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邂逅」(2009/12/07 (月) 21:19:13) の最新版変更点

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  邂逅  ◆7mznSdybFU  島の市街地のほぼ中央に位置する巨大ショッピングモールは、今から7年ほど前、島の行政府が大々的に打ち出した観光 産業強化政策を受け、某世界的製薬企業が巨額の資金と政府からの補助金を投じて作り上げた複合商業施設だ。当初、その あまりの大きさに住民からは「カネの無駄遣い」「閑古鳥が鳴くのが落ちじゃないか」などと経営を危ぶむ声が少なく なかったが、本土にもあまり見られないほど多種多様な店舗が充実していたことから、マスメディアに何度か取り上げられ、 今では島の観光の目玉の一つとなっている。  建物は東館と西館に分かれており、南から北に向かって鳥が翼を広げたような逆ハの字型に建てられ、その間には噴水 広場が造られている。  その東館に、悪化する状況を食い止めようとする3人の男たちがたどり着いた。  物音一つしない静まり返ったモール内を、鷹山ら3人は慎重に進んでいく。天窓や側面のウィンドウから燦々と夏の日差 しが降り注ぐが、辺りに漂う血臭と所々に倒れている死体が空気を澱んだものにしている。モール内の店舗は、日本人の 彼らでも一度は訊いたことがあるような有名ブランドやチェーンのものがほとんどだ。誰もが知っている高級ブティックの マークが店先で輝き、CMで話題の玩具屋のマスコットキャラクターが愛嬌ある笑顔で客を呼び寄せようとしている。だが、真っ白なタイルの床に死体と血がまだら模様を作っている光景がその印象を不気味なものに変えてしまった。3人とも職業柄 死体を見ることには慣れているが、これだけの数の死体を見ると流石に暗澹たる気分にさせられる。 「見ろよタカ、ここにある死体全部頭がブチ抜かれてる。ここの警察の連中、かなり頑張ったらしいな。キッチリ後始末し てくたぁいい仕事しやがる」  賛辞とは裏腹に大下の表情は硬い。頭部に銃創のある死体は年端の行かない子供や警察官のものもあった。撃った人間は その瞬間に何を思ったのだろうか。 「汚れ仕事はキツかったろうな、同僚の死体にまで穴開けなきゃならなかったんだ。本当に胸クソ悪い事件だぜ」 「ああ、しかし警官の死体があるっていうのは不味いな。ただでさえ少ない戦力がさらに減ったわけか、武器を調達したら さっさと警察署に向かったほうが良さそうだ。先生、ついて来てるか?」 「私の心配なら不要だ。それよりも急いだ方がいい、分かっている限りゾンビは視覚ではなく嗅覚や聴覚を頼りに行動して いる。夜になってしまえば人間の方が不利だ」 「暗がりの方が奴らにとっちゃ過ごしやすいってのかよ、痴漢みてぇな連中だな」 「痴漢ならまだ可愛げがあるんだがな……」  周囲を警戒しながらモールの中央へ向かう。このモールは観光客をメインターゲットにしているだけあって、周辺には観光客を 目当てにした商業施設が軒を連ねている。道路は綺麗に整備され交通に支障はない。逆に言えばゾンビの餌である人間が多く集まり、 その移動を妨げるものがほとんどないということでもある。もたもたしているとゾンビに囲まれてもおかしくはない。足早に奥へと進む。  閉め切られたモール内に風は吹かない。  外の風にあおられ揺れる椰子の木の影を除けば動いているものは彼らだけだ。華やかな人工物に囲まれながら、全く生の 気配がしない、悪夢のワンシーンの様な光景だ。  修羅場慣れした彼らだからこそ冷静さを保っていられるが、何の心構えもしていない常人がここにいればそれだけで精神 の平衡を欠いたかもしれない。 「以前に来た時は賑やかだったのに、今はこんなシュールな場所になっちまうなんてな」  呟いた鷹山の視線の先には無人の中央ホールがあった。サービスカウンターには当然誰もいない。 「確かにな、俺たちもグズグズしてるとそのシュールな風景のシミになっちまうかもな。けどいくらなんでも静か過ぎやしないか? 