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163 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/07(水) 23:20:43.53 ID:E/RCWmH20
 >>162
梓「あの! やっぱりよくないと思います」
唯「何が?」
梓「色々です! 全部です! この部屋のことです!」
唯「ハッ! ムギちゃん、あずにゃんが反抗期になっちゃったよどうしよう」
紬「そんな時の為の糖分よ。チョコレートなんてどう」
唯「そっか。はい、あずにゃんあーんして」
梓「あのですね……って、んむ。美味しい」

どうしよう、いつもの手なづけられるパターンだ。
舌下から甘い香りが送られてくる、幸せな気分に負けてしまいそうだ。

唯「いいかいあずにゃん、先輩として1つ教えてあげる」
梓「どうしたんですか? 急に改まって」
唯「甘くて夢のような時間は魔法みたいなものなんだよ。
  魔力が切れちゃえば夢もそこで終わっちゃう」
紬「唯ちゃん随分とお喋りね」
唯「だってあずにゃんが最後なんだからこの機会は逃せないでしょ」
梓「さっきから何の話をしているのですか」

夢と魔法、かあ。
確かにおとぎ話に出てきそうな光景だけど。
そういえばお菓子の家って何の物語に出てくるんだったっけ。

唯「と、盛り上がってきたところで本題に入ります」
梓「あまり理解はできませんでしたが、どうぞ」
唯「コホン」


164 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/07(水) 23:25:47.99 ID:E/RCWmH20
 >>163
『軽音部の皆様お菓子の部屋へようこそ。
 気に入って頂けましたら幸いで御座います。
 ごゆっくり夢の時間をお過ごし下さいませ。
 尚、希望されるのであればお帰りの際に
 素敵なプレゼントをさせていただきます。
 望まれるのであれば、どうぞ一言。
              ミスター琴吹 』

紬先輩の差し金なのだろうか。
そういえば凄いお金持ちのお嬢様だと聞いていた気がするけど。
これは流石に理解できないと思う。
でもこの光景が軽音部の普通、だったりして。
どうしよう私の中の常識がどんどん覆されていく。

唯「はい、感想は」
梓「はぁ。確かに夢の国にいるみたいですね」
唯「でしょーんふふ」
紬「変わったお菓子も沢山あるのよ。虫とか昆虫の形をしたグミとかも」
梓「それはいらないです! 結構です!」

凄い屈辱を受けそうな阿寒がしたけど回避できたみたいだ。
というかこの臭いに釣られてそういった類のものが現れたりしちゃうんじゃ。

唯「で! プレゼント欲しいでしょ、欲しいよね」
梓「プレゼントのほうがメインなんですか?
  あと内容も言われてないのですけど」
唯「あずにゃんの夢を叶えてあげるんだよ」
梓「それ本気で言ってるんですか?」
紬「ちなみに梓ちゃんの夢ってなあに」


166 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/07(水) 23:34:42.14 ID:E/RCWmH20
 >>164
私の夢。
夢というか将来図というのは少し見えていたりする。
両親が音楽関係の仕事をしているせいか、自分もギターを覚えたりした。
そっちの業界らしき人と何度か食事をしたことはある。
漠然とそれでいて曖昧に自分も同じ道を辿るような気がしていた。

梓「夢って言い方が正しいかは分からないんですけど。
  一応自分の将来は見えてるつもりです」
紬「やっぱりご両親の影響で?」
梓「ええ、まあ。そんな感じですね」
唯「何か面白くなさそう」
梓「面白いとかそういう問題じゃないです」

そうだ、私はどうも義務感のようなものを感じていた。
ギターを弾いている時は楽しい、音楽を聴いている時は楽しい。
そんな感情はあったけれど自然に沸いてきたものなのだろうか。

梓「やっぱり私に夢は見えていないような気がしてきました」
唯「じゃあその夢を今見せてあげよっか?」
梓「え? 何言ってるんですか」
紬「やっとその話に入るのね」
唯「忘れてたわけじゃないよ!」

夢を見せるというのはどういうことだろう。
机の脇に大きな林檎飴が置いてあるけれど。
それを水晶代わりにして未来が見えるうんぬんやり始めるつもりじゃあ。


178 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/07(水) 23:59:58.76 ID:E/RCWmH20
 >>166
唯「それでは夢を叶える方法を教えます。
  叶えたいなら音楽室の扉をくぐること。叶えなくていいなら廊下への扉をくぐること」
梓「ごめんなさい。意味が分からないです」
紬「言葉通りの意味だから」

