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そこを訪ねる時は決まって、星も見えない灰色の夜だ。

古泉は一目で女物と分かる、毒々しいまでに真っ赤な着物を着ていた。
「……趣味悪いな」
「ひどいですね。一枚きりの晴れ着なのに」
服も化粧もあなたのためだと嘯く唇を奪って、華奢な首筋を露わにする。
「どうせ俺が脱がすのにか」
「あなたに剥いで貰うため、ですよ」
小造りな頭を抱き寄せ、匂い立つ白いうなじに噛みつけば、甘えるようにすんと鳴いた。

「会いたかった……」
媚びる声を聞きながら、細い肩から着物を滑らせる。
様々な男の残滓を安物の香でごまかした、血のように嘘っぽい衣が落ちれば、闇にひっそりと浮かぶのは肌襦袢と、同じように白い古泉の肌だけだ。

「あ…ふぅ、」
こんな商売ですっかり作りかえられた古泉の体は、簡単に快楽を拾う。
すらりと伸びた脚を撫で上げて、足袋を脱がす。赤く染めた爪をからかうように舐めれば、細い足首が若魚のように跳ねた。
「……う…っん」
出会った頃より筋肉の落ちた身体は、男にしては薄く女よりは硬く、言葉にしがたい妙な色気を放っている。
既に背も伸びきり、なよやかでもなければ女顔でもない古泉が、ここでそれなりに良い部屋を与えられているのも、こいつの色香にあてられた奴の数を物語っているだろう。

「なにか、難しい顔を、しておられますね」
こんな時だけ昔みたいな言葉を使う。
難解な事ばかり流暢に喋っていた唇は、楚々とした形だけはそのままに、男を誘う言葉を吐く。
「俺以外にもこんな反応するんだろうな」
古泉は何か言いたげな顔をしたが、そのまま滑らかな鎖骨に吸いつけば、口から出てくるのはすぐに喘ぎ声だけになった。

昨晩もさんざん弄られただろう乳首は、布の上からでも分かるほど芯を持っていて、息を吹きかければ触れて欲しそうに震えた。
「あっ…は…も、う……」
「触って欲しい?」
必死で頷く顔は欲望に塗れてるくせに、赤く染まった頬は子どもみたいだ。
素直な反応に気分を良くしながら襦袢をはだけ、色づいた乳首にじゅっと音を立てて吸いついた。
「ぁあんっ」
男にしてはぷっくりと形の確かなそれを揶揄するように、ちろりと舐める。
舌でねぶれば熟れたように赤くなり、まぶした唾液でぬらぬらと光るそこを、痛いくらいにきゅうと摘み上げた。
「ひぁ、っああ」
「こんなに乳首勃たせて…やらしいな」
責める言葉に感じたのか、肌着に先走りが滲んだのが見えた。

「っん、はぁ……」
「そろそろ欲しいだろ?」
俺の股間に伸びたひらひらと白い手を捕まえて、指を吸う。腰にまとわりつく布を取り去ると、ひくつく窄まりに香油を垂らした。
「ゃあっ」
震える内腿を、先走りと混じって温くなったそれがとろりと流れた。
「あ、あ……」
そっと指を添えれば容易く呑み込むそこは、こいつが受け入れてきた男の数だけ柔らかくなっている。
「はあ…ん……」
すんなりと入った三本を動かす。古泉は、まるでそうされている方が自然であるかのように恍惚とした声を漏らした。
慣らすまでもなく解れたそこを揶揄するように、知り尽くした内側の性感帯を撫でる。
「んぁ、そこ……」
古泉は待ち焦がれたように、ねだるような声を出す。
「ここか?」
そのまま気を遣らせるくらいのつもりで執拗に愛撫を施せば、古泉は胸を反らせて身も世もなく喘いだ。

「ひ、ぁんんっ……!ふぁ、ぁんっ」
快楽に溺れる古泉を見るのは好きだ。何も考えずただ目の前の欲望を追う瞳は、俺を映さない代わりに、他の何も見えていないから。
「ふぁ、あ、っあ、もっと…」
「気持ちよさそうだな」
火照った頬を流れる涙を遡れば、子どものように濡れた目にぶつかった。途端、瞳の中の快楽が悲痛に変わる。
「っ…ごめんなさい……」
こいつは、快楽に弱い自分を責める。
流されてしまえばいいのに、与えられる快感にも、それを求める淫らな自分にも、怯えて揺れる。
……馬鹿だな。我に返って顔を隠すように掲げられた腕を、強引に自分の背に回す。
俺が来た頃には既に数多の男を知っていた身体と裏腹に、置いてきぼりの心の方は、時々こうして強過ぎる悦楽に均衡を崩すことがあるらしい。
扇情的に男を誘っておきながら、子どもの頃みたいに震える背を、宥めるように撫でる。
たとえこの無垢さが嘘でも、この哀れな震えが収まるならそれでよかった。
……なんてな、馬鹿は俺だ。

