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◆kMUdcU2Mqo Dance with the zombie
夏の日差しがレースのカーテン越しに差し込んでいる。観光地であるこの島の気候はロアナプラに比べれば幾分過ごしやすい。
英国調で統一された部屋のインテリアは、コテージを上品な雰囲気に演出しており、本来なら居心地の良い空気を提供するはずだった。
だが、部屋の中央と窓際に転がっている二つの死体がこの場所を血生臭いものに変えてしまっている。
その死体を作り出した張本人、バラライカは冷めた目で二人が死んだことを確認。小さく嘆息した。
ホテルモスクワと以前から小規模な抗争を続けていた組織との手打ちが決まったのが一週間前。
お互いに代表者が護衛一人のみを連れての会合。場所はどちらの組織とも無縁の観光地、
すなわちこのセント・マデリーナ島が選ばれた。
バラライカ本人はこの手打ちに乗り気ではなかったが、大頭目の決定に従いこの島に上陸。
手早く要件を済ませてさっさとロアナプラに戻るつもりだった。
油断といえば油断なのだろう。もちろん手のひらを返される可能性を常に考慮し、相手組織の動向の監視は怠らなかった。
修羅場に備えて銃を持ち込み、いざという時のために逃がし屋も手配した。
だが、常に闘争の最前線にいた彼女でさえ、島がゾンビに蹂躙されるなどという事態は予想外だったのだ。
異常に気づいたときにはすでに手遅れだった。島の交通機関は麻痺し、逗留していた宿はゾンビの群れの襲撃を受けた。
部下が重傷を負いながらも脱出し、待ち合わせのコテージにたどり着いた時には、相手組織の代表と護衛はゾンビ化していた。
その時彼女のとった行動は――詳しく説明するまでも無いだろう。
部屋に充満する血臭。バラライカにしてみれば嗅ぎ飽きた臭いだが、今の彼女をひどく苛立たせた。
わざわざ辺鄙な観光地まできて、ゾンビに襲われ、手打ちは不成立。そしてなにより――
「大尉……、ご無事ですか……?」
廊下から部下が姿を現す。左肩がゾンビに食いちぎられえぐれている。宿から脱出し、車に乗り込もうとした隙をつかれたのだ。
さらに、コテージに到着する直前暴走車の衝突を受けた。部下は肋骨を骨折、乗ってきた車は大破した。
出血により顔面は蒼白、足元はふらついている。だが傷の具合に関わらず、遅かれ早かれゾンビ化するのは避けられないだろう。
「伍長、貴様はゾンビに噛まれた。この状況を解決する手段を我々は持たない。私の言わんとすることは理解できるな?」
それは一方的な処刑宣告だった。
バラライカは二人を射殺したばかりのスチェッキン拳銃を部下へと向ける。
貧血状態の脳で嗜好が鈍っていたのか、一瞬部下の表情に怪訝なものが浮かぶ。
が、それは本当に一瞬だった。理解すると同時に部下もまた懐からマカロフを抜く。
その銃口はバラライカではなくまっすぐ自分のこめかみへと向けられた。
「大尉のお手を煩わせるわけには参りません。自分の決着は自分でつけます」
表情を死の恐怖に引き攣らせながらも気丈に笑顔を見せる部下。その姿にバラライカは銃をゆっくりと下ろす。
「……今まで御苦労だった」
「貴方と共に戦えたことは私の誇りです。どうか御武運を!」
発砲。
乾いた音と共に部下の体が崩れ落ちる。
夏の日差しが差し込む豪奢な部屋。死体が並ぶ部屋でただ一人の生存者であるバラライカは、部下の最期を見届けると陰鬱なため息を吐いた。
また一人戦友が逝った。
かつて彼女と部下たちが誇りある軍人であった時間。それを共有するものがこの世から一人消えた。
一気に歳をとったような錯覚を覚える。
良心に従った結果、国を追われマフィアにまで身を落とした。
日々汚れ仕事に手を染め、生ける死人同然になりながらも自身を戦士として全うできる戦場を探し続けてきた。
そんな自分にはこのゾンビで溢れた島はある意味相応しいかもしれない。
どちらを向いてもリビングデッドばかりのこの島ならば敵は無尽蔵にいる。存分に戦争に没頭出来るだろう。
たとえその結果死ぬことになろうとも――
(――いかんな、感傷的になりすぎた)
ロアナプラに残してきたボリス軍曹たちを始めとする部下たちを放り出して、一人死にに行くわけにはいくまい。
頭を振って思考を切り替える。今は生きて帰ることを考えるべきだ。
まず携帯を取り出して逃がし屋に連絡する、が、繋がらない。この異常事態を察知して雲隠れしたらしい。思わず舌打ちする。
(腰抜けが、使えん奴だ)
これがダッチならばどんな手を使ってでも万難を排して乗り込んでくるのだろうが、ここは彼らのテリトリーの外だ。いまさら言っても始まらない。
