観念したように、アグリアスはすっと目を閉じ、抵抗をやめた。
アグリアスがまた暴れださないように、できる限り素早く、
的確に服を裂き、アグリアスが最も痛むと訴える箇所をさらけ出す。
服を裂くといっても、本当にごく一部分を裂くだけであり、
最も異性に見せたくないであろう、女性の胸は
まるで見えないのだから、ラムザが散々変態変態と
アグリアスに罵られるいわれなど、本来ないはずなのだが、
そのあたりの理屈をラムザが懸命に説明しても、アグリアスは
聞く耳を持たなかった。
どうにか彼女を説得して、こうして患部を観察したはいいものの、
異常は何も見当たらない。わずかな斬り傷、かすり傷はおろか、
あざすら見つからない。
異常を見つけようとするときに、一番困るのが、何も異常が
見つからなかった時である。
外傷がないのに痛むということは、原因は体内の傷…という事になるが…。

「アグリアスさん。ちょっと触りますよ」

「えっ…!? お、お前!やっぱり…!!
 この嘘つき! この痴漢!」

「触診ですってば…。軽く押しますから、痛かったら
 痛いとはっきり言ってください」

ごく軽く、心臓のある位置をラムザが指で押すと、途端に
苦悶の表情を浮かべて、アグリアスが悲鳴を上げた。

「い、痛い!痛い!やめろ、離せラムザ…!」

再び怒り狂うアグリアスを放っておいて、ラムザは考える。
蒼白な顔(もっとも今は怒りで赤くなっているが)と全身を
襲う脱力感は、血液が満足に体を巡っていない証拠である。
痛みが最も酷い箇所が心臓の真上であり、そこを押すと激しく
痛むことからも、心臓に何らかの異変が起こっているのは間違いない。
「おい…!? 聞いて…いるのか! ラムザ…!
 重傷を負った…仲間を…! お、女を…押さえつけて!
 お前は…ど、どこまで…卑劣な男なんだっ…!」

「ちょっと失礼」

そう言って、ラムザはアグリアスの首筋に指を添えて
脈を計る。予想していた通り、アグリアスの脈は弱々しく、
不安定な間隔で打っていた。やはり、原因は心臓の異常にある。

「アグリアスさん。原因が分かりました」

「…は…?」

体の色は雪のように白くなっているのに、顔だけは鮮やかな
桃色に染めるという、器用な芸当を図らずも披露中の
アグリアスは、きょとんとした様子でラムザの顔を見た。

「心臓に、重大な損傷があるようです。
 今すぐに治療を始めます」

「し、心臓…!?」

気丈で有名なアグリアスだが、止まれば即座に死に至る、
心臓に異常があると聞き、ほんのわずかに怯えた表情を見せる。
ラムザは右手をそっと、内傷を刺激しないようにアグリアスの左胸に添えた。

「あっ…! お、お前また…! 勝手、に…私の体に触るな!」

「文句は後でいくらでも承ります。今は治療に集中させて下さい」
じたばたと弱々しく暴れるアグリアスを、半ば力ずくで押さえて、
ラムザは右手から白魔法を放射し始める。

「少し痛いかも知れません。我慢して下さいね」

「ひ、人の話を…聞けっ!私を無視、するなっ!」

熟練した白魔法の使い手は、高位の回復魔法を
傷口に集中して施すことにより、かなり短時間で修復することができる。
一介の白魔導師では、傷を負った者の体力を応急的に回復させる、
下位の白魔法しか使うことができないが、重傷を負うことが
日常茶飯事であるラムザの隊においては、戦闘の場に出る者は、
ほぼ全員高位の白魔法を義務的に修めていた。

