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257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 13:44:24.45 ID:WLo0G95R0
 エージェントの出現する扉から、四、五人の子供達が現れ、たちまち唯先輩を取り囲んだ。
 子供達は、顔を見合わせてから呼吸を整える。
 そして、一人の太った男の子が、ゆっくりと唯先輩を指さした。

「この姉ちゃん、妹に勉強教えてもらってるらしいぜ」

「本当ですか、バカですねー」

「バーロー。頭の良し悪しはこの際どうでもいいのぜ。見てみろ、あの胸を!」

「なっ」

「なんだってー!?」

「う、薄いですね!」

「俺の見立てによると、彼女のバストはななjy 「うわあああっ!!」 アンダーがろくjy 「ほわあああっ!!」 ってところか」

 一番重要な部分を唯先輩の叫びによってかき消されてしまった。
 さすがにアンダー六十前半ではないだろうから、トップが七十後半だとしてもAかB?
 あ、でも見立てか。ていうかこの少年なんでそんなこと分かるんだよ。
 いずれにしても私よりありますよね、きっと、多分。……絶対。畜生。
 いや、でも私はまだ成長するし。背とかも伸びるし。
 とりあえず、あの少年は後でとっ捕まえて話を聞くことにしよう。うん。それがいい。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:47:49.86 ID:WLo0G95R0
「幼児体型だッ!」

「幼児体型ッ!幼児体型ッ!」

憂「萌えッ!幼児体型萌えッ!幼児体型が世界を救うッ!」

「幼児体型ッ!!」

「幼児体型ッ!幼児体型ッ!」

憂「お姉ちゃんが世界を救うッ!幼児体型ッ、それは荒涼せし俗界に降り立つ鮮美透涼たるメシア!」

 子供たちは囃し立て続ける。
 なんかあからさまに知ってる子が一名混じっていたけど見なかったことにした。

唯「う、う……うわああああん!」

 泣き叫びながら私の胸に飛び込んでくる唯先輩。
 ああ、隣のマスに居て良かった。

 それを見届けた子供達は、走りながら扉の向こうへと消えていった。
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 13:50:42.71 ID:WLo0G95R0
梓「子供相手に泣かされないでくださいよ」

唯「だってえ……」

梓「いいじゃないですか、幼児体型だって。……じ、十分、かわいいんですから」

唯「……そっか、あずにゃんも幼児体型だもんね」

梓「そうそう、私も幼児た……なんだって?」

唯「痛い痛い痛い痛い、ごめんなさいごめんなさい」

 頬っぺたぎゅーーってしてやった。

唯「うぇぇ、酷いよあずにゃん」

梓「余計な事を口走るのがいけないんですよ」

唯「ぶー、本当のことなのにひゃい、いひゃいいひゃい」

 反対側もぎゅーーってしてやった。
266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:53:26.07 ID:WLo0G95R0
律「おい、お前らー」

梓「どうしたんですか?」
唯「ふぉうひふぁの、りっひゃん?」

律「いちゃいちゃするのは勝手なんだがー……」

 律先輩はそう言って、やや前方にいるムギ先輩に視線を送る。
 否定したくはないけれど、私の口は勝手に「してません」と反論を返していた。

律「ムギがそろそろやばそうだから続けていいか?」

 パパウパウパウという効果音と共に両手を合わせて片膝をつき、
 口は「あぁん」の発音で固まり、舐めるような視線を私と唯先輩に送り続けている。
 私と目が合ったムギ先輩は、はっ、として首を左右に振り、
 その後で、私に向けて口パクでメッセージを送ってきた。
267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 13:56:18.83 ID:WLo0G95R0
 一語ずつ、解読する。
 えーと……

 「も」

 「っ」

 「と」

 「や」

 「れ」

 ……なるほど。

梓「律先輩、サイコロどうぞ」

紬「あぁん!梓ちゃん意外と加虐性欲者!」 フヒィーーン

梓「日本語で言わないでください」

 性欲者言うな。
 ちなみに英語だとサディズム。人を指す場合はサディスト。

 ……なんの話をしているんだ、私は。
268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 13:59:29.43 ID:WLo0G95R0
律「よし、梓にずいぶん差つけられちゃったから飛ばしていくぜ」

 気合を入れて律先輩が投じたサイコロは『4』
 『5』マス目ってことは……、ああ、腹筋か。

憂「一緒ですね、律さん」

律「ああ、足頼むよ。憂ちゃん」

憂「はーい」

律「なんていうかさー。このマス三人目だし、おいしくもないよなー」

 今度はぼやきながらサイコロを投じる。
 芸人かなんかですかあなたは。

 出た目は『2』

律「十回か。ダメだな、やっぱり今日の私はついてないらしい」

憂「どうしてですか、『2』ならそんなに辛くないですよ?」

律「いやいや、面白さ的にだよ」

 その髪型で言われても説得力に欠けるんですけど、とは言わなかった。
270 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 14:02:45.26 ID:WLo0G95R0
 続いてサイコロを振るのはムギ先輩。

 出た目は『6』

 ムギ先輩の現在地は『3』だから、……む。私と同じマスか。

紬「いち」 パパウパウパウ
紬「にっ」 パパウパウパウ
紬「さん」 パパウパウパウ
紬「しっ」 パパウパウパウ
紬「ごー」 パパウパウパウ

紬「追いつきましたー♪」パパウパウパウ

唯「……」

 唯先輩、もう完全に笑ってますよね?

