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  バトル・オブ・消防署  ◆uFyFwzytqI

 「なあ吾妻、ちょっと聞きたいんだがよ」
 「どうした、ルパン?」
 先頭を進むルパン三世が、背後の吾妻玲二に声をかけた。
 「俺たちってよ、傍から見たら少しカッコ悪いって気がしないか?」
 「心配するな、誰も見ていない。残念ながら、さっきから生きてる人間に1人もお目にかかってないからな。それに、外見にこだわっている場合じゃないぞ。
 小回りが利いて、音も出さず、ゾンビに追い付かれない。この非常事態下では、理想的な交通手段だ」
 玲二が何でもないような口調で応えた。

 「ま、そりゃそうだけんど」
 ルパンも本心で言っている訳でないらしい。ちょっとした世間話のつもりなのだろう。
 玲二が言う交通手段とは自転車のことで、彼等はそれに乗って移動中だった。
 今の所、快調に飛ばしていた。ゾンビに出くわしても連中が集団だったらUターン、まばらだったら間を擦り抜けてやり過ごせばいい。

 「そうだ、知ってるか吾妻。アメリカにはママチャリって感覚があまり無いんだぜ。主婦が買い物行くのも自動車使うのが普通なんだってよ。
 てことは、みんな日本みたいに自転車で買い物行くようにすりゃ、CO2かなり減らせるんじゃないか。おお、俺って今かなり良いこと言ったんじゃねえの?」
 ルパンが、新しい彗星を発見した天体マニアのような調子で言った。
 「悪くないアイデアだ。首尾良く脱出できたら、インタビューついでに呼びかけたらどうだ?」
 などと掛け合いながら漕いでいく。

 それはそれで良いのだが、玲二は少し前から気になっている事があった。
 「ルパン、念のため訊きたいんだが」
 「何だぁ、ケツでも痛くなったか?」
 「先頭を走るのはいいが、道は分かっているのか?」
 「……」 ルパンの返事はなかった。
 「もしかして、迷ったのか?」 玲二が追い打ちをかける。
 
 「やはりそうか。先頭切って進むから、道を知っているのかと思っていたが……。道理でさっきから風景が変わらない訳だ」
 港に向かっているつもりが迷子になっていたらしい。
 「いやー、最初は分かってたんだけどよ。ゾンビ避けるの優先してたら方向が無茶苦茶になっちまったんだわ、これが」
 「そうか……幸い周囲にゾンビはいない。ひとまず止まって、現在地と状況を把握しよう。」
 この状況でルパンに抗議するのは時間の無駄だ。
 「ああ、そうすっか」 ルパンも悪びれる様子もなく賛成した。

 「しかし、実際ここは何処なんだ?」
 自転車を十字路の中心に停めて、玲二が四方を見回した。だが、周囲には民家がまばらに建っているだけで、ゾンビも人間も見当たらなかった。目印になりそうな物もない。
 ただ、家のドアが開けっ放しだったり、窓ガラスが割れていたりと、ゾンビと戦った形跡はそこら中に残っていた。地面には家財道具などが散乱している。
 「まるでゴーストタウンだな」
 「どっちかってーと、嵐の前の静けさって感じじゃねえの」
 油断無く周囲に目を配りながら玲二とルパンがセリフを交わす。

 「ここに居ても埒が開かないな。移動しよう」
 「待った、何か聞こえるぜ」
 玲二がペダルに足をかけた時、ルパンがさっきまでの飄々とした雰囲気から一転して、鋭く言った。
 それを受けて玲二も耳をすませた。確かに、遠くから喧騒らしき音が聞こえてくる。
 
 「こっちからだ、行ってみないか?」
 ルパンが提案する。玲二に異存はなかった。 
 再び自転車を漕ぎ出してからしばらくすると、喧騒はハッキリと聞こえてきた。近づくにつれ悲鳴や怒号だけでなく、何かの破壊音やシャワーのような音まで識別できるようになった。
 そして、大通りに面した角を曲がると、騒ぎの中心に遭遇した。

 「あれは消防署か?」
 自転車を停めた玲二の目に、「FIRE STATION」と壁に書かれた建物が映った。赤と白を基調にした、教科書的なまでに典型的な消防車が数台、消防署を囲むように停まっている。
 1台の消防車からホースが何本も伸びていて、消防隊員が群がってくるゾンビに放水していた。強烈な水圧で、ゾンビが無様に吹っ飛ばされる。
 その隙をついて、他の隊員や住民らしき人影が多数が飛び出した。

