自作キャラでバトロワ2ndまとめwiki

消せない炎

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匿名ユーザー

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消せない炎 ◆CUPf/QTby2


 ――なぁ、菅人……、あのさ、なんつーか、まあ……。
 ――いいよ、ハッキリ言ってくれて。
 ――あ、ああ……。おまえ、たまにすげぇ怖い顔するよな。
 ――そうかな。自分ではよく分からないけど。
 ――目つきが、さ……、たまにすげぇ怖いんだよ。いや、たまに、だけどさ。
 ――そうなんだ。僕は鹿狩瀬君に嫌な思いをさせていたんだね。
 ――や、違う、そうじゃねえ! 俺はいいんだ。強面の連中とつるむのは慣れてるからな。
 ――そして、敵意や非難に満ちた視線を向けられるのも、ね。
 ――そういうのは尚更、どうでもいいんだよ!
 ――優しいんだね。自分を迫害した連中を庇うなんて。
 ――ああ、その目、今の目だ! それ、気を付けた方がいいぜ。
   外ヅラだけで偏見を持つ奴、大勢いるからな。
 ――僕は気にしないよ。他人の心を検閲しようなんて思わない。
 ――俺が嫌なんだよ、そういうの。おまえが色眼鏡で見られんの、すげぇムカつくんだよ!
   そういうの、俺、我慢できねえんだよ……。おまえ、いい奴だからさ……。

『俺とは違って』。鹿狩瀬君は言外にそう主張しているのだと僕は思った。
そしてそう、確かに僕――静間菅人(しずま・すがひと/男子十一番)――は彼とは違う。

まず、僕は、彼のような下手な嘘はつかない。
自身の傷を他人に投影し、相手を自分の身代わりとして救い、
決して癒えない己の心を誤魔化すような、そんな自己欺瞞にはハマれない。
理不尽に対して感情をあらわに出来るほど純粋でもなければ正直でもなく、
そんな自分を恥じるような良心だって持ち合わせていない。
俗っぽい言い方をするなら、“優しくない”ってこと。

だからそう、確かに僕は彼とは違う。
かといって、彼が思っているような“いい奴”ってわけでもない。

僕は、他人のためには動かない。
他人に都合の良い存在にはなれない。
他人は僕の動機にはならない。
誰かが理不尽に傷つけられても、僕の心は動かない。

そこまで考えたとき、脳裏で彼女が微笑んだ。
不可解な事故でこの世を去った、年上の恋人。
内心とは裏腹に“穏やかな人”を演じるのは、彼女のようになりたいからか。
彼女のように振舞うことで、僕は彼女に近付きたいのか。
触れることはおろか、言葉を交わすことすら出来ない彼女に。

彼女の死に不可解なものを感じた僕は、その真相を追っていた。
彼女には弟がいて、彼は僕のクラスメイトだったけど、僕は独りで行動した。
姉の死を機に人を避けるようになった彼を、僕は信用しなかった。
それに、真実を求めるのは彼女のためなんかじゃなかったから。

知りたいと思うのは、僕の我侭。僕はただ、納得したいだけ。
何故、ある日突然理不尽な形で彼女が死なねばならなかったのか、
その理由を知りたいだけ。だから、ただの我侭だよ。
納得のいかないことなんて、この世には溢れ返っているんだから。

そう、僕は知っている。自分がいかに身勝手なのかを。
彼女のために自分に出来ることなんて、何もないんだってことを。

だから、僕は、他人のためには動かない。動こうなんて思わない。

          □ ■ □

銃口は、こちらに向いている。その照準は正確だった。
しかしきららは引き金を引かない。動かしたのは、視線だけ。
鞠愛の姿を追うように、その無事を見届けるように、ガラス玉のような目が動く。

そうして生まれた一瞬の隙を、板倉は決して見逃さなかった。
板倉はきららに飛びかかる。彼女は小さく悲鳴を上げるが、気付いたときには既に遅い。
板倉は彼女の利き腕を掴んだ。力を込めれば簡単に折れるのではないかと錯覚させる
白く細い彼女の手首を、力任せに内側にひねる。きららの顔が苦痛に歪む。