梓「でもここ、豆腐ですよ」

紬「そうね、振れるのかしら……」パパウパウパウ

 てっきり、全て把握しているものと思っていたけれど、
 今回、ムギ先輩はパネルの命令には絡んでいないのだろうか。
271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 14:06:43.49 ID:WLo0G95R0
紬「だって、分かっちゃったら私が楽しめないじゃない」パパウパウパウ

梓「ああ、なるほど……。ていうか、心読むのやめてもらえませんかね」

 どこぞのスタンドですかよ。

紬「自覚がないのね。梓ちゃん、時折声に出してるわよ?」パパウパウパウ

梓「え。まじですか」

紬「ほら、ジェットコースターの時とか」 

梓「ああ、声に出してましたね」

紬「『正解は、『9』マス目でしたー。 わーい』の件とか」

梓「……あー」

紬「『密・着・状・態!!』とか」

梓「声に出しちゃいけないとこばっかりじゃん!?」

 がっくりと膝をつき意気消沈する私に、ムギ先輩は優しく囁いた。

紬「安心して、全部嘘よ♪」

梓「……なんだ、良かった。もう、脅かさないでくださいよ」

 危うく騙される所だった。何か大切なことを忘れている気がしたが、問題ない。
 私の名誉は守られたのだ。
273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 14:15:47.19 ID:WLo0G95R0
唯「次、澪ちゃんだよー」

澪「あ、ああ。もう私の番か」パパウパウパウ

 今更だけどこれ、全部罰ゲームみたいな命令だよな。
 そんなことをぼやきながらサイコロを振る澪先輩。
 本当、今更ですね。
 私は気付いてましたよ、……ムギ先輩が絡んだあたりから。

 澪先輩が出した目は『4』
 現在地が『3』だから、スタートからみて『7』マス目。
 まだ命令が判明してないマスだ。位置的には唯先輩の一つ後ろ。


  『昇天ペガサスMIX盛り』


澪「なにがっ!?」

 ご尤も。述語を書け、と。横着すんな、と。
 いや、無くても多分わかる人には分かるけど。
 早々にエージェントに取り囲まれる澪先輩。

澪「え、ちょ、ちょっと!?」パパウパウパウ
276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/09/22(火) 14:25:33.39 ID:WLo0G95R0
 ――十分後。

澪「……」

唯「……」

律「……」

梓「……」

律「……さて、次はだな」

澪「スルーすんなぁーー!!」パパウパウパウ

律「さっきの仕返しだぜ」

 にやにや、と嬉しそうな律先輩。

澪「どうするんだよこの髪型!? これじゃ外歩けないじゃないか!!」パパウパウパウ
280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 14:33:43.21 ID:WLo0G95R0
唯「え、でも澪ちゃん」

澪「な、なんだよ……」パパウパウパウ

唯「すっごくかわいいと思う」

律・梓「(まじで!?)」

澪「……本当に?」パパウパウパウ

唯「かわいいよぅ」

澪「あ、ありがとう」フヒィーーン

唯「ふ、ふふ」

澪「……笑ってるじゃないか」フヒィーーン

唯「ふふ、あはは! ……ち、ちが、これはその、音の方で」

澪「ゆ、唯のばかーーーっ!!」フヒィーーン

唯「あははは! あぁん、澪ちゃん違うんだよぉ!!」

 ああ、分かります唯先輩。
 なんでこのタイミングで、『フヒィーーン』が三連発なんだってことですよね。
 さっきまで比率8:2くらいだったじゃないか、と。
 一応、後でフォローしておいてあげるか。
302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:45:44.93 ID:WLo0G95R0
 ひと段落したところで、憂へとサイコロが渡る。
 先程と同じ流れで、奇声を上げながら『3』を狙うが、出た目は『5』
 私を抜いてトップに躍り出たというのに、なぜか異様に悔しがっていた。
 そして期待のマス目は――

  『侍られる』

憂「……」

 え?
 なにそれ。
305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:47:58.50 ID:WLo0G95R0
 エージェントが豪奢な椅子を運び、憂を座らせると、「どうぞ」と言って
 ストロー付きのトロピカルフルーツと鳩サブレーを差し出した。
 傍らで、もう一人のエージェントが葉っぱ団扇を使って侍る。

憂「ど、どうもです」

唯「えー、いいなぁ憂~」

 所在なさそうに、鳩サブレーにかじりつく憂。
 羨ましそうに口を半開きで凝視する姉。

 このすごろくの主催者は、一体なにがしたいんだ。
306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:49:35.63 ID:WLo0G95R0
 次の順番は私。
 憂には負けていられないな、と気合を入れたところで、
 ふわっふわの絹ごし豆腐が手渡された。

梓「……」

紬「がんばって、梓ちゃん」パパウパウパウ

梓「一応、投げれるような豆腐かもしれないって、薄っすら期待はしてたんですけど」

紬「ふふ、そう言うと思ったわ」

梓「いや、誰でも言うでしょ」

紬「そこで――これよっ!!」

 パパウパウパウ!

