第八十八話


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293 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 05:05:39 ID:/76O1pUN0
「落ち着く先」1/3

先年、祖母が亡くなった後の話です。

100歳近かった祖母は、大腸癌だったが高齢にも関わらず奇跡的に手術でき
手術の後家に戻り、結局自室の介護ベッドの上で亡くなった。
医師の話によると、癌というよりは全体的な老衰死で
最後はゆっくりと心臓が止まって亡くなったそうだ。
確かに苦しんだ形相はして居なかったが、むしろ亡くなる前後より
癌の手術後どんどん動けなくなり、脳の機能も一気に低下していき
記憶も人格もあやふやになり、狂気と正気の時間を行き来していた時期のほうが
本人も周囲も苦しんでいたように思う。

自分は、母と二人で祖母の面倒を昼夜交代で見ていたので
祖母が死んでしばらくは、ふとした瞬間に呼ばれてる気がしたり
寝ていると祖母が出てくる夢を良く見た。
夢に出てくる祖母は、自分に謝っていたり、母の体調を気遣っていたが
何故かいつも遺体と同じ顔色をしていた。
身内が死ぬのは初めてだった為に、その印象が強烈に焼きついたのかもしれない。


294 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 05:07:28 ID:/76O1pUN0
2/3

そしてある時、また夢を見た。四十九日が終わって、しばらくしての事だ。

寝ていた自分は、いつもの様に祖母に呼ばれた。
祖母は生前のように介護ベッドに寝ていたが、何故かベッドごと半透明だった。
そして「寂しいんだ」と言った。

「寂しいって、なんで?」
「誰も来なくなって寂しいんだ」

確かに、四十九日に祖母の部屋にあった祭壇を片付けた後は
位牌は茶の間の仏壇に収められ、以前のように家人や親戚が出入りする事も無かったし
祖母は寂しがりで、寝たきりになってからは用がなくても
昼夜問わず自分や母を呼ぶ事が多かった。
夢の中の自分は何故か、祖母が亡くなっている事を理解しており
「寂しいっていったって、いつまでもそこで寝てる訳にも行かないでしょう?」
 もう祭壇も片付けちゃったから、もう誰も来ないよ。
 位牌もあるんだから、そっちに行かなきゃ駄目だよ」と答えた。

「おれは脚が悪いから動けないし、起きられないんだ」
「死んだんだから、もう動けないってことないでしょ?
 ほら、連れてってあげるから向こういこうよ」



295 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 05:09:54 ID:/76O1pUN0
祖母は以前から足が悪く、一人では起きも歩きも出来ず
手術後は自分で寝返りを打つことすら出来なくなっていた。
それにしても、夢の中にしろなんで死んだ後は動けると言ったのか、自分でも判らない。
生前のように起き上がらせてやり、手を引っ張ると祖母は起き上がった。

「ああ、動けるなぁ」
「そうでしょ?動けないって思ってただけだよ」

自分は祖母に肩を貸し、茶の間に連れて行った。
何故茶の間に連れて行けばいいと思ったのかも判らない。
母が「四十九日過ぎたら仏は位牌に入るんだよ」と言ったせいかもしれない。
茶の間の障子を開けると、母が座ってTVを見ていたが
こちらには気付かないようだった。
「ほら、ここだよ」と言って仏壇を指し示すと、肩に縋っていた祖母はすうっと消え
そこで自分も目が覚めた。

後に聞くと、母はその時間茶の間でTVを見ていたそうだ。
そして、その後あれほど立て続けに見ていた祖母の夢をぱったり見なくなった。
本当に自分が祖母を収まる先に連れて行けたのか、只の夢かは判らないが
少なくともあれ以来、自分の中の祖母は落ち着く先に落ち着いたんだと思う。

【完】