「は、放して! 何するつもりなの……? やめて……、あ、痛い!」

苦痛を訴えるのは当然だ。しかし板倉は違和感を覚える。
何故、彼女は拳銃を握り締めたまま、手放そうとしないのか。

板倉はこの方法を過激派組織の上官から教わった。
重火器を持った敵に素手で対処するための、特殊部隊員用の格闘術として。
つまり、正規の訓練を受けた心身ともに屈強な兵士ですら
耐えられないということだ。しかし、彼女はどうだろう。
言葉とは裏腹に、表情とは裏腹に、その指は拳銃を握り締めたまま。
苦痛に屈する気配を見せない。

薬物中毒。特異体質。強化人間。獣人。レプリカント。吸血鬼。
そんな言葉が脳裏をかすめる。

『……何にせよ、念入りに痛めつけねばな』

その思考はごく自然に、まるで自身の意思のように、板倉の脳に侵入した。
板倉は違和感を抱かない。きららの特異性に気付いたがゆえに、
悪意に満ちたその意思を己のものとして受け入れていた。

きららの腕を掴んだまま、片膝を彼女の腹に打ち込む。
きららは苦しげに身体を折るが、それでも拳銃を手放さない。
まるで、脳とは別の器官が、利き腕を制御しているかのようだ。
二度、三度。板倉はきららの腹を蹴る。きららは抵抗ひとつせず、
悲鳴を上げることすら出来ず、打ち込まれる苦痛に悶えるが、
その手は拳銃を握り締めたまま。それでも体は前のめりに傾く。

『この機を逃すな。相手は化け物だぞ』と、再び悪意が囁いた。
板倉の中の戦士としての部分が、その思考を肯定する。
板倉はきららの首、正確には頭蓋の内側を狙って刀の切っ先を突き上げた。
確かな手応え。性別も年齢も定かでない意思が、板倉の脳裏で声もなく嗤う。
刃を引き抜く。ホースが水を吐き出すように、きららの首から血が噴き出す。
しなやかな身体が跳ね上がり、彼女の顔が上を向く。その目は板倉を捉えている。
虚ろでありながら、写真集の一ページのような計算され尽くした美しさを感じる。

言葉にならない違和感を覚える。その違和感に、件の意識が滑り込む。
『確実に仕留めろ』と悪意が囁き、板倉はソレに同調する。
きららの腕から手を離し、その手を刀の柄に添え、きららの首に狙いを定め、一閃。

胴から離れたきららの首が弧を描くように宙を舞い、首輪が玉砂利の海に落ちる。
板倉の首輪から電子音が聞こえ、脳裏で再び誰かが嗤った。

【女子五番:桐野きらら 死亡確認】

【残り33人】

          □ ■ □

 ――愛玩用? それって、まさか……。
 ――うん、セクサロイドなんだ。桐野姉弟は。

僕は絶句した。桐野姉弟の正体に、ではなく、仁木君の軽率さに対して。
仁木君の両親は、桐原重工でレプリカント開発に携わっている。
だから彼は知っていた。姉弟が実はレプリカントで、何のために造られたのかを。
でも、それを僕に話すなんて。僕が誰かに話したら、どうするつもりなんだ。
話の広まり方によっては両親の仕事に支障を来たしかねないし、それに――

 ――そういうことは、人に話さない方がいいんじゃないか?
   ろくでもない連中の耳に入ったら、あの二人が被害を被りかねない。
 ――大丈夫だよ。あの二人には、自己修復機能が備わっているんだ。
   異常性癖に対応できるようにね。っていうか、そのために開発されたわけだから。
 ――多発する異常犯罪の抑止効果を期待して、ってことか。
 ――まさにそれ。だからまず壊れない。たとえ首を切り落とされても死ぬことはないんだ。
 ――それはいいんだけどさ……、僕が言ってるのは、そういうことじゃない。
 ――うん、分かってるよ。僕だって、話す相手は選んでる。
 ――え……?
 ――そういう心配をするのはさ、レプリカントの気持ちを考えられるってことだろ?
   だから、静間には安心して話せるんだよ。
   僕は、両親やその仕事を誇りに思っているけど、やっぱりね……、
   実際に動いてる二人を見ると、どうしても複雑な気分になるから……。