 ああ、やっぱり効果音それなんだ。 
307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:50:59.03 ID:WLo0G95R0
 ムギ先輩が取り出したのは、半透明の板?のようなもの。

梓「なんですか、それ」

紬「超・衝撃吸収ゲルよ」パパウパウパウ

梓「はぁ」

紬「この上になら、ビルの屋上から生卵を落としても割れることはないわ」パパウパウパウ

梓「まじですか。すごいですね」

 棒読みで答えた。

紬「ゲル状がいいの」パパウパウパウ

 嬉しそうに、床にゲルを敷くムギ先輩。
 なるほど。確かにぷにぷにしてるし、衝撃は吸収してくれそうだ。

紬「さあ、どうぞ!」パパウパウパウ
309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:53:11.86 ID:WLo0G95R0
梓「わかりました。それじゃ、いきますよー」

 そっと、狙いを外さないようにアンダースローで豆腐を放った。
 ゲル状以外のところに落ちてしまえば、台無しなのだ。
 私のコントロールはばっちりだったらしく、豆腐は狙い通りゲル状の板へと落下していく。

 さあ、いくつだ!
 数字はいくつだ!

 ……数字?

梓「数字ないですよ!?」

 気付いたところでもう遅かった。
 サイコロではない、豆腐なのだ。
 なんの変哲も無い絹ごし豆腐なのだ。
 数字なんぞ彫ってある方がこの場合おかしい。
310 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:55:20.85 ID:WLo0G95R0
そして、豆腐は綺麗な放物線を描いて落下し、ゲルの上でべちゃりと潰れた。 

梓「……」

紬「……」

 潰れたじゃん。

梓「あの、ムギ先輩」

紬「心配しないで、スタッフが後でおいしくいただくから」パパウパウパウ

梓「いやそういうことを言ってるんじゃなくてですね……」

 めんどくさいなぁ!もう、突っ込むのめんどくさいなぁ!!

 エージェントがそそくさとゲル状を回収し、唯先輩の手へとサイコロが渡る。
 本当にただの一回休みだったらしい。
312 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:57:43.58 ID:WLo0G95R0
 自重を知らない巨大すごろくは、思いのほかゴールまでの道のりが長く、
 かつ道中の命令が地味にキツい、という、先月のあの企画と大して変わらないカオスの様相を呈していた。
 トップ争いは熾烈を極め、ムギ先輩と私、そして憂が終盤まで拮抗していた。

 勝負が動いたのは、ゴールの十マス程度手前。
 『6』を出した私は、軽やかにトップへ躍り出て、『どんな命令でも来い!』と意気込み、そして

  『スタートに戻る』

 薄い胸を張って意気揚々とスタート地点に戻ると、
 『5戻る』の無限ループから抜け出せない律先輩が人差し指で「の」の字を書きながら拗ねていた。
 そんな様子を見つめながら、誰が薄い胸だこのやろう。と密かに呟き、私はサイコロではなく匙を投げた。
313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 17:59:50.87 ID:WLo0G95R0
 私がスタートに戻ったことで三位へと浮上した唯先輩は、本日五度目となる

  『子供にバカにされる』

 を踏み、バカにするネタが尽きた子供達が『ボディタッチ』という強硬手段に出たため、憂がキレた。
 このときばかりは、私も負けじとモップを手に取り、聖戦へと赴き――

 「憂、背中預けるよ」
 「任せて梓ちゃん。必ず奴らを根絶やしにするから」


 保護者にガチで怒られた。


 一方でムギ先輩が、
  『キーボードのド(C4)が、気持ち硬めになる』 
 という、嫌がらせ以外の何物でもないマスを踏み、膝を抱えて丸くなっていた。
314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:06:30.57 ID:WLo0G95R0
 もはや優勝争いから脱落していた澪先輩は、これまた
  『次にコーラを飲む時に、ものすごい振られている』
 という、嫌がらせ以外の何物でもないマスを踏み、なんとも言えない表情を浮かべ、

