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世にも奇妙な8人組」(2009/12/07 (月) 21:14:42) の最新版変更点

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世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR 自然公園のコテージ前、陸上自衛官の仁村はコテージの中にいるであろう生存者を救出すべく、小銃を携えコテージに向かい駆けていた。 しかしその直後、事態は一変する。唐突にコテージのドア前のゾンビ数体が倒されたかと思うと、ドアをぶち破って女性が駆け出してきたではないか。 咄嗟に木の影に隠れ、その女性が横切るタイミングを見計らって声をかける仁村。それに気付いたらしく、立ち止まるが同時に 銃も向けられ、仁村は多少動揺するが、すぐにいつものお調子口調で女性に切り返した。 「おいおい何トチ狂ってんだ?俺は人間だぜ姉ちゃん」 と言ってヘラヘラ笑いながら両手をブラブラさせる仁村。そのふざけた態度を見て女性は銃を降ろして仁村の所まで歩いてきた。 「こんな異常時でも笑っていられる貴様の方が余程狂っていると思うがな」 鬼のごとき形相で仁村を睨み付けながらそう囁いた謎の女性。しかもその左目にはひどい火傷の痕があり、それが相乗効果となり 仁村を恐怖させる。しかし、次の瞬間には自分自身もクククと笑みを漏らし、仁村に言った。 「冗談だ。むしろあいつらに恐れない分その方が心強い。その格好…軍人のようだが、役職と階級。あと名前はなんという?」 初対面の女性にいきなり恐れを抱かされ、からかわれ、あげくの果てに質問攻めに合い完全に場のイニシアチブを持っていかれた形の仁村。 「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第13輸送師団所属、階級は陸士長」 「なるほど、運び屋の上等兵か。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。今は…お前になら話してもいいだろうな。ロシアの巨大マフィア、 ホテル・モスクワの幹部を勤めている」 仁村は心の中で思った。何でこんな島まで来てマフィアの姉さんとバッタリ鉢合わせなんて事になってんだよ。しかも元ソ連軍大尉だって? 勘弁してくれよ…それにあの火傷何なんだよ?ソートーな修羅場潜り抜けてきてんぞあれ。でもあれのせいで美人が台無しだなこりゃ。 などと考え、今度は仁村がバラライカに聞いた。 「マフィア、ね。そんなのどこの国にもいるし姉さんがマフィアだろうと俺には関係ねえ事なんだけど一つ聞きてえ。何でロシアのマフィア、 しかも幹部がこんな島にいんだ?別に答えたくねえってんならいいけどよ」 「ああ、それはだな…」 バラライカは自分がこの島にやって来た理由を仁村に語る。 「なるほどな。そいでその部下はどうしたんだ?姿がみえねえけど」 「死んだ。ゾンビに噛まれてな。治す術もなくゾンビとなるのは時間の問題だった。奴は最後まで誇らしく散っていったな…」 そしてひどく悲しげな表情を見せるバラライカ。 「すまねえ…悪い事聞いちまったな…」 バラライカの表情に謝辞の言葉をのべる仁村。そんな彼にバラライカはフッと笑いかけ仁村に返す 。 「気にするな。それよりお前は何故この島に来たんだ?」 仁村もこの島に来た理由、バラライカと出会うまでの経緯を語る。 「なるほどな。とすると3日程度で救助が来るわけだな」 そのバラライカの言葉を否定し、仁村は語る。陸上自衛隊上層部は平和ボケした腰抜け親父の集まりだ。んな連中が藪をつついて蛇を出す ようなマネをするはずがない、と言うのだ。それを聞き、苦笑するバラライカ。 「お前も災難だな。私の組織ではこの状況で見捨てるなど極刑に値する行いなのだがな」 「ああ。だが前にイランだかそっちらへんで旅学生がイスラム狂信者のバカ共に拉致られた時小泉は見殺しにしやがったしな。つまりはそういうことだよ」 そう言い終わると同時に仁村は突然9mmを素早く取りだしそのトリガーを引いた。放たれた弾丸はバラライカの顔の真横を横切り、彼女の背後に 突如として現れたゾンビの眉間を見事に撃ち抜いていた。驚いて周囲の様子を窺うバラライカ。見ると、人間の臭い、更には先程の銃声を 察知してやってきたのだろう。15体ほどのゾンビに囲まれてしまっていた。 舌打ちし、ハードポーラーを構えるバラライカ。 お気に召さない銃はさっさと使い終わって身軽にしようという考えだった。しかし、それを仁村が制する。 「おっと姉さん。この状況じゃ弾は温存が得策だぜ?ここは俺に任せな!」 バラライカの返事も聞かずに仁村は5.56mmの銃撃をゾンビの集団に浴びせる。慣れた手つきでマガジンを交換し、そしてまた銃撃を浴びせる。 仁村たった一人の手により15体いたゾンビは五分の一まで駆逐されていた。しかもかかった時間は10秒強で、バラライカは全く予想外の 展開に呆然としているだけだった。仁村はその真横を通り過ぎ、ゾンビに蹴りを入れ倒れたところをその心臓めがけて銃剣を突き刺した。 動かなくなったのを確認して、もう一体のゾンビに再び5.56mmを浴びせる。そして最後の一体を、と思い辺りを見回すがいまだ動いている ゾンビは一体もいなかった。バラライカの方を向くと彼女が携えたハードポーラーの銃口から硝煙が立っていた。笑うバラライカ。 「お前だけに格好つけさせる訳にはいかないのでな」 そして仁村も笑う。しかし…見事な手際だったな。日本などで腐らせておくにはあまりに惜しい逸材だが…この島を共に生きて出られたらロアナプラに誘ってみるか。 こいつの性格ならあのレヴィとも上手くやれそうだしな。などと考えるバラライカ。そんなバラライカの考えを読んだのかどうかは解らないが仁村が口を開いた。 「姉さんの組織にスカウトしてえってんならいつでも歓迎だぜ。あのクソ忌々しい上官のもとで働くよりは姉さんの下の方が100億万倍は人生楽しめそうだしな」 そしてバラライカに向けてニッと笑う。バラライカはというと、ポーカーフェイスを保ちながらも内心かなり驚いていた。 この私が心を読まれた?この仁村という男、いったい何者だ?…面白い。必ずロアナプラへと呼び寄せよう。こんな男と出会うのは随分久しいものだ。 「で、これからの動きだがなんかあんのか?姉さんの方が階級上だし、俺は姉さんの命令でついてくぜ?」 「そうだな…まずはこの島から脱出することを考えなくてはならないのだが…まずは港に向かい使えそうな船があるかどうかを確かめ、 もしあればある程度人間が集まったら脱出だ」 バラライカがそう言ったのは理由がある。仁村は陸上自衛隊員、自分は表向きは元ソ連軍大尉だ。つまり、率先して生存者の救出に当たらなくてはならない立場であり、 仁村とバラライカだけでは身分を尋ねられた時、困るのは二人だ。そこへ行くとある程度生存者を伴い脱出すれば、救助活動を行ったと堂々と言えるわけである。 実際のところは、船の中で向こうから勝手に集まってくるのを待つだけなのだが。仁村も彼女のその考えをくみ取った、というか保身主義ゆえに同じ考えにたどり着き、頷いた。 仁村がこの世で唯一恐れているもの、それは自分が死ぬことだ。実際のところこの島の住人がどうなっちまおうが自分には全く関係のないことであり、これまでこの異世界と化した島で行動してきた時も、 彼がふだん読んでいるSF小説や、ゲームのような感覚だったのだ。先ほどバラライカを救った時も、彼女を救うという考えよりもゲームの主人公に自分をだぶらせ、カッコいいヒーローを 演じてみたかっただけなのである。彼にとって自分に関わりのないことは全てが他人事であり、何ら興味も持たず、言ってみればドライなプラグマティスト。それが仁村という男だ。 ただ、彼の先の行動により、バラライカの信頼を得ることができたというのは紛れもない事実である。 「ここからだったら見晴らしのいい湖畔を歩いていって、ボート乗り場でいったん休憩したあと、改めて港に向かうっていう方法が得策だと思うけど、姉さんはなんかあるか?」 仁村が湖畔を歩こうと言ったのにも理由がある。森を進めば木が生い茂り、いつまたゾンビと遭遇するかわからない。これから何が起こるか分からない。先ほどはああだったが今後は弾丸を温存したかったのだ。 そこへ行くと、湖畔は広い湖のおかげで見晴らしがよく遠くまでよく見渡すことができる。万一自分たちの進行方向上にゾンビがいたとしても事前に回避することができるのだ。 「異論はない。お前の提案、採用しよう。それに、そろそろ葉巻も恋しくなってきたところだ」 「そん時は火、つけさせてくれよ」 「ああ、お願いしようか。ところでお前はタバコはやらんのか?」 「自衛隊員は体が資本なんでね。自分からそれを削るようなマネはしねぇさ」 そして笑いあう二人。コテージ前からバラライカの持つ地図を頼りに湖畔まで歩くことができた。かなり大きな湖だった。思惑通り見晴らしがよく、かなり遠くまで見通すことができた。 あとはボート乗り場まで歩いてゆくだけなのだが、ここで二人は森のほうが何か騒がしいことに気付く。