第九十七話


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320 :万夜 ◆NMnaoT1HrA :2008/08/23(土) 06:29:27 ID:Y5r+kRqz0
【ピンポンダッシュ】 1/3

ある夏休み、夜中にパソコンをしていて時計を見るとちょうど1時。
さあ寝るかと思い、立ち上がった瞬間『ピンポーン』とチャイムが鳴った。
背筋がゾクっとした。誰だってこんな深夜にチャイムが鳴ったら驚くだろう。
慌てて暖かい布団に頭から潜り込んだ。
しかし『ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン』となおもチャイムは鳴り響く。
最初は布団に篭りながら無視していたが、だんだん恐怖よりも怒りの感情のほうが大きくなっていった。
(うるせえよ) 心の中でそう呟きながらチャイムを鳴らしてる奴の顔を確認するため
居間の壁についている玄関モニターの前に行った。
このモニターは玄関付近から突き当たりのエレベーターまでを映すことができる。
(どんな奴なんだろ) モニターのスイッチを押すとエレベーターまでの廊下を含めた玄関付近が映し出された。

チャイムはまだ鳴り響いている。

だが玄関付近には誰もいない。

(え、なんで!?)と思ったのもつかの間、突如チャイムが鳴り止んだ。

静寂がモニターの前に立ち尽くす俺を包み込む。

数十秒ほどボーっとモニターの画面を見ていたその時、画面の中で変化が起きた。

俺の部屋(706号室)よりエレベーターよりの隣の部屋(705号室)のドアが勢いよく開けられたかと思うと
住人のおじさんが何か叫びながら出てきたのだ。そしてしばらくして不思議そうに辺りを見渡すとまた部屋に戻っていった。
この異様な光景を目の当たりにした俺は不思議に思いながらも結局睡魔には勝てず布団に戻り眠ってしまった。


321 :万夜 ◆NMnaoT1HrA :2008/08/23(土) 06:30:12 ID:Y5r+kRqz0
2/3

次の日、1階のエントランスホールで
昨夜モニター内で不審な様子を見せていた705号室のおじさんと管理人さんが深刻そうな顔で話しているのを見かけた。

「どうかしたんですか?」と事情を尋ねると、

おじさんは疲れた顔をしながら
「いやそれがな。 昨日夜1時ごろやったかな、寝ようと思ったんや。
そしたらチャイムが『ピンポンピンポンピンポンピンポン』うるさくてな。布団入っても寝られへんのや。
だから止めさせようと思って「誰じゃ五月蝿いわ!!」って叫んで玄関のドア開けたんや。
そしたらな誰もおらへんのや。辺り見回しても誰もおらへんからあれ?おかしいなーって思ってんけど。

その時、低い男の声でな。

『ゴンニヂハ』

って聞こえたと思うとすぐにエレベーターのほうに向かって
『ダダダダダダダダダダッ』って勢いよく走っていく足音が聞こえてん…。」

おじさんは誰もいないことを不思議に思いながらも、チャイムが止んだので布団で眠ってしまったのだが
今日になってだんだんと怖くなり管理人さんに相談したのだという。

「イタズラじゃないんですか?実は…」と俺も昨夜体験したことを話そうとすると

管理人さんはそれを遮り困ったような顔でこう言った。


322 :万夜 ◆NMnaoT1HrA :2008/08/23(土) 06:31:42 ID:Y5r+kRqz0
3/3

「実はねえ…昨夜の件だけど…苦情があったのは今Sさん(705号室のおじさん)が話してくれた1つだけじゃないんだよ」

(…え?)ドキっとした。

管理人さんは続けて言う。
「今朝方のことなんだけどこのマンションの1階から11階まで各階の住民達から苦情があったんだ。
チャイムが五月蝿い、変な声が聞こえる、どうにかしろってね。しかもどれも時刻は深夜1時前後…。」

事が起こったのは深夜1時前後らしい。ほとんどの住民は寝てる時間だ。
だけど偶然起きてる住民もいないことはないだろう。
現に俺だって起きていたんだから。
でも偶然起きているそれらの住民の部屋で偶然チャイムが鳴らされることなんていうことがあるのだろうか。
仮にもここはマンションだ。廊下からは部屋の中は判断しづらい。
だが起きていた住民達がチャイムを聞いていたということは…。

俺は心の中で結論付けた。

あの夜、1階から11階まで全ての部屋のチャイムが鳴らされたのだ。しかも深夜1時前後という僅かな間で。
姿が見えない何かの手によって。

おそらくあの晩、俺も勇気を出して玄関のドアを開けていたら聞いていたのだろう。

『ゴンニヂハ』という声を――。


―完―