 私と共に保護者会に怒られていた憂は、次のターンで
  『己の性癖を暴露する』というマスを踏み、

 「私、シスコンなんです」

 と、恥じらい二百%乙女ロード驀進中と言わんばかりに叫び、誰もが生暖かい眼差しで見守った。
 ……間違ってもサ●シャイン60の西側のことではないのであしからず。

 結局、優勝争いがどうなったかと言えば、

 憂が、『5回休み』 
 という恐ろしいマスで停止している間に、虎視眈々と首位を狙っていたムギ先輩が、
 憂を華麗にかわしてゴールに到達したのだった。


 以上、ダイジェスト。
316 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:12:28.43 ID:WLo0G95R0
梓「べ、別に、勢いでやりだしたはいいけど、すっごい長くなりそうだから端折ったとか、そういうことじゃないですよ?」

律「誰に言ってるんだ?」

梓「いえ、なんでもないです」

澪「しかし、まさかこのアトラクションだけで日が暮れるとは思ってなかったよ」

 そう。澪先輩の言うとおり、現在の時刻は夜の六時。
 昼食をとったのが、二時前後だったはずだから、
 凡そ四時間もあんなバカなゲームをしていたことになる。
 蛇足だが、澪先輩の髪型は、支配人に無理を言ってその場で元に戻してもらった。
 律先輩のは、カチューシャを付け替えるだけなので元々問題ないとして、
 私も新しいヘアゴムをもらったのだが、唯先輩とムギ先輩が、
 かわいいからそのままで。といってくれたので、今日はこのまま過ごすことにした。
320 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:18:54.31 ID:WLo0G95R0
憂「さすがに疲れちゃいましたね」

紬「そうね。今日はもう解散かしら」

律「なあ、皆。ちょっと冷静に考えてみてくれないか?」

 そう言って律先輩が少し溜める。
 ええ、まあ、言わんとしていることはよく分かっています。

律「どう考えてもおかしいよな、このアトラクション」

澪「今更だな……」

唯「え、でも楽しかったよ?」

律「……まぁ、確かに楽しくはあったけどさ」

紬「なら、それでいいじゃない。ね?」

梓「そこで私に振るんですか」
323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:23:31.08 ID:WLo0G95R0
憂「あ、そういえば……トップの人は他の人に一つだけ命令できるって話でしたけど」

唯「ああ、そうだったね。トップってムギちゃんだよね?」

律「……」

澪「……」

梓「……」

 言わなかったら忘れてたかもしれないのに!
 誰からともなく、ちっ、という舌打ちが聞こえた気がした。
324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:29:17.99 ID:WLo0G95R0
 だけど――。
 そんな空気が不意に変わった。

紬「ふふ、そうだったわ。みんなに一つだけ命令しなくっちゃいけないわね」

 そう言って、最後尾を歩いていたムギ先輩が歩みを止めて、
 それにあわせて、唯先輩が、律先輩が、澪先輩が、憂が、そして私がゆっくりと振り返る。
 どこまでも続くオレンジ色の夕陽に照らされ、風に靡く金色の髪。
 想い人以外に心を奪われるつもりは無いが、そんな私ですら見惚れてしまうほどに、ムギ先輩は綺麗だった。

紬「今日は本当に楽しかったわ。……だから、みんなでまた来ましょう。それが私から皆に下す命令」

澪「……ああ。約束するよ、ムギ」

律「あのすごろくはどうかと思うけどな。そんな命令ならお安い御用さ」
326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:31:32.49 ID:WLo0G95R0
憂「私も約束しますね、紬さん」

唯「いいね!またみんなで来よう!」

梓「まぁ、命令なら仕方ないですね。また今度、来るとしましょう」

律「ビックリする程ツンデレだ」

梓「……うるさいです」

 道中はいつも混沌として、だけど最後は爽やかに。
 ムギ先輩も憂も、その辺は一貫しているらしい。

 今日は確かに楽しかったし、こんなに綺麗なカタチで終われるなら、なんの文句もない筈だった。

 だけど――、
 どういう訳か、私の心には薄い靄がかかっているような気がした。
329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:37:46.06 ID:WLo0G95R0
 ―平沢家―


唯・憂「ただいま~」

梓「……お邪魔しま~す」

憂「誰もいないけどね」

唯「うああ~疲れた~~~お腹すいた~~~」

 靴を脱ぐや否や、廊下にぱたりと倒れる唯先輩。

憂「お姉ちゃん、そんなところで寝転がると汚れちゃうよ?」

唯「あと五分……」

梓「寝起きじゃないんですから」

憂「ほら、しっかりして」
331 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:44:34.69 ID:WLo0G95R0
 憂に肩を借りて、二階のリビングまで運ばれていく唯先輩。
 泥酔して帰ってきたサラリーマンのような有様だ。

梓「唯先輩がこの調子なら、罰ゲームはもういいんじゃないかな」

憂「……」

梓「ほら、憂もムギ先輩も、昼間十分堪能してたわけだし」

 特に憂は、唯先輩にべったりだったわけだし。
 おかげで私は唯先輩とペアで乗り物に乗れなかったわけだし。
 思い返すと、心にどす黒い感情が沸々と溢れ出てくる。
332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:50:17.77 ID:WLo0G95R0
憂「そうだね。……でも、今日寝るまでの間はまだ続いてるんだよ。最後までやりとげなきゃ」

 憂は、お姉ちゃんの為にもね、と最後に付け加えた。
 さすがにそう簡単には引き下がってくれないか。
 時刻は午後の八時。罰ゲームの有効期間は寝るまでの間。
 憂を見ている限り、これといって変な命令をする様子はないけれど、
 やはり、私がそばについているべきだろう。

 ええと、ほら。あの……えっちぃ命令とかは断固阻止しなくちゃだし、ね? 

