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夕べの夜更かしが悪かったんだろうか、午後になり腹も頃合に膨れると、何とも言えない気怠さと睡魔が俺を襲って来た。
只でさえ成績が芳しいとは言えない自分の事だから、流石に授業中堂々と居眠りをする訳にもいかず、ハルヒのお小言を背にこうして部室に来て惰眠を貪っていた訳だ。
暖かな日差しの差し込んで来る部室は、昼寝には最適の場所と言えよう。これで朝比奈さんの膝枕でもあれば最高なんだが…。
そんなことを考えながらまどろんでいると、不意にドアの開く音がした。
「…あっ。」
顔を上げて見てみると、残念ながらそこにいたのは朝比奈さんでは無く驚いた顔をした古泉だった。走って来たのだろうかやけに息が荒い。
全く、お前もサボりか。
「いえ、違います…といいますか何であなたは…」
「どうも寝不足でな、昼寝をしに…、?」
ぼやけた視界が明度を取り戻した所でふと気付いた。
何だろう。妙な違和感がある。
いつもニヤけ顔のコイツがやけに余裕のなさげな面持ちをしているからだろうか?
「お前、調子でも悪いのか?」
聞いてみてももごもごとあの、いや、を繰り返すだけだ。少し体を丸めて文字通りおろおろしている。
何だコイツは。段々イライラしてきたぞ。そういった言動は女子がやるからこそ可愛いと思えるものなんだよ。
お前は立派な男だろうが。
「何なんだ一体、ハッキリ言え。」
「いえ、あの…今日はもう帰りますね。」
おいおい、人の至福の一時を妨害しておいてそれは無いだろう。
睡眠不足も相俟って少し気の立っていた俺は思わず立ち上がって帰ろうとした古泉を呼び止めた。椅子がガタンと派手な音を立てて、困惑した表情で古泉が振り向く。
そこでようやく、先程の違和感の正体に気付いた。

古泉、お前背縮んだか?
問えば、古泉は罰の悪そうな困った様な顔で口をぱくぱくさせながらまたあ、だのう、だのを繰り返す。
そんな様子を見て、何となく予想のついた俺はとりあえず部屋の中に入れと促した。
少し背を丸めているせいだけでは無く、明らかに今の古泉は俺と同じか若干低いか位しかない。それに何だか、全体的に小さくなった気がする。
体の前に抱き抱えた鞄を持つ手が微かに震えている。何だ、どうしたんだ一体。
「あ、あのですね。」
「…何だ。」
「…信じて貰えないかもしれませんが、」
おどおどと目線をあちらにこちらに泳がせる。コイツがこんなにキョドるなんて余程の事が起きたのかと少し息を飲んだ。
しかしそんな俺の覚悟も虚しく、決意したかの様に一息置いた古泉の口から飛び出したのはとんでもない一言だった。

「…ム、ムネが生えて来ちゃったんです。」
「…はぁ!?」
一体全体何を言っているんだコイツは。どんな間違った成長期を迎えたんだ。
そもそもあの素敵な膨らみは女性だけに許された物であって、男子に生えて来るなんぞ断じて許されない事なのだ。
第一そんな漫画の様な出来事、実際にこの世にある訳ないだろうが!!!!
…と、この間までの自分であったら恐らく突っ込んでいたのだろう。
しかし悲しいかな。今やそんな超常現象は日常茶飯事であり、その原因というのも大方予想が付いてしまう。
「…ハルヒか。」
「…。」
多分、といった表情で頷く。
「朝起きたら少し膨らんでまして…これは予想なんですが、恐らく体が女性に近付いてるのかと。」
「休めば良かっただろう。」
「…機関に様子を見ろ、と言われましたので。」
また機関か。真面目な優等生も大変だな。
そんな体じゃ落ち着いて授業も受けられまい。
「それでここに逃げて来たって訳か。」
へらり、と笑って肯定する。
「原因も分からんのか。」
「皆目見当付かない、と言った所でしょうか。」
だろうよ。
しかし何だな。ハルヒもわざわざこんなヤツにこんな変化を望まなくたって、もっと他により良い力の使い道があると言うのに。

…やれやれ、どうしたものかね、一体。
「お前のセリフを借りるつもりじゃないが、困ったものです、だな。」
「全くです。」
そう言って、古泉はお決まりのあの少し困った様な微笑を浮かべる。
しかし、両手のアクションが無いのはやはり違和感があるな。
その両手はと言うと、体の前でしっかりと鞄を、余程見られたくないのか指先が白む位に強く抱き抱えている。
ハルヒの願望がこうして特定の個人に向けられるのも珍しいことだ…しかも身体的な変化…おまけに古泉に…
…いや、グダグダとすまない。要は、その、興味津々なんだ。

「…古泉。」
「はい。」
「その、何だ…鞄、どけてみろ。」
「…えぇ!!?」
今まで見たことも無い様な大袈裟なリアクションで返された。
まぁ、そりゃ男同士とはいえ、膨らんだ乳見せろなんて言われたらな。
「な、何言ってるんですか!」
「いや、実際に見てみないことには何とも言えないし。」
「だからって…」
「あぁ、いや、そりゃそうだな。」
お互いしどろもどろになりながら会話を交わす。
何で俺まで顔赤くしないといけないんだ、クソ。

微妙に気まずい空気が流れた後、先に声を上げたのは古泉だった。
「少しだけ…ですよ。」
「…え?」
そう言うなり古泉は用心深く部室の鍵を閉め、少し移動してゆっくりとした動作で長机の上に鞄を置く。
お互いの鼓動が聞こえそうな位緊張した空気の中、徐に古泉がこちらを振り返った。