 彼らは家や消防署内から調達したと思われる家財道具や瓦礫類、果ては自動車(廃車か?)のボンネットやタイヤまで使ってバリケードを構築しようとしている。
 時折ゾンビが至近まで近づくが、同様にかき集めてきた拳銃やライフルを発砲して撃退していた。中には救助活動に使う斧やハンマーで、ゾンビの頭を砕いている者もいる。
 まるで戦国時代の攻城戦を見ているようだった。 

 「おおーやるじぇねえの、さすが地元同士。俺達みたいな余所者と違って見事なチームプレイだな」
 ルパンが素直に感嘆の声を漏らす。だが、玲二の耳には届いていなかった。
 「まずいな……あの消防車、放水してないぞ」
 「何?」
 玲二の視線の先をルパンが追うと、1台の消防車がポンプが故障したのか放水を止めていた。その隙を突くようにゾンビが隊員達に襲いかかる。
 
 ルパンがペダルを漕ぎ出した。
 「ルパン、何処へ行く!?」
 「もっちろん、アイツらを助けてやんだよ。ほれ、なんだ『義を見てせざるは勇無きなり』っつーだろ。このまま見捨てたら寝覚めが悪すぎるってもんよ」
 「そうか、なら俺も手伝おう」
 玲二は内心安堵していた。ルパンは自分と同様、堅気の人間ではないと思っていたが、人情は人並み以上にあるようだ。
 「お、吾妻もいいとこあんじゃねーの。んじゃ行くぜ!」
 2人は自転車を飛ばして消防署に向かった。彼らの接近に気付いた住民が何か叫んでいる。消防隊員がこっちに向けて放水しようとしていた。
 
 「おおっと、ちょっと待った。俺達は人間だぜ!」
 ルパンが声を張り上げる。その声に反応した一部のゾンビが玲二達に標的を変えた。結果的にオトリになったらしい。
 「こいつぁ面白くなってきやがった!」
 (大した度胸だな……)吾妻は、ルパンのテンションに少し呆れていた。暗殺を生業とする彼にすれば、もう少しクールになった方がいいと思うのだが。

 2人の目の前にゾンビが迫る。いきなりルパンが自転車の後ろに飛び降りた。加速がついた無人の自転車が、数体のゾンビをボウリングのピンのように弾き飛ばした。
 「よぉし、ストライク!」
 ルパンが叫びながら右手を懐に忍ばせる。ワルサーを抜いたかと思うと、流れるような動作で銃口をゾンビに向けて発砲した。
 至近距離も手伝ってか、ゾンビの頭に一発必中と言っていい確率で命中させる。撃ち尽くすとマガジンを素早く交換。空になった方は捨てずにポケットに入れていた。

 その間、玲二は自転車の速度を落としてルパンの走るペースに合わせていた。手にはデザートイーグルが握られている。
 (いい動きだ、ルパンはワルサーを自分の手足と同じレベルまで馴染ませているな。銃の細かい癖まで覚えているらしい。まさに愛銃といった所か)
 彼は周囲に注意しながらルパンの射撃センスを冷静に分析していた。

 「おーい吾妻、お前は撃たないのか? 今なら入れ食いだぜ」
 「必要なのは、消防署にいる連中と合流するまでの安全だ。ルパンの射撃はそこまでの道を進むのに充分な技量だ。今は弾を温存しておきたい」
 「オーケー、んじゃそういう事で。次元ほどじゃないが、お前さんもそこそこ当てにできる奴で良かったぜ」
 ルパンが言った時、玲二達の眼前には唖然とした表情の隊員や住民の姿があった。
 
 「よお、ちょっくらお邪魔させてもらうぜ」
 ルパンが人懐っこい笑顔を浮かべて彼らの中に紛れていく。
 「あんた達、何者だ?」
 消防隊員の中で比較的年長の男が尋ねた。
 「ん? 俺達ゃ野郎2人で観光に来た寂しい旅行者さ。俺はルパン三世、でコイツは吾妻玲二ってんだ、よろしくな。ぬひひひ〜」
 ルパンはぬけぬけと嘘をついた。
 「そういう事だ、俺達もゾンビ撃退に協力する。人手は大いに越したことはない筈だ」
 玲二が落ち着いた口調で話しを合わせる。