誰か一人ぐらい生きてる奴がいても良さそうなもんだけどな」 「いや、生存者は残っていたようだ、あれを見ろ」  ブラックジャックの指し示した方向は、ウインドウの外、モールの西館だった。距離があるためよくは見えなかったが、 目を凝らすと入り口付近にバリケードを組み立てているいくつかの人影が見えた。バリケードはすでに大人の背丈ほどまで 積み上げられている。急ごしらえである以上、万全には程遠いだろうがあれなら多少の衝撃には耐えられそうだ。 「生き残った連中はもう向こうに集まったのか。ま、ショッピングモールに立て篭もるのはゾンビ物のお約束だしな」 「俺たち完全に出遅れてないか? 早いとこガンショップを探そうぜ」 3人はホールの案内板を見る 1F――――本屋、レコードショップ、電器屋、薬局、ブティックetcetc…… 2F――――文房具屋、スポーツ用品店、アウトドアショップ、ガンショップ…… 「ビンゴ! なあ、俺の言ったとおりだったろ。やっぱ俺の日頃の行いが良いせいだな」 「日頃の行いってのは女泣かすことか? 西館にあるのはスーパーマーケットにフードコートか、あいつら食料を抱えて救助を待つ つもりらしいな、一理ある」 「だがおそらく丸腰で篭城するつもりはないだろう。私たちよりも先にガンショップの銃を持ち出されている可能性もある」 「本格的に出遅れてるな俺ら、急ごうぜ!」  危険を冒してまで寄り道をしたのに収穫なしでは救われない。彼らは案内板にある階段へと駆け出した。 「なんだよ、本場のガンショップなんだからもっと凄いマシンガンとかバズーカとか期待してたのに案外普通だな」 「離島のガンショップなんてこんなもんだろ。とにかく使える銃と弾が手に入ったんだ、贅沢言うのは無しにしようぜユージ。 先生、あんたは銃を扱えるのか?」 「ああ、いくらか心得はある」 「そいつは結構、どこで覚えたのかは訊かないでおく」  モール二階の端に店舗を構えていたガンショップは、大下が文句をこぼしたとおりそれほど規模の大きいものではなかった。 店の持主はウエスタンマニアらしく、店内の壁や天井は木目調で覆われ、まるで西部劇に登場するバーのようだ。 ショーケースに並んでいる銃はほとんどが狩猟用か護身用の散弾銃やライフル、拳銃で、突撃銃のような威力と連射力に優れる銃 は置いていない。セント・マデリーナ島の規模を考えれば平時はこれで十分なのだろうが、島にゾンビが溢れかえる現在の 状況ではやや心許ない。  店内のケースのいくつかは割られ、銃が持ち出された形跡があるがその数は多いものではなかった。銃が多く残っているのは ありがたいが、同時にそれは持ち出した生存者の数が少ないということでもある。この付近が危険であるということに変わりはない。  357マグナム弾のケースをカウンターに並べながら鷹山がブラックジャックの方を見やると、自己申告の通り危なげない 手つきで散弾銃に弾をこめている。どこで技術を習得したのか、謎の多い闇医者だ。 「タカ、ちょっと来てみろよ」  外に面したウインドウから表の様子を窺っていた大下が呼びかける。その場所へ向かうと、そこはちょうど噴水広場と西館 の入り口が見下ろせた。その西館の入り口に4人の若い女がいる。声はここまで届かないが身振り手振りで西館の中にいる 誰かに何かを訴えているらしい。 「新手のストリートパフォーマー、じゃあ無いよな。多分避難してきたんだろうが……」 「それにしちゃ様子がおかしくない? 中に入れねぇみたいだし」  突然、彼女たちの動作があわただしいものになる。彼女たちの視線を追うとゾンビの一団が噴水広場の端に差し掛かって いた。にもかかわらず西館の扉はいまだに開く気配はない 「ちょっとちょっとヤバいんじゃないの!?」 「本気で閉め出すつもりか!? 行くぞユージ!」 「お願いします入れてください!」 「頼むよ邪魔にはならないから!」 「今からバリケードを除ける時間なんかあるか! 他所に行け!」  うず高く積まれたベンチやテーブルの向こうから血走った目の男が唾を飛ばす。  人の集まりそうな場所を目指して移動するというのが、当初暦たちが立てたプランだった。特殊な訓練を受けたわけでも ない彼女たちが生き残る可能性を探るなら、自分たち以外の誰かと協力するほかない。