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作戦名「急がば回れ」」(2009/08/28 (金) 01:09:26) の最新版変更点

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 作戦名「急がば回れ」 ◆uFyFwzytqI  「……成る程な。大体そんなトコだろうとは思ってたが、他人から聞かされると改めて思い知らされるぜ。このいけ好かねぇ現実って奴をよ」  互いの自己紹介の後、阿良々木暦が彼らの遭遇した出来事を話すと、次元大介(自称『観光客』)は忌々しそうに言った。  阿良々木達3人は現在、出会った場所から少し離れた雑居ビルの一室に隠れている。  イスや机で、表通りに面する入り口に即製のバリケードを作った(戦場ヶ原ひたぎも一応手伝った)が、かなり頼りない造りだ。    阿良々木の目に映る次元は、紺のダークスーツにソフト帽を目深に被り、立派な顎髭をたくわえた渋めの男だ。  本当に観光客かどうか微妙に疑わしいが、銃の腕前はさっきのゾンビの頭を吹き飛ばした手際から信用できる。警察か自衛隊員か?  「それで、お前さん達はこれからどうするつもりだ?」  次元の口調に動揺は見られなかった。阿良々木がゾンビ出現以来見てきた、逃げ回る大人達――もちろん立派な大人も大勢いた――に比べると、格段の落ち着きだ。    「えーと、そうですね、とりあえずゾンビが来ない場所へ逃げようと思ってますが」  「バカね、そんなの当たり前でしょう。次元さんが聞いてるのは、どうやってそこに行くかっていう意味よ。阿良々木君、恐怖で頭が北京原人クラスまで退化したんじゃない?」  阿良々木が当たり障りのない答えをしたら、ひたぎが横から容赦ない暴言毒舌を叩きつけた。  「なぜ北京原人!? しかもネアンデルタール人やクロマニヨン人はスルーかよ!」  「彼らに失礼だからに決まってるじゃない。それに、ネアンデルタール人は人類の祖先では無い説がほぼ確定してるわ。もっとも、北京原人も微妙らしいけど」  「言われ損じゃないか!」  「事実の適切な比喩よ」     「あー、お二人さん痴話喧嘩なら余所でやってくれ。俺は付き合いきれん」  次元は2人が当てにならないと判断したのか、腰を浮かしかける。  「次元さん、待ってください。阿良々木君は不手際の見本のような男なんです。許してあげて下さい。私が代わりに話します」  そう言って、ひたぎは阿良々木の頭を押さえながら、深々と頭を下げた。  「ふん……」 それを見て次元は座り直した。  (なぜこうなる……)阿良々木の心に納得のいかない想いだけが残る。  「改めまして、次元さん。私達は一刻も早く島から脱出するつもりです。今の所考えられるルートは2つ、空港か港です。両方とも現在地からは似たような距離ですが、 あなたはどっちに向かえば良いと思いますか?」  ひたぎの説明と質問は簡潔で、要を得ていた。阿良々木はそれを居心地悪そうに聞いている。  「そうだな、俺は港に行くつもりだ。連れの船があるんでな」  「お連れの方がいらっしゃるんですか。お名前は?」  「……ルパン三世って奴だ」 次元が心持ち歯切れの悪い答え方をする。    「どんな顔か教えて貰えますか? もしかしたら見ているかも知れません」  次元は当てにはしていない、という顔でルパンの容姿について大雑把に説明した。阿良々木もひたぎも見覚えは無かった。  「残念ながら見覚えはありませんね。ところで次元さん、港に行くのなら私達も一緒に連れて行ってくれませんか?」  ひたぎがいきなりとんでもない事を頼み出した。次元は胡散臭そうな顔でひたぎを見返す。  「お前さん達相手にそんな義理は無いと思うがな」  「同行させてくれるだけでいいんです。少なくとも私は足手まといになりません。阿良々木君は保証の限りではありませんけど」   「ちょっと待て! 誤解を生むような発言は……」  阿良々木が抗議の声を上げかける。  「いいだろう、ただし絶対に足を引っ張るような真似はするな」  次元はアッサリと承諾した。  「いいんですか?」  ひたぎは少し意外そうな顔で確認する。  「時間が惜しいんだよ。バリケードがそろそろ限界のようだからな、さっさとずらかるぞ」  次元がマグナムを抜きながら言った。  