 「いいだろう。ゾンビでさえ無ければ今はネコの手も借りたい状況だ。私は消防長のジョージ・スチュアートだ」
 年長の男――スチュアート消防長――が名乗った。
 「それで、俺達は何をしたらいい?」 玲二が質問した。
 「銃に自信があるなら使ってくれ。ただし、弾の無駄遣いには注意だ。余裕があるわけじゃ無いんでな」
 「了解した」 「おーし分かった。にしてもよ、ここはむさい野郎ばっかだな、カワイ子ちゃんはいないのか〜?」
 ルパンが緊張感の欠片もない事を聞く。

 「女子供は2階と3階に避難させてある。女達には怪我人の手当や、島の各施設に電話で連絡を取って貰っている」
 「念のため聞くけどよ、ゾンビに噛まれた怪我人はいないよな?」
 「いないさ、全て止めを刺してある。私自身の手でな」
 スチュアートが心の底から懺悔するように言った。
 「よせやい、俺は神父じゃねえぜ。ゾンビになっちまったのは運が悪かったんだ。あんたは正しい行動をした、それだけだ」
 ルパンは爽快なまでに消防長の告解を受け入れた。

 「ハハッありがとう、少し気が楽になったよ」
 そう言うと、スチュアートは踵を返して部下に向き直った。
 「よし、諸君! 21世紀のアラモ砦に援軍が来たぞ。我々はここを死守する。しかる後に反撃に移る。神の御加護があらんことを!」
 それを聞いた隊員や住民は、一層奮起してゾンビに戦いを挑みだした。

 (ルパンも消防長もいい性格をしている。俺にあんな真似はできないな。これだけ絶望的な状況で、結果的に即興で士気を鼓舞してのけるか……)
 玲二はモーゼルM98ボルトアクションライフルを調整しながら思った。彼は消防車のポンプが故障したエリアで戦うつもりだった。
 「吾妻、銃は決まったか? お、モーゼルか。お前さん狙撃が得意なの?」
 「ああ、仕事だからな。ルパンはどれにする? 拳銃・ライフル・サブマシンガン色々あるぞ」

 「いんや、俺はこれで充分だ。こいつより信頼できる銃は世界中どこ捜したって見つかんねえよ」
 ルパンはワルサーをかざして見せた。
 「そうか、9ミリ弾の弾薬箱は向こうにあったぞ」 「サンキュー」
 ルパンは散らかったままの弾置き場に向かった。

 玲二は8mmモーゼル弾を装弾子ごと機関部に押し込み、ボルトを前後させ初弾を薬室に送り込んだ。射撃姿勢を整えて、照準線の向こうにゾンビの頭を捉えて発砲する。
 弾丸が命中して、後頭部から脳漿をまき散らしながらゾンビが倒れた。素早くボルトを操作して次弾装填。5発とも正確にヒットした。
 「いい腕じゃねえか、吾妻」
 玲二が振り向くと、ルパンが9mmパラベラム弾をワルサーのマガジンに詰めている最中だった。
 「呑気なものだな。早く加勢してくれ、ゾンビはいくらでもやって来る」
 「まあ焦りなさんなって。ほらよ、デザートイーグルの弾はコレでいいか?」
 そう言ってルパンが差し出したのは、44マグナム弾の弾薬箱だった。

 「ああ、すまない。そうだ、弾に余裕ができた今の内に試しておくか」
 玲二はモーゼルを傍らに置いて、ショルダーホルスターからデザートイーグルを抜いた。無造作な動きでゾンビに照準を合わせて引き金を引く。
 轟音と共に発射された弾丸は、ゾンビの胸部中央に命中し、背中の射出口から人体組織が飛び出す。のけ反って倒れたゾンビはしばらくもがいた後、動きを止めた。

 「うひょう、拳銃とは思えねえ威力。だけんどよ、吾妻の腕なら頭に当てんのも楽勝じゃねーの?」
 「俺が試したかったのは、ゾンビは頭以外でも有効なダメージを与えられるかどうかだ。どうやら心臓を破壊してもゾンビは倒せるらしいな」
 再びモーゼルライフルでゾンビを倒しながら――今度は頭を正確に狙っている――玲二は説明した。