いきなり自分たちのいた日常が、 乾ききったまま放置された紙粘土のようにぼろぼろと崩壊していく中で、必死にゾンビの襲撃を時にかわし時に退けながら、 粘り強さとチームワークでどうにかここまで無事たどり着いたが、まさか助けを求めた人間に突き放されるとは思ってもみ なかった。 「ヤバいもうそこまで来てるよ!」  智が上ずった声で叫ぶ。ゾンビたちは噴水広場の中にジワジワと侵入していた。その数ざっと50以上、あんな数はとても 自分たちの手に負えるものではない。暦はパニックになりそうな頭を無理やりに鎮める。鎮めたと思い込む。とにかく逃げ なければいけない。でもどこへ? 今までの強行軍で体力はともかく精神的に限界が近い。この近くで人が集まりそうな場所 は警察署だが、そこまでたどり着けるのか自信がない。観光ガイドだけを頼りに不慣れな土地をさまようのは彼女たちの精神を 大きく磨耗させた。  仲間たちを見ると榊は青褪めた表情で散弾銃を持ち上げた。抗戦の覚悟を決めたらしい。智と神楽はまだなかの人間に食 って掛かっている。中には男のほかにも10人程度の人間がいたが、誰も暦たちに手を差し伸べようとするものはいなかった。 「何でだよ私らが死んでもいいっていうのかよ!?」 「うるさい!」  パァンと発砲音が響いた。暦は榊が撃ったのかと思ったが、榊は強張った表情でモールの方を向いているだけだった。 さかんに叫んでいた智や神楽も絶句している。  銃を撃ったのはモール内にいた男のほうだった。正気と狂気のギリギリの境にいるような獣の表情で拳銃を天井に向けて いる。その銃口から紫煙が立ち上っていた。   「これ以上ゴネるんならこっちにも考えがあるぞ、入ってこようとしたらその時は……」  その先を言葉にしない程度の羞恥心は残っていたらしい、暦たちにとっては何の救いにはならなかったが。  暦の頭の中からはショックで一切の感情が抜け落ちていた。一種の諦めに近いものかもしれない。分かったことはここに いても仕方がないということだった。足が自然と後ろへ下がる。胸中で必死に挫けそうな自分を叱咤した、これからまたゾンビ たちの中を突破しなければいけないのだから。鉛のように重く感じる足を引き摺り扉から離れようとする。 「こっちだ!」  その声は力があった。美しいわけでも威厳に溢れているわけでもなかったが、うつむいていた彼女たちが顔を上げる程度には。  サングラスをかけた二人の男性が反対側の建物から駆け寄ってくる。 「向こうの建物まで走るんだ! 速く!」  聞き終わる前に全員の足が動いていた。残っていた全ての力で走り出す。 「ユージ! 援護だ!」 「っしゃあ! やったろうやないけぇ!」 場違いなほど明るい声と立て続けに響く銃声に押されるようにひたすらに走る、走る、走る!  あと少しというところで疲れがたたって足がもつれた。バランスを崩し石畳が眼前に迫る、が転倒の直前で誰かに支えられた。 黒いマント姿の男性が暦の体を支えていたのだ。顔面に縫合痕が走り、殺し屋のようにも見える風貌だったが不思議と恐怖 は感じなかった。 「振り向かずに走るんだ!」  男性に叱咤され、自分でもこんな力が残っていたのかと思うほどの力で走った。モール内に飛び込むと、後ろから銃を 撃っていたサングラスの二人が駆け込んできた。マント姿の男性が素早く施錠する。  走りすぎて心臓が破裂しそうに痛い、仲間たちを見ると皆無事だったことが確認できた。智が床に這い蹲ってあえいでる以外は。 (ゾンビは!?)  追いかけてきたはずのゾンビたちは、なぜか彼女たちを見失ったかのように強化ガラスのドアの前をうろうろしているだ けだった。こちらに気づいているのかいないのか、時折ガラスを叩くがそれ以上の行動はしてこない。 「これで全員か、しかし何でこいつらは急におとなしくなったんだ?」 「おそらく臭いが途切れて私たちの居場所を知覚できなくなったんだろう。これは仮説だが、ゾンビは蚊と同じように動物 の汗の臭いで獲物を探し当てている。だが人体の構造上、ゾンビはイヌのような鋭い嗅覚は持ち合わせていない。この建物 は比較的密封性が高いようだからそのせいもあるだろう。なんとなくこちらの方に人間がいるらしい、程度の認識はあるが 確信が持てない、といったところか」  サングラスの男性の問いにマントの男性が答える。何がなんだか分からないがひとまず安全ということなのか。