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捕虜の喪失、情報不足のまま会合は破談し、更に続くコロニーシステムの異常に
コン・ピケン独立共和国のルペルカリア艦隊
並びムスペルヘイム艦隊は、PC-ヴィスタからの撤退命令を出した。
まだコロニー内に居る者も多く当然欠員は出ている。
全艦撤退を決めたものの一斉に動くことはせずに
ただ、先行気味の一隻が早々にコロニーを後にした。

それはコロニーレーザーである死の太陽発射の契機となった。
コロニー内はまだ全エリア封鎖はされていない。これから逃げる者も多々いるだろう。
しかし巨大な砲台ほど、撃つと決めて即発射出来る物でも無い。チャージに時間が掛かるのだ。
「エネルギー充填を開始」
コロニー内各エリアが封鎖され孤立していく中、中央制御室でそれは告げられた。
膨大な電力を消費する為にコロニー外装にパネルを展開
コロニー内部ですら電力消費を抑えるべく一部照明が落とされて。
このまま順当に行けば半刻後には退却する艦隊へ向け、全てを飲み込む巨大な光が放たれる。
中央制御室にいる皆がそう思ったその時、それは起こった。

例え多少光量を落とされても、過不足無く光源は確保されているはずだった。
それが緑の非常灯に全て切り替わったのだ。
「なっ……」
コンソールパネルに触れていた多丸圭一が即座に声を漏らした。
「どうしたの!?」
「規定値以上のエネルギーを収集している……何故だ、何があった!」
避難を促すべく、絶えず響いていた人口音声が雑音を残して途切れた。
薄暗い室内で動揺を抑えきれないまま多丸圭一が言葉を続ける。
「動力部に異常が見られる……。くそっ、何で気付かなかった!」
パネルを叩いて立ち上がる背中に詰問する声が掛かる。
「どういう事!」
「解らない……。誰かがレーザー起動時に罠を仕掛けていたとしか思えない。
でもおかしい。機関で得た資料にも、メインシステムにアクセスする時も
こんな痕跡は無かったはずだ……一体誰が……」
「犯人探しは後よ。このままだとどうなるの?」
狼狽も露な多丸圭一へ即座に森園生が問う。
多丸圭一は直ぐには答えず、パネルに指を走らせている弟の裕へと目を遣った。
「規定値超えもそうだけど……エネルギー収集速度も異常だね。
通常で発射準備態勢が整う時間程度が限界かも」
モニターから目を離さずに返す裕の言葉に、圭一が苦い表情を浮かべる。
そうして森へと向き直った。
「つまり、許容量を超えたエネルギーによって融解。コロニーは自壊するって事だ」
非常灯に照らされながら憎憎しげに言う圭一の顔に深い影が落ちた。



「何なんだよこれは!」
キョンと数名の部下はコロニー内で車に乗ったまま半ば立ち往生していた。
携帯端末からの情報だけを頼りに、共和国艦隊が着艦したゲートへと向っていた彼らは
当然撤退命令を受けた共和国兵と遭遇する事になる。
共和国側も混乱しているのだろう、キョンたちSOS帝国兵に構わず走り去る者もいれば
出会い頭に銃を向けてきた者もいた。

『このままでは全エリアが封鎖される。退却は可能?』
非常灯へ変わり、光量の落ちた通路内を
共和国兵の目を避けて行動するキョンの元へ、長門からの通信が入る。
「まだ古泉を見つけてねぇんだよ!」
どうしようも無い焦りがキョンの口調を荒くする。
想定外の事態が起きているのだろうとキョンにも肌で解るのだ。
だが、長門の声は冷淡なままだった。
『落ち着いて。わたしはこれから発艦準備に入り、退路を確保する。
通信機があればあなたの居場所は解る。仮に隔離されても
コロニーの外壁を破壊してでも救出する。だからスーツを着用して』
思わずキョンは小さく息を呑んだ。
「……随分と荒っぽいんだな。内部に閉じ込められたとして
穴を開けてくれるのは助かるが、流石に単身宇宙に放り出されるのはぞっとしないぜ」
『大丈夫、それは最後の手段。そうならないように誘導する』
「ああ、頼むぜ長門。で、古泉を探しつつ俺らは何処へ向かえば良いんだ?
この調子だとあっちの着艦ゲートもどうかと思うんだが」
部下達の装備を再確認し、自らもスーツを着てキョンが問う。
既に何度か銃撃を受けている。
今いる場所が封鎖されていない以上、自軍の艦へと戻る帝国兵に遭遇する率も増すだろう。
古泉を探したいのは山々だが、キョンも部下達の命を粗末には出来なかった。
何としても退路は確保しなくてはならないのだ。
古泉救出を諦めたわけではないと、キョンは自分に強く言い聞かせた。



PC-ヴィスタ中央制御室。
その場に居るのは特務機関所属の多丸圭一と多丸裕、森園生。古泉一樹。
「……許容量を超える前に止める事は?」
森へ向けて古泉が問うが、圭一が首を振ったのが視界に入った。
森は思案しているようだった。