 「ほお、そいつぁいいニュースだ。他の連中にも教えてやろうぜ」
 「それもいいが……、心臓というのは意外と小さな標的だ。素人では胴体に命中させらてれも、心臓をピンポイントで狙えるかどうか怪しい。
 それでも人間相手ならルパンのワルサーでも充分ダメージが与えられるが、ゾンビだとそうはいかない。あれを見てみろ」
 玲二が指摘した方向をルパンが見ると、住民が最初に見かけた時と同様、放水・射撃・白兵戦の3パターンで戦っていた。
 しかし、注意して見ると、住民の射撃は乱射に近いのがわかる。ゾンビは手足どころか胴体に命中してもなかなか致命傷にならないし、外れ弾も多い。

 「撃つ事で恐怖をごまかしているな。放水や白兵戦担当の連中も、味方の銃声で勇気を得ている感じだ。緊急事態にしては上手く対処している方だが」
 「あー、ありゃマズイな、すぐ弾切れになっちまうぞ。鉄砲玉なんぞちょっと気前よく撃ってりゃ、すぐ無くなっちまうモンだかんなー」
 玲二とルパンは、眼前のゾンビに銃撃を加えて、味方を援護しながら会話を続けていた。さすがというべきか、彼等の射撃に無駄弾は少ない。

 「そのお陰で、バリケードの構築は比較的順調だ。不幸中の幸いだな」
 玲二の言うとおり、部分的にバリケードが出来つつある。そこではゾンビが立ち往生しており、射撃と白兵戦は一旦中断で、放水のみで対応していた。
 「全体の完成度は70%ぐらいか、今のペースなら1時間ほどで完成させるのも不可能じゃないな」
 いつの間に取り出したのか、地図を見ながら玲二は何事か考え始めた。その間、ルパンはワルサーでゾンビを撃退している。
 「ルパン、港に船がどれぐらい停泊していたか覚えてるか?」
 「さあって、どうだったかな〜。観光地だけにヨットやクルーザーは沢山あったっけな。他は中型フェリーも停まってたと思うが、よく覚えてねぇや」
 
 「そうか……ルパン、俺はスチュアート消防長に現状を詳しく聞いてくる。提案したい事もあるしな。すまんが留守を頼む」
 地図を畳んだ玲二は、モーゼルを持って立ち上がった。
 「おう、晩飯までには帰って来いよ〜」 
 (気楽な奴だ……) 玲二はスチュアート消防長が指揮している所へ向かう。
 
 「消防長、ちょっと話しがあるんだが時間をもらえるか?」
 「ああ、手短にならかまわんぞ」
 「それじゃ早速だが、バリケードが完成した部分に配置されている消防車の放水を、一部こちらに分けてくれないか。まだポンプの故障が直らなくて、少し苦戦しているんだ」
 「ふむ、いいだろう。4本中2本のホースをそっちの応援に使わせる」
 スチュアートは承諾すると、部下の隊員に指示を下す。隊員は素早くホースを延長させると、玲二達の現場に駆けだした。

 「ありがとう、あれでだいぶ楽になる。後いくつか質問がある。まず、女達に施設に電話してもらっているらしいが、連絡はとれたのか?」
 「それがな……、あまり芳しくない。手当たり次第電話させているが、ほとんどの施設と連絡がとれないらしい。全くの不通か、呼び出し音はするが誰も出ないのが大半だ。
 確実なのは警察と放送局だ。警察は現在防戦中だが、救出活動もある程度しているようだ。放送局は、警察からの実況中継がテレビで流れていたから、スタジオは健在だろう。
 あとは射撃場ぐらいだな、詳しい状況は不明だがとりあえず無事らしい」
 ただしこれらの情報は少し古い、とスチュアートは断りを入れた。

 「分かった(他所で生き残った人間との連携は不可能じゃないな……)。それでは消防車以外に使える乗り物はあるか? 乗用車でもバスでも何でもいい」
 「救急車と、人員機材の輸送に使う多目的車が何台か残っている。だがそんな事を聞いてどうする?」
 スチュアートが怪訝そうな顔をする。
 「何、大したことじゃない。明日以降の脱出に備えて装備を確認して、計画を立てておきたいと思ってな」
 「待て、ここに避難している人々を連れて、島を脱出する当てがあるのか?」
 「一応考えてある、上手くいくか保証はできないが」 玲二が言った。
 「構わん、詳しく聞かせてくれ。協力は惜しまんぞ」 スチュアートは真剣な表情で玲二を見ている。
 
