女「ええ…せ…せーので行きますよ…」
男「ああ…せ、せーの…」
男「…」
女「…」

どちらも、手を離しませんでした。
てめえいい加減にしろ、ぶっ飛ばすぞ、と二人は思いました。
しかし、殴るための手が空いていません。睨む事で、相手への精神的ダメージを試みます。

男は思いました。
この女は手を離さない。手を離したら、俺が家に入っておしまいだ。俺が先に離さないと、この勝負は終わらん。
男は、門を握る手を離しました。
男「まあ、何か事情があるのだろう。俺も鬼じゃない。話を聞こうじゃあないか」
まるで紳士のように振る舞いました。
今更感が漂っています。
女は眉間に皺をガッツリ寄せ、恐る恐る男の顔を窺いました。
まずは二人共、呼吸を整え始めます。休憩タイムのようです。
手は開くと痛いので、握っておくのがベストだと本能的に悟っているようでした。


401 名前:明日はテストなんだ[すりー] 投稿日:2008/01/23(水) 02:18:46.61 ID:dlA+u9a0O
男「…で、一体何の用だ。俺に」
女「…いえ、この家の主の方に用があって……」
男「いや、俺が主だ」
女「…?」
男「この家には、俺しかいない」
女「え……?」
女「あなたが、この趣味の悪い豪邸の主なんですか……?」
男「そうだ。いや、そうじゃねえよ。何だ、趣味の悪いって」

娘は狼狽していました。
想像していた人よりも、ずっと若かったのです。ちなみに、想像していたのは、太った髭面の臭そうな傲慢暴食オイリーハゲキモ親父でした。

女「…本当に、あなたが主なんですね……」
男「ああ」
女「…この街で一番大きな家が、ここだと聞いた事があります……」
女「…そこで、お願いしたい事があるんです」
男「金か」
女「…」
男「図星か」
女「ち、違います……ええと…」
男「…住居か?」
女「……」

死ね、と女は心の中で呟きました。


495 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/01/23(水) 13:58:01.68 ID:dlA+u9a0O
>>491
男「気にするな。花瓶なんて、この世にいくつあると思っているんだ?」
男「花瓶は山程あるが、お前はたった一人だ」
男「花瓶は元には戻らないが、お前の傷は治る」
男「この花瓶、どうしてくれるんだ」


518 名前:>>399-401の続きだが[ふぉー] 投稿日:2008/01/23(水) 15:13:47.57 ID:dlA+u9a0O
男「それで、結局何が欲しいんだ?」
男「何か欲しいから、ここまで来たんだろう?」
女「……」
男「この家に来るのは、泥棒、乞食、詐欺師、融資の依頼、あとはazomanの配達くらいだ」
男「大体の物は経験しているから、忌憚無く言え」
女「……」

女「……お金」
女「…お金が欲しいんです」
男「金?金を手に入れて、何に使うんだ?」
女「……」

娘は意を決したようで、ゆっくりと、静かに言葉を紡ぎ始めました。
女「…三日前、母が死にました。末期の癌でした」
女「母は働いて働いて、一人で私を育てて、癌になって、苦しみながら死にました」

女「…父は私が生まれてすぐ、母と離婚をしました」
女「父が今どこにいるのかは分かりません。別の街で、新しい家庭を作って、幸せに暮らしているみたいです」
女「母の見舞いには、一度も来ませんでした。葬式にも来ませんでした」

女「…私は一人になりました」
女「母の治療費は、私が払うしかないみたいです」
女「親戚達は、借金を持つ私を引き取ってくれませんでした」
女「まあ…借金が無かったとしても、こんな私を引き取る程仲の良い親戚はいませんが……」

女「私は、売れる物は何でも売りました」
女「住居も、家具も、服も……恥ずかしい話、下着も売りました」
女「…もう残っている物は、この体しかありません」


520 名前:如何せん[ふぁいぶ] 投稿日:2008/01/23(水) 15:14:21.78 ID:dlA+u9a0O
男「…」
男は、相槌を打ちませんでした。
クラシック並みに、間が良く分からなかったからではありません。
状況と、何よりも新贋を見極めるためでした。
男は、娘から表現される物全てを吟味していました。

女「…私は、私の体を売りに、ここに来ました」
女「私を、買って下さい」
女「借金を返さないと、母が安心して休めません」

女「…母は最期、麻酔と抗癌剤の投与を断りました」
女「『いっぱい、お金掛かっちゃうからね』と言って、死ぬ痛みに耐えました」
女「お金を返さないと、母が耐えた痛みが無駄になります」
女「天国でも、痛みに苦しみ続けるような気がするんです」

女「どんな痛みにも耐えます」
女「どんな乱暴にも耐えます」
女「お金さえ頂けるなら、私はどんな事でもします」
女「だから…だから……」
女「私を、買って下さい」

男は、ある事に気が付きました。
この娘は、涙を流さない。いや、流せないのか。
母という懸念が、不安が、恐怖がある限り、この娘は涙を流せないんだ。

娘は力が抜けたのか、地面に膝と両手を付きました。
表情は、前髪に隠れて窺えません。
雪が、彼女の掌の輪郭に沿って、次第に溶けていきました。


522 名前:今度はバイトの時間が迫っている[しっくす] 投稿日:2008/01/23(水) 15:16:22.39 ID:dlA+u9a0O
男「…お前の気持ちは良く分かった」
女「…それでは……?」
男「良いだろう。契約成立だ」
男「お前の借金と引き換えに、お前は一生、俺の物になる。文句無いな?」
女「……はい、もちろんです」

