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「ねぇチカ」
夜の少し冷たい風が二人の頬を撫でた。
「何だ、蘭」
「コレ、取っていい?」
どうなってるのか知りたいんだ
蘭丸は元親の眼帯に指を絡めた。
「駄目だ、蘭。止めろ」
緩く静止の声を掛ける。
それでも蘭丸は指を絡めたまま。
「なんで?」
「ダメだから」
「ふぅん…」
蘭丸はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
元親はこれで諦めてくれるかと思ったが、蘭丸はまだ眼帯を触っている。
「ねぇチカ、こっちの目って…無いの?」
蘭丸は目を伏せ、俯いた。
その肩は、微かだが、震えていた。
「いや…ある。…そう、あるんだ」
元親は自分に言い聞かせるように二度言って、唇を噛んだ。
「?」
蘭丸は首を傾げると、じゃあ、と言った。
「なんで目あるのに眼帯してるの?」
不思議そうに言って、眼帯から手を離した。
ドキッとした。
目があるのに何故眼帯をしているのかなんて、自然に浮かんでくる疑問だった。
当然聞かれるとは思っていたが、やはり聞かれればドキッとする。
「言えない事なら、無理して言わなくてもいいよ?チカ…」
蘭丸は自分に気を遣ってくれている。
出来れば言いたくない。
蘭丸の言葉に甘えたい。
でも相手は愛しい愛しい恋人。
いつまでも秘密にしておくのは気が引けた。
少しぐらいなら…そう思った。
一度深く息を吐いてから、蘭丸に向き直った。
「それはな…」
-それは、元親がまだ子供だった頃の事。
ある日の夜、元親は夢をみた。
それには黒衣を着た男が出てきた。
その男の瞳は血の様に紅く、月の光を受けてギラギラと妖しく輝いていた。
その男が自分に話し掛けてくるのだ。
「お前のその目と私のこの目を交換しないか」と。
その時、自分は「うん」と答えた。
紅く輝くその目があまりにも美しくて。
手に入れたい、自分のものにしたいと、片方だけでもいいから…と願った。
すると、男は満足そうに笑みを浮かべると、元親の左目に手を伸ばした。
「目を閉じて。その瞼の裏に陽の光が差し込むまで、絶対に目を開けてはいけない」
そう言って閉じられた左目に軽く、優しく触れると、そっと撫でた。
「じゃあ、この目は貰っていくからね。ありがとう」
黒衣の男はスーッと消えていった。
その瞬間、闇が訪れた。
と思ったら、もう朝だった。
チュンチュンと小鳥が鳴いている。
『あれ…、もう朝か…』
起き上がろうとすると、左目がズキズキと痛んだ。
「っ…」
酷く痛む左目に手をやると、
焼け付くような激痛に襲われた。
「ぅ…あ?…ぐああぁぁあぁっ!痛いっ!痛いよぉ!誰か…助けて!」
その叫び声に気づいた母さんが走ってきて、
「どうしたの!?」
と言って押さえていた手を退けて目を見た。
「…っ!?何…?この目…」
母さんは驚きながら、左目を見ていた。
ずっと…。
その日の夜、母さんは死んだ。
赤い涙を流しながら。
満月の夜だった。
父さんは行方不明になった。
その後も、満月の夜に元親の周りで必ず何かが起こった。
これ以上被害を出さないようにするために、子供だった元親は眼帯をすることにしたのだった。
そうすることで、被害が減ると考えたのだった。-
元親は蘭丸に語った。
この眼帯はみんなのためであり、…自分のためでもある、と。
その後、暫く沈黙が続いた。
それは酷く静かなものだった。
だが蘭丸が口を開いたことによって沈黙が破られた。
「そう、なんだ…。ねぇ、チカ」
でもその被害って、見る度にに起こるわけじゃないんでしょ?
蘭丸は言った。
「まァ…な」
「蘭丸さぁ…その…チカが魅了されたっていう紅、見たいんだ」
「はっ…?」
今何つった?
蘭丸の見たいという言葉に元親は目を見開いた。
「…そんなの、駄目に決まって…!」
「大丈夫。蘭丸は死なないよ。」
信じて…
蘭丸は紫色の眼帯をするりと外した。
「っ!駄目だ!」
刹那、元親は目をぎゅっと瞑り、拒絶した。
そんな元親を見た蘭丸は、少し悲しそうな目をしていた。
「チカ…」
蘭丸は元親の名前を小さく呼ぶと、自分の唇を元親のそれに押し当てた。
「蘭…?」
ふわり、とした感触と、甘い香りに元親は目を開いた。
「大丈夫。だから、蘭丸に…見せて?」
蘭丸は元親の頬を両手でやんわりと包み込むようにして紅い目を見つめた。
「うわぁ…ホントに紅いね…綺麗…吸い込まれそう…」
うっとりと紅を見つめる蘭丸に元親は静かに尋ねた。
「今日の月って…」
「…満月」
はっと息を呑んだ。
「嘘…だろ…?」
声が震えていると、自分でもわかった。
まさか、そんな…
目の前が真っ白になった。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
もう、誰も失いたくないんだ。
「蘭っ…」
ぎゅっと蘭丸を強く抱き締めた。
蘭丸の細い体に元親の太い指が食い込む。
「っ…チカ、痛いよ。…全く、チカは甘えん坊だなぁ」
よしよし、と蘭丸は元親の白くて堅い髪を撫でた。
何度も何度も、優しく。
「……」
元親は、ふと思い出したように空を見た。
星たちがキラキラと輝き、自分の存在を主張し合っている。
美しい黄色の光を放っていた満月は、星空の中心を目指しながらだんだんと赤みを含んでいき、不気味に輝いていた。
その月が、完全に空の中心に昇りきった。
-その時
「ぅあ…」
蘭丸がガタガタと震えだした。
「蘭っ!おい、どうした!蘭丸!」
肩を掴み、体を揺するが、反応が無い。
あぁ…大切な恋人まで奪うのか?この紅(目)は…
元親は泣いた。