振り向くと、先ほど仁村がその大半を打倒したゾンビの集団と同数程度のゾンビが 群がっていた。その距離は二人がいる位置からだいたい100mほどで、そのゾンビと戦っている二人の人影が見えた。バラライカの見立てでは銃火器の類などは持っておらず、 なにか長い棒のようなもので戦っているようだった。しかも何か心得のようなものがあるらしい。なかなかのさばきを披露していた。バラライカは感心していた。一方、仁村はというと… すでに89年式を携えて、二人の許へと駈け出していた。仁村もバラライカと同じようにあの二人が戦う能力を有していることを認め、即座に援護に入ったのだった。 別に純粋に救出するという正義感からではなく、あの二人を味方に引き入れることで今後の作戦行動を楽にする、そして何より自分が生き延びる可能性を高められる。 保身主義ゆえの行動だった。苦笑し、バラライカもそのあとを追いかける。一方、二人組はというと突然の援護に驚くものの、この機を逃すまいと一気にたたみかける。 5.56mmの銃撃と打撃を受け、見る見るうちに駆逐されていくゾンビたち。結局、バラライカがその場にたどり着いたときにはすべてが片付いてしまっていた。 見るとその二人組は2人ともまだ高校生程度の少女であった。背の小さな金色の髪をした少女と、 それとは対照的に背の大きな、といっても仁村と比べればまだまだ低いのだが、である茶髪の少女の二人組である。顔は、二人とも別嬪さんと言っていいレベルだった。 「怪我はねえかい?お嬢ちゃんたち。でもまさかこんな所でゾンビ共相手にチャンバラを繰り広げる場面に出くわすとは思ってなかったけどよ。ところで、名前はなんつーんだ?」 「あの、助けてもらってありがとうございます。あたしは千葉紀梨乃っていいます。それでこっちがあたしの親友の桑原鞘子。よろしくお願いしますね?ところでお二人の名前はなんてゆーんですか?」 「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第十三輸送師団の隊員。階級は陸士長。さて次は姉さん、頼んだぜ?」 「元ソ連軍大尉、バラライカだ。子供だてらに見事な戦いを披露していたな。感心したよ」 「いや、感心だなんて、そんな…」 と言いつつ、顔を赤らめる紀梨乃。一方、鞘子はというと…半ば放心状態で木の隙間から映える青空を眺めていた。苦笑いを浮かべる3人。キリノがそんな鞘子を正気に戻す。 「ほらサヤ!助けてもらったんだからお礼いわないとだめでしょ!」 「…あ。あの、危ない所を助けてもらってどうもありがとうございます」 と言ってぺこりと頭を下げる鞘子。仁村は心の中で思っていた。こんな女が彼女にいたら人生もっと楽しくなったろうな。だがヤローばっかの自衛隊じゃそれも叶わねえか。 などと考え、ため息をつきながら仁村は二人に言った。 「気にすんなよ。お前ら日本国民の安全を守るために俺たち自衛隊は存在してんだからな。俺は俺の責務を果たしただけだよ」 もちろんこんなのは建前であり、本音は前述のとおりである。バラライカにもそれはお見通しであり、仁村の隣で苦笑いを浮かべていた。しかし、キリノと鞘子は彼のその言葉を真に受け、 あろうことか目を輝かせていた。おいおい、なにこんな出まかせ真に受けてんだコイツら。俺は俺が死んじまうのが怖ええからお前ら助けただけだよ。…だが、たまにはこういうのも悪くねえな。 仁村は決して訓練成績は悪くなく、むしろ同期の中ではかなり優秀な成績を収めており、岩田、山崎、大池に慕われているのはそれが主な理由なのだが、彼の上官は彼がどんなに 優秀な成績を収めようが決して誉めることはなかった。 それどころか、彼を目の敵にするかのごとくいびり、しごき続けた。仁村が上官を「クソ忌々しい」と表現するのはそれが理由である。 だが、今彼は彼の人生で初めて、しかも二人の美少女から憧れにも似た眼差しを向けられたのだ。このとき、彼の心境に大きな変化が生まれていた。俺以外の人間がどうなっちまおうが 知ったこっちゃねえと思ってきたが、今決めたぜ。コイツらを絶対生かして日本に帰してやる。まあでも、日本に帰ったらたぶん二度と会うことはねえんだろうけどな。 「さて、これからの行動について説明する。まずは…」 これからの行動をキリノと鞘子に説明するバラライカ。二人も納得した様子で頷いた。そして、4人は当面の目的地であるボート乗り場まで歩いて行った。隊列は、地図を持つバラライカ が先頭。2番手はキリノ。3番手は鞘子。特に理由はない。そして殿に仁村。5.56mmを構えて後方を警戒する役目だ。道中、何度かゾンビと出くわしたがその数は2,3体であり、 弾丸を温存するという理由で戦闘はキリノ・鞘子両名に任せていた。そしてまた歩き出す、という流れを繰り返すのだが、道中キリノと鞘子が今度は不安そうな目で 仁村を見つめているのだった。それに気づき、二人に声をかける仁村。 「お前ら二人に戦うのを任せちまってるのはすまねえとも情けねえとも思ってる。だから、頼むからそんな目で見ねえでくれよ。やりにくくて仕方ねえ」 「いえ、私たちが戦うのは全然かまわないんです。なんて言ったらいいのかわからないんですけど…」 と言って鞘子は仁村たちと出会う少し前に自分たち2人が体験した出来事を仁村とバラライカの二人に語る。大量のゾンビに襲撃され、頼りにしていた警官やペンションのオーナーが 悉くゾンビに食われてしまったこと、そして結局そのペンションにいた人間のの中で生き延びることができたのは自分たち二人だけだということを。 二人が危惧しているのは、仁村やバラライカも彼らと同じような末路を辿るのではないかということだ。 しかし、仁村はそんな二人の心配を笑い飛ばして二人と肩を組んで語る。 「心配してくれてお兄さん嬉しいよ。だがお二人さん、それは杞憂というもんだ。ペンションのオーナーさんや 警察官と自衛隊じゃ身につけてる技術だって全然違うんだぜ?こーゆう時に組織的行動が出来るのが俺達自衛隊だ」 たった一人の自衛官で組織的行動も何もあったもんじゃなく、しかも高校生の少女にそれを求めるのは絶望的なのだが。 それにしても…そのペンションから先程の場所までは結構距離がある。彼女たちの話を統合すると、 ペンション事件から50分程度でここまでやって来たことになる。結構なスピードを維持しつつ、 かつ立ち止まることがなければあるいはいけるかも知れないが…それを可能とするにはかなりの スタミナを要する。この少女の体のうちにそんスタミナがあるとはバラライカには思えなかったが、 事実として彼女たちはそこにいた。人は見かけによらないというがまさかここまでとは…バラライカは驚嘆していた。 それをバラライカが二人に尋ねると、キリノはさも当然といった風に答えるのだった。 「別に全然大したことじゃないですよ。ほら、剣道は持久力がいるから日頃から鍛えられてるだけですよ」 バラライカは納得した様子で頷くが、すぐに仁村に耳打ちした。 「仁村。お前の体力で例のペンションから先程の場所まで50分で走ってこられるか?」 「あんま自信ねえな」 この答えにより解ったことは一つ。キリノと鞘子は少なくとも陸上自衛隊員に勝るとも劣らない持久力を 有しているということだ。きっとこいつらは幼い頃から剣道とやらに打ち込んで来たのだろう。 そして、積み重ねてきたものは時としてすごい力を発揮する。つまりはこういうことなのだろうな。 「あの、今度は私がおばさんに質問していいですか?その火傷、どうしたんですか?」 キリノがバラライカに質問するが、おばさん呼ばわりした挙げ句、一番触れてはいけない場所に触れたキリノだが バラライカは別に怒ることもなく、フッと笑ってキリノの今の問いに答える。 「軍隊ともなると当然仕事場は戦場だ。これはとある戦闘の時に負ったものだ。 それと、おばさんではなく、お姉さんと呼べ。まだそんなに歳を食っているつもりはない」 と言って、隣で必死に笑いをこらえている仁村の胸を裏拳で軽く叩く。そんなバラライカの言葉に、今度は鞘子が口を開いた 「じゃあお姉さんはそんな過酷な所から生きて帰ってこられたんですよね。 その火傷は勲章みたいなものなんですね。カッコいいと思います」 鞘子のそんな屈託のない言葉にバラライカは面食らう。ホテル・モスクワと対立するマフィアからは フライフェイスなどと揶揄されるのだが、勲章などという表現をしたのは目の前の少女が初めてだった。 この異常事態に巻き込まれたときは最悪な気分だったが、こうも面白い連中に出会うとはな。悪くない。 だが、おしゃべりはこれくらいにしておこう。今は先を急がなくてはならないからな。 「話はこれくらいにしておこう。先を急ぐぞ」 というバラライカの号令のもとに4人は再び歩き出した。しかし…仁村は腕時計を確認する。午後3時。 太陽はすでに西の空へと少しではあるが傾いていた。日没までにはまだ少し時間はあるが、問題はそのあとだ。 日が沈み辺りが暗くなれば当然視界も効きにくくなる。つまり、それだけゾンビの発見、ひいては対処が 遅れる可能性があるということを意味していた。舌打ちしつつ、頭のなかで対策を考える。だが、妙案は浮かばない。 何しろ相手はこちらの常識が通じない相手なのだ。無理もない。だが、ただひとつ朗報があった。 当初の目的地である、ボート乗り場が見えてきたのだ。