丁重にお断りしようかと思ったのだけれど案の定二人の目が怖い。
そういえばさっきから“最後”という言葉を私に向けて使っていた気がする。
つまり前にも誰かが来て同じようなことを聞いていたということだ。
有り得るとしたら澪先輩か律先輩。

梓「あの、前のお二人は廊下から出て行ったんですか?」
唯「どうして分かったの! まさか心を読めるの」
梓「それっぽいことをさっきから言ってましたよ。ちなみに唯先輩はどちらか選んだんですか?」
唯「私は選べないよ。もっと言えば扉を作るほうの側かな」
紬「けんちく! に興味が出てきたってわけじゃなくてね」
梓「それはそうでしょうけど」
唯「私の夢はもう半分叶ってる。今はこれで十分だよ」
梓「よく分かりませんがそれ以上の答えはなさそうですね」

どう考えても現実的ではないけれどちょっと興味が出てきた。
私の心からの夢とは何なのかが気になる。
とは思うものの本当に叶うなんて信じてはいない。

紬「唯ちゃんが言うの忘れてたけど、決めるまで残り1分ね」
梓「え? 時間制限なんて聞いてないですって」
唯「だって言ってなかったもん!」
梓「はぁ……、どうしましょう」
紬「あら、ちょっと前向きになった?」
梓「まあ少しは」


184 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:14:09.99 ID:JgN7LOO90
 >>178
この際乗ってしまおうと思う、その方がいい気がしてきた。
私のノリが試されているのかもしれないし。

梓「私、音楽室の扉にします」
唯「それでこそあずにゃんだよ!」
紬「唯ちゃんよかったね」
唯「うんうん。準備はできてるよね?」
紬「勿論、バッチリ」
梓「そんな大袈裟なことなんですか?」
紬「ちょっとね、うふふ」

ますます怪しさが増してきた。
とは言えもう決めてしまったんだ、従えば先輩達も満足すると思う。

紬「それじゃ、はいムスダング」
梓「ありがとうございます、ってあれいつの間に」
唯「さあさあ入った入った」

ギターを抱えて扉の前に立つ。
本当にくぐるだけで夢が叶ってしまうのだろうか。
いやまさか、ちょっとしたドッキリの類に違いない。
それでも足は自然と向いていた、私は夢に惹かれていた。

梓「何もないじゃないですか」

音楽室に備えられたちょっとした段差のようなステージ。
それを区切るように小さな垂れ幕が空間を限定していてちょっと薄暗い。
振り返ると扉は閉まっていた。
肩を落として息を吐くと、意識が加速して世界が変わるのを感じた。


185 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:21:10.62 ID:JgN7LOO90
 >>184
中野梓の続き。


客「「「あーずーさ!あーずーさ!」」」
梓「え?」

幕が上がって目を丸くした。
そこには何百という人の群れがあって私の名前を読んでいた。

梓「私、何してるんだろう」

意識ははっきりしているけれど夢の中にいるようなふわふわした感覚。
心臓がばくばくと音を立てて体は火照るように熱い。
目の前からの熱気を受けて仰け反りそうになった。

梓「そうだ、ライブだ。私のデビューライブ」

一瞬、昔の記憶が蘇ったような気がした。
高校時代の楽しかった思い出。
もうあの頃とは違うんだ、私は私の夢を叶えている。

梓「みんな、今日は私の為に集まってくれてありがとう!」

こんな大きなステージに立てたのだから急に感慨深くなったのだろう。
周りと見渡すとバンドメンバーがこちらを凝視している。
よし、やってやるです。


186 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:25:18.45 ID:JgN7LOO90
 >>185
梓「ミュージックスタート!」

腰を深く据えて踵に体重を傾ける。
ネックを強く握りなおして、さあと思ったところでおかしいことに気がついた。
私はこの曲を知らない。

バックバンドはこちらの気も知らず音を生み始めた。
目が合うと眉間に皺をよせられる。
ハッとして前を振り返るとざわざわとした空気に包まれた。

梓「えっと……あの」

言葉は先に出ず、どうすればいいのかも分からない。
あんなに頑張って必死に練習したのに。
その記憶は嘘じゃないけれど明確にその光景が浮かび上がってこない。

演奏は中断される、私は考えて考えた。
再度仕切り直したとしても意味は無い、知らない曲は歌えないし弾けないのだから。
そんな状態でも場の空気を変える方法は何か、何か。
そうだ、と思い立つと既に行動に移していた。