「アグリアスさん。大丈夫ですか?」

「い…痛くない!痛く…ないから…構わず続けろ…」

強引に胸の治療を始められ、小声で恨み言を呟きつつも、
アグリアスは観念して、従容とラムザの白魔法をその身に受けていた。
口では痛くないと訴えていても、顔には苦悶の
表情がありありと浮かんでおり、額には汗が滲んでいる。
無理な荒治療は、それ相応の負担を患者の体にかける。
ラムザの白魔法によって、アグリアスの心臓の痛んだ箇所や
壊れた組織は着々と修復されているはずだが、
鍛えようのない体内で起きる、急激な臓器の復元は、
大きな苦痛を伴なってアグリアスを責めさいなんでいるはずである。
本来ならば、麻酔が必要なほどの規模の治療を、
アグリアスは持ち前の精神力をもってして、歯を食いしばって耐え抜く。
ラムザは、右手でアグリアスの心臓を治療しつつ、同時に左手で
別の回復魔術をアグリアスに施す。
暗殺者たちとの戦闘や出血で、極度に疲弊し、
衰弱している彼女の体力を回復させるためである。
全身を包む暖かな光に、アグリアスの表情がほんの少しだが
和らいだ。
治療に伴なう痛みの峠も越したようで、少しずつアグリアスの
表情は安らかなものとなり、体調も快方に向かいつつあった。

「アグリアスさんをここまで追い詰めるなんて、
 あの2人も大したものですね」

「ああ…強かったな。何度も…死ぬかと思ったよ…」

虚ろな眼差しで彼方を遠望するアグリアスの脳裏に、
先ほどまで身を投じていた死闘の記憶が蘇る。
手に残る、暗殺者たちを殺した嫌な感覚。
慣れたものだが、人を殺した後の、形容しがたい
不快な感情が、かすかにアグリアスの心を煙っていた。

『わたしも、ここで君と降りることにする』

セリアは、死ぬ前に、確かにそう言った。
妙に澄んだ、無垢で、少女のような声だった。
全てを受け入れて、死を、在るべきものとして迎えていた。
恐らくあれは、自分の隣に、常に自身の死を置いて生きてきた人間。
自分の命を失うことも、他人の命を奪うことも等価とし、
自分の死と、多くの死に埋もれて生きていたのだろう。
そんな、血と闇にまみれた拷問のような人生を、自分から降りた。
先に逝った、仲間と一緒に。
アグリアスが、終わらせた。
「…なあラムザ。…お前、この戦いの中で…
 死にたいって…思ったことってあるか…?」

「何ですか。やぶからぼうに…」

「…別に…。何となく、聞いてみただけだ」

「昔はしょっちゅう思ってましたよ。
 今でも、たまに死にたくなります」

「…酷いリーダーもいたものだな。
 皆の前で言うなよ。引っぱたかれるぞ」

「あはは。他言はしないようにお願いしますよ。
 僕達の旅は、死に呪われた旅です。
 歩いてきた道にも、これから進んでいく道にも、
 仲間と敵の屍がたくさんたくさん転がっているような…
 そんな旅なんです。
 そんな呪いの旅を長く続けているんだから、
 そりゃ死にたくもなりますよ」

「…そうだな。辛い旅と、戦いの毎日だ」

「人の命を奪って、仲間の命を使って、先に進んでいく。
 自分は正義なのか、それとも悪なのか、分からなくなって
 何度も悩みました。今でも、はっきりとした答えは出ていません」

子どものような幼さを残した童顔のラムザは、
無邪気に笑って淡々と話した。
アグリアスは、ラムザとは目を合わさずに、ぼうと、遠くを見ていた。
「怪物の攻撃をもろに食らって、もう動けないくらいに
 ボロボロにされた時も、地面に這いつくばりながら
 よく思いましたよ。
 もういい。ここで死のう。
 ここで降りてしまおう、って」

「………」

「でもね、そんな時に必ずみんなの顔が頭に
 浮かぶんですよ。
 僕の隣を一緒に歩いてくれる、みんなの顔が。
 そして思うんです。
 もう少しだけ、頑張ってみようって。
 だから、僕がこうして生きて、ここまで
 やってこれたのは、本当にみんなのおかげなんです」