ぐるぐると記憶が自分の周りを回っている。
『ここは…何処だ?チカは…?』
真っ暗な闇の世界で、蘭丸は記憶をみていた。
『これが走馬灯?…何か微妙な記憶ばっかだな』
幸村をからかって遊んだこと、政宗から野菜を貰ったこと、小十郎が困っていたこと、いつきをいじめたこと、織田の皆で花見に行ったこと、全国の武将たちと祭りをしたこと。そして、信長に出会ったこと。
沢山の思い出。
『懐かしいなぁ』
蘭丸は自然と笑顔になっていた。
『あれ?でも…』
一番大切な記憶が…
元親との思い出が見つからない。
『なんでだろ…ま、いっか…』
蘭丸が見つめる先で、どんどん記憶が消えていく。
『チカ…死んだら、ごめん…』
その中で、蘭丸はゆっくりと目を閉じた。

-…ぃ、…ぉい!蘭丸っ!
「ぅわあっ!」
聞き慣れた声。その大きな声に、蘭丸は飛び起きた。
「…蘭?」
声のする方に目をやると、そこには見慣れた顔が。
自分の名前を呼ぶ、大好きな声の主は…
「ん…ち、か?」
真っ白な頭に浮かんできた名前を呼ぶと、その人は、涙を流しながら自分を抱き締めた。
「蘭…よかった…!」
ぼんやりとしていた頭が徐々に覚醒していく。
そうだ。自分はチカの目を見て…
蘭丸は元親に抱き締められながら空を見上げた。
何処までも青く、雲ひとつ無い空。
「…朝?」
「ん?…あぁ、お前あの時からずっと眠り続けてたんだよ」
本当に心配したんだからな
元親は言った。
「うん…ごめん」
あ、と元親は大声を出した。
「ぅわっ、いきなり何大声出してんだよ!」
「おぉ、悪りィ悪りィ。…ところでお前、大丈夫なのか?」
「何が?」
さっきから何なんだよ。意味わかんねぇ。と蘭丸は唇を尖らせながら呟いた。
『大丈夫そうだな…』
「いや、何でもねェよ。」
「ふぅん?変なチカ」
蘭丸は頬を膨らませながら言った。
「変たァ何だ、変たァ」
そう言って蘭丸を見ると、可笑しそうに笑っていた。
「やっぱりお前は笑顔が一番だな」
笑いながら頭を撫でてやると、蘭丸は嬉しそうに摺り寄ってきた。
猫なら、ゴロゴロと喉を鳴らしているところだろう。
「猫みたいだな、蘭は。」
「猫?」
蘭丸は不思議そうに元親の顔を見た。
「あぁ、そうだ。まず可愛い、だろ?」
「わかんねーし」
「次、ちっこい」
「関係ないだろ!」
「ハハッ!んで、気まぐれ。」
「そうかなぁ」
「あぁ。すぐ俺から離れていっちまう」
「…?」
蘭丸は元親の言葉に、首を傾げた。
「そうなの、か…?」
「あ?」
蘭丸は、何を言われているのかわからないという表情をしていた。
「お前…忘れちまったのか?」
「え…?」
「まァ、いいけどよ…」
よくねぇよなァ…
元親は悩んだ。
『取りあえず、魔王んトコに返しておくか…』
「ところで蘭。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「何処に?」
「あー、魔王ンとこ」
正直返したくなかったが、蘭丸をずっと此処に置いておくのはマズイと思った。
のだが…
「魔王?誰?」
「は…?まさかお前、忘れたのか!?自分の主を!」
「えー…?」
ふざけているのかと、思った。
「いいか、お前は織田軍の一員で、織田信長の小姓なんだよ。わかるか?」
「織田信長?小姓…?わかんないよ…」
頭の上に疑問符を沢山並べている蘭丸を見て、直感した。
『コイツ、記憶を無くしやがったのか!?』
今までいろんなことがあったが、特定の記憶だけが無くなる、という現象には出会ったことは無かった。
「蘭、真田幸村って知ってるか?」
「んー、知らない、かな」
「じゃあ、俺は誰だ?」
「チカ。」
「本名は?」
「長曾我部元親。」
「…そうか…」
「?」
不味い、か…
そういえば、明日安土城んトコで全国の武将が集まる祭りをやるって聞いたな…
丁度よかった。それに蘭を連れていくか…
「蘭」
「なに?」
「明日祭りがあるんだが…行くか?」
「祭り!?」
「あぁ」
「リンゴ飴買ってね、チカ!」
キラキラと蘭丸の目が輝いている。
「ハハハ、しょうがねぁなぁ!」
「やったぁ!」
蘭丸は嬉しそうに笑った。




その笑顔が眩しくて、俺は蘭丸を直視することが出来なかった。
















この笑顔を、大切な人を、護りたいと、強く心に誓った。

そして、この、紅に…




                  魔眼-紅月-
                         手に入れたもの、失ったもの