 「まずはここの防御の完備だ。バリケードの完成と、ゾンビの侵入阻止を最優先にする。次に水と食料の確保だ。最低でも1日分、できれば2日分用意したい」
 玲二は説明を始めた。
 「妥当な判断だな」
 「そして、とにかく一晩持ちこたえる。そのために夜に備えて照明が欲しい。懐中電灯やサーチライト、蛍光灯でも何でもいい。徹夜で奴らを見張るんだ。
 ゾンビの手薄な所を突破して、民家などで入手する。窃盗になるが、そこは緊急避難を拡大解釈するという事でどうにかならないか?」
 「いいだろう、私が直接指示してできるだけ調達させる」

 「最後に脱出についてだが、ルパンによると港にはそれなりの数の船舶が停泊している。女子供を優先して、無事な船に避難させる。
 移動手段はさっき言っていた救急車や多目的車を使ったピストン輸送だ」
 スチュアートは眉をひそめた。

 「港? ほとんど島の反対側だぞ。空港の方が近いじゃないか」
 「空港はすでにゾンビで溢れかえっているらしい。それに、避難できる場所もない。飛行機の機内は無理があるし、パイロットもいない」
 玲二はルパンが飛行機を操縦できる事を知らない。もっとも、仮に知っていてもルパンが無理と判断している以上、空港に向かう策は放棄するしかなかった。
 「ううむ……選択の余地は無いのか……分かった。港へ行こう。ルートはどうする?」
 スチュアートは苦渋に満ちた決断を下した。

 玲二は地図を拡げた。
 「最初は北東に進んで古代遺跡の横を通る。そして、海岸線沿いの道、つまり洞窟やコテージに面した道路をぐるりと大回りして行く。
 自然公園を突っ切って公園管理事務所を経由する方が近道だが、ゾンビとの遭遇率は海岸沿いの方が低いと思う」
 「商店街経由で行かないのか?」
 「俺達は博物館の方から来たが、中心地ほどゾンビが多いようだ。道が事故車で塞がれているリスクも高いだろう」
 「なるほど、それなら納得だ」 スチュアート消防長は理解してくれたようだ。

 「ルートはそれでいいとして、船に乗れなかった場合はどうする?」
 「南下して放送局に入れてもらう。もしここも駄目なら更に南下して射撃場に避難させてもらおう。事前に電話で打ち合わせしておけば、協力が得られるかもしれない。
 どこに逃げるにしても、最悪でも数日間耐えれば本土から救援が来るはずだ」
 「よし、あんたのプランに賭けよう。どうせここに籠城してもじり貧になるだけだしな」
 
 その時、ルパンの切迫した声が響いた。
 「大変だ玲二、早く戻ってこい! 突破されるぞ!」 「!?」
 玲二とスチュアートが驚いて振り向くと、油断した白兵戦担当者がゾンビに噛まれていた。それを助けようとする住民が別のゾンビに襲われる。
 放水しても、ゾンビだけを吹き飛ばすのは難しいし、何より(残念ながら)手遅れだ。
 1番問題なのは射撃担当だった。恐慌状態になった男達が乱射するが、すぐに弾切れになる。慌てて装填しようとするが、恐怖で手が震えてマガジン交換ができない。
 ゾンビが彼等の目の前に迫ってくる。
 
 「危ない、下がれ!」
 玲二はバリケードの間を縫って侵入してくるゾンビに向かって、モーゼルをオートマチック並みの速度で発砲した。
 モーゼルが弾切れになると、玲二はそれを捨ててデザートイーグルを抜く。強烈な反動を、慣れた構えと銃自体の重さで抑えて連射する。
 しかし、ゾンビ侵入を完全に防ぐには至らない。ルパンも協力しているが、2人では限度がある。
 「限界だ、署内に退避させるしかないか……」

 スチュアートが苦しい決断を迫られた時、遠くから爆音が響いてきた。
 「この独特の排気音は……」
 玲二が爆音のした方角に目をやると、音の主は予想通りハーレーダビッドソンだった。しかも車体の左側に乗車用スペースを設けたサイドカー仕様だ。
 運転しているのは、40半ばぐらいの白人男性だった。男はハーレーを巧みなハンドルテクニックで操り、サイドでゾンビを次々と跳ね飛ばす。
 そのままバリケードの隙間から突入して、玲二達の直前で見事なスピンターンで停車させた。