 などと考えていると、ぐったりモードの唯先輩が突然声をあげた。

唯「あ、そうだ」

梓「どうしたんですか?」

唯「え」

憂「あ」

 アイコンタクト?
 唯先輩と憂が、なにやら目で合図を送りあう。
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:56:00.33 ID:WLo0G95R0
唯「ううん……、なんでもない、なんでもないよ!」

梓「?」

 今の間はなんだ。

憂「ほら、お姉ちゃん」

 言いながら、憂が席を立つと同時に、唯先輩もすくっと立ち上がる。

唯「あずにゃんは、えっと……私の部屋で漫画でも読んでくつろいでて!」

梓「え、でも」

唯「いいからいいから」

憂「そこにいてね。降りてきちゃダメだよ、梓ちゃん」

梓「……」
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 18:59:45.40 ID:WLo0G95R0
 半ば強制的に。
 唯先輩と憂に引っ張られ、気付けば唯先輩の部屋にぽつんと一人。
 二人は足早に、二階へと降りていってしまった。

 なんだ、なんなんだ、この状況は。
 どうしてこうなった。

 こそこそと、二人で一体なにを……?

 憂が唯先輩になにか命令をした感じは無かった。
 或いは私と唯先輩が離れている間に、こっそりと何かあったのかもしれないが。
 ……待て。
 罰ゲームの有効時間内は、ずっと私が一緒にいる。
 つまり、あまり過激な命令はできないということだ。
 ならば、過激な命令をするためには、私を隔離する必要がある……?
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:04:56.40 ID:WLo0G95R0
梓「まさか」

 そっと、耳を澄ましてみる。

 しかし、聞こえてくるのは、二人の楽しそうな笑い声のみ。

 考えすぎか。
 ……いや、寧ろ。
 さっきの様子からして、私を隔離したがったのは憂ではなく、唯先輩じゃなかっただろうか。

 唯先輩が、それを望んだ?

梓「……」

 唯先輩と憂は姉妹だけど、信じられないくらいに仲が良くて。
 憂はきっと、唯先輩のことが大好きで、
 唯先輩だって、憂のことが――。
338 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:11:51.89 ID:WLo0G95R0
 もしかして、私、お邪魔……なのかな?

 ううん、そんなことない。
 唯先輩は、二人きりになりたいからなんて理由で、誰かをのけ者にしたりなんかする人じゃない。
 きっと、何か事情が……。私には見せたくない、何か……。

 見せたくない?
 私、罰ゲームのカメラ係ですよ?

 ムギ先輩と交わした会話が、頭を過ぎる。

 ――そういえば、なんで私なんですか?
 ――梓ちゃん以外だと、二人のお邪魔になっちゃうから

 私だって、変わらないじゃないですか……。

梓「……」

 なんだか、急に切なくなってきた。
 どうして一人になると、途端に後ろ向きになってしまうんだろう。
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:17:44.55 ID:WLo0G95R0
梓「……帰ろうかな」

 無意識に、そんな言葉が漏れた。

梓「……」

 私はそっと扉を開けて、静かに階段を降りる。

唯「……よ、……ういー……」

憂「もう、……じゃない」

 上に居るときよりも、より鮮明に二人の声が聞こえてくる。
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:25:17.89 ID:WLo0G95R0
唯「だって……」

 一段、また一段。
 降りる度に、声ははっきりと。

憂「ほら、もっとよく見せて」

 声が――

憂「私が……舐めてあげる」

梓「!?」

唯「は、恥ずかしいよ、うい……っ」

 ――何を、しているの?

 息を殺して、階段を降りきる。
 右手を見れば、そこにあるのはリビングで――

憂「……」

梓「……え?」
345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:32:08.35 ID:WLo0G95R0
 憂が、仁王立ちしていた。
 唯先輩は――?
 リビングに唯先輩の姿が、無い。

憂「降りてきちゃダメって、言ったのに」

梓「どうして……?」

憂「ごめんね、今はダメなの。もう少しだけ待ってて」

梓「だって、私はムギ先輩に頼まれてて……、見届けなきゃいけないのに!」

憂「それは、お姉ちゃんの罰ゲームの話でしょ。今はなにもお願いしてないもの」

梓「……」

 それって、やっぱり……。
350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:48:25.72 ID:WLo0G95R0
 昼間の快晴から天気は崩れる気配もなく、夜空には雲ひとつない。
 にも関わらず、地上を照らす光は燦然と輝く星々でしかなかった。
 今宵は新月だったか。
 その僅かな星明かりと、一定間隔に設置された無機質な街路灯を頼りに歩く私の体を、夜風が冷たく刺した。

