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 世界を救うのは、破壊か、祈りか。  ◆WB4ih.bmzelP

あの日、紛れもない現実世界でありながら空想やフィクションでしかあり得ない世界に放り込まれた
日から10日前。日本全国指名手配を受けた殺人犯、結城美智夫と、その友人で
神父を勤める賀来巌は、新東京国際空港、つまり成田空港の国際線搭乗口付近の
ソファに腰掛けていた。行き先は、アメリカ合衆国東海岸沖500kmのところに位置する小さな島、
セント・マデリーナ島だ。だが生憎セント・マデリーナ島の空港は小さく、ボーイング747、
俗に言うジャンボジェットが着陸するには無理があるので、一度ハワイ空港に向かい、
そこからセント・マデリーナ島行きの小型機に乗換える必要がある。やや面倒だが、仕方がない。

さて、国際線の本人チェックは厳しく、パスポートも入念にチェックされるのだが、
美智夫はいとも簡単にそれを通り抜けた。彼は変装の名手であり、顔をごまかす事などお手の物。
パスポートは、自分が手に掛けた女性のものをそのまま持って来た。何せその女性とは妻のことだからだ。

遺体は見つかりにくい所に隠してあるので、見つかる頃には美智夫と賀来はセント・マデリーナ島で
快適な生活を送っていることだろう。
賀来はというと、正真正銘自分自身のパスポートを持ち、本人確認を通り抜けた。

「それで結城、あれはどうしたんだ?」
賀来が周囲に聞こえぬように耳打ちする。今自分の目の前にいるのは、
結城美智夫には違いないがセント・マデリーナ島の地を踏むまでは結城美智夫ではないのだ。

「あれって?何の事かな」
美智夫はふざけた口調で返事をする。賀来の言う物が何なのか解っていてふざけているのだ。
「とぼけるな。MWガスのことだ。見たところ持って来ていないようだが」「ああ、ガスは僕しか知らない所に隠してあるよ。わざわざ持ち歩くようもんじゃない」
賀来は胸をなで下ろす。これでたとえセント・マデリーナ島にて警察に追い詰められても、
MWガスを武器に全島民を人質に取るということは出来なくなるからだ。

しかし、次の瞬間にはその安堵をぶち壊す物を見せつけられるのだった。
「代わりにこれを持って来たんだ」
美智夫が鞄から取り出し、賀来に見せたのは何枚かの書類で、その1枚目の一番上に記されていたのは…
「MWガスの精製方法とその運用について、だと…」
賀来は唖然となる。まさかもうすでに解析が済んでいたとは思ってもいなかったからだ。

その賀来の表情を見てニッコリと笑い、語り出す美智夫。
「MWガスは存在そのものが脅威だからねえ。たとえ警察に追い詰められても、僕を逮捕すれば
僕の仲間が全世界のテロリスト、マフィアにこれをばらまくと脅せば…分かるね?」
絶句し、ただ息を飲むしかない賀来。材料を必要とするガスに対し、書類はコピー機と紙さえあればいくらでも生み出せる。
そして、それはこの世界にテロリストやマフィアが存在する限りガスと同等の脅威を持つ。

だが、ここで賀来の頭の中に一つの疑問が生まれる。仲間とは誰のことだ?まさか…
「結城、お前の言う仲間とはまさか私のことではないだろうな?」
美智夫はその言葉を聞き、苦笑する。そして、再び語り出す。
「仲間なんて最初からいないよ。警察を脅すためのハッタリさ。だけど実際、作り方はあるんだし、
警察にはそれを証明する手段はない。それは悪魔の証明だからねえ」

語り終わり、邪な笑みを浮かべる美智夫。そこで賀来は改めて結城美智夫という男の恐ろしさを実感する。

「さて、そろそろ搭乗の時間だね。行こうか、賀来」
立ち上がり、搭乗口へと向かう美智夫。その後ろ姿を、賀来はただ追いかけるしかなかった…
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「全く、とんでもないことになったねえ、賀来」
「ああ、お前の日頃の行いの報いだとしてもこれは少し酷すぎる」
などと話しているのは、日本からとある理由で高飛びし、このセント・マデリーナ島にやって来た
結城美智夫とその友人で牧師を勤める、賀来巌だった。