『レプリカントの気持ちを考えられる』。仁木君はそれを美徳として挙げた。
でも、そうだろうか。相手の気持ちを考えることによって、より残酷な発想に至る。
想像力や洞察力と呼ばれるものには、そういう負の側面もあるんじゃないか。

仁木君の言葉にイラッとくるのは、そのポジティブさゆえだろう。
負の側面を弁えないポジティブな言葉は、時として暴力的に感じられる。
視点が一方的で、そのくせ世間の支持だけは得られるのだから、当たり前かも知れない。
でも、だからこそ、僕は仁木君の友達でいられるんだ、とも思う。

彼の言動は僕を苛立たせるけど、それゆえ僕の中に残る。
見えない壁を平然と越えて。

          □ ■ □

拾い上げたきららの首輪を、板倉は指先でくるりと回した。
この首輪の構造を調べ、自由獲得に活用しようかと思ったが、自身の首輪は特別製。
きっと、構造は違うだろう。自分が人を殺すことなど彼らにとっては想定内、
首輪回収目的で死者の首を切り落とすことだって見越しているに違いない。

 ――俺の首輪は、このままでいい。生き永らえるつもりはない。

自分は芯から殺人者に成り下がってしまったのだと板倉は冷淡に認識した。
あの照準、あの身のこなし。彼女は人を殺せるだけの技量を充分に有していたが、
自身に対する暴力には一切の抵抗をしなかった。
そんなクラスメイトの少女を斬り捨てるに際、良心の呵責を感じなかった。
ただ冷静に、冷淡に、殺人者としての判断を下していた。
そしてそんな自分に対して嫌悪も疑問も感じない。肯定も否定も、諦めすらも存在しない。
麻痺している自分を認識している自分もまた麻痺していることを認識する、ただそれだけ。

 ――それよりも、武器だ。俺に必要なのは、殺すための道具。

板倉はきららの胴に歩み寄る。
彼女が携えていた拳銃と、その予備弾を回収するために。
玉砂利がかちゃりと音を立てた。板倉はふと、足を止める。
自分の足元からではなく、別の場所から聞こえたような気がしたのだ。
再び、かちゃりと音が鳴る。すぐ近くで。誰も居ないはずの場所で。
また、かちゃり。何かが地表を転がっている。板倉は視線をそちらに転じる。

まるでホラー映画のワンシーンのように、きららの生首が動いていた。
ゆっくりと、しかし確実に、胴に向かって転がっていく。それだけではない。
まるでSF映画のワンシーンのように、きららの血が身体に戻る。
流れ出た血液がひとかたまりになって這い進む様は、液体金属を思わせる。

 ――まさか、不死身なのか? ネイサン・ホーマーのように……。

板倉は視線を手元に戻す。そこにあるのは、微動だにしない首輪。
このまま彼女を放っておけば、“首輪のない参加者”が出来上がるのではないか。
連中の支配から逃れた、不死身の参加者。
しかも、桐野きららには、人を確実に殺せるだけの能力がある。
そうでありながら、殺し合いには乗っていない。

彼女の存在は、連中にとって、脅威となり得るのではないか。
それともこの展開すらも、想定内の事態に過ぎないのか。
思案にふけりかけた板倉の背後で、耳慣れた声がした。

「板倉君、久しぶりだね」
「静間か……」

板倉は振り返らずに声の主の名を呟く。
静間の顔を見たくなかった。彼に対する敗北感は未だに払拭出来ないし、
それを悟られるのも我慢ならない、しかしその一方で上から目線の苛立ちもある。
何故、彼は平気でいられるのか。彼の愛情は、その程度のものだったのか。
その程度の男に、自分は負けたのか。姉は、こんな男を選んだのか。