「……なにやってるんだろう」

 虫達の合奏以外には何も聞こえない静かな夜。
 虚空に消えた私の声は、孤独を感じさせるには十分だった。

 荷物、唯先輩の家に置いたままだったな。
 ……今更戻る気にはなれないけれど。
 カメラだってカバンの中だし、
 ムギ先輩に頼まれてた罰ゲームの撮影も、結局放り出すカタチになってしまった。
352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:54:50.39 ID:WLo0G95R0
「唯……先輩……」

 頭に浮かぶのは、唯先輩のあったかい笑顔ばかり。

 ――自分の気持ちに正直になればいいんだよ。

 そんなの、無理ですよ……。

 ――え、でも私もあずにゃんも女の子なのに……?

 告白なんかして、そんな風に拒絶されてしまったら
 私はきっと、立ち直れないから。

「う、……うあっ……」 

 ぽたっ、と乾いたアスファルトに水滴が落ちた。
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 19:59:52.53 ID:WLo0G95R0
「ゆい、せ、んぱ、い…っ、う、ううっ……」

 片思いでも構わない、一緒に居られたらそれでいいって思ってた。
 だから、唯先輩が他の誰を好きになったとしても、受け入れられるって思ってた。

 でも、違ったんだ。

 唯先輩と憂の関係には、私の存在は邪魔でしかないのかもしれない――。
 そう考えてしまったときの、胸を引き裂かれたような痛み。

「受け、うっ、入れ、られ、る、はず、うっ、うああ……」

 自分に言い聞かせる為に必死に紡ごうとしているのに、
 嗚咽が酷くて言葉にならない。
 今日一日、ずっと憂に嫉妬してたんだ。 憂は大事な友達なのに。
 ああ、私ってこんなにも欲深かったんだって、気付いてしまった。

 そんな自分が嫌なのに。
 それでも唯先輩を独占したい気持ちはきっと消えない。
 堤防の決壊した河川の様にぼろぼろと、涙が零れ落ちる。

 途切れることない虫の合奏も、どこか寂しそうに聞こえた。
373 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:15:42.28 ID:WLo0G95R0
 一体どれくらいの時間が経っただろうか。
 沈んでいた心も、ようやく落ち着きを取り戻し始め、
 私はこれからのことをぼんやりと考えていた。

 いつまでもこんなところで泣いてる訳にはいかないけれど、唯先輩の家に戻ることはできない。
 仕方ないよね。
 家族には泊まりって言ってあるけれど、今日は家に帰ろう。

 立ち上がって、再び歩みを進める。

 そのとき、トクン――、と胸が高鳴る音がした。
376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:22:17.71 ID:WLo0G95R0
 ――足音。

 誰かが、走ってくる。こっちに向かって。

 私はゆっくりと、振り返る。

 ――声。

 私の名前を呼ぶ、声。

「…ずにゃ……ん」

 それは段々と近付いていて。

「あずにゃーーーん!!」
378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:27:55.49 ID:WLo0G95R0
 あ……追いかけてきてくれたんだ――。
 嬉しいはずなのに、どういうわけか、再び涙が滲む。

梓「唯……せんぱ――」

 がばっ!

唯「あずにゃあああああん!!」

 いつもより力強く、唯先輩は私を抱きしめてくれた。
 さっきまでの冷め切った心が、嘘みたいに穏やかになっていく。
 私の好きな、優しい匂い。
 私の好きな、心地良い体温。
379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:32:17.80 ID:WLo0G95R0
唯「憂が私が走っていっちゃったって聞いてあずにゃんがキッチンで」

梓「落ち着いてください、何言ってるかわかりません」

唯「う、うぇ……、心配したんだよおおっ!」

梓「……なんで、唯先輩が泣いてるんですか」

 私の名前を何度も呼んで、
 小さな嗚咽を漏らすこの人の前で、涙を流すなんてできる筈がなかった。

 十分にも満たない静寂。

 本当に、どうしてあなたが泣いているんですか。
382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:41:06.80 ID:WLo0G95R0
梓「……少しは、落ち着きましたか?」

唯「うん。ごめんねあずにゃん」

 二人並んで、公園のベンチに腰掛ける。
 人の姿は見えず、まるで私達の為の空間であるかのような錯覚に陥る。
 追いかけてきてくれたことは本当に嬉しかった。
 泣いていた私を、慰めてくれる――ことを期待していた訳ではないが、
 まさか私が慰める立場になるとは、正直予想していなかった。

梓「完全に立場が逆じゃないですか……」

 悪い気は、全然しなかったけれど。
383 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:47:11.58 ID:WLo0G95R0
唯「ねえ、あずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「どうして、出て行っちゃったの?」

