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「よいしゃっちゃん!後ろ!」
不意に名前を呼ばれた。振り返ると、1人の男の子が私に手を振りかざしてきた。
「タッチ!わぁあ、よいしゃっが鬼だぁ。」
「ずるいよ、何で私ばっかねらうの?」
よいしゃっは昼休みに小学校の友達と校庭で鬼ごっこをしていた。いつもことだった。
「お前走るのおせぇし、つまんねぇんだよぉ。」
「そうだそうだぁ。」
男の子達がよいしゃっをいじめ始めた。突き倒されて服が汚れてしまった。
「お前ら、なにまたいじめてんだよ!」
そんな時、転校してきたばかりの私を助けてくれた男の子がいた。
「よいしゃっちゃん、大丈夫?怪我はない?」
不意に涙がこぼれた。名前はえっと・・・・・・、
「森田ぁ、お前そいつの見方すんのかよぉ。」
そう、森田。森田酸歩(もりたさんぽ)くんだ。私がいじめられるたびに味方してくれたっけ。
「女の子泣かすなんてサイテーだぁ。これでも食らえ!」
森田君は自分のポケットからスプレー型酸ポールを取り出して男めがけて噴射した。
「うわぁああああ。」といって男の子ほかのみんなと逃げてしまった。二人だけがぽつんとグラウンド
脇に座っていた。なぜか二人にはそれが笑えた。よくわかんないけど。
「いつもありがとう森田君。私のために・・・。」
「全然いいんだ、あんなやつらには酸ポールがお似合いだぜ。」
その時間がよいしゃっにとって一番うれしい時間だった。
 午後の授業の算数の時間に先生に指名された。
「ではここの問題を・・・・よいしゃっさん。」
これも不意だったので、反射的にばっと起立してしまった。
「は、はい!」
なぜかとても緊張していた。授業参観でもないのになぜか私はいつも緊張していた。
「はい、正解です。よくできました。」
「え?」
思わず声を出してしまった。
「ここは難しいから、みんなも解けるようにしておきなさい。」
「は~い。」
まさかの正解に、自分でもまだ信じられないまま、席に着いた。すると横の席の森田君が声をかけてきた。
「よいしゃっちゃん凄いね。僕答えわかんなかったよ。どうやってといたの?」
たとえ偶然でも正解は正解だったわけだし、自分の解いたやり方を森田君に教えた。
この時間もまたよいしゃっにとってはうれしかった。自分を褒めてくれる人なんてほかにいない。
教え終わると、森田君が笑顔で
「ありがとう。」
といった。
「あぁ、うれしい。こんな楽しい日が毎日続くといいのになぁ。」
頭の中で有頂天になっていた私だったが次の瞬間それが真っ逆さまになった。
荒々しく教室のドアが開けられ、一人の先生が入ってきた。
「失礼します!よいしゃっさん!お母さんが・・・。」
真っ白になった。教室中が私を見ていた。その視線もよいしゃっには気づいていなかった。
次の日母の通夜だった。親戚の方、先生にまじって森田君とその家族が来てくれていた。しかし、今の私には声をかける気力さえ失われた。大切な母を失った。原因は交通事故。
母の記憶はいいものしかない。私が母の大切にしていた花瓶を壊したときも、本屋で「戦争と平和」を盗んだときもいつも笑っていてくれていた。お弁当には私の好きな「筑前煮」をいれてくれたし、私の日常には欠かせないひとであった。それを一瞬にして失った。

人間のもろさを知った日だった。

 次の日、森田君に通夜のお礼をしようと思ったよいしゃっだったが、森田君はその日欠席だった。大丈夫かなぁ。心配になった。しかし私にはどうすることもできなかった。次の日も森田君は休んだ。次の日も。また次の日も。休む日が増える度に不安が募った。
 森田君が休んで一週間と二日たった日不安がピークに達して思い切って先生に聞きにいった。
「先生、森田君は何でずっとお休みなんですか?」
先生の表情が一気に暗くなった。そしてぼそっと答えた。
「森田君は重い病気にかかって入院していたの。でも来週からは来れるわ。」
私は喜んでいいのか分からなかった。でもまぁ、森田君も来週から来るわけだし、笑顔で出迎えよう。そう心に決めていた。

 そして月曜日。いつもより早めに家を出た。教室に着いたのも一位だった。
教室に二人目が入ってきた。三人目、四人目、五人目、六人目・・・。
教室がいっぱいになってきた時、先生が入ってきた。
「先生、森田君は・・・?」
「そのことなんですが・・・。」
先生の顔には涙が浮かんでいた。教室が静かになった。
「昨日、亡くなりました。」
前が真っ白になった。一瞬にして前が見えなくなった。この感じ、前にもあった。しかし前とは少し違う。何かが。一月の間に、大切な人が二人もいなくなった。

人間の大切さを寄り一層知った日だった。


13年後・・・


 私は東京が嫌いだ。
空気は臭いし、景色は悪いし。何より人が無神経である。
そんなことを思いながら「よいしゃっ」は、大通りの歩道を1人で歩いていた。大学に入学したのをきっかけに始めたバイトバイト帰りだった。 13年前に両親の仕事で山形からここに来て、小さなマンションで暮らしている。 両親はその一ヵ月後くらいに離婚して母に育てられたが、その母が13年前交通事後で死んでしまってからは1人で暮らしている。
 実際、ここから歩いて10分くらいのコンビニで働いているわけだがとくに毎日が楽しいわけでもない。 どちらかというと、つまらない日々である。今日も、万引きと間違えて警察を呼んでしまったて店長に怒られたばかりである。最近起こられてばかりな気がする。
 コンビニは大手メーカーで売り上げもそこそこだった。給料も生活していくには十分である。大学に通っているよいしゃっは今22歳で、今年の冬に論文の発表を控えていた。先生に大学院へ進む道も考えたが、正直もう大学にはあまり行きたくない。いや絶対に行きたくないのである。
 この時間の東京は明るい。照明やイルミネーション、ビルの光、信号機。この町に夜なんてない。まだ道には人が網目のようにぐちゃぐちゃに歩いている。家族連れ、カップル、友達同士、1人。その中でまるで「違う時間」を歩いているようによいしゃっはひたすら家に向かった。ここには私の好きなものは何もない。自然もない、川もない、友達も・・・そして家族も。「陸の孤島」である。