はっきりした確証がもてず戸惑う暦たちの前に、サングラスの男性たちがやってくる。 「大丈夫か? 女の子にはちょっとばかりハードな状況だったがよくがんばったな」 「ここに医者もいるし、後はお巡りさん達に任せてゆっくり手当てしておいで」 お巡りさん。  つまりこの人たちは警察官らしい。  そう分かった瞬間、安堵のあまり暦はその場にへたり込んでしまった。 「とりあえず、夜用に明かりの類と、あとはロープかなんかありゃいいのか? どうでもいいけど夜用っていうとちょっと 響きがいやらしいよな」 「お前は中学生か? リュックサックは欲しいな、銃が使えるように両手はフリーにしときたい」  出会った少女たちの治療をブラックジャックに一任し、鷹山と大下はこれから必要になりそうなものをアウトドアショップ で物色していた。島全体が混乱している以上、ここ以外で補給できる保証はないのだ。出来るだけの準備はしておきたかった。 小さな山が出来るほどの物資をカウンターに積み上げていく。犯罪者相手の捜査なら自分たちはプロだという自負があるが、 サバイバルとなると少々勝手が違う。いくら用心しても用心しすぎるということはない。 「にしてもこれは多すぎない?」 「やっぱり?」 などとやっていると治療を終えたブラックジャックがやってきた。 「よう先生、健康診断の結果はどうだった?」 「全員軽症、ゾンビ化の心配もない。精神的な疲労については専門外だからなんとも言えんがね」 「ゾンビ化ね、噛まれればゾンビになるっていうのは本当なのか」 「ゾンビの体液は非常に危険だ、血中に入ればきわめて高い確率で感染する。正直この感染力は異常としか言いようがない。 致死率の高さもエボラウイルスと同等かそれ以上の危険性がある。ラクーンシティで起きたアンブレラ事件と非常に酷似しているな」 「そんなやばいモンを抱えた連中が千人単位でその辺をうろついて人間を襲いまくってるわけか。たまんねぇな」 「手洗いうがいで防げるレベルじゃないしな、治療法はなんか無いのか先生?」 「残念ながら現時点では無い。だが院長が生前公衆衛生局にサンプルを送っていたと聞いている。もしかするとその結果が 病院の方にメールか何かの形で届いているかもしれない。その内容次第では何らかの対策が取れるかもしれないな。できれば 確認しておきたいところだ、余裕があるならあんたらも付き合ってくれ」 「ちょっと待て、そこまでお前に尽くすほど俺たちがお人よしに見えるか?」 その問いかけにブラックジャックはニヤリと笑う。 「いいや、だが私を助けるのも職務のうちなんだろう? 私個人としては強制はしないがね」 「ハァ……、ま、病院の方の避難誘導もするつもりだったからべつに構わないが、えらい医者に出くわしちまったもんだ」 「ここまでサービス過剰な警官は俺たちぐらいのもんだな。サービスついでにスープとサラダもお付けしましょうか?」 「それは遠慮しておこう」 「そういえば腹が減ったな、昼を抜いたままだった」 「西館にいる連中は腹いっぱい食ってるんだろうなぁ、バカヤロー!」 3人はウインドウから噴水広場と西館のほうを見る。噴水広場には先ほどよりも多くのゾンビが集まっていた。西館の方 からはかすかな銃声とマズルフラッシュがここまで届いてくる。ゾンビを撃退するつもりらしい。建物の角度からこちらに 弾が飛んでくる可能性は低いが、2,3体のゾンビが倒れているだけでとても成果が上がっているとはいえない。 「どうするタカ、あの子達を見捨てたお仕置きついでにいっちょ殴りこみにいって食料ぶんどってくるか?」 「それはおもしろそうだが、途中にいるゾンビが邪魔だな。向こうにいる連中がもう少し数を減らしてくれるのを待った ほうがいいな」 「……警察の言う台詞とは思えないな」 「あんたが言えたことじゃ……待て、あの子達はどこ行った?」 少女たちを待たせていたはずのガンショップ前には誰もいない。まさかゾンビで溢れかえるモールの外に自分たちから出 て行ったとも思えないが、精神的に衰弱していたのなら何かとんでもない行動に出てもおかしくはない。 「まずいな、ヤバいことにならなきゃいいが」 「俺は二階を探すからタカは先生と下を――」 「あ、いたいた。鷹山さーん、大下さーん、せんせー」  声は階段の方から聞こえた。