※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara2/1247988782/l50

935 名前:ウメネタ[sage] 投稿日:2009/09/19(土) 17:45:17 ID:jDoV5kQw
気付かなければよかったのかな。
もしそうなら、こんな思いをすることも無かったのに。

ちっちゃくって可愛い子、というのが出会ったときの感想だった。
本当に可愛くって、ぎゅーっとしたいなーなんて思ったりして。
気が付けばそうすることが日課になったりしていた。

抱きしめると柔らかくて暖かくて、胸にすっぽり収まって。
しょうがないですね、なんて少し困ったような笑顔を向けてくれて。
長いティータイムにはときに不満げな顔を見せたりしていて。
ほいっとケーキをさしたフォークを差し出すとほわっと笑顔を見せてくれて。
真面目に練習すると、とても嬉しそうな顔をしてくれて。
ここ難しいなーって悩んでると、丁寧に教えてくれたりして。
弾けるようになると、まるで自分のことのように嬉しそうに笑ってくれて。
色んなキミが少しずつ私の中に積み重なってきて。
それは全て私の全部大好きなものだった。

そう、大好きになってた。

平沢唯は中野梓のことが大好き―なんて。

それが自分の中にあったのは、いつからだったんだろ。
それは初めてあの子を見たその瞬間かもしれないし。
もしくは初めてあの子に抱きついたそのときかもしれないし。
ひょっとしたら、初めてあの子の奏でる音を聞いたときかもしれない。
わからないけど、でも。
今それがここにあるということだけは、確か。
だって今も、こんなにも胸が苦しいから。

可愛いものが大好きで。
美味しいものが大好きで。
友達が大好きで。
妹が大好きで。
家族が大好きで―
私に触れるもの、みんな大好き。
そんな風にずっと大好きを振りまいてきて、ずっとそうして生きていくんだと思っていた。
一番なんてない。みんな大好き。どれかを選べなんていわれても、わかりません、なんて。
当たり前と気が付かないほどに、それが私だったはずなのに。
936 名前:ウメネタ2/2[sage] 投稿日:2009/09/19(土) 17:46:06 ID:jDoV5kQw
先輩―ってあの子は私を呼ぶ。
彼女の上の学年であるという条件、その数多の中の一人が私。
唯先輩―ってあの子は私を呼ぶ。
同じ部活の仲間という意味で、他の人よりも親しいとは思うけど。
そう言って、向けられる笑顔は私にそれを信じさせてくれるけど。

だけど、それは私が望むものと、望んでしまっているものとはきっととても遠いもの。
だから、それを向けられる度に、私の胸はきゅうって苦しくなる。

澪先輩―ってあの子は口にする。
篭められているのは、羨望。私には向けられることのないもの。
いつか憂が言ってた。お姉ちゃんにするなら澪先輩がいいって、そう話してくれたことを。
少しだけちくりと胸が痛んだけど、しょうがないことだって思う。
怖がりで恥ずかしがりやではあるけど、澪ちゃんはしっかりしてて、頼れる人だから。
あの子が慕うのも、無理がないことだと思う。

あずにゃん―

そう呼ぶと、あの子はくるりと振り向いて。
どうしたんですか、と優しい笑みを浮かべこちらに近付いて来てくれる。
ぎゅうっと抱きしめれば、きっと最初少しだけ驚いて、しょうがないなって笑顔をまた見せてくれるんだろう。

ねえ、もし私が―
そう、例えばきゅうっと抱きしめて捕まえてしまって、そのまま誰の手にも届かないところまで逃げてしまったら。
キミはどう思うのかな。
キミは私の一番で、キミの一番を私にして、なんて口にしたら、どういう顔を見せてくれるのかな。
―そんなこと、できるはずがないけど。

私は先輩。キミの先輩。そのうちの一人。
少しだらしなくて、抱きつき癖があって、頼りがいのない先輩。
きっとそれ以上にはなれない。私がどんなに想いを募らせても、胸の痛みが強くなっていくだけ。
何処まで強くなっても、私が私でいられなくなるほどになっても、きっとそれは変わらない。
やめてしまえばいいなんて思うこともあるけど。
でも、それもきっと無理。だって、どうすればいいかわかんないし、そもそもそんなつもりなんて欠片もない。
だって、私は何処まで言っても、キミを大好きな唯先輩ですから。うん、それだけは絶対に、変えたくない。

肩にかかる重み、それを確かめるようにピックを振り下ろす。
応えてくれるのは、いつもの音色。いつもの私の音。私の指が、私の音を奏でていく。
目の前のあの子は、少しだけ目を丸くして、でもやっぱり、優しく笑ってくれた。
音が重なる。キミの音と私の音、今この瞬間は一つの音になる。
それでいい。それだけでいい。それだから―
私は今こんなにも幸せだと思えるから。

だけどね、やっぱり思ってしまう。
この音のように、私の思いも、私たちの思いも一つになってしまえばいいのにって。
そんな奇跡が起きてくれればいいのにって。

なんて、無理だよね。あずにゃん?








すばらしい作品をありがとう