このセント・マデリーナ島は一年を通して人間にとって快適な気候であり、観光地として知名度は
ハワイやグアムには劣るかもしれないが、その質は全く遜色なく、
さらに言うなら知名度など人間が勝手にその土地に押し付けただけであり
なまじ知名度が低いだけに人の数も島の住人を除けば少なく、ましてや住人が美智夫や賀来の顔を知っているはずもなく
一週間程前に高飛びして来た二人にとってはうってつけの場所といえるスポットだった。
…つい昨日までは。今朝10時頃、二人はホテルの一室にて起床し、
気分転換と目覚しを兼ねて散歩に出たのだが、どうも街の様子がおかしい事に気付く。

先程から、警察のパトカーやら病院の救急車やらのものだろうか。サイレンの音が街全体に鳴り響いているのだ。
美智夫は考えた。本国当局からこの島に連絡が入り、自分を躍起になって探しているのではないかと。
普通の人間ならばサイレンがなったところで焦る事はない。
ところが、疚しいことがあると考え込んだり、焦ったりするものだ。

そう、この男、結城美智夫は本国にて多くの人間を殺害し、大金を騙しとった連続殺人犯として
日本全国指名手配を受け、あらゆる手段を駆使してこの島に逃亡して来たのだ。
その際、ある物をもって来たのだがこの島では持ち歩く必要もないので滞在中のホテルの自室に
置いてある。連続殺人犯の持ち物だ。危険な物には違いない。
それにしてもおかしい、と美智夫は考えた。先程からサイレンの音は絶える事なく鳴り響いている。

停車しているのにサイレンを鳴らすというのも変な話であり、故に走り続けているのだろうが、
ここで美智夫はホテルのカウンターにて手に取ったこの街の地図を見る。そんなに大きな島じゃない。
警察だって愚かではないのだから同じ道をぐるぐる行ったり来たりもしないだろう。
つまりは、自分たちが歩いているこの道にいつパトカーがやって来てもおかしくは
ないのだが、一向にやって来る気配が無い。サイレンの音はあちらこちらで絶えないが、その音量は常に一定なのだ。

「賀来。君はこれをどう見る?妙じゃないか?」
声を潜め、賀来の耳元で囁く美智夫。といっても周りに人の姿はなく、別に普通に言えばいい。
と、賀来は思ったが彼は少々変わった性癖の持ち主であり、賀来もそれを身をもって知っているので
耳元で囁かれたことに関しても特に文句を言い返すでもなく、美智夫の問いに答えるのだった。
「確かにそうだな…昨日までは静かで過ごしやすくていい街だったのに、これじゃまるで戦場だ」

そして賀来は先程からやかましいサイレンが一向に止まない理由を美智夫に話す。
「私は、警察がお前を炙り出すためにパトカーのサイレンで煽ってるんじゃないかって思うんだ」
その賀来の言葉を聞き、美智夫は一瞬キョトンとなるが、すぐに呆れ顔で言い返す。
「だとすれば警察は僕のことを凶悪犯だと認識していることになるね。そんな方法で
精神的に追い詰めたら僕は何をしでかすか解らない。それであればさっさと包囲してしまった方が
遥かに手っ取り早い上に安全だよ。それをしないということは…いや、したくても出来ないのか?」

美智夫は自分の語り続ける。警察が自分を追い詰めるために出動したまではいい。

しかし、何らかのアクシデントがあり、動けない状態になっているのだ。島に凶悪犯がいるのだから
サイレンが鳴りっ放しなのにも納得が行くが、そんなに鳴りっ放しではいくらなんでも
地元住人が不審に思うだろう。チェックインの際2人は、もともと平和な島で警察など
お飾り的な存在だとホテルのカウンターの係員から話を聞いた。
そんな島でこれ程サイレンがなっているのだ。心配した住人が何人も外を出歩き、
警察に事情を説明するように求めているはずだ。しかし、先程から誰ともすれ違わない。

代わりに付近の住宅や店舗から何やら苦しさに喘ぐ呻き声が多々聞こえて来るのだ。
ここで美智夫はハッとした。彼と賀来が出会った島であり、2人にとって全ての始まりとも言える
12年前のあの事件が起こった島。まだ幼かった美智夫はその事件の後の余りに凄惨な光景を
はっきりと覚えており、この住人たちの苦痛に満ちた声を聞き、あの光景がフラッシュバックする。

「ああああぁぁぁああアアアア!!!」
絶叫と共に身体を痙攣させ、その場に倒れ込む美智夫。賀来は慌てて美智夫を介抱する。
「こんな時によりによって発作か…取りあえず病院へ行かないと…」
賀来はそう呟き、美智夫の身体をおぶさろうとしたその時だった。
「大丈夫さ賀来…君はいちいち心配症過ぎるんだよ…」
美智夫が口を開いた。驚いて、その場に突っ伏してしまう。