3人が振り向くと少女たちがダンボール箱を抱えてこちらにやってくるところだった。4人 ともいたって元気そうで、特に取り乱した雰囲気もない。心配は杞憂ですんだようだ。リーダー格の暦に声を掛ける。 「ここで待っててくれっていっただろう、どこに行ってたんだ?」 「食料を探しに行ってたんです。ブラックジャック先生がさっき朝から何も食べていないって行ってたので」 「食料? 東館には飯屋もスーパーもないんじゃないのか?」 「なんだ鷹山さん知らないの? 薬局に普通にカロリーメイトとかペットボトルとか売ってますよ」  神楽が横から口を挟む。 男3人は顔を見合わせた。薬局=医薬品というイメージしかなく、そこで食料を探すという発想が無かったのだ。この辺 りは女子高生の方が一枚上手らしい。 「どう? 私らも役に立つっしょ?」  智が胸を張る。  思わず苦笑する男3人。ダンボールの中を覗くと確かに様々な健康食品やペットボトルが入っていた。大下が栄養ドリンク を一つ取り上げる 「確かにこいつは助かるわ、最近の女子高生はいろいろ知ってんだな」 「当然、特によみにダイエットサプリは必須アイテムだし」 「……智、お前シメっぞ」 「いまさら隠したってバレバレだっつーの。知ってるぞー、脇腹が軽くヤバイんだろ? こないだも学校帰りのコンビニで ダイエットフードの棚ガン見してぐえええええええぇぇぇぇ」  現職の刑事から見ても鮮やかなチョークスリーパーが決まる。 「ちょ、ギブギブ!」「お前はいっぺん痛い目見とけ!」「いや死ぬからこれ私死ぬから!」 そののどかな光景に全員が笑った。 実にいいチームだと鷹山は思う。彼女たちだからこそここまで生きてたどり着けたのだろう。 「あの……鷹山さん、大下さん」  今まで一歩引いた場所に立っていた榊が声を掛けてくる。その瞳にはどこか思いつめたような光が浮かんでいる。 その手に握られた散弾銃を見て、彼女が何を求めているのか大体の察しはついた。 「銃の使い方を教えろ、か?」 「……はい」  波が引くように笑い声が静まった。榊のあとを追うように次々に少女たちが身を乗り出してくる。 「わ、私も!」 「お願いします!」 「自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいんです!」  必死に訴える少女たちはひとまず置いておいて、二人は視線を榊に戻す。日本人の平均を上回る身長の持ち主で、見たと ころ筋肉のつき方も悪くはない。彼女が素人にもかかわらずある程度散弾銃を扱えたのはその辺りが理由だろう。  だが、素人が銃を持ったところで命中率は高が知れている。おそらく5メートルも離れれば狙った場所に命中させるのは 無理だろう。動きが鈍いとはいえ、相手が動き回るゾンビならなおさらだ。誤射の可能性も考えれられる。普通ならとても 認められる話ではない。ないのだが――  鷹山は相棒を振り返る。 「お前はどう思う?」 「んー? ま、この際しょうがないやな」 「マジで!? やった大下さん話が分かる!」 喜ぶ少女たちとは反対にブラックジャックはあきれ声をあげた。 「そんなに簡単に決めていいのか? 民間人に銃を渡す警察官など聞いたことがないぞ」  もっともな台詞ではあるが、生憎この二人は模範的な警察官とは程遠かった。 「それはそうなんだけど、女の子が腕力だけで切り抜けるのはちょっとキツい状況だし、第一民間人云々なんて言ったら先 生まで追及しないといけなくなるじゃないの、ねぇタカ?」 「もちろん、法を守る警察官として当然のことだな」 「やれやれ、一理あるにはあるが……えらい刑事に出くわしてしまったもんだ」 「じゃあ私コレ!」 智がケースの中からコルトガバメントを取り出す、が 「おっと、そいつは没収~」  大下が横から取り上げてしまう。 「え、なんで?」 「初心者には45口径は無理、使うならこっちにしなさい」 そう言って大下が取り出したのは小型の回転式拳銃だった。 「えー、なんか弱そう……」 「誤解するな、俺たちが君らに銃を持たせるのは戦わせるためじゃない、あくまで護身のためだ。まずゾンビにあったら逃 げることを考えろ。銃は最後の手段だ、賭けてもいいが君たちの腕じゃまず動く標的には当てられない。俺かユージの許可 が出るまでは触るな。