ハッとして阿良々木はバリケードを見た。ドアの蝶番がミシミシと音を立てていて、今にも壊れそうになっている。いつの間にかゾンビ共が迫っていた。  ひたぎもこれには気付いていなかったようだ。  「私ともあろう者が、阿良々木君並みに気付かなかったなんて不覚だわ……」と呟いている。  「なぜそこで僕を引き合いに出すんだ?」  「ダメの基準だからよ。あのバリケード、あなたが造った所が弱かったんじゃないの」  「そんな事はない、僕だってちゃんと造ったぞ。断固抗議する!」 阿良々木が異議を唱える。  「お前ら、さっさとしろ。本当に置いてくぞ!」  次元が裏口のドアに手をかけながら大声で言った。阿良々木とひたぎが弾かれたように立ち上がり、次元の所に行く。  「よし、ここから外に出る。俺から離れるなよ。念のため言っとくが自分の身は自分で守れ。俺も道案内以上の保証はできねえからな」  「任せて下さい。いざとなったら阿良々木君を人身御供に差し出します」  「だから勝手に生け贄設定するな!」  「おいお前、阿良々木とか言ったな。手ぶらで外に出る気か。これぐらい持っとけよ」  次元は阿良々木に向かって何か放り投げた。慌ててキャッチしたそれは、ガスの配管のような鉄パイプだった。次元も左手に同様の物を持っている。    「戦場ヶ原の分は無いんですか?」  「さっきの大立ち回りを見てりゃ分かるだろうが。そいつは身軽な方がゾンビ共とやりやすいタイプだ。自分の女のクセぐらい知っとけ」  「いえ、彼女、かも、しれませんけど……」   「まったくです。阿良々木君にはいつも苦労させられます」  ひたぎも次元に同調する。  (これじゃゾンビと戦ってる方がマシだ……)  阿良々木は天を仰いだ。しかし、彼の目に入ったのは薄暗い天井だけだった。  「いいか、開けるぞ。1、2、3!」  次元が裏口のドアを開け放つ。同時に背後でバリケードが破られる音がした。  3人は裏通りに飛び出した。表通りほどではないが、ここもゾンビがうろついている。早速「獲物」を発見したゾンビが彼らに近づいてきた。だが、次元が発砲する気配はない。    「撃たないんですか? 奴らがこっちに来てますよ」  「弾の無駄遣いはしない主義でな。こちとら映画と違っていくらでもぶっ放すって訳にゃいかねえんだよ。分かったら追いつかれる前に走れ!」  次元は左手の鉄パイプで手近なゾンビを殴り飛ばすと、阿良々木とひたぎの方を振り向きもせず走り出した。    慌てて阿良々木が後を追う。ひたぎも後に続く。  「ったく、いくら立場が上だからって、もうちょっと気を遣ってくれてもいいのに」  「惰弱極まりない発言ね、そうやってすぐ他人に依存するなんて、なんて情けない態度かしら」  「そんなつもりで言ったんじゃ……」  阿良々木がひたぎの方を向くと、ゾンビの腕をかいくぐり、左手でハサミを振りかざす彼女の姿が目に入った。理想的な角度で突き刺さったハサミは耳の奥まで達していた。  片方の三半規管を破壊され、バランスを失ったゾンビが地面に倒れ伏す。まだ死んではいないが、酔っぱらいのように立ち上がれなくなっている。  「よし、私の攻撃パターンが1つ決まったわね。今度から錐も持ち歩くことにするわ」  彼女は短い実戦経験から、早速自分流の戦い方を身につけつつあるようだった。阿良々木とひたぎの目が合った。かと思うと、ひたぎがいきなり右手の千枚通しを構える。  「ちょ、何を……」  うろたえる阿良々木の脇をひたぎが疾風のように駆けたかと思うと、彼女の千枚通しが突き上げられた。  それは今まさに阿良々木に襲いかかろうとしていたゾンビの耳を刺していた。倒れるゾンビをひたぎは軽快なステップで躱す。  「私に文句言ってる間に、ゾンビに襲われそうになって助けられるなんてやっぱり情けないじゃない。男の沽券に関わるわね」  「……」  阿良々木は返す言葉もなかった。  突然銃声がしたかと思うと、別のゾンビの頭がスイカのように飛び散った。。  阿良々木とひたぎが驚いて振り返ると、次元が10mほど離れた所でマグナムを構えていた。銃口から硝煙が立ち上っている。  2人の注意が自分に向いたのを確認すると、次元は無言のまま反転して前進を再開した。    阿良々木とひたぎは急いで追いかける。   「なかなかやるじゃない」ひたぎが小声で呟いた。  