人目を避けるために北のコテージを会合場所に設定したことが裏目に出てしまった。どの施設を使うにしても、ここからではかなりの距離がある。
港へ行けば使える船が残っているかもしれない。車が無い以上危険な徒歩で移動するしかないが、ここに留まったところで状況が好転する材料は無い。
目標が決まれば後は実行に移すのみだ。部下の死体から銃と弾を回収する。
更に相手組織の護衛の死体からも銃を手に入れる。
(ハードボーラーか……)
彼女の好みではないが贅沢はいえない、武器は武器だ。
銃を懐にしまう、と、表から複数のうめき声が聞こえた。銃声に反応したのだろうか、コテージの周囲にゾンビが集まっているようだ。
もはや一刻の猶予も無い。スチェッキンの残弾を確認しながら足早に玄関へ向う。
玄関のドアを引っかく音が聞こえる。すぐ向こう側までゾンビが来ているのだ。
バラライカは迷わずドア越しに銃弾3発を叩き込む。くぐもった声が聞こえ、うめき声がわずかに減った。
思ったよりも多くのゾンビがいるらしい。
かまわずにドアを蹴破る。
コテージの外、視界の中には南国の陽気に不似合いな死斑の浮いた顔が八つ。
進行方向にいたゾンビの一体の頭部へ弾丸を撃ち込む。倒れこむのを視界の端で確認しながら、左手から迫ってきたゾンビの膝を蹴り砕く。
よろめいたところをその向こう側にいたゾンビめがけて蹴り飛ばす。二体のゾンビはもつれ合いながら倒れた。
更に右前方から近づく一体に連続発砲。進行方向がクリアになったのを確認すると、残りには目もくれずに走り出す。こんなところで弾丸を無駄に使うわけにはいかない。
当面の目標は脱出手段の確保。それが無理ならば徹底的に戦うまで。
今、異形を相手取った彼女の戦争が始まる――
【B−05/コテージ前/1日目・日中】
【バラライカ@ブラックラグーン】
[状態]:やや精神的疲労
[服装]:スーツ
[装備]:スチェッキン(11/20 予備弾20)、マカロフ(5/8 予備弾8)
[道具]:ハードボーラー(7/7 予備弾7) 携帯電話、島の地図、葉巻(残り5本)、ライター
[思考]:1、島から脱出する。
2、港へ行き使える船が無いか確かめる。
3、武器を集める。
4、他の生存者とは必要に応じて協力。但し足手まといになるようなら見捨てることも厭わない。
Dance with the zombie ◆kMUdcU2Mqo
夏の日差しがレースのカーテン越しに差し込んでいる。観光地であるこの島の気候はロアナプラに比べれば幾分過ごしやすい。
英国調で統一された部屋のインテリアは、コテージを上品な雰囲気に演出しており、本来なら居心地の良い空気を提供するはずだった。
だが、部屋の中央と窓際に転がっている二つの死体がこの場所を血生臭いものに変えてしまっている。
その死体を作り出した張本人、バラライカは冷めた目で二人が死んだことを確認。小さく嘆息した。
ホテルモスクワと以前から小規模な抗争を続けていた組織との手打ちが決まったのが一週間前。
お互いに代表者が護衛一人のみを連れての会合。場所はどちらの組織とも無縁の観光地、
すなわちこのセント・マデリーナ島が選ばれた。
バラライカ本人はこの手打ちに乗り気ではなかったが、大頭目の決定に従いこの島に上陸。
手早く要件を済ませてさっさとロアナプラに戻るつもりだった。
油断といえば油断なのだろう。もちろん手のひらを返される可能性を常に考慮し、相手組織の動向の監視は怠らなかった。
修羅場に備えて銃を持ち込み、いざという時のために逃がし屋も手配した。
だが、常に闘争の最前線にいた彼女でさえ、島がゾンビに蹂躙されるなどという事態は予想外だったのだ。
異常に気づいたときにはすでに手遅れだった。島の交通機関は麻痺し、逗留していた宿はゾンビの群れの襲撃を受けた。
部下が重傷を負いながらも脱出し、待ち合わせのコテージにたどり着いた時には、相手組織の代表と護衛はゾンビ化していた。
その時彼女のとった行動は――詳しく説明するまでも無いだろう。
部屋に充満する血臭。バラライカにしてみれば嗅ぎ飽きた臭いだが、今の彼女をひどく苛立たせた。
わざわざ辺鄙な観光地まできて、ゾンビに襲われ、手打ちは不成立。そしてなにより――
「大尉……、ご無事ですか……?」
廊下から部下が姿を現す。左肩がゾンビに食いちぎられえぐれている。宿から脱出し、車に乗り込もうとした隙をつかれたのだ。
さらに、コテージに到着する直前暴走車の衝突を受けた。部下は肋骨を骨折、乗ってきた車は大破した。