もう10分ほど歩けば到着し、休息を取ることができるだろう。 ところが、もう5分というところで先頭を歩くバラライカは驚きの光景を目の当たりにする。 ようやく休めると思ったボート乗り場にいたのは、50体ものゾンビと、そしてそれと戦うたった4人の人間の姿だった。 4人はかなりの健闘を見せていたが、銃をもっているのはそのうちの一人だけで、あとは刃物で応戦している。 しかもそのうちの2人はキリノや鞘子と同じくらいの年齢の少年少女である。この状況を見てバラライカが 下した決断は…4人の援護だ。ハードボーラーを携え、彼女は後ろの3人に宣告する。 「同志諸君、状況は見ての通りだ。今から我々は今も異形と戦う勇敢なる戦士たちを救いに行く。 死して今なおもこの世に踏みとどまる亡者ども全てに冥府へと導く裁きの鉄槌を降り下ろしたとき 我らはメシアとなる。さて、行こうか同志諸君。撃鉄を起こせ!!」 バラライカのあまりの迫力に圧倒されるも、同時に士気も最高に高まった3人。バラライカは大きな作戦を 始める直前には必ずこのような演説を行い、部隊の士気を高めていたのだ。もっとも、3人がいつバラライカの 同志になったのかは永遠の謎なのだが。しかし、そんなことは全く関係なしに4人はバラライカを先頭として、 ボート乗り場に突貫した。ボート乗り場の大きな休憩所の前、その建物はガラスバリになっているお陰で 中の様子を知ることが出来、今に至る。バラライカの指示のもと、配置に付く3人。まず仁村が突入し、 4人の生存者を巻き込まないように5.56mmを掃射。マガジン一つを撃ち尽くしたところで残りの3人が 加わり、一気に制圧するという作戦だった。切り込み役という、この作戦の正否に関わる大役を任された 仁村は、3人に笑いながら親指を立てるも、内心緊張で一杯だった。何故なら彼は彼の人生でほんの1、2回程度しか 背負ったことのないものを背負うことになったからだ。そう、責任である。緊張のあまり手が震え、 リロードがうまくいかない。そんな仁村の様子に気づいたキリノが配置を離れて仁村のもとへ歩み寄る。 「あの、仁村さん、緊張してるみたいですけど大丈夫ですか?」 キリノの面倒見のよさはこの男にまで及んだ。そんなキリノに仁村もこわばった笑顔で返事する。 「あんま大丈夫じゃねえな。平和ボケしてやがるとこんなところで痛い目見るんだよな。ハハハ…」 「大丈夫ですって!仁村さん、ほら、あの俳優の…なんていったか忘れちゃいましたけど、似てますから大丈夫です!」 キリノのいう俳優とは藤木直人のことだ。仁村が藤木直人に似ているのは事実だがそれとこの状況と どう関係があるのか仁村には全くわからなかったがこれもキリノなりの励まし方なのだろうと割りきり、 その点は触れずにいて、ただキリノに謝辞の言葉を述べる。 「いえいえ。それともう一つ、緊張が一気に溶けるおまじないをやってあげますね。目を閉じてもらえますか?」 半信半疑に仁村が目を閉じると、唇に何かものすごい柔らかくて暖かいものが一瞬触れた。 驚いて目を開けると、キリノが少し頬を赤らめながら微笑んでいた。 「おまじないの効果、ありました?さっき助けてもらったお礼も兼ねてです」 自分の唇を指で撫でる仁村。ああなるほど。そういうことか。これは、効果覿面だな。最高の気分だ。 「ああ、ばっちりだよ。サンキューな」 「それはよかったです。じゃあ、頑張ってくださいね」 と言ってキリノは配置に戻っていった。仁村はというと完全に吹っ切れた様子で薄ら笑いを浮かべていた。 そしてそのまま右手を挙げ、突入の合図を3人に送る。頷く他の3人。それを確認すると同時に、仁村は中へと飛び込んだのだった。 一方、こちらは休憩所の中。50体ものゾンビと戦い、なんとか半数近くまでその数を減らすことが出来たものの、 阿良々木、ひたぎ、次元、両津の4人はついに壁際に追い詰められてしまっていた。そして、そんな4人に ジリジリとせまりくるゾンビの軍勢。このまま突っ込めば瞬く間に囲まれ、噛みつかれてしまうだろう。 ただ、このままこうしていても遅かれ早かれ同じ末路を辿るのだが。万策尽きていた。しかし、それでも 阿良々木は決して絶望することなどなく、ゾンビに向かってありったけの声を出して啖呵を切った。 「お前ら、戦場ヶ原に指一本でも触れてみろ!その顔を二度と見られないようにしてやるからな!」 いつものひたぎならここで「はじめからそうじゃない。かっこよく決めたいならもっと言葉を選びなさい」 などとクールにツッコミを入れていたことだろう。しかし、今のひたぎはそんなことはせずにただ阿良々木に 寄り添い、彼を信じきっていた。横目でその様子を見て笑みを浮かべる両津と次元。両津が阿良々木と目を合わせ、彼にいった。 「よく言った!それでこそ男ってもんだ。じゃあワシも男を見せてやらなきゃならんな」 と言って両津は両手の武器を構える、阿良々木ならばおそらく両手でも持つのがやっとであろうハンマーを 片腕で軽々と使いこなす両津。彼一人の手で10体ものゾンビが倒されたのだった。 「お前さんだけにカッコつけさせてたまるかよ。俺もやるぜ」 と言って次元も銃と斧を構えて両津の右に並ぶ。 「僕もやります。戦場ヶ原を…守るんだ!!」 そう咆哮した阿良々木の目はこの異常事態に巻き込まれた当初にしていた怯えたものでは微塵もなくなり、 大切な、陳腐な言い方をすれば愛する者を守るために戦う一人の男の目だった。両津の左に並び武器を構える 彼の姿をひたぎはこの上なく頼もしく感じていた。両津が二人に目配せする。それに頷く次元と阿良々木。 「せーの…突撃!」 という両津の合図が発せられた瞬間、ゾンビの後方、出入口の扉が蹴破られ、それと同時に響き渡るのは マシンガンの連射音。ゾンビ軍団の一番後ろの方に位置していた5体ほどのゾンビが今の銃撃によって倒された。 それに気づき、半数ほどのゾンビが入り口の方へと方向転換した。両津たちからはゾンビ軍団の 向こう側がどうなっているのかは解らない。 ただ、これだけははっきり言える。生存者がいると。 そしてその生存者はこの絶体絶命の状況を脱するまたとないチャンスをくれた。この機を逃すまいと ゾンビ軍団に突貫する両津、次元、阿良々木の3名。しかも生存者は一人ではないらしい。このゾンビの群れの 向こうで戦っている複数の人間の気配を次元は瞬時に察していた。完全に挟撃を受けた形になったゾンビ軍団は あっけなく瓦解し、気づけば両津達の足元には完全に物言わぬ屍と化したゾンビの亡骸が転がっているだけだった。 まさに奇跡だった。その立役者である生存者4人は、両津たちのすぐ目の前にいた。迷彩服を着てはいるが、 気味の悪い薄ら笑いを浮かべマシンガンを携える20代くらいの男。それとは対照的に冷静沈着を体現したような 風貌と表情、そして何より周囲を圧倒するオーラを醸し出す金色の髪をした女性。 そして何故そんな二人と一緒にいるのかが解らない、阿良々木、ひたぎと同年代の少女が二人。 二人とも、木刀のようなものを携えていた。そこまではいいのだが両津たち4人を差し置いて盛り上がっていた。男と少女2人はハイタッチを交わし、女性はというと、 その様子をやや苦笑いを浮かべながら見ていた。そして、女性は両津たち4人のもとに歩いてきて、両津に言った。 「危ない所だったな。しかしたった四人でよくここまで持ちこたえられたものだ。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。あそこで騒いでいる迷彩服を着た男が仁村。陸上自衛隊員。 そして、あの娘二人。背の小さいほうが千葉紀梨乃。高いほうが桑原鞘子。よろしく頼む。さて、我々は名乗った。お前たち4人の名前と身分を聞かせてもらおうか」 この異常事態で威風堂々とした態度で両津たちに迫るバラライカと名乗るこの女性。今までごく普通の生活を送ってきた阿良々木やひたぎにもこの女性が只者ではないことがわかった。 「ワシは両津勘吉。日本の警視庁の警官だ」 警官という言葉にバラライカは一瞬だけ眉をしかめた。しかし、それに気づいたのは次元ただ一人だった。この女は何かを隠していると次元は直感したが、それを追及して せっかく生存者同士で遭遇できたのに空中分解など冗談じゃない。次元はその点は一切触れずに自己紹介する。 「俺は次元大介。ただの観光客だ。よろしく頼む」 「観光客、ねえ。ただの観光客がなんで拳銃なんて持ってんだ?」 全く空気を読まずにずけずけと突っ込む仁村。そんな仁村にバラライカは今度は肘鉄をくらわす。怯む仁村。しかし、そうしながらもバラライカは仁村にボリス軍曹とはまた違う 親しみやすさを感じていた。一方、次元はというと、仁村の空気を全く読まない発言にも怒ることなどなく、いつもと変わらぬ口調で彼に答えるのだった。 「もうすでにこの異常事態で今更だがこの島はなにか訳ありだって噂だっただろう?備えあれば憂いなしというヤツだ」 あの時仁村が岩田、山崎、大池の3人に言った件と全く同じことを言う次元と名乗るこの男。感じることは同じのようだ。何か言い知れぬ奇妙な縁を感じ、仁村は次元に言った。 「野暮なこと聞いちまって悪かったな。姉さんから聞いてるとは思うが改めて。俺は仁村。陸上自衛隊員、陸士長だ。よろしくな。ところでそっちのコゾウと嬢ちゃん。