「ああ、そうだな」  阿良々木はやっと気がついた。次元大介という大人は、未だ素性不明だが、少なくとも悪人ではない。  「あなたもせめてあの人の10分の1は格好良くなりなさい。でないといつまで経っても私に相応しくないわ」  「たった10分の1?」  「努力してもそれぐらいが精々でしょ」  「僕はどれだけレベルが低いんだよ!」  ひたぎの自分に対する採点の低さに呪いの声をあげる。  「ぐわあぁっ! クソッ、離しやがれっ」  次元の罵声が聞こえた。阿良々木達が目を向けると、曲がり角からいきなりゾンビが現れたらしく、右腕を掴まれていた。  次元は必死に鉄パイプを叩きつけるが、殴りにくいせいかゾンビに有効な打撃を与えられない。  しかもゾンビ化すると腕力が強くなるのか、振り払うことさえ困難なようだ。マグナムの射線にゾンビを捉えられない。更に別のゾンビも次元に襲いかかろうとしていた。  「大変だ! 助けないと……」  阿良々木が反応するより早く、ひたぎは動き出していた。が、彼女の前にゾンビが3体立ちはだかる。  「ちょっと阿良々木君、早く手伝いなさいよ!」  ひたぎでも一度に3体のゾンビを相手にするのは難しいようだ。阿良々木も急いでひたぎの救援に駆けつけるが、焦りも手伝ってかなかなか倒せない。    阿良々木達はようやくゾンビ3体を倒したが、次元は今にも首筋に噛みつかれようとしていた。  (もうダメだ……)  阿良々木が絶望的な思いで見ていた時、  「待てい、そこのゾンビ野郎! 怪物になっちまったなら、さっさとくたばって成仏しちまえ!」  聞き覚えのない怒鳴り声がした瞬間、噛みつきかけたゾンビに棒状の物が横殴りに叩きつけられた。  それは首を直撃し、ゾンビは2mほども吹っ飛ばされた。頸骨が折れたのか、ゾンビの頭が不自然な方向を向いている。  延髄が破損したらしく、ゾンビはまだ「生きて」いたが、体は麻痺したように動かなくなっていた。  声の主は続いて、もう1体のゾンビに向き直り、再びスイングする。今度は頭部を直撃して完全に倒した。  「すごい……」  阿良々木はわずか数秒の間に起こった出来事が、あまりにも漫画的過ぎてそう呟くのが精々だった。声の主は次元に向き直る。  「大丈夫か、さっきの銃声はあんたが撃ったのか?」  「あ、ああ」 さすがの次元も驚きを隠せないようだ。  「すごい……」  今度はひたぎが呟いた。ただ、彼女の呟きは助けた行為よりも、声の主の全体的な姿に対してだった。  声の主は、角刈で太い眉毛が目立つ男だった。身長は160cm程で阿良々木やひたぎより低いが、アロハシャツから出ている二の腕は逞しく毛深かった。  そして、奈良の大仏のようにズッシリとした体躯から想像されるのは、相当タフで強靱な肉体だろうという事だ。     更に注目すべきは男の持ち物だ。  両手で持っているのは、道路工事で使いそうな全長1mほどの大型ハンマーだった。次元を助けた時に、あれを普通に振り回していたが、それだけでも腕力の程が分かる。  腰には工具ベルトを巻いていて、ドライバーやペンチ等の各種工具が差し込まれている。さらにそれとは別に、手斧が2本鞘に収まって腰の両側に着けられていた。  背中に容量100Lはありそうな大型ザックを背負っていて、何が詰まっているのかひどく膨れあがっていた。  ザックの頭からはシャベルや鍬等、長物の先端が覗いていて、ポケット部分にはレンチやバール、ハンマー等が入っている。  総重量30kg近くありそうだが、男はそれを平気で背負っていた。  「助かった、礼を言うぜ」  帽子の位置を直しながら次元が言った。  「がっはっは! なあに、これでも警官だからな、市民を助けるのは当然の義務ってもんよ!」  男の口から予想外の台詞が漏れた。  「警察の人ですか?」  阿良々木とひたぎが次元と男のそばに来て、確認するように尋ねた。地元警官にしては、日本の神社で御輿を担いでいるイメージが非常にしっくりと来るのだが。  「おうよ、わしは両津勘吉、警視庁の巡査長だ!」  「け、警視庁……」  (この状況で警視庁の警官に出会う天文学的な偶然ってどれぐらいだろう)  阿良々木はひたぎと出会って以来、久々に本物の「運命」に出くわしたと思った。  「こんな所で立ち話も何だ、というかマジでやばいな。