梓「それは……」

 一人ぼっちにされたのが寂しかった。
 唯先輩が憂と仲良くしているのが、悔しかった。
 それに嫉妬している自分がどうしようもなく嫌だった。

 ムギ先輩や澪先輩にあれだけ後押ししてもらって、
 それでも正直になれない私は、やっぱり臆病者なんだろうな。
384 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:48:38.46 ID:WLo0G95R0
唯「あ、ううん。答えたくなかったらそれでもいいの」

 だけど―、と唯先輩は続ける。

唯「それがもし、私のせいだったなら――謝らなくちゃなぁって」

梓「違います、唯先輩のせいなんかじゃ――」

唯「ごめんね、ひとりにしちゃって」

梓「……」

 ――見透かされていたのだろうか。
 普段鈍感な癖に、どうしてこんなときだけ。
 なにも、言い返せない。
 違うのに。唯先輩は悪くないのに。
 言い返さなくちゃ、ダメなのに。
388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:58:46.41 ID:WLo0G95R0
唯「私ね、ちょっと後悔してるんだ。
  あずにゃんに寂しい思いさせちゃうくらいなら、ちゃんと話しておけばよかったって」

 唯先輩は月の無い夜空を見上げながら、
 子供みたいに両足をぶらぶらさせて、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

唯「……笑わないでね?」

梓「……笑うわけ、ないでしょう」

唯「えへへ。 実はお料理してたんだー。 ……憂に教わりながらだけど」

梓「料理? どうして、突然そんなこと……」

唯「あずにゃんに、私の手料理食べて欲しかったから」

梓「……」

 キラーパスだった。
 心臓をぶちぬかれたような衝撃に身悶えする。
389 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 21:59:38.19 ID:WLo0G95R0
唯「指とか、切っちゃった」

 人差し指を私に見せて、照れ笑いを浮かべる唯先輩。
 その発言で、ようやく私は気が付いた。

 ――「もう、気をつけてって、言ったじゃない」

 ――「だって……」

 ――「ほら、もっとよく見せて」

 ――「私が……舐めてあげる」

 ――「は、恥ずかしいよ、うい……っ」

 指のことかよ!!
 紛らわしいよちくしょう!!
 いや、指でも舐めようとするのはおかしいけど憂!!
391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:05:57.22 ID:WLo0G95R0
梓「あー、あー、あー」

唯「どうしたの?」

梓「いえ、どうしようもない早とちりした自分が情けなくて」

 ――そう、だったんだ。
 普通に忘れていたけれど、確かに夕飯まだ食べてなかったし。
 ていうか気付けよ。
 階段降りてる途中で声が聞こえてて、降りきるまでに憂が階段の前に来れる範囲って
 リビングの真横のキッチン以外ありえないだろ。
 唯先輩の姿がなかったのはキッチンに居たからだろ。
 なんで、そんな簡単なことに気付かなかったんだろう。
392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:13:59.75 ID:WLo0G95R0
唯「そっか。 ……ごめんね、あずにゃん」

梓「もう、いいですよ。 気にしてませんし……っていうか、私が勝手に誤解しただけですし」

唯「誤解?」

 ……あ?
 なんか噛み合ってないな。

 もしかして、単純に一人にされて寂しかったことが原因だと思ってるのか。
 前言を撤回しておこう。
 やはりこの人は鈍い。

唯「驚かせたかったんだー。『唯先輩、実は料理うまかったんですね、素敵っ!』って言わせよ」
梓「言いませんからそんなこと」

 あからさまに私のキャラを履き違えていらっしゃるので、台詞の途中で遮ってやった。
396 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:21:01.72 ID:WLo0G95R0
唯「えー、いいじゃん言ってくれても……」

梓「私頭悪い子みたいになってるじゃないですか」

唯「もう、素直じゃないなぁ」

梓「いや、だから。なんでそんな恋する乙女みたいな台詞を吐かなきゃいけないんです……か」

 ん? 恋する乙女?
 強ち間違ってもいなかった例えに、一瞬だけ体が強張る。

唯「ふふ。……でも、それがいけなかったんだよね」

梓「……」
399 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:27:39.97 ID:WLo0G95R0
唯「憂が慌てて戻ってきて『梓ちゃん出て行っちゃった!』なんて言うんだもん、びっくりしちゃったよ」

梓「……それにしたって、泣くことはないでしょうに」

唯「うん。でも、あずにゃんに嫌われちゃったって思ったら、なんか泣いてた」

 そんなことを平気でいいのけて、唯先輩は俯いた。
 痛い。
 心が痛い。
 話題を、話題を逸らすんだ。
 話題を逸らすのよ、梓。

梓「で、これから私はその、唯先輩の手料理を食べるわけですけど」

 あんまり逸らせてなかった。

唯「食べてくれるの……?」

 まぶしすぎて直視できない。
 その上目遣いをやめてください。融けそうです。
403 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:36:24.70 ID:WLo0G95R0
梓「……そりゃ食べますよ、お腹ぺこぺこですし。
  何を勘違いしてるのか知りませんけど、私が唯先輩を嫌いになるとか絶対にありえませんから」