美智夫はそんな彼をハハハと笑い、手を差し延べて起き上がらせる。そして、賀来が口を開く。
「本当に大丈夫なのか?結城」
「平気さ。あの島での出来事を思い出しただけだから…それより、もうホテルに戻ろう。
この島からも出たほうがいいかもしれないね」
美智夫のその言葉に賀来も頷き、ホテルに向け走り出したまさにその時、
2人の背後の民家や店舗の扉が一斉に押し開かれた。蝶番が外れドアが吹き飛ぶ。

何事かと思い、2人はその足をとめ、後ろを振り返る。そこにいたのは…
人の形をしてはいるが人では決してあり得ない『何か』だった。
2人はその『何か』から逃げるでもなくその『何か』を凝視した。
白かったであろうその肌は今は青白く染め上げられ、人によって様々な色に輝いていた
その瞳は完全に消え失せ、白目を向いていた。綺麗好きなこの島の住人らしく、
きちんと整えられていた髪は今や見る影もない。

肉体は所々で腐敗し、その部分の筋肉が腐り落ち骨が丸見えとなっている。
その姿はまさしく、自分達人間が恐怖を求めた結果生み出したホラー映画の中の怪物、『ゾンビ』そのものであった。
そして、ゾンビたちはこちらに向けて歩いて来た。ゾンビはその姿に変化したことで
膨大な量のエネルギーを生命維持に必要とする。その供給源はと言うと…生きた動物である。
ゾンビの肉体の腐敗は脳髄にまで及ぶためにかつて人間だったころの高い知能は完全に消え失せ、
ただ食欲という本能の元、動くもの全てを生物とみなし襲いかかるのだ。

「なあ賀来。これは映画の撮影か何かかな?だったらサイレンがやかましいのにも納得が行くけど」
強張った笑みを浮かべて賀来に話す美智夫。それに対して賀来も同じような表情で返した。
「ああ…かもな。私達にエキストラの出演依頼は確か
来ていなかったから撮影の邪魔になるといけない。早く立ち去ろう」

美智夫もその言葉に同調し、ゾンビ達に背を向け、一気に走り出す。
ゾンビは筋肉の劣化とともに運動能力も低下しているために、全速力で走る人間に追いつくことは出来ない。
2人はなんとかゾンビ達から逃げることが出来た。周囲の安全を確認し、息をつく2人。
周りはどうやら住宅街のようだった。ただ、住居の扉はえてして破かれていて、ドアがそこら中に散乱していた。
かつてここに暮らしていた人達も恐らくは…

賀来はその場に跪き、胸元の十字架を握りしめ彼らに祈りを捧げる。その様子に美智夫は言った。
「なあ賀来。連中は死んじゃいないぜ。バケモノに変身しちまったのさ。
だからこいつでその脳天を打ち抜いて初めて安らかな眠りにつかせてやれる。
祈りはその時にでも捧げてやるといい」
と言い放ち、懐の拳銃をちらつかせる。賀来はキッと彼を睨み付けたが、すぐにうつむき、溜め息を吐く。

確かに美智夫の言う通りだった。異形へとその姿を変えた人々を救済するには、残念ながら
その息の根を止めるしかない。そして、せめて苦しませないようにそれを実行するには、
あらゆる生物に当てはまる、行動を司る機関たる脳を一瞬のうちに破壊するしかない。
顔を上げ、彼の先程の言葉に頷く。ニヤリと笑う美智夫。そして彼は賀来に楽天家のような口調で話しかける。
「それにしても…全くとんでもないことになったねえ、賀来」

賀来はこの非常事態においてもこんな調子でいられる美智夫に呆れたが、ちょっとした皮肉を交えて彼に返事をした。
「ああ。お前の日頃の行いの報いだとしても、これは少し酷すぎるな」
「言うじゃないか。さすがは賀来だ。こんな非常事態でもそんな皮肉を言う余裕があるなんてね」
「それはこっちのセリフだ」
そしてニヤリと笑いあう二人。常人であればどう考えても笑える状況ではないが2人、
というか美智夫がこれまで渡って来た綱は数知れない。