姉の恋人だった同級生の声が、再び背後から飛んでくる。

「学校には来ないのに、殺し合いには参加するんだ。
 今の君の姿を見たら、紗弓さんはなんて思うだろうね?」
「考えるだけ無駄だ。死者は何も思わない。見ることすら出来ないだろう」
「僕は死後の世界の有無について議論したいわけじゃない。
 ハッキリ言わなきゃ分からないのかな?
 君が良心を失うのは紗弓さんに対する侮辱だって、そう言ってるんだ」
「……他人の良心を問う前に、己の襟を正せばどうだ?」

板倉は静間を振り返る。続く言葉を飲み込みながら。
『アンタは板倉紗弓を口実に他人を攻撃したいだけだろう』とは言えない。
刃で出来たブーメランがこの世に存在するのなら、まさにこの言葉がそれだろう。

月明かりを背に立つ静間の顔は暗すぎて、その表情は分からない。
ただ、彼は丸腰だった。その事実に板倉はようやく気付いた。
こちらに危害を加えるつもりはないということか。
それとも、“おまえを追い詰めるのは言葉だけで充分だ”とでも言いたいのか。
再び静間が口を開く。その声は、これまでと同様に落ち着いていた。

「僕は知ってるんだ。紗弓さんが死んだ本当の理由を、ね」
「知ったところで何になる」
「少なくとも僕は、紗弓さんを死に追いやった連中に加担するような真似はしない。
 何度でも言ってやるよ、今の君は紗弓さんを侮辱しているだけだ。
 板倉君は、死後の世界なんて信じていないんだよね?
 “もしもの世界”について考えることも、想像することも無駄だと思ってる。
 本当に救いたかった人が救われることなんて有り得ないって知っているのに、
 それでもあいつらを殺すつもりなんだね。滑稽すぎる。身勝手にも程がある。
 こんな人が紗弓さんの弟だったなんて、残念だよ」

板倉は何も言わなかった。静間の言葉に傷ついたからではない。
彼の見ている世界が自分とさほど変わらないことに驚き、安堵したからだった。

それに、あの口ぶり。彼もまた、板倉紗弓の死の真相に辿り着いたのだろう。
そうでありながら、彼は、自分のような軽率な真似はしなかった。
姉の愛した、姉を愛した男は、自分が思っていたような人間ではなかったということか。

「……何が、おかしいんだよ?」
「いや……」
「僕は真面目な話をしてるんだよ?」
「ああ、そうだったな」
「君はどこまで不謹慎なんだ」
「嬉しかっただけだ。アンタになら、これを渡せる」

板倉はきららの首輪を投げた。
静間がその手で受け止めることを期待して。
しかし静間は身をかわし、首輪は彼の足元に落ちた。

 ――俺を、心底信用していないということか。

当然だろうな。そう考え直し、板倉は境内から立ち去った。
背後から飛んでくる静間の声には答えずに。



【???/一日目・深夜】

【男子三番:板倉竜斗】
【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:彼・彼女(ら)】
 [状態]:健康
 [装備]:呪われた日本刀、制限つき首輪
 [道具]:支給品一式、PDA
 [思考・状況]
  基本思考:主催陣に報復する。
  0:生存時間ならびに殺傷力の高い武器の確保。
  1:主催陣に対する戦力として利用できそうな者の殺害は後回し。
  2:他者の戦力に期待できない場合、優勝を目指す。
  3:静間菅人には会いたくない。
 [備考欄]
  ※移動中。現在地はF-3エリアを含む周辺エリアのどこかです。
   具体的な場所は後続書き手の方にお任せいたします。
  ※呪われた日本刀:使い手の残虐性や負の感情を増幅する効果があります。
   この武器で殺傷を行い続けると、いずれは正気を失い、
   無差別殺人者に成り下がります。また、若干の依存性があります。
  ※制限つき首輪:6時間に一度参加者を殺さなければ、強制的に爆発します。
   詳細はそして殺人者は野に放たれるをご参照ください。
   なお、殺害対象は正規の首輪をつけており、本部のコンピューター上で
   生存者として認識されている必要があります。
   桐野きららの死亡確認により、正午0まで猶予を得ました。
  ※PDAには他にもアプリケーションが入っているかもしれません。