警察署についたら向こうの警官の指示に従うんだ。それが出来ないならこの話は無しだ」 「それにこんな小さな銃でも当たれば人が死ぬんだ。もし間違えて君の友達に当たったら……分かるだろ?」 「う……」 「智、あんまりこの人たちを困らせるな」  暦の声に智はようやく引き下がった。  鷹山たちにも不安はある。だが彼女たちが本当に追い詰められた時、何も出来ずにむざむざと死を待たせるようなことに はしたくなかった。 「じゃあ説明を始めるぞ、時間が無いからよく聞いてくれ」  それから30分ほどかけて最低限の銃のレクチャーを行った。  体力に自信のあるという神楽には水平式の散弾銃を持たせ、暦と智には回転式拳銃を渡した、自動式にしなかったのは 万が一排出不良が起きた場合、彼女たちでは対応できないだろうし、連射力の強い銃を持たせて変に好戦的になられると困るからだ。 「何度も言うが銃は本当に最後の手段だ、まず逃げることを考えろ」 「絶対に人に向けないこと、お巡りさんとの約束だ。破ったら逮捕しちゃうぞ!」 集めた物資を分配し出発の準備を整える。 「あ、あれ! あれ見てよ!」 神楽の上ずった声に全員がウインドウに駆け寄った。噴水広場に集まっていたゾンビたち――暦たちが逃げ込んで以降 少しずつ増えていった――が西館に堰を切ったようになだれ込んでいた。篭城していた人間の発砲音が散発的に聞こえてく るが、ゾンビたちの勢いは止まるところを知らない。 「なんで……バリケードも作ってたのに……?」  青ざめた顔の暦の呟きに、ブラックジャックが答える。 「おそらく銃を撃つための隙間から臭いを嗅ぎつけられたんだろう。餌を探していたゾンビにしてみればようやく訪れた食事 のチャンスだ。臭いめがけて突き進むのは道理だろう。あれだけの数が集まっていたのも悪かった。あの数相手では銃を少々 撃ったところでゾンビに自分の居場所をアピールするのと同じことだ。銃声を聞きつけて他のゾンビたちも集まってくる。 悪循環だな。他の出口から逃げ出すしか手はないだろうが、あの様子では別の出入り口もバリケードを作っているだろう。上手く逃げられるかどうか」 「中途半端な抵抗は逆に自分の首を絞めるだけか、厄介な話だ」  鷹山が苦い表情で呟く。銃があるだけでは万全には程遠いことがこれで証明されてしまった。否応無しに自分たちが危機的状況にいることを思い知らされる。  少女たちはみな一様に青い顔をしていた。一度見殺しにされかけたとはいえ人の窮地を喜べるほど非情ではないようだ。 銃を手にしたときの高揚が吹き飛んでしまった。 その陰鬱な空気を振り払うように大下が声を張り上げる。 「よし、とにかく早くここを離れようぜ! 目指すは警察署だ!」  その声にどうにか気力を取り戻した暦たちは出口へと向かう。  彼らのサバイバルはまだ終わらない。 【F-05/ショッピングモール東館/一日目・日中】 【鷹山敏樹@あぶない刑事】  [状態]:軽い疲労  真剣  [服装]:サングラス サマースーツ  [装備]:べネリ M3(12ゲージショットシェル 7/7 予備弾77)、S&W M586(357マグナム弾 6/6 予備弾48)、      S&W M49(38Spl弾 5/5)  [道具]:リュックサック(健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、栄養ドリンク×5、ライトスティック×6、 12メートルのロープ、発炎筒×3、L字型ライト)、KENT マッチ 警察手帳 財布  [思考]:1、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。      2、1が済んだらブラックジャックと病院へ向かう。      3、引き続き生存者の保護と情報の収集 【大下勇次@あぶない刑事】  [状態]:軽い疲労  真剣  [服装]:サングラス サマースーツ  [装備]:レミントン M11-87(12ゲージショットシェル 7/7 予備弾77)、コルトローマン(357マグナム弾 6/6  予備弾48)  [道具]:リュックサック(健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、栄養ドリンク×6、L字型ライト、包帯、各種      医薬品、ビニールテープ、ライトスティック×4)、十徳ナイフ LARK ジッポーライター 警察手帳 財布  [思考]:1、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。      