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返信は――
B.届かなかった。



おそるおそるメールを送る。
これまで相手は様々な要求を僕に強いてきた。
それに応じて僕も様々な物を撮り送った。
でも僕から相手に何かを乞うのは初めてだった。
しかもそれはメールと言う媒体を越えた要望で。
もしも、相手に僕と直接関わりを持つ気が無い場合
どうなるのだろうかと不安も大きかった。

悪い予感は当たる物だ。
それを機にぷっつりとメールは来なくなったのだ。
残されたのは淫らな体と快楽に依存した弱い心。
あの刺激が恋しくて、何度もメールを送ったが返信は無い。

やがて使われていたアドレスは変えられたのか
送信しても戻ってくるようになった。
仕方なしに僕はそれまで求められた行為を一人なぞっていく。
その時々はやはり興奮する。
だけど何度も繰り返されれば、次第に体は慣れてしまうもので。
飢餓感から更なる刺激を求め
僕はどんどん危ない橋を渡るようになっていった。

使用済みのゴムや精液に塗れた下着を教室のゴミ箱に。
定期的に剃り続ける陰毛は、誰かの目に触れそうな所へ捨てた。
痕跡を残す場合は、容易に個人を特定出来ないように。
でもメールの送信者が見つければ
僕はまだ欲望に溺れたままだと気付けるように


淫らな行いは、僕自身の纏う空気まで変えていくのか
通学中の電車等で痴漢に遭う事も増えた。
昔は心底嫌だったそれも、今となっては刺激の一つだ。
だけどその場限りの物では、僕の心は満たせない。
教室で四六時中誰かに見張られていた感覚が忘れられない。
あの相手は常に近くで僕を見ていた。
機関に所属する古泉一樹とは全く関係の無い
僕の中に秘められた純粋な欲望を、嫌という程知らしめ教えてくれた。
今思えば理想的な支配者だった。

僕は見失った誰かを必死に求め続ける。
直接クラスメイト一人一人に問い質そうと何度も思い
その度に既のところで思い留まった。
どんなに自分が淫乱だと解っていても、それを周囲に明かす勇気は僕に無い。

やがて僕は諦めるしかないと悟った。
あのメールが届く事はもう無いのだろう。
僕は見放されたのだ。


僕を一方的に染め上げて、その誰かは消えてしまった。
一度覚えた快楽から離れられず、誰にも言えない喪失感を胸に
淫行を一人続けていくしか無い。
心も体も飢えて仕方が無かった。


ある日、突然携帯が振動した。
それは一度だけではなく、立て続けに何度も。
あまりの着信の多さに驚いて、僕は携帯を開く。
多数のメールが届いていた。全部見知らぬ物アドレスだった。
この量は機関や友人知人である訳が無い。それを一つずつ開いていく。
見るからに如何わしい件名も多い。
昔の僕なら絶対に見ようともしないだろうに、刺激に飢えた心は逸る。
そこに有るのは卑猥な内容のメールばかりだ。
どれも僕に真偽を問いながらも性的な事柄を要求している。
久方振りに見るそれらの指示に胸が高鳴った。

数件読んでいくと、何故こんなメールが突如として届いたのかが解った。
自分で送り続けていた画像が、携帯のアドレスと共に
その手のサイトに流出したのだ。
中には、ご丁寧にその書き込み場所まで教えてくれるメールまであった。
URLにアクセスして、その記事を見る。

『僕は毎日アナルオナニーに勤しむ淫乱男子高校生です
昼夜寂しく一人でちんぽを慰めている僕の相手を誰かして下さいませんか
あなたからの、エッチな指示メール待ってます
指示には必ず従って、証拠を自分で撮って送ります』

劣情を誘う下卑た書き込みと共に貼られた写真は、局部の無修正画像ばかりだ。
性器の色や形、体格や恥毛の無い事から、全てが一人の物だと解る。
それが、こうやって学内の比では無く不特定多数に晒されている。
こんな僕を見られている。酷い興奮を覚え体が震えた。
そこに僕の顔写真は無い。それでもこうやって乗って来る者は居る。
記事が投稿された途端に、これだけのメールが届くのだから。

予期せぬ事態に愕然としながらも、誰がここに書きこんだのかを考える。
僕の心情を如実に表した書き込みは、あのメールの送信者が書いた物なのだろう。
顔を晒されていないのは……相手に残された最後の良心だろうか。
だが確かめる術は今の僕に無い。
いや、それももう些細な事だ。僕は新しい支配者を見つけた。
そうだ、質が足りないのなら数で補えば良い。
最初からこうすれば良かったと思った。
これなら自分好みの相手を幾らでも探せるに違いない。
その中になら、きっと直接会ってくれる人も居るだろう。
何も一人に限る事も無い。
もし多過ぎて困るようなら、記事の削除を申請するなり
アドレスを変えるなりすれば良いのだから。

僕は笑みすら浮かべていたように思う。
今後、欲望を持て余す事は無いと安堵し
まだ見ぬ期待と倒錯した悦びに浸る僕の手の中で
携帯は今も尚、メール着信による振動を続けていた。



B.データ流出END「質より量で」