「そうか」

アグリアスは、すっと瞼を下ろした。
目を閉じれば、瞼の裏の暗闇に、これまでの道程が鮮やかに蘇る。
多くの敵をその手で屠り、命を奪い、返り血に染まる日々。
そんな中で、突然、永遠に去っていく仲間達。
血塗られた、呪いの旅だ。人々と世界を救うためとはいえ、
降りてしまいたくなるような、過酷で非情な旅路。
だがそこには、信じられるものがあった。
己の命を賭しても惜しくない、情熱があった。
信じて身を預けられる、仲間の姿があった。

「…私も…もう少しだけ、頑張ってみようかな」

ほんのりと紅い顔で、照れくさそうにアグリアスは呟いた。
「殺し屋2人を抑えておいてくれなければ、僕はたちまち
 死んでいるところでした。
 頼りにしてるんですからね。アグリアスさん」

子どものように朗らかに笑うラムザに、アグリアスは
不覚にも漏らしてしまった己の台詞にいたたまれなくなり、
恥ずかしさが急にこみ上げた。

「そ…そういうお前は頼りないな…!隊の長だっていうのに…!
 私が死に掛かってまで取り巻きの2人を仕留めたのに、
 お前ときたら、銀髪一人も倒せずに!」

ラムザの正視に耐えられず、頬を紅く染めたアグリアスは、
目を閉じて、プイとあさっての方向に顔を向ける。

「あははー…。それを言われると面目次第もありません」

ラムザは笑いながら困ったような顔をして、ポリポリと頭を掻く。
ラムザは決して弱いわけではない。戦闘能力は、
隊の中でもトップクラスに位置する。
レーゼの、聖竜の血族故に常軌を逸した身体能力や、オルランドゥの、
何人の追随も許さない至高の剣技のような、目立った派手さは持たないものの、
剣の腕は一流で、魔法も黒白問わずにかなりの高位まで扱える、
近距離・遠距離の戦闘をそつなくこなす万能型の戦士である。
そんなラムザが苦戦し、ついに打倒に至らなかったのは、
敵のエルムドアが、ラムザに勝るとも劣らない凄腕の剣客だったからである。
超重量級の長物を自在に駆使し、巨大な刃圏で
ラムザを追い詰めたエルムドアは、付け入る隙をほとんど見せない
かなりの手錬であった。異常な膂力によって振るわれる長物の
威力は、剣で完全にガードしたラムザを体ごと後方に弾き飛ばすほどである。
それに加えて、エルムドアが、厄介な難敵だった理由は、
ラムザと交戦中の只中に、次々と何も無い空間から刀を
召喚しては武器として扱っていたことにあった。
そのような刀は、侍が一般に扱う片刃の刀と変わらないもので、
エルムドアが最初に手にした異様な長物とは較べるべくもない
変哲のないものであったが、エルムドアはそのような侍刀を
宙空から取り出して左手に納めては、刀に宿る魂を引き出し、
ラムザを剣の間合いの遥か外から攻め立てた。
標的の肉体を直接破壊する、衝撃波に似たものや、
動きを呪縛する、死者の怨念を刀から放出し、
ラムザの間合いの遥か外から、次々と射出する。
刀に宿る魂が尽きて、刀身が崩壊すれば、
新たな刀を宙空から召喚し、即座にそれに持ち替える。
財に飽かせた刀の物量攻撃に加えて、
エルムドアが右手に携えた超長物は、常識では考えられない
剣の間合いを実現し、ラムザの攻撃を寄せ付けない。
エルムドアの懐に飛び込み、ラムザが決定打を叩き込めなかったのは
それ相応の理由があった。

「アグリアスさん。胸の治療が終わりましたよ。
 応急処置的なものですけれど、
 とりあえずはこれで安心です」

「ああ。すまないな。おかげでずいぶん楽になった」

死人同然だった、雪のように白い肌は鮮やかな血色を
取り戻し、顔色は健康な人のそれと遜色がないほど、
ほのかな桜色を取り戻す。
ラムザの施した集中治療が功を奏し、壊れかけだった
アグリアスの心臓が修復され、力強く脈を打っている証だった。
ラムザはそのまま、優しく右手をアグリアスの頬に添える。
「わっ! な、なんだ? 何をするつもりだ…!?」