従って、どんな非常事態においても冷静に行動することが出来るのだ。
そして美智夫が再び口を開く。
「さて、ここら辺のバケモノ連中もそろそろ戻って来る頃だろう。そろそろ逃げよう。多分警察署に行けば安心だろう」
その言葉にひどく驚く賀来。日本にて全国指名手配を受けた男の言う台詞とは思えなかった。
その疑問を美智夫にぶつける賀来。そんな賀来に美智夫はニヤリと笑って答える。

「いまだに鳴り響くこのサイレンの音を聞いてみろよ。多分もう警察や病院は機能してないんだろう」
そして、自らの考えを語る。病院と言わなかったのは、収容された怪我人たちがバケモノに
変わる可能性が無きにしも非ずだから。その点、たとえ
お飾りとはいえ一応はこの島の司法を司る唯一の機関である
警察署ならば他の生存者も集まるだろうから人間同士、生き延びるために協力し合うだろうということだ。
「それに…ここはキリスト教の信仰圏内だ。君が神父だと知ったら縋って来るだろうねえ」
そう語った美智夫に賀来は強い責任感を秘めた表情で彼に返事をする。やはり、責任感あふれる口調で。
「その時は神父としての役目を果たすだけだ。神に縋る人々を救済するため、神の使徒として私はここにいる」

そう熱く語る賀来に、やはり美智夫はニヤリと笑って話す。
「なら警察署は教会にとって変わるね。でも連中には関係ないよ。あいつらはどんな聖域だって汚せるからね」
これもまた真理だ。知性が喪失したということは即ち、それまで敬虔だったであろう
信仰心も喪失したということだ。教会を襲撃するなど神をも恐れぬ暴虐以外の何物でもないが、
彼らにはあらゆる思考、感情が存在せず、ただ食欲という本能的な欲求を満たすためだけに存在しているのだ。

この時、賀来は思った。もし世界中があの異形に埋め尽くされてしまうようなことがあれば、
その時は美智夫にあのガスを全世界に向け解き放たせようと。

彼らに効き目があるかは解らない。
しかし、救済するためにはもはやそうするしかないのだ。
あまりに無力な己に賀来は唇を噛んだ。それを見て、何かを感じ取り溜め息をつく美智夫。

血も涙もない殺人鬼である美智夫だが、賀来に対しては友情を感じていて、常にそばに置いているのだ。
「賀来。今は考えていても仕方ないぜ。取りあえず、警察署へ急ごう」
その言葉に、自分の脳内から現実世界へと戻される賀来の意識。その時、美智夫は地図に目を通していた。
「よし、こっちだ。急ごう」
そして、走り出す美智夫。賀来もそれに続こうと走り出そうとしたその瞬間だった。

「キャアアアアアアアア!!」
絹を裂くかのごとき女の悲鳴が聞こえて来たのだ。それも、すぐ近くで。
振り返ると、まだ20歳にも満たないであろう少女がゾンビ3体に囲まれていた。
3体ならば決して逃げ切れない数じゃない。しかし、少女は壁を背にしてしまっており、
ゾンビ達は逃げ道を塞ぐ形で少女に迫る。少女がゾンビに噛み付かれるのは時間の問題だった。
そうなればあの少女も恐らくは…それだけは何としてでも回避しなければならなかった。

賀来は後先考えず、無我夢中でゾンビの集団に突っ込んだ。少女を中心として、
分度器にたとえるならば180°の位置のゾンビに右肩から体当たりを敢行する。
呻き声をあげ、倒れるゾンビ。そこまではよかったが、勢いがつき過ぎ、倒れたゾンビの
すぐ隣りに自らも倒れてしまったのだ。しかも更にまずいことに、その気配を察知した残りのゾンビ2体が
こちらに向かって来てしまったのだ。しかし、これにより少女の逃げ道は確保出来た。

倒れ伏した際の痛みから起き上がれぬまま、目線を少女の方へと向けると…腰を抜かしているではないか!
まずい、急いで起き上がり少女を救出せねば。未だ引かない脚の痛みを懸命に抑え、賀来は立ち上がった。
しかし、時すでに遅く、賀来は3体のゾンビに包囲されてしまっていた。その距離は
一番遠くても5mもない。しかも、更にまずいことに、先程自分の隣に突っ伏していたゾンビは
賀来の両肩を掴み、今にもその首筋に噛み付かんとしていた。