 「やあ紳士諸君、私もパーティーに参加させて貰えるかな?」
 男はブラウンの髪とブルーの瞳を持ち、ベージュの半袖トラベルジャケットを上手に着こなして、全身から野性と知性を兼ね備えた魅力を溢れさせていた。
 それでありながら、タキシードを着て上流階級のパーティーに出席しても違和感のない雰囲気をも漂わせている。
 驚く玲二達を尻目に、肩にかけていたFN P90サブマシンガンを素早く構えて、セミオートで正確にゾンビに銃弾を叩き込む。バリケード内側のゾンビがたちまち駆逐されていった。

 さらに胸ポケットのボールペンを抜いて、なぜか3回ノックしてゾンビの群れに放り投げる。それは信じ難いことに、かなりの威力で爆発して数体のゾンビを四散させた。
 (あれはボールペンの形をした手榴弾だったのか?)
 玲二は男彼が持っている異様な装備に驚いた。
 
 「よし、今の内に態勢を立て直すんだ! バリケードさえ完成させればゾンビの脅威は一先ず収まるぞ!」
 P90を撃ちながら男が叫ぶと、我に返った男達は慌てて動き出した。
 「銃の腕は一級で、特殊な武器を持っている。さらに人を従わせるカリスマ……。あの男、一体何者だ?」

 「あちゃー、アイツなかなかやりやがるなあ。おいしいトコ取られちまったぜ」
 ルパンは一体男の事をどう思っているのか、脳天気な賛辞を送っていた。
 「ルパンはあの男のことが気にならないのか?」
 「んー? まあ、気にならないっちゃあウソだけどよ、あまり突っ込まないでやろうぜ。俺達だって立場は似たようなモンだしな。それより手伝ってやろうぜ」
 ルパンはワルサーの射撃を再開して援護に加わった。それもそうだ。玲二はモーゼルを拾った。

 ――しばらくして、どうにかゾンビの侵入を困難にする程度のバリケードが張り巡らされた。万全とはいえないが、油断しなければ当面の安全は手に入れられそうだ。
 ゾンビはバリケードの前をウロウロしている。時々(意識しているのかしないのか)バリケードを押し破ろうとしているが、隊員や住民が素早く撃退している。
 「今日は飛び入りの訪問者が多いな……、あんたのお陰で助かった、礼を言う。私はスチュアート消防長だ、現在ここの指揮を執っている」
 「礼には及ばない、自分の職務に忠実に従っただけだ。私はジェームズ・ボンド、英国海軍中佐だ」
 ジェームズ・ボンドは悠然とした態度で自己紹介した。

 ボンドの言う肩書きは、嘘はついていないかもしれないが、本当のことを言っているとも思えない。おそらく、真の肩書きは隠しているのだろう。
 しかし、玲二は深く追求しない事にした。今は生き残るのが先決で、そのためにもボンドの能力は貴重だ。
 「ではスチュアート消防長。早速だが、現状を説明してもらえないだろうか。私としては出来るだけ協力するつもりだ」
 「ああ、それなら彼に説明してもらおう。彼は吾妻玲二、明日以降に予定している脱出計画の発案者だ」

 「吾妻玲二だ。よろしく、ボンド中佐。俺から説明しよう」
 玲二が説明を始めると、ルパンも話しの輪にさりげなく加わって、説明の邪魔にならない程度にボンドに話しかけている。次元の事を訊いているらしい。
 ボンドの反応からすると次元を見ていないようだが、ルパンは(内心はともかく)表面上は残念そうな態度を見せなかった。

 「成る程、よくできた計画だ。それならこれが役に立つだろう」
 ボンドはポケットから携帯電話のような物を2つ取り出した。
 「これは特殊な長距離無線機だ。この大きさの島なら、端から端までクリアに送受信できる性能がある。籠城チームと移動チームの連絡がとれるぞ」
 「よくそんな物を持っていたな」
 玲二の口から疑問が自然に流れ出た。

 「上から運用試験の命令があったんでね。本当は機密なのだが」
 ボンドがもっともらしい理由を言った。
 「それじゃあ、1人は協力者が必要だろう。その人はどこにいるんだ?」
 「ゾンビに殺されたよ。2時間ほど前のことだ」