「頬の斬り傷の治療ですよ。早目に治癒させないと
 傷痕が残ります」

「あ、ああ…。そういえば顔も斬られたんだったな…」

胸の激痛や、半壊した右手の激痛にまぎれて忘れていたが、
アグリアスの頬には痛々しい斬り傷が刻まれていた。
やすやすと斬り殺せるはずのアグリアスを、あえて生かして、
こんな傷を残して死んだセリアの真意は、よく分からない。
もともとあの2人に関しては、不明な点が多すぎる。
闇に喰われた心は、今際のきわにほんの少しだけ、
人間らしい温かみを取り戻したようではあるが、
何を思ってこんなことをして逝ったのかは、今となっては知る術もない。
ラムザの手から、春の日差しのような、心地よい暖かさを伴なって、
白魔法が施される。
アグリアスは、頬に添えられた手から伝わるぬくもりを
感じながら、従容としてラムザの治療を受けていた。

「知っているとは思いますが、白魔法で傷口を
 治療しても、ほんのわずかですが、跡が残ります。
 完全に元通りとはいきません。
 残念なことですが、受け入れてください」

「…お前が気にすることじゃない。
 元々命を張って、この戦いに臨んでいるんだ。
 どこに、どんな傷が残ろうと、大した問題じゃない」

「はあ。さすがです。アグリアスさん」
「…何だ。さすがって。私は、これでもれっきとした女だぞ…」

「じょ、冗談ですよ!本気にとらないで下さいよー」

どこまでも澄んだ碧眼に、静かな怒りを灯すアグリアスの
眼光に、ラムザはたじろいで困り顔の笑みを浮かべる。
心臓の損傷に較べて遥かに浅い頬の傷は、
ほんのわずかな時間で治療が終わった。
アグリアスの頬には、よくよく目を凝らさなければ気づかない
程度のかすかな傷痕が残っている。
このかすかな傷痕が、アグリアスが今日身を投じた
死闘の名残であり、儚く散っていった2人の殺し屋が、
確かにこの世に生きていたという証となる。
脳裏に焼きついた、セリアの最後の優しい笑顔を
思い出しながら、甘んじてこの傷を受け入れようと、
アグリアスは思っていた。

「右手の治療に移りますが、指が三本、完全に折れています。
 治療しても、しばらくは剣を握れないでしょう。
 胸の傷の本格的な手当もありますから、
 アグリアスさんには傷が完治するまで、静養してもらいます。
 それまで、しばらくの間戦いはお休みですよ」

「…仕方ないだろうな。皆の足は引っ張りたくない。
 そうさせてもらうよ」

「傷の本格的な手当は…ルナにやってもらいましょう…。
 …ルナは…まぁ…その…ちょっとアレな感じですが、
 腕は確かですよ」

「……あいつの世話になるのか…」
医学と白魔法の知識の探求を至上の喜びとし、
人の不幸は蜜の味を地で行く少女、ルナ。
煌びやかな銀髪と、冷たい色の碧眼を備え、
純白の法衣を身にまとう、外見だけは天使のような白魔法使い。
ただしその心は、限りなくどす黒い。
陰で残虐非道な人体実験を嬉々として行っている、といった
黒い噂の絶えない、ラムザの隊筆頭の問題児である。
ただし、医者としての腕前は超一流。
"白い悪魔"の通り名で恐れられるルナの治療を
受けるというのは、アグリアスをして恐怖に陥れるほどである。
ラムザはアグリアスの右手にそっと手を添えた。
刺激しないように、極力優しく触れたつもりであっても、
アグリアリスは苦痛の表情を浮かべる。
本来の、しなやかな女性らしい指を備えた
アグリアスの右手は、見るも無残な有様になっていた。