名前は?」 名乗っていないとはいえ、「コゾウ」と呼ばれ阿良々木はムカッとして仁村に食ってかかろうとしたが、それよりも先にひたぎが仁村に食ってかかった。 「そんな呼び方やめてください。阿良々木君はもう一人前の男です。取り消してください」 大人しそうな外見には裏腹に初対面の大人にも物怖じしない態度で臨むひたぎ。面白い、それがこの少女に対する仁村の第一印象だった。ニヤッと笑って仁村はひたぎに言った。 「悪かったな。嬢ちゃんがそういうのなら阿良々木、君だっけ。は一人前の男なんだろうな。取り消すよ。ところで嬢ちゃんの名前はなんつーんだ?」 「戦場ヶ原ひたぎといいます。そしてこちらが阿良々木暦。よろしくお願いします」 阿良々木は思っていた。お巡りさんの次は自衛隊員だって?どんな奇跡だろう。でも両津さんと違ってこの人、いまいち信用できそうにないな…まあ、それはこれから確かめていけばいいか。 ところで、向こうのあの二人。どんな娘なんだろう。見たところ僕や戦場ヶ原と同じくらいの年頃だけど。 それに、この人たちがなんで一緒にいるかそのいきさつも気になるし… 「阿良々木暦です。よろしくお願いします。ところで、あちらのお二方は… 」 顔を見合わせるバラライカと仁村。そういえばこの8人の中で名前を名乗っていないのはあの二人だけだ。バラライカや次元と違い身分を隠す理由もない二人を仁村は呼んだ。 「おいお二人さん。自己紹介してないだろ。お二人さんの番だぜ?」 「あっと、申し遅れちゃいました。私は千葉紀梨乃。私立室江高等学校2年、剣道部主将です。よろしくお願いします」 と、紀梨乃は自己紹介を終えると同時に隣の鞘子にウインクする。次はサヤの番だよ、と言っているのだ。それに頷き、鞘子も自己紹介を始める。 「桑原鞘子。キリノと同じく私立室江高等学校2年。剣道部所属です。あの、よろしくお願いします」 さて、これで8人全員が各々の自己紹介を終えたわけだが、これからの行動はまず双方のこれまでの経緯を把握してから決定することになり、両津組は両津が、バラライカ組はバラライカが自分たちの経緯を語った。どちらも語りにかけてはかなり上手なので 残りのメンバーも実にたやすく理解することができ、スムーズに次の段階へと移行することができた。つまり、今後の作戦展開である。 両津たちは当初この湖をボートで渡りきり、この島の北端の道路から港まで遠回りするルートをとる計画だった。そうすることでゾンビと遭遇する確率を激減させるという狙いからだ。 しかし、新たにこの4人が加わったことで、ゾンビを駆逐しつつ最短ルートを通るという手も考えられるようになった。そうすることで、脱出経路をいち早く確保するという狙いだ。 到着が遅れれば先に住民に船で逃げられてしまう可能性がある。それよりも先に船を確保することでより多くの生存者を救出することができるのだ。この2つのプランのうち、どちらを採用するか。 両津は残りの7人に提案した。10秒ほどの沈黙の後、一番最初に口を開いたのは仁村だった。 「当初の計画で行ったほうがいいと思うね。こっちからみすみす飛んで火に入る夏の虫になることぁねえし、それに一般人に船を動かせると思うのか?」 確かにそうだ。自動車ならばまだしも、フェリーなどの船舶を一般人が動かせるとは思えない。旅客用の乗り物はコクピットやブリッジには入ることすらかなわない。 これは動かす動かせない以前にエンジンをかけられないというのが現実であろう。そもそも、どうすればエンジンがかかるのかわからないのだから。 そして、その仁村の意見に反対する者は一人もいなかった。こうして、この8人の今後の行動が決まった。まず、ボートでこの湖を縦断。北端の舗装道路を通り、港に向かい たどり着いたところで脱出用の船を確保した上で、生存者の救出に向かうのである。そして、8人は桟橋へと向けて歩き出す。その時、阿良々木がポツリと漏らす。 「どうしてこんなことになったんだろう。ゾンビたちだってほんの数時間前までは普通の人間として、生きていたはずなのに…」 そんな阿良々木の言葉に、残りの7人はその答えを模索する。だが、答えなど見つかるはずもない。仕方ないなという風に仁村が彼に返した。 「世界は今までお前らが思ってたもんとは違った、ってことなんじゃねえの?あいつらがなんでこうなっちまったのかなんてことは誰にもわからねえ。だからそんな風に思いつめるのはよしなよ」 と言って仁村は彼の肩をたたく。苦笑いを浮かべて頷く阿良々木。彼が仁村に対して抱いていた小さな不信感はいつのまにか消えていた。絶対この8人で生きて帰る。阿良々木はそう決意していた。 【D-04/ボート乗り場/一日目・午後】 【仁村@ドラゴンヘッド】  [状態]:やや興奮状態  [服装]:陸上自衛隊の迷彩服、メットはなし  [装備]:9mm拳銃(装填数8/9発、予備弾90発 )、89式5.56mm小銃(装填数30発、予備弾180発)銃剣  [道具]:リュックサック、トランシーバー、ウォークマン(電池は3本)、  [思考]   1:港への到達   2:島からの脱出   3;紀梨乃と鞘子を絶対日本に生かして帰してやる。 【バラライカ@ブラックラグーン】  [状態]:冷静。肉体疲労ほとんどなし  [服装]:スーツ  [装備]:スチェッキン(11/20 予備弾20)、マカロフ(5/8 予備弾8)  [道具]:ハードボーラー(7/7 予備弾0) 携帯電話、島の地図、葉巻(残り5本)、ライター  [思考]:1、港への到達 2、島からの脱出。 3、他の生存者とは必要に応じて協力。但し足手まといになるようなら見捨てることも厭わない。  【千葉紀梨乃@バンブーブレード】  [状態]:やや疲労。前向き。鞘子を守る強い気持ち。  [服装]:キャミソール、カーディガン、7部丈ジーンズ。  [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で固定している)  [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。  [思考]   1:サヤを守る。   2:港への到達   【桑原鞘子@バンブーブレード】  [状態]:やや疲労。前向き。  [服装]:チューブトップ、薄手のジャケット、タイトジーンズ。  [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で結んでいる)  [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。  [思考]   1:キリノについていく。   2:港への到達。 188 :世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR :2009/09/22(火) 16:38:38 ID:8DtJYo/w 【阿良々木暦@化物語】  [状態]:やや疲労。ひたぎへの責任感。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:鍬(全長1m)。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:ひたぎ達7人と港へ行き、船に乗る。   2:ひたぎを守る。 【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】  [状態]:やや疲労。阿良々木への深い信頼。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:千枚通し。アイスピック。文房具一式。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木君達7人と港に行き、船に乗る。   2:阿良々木君と一緒に日本に帰りたい。  [備考] 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎの共通事項。   1:ルパン三世、ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【次元大介@ルパン三世】  [状態]:やや疲労。冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:いつもの服装。  [装備]:薪割り用の斧(全長1m)。コンバットマグナム(357マグナム弾。6/6発。予備29発)  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。携帯食料数種。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木達7人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返してルパンを捜す。  [備考]   1:ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【両津勘吉@こちら葛飾区亀有公園前派出所】  [状態]:健康。豪快にして冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:アロハシャツ。  [装備]:大型ハンマー(全長1m)。シャベル。手斧×2。  [道具]:大型ザック(レンチ、バール、ハンマー類。(缶詰、ペットボトル、パンなど15食分)、食器類。観光用地図。手鏡)。工具ベルト(ドライバー、ペンチ等)。  [思考]   1:阿良々木達7人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返して救出活動を再開する。   3:ボルボ西郷、左近寺竜之介を捜す。  [備考]   1:ルパン三世の容姿や服装を把握しています。