振りほどこうにもゾンビの力はあり得ない程強く、元来神父である賀来にはとても振り切れるものではなかった。
…これまでか。賀来は目を閉じ、心の中で神に祈りを捧げた。
しかし、その次に賀来の耳に聞こえた音は目の前のゾンビが自分の首元に噛み付く音ではなかった。
一発の、渇いた銃声。賀来は驚いて、目を開くと目の前のゾンビが彼の肩からその手を放し、
その場に頽れていた。そのこめかみには、一センチ程の穴が開いていて、その穴からは赤い血が流れていた。
そして、ピクリとも動かない。ゾンビは絶命していた。銃声のした方を振り向くと、すぐそばに美智夫が拳銃を持ち、
賀来を呆れた顔で見つめていた。銃声に反応した残りのゾンビ2体が美智夫に向けて襲いかかるが、
彼はその美しい顔に邪な笑みを浮かべ、ゾンビの頭部に銃口を突き付け、言った。

「すぐ楽にしてやるから、安心して死んでいいよ」
そして何の躊躇も迷いもなく、そのトリガーを引く。拳銃の内部で火薬が炸裂し、その圧力で押し出される
先端が尖った鉄の塊は音速を超えるスピードでゾンビの頭を正面から貫いた。

ちょうど眉間の辺りに風穴を作り、ゾンビは仰向けに倒れ、そのまま動かなくなる。
そして、最後の一体。美智夫はその場で、自分のすぐ3m前方にいるゾンビの頭に拳銃を向け、
邪な笑みを浮かべたまま右手に握った拳銃の引き金を引く。
銃声が響き渡るのと、ゾンビが倒れるのはほぼ同時であった。やはり、動かなくなる。
そして、拳銃を懐にしまい、溜め息を一つつく美智夫。賀来の方へと向き直り、呆れ顔でいった。

「全く…手間かけさせてくれるねえ」
賀来はその美智夫に返す言葉もなくただ俯くしかなかった。後先考えずゾンビに突っ込み、
その尻拭いを美智夫にさせたのは紛れもない事実だったからだ。
「ああ、でも気にすることないぜ、君には死なれると困るんだ。僕のただ一人の友達だからねえ」
ニヤリと笑う美智夫。そして、未だ腰を抜かしている少女の元へ歩み寄り、右手を差し延べる。
少女は、震える手でその手を掴む。グイッと引き起こし、その体を受け止める美智夫。

「怪我はないかい?」
美智夫が少女に話しかける。その表情に笑みはない。賀来はそれを見て胸をなで下ろす。
美智夫が自分以外の人間に笑みを向ける時、それは明確な殺意の表れだからだ。
もっとも、あの島、沖ノ真船島事件とは何の関係もないであろうこの少女を殺す理由はさすがの美智夫にもないだろう。

美智夫はあの事件の関係者の親族や知り合いに接触し、自分の目的を果たすための道具として利用し、
その価値がなくなったら殺すだけという、冷酷非道極まりない男だが、快楽殺人犯ではない。
もとより利用価値など初めから存在しないこの少女を殺す理由は美智夫には全くないはずだ。
「あの、助けていただいてありがとうございます…」
2人に向け頭を垂れる少女。見たところ日本人で、年はだいたい高校生くらい。顔は…かなりいい線行っている。

「あの、私、人を探してるんですけど…」
唐突に少女は語る。どうやら探し人をしているうちに、先程のゾンビに襲撃されてしまったようだ。
「その人の特徴とか教えてくれないことには何とも言えないな」
美智夫のその言葉を受け、少女は慌てたように探し人の特徴を2人に話す。
「いや、残念だけどそんな女の子は見てないね。賀来、君は?」
「私も見ていない」
「そうですか…」
残念そうに肩を落とす少女。そんな少女の様子に神父としていたたまれなくなった賀来は、美智夫に耳打ちする。

「彼女の人探し、手伝おう。彼女一人でこの島を歩かせるのは危険だ」
その賀来の提案に、ニヤリと笑ってただ頷く美智夫。笑う門には福来たる、と言うがこの男の場合はどうだろう。
「君の人探し、僕たちも手伝うよ。それに、この島を君一人で歩くのは危険過ぎるからさ」
美智夫のその言葉を聞き、暗く落ち込んでいた少女の表情が一気に明るくなるが、
それと同時にその顔には戸惑いの色が現れる。美智夫はそれを見逃さなかった。
「何か迷っているようだけど…心配なことでもあるのかい?例えば…人を殺してこの島に逃げて来たとか、ね」
しかし、美智夫のその言葉に真っ先に反応を示したのは少女ではなく、賀来だった。怒り心頭という表情をしている。