「ふふ…。酷いものだ。ボロボロだな。醜いだろう」

自嘲の笑みを薄く浮かべ、ぼうとした様子で右手を見やる
アグリアス。事実、指はあらぬ方向に折れて、爪ははがれかかり、
血に塗れた酷い怪我であり、気の弱い者が見れば卒倒する
かもしれないような右手であった。
白く、可憐なアグリアスの左手と較べれば、なるほど
今の右手は彼女の言うとおり、醜いのかもしれない。

「いいえ。勇敢に強敵と戦った、勇者の勲章ですよ」

ラムザは微笑みを浮かべながら、回復魔法を施す。
暖かな光に包まれて、アグリアスの右手は少しずつ修復されていく。
心臓を治療した時と同じように、右手の治療は大きな痛みを伴なった。
そんな激痛の程をまるでうかがわせずに、アグリアスは
静かに瞼を下ろし、従容としてでラムザの治療を受けていた。
ラムザの言葉が、アグリアスの心を優しく満たしていた。
温かなラムザの台詞が、アグリアスが今日、歯を食いしばって
命を賭けたことの報いとなる。
部屋の中には、つい先ほどまで繰り広げられていた
死闘激闘の爪痕が刻み込まれ、床や壁には至る場所に
斬撃や爆撃の跡が残されている。
人々の常識の埒外にある、いわば異界の部屋に残されたのは、
一組の男女。2人はただ静かに、そこに居た。
声一つ無い、静寂に包まれた空間。
壁に背を預け、女騎士は緩やかに傷ついた手を差し出して、
男の騎士はそれを恭しく手にとり、無言で慈しみ、そして静かに癒す。
それはまるで、何物にも屈しない、凛とした王女と、その御前にかしずき、
主の手をとって、忠誠を誓う騎士の姿を表しているかのよう。
命と身を捧げたはずの主ラムザに、逆に仕えられているかのような
この格好は滑稽であり、アグリアスは可笑しくなって内心で苦笑する。
やわらかく瞼を下ろし、その身を眼前の主に委ねるアグリアスは、
陽だまりの中に静かに座り、陽の光とその暖かさを、
その身にゆったりと受けているような、穏やかで、満たされた顔をしていた。

「アグリアスさん。手の治療が済みましたよ」

「うん。ご苦労だったな。中々心地よい時間だったぞ」

いかめしい顔をして、おごそかにそうラムザを労ったアグリアスは、
かんばせこそ麗しい女性のそれでありながらも、持ち前の凛とした
雰囲気も相まって、案外貫禄のある気配をかもし出す。
偉そうな様子のアグリアスに、ラムザは思わず吹き出して、
ことさら恭しく礼をする。
「お気に召して頂けたのなら、光栄でございます。
 我が姫君、アグリアス様」

アグリアスは笑う。
高嶺にひっそりと咲き誇る、凛とした花のような印象を
他人に抱かせる、常に毅然としたその顔を、今この瞬間にだけ
ほころばせ、無垢な少女のように、ころころと笑った。
彼女の顔を彩る、爛漫とした笑顔。
白銀の季節、冬の寒気のくさびから解き放たれ、
命の息吹を唄い、春の野に咲き乱れる、一面の花々。
そんな情景を思い起こさせるような、華やかな笑顔だった。
2人が微笑む合う中、部屋の入り口からようやく、
オルランドゥ、レーゼ、ベイオウーフの3人が駆けつける。
3人とも、目立った外傷もなく、無事なようだった。

「…おい」

「…はい?」

「いつまで私の手を握っているつもりだ。
 馴れ馴れしいぞ」

そう言ってアグリアスは、ラムザと結んだ手をすげなく
振りほどき、まだ痛みが残る右手を強引に左手の二の腕に乗せ、
胸の前で腕を組み、プイとあさっての方向に顔を向ける。
当人にもよく分からない気恥ずかしさで、アグリアスの頬は
ほんのりと桜色に染まっていた。
走り寄る3人の仲間を、アグリアスは静かに見つめて、
やわらかく微笑んだ。

                                 fin

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最終更新:2010年03月27日 00:16