 「それは、すまなかった……」
 「気にしないでくれ、彼は軍人らしく戦って死んだ。介錯は私がしておいた。本望だっただろう」
 と、ボンドは言いながら、束の間遠い目をした。
 「よし、さっそく夜に備えて物資を調達するチームの編成にとりかかるぞ。それとは別に放水・射撃・白兵ごとに消防署を守るチームも作る」
 湿っぽい話しを打ち切るようにスチュアートが宣言した。

 人々が打ち合わせを開始するのを横目に、ルパンがボンドに近づいた。
 「なあ、ボンドさんよ、あんたの本命は無線機なんかじゃないんだろ?」
 「何のことかな?」
 「とぼけなさんなって、コレがただのシガレットケースじゃないのは見りゃわかる。ここには俺達3人しかいねえ。諦めて白状しなって、楽になるぜ」
 そう言ってルパンが差し出したのは、一見ただのシガレットケースにしか見えないものだった。
 「な……! いつの間に!?」
 ボンドが狼狽する。信じられない事に、いつの間にかルパンはボンドの懐からコッソリと頂戴していたらしい。玲二も全く気付かなかった。

 「ハハハ、これは1本取られたな。分かった、白状する。それは現在開発中の特殊爆弾だ。それ1つで自動車1台を吹き飛ばす威力がある。
 タイマーをセットするか、さっきの無線機で起爆コードを送信すれば、爆破させられる」
 言いながら、背中のナップザックから同様の品を2つ取り出した。全部で3つらしい。
 「正直で助かるぜ。ま、アンタが只者じゃないってのは、さっきの大立ち回りから大体分かっちゃいたがな」
 「そういうお前も、世間に公表できないような何かを背負っている雰囲気がするぞ。お互い様だな」
 「違ぇねえ」
 意気投合した2人が声を上げて笑った。

 玲二は心の中で呟いた。世界の裏舞台で暗躍していた人間が妙に脚光を浴びつつある現状は、やはり異常なんだろうな。

【E−06/消防署/1日目・午後(14〜16時)】

【吾妻玲二@PHANTOM】
 [状態]:疲労(小)。冷静。真剣。
 [服装]:作中で着ているいつもの服装。
 [装備]:モーゼルM98ライフル(8mmモーゼル弾。5/5発。予備100発)。IMIデザートイーグル(44マグナム弾。8/8発。予備60発)
 [道具]:日用品数種。ペットボトルのお茶。観光用地図。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防署の人達(ルパン、ボンド、その他)と協力して港に向かう。
  3:船で脱出できなくても、救出まで可能な限り彼等と協力し合う。
  4:銃の手入れでもしておこう。
  5:ジェームズ・ボンド、本当は何者なんだ?
 [備考] 1:次元大介の容姿や服装を把握しています。

【ルパン三世@ルパン三世】
 [状態]:疲労(小)。冷静。呑気。
 [服装]:ご存知の赤ジャケット。
 [装備]:ワルサーP38(9mmパラベラム弾。8/8発。予備80発)
 [道具]:日用品数種。携帯食料数種。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防の連中(吾妻、ボンド、その他)と協力して港に向かう。
  3:船で脱出できなくても、救出まで可能な限り彼等と協力し合う。
  4:その後、次元と合流して島から脱出。次元が見つからなければ、港に書き置きだけ残して脱出。
  5:カワイ子ちゃんいねーかなー、ぬひひひ。

【ジェームズ・ボンド@007】
 [状態]:疲労(小)。冷静。 カリスマ。
 [服装]:ベージュの半袖トラベルジャケット
 [装備]:FN P90サブマシンガン(5.7mm専用弾。23/50発。予備200発)。シガレットケース型特殊爆弾×3(タイマーか遠隔操作で爆破可能)。
     ワルサーP99(9mmパラベラム弾。16/16発。予備48発)。
 [道具]:非常用セット×1(ブロック状の固形食糧×9個(3日分)。150ml飲料水パック×6個)。長距離無線機×2。
 [思考]
  1:消防署で一晩持ちこたえる。
  2:消防署の人達(吾妻、ルパン、その他)と協力して港に向かう。
  3:彼等を脱出させた後の行動は、その時になってから考える。。
 [備考] 1:次元大介の容姿や服装を把握しています。

 [備考]  玲二、ルパン、ボンド共通事項
  ※ 玲二の自転車と、ボンドのハーレーは使用可能です。
  ※ ジョージ・スチュアート消防長はモブキャラです。