こめかみに流れた涙を吸っていると、このまま動物の親みたいに、全身舐めてやってもいい気がしてくる。
もうお互いどうしようもない昂ぶりが腹にぶつかってるくせに、本当に馬鹿だ。
「あ…もう……だいじょう、ぶ」
古泉が囁く。
唇には紅を刷き、首筋からは白粉と古泉の匂いがしてくらくらするほど色っぽいくせに、背を探る手は迷子のように必死だ。
「嫌じゃない?」
眦に口づけながら古泉が頷く気配を感じる。足を開かせて、淫らに濡れたそこに疼く熱を宛がった。
「ひぁ、うっ…ん……」
ぬちりと水音をたてて雁首を食い込ませれば、あとは根本まですんなりと入った。
「は…やばい」
古泉の中は熱くとろけているくせにぎゅうぎゅうと絡みついてきて、入れただけで達してしまいそうだ。
落ち着くまで待とうかと腰を撫でると、さっきまでの怯えを忘れたように、胎内は挿入の歓喜にやわらかく蠢いて俺を誘う。
「あ、っも、いいからっ……」
「無理するな、」
「っく、ふ、あ…ぁん」
ゆるゆると浅い抽挿をくりかえすと、焦れたように腰を揺らめかせる。
あえやかな声さえ、先までの切羽詰まった喘ぎではなく、媚びるような色がある。
古泉が無意識に見せる淫らさにどうしようもなく劣情をそそられた。

細腰を抱え直して、一気に奥まで挿入する。
「ひぁっ…あっ、あぁ!」
先端で前立腺だけ狙って突き上げると、古泉はあられもなく嬌声をあげた。
快感を享受する器官として慣らされたそこは、もはや激しい抽挿にも傷つく事なく、刺激を欲して蠢いている。
感じればいい。怯える暇もないくらい、媚びも憂いも全部忘れて、ただ快楽だけ追えばいいのに。

「気持ちいい、だろ?」
もう古泉の口からは、意味をなさない喘ぎ声が溢れるだけだった。
抱き寄せた細い背中は、薄い筋肉越しに肋骨を感じる禁欲的な作りのくせに、それを覆う肌は女のように滑らかでしっとりと手に馴染み、容易く快楽を拾う淫乱さをもてあましている。
うっすらと滲む汗からは、こんな時でも変わらない古泉の甘く清潔な香りがして、俺を誘惑する。
「ふぁ…あ、ぁん、ぁあんっ」
「いい?」
「あ、きもち、い…です」
ずちゅっと、腰を落とす度にいやらしい水音が零れる。
腰に絡むしなやかな脚は、快楽に翻弄されるようにひきつきながら、つま先を反らせている。

「あっ、も…だめ…ひぁ……!」
古泉は既にゆっくりと絶頂を極めているようで、先端からは先走りだけではない、白いものが少しずつ漏れていた。
それに合わせて中の方も、精を搾るように強く蠕動をくりかえす。
「……うわ、…っ」
啜り出されるような感覚に負けじと腰を打ち付ける。
「ん、あっ、あ、やっ…んっあぁっ…ああぁあん!」
「……くっ…きつ…」
熱い粘膜の貪欲な収縮に誘われ、俺も古泉の中に出した。

「は、…ふぅ」
そのまま次になだれ込んで、抜く時にはもう、古泉は息も絶え絶えだった。
たった一晩買っただけでこんなに喉を嗄らして、起き上がる体力も残ってないくせに、初夜の娘のように初々しく満ち足りた顔で微笑んでみせる。
「…っん……」
緩んだ窄まりからとろりと流れ出す精と香油に、またその気になりそうな自分を宥めながら、古泉の髪をかき混ぜる。
「後やっとくから寝てろ」
「………」
古泉は俺の掌の下、目を瞑ったまま動かない。もう眠ってしまったのだろうか。
「おい?」
「……ねえ、僕には」
瞼を閉じて、まるで譫言のようにうっとりと微かな声で古泉は囁いた。
「あなただけ、です」
きっと、あなたは知らないでしょうけど。それは毒のように甘い言葉だった。

身体は誰にでも柔く開かれて、言葉は誰へでも甘く偽って。
心は?きっと、その両方を犠牲にしなければ、どこにあるかさえ知れないだろう。
いいさそれでも。俺は古泉の全てを手に入れる事は出来ない。
身体、言葉、心?それどころじゃない。俺の手に入るのは、小金と引き替えの消えていく数時間。それだけだ。
「…おやすみ、射月」
あの頃よりすっかり痩せた背を撫でる。
これが古泉だと知っているのは俺だけだ。古泉自身でさえ、俺が気付いてることを知らないだろう。
それでもいいんだ。