梓「にゃっ、にゃーー!!」

私はステージから引きずり下ろされた。


187 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:30:40.17 ID:JgN7LOO90
 >>186
P「CDの発売はもう決まっているし用意もできている。
  今更中止にすることはできない」
梓「……はい」
P「生放送なのは知っていたはずだ。その後に君はどういった処遇を受けるのかも理解できているね」
梓「……はい」
P「よろしい、ではまたいずれ。顔を合わせられるのならね」

夢の中にいたようなふわふわ感は完全に消えていた。
無機質な部屋の冷たさが私の熱を容赦なく奪う。

P「親父さんに土下座でもしておくんだな」
梓「本当にすいませんでした!」

頭を上げる気力にもならずそのままへたりこんだ。
どうしてこんなことに、浮かぶ疑問に答えは訪れない。
床の冷たさを忘れるまでそうしていたが部屋の扉が開かれることはなかった。

梓「こんなの嫌だよ」
唯「でもしょうがないよね。あずにゃんは選択したんだから」

懐かしくてひどく聞き覚えのある声が飛び込んできた。
扉の開いた様子はない、スピーカーから聞こえているわけでもない。
顔を上げると高校時代の先輩がいた。

梓「唯先輩! でなくて、唯さん。どうしてここに?」
唯「どうしてって言われるとどうしてなんだろう」
梓「見てたんですか? ステージ……」
唯「あー、それはバッチリ見たよ」



188 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:36:34.45 ID:JgN7LOO90
 >>187
高校の制服姿に突っ込むのはさて置き、唯さんは何をしに楽屋まで来たのか。
そう考えて自分のやらかした愚行が再び頭を悩ませる。

梓「笑いにきたんですか。こんなところまで」
唯「その衣装可愛いね! どこで買ったの?」
梓「え。いえ、これは衣装さんから用意されたものですけど」
唯「ふーん大層なご身分だねぇ」

やっぱりそうだ、唯さんは私を笑いにきた。
掴みかけた夢をあっさりと手放した滑稽な様を見にきたんだ。

梓「言いたいことはそれだけですか」
唯「まだまだあるよ。質問していい?」
梓「勝手にして下さい。答えるとは限りませんけど」
唯「んじゃあ1つ目の質問。アタックチャーンス」
梓「それは中盤以降からです」
唯「そのとーり」

三年経った今でも唯さんは何も変わっていないように思える。
無邪気そうな笑顔は昔のままだ。

唯「どうしてあずにゃんはデビューできたの?」
梓「それはちょっと長くなりますけど」
唯「いいよ。聞かせて」
梓「私のプロデューサーさんは父の古くからの友人なんです。
  パーティーに招待された時冗談半分で言っちゃったんです。プロデビューさせて欲しい、って。
  そしたらプロデューサーと父と事務所とで話が進んでて気がついたら……。
  まあそんな感じです」
唯「あっという間だったんだね」


189 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:41:23.36 ID:JgN7LOO90
 >>188
そう、あっという間の出来事だった。
高校を卒業すると同時に朝から晩まで音楽漬けの日々。
実力だけが上がる一方で他の全てが停止していたような気がする。

唯「大丈夫? これから先に進めそう?」
梓「自分の気持ちなんて関係ないです。
  したいしたくないじゃなくて進まないといけないんです」
唯「難しく考えすぎだと思うけどなぁ」
梓「それは唯さんが何も考えていないだけです!」
唯「あーあはは、ごめんね」

これは義務なんだ。
結果に責任が求められるのは当然のことなんだ。
もう子供みたいに何をやっても許される立場じゃない。

唯「あんまり考え過ぎるとその重さで進めなくなるよ」
梓「なんで、そんな、分かったような!」

叫んで振り返ると唯さんの姿は消えていた。
言いたいことだけ言って帰ってしまったのだろうか。
廊下への扉が開け放たれている。

梓「もう、あの頃とは違うんです」

そう吐き捨てて扉へ足を向けた。


190 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:45:49.49 ID:JgN7LOO90
 >>189
冬の街は寒い。誰もが急ぎ足で通り過ぎる、他人へ意識を向けようとしない。
人間観察なんて寂しい奴のすることだろうが今の自分がそれに当たる。

梓「楽しそう……」

右を見ればカップル、左を見ればサラリーマン、前を見れば学生達の笑い声。
一人だけ場違いな空間に放り込まれた気分になる。
肌から伝わる寒さが心の芯まで伝わってきた。