          □ ■ □

足元を転がるクラスメイトの頭を、僕は何度も爪先で小突く。
桐野さんの表情に変化はない。死者特有の虚ろな生々しさすら存在しない。
機能を停止した彼女の顔は、まるでマネキン人形のように無機質だった。
こういう姿を目の当たりにすると、彼女がいかに異質な存在か、否応なしに認識する。

彼女は人造人間、最先端の科学技術によって生まれた人形。
見た目は人間と変わらない。普通にクラスに溶け込んでいる。
でも、機能を完全に停止した姿は、本物の人間とはまるで違う。
紗弓さんとは全然違う。不老不死の桐野さんは、無自覚に死を冒涜している。
だから僕は足蹴にする。そうして彼女の頭部を運ぶ。彼女の再生を僕は手伝う。

 ――本当に救いたかった人が救われることなんて有り得ないって知っているのに、
 それでもあいつらを殺すつもりなんだね。滑稽すぎる。身勝手にも程がある。
 こんな人が紗弓さんの弟だったなんて、残念だよ。

本当に残念だ。本当に。僕は嘘つきだけど、心から残念だと思っている。
板倉君のことなんて最初から信用していなかったのに、どうしてこんな風に思うのか、
自分でもよく分からないけど、僕は今、どうしようもなく苛々している。
何故、板倉君は、僕にあそこまで言われて平気でいられるんだろう。
何故、僕の言葉は、板倉君を傷つけられないんだろう。

「……どうして泣いてるの?」

桐野さんの声がして、僕は初めて自分が泣いていることに気付いた。

半身を起こした彼女の首には、生々しい傷跡が残っている。
しかしその表情は穏やかで、心身ともに健康に見える。
作り物には見えないほど自然な動作をしているのに、その完璧さと
傷跡のアンバランス具合が、彼女という存在の不自然さを際立てる。
僕はひどく残忍な気分になり、桐野さんに笑いかけた。

「そりゃあ、人形風情には分からないだろうね。人の気持ちなんて」
「わたし、人形なんかじゃないわ」
「ふうん、そう返すようにプログラムされてるんだね」
「え……」
「人間の猿真似なんか、しなくたっていいよ。僕は知ってるんだ。
 桐野さんが本当はレプリカントなんだってことを、ね」
「レプリカントは人形じゃないわ!」
「ムキになるなよ。僕は人形が人より劣っていると言ってるわけじゃないし、
 まして、人間が特別に優れているだなんて思っていないさ」
「でも、菅人はわたしのことを見下しているわ」
「何のために君が作られたのかを知っているだけだよ」
「そう……」

桐野さんは艶然と微笑んだ。
白くしなやかな両腕を僕の頭の後ろへと伸ばし、顔をこちらに近づける。
ピンクの髪がふわりと揺れて、名前も知らない花の香りがうっすらと漂った。

「菅人はわたしのこと、何も知らないでしょ?
 ちゃんと確かめてから言えばいいのに。本当に人形なのかどうかを……」
「やめろよ。僕は人工的な髪色の女の子は好きじゃないんだ」
「どうして?」
「いかにも人工物って感じじゃないか。君はやっぱり人形だよ。僕らとは違う」
「ふぅん。いろいろ言い訳してるけど、確かめる度胸がないだけでしょ?」
「そういうことは、人間の真似事がうまく出来るようになってから言うことだね」

自分に絡みつく桐野さんの腕を、僕はゆっくりと振り解く。
首の傷跡に目を留めて、やはり不自然だと思いながら、僕は初めてそれに気付いた。

桐野さんには、首輪がない。首輪が外れた状態で、首が繋がってしまっている。
それはつまり、たとえ蝶野に逆らったとしても、首輪を爆破されることはないということ。
彼女は、首輪の脅威から解放された。しかも彼女は不老不死。
人間に危害を加えることが出来ないという仕様がこの場においてはネックだが、
それでも桐野さんの存在は、連中に対するカードになる。彼女を手駒として引き込めば――