どうだお前ら、わしの隠れ家に来るか?」  両津が豪放磊落な雰囲気を全開にして言った。  「是非お願いします」  すかさずひたぎが承諾する。  (さすが抜け目ないな……)阿良々木の心に、呆れとも感心ともつかない感想が浮かぶ。  「阿良々木君、何か言った?」   「いや何も(ど、どういう読心術だよ!)」  「おい、不味いぞ。またまたゾンビ御一行様のお出ましだぜ」  次元が油断無くマグナムを構えながら言った。  「それじゃ急ぐとするか。おっとその前に、そんな鉄パイプじゃ頼りないだろう。これを使え。銃は最後の切り札にとっときな」  両津はそう言って、ザックから長物を抜く。次元に薪割り用の斧を、阿良々木には鍬を渡すと、両津を先頭に4人は移動を開始した。  信じられない事に、両津はあれだけの荷物を背負いながら、歩調は他の3人と何ら変わりなかった。むしろ軽快なぐらいかもしれない。  不意にT字路の手前で両津が止まり、ポケットから手鏡を取り出した。  「ふうん、見た目はそうでもないけど頭も切れるみたいね、あの両津って人」 ひたぎが言った。  阿良々木がそれに反応する前に、両津は鏡を使ってT字路の先を観察していた。  「ゾンビが右に5体、左に7体か。よし、右を通るぞ。わしの後に続け!」  両津がハンマーを振り上げながら突き進む。  (そうか、事前にゾンビの存在を調べておいて、遭遇を最小限にするためだったのか)  やっと理解した阿良々木は、両津の冷静さに驚いた。  ――しばらくそうやってゾンビの攻撃をしのぎながら進むと、4人は両津の隠れ家に辿り着いた。幸い、入る所をゾンビに見つからずに済んだ。  隠れ家といっても荒れた民家の一室で、ガラクタが部屋の隅に乱雑に積み上げられている。  「よし、ここまで来れば一安心だ。みんなゆっくりしてくれ、何か食うか?」」  両津は床にドッカリと座ると、ザックを降ろすとファスナーを開けた。中から缶詰やペットボトル、果てはパン(ただし押し潰されている)や食器類まで出てきた。    「おう、こりゃ有り難え」  「がはは! 遠慮はいらんぞ。無くなったらまたどこかで調達するだけだ!」  次元と両津は、缶詰を開けて食べ始める。  しかし、阿良々木は到底食欲が湧かなかった。ついさっきまで、死と隣り合わせだったのだ。  ひたぎはと言うと、食パンを少しずつだが口に入れて、飲み物で流し込んでいる。  「阿良々木君、食べられる時に食べておかないと、後で動けなくなるわよ」  彼女は無理矢理押し込んでいるらしい。仕方なく阿良々木もパンを手に取った。  「そういや3人の名前をまだ聞いてないな。改めて、わしは両津勘吉だ。よろしくな!」  それを受けて、阿良々木、ひたぎ、次元の3人も両津に名乗った。両津は年長者の次元に向き直る。  「お前達はどういう関係なんだ? 家族や友人、にしちゃ変な組み合わせだが」  「ああ、それはだな……」  次元がこれまでの経緯を手短に説明する。  「両津さんよ、あんたはどうなんだ。ゾンビが発生してからずっと1人なのか。連れはいないのか?」    「わしか? 実は一緒に来た奴らがいたんだがな……」  今度は両津が阿良々木達に仲間――ボルボ西郷や、左近寺竜之介――と、この島に「観光」に来ている事を説明した。  「……とまあ、こんな具合だ」  5つ目の缶詰を空にしながら両津が話し終えた。    「ところで話しを戻すが、そいつらを港まで連れて行ってやるそうだが、道中が安全て保証でもあるのか? 危険すぎるぞ」  両津が忠告する。  「そんな事は百も承知だ。だが、俺はコイツらを港……いや俺の船に乗せてやるって約束しちまったんでな」  「ほう……」 両津の目が細められる。    阿良々木は違和感を感じた。そんな約束なんかしたっけ? それに、次元さんは道案内以上の保証はしなかった筈だが……?  「約束って? 僕たちが頼んだのは港まで一緒に連れて行ってもら痛たたたっ!」  指摘しようとしたら、太股に激痛が走った。ひたぎが思い切りつねっていた。  「何するんだよ!」  「『男の子』は黙って聞いてなさい。『男』の会話を」   「え?」  阿良々木は訳が分からない。    「そうか、約束したんじゃしょうがないな」 両津が仕方ないな、という顔で言う。  「ああ、まったくだ」 次元も当然のように答える。  「しかし、次元といったな。