唯「あずにゃん……」

 あれ?
 なんだこのムード。
 いつもなら、嬉しそうに抱きついてくるであろうシチュエーション。
 なのに、どうしてあなたはそれをせず、薄っすらと目に涙を溜めた上で頬を赤らめておられるのでしょうか。
 そんな顔をされると、こっちまで緊張してくるじゃないですか。

 うわあっ、どうしよう。ドキドキしてきたっ!!
410 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:43:34.95 ID:WLo0G95R0
 こういうときは、どうすれば……、どうすれば……。
 そ、そうだ。名前を呼んでみよう。 名前を……。

 『唯先輩……』

 『あずにゃん……』

 見つめ合う二人。そして二人は唇を重ね――

 うわあああああああ!!
 なに考えてるんだ私は!!
 ちがうちがうちがう!!

 もっとこう、砕けた感じで名前を……。

 『ゆいにゃん……』

 『あずにゃん……』

 見つめ合う二人。そして二人はにゃんにゃん――

 もっとちげえ!!
414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:46:55.67 ID:WLo0G95R0
 ――ぴと。

 一人妄想コントをしていると、不意に肩の辺りにあったかい感触。
 ふわりと私の鼻をくすぐる、やわらかい髪。

梓「……っ!!」

 ドキドキ……。
 お、落ち着け、落ち着くのよ梓。
 まずは、今私がどういう状況におかれているのかを確認しなくては。
 いや、もう大体予想はついているけど。
 だけど、生憎と今日私は学んだのだ。

 早とちり、よくない ――ってね!

 キリッ!とした表情を浮かべて、心の中で叫んだ。
416 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:52:09.91 ID:WLo0G95R0
 そう、期待とは常に裏切られるモノなの。
 もしかしたら、今私に寄りかかってきているのは、
 唯先輩じゃなくて、夏場に成長しすぎた無農薬栽培のトウモロコシかもしれないじゃない。
 脳内で鼻の大きなおっさんが「わしが育てた」と言いながら、良い顔をしていた。

 くわっ、と眼を見開いて、そっと隣を見る。

 唯先輩が、私に全身を委ねていた。

唯「大好きだよ、あずにゃん」

梓「ふにゃあああっ!!」

 文字通り顔から火が出て、そのまま意識がホワイトアウトした。
417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:56:11.09 ID:WLo0G95R0
梓「……」

唯「……」

 もう、いいですよね。
 よく我慢したよ、私。 うん、偉い偉い。

 唯先輩はきっと、私の言葉を待っているんだ。

 だから、百合の神様。
 どうか私に力を貸してください。
 琴吹菩薩の顔を思い浮かべて祈ると、百合の神様は最高の笑顔で答えてくれた。

 『Yes, We can!』

 よし、いける。
419 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:58:00.19 ID:WLo0G95R0
梓「唯先輩」

唯「……」

梓「唯先輩!」

唯「は、はい!?」

梓「……なんでぼーっとしてるんですか」

唯「なんでもないなんでもない、それより、そろそろ帰ろっか。憂も待たせちゃってるし……」
420 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 22:59:18.45 ID:WLo0G95R0
 『行け、今だ、行くのよ梓!!』
 脳内で百合の神様が、並列繋ぎのアルカリ乾電池からむき出しの銅線で繋がった豆電球をカチューシャ代わりに
 ピコピコさせながら必死に叫ぶ。
 淡い光を帯びて煌く沢庵ライクの眉毛が、これほど神々しく思えたのは初めてだった。

梓「唯先輩……ごめんなさいっ!!」

唯「え……んぅ――!?」

 まるっきり無防備な唇に、私のそれを強引に重ねた。
429 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 23:08:37.33 ID:WLo0G95R0
 『ヨッシャアァァァ!!』

 脳内で百合の神様が吼える。
 雰囲気とか色々台無しだ。
 お前もういい、どっかいけ。

 百合の神様を脳の片隅に追いやったところで、ようやく自分の犯した事の重大さに気付く。

 ちっがあぁぁぁう!!

 順番が違ぁぁぁう!!

 告白が先だろ!!
 なに血迷ってんだ私は!!

 だけど、体は止まらない。
434 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/09/22(火) 23:14:33.39 ID:WLo0G95R0
唯「ん、んんっ!」

 その声は口籠もって通らない。私が声の逃げ道を塞いでいるのだから。
 体が芯から熱くなって、胸の鼓動も次第に早くなっていく。
 唯先輩は顔を真っ赤にして、『アバンチュール』と書かれたシャツの裾を必死に握り締める。
 そんな様子を見て、私は唯先輩を抱きしめる腕に、一層力を込めた。
 今まさにこのときがアバンチュール。
 同性であり、一つ年上の先輩を、舌で犯すという底知れぬ背徳感。
 それが喩えようのない快感に変わる。

 唯先輩唯先輩唯先輩唯先輩っ!!