そこまで考えて、不意に気付く。あのとき板倉君が笑った理由。
板倉君は気付いたのだ。連中を殺したいほど憎んでいるのは僕自身だってことに。
無意味な行為だと知っていて、それでも殺意を捨てられないのは、本当は僕なんだってことに。
だから、桐野さんの首輪を僕に寄越した。こんなに強力でリスキーなカードを、僕に。

僕は身を屈め、桐野さんの首輪を拾い上げた。

「……どうして泣いてるの?」
「人形風情には、理解出来ないだろうね……」
「そんなことないわ。わたしのほうが、菅人よりも人間っぽいもの」
「人間っぽいって……、どういうことだよ?
 まさか、僕よりも善人、なんて意味で言ってるんじゃないよね?」
「違うわ。複雑なことや繊細なことをきちんと受け止めて、消化出来るってこと」
「そっか……、複雑なことを理解出来るって言うならさ……」

僕は自身のデイパックを漁り、中から冊子を取り出した。
それは、僕への支給品。アラビア文字を思わせる未知の言語で記されたもの。
説明書などは一切なく、何のために記されたものなのか、僕には皆目見当がつかない。
僕は桐野さんにそれを差し出す。別に、本気で期待しているわけじゃない。
ただ、あの人の良い仁木君の親御さんがどのような人形を創ったのか、
そのコミュニケーション能力の方向性と限界を確認してみたかっただけだった。

「複雑なことを理解出来るって言うなら、これが何なのかを教えてくれ」
「あっ……、これは……!」

桐野さんが目を見開く。これが一体何なのか、彼女は知っているのだろう。
彼女の瞳が小刻みに揺れる。この動き。未知の言語を解読しているのだと確信する。
しかし、その内容は、彼女にとって好ましいものではないようだ。
彼女が怯えているのが分かる。桐野さんは顔を上げ、涙目で僕に訴える。

「お願い、菅人……、この本を燃やして……。
 この本は、わたしを……わたしを壊してしまうの!」



【F-3 神社/一日目・深夜】

【男子十一番:静間菅人】
【1:僕(たち) 2:名前+君orさん(たち) 3:彼・彼女(ら)】
 [状態]:健康
 [装備]:レプリカント改造コード集(レプリカント専用)
 [道具]:支給品一式、レプリカント用接続ケーブル、桐野きららの首輪
 [思考・状況]
  基本思考:主催陣に報復する。
  0:桐野きららを利用する。
  1:自分の手は汚さない。
  2:邪魔者がいれば、手を汚さずに始末する。
  3:板倉竜斗に対する苛立ちと敗北感と悲しさ。
 [備考欄]
  ※支給品の「レプリカント改造コード集」はレプリカントにしか読めません。
   かなりの数・種類の改造コードが掲載されています。
  ※支給品の「レプリカント用接続ケーブル」は
   レプリカントとパソコンを接続するためのものです。
   改造コードの入力・実行に使用します。別途、パソコン等が必要です。



【女子五番:桐野きらら】
【1:わたし(たち) 2:名前呼び捨て、あなた(たち) 3:みんな】
 [状態]:頚部の損傷(修復中。残り一時間程度で完了)
 [装備]:ワルサーP38(7/8)
 [道具]:支給品一式、ワルサーP38のマガジン
 [思考・状況]
  基本思考:犠牲者を出さないよう立ち回る。
  0:「レプリカント改造コード集」に対する恐怖。
  1:戦闘行為に遭遇した場合、自分に注意を引きつける目的で
    威嚇や発砲等を行うことはありえる。
  2:自身の損傷はいとわないが、変質は拒む。
 [備考欄]
  ※首輪はすでに外れています。
  ※本部のコンピューター上では死亡扱いになっています。



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ミストレス・マリア 桐野きらら
ミストレス・マリア 板倉竜斗

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