「結城!きさまという男は…」
激昂する賀来に美智夫はからかうような笑顔でおどけ、返事をする。
「冗談だよ。いっくら僕がそうだからってこの女の子がまさか人を殺せる訳はないだろう?」
その美智夫の言葉を聞いた瞬間、賀来は心底驚いた表情になり、彼に掴み掛かった。
「バカ!自分からばらしてどうするんだ!」
美智夫は口を滑らせた。自分が殺人犯であることをこの少女に自ら暴露してしまった。

それにようやく気がつき、賀来に掴まれたまま少女の方に目を配る美智夫。
多分、心底怯えた目で自分を見つめているだろう。まあいいさ。殺人犯に遭遇した人間は大抵そうなる。
それに…探し人が見つからない以上、どのみち生き延びるためには自分達と行動するしかないのだ。
などと考え、少女と目を合わせる美智夫。しかし、少女の表情は彼のその考えを裏切る物だった。

その顔は決して怯えてなどおらず、むしろ同胞を迎えるのかの如くに穏やかな顔をしていた。まさか…
「あの、もしかして君も…?」
美智夫はたった今自らの胸のうちに出来上がった疑問を少女にぶつける。
コクリと無言で頷く少女。それを見て、美智夫は苦笑し、一言呟く。
「世も末だねえ…」
賀来はというと、美智夫を掴んでいた手を放し、壁を思い切り殴り付けていた。
「こんな…少女まで…」
この間、しばしの沈黙が流れる。3分程経っただろうか、その沈黙を壊す男がいた。結城美智夫だ。

「まあいいさ。君と僕が殺人犯であることも、この島では取りあえずお流れだ。さて、自己紹介しよう」
美智夫は自分の名を少女に名乗る。職業は元銀行員、現在は連続殺人犯として逃亡中。
捕まれば死刑は確実だというジョークも交えて。…事実なのだが。
そして美智夫は賀来に自己紹介するよう促す。それに頷き、先程殴り付けた右手を擦りながら自己紹介を始める賀来。

賀来の自己紹介も終わり、美智夫は少女にも自己紹介をするよう促した。
「あ、すいません。私は西園寺世界って言います」
世界の自己紹介を聞き、美智夫と賀来はただ顔を見合わせる。感想は一致していた。
変わった名前だと。もっとも、二人の性癖のほうがよっぽど変わっているのだが。
3人とも自己紹介を済ませ、再び口を開くのは、美智夫だった。

「それで西園寺さん。僕たちはこれから警察署に行こうと思うんだ。
もちろん自首しに行くんじゃなくて他の生存者もいるだろうし、君の探している清浦さん、もいるかも知れないし」
納得した世界は頷き、3人は警察署へと走り出した。果たして、人を殺めたこの少女を救えるのは
美智夫と賀来、どちらなのだろうか…

【G-05/路上/一日目・日中】

【結城美智夫@MW-ムウ】
 [状態]:冷静・疲労もほとんどなし
 [服装]:普通のTシャツ・ジーンズ
 [装備]:ミネベア自動拳銃拳銃(9mmパラべラム弾6/9発 予備弾27発)
 [道具]:ホテルでもらったマップ・携帯電話
 [思考]:1、賀来、世界とともに警察署へと向かう
     2、清浦刹那の発見・合流
     3、島からの脱出
 [備考]:「発作」は何かのきっかけがないと起こりません。
     
【賀来巌@MW-ムウ】
 [状態]:冷静・やや肉体的疲労
 [服装]:神父が通常身にまとう、牧師の服
 [装備]: 特になし
 [道具]: 携帯電話、胸のロザリオ。
 [思考]:1、警察署への到達
     2、清浦刹那の発見・合流
     3、島からの脱出
     4、異形と化した全島民の救済
 [備考] 共通事項
  ※ 結城も賀来も、清浦刹那の容姿や服装を把握しています。
  ※ MWガスの設計図は、この作品に今後登場しません。

【西園寺世界@SchoolDays 】
 [状態]:擦り傷。刹那に依存。 妊娠中。 生きている人に会えて恐怖から解放。 やや肉体的・精神的に疲労
 [服装]:目立たないような服。
[装備]:包丁
 [道具]:ショルダーバッグ。パスポート、携帯電話、お菓子、500mlペットボトル。観光ガイド兼地図。
     G-ウィルス
 [思考]
 1:どこか平和な国へ行って誠の子供と静かに楽しく暮らす。
  2:美智夫、賀来と共に警察署へと向かう。
  3:清浦刹那との合流
  4:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。

[備考]サングラスはゾンビに襲撃された際、落として壊れてしまいました。