世にも奇妙な8人組 ◆ubyc5N5K3uqR 自然公園のコテージ前、陸上自衛官の仁村はコテージの中にいるであろう生存者を救出すべく、小銃を携えコテージに向かい駆けていた。 しかしその直後、事態は一変する。唐突にコテージのドア前のゾンビ数体が倒されたかと思うと、ドアをぶち破って女性が駆け出してきたではないか。 咄嗟に木の影に隠れ、その女性が横切るタイミングを見計らって声をかける仁村。それに気付いたらしく、立ち止まるが同時に 銃も向けられ、仁村は多少動揺するが、すぐにいつものお調子口調で女性に切り返した。 「おいおい何トチ狂ってんだ?俺は人間だぜ姉ちゃん」 と言ってヘラヘラ笑いながら両手をブラブラさせる仁村。そのふざけた態度を見て女性は銃を降ろして仁村の所まで歩いてきた。 「こんな異常時でも笑っていられる貴様の方が余程狂っていると思うがな」 鬼のごとき形相で仁村を睨み付けながらそう囁いた謎の女性。しかもその左目にはひどい火傷の痕があり、それが相乗効果となり 仁村を恐怖させる。しかし、次の瞬間には自分自身もクククと笑みを漏らし、仁村に言った。 「冗談だ。むしろあいつらに恐れない分その方が心強い。その格好…軍人のようだが、役職と階級。あと名前はなんという?」 初対面の女性にいきなり恐れを抱かされ、からかわれ、あげくの果てに質問攻めに合い完全に場のイニシアチブを持っていかれた形の仁村。 「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第13輸送師団所属、階級は陸士長」 「なるほど、運び屋の上等兵か。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。今は…お前になら話してもいいだろうな。ロシアの巨大マフィア、 ホテル・モスクワの幹部を勤めている」 仁村は心の中で思った。何でこんな島まで来てマフィアの姉さんとバッタリ鉢合わせなんて事になってんだよ。しかも元ソ連軍大尉だって? 勘弁してくれよ…それにあの火傷何なんだよ?ソートーな修羅場潜り抜けてきてんぞあれ。でもあれのせいで美人が台無しだなこりゃ。 などと考え、今度は仁村がバラライカに聞いた。 「マフィア、ね。そんなのどこの国にもいるし姉さんがマフィアだろうと俺には関係ねえ事なんだけど一つ聞きてえ。何でロシアのマフィア、 しかも幹部がこんな島にいんだ?別に答えたくねえってんならいいけどよ」 「ああ、それはだな…」 バラライカは自分がこの島にやって来た理由を仁村に語る。 「なるほどな。そいでその部下はどうしたんだ?姿がみえねえけど」 「死んだ。ゾンビに噛まれてな。治す術もなくゾンビとなるのは時間の問題だった。奴は最後まで誇らしく散っていったな…」 そしてひどく悲しげな表情を見せるバラライカ。 「すまねえ…悪い事聞いちまったな…」 バラライカの表情に謝辞の言葉をのべる仁村。そんな彼にバラライカはフッと笑いかけ仁村に返す 。 「気にするな。それよりお前は何故この島に来たんだ?」 仁村もこの島に来た理由、バラライカと出会うまでの経緯を語る。 「なるほどな。とすると3日程度で救助が来るわけだな」 そのバラライカの言葉を否定し、仁村は語る。陸上自衛隊上層部は平和ボケした腰抜け親父の集まりだ。んな連中が藪をつついて蛇を出す ようなマネをするはずがない、と言うのだ。それを聞き、苦笑するバラライカ。 「お前も災難だな。私の組織ではこの状況で見捨てるなど極刑に値する行いなのだがな」 「ああ。だが前にイランだかそっちらへんで旅学生がイスラム狂信者のバカ共に拉致られた時小泉は見殺しにしやがったしな。つまりはそういうことだよ」 そう言い終わると同時に仁村は突然9mmを素早く取りだしそのトリガーを引いた。放たれた弾丸はバラライカの顔の真横を横切り、彼女の背後に 突如として現れたゾンビの眉間を見事に撃ち抜いていた。驚いて周囲の様子を窺うバラライカ。見ると、人間の臭い、更には先程の銃声を 察知してやってきたのだろう。15体ほどのゾンビに囲まれてしまっていた。 舌打ちし、ハードポーラーを構えるバラライカ。 お気に召さない銃はさっさと使い終わって身軽にしようという考えだった。しかし、それを仁村が制する。 「おっと姉さん。この状況じゃ弾は温存が得策だぜ?ここは俺に任せな!」 バラライカの返事も聞かずに仁村は5.56mmの銃撃をゾンビの集団に浴びせる。慣れた手つきでマガジンを交換し、そしてまた銃撃を浴びせる。 仁村たった一人の手により15体いたゾンビは五分の一まで駆逐されていた。しかもかかった時間は10秒強で、バラライカは全く予想外の 展開に呆然としているだけだった。仁村はその真横を通り過ぎ、ゾンビに蹴りを入れ倒れたところをその心臓めがけて銃剣を突き刺した。 動かなくなったのを確認して、もう一体のゾンビに再び5.56mmを浴びせる。そして最後の一体を、と思い辺りを見回すがいまだ動いている ゾンビは一体もいなかった。バラライカの方を向くと彼女が携えたハードポーラーの銃口から硝煙が立っていた。笑うバラライカ。 「お前だけに格好つけさせる訳にはいかないのでな」 そして仁村も笑う。しかし…見事な手際だったな。日本などで腐らせておくにはあまりに惜しい逸材だが…この島を共に生きて出られたらロアナプラに誘ってみるか。 こいつの性格ならあのレヴィとも上手くやれそうだしな。などと考えるバラライカ。そんなバラライカの考えを読んだのかどうかは解らないが仁村が口を開いた。 「姉さんの組織にスカウトしてえってんならいつでも歓迎だぜ。あのクソ忌々しい上官のもとで働くよりは姉さんの下の方が100億万倍は人生楽しめそうだしな」 そしてバラライカに向けてニッと笑う。バラライカはというと、ポーカーフェイスを保ちながらも内心かなり驚いていた。 この私が心を読まれた?この仁村という男、いったい何者だ?…面白い。必ずロアナプラへと呼び寄せよう。こんな男と出会うのは随分久しいものだ。 「で、これからの動きだがなんかあんのか?姉さんの方が階級上だし、俺は姉さんの命令でついてくぜ?」 「そうだな…まずはこの島から脱出することを考えなくてはならないのだが…まずは港に向かい使えそうな船があるかどうかを確かめ、 もしあればある程度人間が集まったら脱出だ」 バラライカがそう言ったのは理由がある。仁村は陸上自衛隊員、自分は表向きは元ソ連軍大尉だ。つまり、率先して生存者の救出に当たらなくてはならない立場であり、 仁村とバラライカだけでは身分を尋ねられた時、困るのは二人だ。そこへ行くとある程度生存者を伴い脱出すれば、救助活動を行ったと堂々と言えるわけである。 実際のところは、船の中で向こうから勝手に集まってくるのを待つだけなのだが。仁村も彼女のその考えをくみ取った、というか保身主義ゆえに同じ考えにたどり着き、頷いた。 仁村がこの世で唯一恐れているもの、それは自分が死ぬことだ。実際のところこの島の住人がどうなっちまおうが自分には全く関係のないことであり、これまでこの異世界と化した島で行動してきた時も、 彼がふだん読んでいるSF小説や、ゲームのような感覚だったのだ。先ほどバラライカを救った時も、彼女を救うという考えよりもゲームの主人公に自分をだぶらせ、カッコいいヒーローを 演じてみたかっただけなのである。彼にとって自分に関わりのないことは全てが他人事であり、何ら興味も持たず、言ってみればドライなプラグマティスト。それが仁村という男だ。 ただ、彼の先の行動により、バラライカの信頼を得ることができたというのは紛れもない事実である。 「ここからだったら見晴らしのいい湖畔を歩いていって、ボート乗り場でいったん休憩したあと、改めて港に向かうっていう方法が得策だと思うけど、姉さんはなんかあるか?」 仁村が湖畔を歩こうと言ったのにも理由がある。森を進めば木が生い茂り、いつまたゾンビと遭遇するかわからない。これから何が起こるか分からない。先ほどはああだったが今後は弾丸を温存したかったのだ。 そこへ行くと、湖畔は広い湖のおかげで見晴らしがよく遠くまでよく見渡すことができる。万一自分たちの進行方向上にゾンビがいたとしても事前に回避することができるのだ。 「異論はない。お前の提案、採用しよう。それに、そろそろ葉巻も恋しくなってきたところだ」 「そん時は火、つけさせてくれよ」 「ああ、お願いしようか。ところでお前はタバコはやらんのか?」 「自衛隊員は体が資本なんでね。自分からそれを削るようなマネはしねぇさ」 そして笑いあう二人。コテージ前からバラライカの持つ地図を頼りに湖畔まで歩くことができた。かなり大きな湖だった。