男「早速で悪いが、とりあえず立て」
女「はい……」
男「家に入ったら、もうお前に自由は無い。いいのか?」
女「…自分で決めた事ですから」
男「よし。歩けるか?」
女「…はい」

借金の代わりに、娘は男の奴隷となりました。
これで借金を返せる。ようやく母も、苦痛から解放される、と娘は思いました。

二人は、男の屋敷の中へと入ります。
男「…ようこそ、我が家へ」
女「…すごい……」
娘が一度も見た事の無いような、大きく、静かで、暖かい光の世界が、そこにはありました。
例えるならば、ラインストーンをこれでもかと貼った、逆に使いにくくなっている携帯電話のような豪華さでした。
娘は、男と合った当初、この屋敷の事を趣味が悪いと言ってしまった事を後悔しました。
訂正しなければ、と思いました。
これでは、外観と内装がミスマッチすぎる。こう叫びたい衝動に駆られました。
でも、相手は今日から自分の主です。
余計なツッコミは、命取りなのです。


524 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2008/01/23(水) 15:22:35.62 ID:dlA+u9a0O
>>520
ごめん
×新贋
〇真贋

そして書き溜めは尽きた


612 名前:>>518-522の続きだが[せぶん] 投稿日:2008/01/23(水) 21:57:12.26 ID:dlA+u9a0O
男「…さて、一通り案内した所で、そろそろ始めるか」
男「風呂に入ってこい」
女「……」
女「…はい」

娘は、主の命令で風呂に入り、一緒に食事を済ませました。
念のため、風呂では色んな所を丁寧に洗っておきました。備えあれば、憂い無しです。
やっぱり食欲も満たした方が、エネルギッシュでソウルフルな行為が出来るのかな、と娘は思いました。

男は、娘を寝室へと連れていきました。
男「ここが、お前の寝室だ」
女「私の寝室……?」
男「こんな部屋、ロックな私には狭すぎる、とか言うんじゃないだろうな」
女「…いえ、ロックではないですが……良いのですか?」
男「当たり前だ。とりあえず、今日の所はもう休め」
女「え…?」

娘は、ベッドに寝かされました。ベッドは柔らかく、娘は夢のような心地です。
男は、ベッドの脇に椅子を寄せ、そこに座りました。

男「何でも、言う事を聞くんだったよな」
女「…はい」
男「…死ねと言えば、死ぬのか」
女「…はい」
男「分かった」

男は、娘に最初の命令をしました。
男「お前は今日から、この家でメイドとして働いてもらう」


613 名前:如何せん今度は時間がない[えいと] 投稿日:2008/01/23(水) 21:58:25.67 ID:dlA+u9a0O
女「…メイド?」
娘は、思いがけない主の発言に、目を丸くしました。
しかしすぐに、ああ、そういうアレか、メイドでしっぽりアレか、と思いました。

しかし、男の言葉は、娘をさらに驚かせました。
男「俺から、主としての命令だ」
男「一生懸命、生きるんだ」
男「しっかり働いて、しっかり稼いで、何か好きな物でも買えばいい」
男「時々、どうしても欲しい物が出来て、延々財布と相談すればいい」

男「偶然ケーキ屋を見つけて、店の前で入るか否か、立ち往生すればいい」
男「好きな男が出来て、接近したり傷付いたり、些細な事で喜んだり悲しんだりすればいい」

男「服屋に行って、自分のセンスの無さに笑ったり、雑貨屋でどうでもいいオモチャを買ったり」
男「ヘアスタイルをうまく作れて嬉しがったり、お菓子を作って、時間を無駄にしたりすればいい」

男「太陽が眩しくても直視してみたり、きれいな花の匂いを嗅いでみたら意外に臭かったり」
男「どうしても海が見たくなったり、思いっきり走ってみたりすればいい」

男「お前は普通の女の子で、世界はこんなに広く、美しいんだから」
男「メイドとして働いて、辛い事や楽しい事を味わいながら、人生を楽しむんだ」
男「これが、俺からの命令だ」

娘は、自分の頬を伝っている物に、ようやく気が付きました。


624 名前:さよなら![えんど] 投稿日:2008/01/23(水) 22:16:06.18 ID:dlA+u9a0O
女「…はい……」
男「あと、もう一つ命令…いや、これは提案だな」
女「…?」

男「お前、俺の名字を名乗らないか?」
女「……え…」
男「お前の過去は、どうやっても拭う事は出来ない。それは事実だ」
男「でも、お前は今日から生まれ変わったんだ」
男「今日から、俺とお前は…同じ家に住む家族なんだから」
女「…………はい…」
男「こんなだだっ広い家だけど、よろしくな、女」
女「……お願いします…………お願いします………」


こうして、一人の男と一人の娘は、大きな大きな家に、小さな小さな家庭を作ったとさ。