あんたの相棒のルパンって奴は捜してやらなくて大丈夫なのか?」  「あいつは殺しても死ぬようなタマじゃない。あんたこそ相棒2人を捜さなくていいのか。」  次元が問い返した。  「わしらは市民の安全を守る警察官だ。ボルボも左近寺も自分の職務に忠実だろうよ」  「警官の鑑だな」   「日本に帰ったら勲章と表彰と賞金をどっさり授与してもらうつもりだ」    「え? あの、もしかして……」  「島の地図はあるか? 見せてみろ」 「どうぞ」   手伝ってくれるんですか? と阿良々木が訊く前に、ひたぎが事前に察していたのか素早く地図を拡げた。両津がじっと地図を見つめる。  その姿を見て阿良々木はようやく確信した。両津も協力してくれるらしい。次元やひたぎはとっくに気付いていたのか一緒に地図を見ている。  両津が顔を上げた。  「よし、ルートが決まったぞ」  「どうするんだ」 と次元。  「ここから北西にある湖に向かう。そこからボートに乗って湖を突っ切る形で漕ぐんだ。ゾンビも泳げはしないだろうからな。 対岸の舗装道路に着いたら、そこから一端道を北上して回り込むようにして港に行くんだ。このルートの方がゾンビは少ないだろう。名付けて『急がば回れ作戦』だ」  (成る程……)  阿良々木は素直に感心した。確かに町中を突っ切るより距離は遠いが、ゾンビに遭遇する危険はかなり軽減できそうだ。  「その方針で行くか。問題はボート乗り場への道だな。商店街かアスレチック場か、どっちの方から向かうんだ?」  「それは出たとこ勝負だな。出来るだけゾンビが少ない道を選んで進む。それ以上は今考えても無駄だ」  次元の問いに両津が答える。  「じゃあ、これを渡しておくぞ」  両津は立ち上がると、部屋の隅に積み上げられたガラクタの山を掻き分け始めた。隠してあったらしいリュックサックを取り出して3人に渡す。  「中に地図と、缶詰や飲み物が3食分入っている。とりあえずそれで足りるだろう」  阿良々木の予想以上に、両津勘吉という男は用意周到だった。  ひたぎが、「両津さん、錐みたいなのはありませんか? 武器に使いたいんですけど」 と尋ねた。  両津は一瞬驚いた顔をしたが、ガラクタの中からアイスピックを見つけ出してひたぎに渡した。  「早速出発する、暗くなる前に港に行くぞ。早めに引き返したいからな」  「両津さんは船に乗らないんですか?」  「馬鹿もん、警官が真っ先に逃げてどうする! ここを拠点にして救出活動しようと準備してたら、たまたまお前達が近くに来ただけだ!」  「す、すみません」  「すいません両津さん、阿良々木君は空気読めないタイプなんです」  謝る阿良々木にひたぎが追い打ちをかけた。  「おっと、俺も戻るつもりだぜ。ルパンを捜してやらねえと、たまに肝心な時にドジを踏みやがるからな」   次元も引き返すと断言する。  (すごい人達だ。僕なんて戦場ヶ原と一緒に逃げるだけで精一杯なのに……)  4人は隠れ家を出発した。両津が先頭ですぐ後ろにひたぎ、彼女の左右を阿良々木と次元が進む、魚鱗の陣(たった4人だが)に近い形だ。  「あの、お二人は何故そこまでして僕達を助けてくれるんですか?」  「……野暮なこと訊くんじゃねえよ。助けてやろうと思ったからそうしてるだけだ」  阿良々木がひたぎの右側を歩きながら尋ねると、次元が決まり悪そうに言った。  ひたぎが阿良々木の耳元に顔を寄せる。  「阿良々木君、あの人達は私達のために男気を発揮してくれてるのよ。細かい詮索なんてするものじゃないわ」   「そりゃそうかも知れないけど……そういえば今の台詞『勘違いするな、別にお前達のためって訳じゃない』って意味にもとれるな、これも一種のツンデレかな?」  阿良々木の言葉に、ひたぎはキッと眉をひそめた。  「男気とツンデレを一緒にするなんて、互いへの冒涜以外の何者でもないわ。次にそんな事言ったら、『何も加えずに水と油を混ぜるまで食事抜きの刑』にするわよ」  「宇宙に行かなきゃ無理……、ってか事実上餓死確定じゃないか!」  「それぐらい罪深い発言という事よ」  阿良々木は何かもうどうでもよくなった。右脳だけで組み上げられたような言葉が口をついて出る。  「ああ、分かったよ畜生。これ以上マイナス評価は嫌だ。戦場ヶ原、こうなったら何が何でも君を助けてやる。