思惑通り見晴らしがよく、かなり遠くまで見通すことができた。 あとはボート乗り場まで歩いてゆくだけなのだが、ここで二人は森のほうが何か騒がしいことに気付く。振り向くと、先ほど仁村がその大半を打倒したゾンビの集団と同数程度のゾンビが 群がっていた。その距離は二人がいる位置からだいたい100mほどで、そのゾンビと戦っている二人の人影が見えた。バラライカの見立てでは銃火器の類などは持っておらず、 なにか長い棒のようなもので戦っているようだった。しかも何か心得のようなものがあるらしい。なかなかのさばきを披露していた。バラライカは感心していた。一方、仁村はというと… すでに89年式を携えて、二人の許へと駈け出していた。仁村もバラライカと同じようにあの二人が戦う能力を有していることを認め、即座に援護に入ったのだった。 別に純粋に救出するという正義感からではなく、あの二人を味方に引き入れることで今後の作戦行動を楽にする、そして何より自分が生き延びる可能性を高められる。 保身主義ゆえの行動だった。苦笑し、バラライカもそのあとを追いかける。一方、二人組はというと突然の援護に驚くものの、この機を逃すまいと一気にたたみかける。 5.56mmの銃撃と打撃を受け、見る見るうちに駆逐されていくゾンビたち。結局、バラライカがその場にたどり着いたときにはすべてが片付いてしまっていた。 見るとその二人組は2人ともまだ高校生程度の少女であった。背の小さな金色の髪をした少女と、 それとは対照的に背の大きな、といっても仁村と比べればまだまだ低いのだが、である茶髪の少女の二人組である。顔は、二人とも別嬪さんと言っていいレベルだった。 「怪我はねえかい?お嬢ちゃんたち。でもまさかこんな所でゾンビ共相手にチャンバラを繰り広げる場面に出くわすとは思ってなかったけどよ。ところで、名前はなんつーんだ?」 「あの、助けてもらってありがとうございます。あたしは千葉紀梨乃っていいます。それでこっちがあたしの親友の桑原鞘子。よろしくお願いしますね?ところでお二人の名前はなんてゆーんですか?」 「仁村。陸上自衛隊中部方面駐屯隊第十三輸送師団の隊員。階級は陸士長。さて次は姉さん、頼んだぜ?」 「元ソ連軍大尉、バラライカだ。子供だてらに見事な戦いを披露していたな。感心したよ」 「いや、感心だなんて、そんな…」 と言いつつ、顔を赤らめる紀梨乃。一方、鞘子はというと…半ば放心状態で木の隙間から映える青空を眺めていた。苦笑いを浮かべる3人。キリノがそんな鞘子を正気に戻す。 「ほらサヤ!助けてもらったんだからお礼いわないとだめでしょ!」 「…あ。あの、危ない所を助けてもらってどうもありがとうございます」 と言ってぺこりと頭を下げる鞘子。仁村は心の中で思っていた。こんな女が彼女にいたら人生もっと楽しくなったろうな。だがヤローばっかの自衛隊じゃそれも叶わねえか。 などと考え、ため息をつきながら仁村は二人に言った。 「気にすんなよ。お前ら日本国民の安全を守るために俺たち自衛隊は存在してんだからな。俺は俺の責務を果たしただけだよ」 もちろんこんなのは建前であり、本音は前述のとおりである。バラライカにもそれはお見通しであり、仁村の隣で苦笑いを浮かべていた。しかし、キリノと鞘子は彼のその言葉を真に受け、 あろうことか目を輝かせていた。おいおい、なにこんな出まかせ真に受けてんだコイツら。俺は俺が死んじまうのが怖ええからお前ら助けただけだよ。…だが、たまにはこういうのも悪くねえな。 仁村は決して訓練成績は悪くなく、むしろ同期の中ではかなり優秀な成績を収めており、岩田、山崎、大池に慕われているのはそれが主な理由なのだが、彼の上官は彼がどんなに 優秀な成績を収めようが決して誉めることはなかった。 それどころか、彼を目の敵にするかのごとくいびり、しごき続けた。仁村が上官を「クソ忌々しい」と表現するのはそれが理由である。 だが、今彼は彼の人生で初めて、しかも二人の美少女から憧れにも似た眼差しを向けられたのだ。このとき、彼の心境に大きな変化が生まれていた。俺以外の人間がどうなっちまおうが 知ったこっちゃねえと思ってきたが、今決めたぜ。コイツらを絶対生かして日本に帰してやる。まあでも、日本に帰ったらたぶん二度と会うことはねえんだろうけどな。 「さて、これからの行動について説明する。まずは…」 これからの行動をキリノと鞘子に説明するバラライカ。二人も納得した様子で頷いた。そして、4人は当面の目的地であるボート乗り場まで歩いて行った。隊列は、地図を持つバラライカ が先頭。2番手はキリノ。3番手は鞘子。特に理由はない。そして殿に仁村。5.56mmを構えて後方を警戒する役目だ。道中、何度かゾンビと出くわしたがその数は2,3体であり、 弾丸を温存するという理由で戦闘はキリノ・鞘子両名に任せていた。そしてまた歩き出す、という流れを繰り返すのだが、道中キリノと鞘子が今度は不安そうな目で 仁村を見つめているのだった。それに気づき、二人に声をかける仁村。 「お前ら二人に戦うのを任せちまってるのはすまねえとも情けねえとも思ってる。だから、頼むからそんな目で見ねえでくれよ。やりにくくて仕方ねえ」 「いえ、私たちが戦うのは全然かまわないんです。なんて言ったらいいのかわからないんですけど…」 と言って鞘子は仁村たちと出会う少し前に自分たち2人が体験した出来事を仁村とバラライカの二人に語る。大量のゾンビに襲撃され、頼りにしていた警官やペンションのオーナーが 悉くゾンビに食われてしまったこと、そして結局そのペンションにいた人間のの中で生き延びることができたのは自分たち二人だけだということを。 二人が危惧しているのは、仁村やバラライカも彼らと同じような末路を辿るのではないかということだ。 しかし、仁村はそんな二人の心配を笑い飛ばして二人と肩を組んで語る。 「心配してくれてお兄さん嬉しいよ。だがお二人さん、それは杞憂というもんだ。ペンションのオーナーさんや 警察官と自衛隊じゃ身につけてる技術だって全然違うんだぜ?こーゆう時に組織的行動が出来るのが俺達自衛隊だ」 たった一人の自衛官で組織的行動も何もあったもんじゃなく、しかも高校生の少女にそれを求めるのは絶望的なのだが。 それにしても…そのペンションから先程の場所までは結構距離がある。彼女たちの話を統合すると、 ペンション事件から50分程度でここまでやって来たことになる。結構なスピードを維持しつつ、 かつ立ち止まることがなければあるいはいけるかも知れないが…それを可能とするにはかなりの スタミナを要する。この少女の体のうちにそんスタミナがあるとはバラライカには思えなかったが、 事実として彼女たちはそこにいた。人は見かけによらないというがまさかここまでとは…バラライカは驚嘆していた。 それをバラライカが二人に尋ねると、キリノはさも当然といった風に答えるのだった。 「別に全然大したことじゃないですよ。ほら、剣道は持久力がいるから日頃から鍛えられてるだけですよ」 バラライカは納得した様子で頷くが、すぐに仁村に耳打ちした。 「仁村。お前の体力で例のペンションから先程の場所まで50分で走ってこられるか?」 「あんま自信ねえな」 この答えにより解ったことは一つ。キリノと鞘子は少なくとも陸上自衛隊員に勝るとも劣らない持久力を 有しているということだ。きっとこいつらは幼い頃から剣道とやらに打ち込んで来たのだろう。 そして、積み重ねてきたものは時としてすごい力を発揮する。つまりはこういうことなのだろうな。 「あの、今度は私がおばさんに質問していいですか?その火傷、どうしたんですか?」 キリノがバラライカに質問するが、おばさん呼ばわりした挙げ句、一番触れてはいけない場所に触れたキリノだが バラライカは別に怒ることもなく、フッと笑ってキリノの今の問いに答える。 「軍隊ともなると当然仕事場は戦場だ。これはとある戦闘の時に負ったものだ。 それと、おばさんではなく、お姉さんと呼べ。まだそんなに歳を食っているつもりはない」 と言って、隣で必死に笑いをこらえている仁村の胸を裏拳で軽く叩く。そんなバラライカの言葉に、今度は鞘子が口を開いた 「じゃあお姉さんはそんな過酷な所から生きて帰ってこられたんですよね。 その火傷は勲章みたいなものなんですね。カッコいいと思います」 鞘子のそんな屈託のない言葉にバラライカは面食らう。ホテル・モスクワと対立するマフィアからは フライフェイスなどと揶揄されるのだが、勲章などという表現をしたのは目の前の少女が初めてだった。 この異常事態に巻き込まれたときは最悪な気分だったが、こうも面白い連中に出会うとはな。悪くない。 だが、おしゃべりはこれくらいにしておこう。今は先を急がなくてはならないからな。 「話はこれくらいにしておこう。先を急ぐぞ」 というバラライカの号令のもとに4人は再び歩き出した。しかし…仁村は腕時計を確認する。午後3時。 太陽はすでに西の空へと少しではあるが傾いていた。日没までにはまだ少し時間はあるが、問題はそのあとだ。 日が沈み辺りが暗くなれば当然視界も効きにくくなる。つまり、それだけゾンビの発見、ひいては対処が 遅れる可能性があるということを意味していた。舌打ちしつつ、頭のなかで対策を考える。だが、妙案は浮かばない。 何しろ相手はこちらの常識が通じない相手なのだ。