 いろいろ考えながら歩いていると、いつの間にか自分の家の前まで来ていた。5階建てのマンションでエレベーターはなく、建物から突き出ている急な階段を一歩一歩ゆっくり上っていった。冷たい風が吹き抜ける。
 部屋の前まで来て、バックから鍵を取ろうとしたが、暗くてどこにあるか解らなかった。結局ドアの前で2分くらいバッグの中を探していた。小さなことが私をいらだたせる。鍵は読みかけの本の間に挟まっていた。カチャッという金属音とともに、部屋の鍵が開いた。
「ただいまぁ・・・。」
弱々しく誰もいない部屋に言った。いつもの静かで真っ暗な部屋が出迎えた。 買い物を冷蔵庫にしまい、ついでにビール缶を2つ取り出した。 最近お酒の消費が激しくなってきた。怒られてカリカリしている自分を治めるには、これがいいのである。 すぐに机の上のPCの電源を入れて、「柿の種」に手を伸ばした。

 ブログを書くのが習慣になっていたよいしゃっは、毎日PCに向かってひたすら文章を書いている。
読者は多くはないが、皆、自分の相談に乗ってくれるいい人達である。「よいしゃっの憂鬱日記」というタイトルがディスプレイに出てきた。

よいしゃっ「今日もバイト先でテンチョーに起こられちゃったよ。」
うさぴょんさん:「ドンマイ。ところで何したの?」
よいしゃっ:「万引するように見えた男を捕まえたら、何も盗んでなかった。」
マスクマンさん:「それは×2。よいしゃっさんもそそっかしいですねぇ。」
よいしゃ:「いつも気お付けているんですがねぇ。なかなかなおりません。」
貝さん:「私もコンビニで働いていますが、この間強盗が入りました!」
よいしゃ:「え?それダイジョブだったんですか?」
貝さん:「じゃなきゃ、コメントしてません。」
よいしゃ:「あなたじゃなくて、お金の話です。」

暗い中、キーボードの音が響く。
カタカタカタカタカタッ・・・・。

 その後何分も、よいしゃっの一方的な愚痴などが続き、終わる頃にはもう夜中の2時である。 明日もバイトなので、PCを閉じようとするとブログ内に匿名でコメントがされていた。
「なに・・・これ?」
そこには不思議な文章でこう書かれていた。

「おめでとうございます。あなたは「西洋文化研究会」定員6人のうち1人に選ばれました。明日の午前0時に六本木にある「フルハウス」と言う店においでください。お待ちしております。」

状況が読めず、いつのまにか口をあんぐり開けていた。わけが解らない。
「せいよう・・・ぶんか・・・・・・けんきゅうかい?」
そんな会聞いたこともない。 ただの荒らしだろうか。ブログなどの荒らしはネット上で問題になっているが、文章にとくに変なところはない。それにしても、いったい何なのだろう。
ほんとにこんな会があるか。それさえも不思議である。 たとえあったとしてもそんなわけも分からないところなんか入りたくない。こんなコメント無視しよう。・・・・・ しかし「お待ちしております」と丁寧に書いてあることだし 、行って断るくらいはするか。
明日はバイトが早く終わるので行けるだろう。 とにかく眠かった。ほかの人のコメントがしてあるが、それに答える力も出せない。昔からこうである。意志が弱いというか、めんどくさがりというか、それがバイトの失敗につながると分からずに。
電源をけして そのまま布団に入って寝てしまった。

 眠れない。どうしても頭からあの文章が離れない。

「おめでとうございます。あなたは「西洋文化研究会」定員6人のうち1人に選ばれました。」

なぜあんな書き込みが、私のもとに?誰が、何の目的で?何か変なことに巻き込まれたのか。

いつも通り、うるさい車の音で目を覚ました。 いつもと変わらない動作で身支度をして、 いつもと変わらない道のりを歩いて、バイト先に向かった。 なのに今日は珍しく、目立った失敗もせず、日が終わった。 そして、六本木へと向かった。 臭い。 ここは東京で「臭い空気ベスト3」に入るくらい臭い。 そう思いながら、大通りから一本はずれた道にはいった。回りが住宅に囲まれ、道もせまい。こんなとこのバーなんてさらに信じられなくなっている。数メートル離れた住宅の一角に、ぼろぼろでかすれた字で「フルハウス」と書かれた店があった。変な空気が漂っている気がする。
「ここか・・・。」
といって、断る決心を持ちドアノブに手をかけて力強く、ドアを引いた。 開かない、呼んどいて留守はないだろう。 そう思いながら、ドアを思いっきり蹴った。 するとドアは普通に開いた。 ドアは「押すドア」であった。 1人で恥ずかしがりながら周りを見渡し 誰もいないのを確認しながら ドアを押して中に入った。 ベルの鈍い音が、店内に響き渡った。
チリンッ・・・。


present by coxinha