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144 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 22:54:39.82 ID:k/4jfUxZ0
【予算戦争】

「いってらっしゃ~い!」
「おうっ!」

 唯の元気な声に元気に応えて、律は音楽室を後にした。
 目的地は生徒会室。
 そう、本日の『戦場』である。

「うまくいくといいんだけどな……」

 澪は音楽室で紅茶をすすりながら、律の、いや軽音部の行く末を案じていた。
 律が今日、部長として出席するのは『予算会議』というものである。
 この会議では各部の部長が参加し、学校から与えられる『部活動予算』の割り振りを決める。
 だが、会議とは名ばかりで、実際はどの部も予算を確保するために必死であり、衝突はまぬがれない。
 そのため付いた通称が『予算戦争』である。

「テレビつけますね」

 梓はリモコンを取り、テレビの電源を入れる。
 そして、校内放送用のチャンネルにセットした。
 実はこの『予算戦争』、予算がどのように決められているかを生徒全員が知るべきであるという意見に後押しされて
 昨年から放送部による中継が始まったのだ。

「あっ! 映ったよ!」




145 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 22:55:31.84 ID:k/4jfUxZ0
 唯がテレビにしがみつく。
 そこには生徒会室全体が映っていた。
 黒板には大きく『予算会議』と書いてある。

「楽しみですね……去年はどんな感じだったんですか?」

 かごからクッキーを取りながら、梓が澪に尋ねる。
 澪は肩をすくめる。

「てんでダメ」
「ダメだったんですか……」
「私達がみんな一年生だったってこともあるからな。発言力は全く無かったぞ」
「そういえば、りっちゃん終始だんまりしてたわ……」

 ほかの3人も悔しかったが、一番悔しい思いをしたのは律だった。
 去年の雪辱を今年こそ晴らそうと、律は心に決めていた。

「今年は大波乱になりそうだね……寄付金もあったし」
「そうだよなぁ……百万円だからなぁ」

 桜高を卒業した投資家が、定年を期に寄付したのである。
 その『寄付金』のために今年の予算会議は大荒れになると、誰もが予想していた。

「流血騒ぎにだけはならないといいんだけどな」
「あらあら、それもそれで面白そうですわ」
「ムギ……お前ってやつは」
「そろそろ時間ですね」

 梓が時計を見て言った。



147 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 22:58:31.05 ID:k/4jfUxZ0
 会議は丁度2時から始まる。
 テレビに映る生徒会室では、ほとんどの部活が着席していた。

「あっ! 和ちゃんだ!」

 生徒会用の席から立ち上がり、和が黒板の前にやってくる。
 映像が和に合わせてズームした。

『それでは、これから第2回公開予算会議を始めます』

 パチパチとまばらな拍手が聞こえた後、和が席に戻る。
 それから別の生徒が出てきて、会議の進行について説明する。
 まず最初に、それぞれの部活が今期の活動報告と、今年度の予算を言う。
 そして、希望する来年度の予算と、その理由を述べるのだ。
 大体の場合、どの部もかなり多めに予算を求めてくるので、予算が足りなくなる。
 そこで、『話し合い』という形で、折半するのだが……
 穏便に済まされるということがほとんど無い。という訳である。

『話し合いでの和解を生徒会は求めています』

 これは生徒会のいつもの台詞だ。
 生徒会は予算の話し合いには直接参加しない。
 そこは各部長の裁量に任せられるのである。
 生徒会には、あくまで現場監督としての役目しか無いのである。
 これは、生徒会をやるものは部活動に所属してはならないという規定にも関係している。
 2つは完全に分離されているのである。



148 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 22:59:15.04 ID:k/4jfUxZ0
 さっそく、コの字になっている席の廊下側の部長から活動報告が始まる。
 各部長にとって、この時間は非常に貴重である。
 なぜなら、ここでアピールをしておかなければ、理想の予算取得は難しくなるからだ。
 それぞれが、自分なりに部活の良さや素晴らしさを込めて活動報告をする。
 そして、いよいよ律の番が回ってきた。

「それでは、軽音部部長、田井中律さん。お願いします」
「はいっ」

 律は元気な返事とともに、すっと立ち上がった。

「軽音部は、5人の部員で今年も一年間頑張ってきました」

 ボロを見せてはいけない。
 他の部長達は、漬け込む隙を狙っている。

「文化祭ライブでは、大成功を収めることも出来ました」
「それだけ?」

 早速、野次が飛ぶ。
 律はそれを無視して続ける。

「今年の予算は○○円でした。来年度は機材などの購入に充てたいので、○○円を予算として希望します」
「5人の部活にそんなにいらないでしょ!?」

 そう言ったのは、ある運動部の部長だ。




149 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 23:01:35.83 ID:k/4jfUxZ0
「質問は控えて下さい」

 生徒会に注意され、その部長は引き下がった。
 一通り、報告が終わると、生徒会は来年度の予算の見通しを発表する。

「152万円です。12万円オーバーしています」

 部長達の間に、緊張が走る。

「それでは、話し合いを始めて下さい」

 律は、とにかく希望の予算を死守する戦法でいくつもりだった。
 だが、早速矛先が軽音部にやってくる。

「部員5人でこんなに使うんですか?」
「楽器関係で必要なんです」
「だからって、○○円は……」
「吹奏楽部にも言えることだと思いますが」

 律の言葉に吹奏楽部の部長が噛みつく。

「部員の数が違います。それに活動実績も」
「でも、ちょっとこれは……」
「あなたねぇ!!」




151 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 23:02:16.58 ID:k/4jfUxZ0
 始まった。
 毎年、どこかで火を吹くと内戦のように広がっていく。
 だが、これは律の演技である。
 誰がなんと見ようと、予算を一番多く使っているのは吹奏楽部である。
 そこに批判を集めさせよう、という訳だ。

「いままで黙ってましたけど、やっぱりおかしいですよ!」
「こっちが我慢してればいい気になって!!」

 もう誰にも止められない。

「あぁ、白熱してるなぁ」

 テレビ越しに、澪は戦場を見ていた。

「みなさん、必死ですわね」
「お嬢様には分からないだろうな。庶民の気持ちは」
「あら、それは皮肉かしら?」
「さぁな。ただな、ムギにも頼ってばかりもいられないからな」 
「ありがたいですわ。うふふ」

 まんざらでもないようである。


152 :ギ―助 ◆CvdBdYFR7. :2009/09/28(月) 23:02:58.75 ID:k/4jfUxZ0
 結局、予算会議は吹奏楽部が12万円を減らすという方向で固まった。
 まぁ、それでも昨年度よりは多いのだが。
 軽音部は、去年の1.5倍の予算を手に入れた。
 音楽室に帰ってきた律を、4人は拍手で迎え入れる。

「恰好よかったぞ、律」
「ありがとう、澪」

 律は席に着くなり、紅茶を一杯飲みほした。
 そして梓に視線を移した。

「来年は梓の番だ。――がんばれよっ」
「はいっ」

 こうして、例年より比較的おだやかに予算会議は終わった。

Fin