無理もない。だが、ただひとつ朗報があった。 当初の目的地である、ボート乗り場が見えてきたのだ。もう10分ほど歩けば到着し、休息を取ることができるだろう。 ところが、もう5分というところで先頭を歩くバラライカは驚きの光景を目の当たりにする。 ようやく休めると思ったボート乗り場にいたのは、50体ものゾンビと、そしてそれと戦うたった4人の人間の姿だった。 4人はかなりの健闘を見せていたが、銃をもっているのはそのうちの一人だけで、あとは刃物で応戦している。 しかもそのうちの2人はキリノや鞘子と同じくらいの年齢の少年少女である。この状況を見てバラライカが 下した決断は…4人の援護だ。ハードボーラーを携え、彼女は後ろの3人に宣告する。 「同志諸君、状況は見ての通りだ。今から我々は今も異形と戦う勇敢なる戦士たちを救いに行く。 死して今なおもこの世に踏みとどまる亡者ども全てに冥府へと導く裁きの鉄槌を降り下ろしたとき 我らはメシアとなる。さて、行こうか同志諸君。撃鉄を起こせ!!」 バラライカのあまりの迫力に圧倒されるも、同時に士気も最高に高まった3人。バラライカは大きな作戦を 始める直前には必ずこのような演説を行い、部隊の士気を高めていたのだ。もっとも、3人がいつバラライカの 同志になったのかは永遠の謎なのだが。しかし、そんなことは全く関係なしに4人はバラライカを先頭として、 ボート乗り場に突貫した。ボート乗り場の大きな休憩所の前、その建物はガラスバリになっているお陰で 中の様子を知ることが出来、今に至る。バラライカの指示のもと、配置に付く3人。まず仁村が突入し、 4人の生存者を巻き込まないように5.56mmを掃射。マガジン一つを撃ち尽くしたところで残りの3人が 加わり、一気に制圧するという作戦だった。切り込み役という、この作戦の正否に関わる大役を任された 仁村は、3人に笑いながら親指を立てるも、内心緊張で一杯だった。何故なら彼は彼の人生でほんの1、2回程度しか 背負ったことのないものを背負うことになったからだ。そう、責任である。緊張のあまり手が震え、 リロードがうまくいかない。そんな仁村の様子に気づいたキリノが配置を離れて仁村のもとへ歩み寄る。 「あの、仁村さん、緊張してるみたいですけど大丈夫ですか?」 キリノの面倒見のよさはこの男にまで及んだ。そんなキリノに仁村もこわばった笑顔で返事する。 「あんま大丈夫じゃねえな。平和ボケしてやがるとこんなところで痛い目見るんだよな。ハハハ…」 「大丈夫ですって!仁村さん、ほら、あの俳優の…なんていったか忘れちゃいましたけど、似てますから大丈夫です!」 キリノのいう俳優とは藤木直人のことだ。仁村が藤木直人に似ているのは事実だがそれとこの状況と どう関係があるのか仁村には全くわからなかったがこれもキリノなりの励まし方なのだろうと割りきり、 その点は触れずにいて、ただキリノに謝辞の言葉を述べる。 「いえいえ。それともう一つ、緊張が一気に溶けるおまじないをやってあげますね。目を閉じてもらえますか?」 半信半疑に仁村が目を閉じると、唇に何かものすごい柔らかくて暖かいものが一瞬触れた。 驚いて目を開けると、キリノが少し頬を赤らめながら微笑んでいた。 「おまじないの効果、ありました?さっき助けてもらったお礼も兼ねてです」 自分の唇を指で撫でる仁村。ああなるほど。そういうことか。これは、効果覿面だな。最高の気分だ。 「ああ、ばっちりだよ。サンキューな」 「それはよかったです。じゃあ、頑張ってくださいね」 と言ってキリノは配置に戻っていった。仁村はというと完全に吹っ切れた様子で薄ら笑いを浮かべていた。 そしてそのまま右手を挙げ、突入の合図を3人に送る。頷く他の3人。それを確認すると同時に、仁村は中へと飛び込んだのだった。 一方、こちらは休憩所の中。50体ものゾンビと戦い、なんとか半数近くまでその数を減らすことが出来たものの、 阿良々木、ひたぎ、次元、両津の4人はついに壁際に追い詰められてしまっていた。そして、そんな4人に ジリジリとせまりくるゾンビの軍勢。このまま突っ込めば瞬く間に囲まれ、噛みつかれてしまうだろう。 ただ、このままこうしていても遅かれ早かれ同じ末路を辿るのだが。万策尽きていた。しかし、それでも 阿良々木は決して絶望することなどなく、ゾンビに向かってありったけの声を出して啖呵を切った。 「お前ら、戦場ヶ原に指一本でも触れてみろ!その顔を二度と見られないようにしてやるからな!」 いつものひたぎならここで「はじめからそうじゃない。かっこよく決めたいならもっと言葉を選びなさい」 などとクールにツッコミを入れていたことだろう。しかし、今のひたぎはそんなことはせずにただ阿良々木に 寄り添い、彼を信じきっていた。横目でその様子を見て笑みを浮かべる両津と次元。両津が阿良々木と目を合わせ、彼にいった。 「よく言った!それでこそ男ってもんだ。じゃあワシも男を見せてやらなきゃならんな」 と言って両津は両手の武器を構える、阿良々木ならばおそらく両手でも持つのがやっとであろうハンマーを 片腕で軽々と使いこなす両津。彼一人の手で10体ものゾンビが倒されたのだった。 「お前さんだけにカッコつけさせてたまるかよ。俺もやるぜ」 と言って次元も銃と斧を構えて両津の右に並ぶ。 「僕もやります。戦場ヶ原を…守るんだ!!」 そう咆哮した阿良々木の目はこの異常事態に巻き込まれた当初にしていた怯えたものでは微塵もなくなり、 大切な、陳腐な言い方をすれば愛する者を守るために戦う一人の男の目だった。両津の左に並び武器を構える 彼の姿をひたぎはこの上なく頼もしく感じていた。両津が二人に目配せする。それに頷く次元と阿良々木。 「せーの…突撃!」 という両津の合図が発せられた瞬間、ゾンビの後方、出入口の扉が蹴破られ、それと同時に響き渡るのは マシンガンの連射音。ゾンビ軍団の一番後ろの方に位置していた5体ほどのゾンビが今の銃撃によって倒された。 それに気づき、半数ほどのゾンビが入り口の方へと方向転換した。両津たちからはゾンビ軍団の 向こう側がどうなっているのかは解らない。 ただ、これだけははっきり言える。生存者がいると。 そしてその生存者はこの絶体絶命の状況を脱するまたとないチャンスをくれた。この機を逃すまいと ゾンビ軍団に突貫する両津、次元、阿良々木の3名。しかも生存者は一人ではないらしい。このゾンビの群れの 向こうで戦っている複数の人間の気配を次元は瞬時に察していた。完全に挟撃を受けた形になったゾンビ軍団は あっけなく瓦解し、気づけば両津達の足元には完全に物言わぬ屍と化したゾンビの亡骸が転がっているだけだった。 まさに奇跡だった。その立役者である生存者4人は、両津たちのすぐ目の前にいた。迷彩服を着てはいるが、 気味の悪い薄ら笑いを浮かべマシンガンを携える20代くらいの男。それとは対照的に冷静沈着を体現したような 風貌と表情、そして何より周囲を圧倒するオーラを醸し出す金色の髪をした女性。 そして何故そんな二人と一緒にいるのかが解らない、阿良々木、ひたぎと同年代の少女が二人。 二人とも、木刀のようなものを携えていた。そこまではいいのだが両津たち4人を差し置いて盛り上がっていた。男と少女2人はハイタッチを交わし、女性はというと、 その様子をやや苦笑いを浮かべながら見ていた。そして、女性は両津たち4人のもとに歩いてきて、両津に言った。 「危ない所だったな。しかしたった四人でよくここまで持ちこたえられたものだ。私はバラライカ。元ソ連軍大尉だ。あそこで騒いでいる迷彩服を着た男が仁村。陸上自衛隊員。 そして、あの娘二人。背の小さいほうが千葉紀梨乃。高いほうが桑原鞘子。よろしく頼む。さて、我々は名乗った。お前たち4人の名前と身分を聞かせてもらおうか」 この異常事態で威風堂々とした態度で両津たちに迫るバラライカと名乗るこの女性。今までごく普通の生活を送ってきた阿良々木やひたぎにもこの女性が只者ではないことがわかった。 「ワシは両津勘吉。日本の警視庁の警官だ」 警官という言葉にバラライカは一瞬だけ眉をしかめた。しかし、それに気づいたのは次元ただ一人だった。この女は何かを隠していると次元は直感したが、それを追及して せっかく生存者同士で遭遇できたのに空中分解など冗談じゃない。次元はその点は一切触れずに自己紹介する。 「俺は次元大介。ただの観光客だ。よろしく頼む」 「観光客、ねえ。ただの観光客がなんで拳銃なんて持ってんだ?」 全く空気を読まずにずけずけと突っ込む仁村。そんな仁村にバラライカは今度は肘鉄をくらわす。怯む仁村。しかし、そうしながらもバラライカは仁村にボリス軍曹とはまた違う 親しみやすさを感じていた。一方、次元はというと、仁村の空気を全く読まない発言にも怒ることなどなく、いつもと変わらぬ口調で彼に答えるのだった。 「もうすでにこの異常事態で今更だがこの島はなにか訳ありだって噂だっただろう?備えあれば憂いなしというヤツだ」 あの時仁村が岩田、山崎、大池の3人に言った件と全く同じことを言う次元と名乗るこの男。感じることは同じのようだ。何か言い知れぬ奇妙な縁を感じ、仁村は次元に言った。 「野暮なこと聞いちまって悪かったな。姉さんから聞いてるとは思うが改めて。俺は仁村。陸上自衛隊員、陸士長だ。よろしくな。