「森さん、我々も逃げるべきでは。それに……
このままコロニーが落ちてしまえば、機関の離反も公にはならないのでは」
一体何を口走っているのかと、自問したいような台詞が口をついて出た事に古泉は驚いた。
それは森も同じだったようだ。目を丸くして古泉を見ている。
その年甲斐も無くあどけない表情に古泉は懐かしさを覚えて。感情のままに言葉を続ける。
「だって、そうでしょう? 森さん達機関が必要以上の痕跡を残すとも思えない。
この場に留まる必要性が無い以上は撤退するべきです。後から理由は幾らでも付けられます。
離反についても証拠や証人がいなければ……」
一息にそこまで喋るも己の矛盾に気付き、古泉は言葉を切った。
「……そうね、古泉。コロニーのメインシステムに侵入した痕跡は、ここが壊れれば当然無くなるわ。
仮にこの短時間のうちに、アクセスして気付いた者がいても
新川が陽動もしてくれているし、共和国兵との衝突による現場の混乱の一つで済むかも知れない。
特務機関は帝国内でも知る人が少ないから顔が割れてもいない。
となると、証人は……あなただけよね」
森の手にある銃が丸腰の古泉へと向く。
「森さん……」
「あなたが絶対に公言しないのならば、このまま一緒に……なんて、言うと思った?」
「僕は……!」
「日和過ぎよ古泉。あなたが特務機関に居た頃にあれだけ厳しく躾けてあげたのに」
森と古泉の遣り取りを横目に、多丸圭一と多丸裕はコロニーの自壊を止める術を探す為に
またシステムの管理権限を再び掌握する為にコンソールパネルに意識を向けていた。
コロニー内は混乱しているのだ。命令の出された共和国軍に続き、帝国軍にも撤退の動きがある。
だから、この期に及んでコロニー内で隔離される危険を冒してまで
中央制御室へ第三者が来るとは誰も想定していなかったのだ。
「取り込み中にごめんなさいね」
凛とした声と共に、中央制御室内に小さな何かが音を立てて放り投げられる。
その直後、光が煌き、爆音が響いた。



涼子・ア・サクラー大尉は補佐官と共に中央制御室に辿り着いていた。
非常灯の弱い明かりを背にサクラー大尉は室内を伺う。
扉のキーは先行者によって解除されている。
本来ならタッチ一つで開く扉だが、内部にいる者が敵か味方か解らない以上
開閉時に僅かにでも音の出る扉を無用心に開ける訳にはいかなかった。
「こういう時はアナログな扉が恋しいわね」
ぼやきながらサクラー大尉は周囲に視線を巡らせる。
「もっと規模が小さければ配管設備から侵入するんだけれども」
「そんな時間は無いでしょう」
「その通りよ。これを使うわ。ゴーグルを忘れないでね」
言いながらサクラー大尉は手榴弾サイズのそれを補佐官へ見せる。
「発煙弾でも良いんだけど。あとが面倒になりそうだからこっちにするわ。
目がやられないように気を付けてね」
「閃光弾にサーマルビジョンは必要ないのでは」
「いつ真っ暗になるか解らないでしょう。手探りで走り回るのは大変なんだから」
サクラー大尉は隙を突いて室内の非常灯を潰すつもりなのだろう。
そうなれば、普通はまだ光のある通路へと脚を向ける。もしくはそちらに目を遣るはずだ。
「いくわよ。中央に投げ入れるから、数秒で人数と光源を把握して」
簡単な打ち合わせの後にカウントを取り、二人は扉を開いた。



強烈な光が視界を焼き、轟音が耳を痺れさせる。
古泉は咄嗟に目を瞑ったが、僅かに見えてしまった光の為に直ぐに視覚が戻らなかった。
だが、これは森や多丸兄弟も同じだろう。古泉は続く銃撃を恐れ、すぐさま立ち位置を移し
閃光弾が投げられた方角に目を向ける。通路へと続く扉は開いているが、人影はなかった。
突然の侵入者が次に狙うのは何か。
答えは直ぐに出た。
レーザーの銃声と共に非常灯が数個消える。
一瞬で全部を落とすのは無理なのだろうが、深まった闇が人の行動を妨げるのは容易だった。
「捕らわれの幕僚総長がこんな所に居るなんてね。脱走の密談でもしていた?」
古泉へと声が掛けられる。脱走と言うからには、相手は共和国側の人間だろう。
「追っ手ですか」
狙いは自分と判断した古泉は両手を上げる。声のした方へと顔を向ければ
セミロングの髪の女性――涼子・ア・サクラー大尉が見えた。
「しかし今はそれよりも、全員脱出するのが先です。お気付きで無いかも知れませんが……」
状況を説明しようとする古泉の前で、銃声と共に人影が動いた。
「見事に邪魔してくれたわね」
一瞬で距離を詰めた森が、サクラー大尉へと襲い掛かる。
相手の抵抗手段を封じるべく、サクラー大尉の手にした銃身を狙い撃ち
次いで肉弾戦を持ちかけたのだ。
森の体術は特務機関内でも飛び抜けて優れている。その森の手刀がサクラー大尉を狙う。
だが、撃たれた銃を取り落としはしたものの、サクラー大尉は慌てる事もなく
森の勢いをいなしながら応戦を始めた。口元が笑みの形に歪む。
「凄いわね。あなた」
森を褒めながらサクラー大尉の脚が舞った。

補佐官は物陰からサクラー大尉と森の攻防を見ていた。
他には丸腰のまま呼び掛けている古泉と、未だコンソールパネル前にいる多丸兄弟。
サクラー大尉が派手に目を引き付けている為に、誰も補佐官に気付いていないようだった。
制御室に居るのは帝国軍では無いだろうと考えはいたが、探していた人物が丁度居た事に
驚きを隠せないのも事実だった。
光源を全て落とすべきか、迷いが生まれる。
女性二人の攻防には、誤射を恐れ介入出来ないだろうと思いながらも、多丸兄弟の動きが不穏だった。
古泉は別として、補佐官には他の三人と面識は無い。だから相手の力量も解らなかった。
パネルから顔を上げた圭一が、激しく動くサクラー大尉に銃を向けたのを視界に入れた瞬間
考えるまでも無く補佐官の手が動いた。
見知らぬその相手が有能な技術者だとしても、補佐官は躊躇無く多丸圭一を打ち抜いた。