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PC-ヴィスタのゲート内に停泊中である共和国ルペルカリア艦隊でも
当然先程の人口音声によるアナウンスは聞こえていた。

メインシステムの異常にサクラー大尉は気付いていた。
この状況下で場を混乱させるだけのエリア封鎖に何のメリットがあるのか。
メリットがあるとしたらそれは誰になのか。
「ふん。SOS帝国にもそれなりの技術者が居たのね」
告げられていく封鎖区域を確認しながらサクラー大尉は
傍にいる補佐官へ拳銃を手渡す。
「これは……実弾ですか」
手にしたその質量を確かめ、握り締めながら、硬い表情で補佐官が言う。
「そうよ。音が大きいけれどそれも利点にはなる。でもレーザー銃も持っていくべきだわ。
それから白兵戦も想定しておいて」
全く迷いを感じさせず、サクラー大尉は次々と準備を整えていく。
「コロニー内で戦闘をするおつもりですか」
「勿論。さっきのアナウンスを聞いたでしょ。中にいる人間を誘導するつもりよ。
今ここには共和国軍以外に帝国軍の人間もいる。出会ったらどうなるかは解るでしょ?」
「罠と言う可能性は」
「既にわたしたちは罠に掛かっているわ。メインシステムに侵入した帝国軍のね。
きっと艦長は撤退指示を出してくるでしょう。でもこのまま逃げ帰っても癪じゃない?
コロニーも人質も失う事になる。どちらかを確保
もしくは幕僚総長の命を狙っても良いかもね」
サクラー大尉の言葉に補佐官は視線を上げ、その顔を凝視する。
「不服そうね。だったらあなた自身で幕僚総長を確保すれば良いわ。
敵の手に渡るくらいなら殺し、利用価値があり手に入れられるなら生かす。それだけの事」
補佐官を正面から見据え、サクラー大尉は挑発的な冷笑を浮かべた。
「わたしはね。今更掌を返した帝国軍のやり方が気に入らないのよ」


自然を模した居住区域を抜け、キョンは数名の部下と共に
封鎖区域を避けながら車を走らせていた。
辺りに人影は無い。元よりコロニー内にいる人間は多くないのだ。
しかし今キョンが目指しているのは、共和国側が着艦したゲートで。

『共和国艦隊の着艦時刻と封鎖区域アナウンスが開始された時刻を踏まえ
下艦した古泉一樹が移動を続けている場合、想定されるルートは……』
時折長門と通信を交わしつつ、キョンは部下に戦闘準備を命じ、自分も武器を手に取る。
帝国軍の作戦参謀であり、艦に乗る事が主なキョンにとって
自らの体一つで戦闘に赴くのは久々の事だった。


人口音声が淡々と封鎖区域を告げる中、一台の車がコロニー内を疾走する。
揺れる車内で、古泉は脱出方法を模索していた。
ここに居るのは森と新川。森だけではなく恐らく新川も武器を所持しているに違いなく
対する古泉は、両手の自由が無く丸腰のままだった。
明らかに分が悪い。
非常事態故か、誰に会う事も無いからか、何時に無く新川の運転は乱雑で。
森の口付けの後、それを拭う事も出来ずに座り込む古泉の足元には
先程から共和国の将校の遺体が何度もぶつかっている。
戦争をしていれば、特務機関に所属していれば尚更に、目にするのも当然のそれ。
捕虜の護送中に命を落とすなどと、床に転がる彼は思っていたのだろうか。
あらぬ方向へと向かいかけた思考を正す古泉の耳に新川の声が届いた。
「前方に共和国兵です」
「解ったわ」
全く速度を落とさぬまま告げる新川に森が応答し、窓を開いて銃を構える。
外を見る事の出来ない古泉には、件の共和国兵がどのような状況下に居るのかは解らない。
ただ続く銃声に、古泉は静かに目を伏せた。

「この先は徒歩ね。行くわよ古泉」
車を止めて森が降り立つ。森の態度に古泉は不安を覚えた。
「……一体何処へ向かうんですか。それに、新川さんは」
「わたしたちは中央制御室。ここからならあと少しよ。新川は別行動」
「少々やる事がありますので」
落ち着いた声色で言う新川は、そのまま車を操り走り去っていく。

「制御室へ向かうのは構いませんが……手を自由にしてはくれませんか」
「あら、それじゃ走れない?」
「走れなくはないですが……まだ死にたくはありませんので」
古泉の答えに森は小さく笑う。
「そう。その代わり怪しい動きをしたら何時でも打つから
それに通路での先行はあなたね」
「……解りました」
帝国軍の幕僚総長である古泉の顔は、コロニー内に居る両軍共に
ほぼ知られていると言って過言では無い。万が一どちらかの兵に遭遇したら
まず注視されるのは古泉だろう。
だからこその提案だと知りつつも、古泉に拒否は出来ない。
「じゃあ行くわよ」
やっと自由になった両手首を擦る古泉に、森が銃を向けながら促した。