ところでそっちのコゾウと嬢ちゃん。名前は?」 名乗っていないとはいえ、「コゾウ」と呼ばれ阿良々木はムカッとして仁村に食ってかかろうとしたが、それよりも先にひたぎが仁村に食ってかかった。 「そんな呼び方やめてください。阿良々木君はもう一人前の男です。取り消してください」 大人しそうな外見には裏腹に初対面の大人にも物怖じしない態度で臨むひたぎ。面白い、それがこの少女に対する仁村の第一印象だった。ニヤッと笑って仁村はひたぎに言った。 「悪かったな。嬢ちゃんがそういうのなら阿良々木、君だっけ。は一人前の男なんだろうな。取り消すよ。ところで嬢ちゃんの名前はなんつーんだ?」 「戦場ヶ原ひたぎといいます。そしてこちらが阿良々木暦。よろしくお願いします」 阿良々木は思っていた。お巡りさんの次は自衛隊員だって?どんな奇跡だろう。でも両津さんと違ってこの人、いまいち信用できそうにないな…まあ、それはこれから確かめていけばいいか。 ところで、向こうのあの二人。どんな娘なんだろう。見たところ僕や戦場ヶ原と同じくらいの年頃だけど。 それに、この人たちがなんで一緒にいるかそのいきさつも気になるし… 「阿良々木暦です。よろしくお願いします。ところで、あちらのお二方は… 」 顔を見合わせるバラライカと仁村。そういえばこの8人の中で名前を名乗っていないのはあの二人だけだ。バラライカや次元と違い身分を隠す理由もない二人を仁村は呼んだ。 「おいお二人さん。自己紹介してないだろ。お二人さんの番だぜ?」 「あっと、申し遅れちゃいました。私は千葉紀梨乃。私立室江高等学校2年、剣道部主将です。よろしくお願いします」 と、紀梨乃は自己紹介を終えると同時に隣の鞘子にウインクする。次はサヤの番だよ、と言っているのだ。それに頷き、鞘子も自己紹介を始める。 「桑原鞘子。キリノと同じく私立室江高等学校2年。剣道部所属です。あの、よろしくお願いします」 さて、これで8人全員が各々の自己紹介を終えたわけだが、これからの行動はまず双方のこれまでの経緯を把握してから決定することになり、両津組は両津が、バラライカ組はバラライカが自分たちの経緯を語った。どちらも語りにかけてはかなり上手なので 残りのメンバーも実にたやすく理解することができ、スムーズに次の段階へと移行することができた。つまり、今後の作戦展開である。 両津たちは当初この湖をボートで渡りきり、この島の北端の道路から港まで遠回りするルートをとる計画だった。そうすることでゾンビと遭遇する確率を激減させるという狙いからだ。 しかし、新たにこの4人が加わったことで、ゾンビを駆逐しつつ最短ルートを通るという手も考えられるようになった。そうすることで、脱出経路をいち早く確保するという狙いだ。 到着が遅れれば先に住民に船で逃げられてしまう可能性がある。それよりも先に船を確保することでより多くの生存者を救出することができるのだ。この2つのプランのうち、どちらを採用するか。 両津は残りの7人に提案した。10秒ほどの沈黙の後、一番最初に口を開いたのは仁村だった。 「当初の計画で行ったほうがいいと思うね。こっちからみすみす飛んで火に入る夏の虫になることぁねえし、それに一般人に船を動かせると思うのか?」 確かにそうだ。自動車ならばまだしも、フェリーなどの船舶を一般人が動かせるとは思えない。旅客用の乗り物はコクピットやブリッジには入ることすらかなわない。 これは動かす動かせない以前にエンジンをかけられないというのが現実であろう。そもそも、どうすればエンジンがかかるのかわからないのだから。 そして、その仁村の意見に反対する者は一人もいなかった。こうして、この8人の今後の行動が決まった。まず、ボートでこの湖を縦断。北端の舗装道路を通り、港に向かい たどり着いたところで脱出用の船を確保した上で、生存者の救出に向かうのである。そして、8人は桟橋へと向けて歩き出す。その時、阿良々木がポツリと漏らす。 「どうしてこんなことになったんだろう。ゾンビたちだってほんの数時間前までは普通の人間として、生きていたはずなのに…」 そんな阿良々木の言葉に、残りの7人はその答えを模索する。だが、答えなど見つかるはずもない。仕方ないなという風に仁村が彼に返した。 「世界は今までお前らが思ってたもんとは違った、ってことなんじゃねえの?あいつらがなんでこうなっちまったのかなんてことは誰にもわからねえ。だからそんな風に思いつめるのはよしなよ」 と言って仁村は彼の肩をたたく。苦笑いを浮かべて頷く阿良々木。彼が仁村に対して抱いていた小さな不信感はいつのまにか消えていた。絶対この8人で生きて帰る。阿良々木はそう決意していた。 【D-04/ボート乗り場/一日目・午後】 【仁村@ドラゴンヘッド】  [状態]:やや興奮状態  [服装]:陸上自衛隊の迷彩服、メットはなし  [装備]:9mm拳銃(装填数8/9発、予備弾90発 )、89式5.56mm小銃(装填数30発、予備弾180発)銃剣  [道具]:リュックサック、トランシーバー、ウォークマン(電池は3本)、  [思考]   1:港への到達   2:島からの脱出   3;紀梨乃と鞘子を絶対日本に生かして帰してやる。 【バラライカ@ブラックラグーン】  [状態]:冷静。肉体疲労ほとんどなし  [服装]:スーツ  [装備]:スチェッキン(11/20 予備弾20)、マカロフ(5/8 予備弾8)  [道具]:ハードボーラー(7/7 予備弾0) 携帯電話、島の地図、葉巻(残り5本)、ライター  [思考]:1、港への到達 2、島からの脱出。 3、他の生存者とは必要に応じて協力。但し足手まといになるようなら見捨てることも厭わない。  【千葉紀梨乃@バンブーブレード】  [状態]:やや疲労。前向き。鞘子を守る強い気持ち。  [服装]:キャミソール、カーディガン、7部丈ジーンズ。  [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で固定している)  [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。  [思考]   1:サヤを守る。   2:港への到達   【桑原鞘子@バンブーブレード】  [状態]:やや疲労。前向き。  [服装]:チューブトップ、薄手のジャケット、タイトジーンズ。  [装備]:日本刀(刃渡り80cm、刀身と鞘を下げ緒で結んでいる)  [道具]:防災グッズ(乾パン・缶詰×6食分、250ml飲料水パック×6)。日用品数種。携帯電話。観光用地図。  [思考]   1:キリノについていく。   2:港への到達。 【阿良々木暦@化物語】  [状態]:やや疲労。ひたぎへの責任感。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:鍬(全長1m)。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:ひたぎ達7人と港へ行き、船に乗る。   2:ひたぎを守る。 【戦場ヶ原ひたぎ@化物語】  [状態]:やや疲労。阿良々木への深い信頼。  [服装]:夏っぽい服装。  [装備]:千枚通し。アイスピック。文房具一式。  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木君達7人と港に行き、船に乗る。   2:阿良々木君と一緒に日本に帰りたい。  [備考] 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎの共通事項。   1:ルパン三世、ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【次元大介@ルパン三世】  [状態]:やや疲労。冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:いつもの服装。  [装備]:薪割り用の斧(全長1m)。コンバットマグナム(357マグナム弾。6/6発。予備29発)  [道具]:リュックサック(日用品数種。観光用地図。携帯食料数種。缶詰と飲み物3食分)  [思考]   1:阿良々木達7人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返してルパンを捜す。  [備考]   1:ボルボ西郷、左近寺竜之介の容姿や服装を把握しています。 【両津勘吉@こちら葛飾区亀有公園前派出所】  [状態]:健康。豪快にして冷静。阿良々木とひたぎへの責任感。  [服装]:アロハシャツ。  [装備]:大型ハンマー(全長1m)。シャベル。手斧×2。  [道具]:大型ザック(レンチ、バール、ハンマー類。(缶詰、ペットボトル、パンなど15食分)、食器類。観光用地図。手鏡)。工具ベルト(ドライバー、ペンチ等)。  [思考]   1:阿良々木達7人と港に行く。   2:阿良々木とひたぎを船に乗せた後、引き返して救出活動を再開する。   3:ボルボ西郷、左近寺竜之介を捜す。  [備考]   1:ルパン三世の容姿や服装を把握しています。

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