船に乗せるどころか日本まで無事に連れて帰ってやるよ。  それなら例え僕が死んでも合格だよな? その代わり君は絶対に死ぬな。僕が死ぬのは君を死なせるためじゃない。僕の命日に毎年花を飾って貰うためだ!」  阿良々木の(半ば逆ギレ)宣言に、ひたぎは驚愕に目を見開き、少しうつむき加減になった。目元が髪に隠れてよく見えない。  「いい線まで言ってたのに、残念。不合格だわ」  「いいよ、君には一生かかっても合格させて貰えそうにないからな」  「じゃあ、合格の秘訣を教えてあげる」  「へえ、言ってみろよ」  「私を助けるんじゃないわ。私達が助かるのよ」  言うが早いか、ひたぎは阿良々木に唇を重ねた。  何をされたのか一瞬理解出来なかった。理解した途端、阿良々木の全身を動揺が走る。  「い、今のは何の呪いだ!」  「乙女のキスよ、有り難く受け取りなさい」  続けて、「ありがとう」という呟きがかすかに聞こえた。  阿良々木は思った。もしかして、これは人生で最もハイリスク・ハイリターンなフラグじゃないか? 【E−05/路上(湖のボート乗り場に向けて移動中)/1日目・日中】 【阿良々木暦@化物語】  [状態]:疲労(小)。不安。ひたぎへの責任感と若干の困惑。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:鍬(全長1m)。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:ひたぎ達3人と港に行き、船に乗る。   2:ひたぎを守る。   3:このフラグ、どうすればいいんだろう……。 【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】  [状態]:疲労(小)。阿良々木への深い信頼。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:千枚通し。アイスピック。文房具一式。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木君達3人と港に行き、船に乗る。   2:阿良々木君と一緒に日本に帰りたい。  [備考] 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎの共通事項。   1:ルパン三世、ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【次元大介@ルパン三世】  [状態]:疲労(小)。冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:いつもの服装。  [装備]:薪割り用の斧(全長1m)。コンバットマグナム(357マグナム弾。6/6発。予備29発)  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。携帯食料数種。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木達3人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返してルパンを捜す。  [備考]   1:ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【両津勘吉@こち亀】  [状態]:健康。豪快にして冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:アロハシャツ。  [装備]:大型ハンマー(全長1m)。シャベル。手斧×2。  [道具]:大型ザック(レンチ、バール、ハンマー類。(缶詰、ペットボトル、パンなど15食分)、食器類。観光用地図。手鏡)。工具ベルト(ドライバー、ペンチ等)。  [思考]   1:阿良々木達3人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返して救出活動を再開する。   3:ボルボ西郷、左近寺竜之介を捜す。  [備考]   1:ルパン三世の容姿や服装を把握しています。

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