「救える力」
~これまでのあらすじ~
数学が得意な大学生、よいしゃっは東京という町が嫌いらしい。というか
この社会そのものが嫌いらしい。理由は簡単、つまらないから。
そんな退屈な日常をただ生きていた彼女の元に、「西洋文化研究会」という謎の
団体からの招待が。なんとなく足を運び、なんとなく溶け込んだその会はなんと、
「この社会を救う救世団体」だったのだ!
研究会員の仕事は、正体不明の会長から下される指令をこなすこと。
そして今回の指令は「紳士的な企業を救うこと」なのだが、果たして彼らは無事任務
を達成することが出来るのか!?
「-で、なにをすれば良いのか」
かたつむりが困ったように言った。
実際、「企業を救う」と言われても、なにをしていいのか全く分からない。
残りの二人もそれは同じだった。
「わからんなぁ、とりあえずここが危機的状況なのはわかるが・・・」
サイパンは辺りを見回した、周りには三人を除いて誰一人いない。
彼らが今いるのは「橋本弁当」という名の小さな弁当屋のレジだ。
何故彼らがこんなところにいるのかというと、ここが会長のいう「紳士的な企業」らしく、
とりあえず来てみて成り行きで働くことになったのだった。
しかし昼間の12時だというのにも関わらず、客一人やってこない。何故だ?
「売ってるものは普通の弁当だよな~」
フックが弁当を開く。なかなか旨そうである。腹減った。
「なんで売れねぇんだよう!?」
「お前が考えろ!」
「さっぱりだ!」
「きっぱりだな!」
フックが外に出て店を眺めてみる。
「そんな別に問題なんて・・・」
外装は少し古くなってるような気もするが、別にそこまでというほどでもない。
目立つ位置にある宣伝用の看板にも「弁当一つ2000円!」としっかり書かれている。
問題発見。
「弁当一つ2000円!?高ぇ!!」
「どうした!?」
サイパンとかたつむりが駆けつけた。
「これは・・・明らかに弁当の値段では無い・・・!?」
そうだ、では一体アレはなんなのだろうか?
三人は店内にたたずむ山積みの弁当に恐怖を覚える。
- とそこに、店の周辺を掃除していた橋本店長が現れた、三人はすかさず聞く。
「店長!!」
「はい!?」
「あの弁当の正体は一体!?」
三人が店内の弁当を指差す、十分な距離。爆発してもここなら平気だ。
「あれは、ヘチマをふんだんに使った、ヘチマ弁当です」
ヘチマ!?
それは爆発するのだろうか?
いや待て、2000円のヘチマだ、爆発くらいするのだろう。
「なんでそんなものを!!」
危険じゃないか、と三人が口を揃える。
「だって、ヘチマが好きなんだもん!」
「ですよね!でなけりゃ爆発するヘチマ弁当なんて作りませんよね!」
社長がヘチマ好きで、三人は安堵した。
「え?ヘチマが爆発する訳ないじゃないですか、だってヘチマなんですから!」
なん・・・だって・・・!?
「爆発しない普通のヘチマ!?それじゃあの弁当は何故2000円もするんですか!?」
「それは・・・あのヘチマ、高級品なんですよ」
なるほどなるほど、それなら2000円でも納得出来るわけねぇだろ。
「ちがぁぁぁう!絶対違う!!」
「お前は弁当を舐めてるのか!?」
「ふざけるのもいい加減にしろよ?」
三人は切れた。バイトが店長に切れていいものなのかと社会常識が聞いてくるが、ツッコミだからとそれっぽい返答をしておけば問題無い。
- こうして弁当は一つ400円の「旬の具材たっぷり弁当」へと変更となった。
これだけではいけないと種類も増やす予定もあるそうだが、とりあえず今はお客が入るようになったことを喜ぼう。
それから店長がヘチマ店長と呼ばれるようになったとか、三人の中に弁当に対する情熱が生まれたとか、いろいろ後日談はあるが、書くのが面倒なので割愛させてもらうことに。
三人の力で、橋本弁当は倒産寸前から復興した。だが出る杭は打たれるとはよく言ったもので、周辺地域の弁当屋にマークされるようになった。
その結果、橋本弁当は地域最強の弁当屋を決める過酷な戦争、「弁当屋サバイバル」に巻き込まれることになるのだが、三人はそんなこと知る由も無かった・・・。
writer:フック
最終更新:2009年11月29日 18:19