森や古泉と別れた新川は、次第に狭くなるコロニー内を走りながら目標を探していた。
目標は特務機関の者以外であれば誰でも良い。
この車の所属は共和国となっているが、乗っている者までそうとは限らない。
共和国兵であれ帝国兵であれ、自分の所属を悟られる事無く
戦闘を仕掛けて逃げれば良いのだ。
仮に車を捨てる時があっても、車内に未だ乗せたままの共和国将校二名の遺体が
混乱を上乗せしてくれるだろう。
前方に人影を見つけると、新川は車の速度を上げた。


サクラー大尉と補佐官は、コロニー内の迷路のように入り組んだ通路を駈ける。
また何処かのエリアが封鎖されるのだろう。警告が鳴り響いた。
それを意に介さず、二人が目指すはメインシステムがある中央制御室。
「幕僚総長を確保か、殺害するのでは無いのですか?」
「だったら貴方はコロニー内の何処に居るかも解らない総長を当ても無く探せば?」
足を止める事もなくサクラー大尉が答える。その口調に淀みは感じられない。

「既にあちこちが封鎖され、人の流れは限定されている。
でも、制御室へ向かうルートはまだどれも封鎖されていないわ。それは何故かしら。
他にも用事がある人が居るからじゃないかしら。
メインシステムに侵入した誰かと、別の誰かが合流したいとでも思わない限り
本来ならさっさと閉じた方が良い筈よね。何時邪魔が入るか解らないんだもの。
それにね」
手にした携帯端末には、先程からコロニー内に居る共和国兵からの通信が入っている。
帝国兵と遭遇し、戦闘を開始したとの旨だ。
「行動出来る区域はこのままだとどんどん狭くなるわ。
戦闘が開始されたのながら、わたしたちも帝国兵に会い次第戦闘よね。
そんな潰し合いをした所で意味が無いわ。だから向かうの。元から叩いてやるわ」


PC-ヴィスタ中央制御室。
コロニー全体を管理するメインシステムへのアクセスは
この部屋の端末からしか許可されていない。
しかし本来ならば、このコロニーは全て機械により無駄なく統制されていて
この部屋に立ち入る者はそう多くも無く。
それはコン・ピケン独立共和国の技術力の高さを示す物だが
反面、極力人の手を排除された管理体制は、一度情報を書き換えられてしまえば
それ相応の技術者が現場に居ない限り、修正は難しくもあった。

今この場に居るのは、多丸圭一と多丸裕の二名。
ただ、彼らはメインシステムの修正では無く、異常を引き起こす側だ。
「森が到着次第、コロニー内の全エリアを封鎖」
「解ってるよ。もう少しだ」
システムへの介入を続ける多丸圭一に軽く受け答え
裕は忙しなく動くモニターに目を走らせる。
制御室では各所に設置された監視カメラから、絶えず映像が届けられている。
そこには、既に迷路と化しているコロニー内を行き交う人の姿があり
また、運悪く狭い区域で遭遇してしまったのだろう、銃撃戦を行う両軍の姿もあった。

「出口は残してあるんだから、素直に帰れば良いのにね」
帝国軍の艦へのゲートも、共和国への物も、まだ完全に封鎖してはいなかった。
別にコロニー内にいる人間を全て閉じ込めて排除する事が
多丸たち特務機関の目的では無いからだ。
両軍共に、早々にコロニーから撤退すれば良い。そうすれば撤退する艦隊へ向けて
PC-ヴィスタの力を見せ付ける事が出来るのだから。

「案外誰にも会わない物ね。そこを右。そのまま突き当たりよ」
新川の車は、制御室までかなり近い場所へと古泉たちを送り届けていたのだろう。
古泉が背後からの銃口を気にして走る事僅か数分、ゴールは目前にあった。
扉の前に立つ古泉の横で、森がキーを入力する。
程無くして解除された扉は、音と共に横へとスライドし。
視界が開けたその部屋には、古泉にとって懐かしい顔ぶれがあった。
「ようこそ、SOS帝国軍古泉一樹幕僚総長。……いや、久しぶりだね、一樹くん」
「……圭一さん」
温厚な笑顔を浮かべる人物に古泉は乾いた声で答える。
「悪いけど、感動の再会は後よ」
背中に触れる硬い銃口に押され、古泉は部屋の中央へと足を進めた。
古泉の背後に立つ森と、多丸圭一が軽く声を交わし、頷き合う。
「ここは既に我々の制御下だ。二人も来た事だ、次の段階へ」
コンソールパネルに指を走らせる圭一に、続く全エリア封鎖の人口音声。
「これでもう撤退する艦も出るだろう。そうしたら」
より騒然とするコロニー内各所を映し出すモニターを見つめ、森が圭一の言葉を繋ぐ。
「死の太陽の発射と共に、我々が狼煙を上げる時ね」