出血により顔面は蒼白、足元はふらついている。だが傷の具合に関わらず、遅かれ早かれゾンビ化するのは避けられないだろう。
「伍長、貴様はゾンビに噛まれた。この状況を解決する手段を我々は持たない。私の言わんとすることは理解できるな?」
それは一方的な処刑宣告だった。
バラライカは二人を射殺したばかりのスチェッキン拳銃を部下へと向ける。
貧血状態の脳で嗜好が鈍っていたのか、一瞬部下の表情に怪訝なものが浮かぶ。
が、それは本当に一瞬だった。理解すると同時に部下もまた懐からマカロフを抜く。
その銃口はバラライカではなくまっすぐ自分のこめかみへと向けられた。
「大尉のお手を煩わせるわけには参りません。自分の決着は自分でつけます」
表情を死の恐怖に引き攣らせながらも気丈に笑顔を見せる部下。その姿にバラライカは銃をゆっくりと下ろす。
「……今まで御苦労だった」
「貴方と共に戦えたことは私の誇りです。どうか御武運を!」
発砲。
乾いた音と共に部下の体が崩れ落ちる。
夏の日差しが差し込む豪奢な部屋。死体が並ぶ部屋でただ一人の生存者であるバラライカは、部下の最期を見届けると陰鬱なため息を吐いた。
また一人戦友が逝った。
かつて彼女と部下たちが誇りある軍人であった時間。それを共有するものがこの世から一人消えた。
一気に歳をとったような錯覚を覚える。
良心に従った結果、国を追われマフィアにまで身を落とした。
日々汚れ仕事に手を染め、生ける死人同然になりながらも自身を戦士として全うできる戦場を探し続けてきた。
そんな自分にはこのゾンビで溢れた島はある意味相応しいかもしれない。
どちらを向いてもリビングデッドばかりのこの島ならば敵は無尽蔵にいる。存分に戦争に没頭出来るだろう。
たとえその結果死ぬことになろうとも――
(――いかんな、感傷的になりすぎた)
ロアナプラに残してきたボリス軍曹たちを始めとする部下たちを放り出して、一人死にに行くわけにはいくまい。
頭を振って思考を切り替える。今は生きて帰ることを考えるべきだ。
まず携帯を取り出して逃がし屋に連絡する、が、繋がらない。この異常事態を察知して雲隠れしたらしい。思わず舌打ちする。
(腰抜けが、使えん奴だ)
これがダッチならばどんな手を使ってでも万難を排して乗り込んでくるのだろうが、ここは彼らのテリトリーの外だ。いまさら言っても始まらない。
人目を避けるために北のコテージを会合場所に設定したことが裏目に出てしまった。どの施設を使うにしても、ここからではかなりの距離がある。
港へ行けば使える船が残っているかもしれない。車が無い以上危険な徒歩で移動するしかないが、ここに留まったところで状況が好転する材料は無い。
目標が決まれば後は実行に移すのみだ。部下の死体から銃と弾を回収する。
更に相手組織の護衛の死体からも銃を手に入れる。
(ハードボーラーか……)
彼女の好みではないが贅沢はいえない、武器は武器だ。
銃を懐にしまう、と、表から複数のうめき声が聞こえた。銃声に反応したのだろうか、コテージの周囲にゾンビが集まっているようだ。
もはや一刻の猶予も無い。スチェッキンの残弾を確認しながら足早に玄関へ向う。
玄関のドアを引っかく音が聞こえる。すぐ向こう側までゾンビが来ているのだ。
バラライカは迷わずドア越しに銃弾3発を叩き込む。くぐもった声が聞こえ、うめき声がわずかに減った。
思ったよりも多くのゾンビがいるらしい。
かまわずにドアを蹴破る。
コテージの外、視界の中には南国の陽気に不似合いな死斑の浮いた顔が八つ。
進行方向にいたゾンビの一体の頭部へ弾丸を撃ち込む。倒れこむのを視界の端で確認しながら、左手から迫ってきたゾンビの膝を蹴り砕く。
よろめいたところをその向こう側にいたゾンビめがけて蹴り飛ばす。二体のゾンビはもつれ合いながら倒れた。
更に右前方から近づく一体に連続発砲。進行方向がクリアになったのを確認すると、残りには目もくれずに走り出す。こんなところで弾丸を無駄に使うわけにはいかない。
当面の目標は脱出手段の確保。それが無理ならば徹底的に戦うまで。
今、異形を相手取った彼女の戦争が始まる――
【B−05/コテージ前/1日目・日中】
【バラライカ@ブラックラグーン】
[状態]:やや精神的疲労
[服装]:スーツ
[装備]:スチェッキン(11/20 予備弾20)、マカロフ(5/8 予備弾8)
[道具]:ハードボーラー(7/7 予備弾7) 携帯電話、島の地図、葉巻(残り5本)、ライター
[思考]:1、島から脱出する。
2、港へ行き使える船が無いか確かめる。
3、武器を集める。
4、他の生存者とは必要に応じて協力。但し足手まといになるようなら見捨てることも厭わない。