2、1が済んだらブラックジャックと病院へ向かう。      3、引き続き生存者の保護と情報の収集 【ブラックジャック@ブラックジャック】  [状態]:背中に打撲  緊張 真剣  [服装]:黒のマント姿  [装備]:イサカ M37(12ゲージショットシェル 4/4 予備弾48)、SIG P228(9ミリパラベラム 13/13 予備弾39)  [道具]:マントの下にメスを始めとした手術道具多数、デイパック(各種医薬品、カルテ、健康食品×6、飲料水入り500ml      ペットボトル×4、懐中電灯)、運転免許証 、財布  [思考]:1、ゾンビ化の原因を突き止め治療法を探す。      2、水原暦ら4人を警察署まで送り届ける。      3、2が済んだら病院へ向かう。      4、余裕があればホテルに一度戻り『ビニールケース』を回収したい。 【水原暦@あずまんが大王】  [状態]:軽い疲労 擦り傷(処置済) 責任感 緊張。  [服装]:活動的な服装。  [装備]:金属バット、コルト コブラ(38spl弾 6/6 予備弾18)  [道具]:ショルダーバッグ。日用品→パスポート、携帯電話、お菓子、500mlペットボトルなど、以下同じ。懐中電灯、      観光ガイド兼地図、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、各種サプリメント、栄養ドリンク×2  [思考]  1:みんなで警察署へ避難する。  2:島から脱出する方法を探す。  3:水、食料を確保する。できれば武器も。  4:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。 【滝野智@あずまんが大王】  [状態]:軽い疲労 擦り傷(処置済) 不安。  [服装]:活動的な服装。  [装備]:シャベル、S&W M37(38spl弾 5/5 予備弾15)  [道具]:小型リュックサック。日用品。懐中電灯、お土産、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、懐中電灯、      ツールナイフ  [思考]  1:よみの言うことを聞く。  2:みんなで警察署へ避難する。  3:もしかしてかなりヤバい?   【榊@あずまんが大王】  [状態]:健康。擦り傷(処置済)。不安。  [服装]:活動的な服装。  [装備]:ベレッタ682上下二連式ショットガン(12ゲージショットシェル 2/2発 残弾30)  [道具]:トートバッグ。日用品。観光ガイド兼地図。懐中電灯、デジカメ、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、      懐中電灯、メモと筆記用具、発炎筒×3  [思考]  1:彼女(水原)の判断は信頼できる。  2:みんなで警察署へ避難する。  3:なぜゾンビが現れたのだろう……。  [備考]  鷹山から銃の扱いについて指導を受け命中率が多少改善しました 【神楽@あずまんが大王】  [状態]:軽い疲労。擦り傷(処置済)。不安。  [服装]:活動的な服装。  [装備]:斧(全長80?) ウィンチェスターM21(12ゲージショットシェル 2/2発 残弾20)  [道具]:デイパック(日用品。懐中電灯、小型双眼鏡、健康食品×6、飲料水入り500mlペットボトル×4、懐中電灯、     12メートルのロープ)  [思考]  1:みんなで警察署へ避難する。  2:早く逃げないとヤバい! ※ガンショップにあるのは拳銃、散弾銃、狩猟用小銃などです。短機関銃、突撃銃及び突撃銃の弾丸は置いてありません。 ※あずまんがキャラが把握しているのは手持ちの銃と弾丸についてのみです。

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