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「あずにゃ~ん」
 その言葉が耳に届くと同時に、私の体がふんわりとした暖かさに包まれる。
「もう。先輩、練習中ですよ?」
「いいじゃ~ん、あずにゃん暖かいし~」
「どんな理由ですか、それ」
 はぁ……と、ため息を吐くけど、実はそこまで嫌なわけじゃない。なんというか、先輩に抱きしめられるとほっとするし、体だけじゃなくて心まで暖かくなるから。
 だけどやっぱり部活中に抱きつかれるのは少し抵抗がある。練習できないのもそうだけど、何より先輩たちに見られるのが恥ずかしいし……。
 だから、放してくださいと先輩に頼むんだけど、唯先輩はそれに答えずにさらに抱きしめる力を強くしてくる。
 ……完全に逆効果じゃないですか、これ。
「練習はどうしたんですか」
「ちょっと休憩だよ~。りっちゃんたちも、ほら」
 唯先輩が指差した方向を見てみると、そこには膝枕をしている律先輩と、恥ずかしそうに顔を埋めている澪先輩。
 ……部活中に何してやがるんですかこのバカップルは。というか、ムギ先輩鼻血拭いてください。
「ね? みんな練習してないでしょ?」
「いや、それはだめでしょう」
「だから、私たちもイチャイチャしようよ」
「ってどうしてそうなるんですか――――――――ッ!!!!!」
 絶叫。唯先輩の腕の中から強引に抜け出して、距離を取る。
「あ……」
「え……?」
 すると、唯先輩は今にも泣きそうな表情になってしまった。
「あずにゃん……そんなに、嫌だったの……?」
「ち、ちが……ッ、そうじゃなくて……」
 ど、どうしよう……。このままじゃ先輩を泣かせちゃうよ……、その前に誤解を解かなきゃ。
「あ、あの、違うんです! 抱きつかれるのが嫌なわけじゃなくて……」
「じゃなくて?」
 どうやら嫌がられているわけじゃないと理解して、ほっとした様子の唯先輩。だけど、それならどうしてといった風な瞳で私を見てくる。
「じゃなくて……」
 それ以上言葉が続けられない。だって、これ以上続けるということは、つまり、私が恥ずかしい思いをすることになるんですから……。
 言えない、先輩に抱きつかれるのが実は物凄く嬉しいなんて、とてもじゃないけど私の口からは言えない。そもそも私のキャラじゃない。
 そんなことを考えていると、なかなか口を開かない私に不安を感じたのか、唯先輩が再び泣きそうな表情になっていた。
 どうしよう、早く言わないと……でもそれじゃ私が……でもそうすると唯先輩が――えぇいままよ!
「唯先輩に抱きつかれるのは……その……、嫌なんかじゃなくて、むしろ好きなんです」
「へ?」
「好きなんですけど……、やっぱり恥ずかしいので、できれば二人っきりのときだけにしてほしいかな……とか」
「……」
 あ、あれ? 空気がおかしい……。なぜに唯先輩は黙っているのだろうか。いや、それより私はさっき何と言った?
『できれば二人っきりの~』
 ボンッと音を立てて、一気に顔が熱くなった。
「ちちち違うんですよ!? 今のは言葉のあやというか何というか」
「あずにゃん可愛い~」
「わひゃぁっ!?」
 必死に弁解していると、その声を遮って唯先輩が急に抱きついてきて、思わず変な声を上げてしまう。
「ちょ、何するんですかいきなり! 離れてください!」
「やだ~」
「やだじゃありません! 離れてください!」
「いいじゃん~、あずにゃんも抱きつかれるの好きなんでしょ?」
「す……好きですけどそれとこれは話が違いますッ!」
 第一恥ずかしいから二人っきりのときだけにしてくださいって言ったじゃないですか。
「ん~、いいじゃんりっちゃんたちのほうがもっと凄いスキンシップしてるよ?」
 言われて指差された方向を見ると、今にもキスする5秒前な二人。
「あ――あんなバカップルと比べないでくださいッ!」
「あずにゃんうるさい~。ちゅーしちゃうよ~?」
「何言ってるんですか!? ちょ、止めてください! 離れろーッ!」
「たまりませんわぁ」
「ちょ、ムギ先輩見てないで助けてくださいよ!」
「いやよ面白そうなのに」
「あずにゃ~ん」
「止めろーッ!」
「あらあらうふふ」



Fin