そんな私と対照的に街は明るい、鮮やかなネオンが楽しそうな人達を更に輝かせていた。
駅前ビルの大きなスクリーンには今話題のバンドグループの姿が映し出されている。

梓「あそこに私はいたんだよね」

同意してくれる人はいなかった、誰にも認識されない空気のような言葉。
すぐに雑踏と笑い声にかき消されてしまう。

梓「あ。あれは、澪さんと律さん」

リズミカルな音楽と共に街中に自らを発信しているのは高校時代の先輩だ。
その視線は私にではなく誰にともなく向けられている。
スクリーン越しの笑顔は目を背けたくなるほど眩しい。

梓「お二人は夢を叶えたんですね」

あれからどれ位の時間が経っただろうか。
デビューしてから何をやっても上手くいかずCDは1枚しか発売されなかった。
両親や周囲の人達に見放された私。
それでも希望を捨てず音楽だけはやり続けてきた。


191 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:50:13.27 ID:JgN7LOO90
 >>190
梓「今月も厳しいなぁ、バイト増やすしかないのかな」

売れない音楽家などその辺の一般人と等しい。
首からぶら下げられた唯一のギターが私の立場を示している。
これがなければただの浮浪者だ。

梓「またこれに頼るしかない、か」

ポケットには一枚のCDが入っている。
大手レーベルから発売されて名の知れたプロデューサーの名前が入ったCD。
紛れもなく私のデビューシングルである。

これを出せば足を止めてくれる人が増える。
しかし止まる人達の目に込められているのは懐かしさと共に嘲笑。
前代未聞の放送事故として笑い者にされた当時の自分が蘇ってくる。
だとしても少しでも多くの人に自分の音楽が聞いてもらえるのなら。
天秤は常に揺らいでいた。

梓「やめた。今日は頑張ってみよう」

誰に向けるでもなく音をかき鳴らす。
思い通りに動かない指に弦は容赦なく食い込んでくる。
痛みしか生まれないとしてもゼロのままでいる自分の方が惨めだった。

向けられる視線はすぐにまた別の対象を探す。
時折怒りの感情を向けられることもあったがその手を休めなかった。
止めちゃいけない、気にしちゃいけない。
誰かの気に止まりたいという願望とそれが負の感情であって欲しくないという矛盾。
私の姿はかごの中で歌う鳥のように酷く滑稽だ。


193 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 00:56:09.61 ID:JgN7LOO90
 >>191
唯「おじょうずおじょうずー」
梓「え?」

私に向かって手を鳴らす姿には見覚えがあった。
高校の制服、ヘアピン、何も考えてなさそうな笑顔。
幻覚でも見ているんじゃ、と頭の中に次々と疑問詞が浮かぶ。
自然と手は止まっていた。

唯「ここさぶいねー。風邪引きそう」

高校時代の先輩、唯さんであるはずがない。
だとしたら娘さんだろうか、いやここまで成長してはいないだろう。
他人のそら似と言うには余りにも似すぎている。

唯「指から血が出てるよ」
梓「え。ああ、本当だ」

肉が裂けネックには汚らしい跡がついていた。
感覚が麻痺しているからだろうか、不思議と痛さは感じなかった。

唯「大丈夫?」
梓「大丈夫じゃないよ。色々と」
唯「色々って例えばどんな?」
梓「そうだなぁ。自分の現状の全てがかな」
唯「詳しく教えてよ」
梓「どうしよっかな」

唯さんらしき人とのやり取りは自然と心が落ち着く。
昔の思い出が巡ってきたからだろう。


194 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:00:05.80 ID:JgN7LOO90
唯「ていうかあずにゃん急にタメ口になってる!」
梓「え? どうして名前知ってるの」
唯「どうしてって、私は私であずにゃんはあずにゃんだもん」
梓「意味が分からないって」

私の名前が知られている。
まさか本当に唯さん当人ということじゃ。

唯「ねぇ。音楽室の扉をくぐった後のこと覚えてる?」
梓「あの後? そういえば確か」

直前までの記憶は何故か鮮明に残っていた。
お菓子の部屋におかしな会話、昨日のことのように思い出せる。
しかしその先が一向に浮かんでこない。

唯「思い出せないよね。体験してないんだもん」
梓「それってどういうこと?」
唯「あずにゃんは夢を叶える為に人生を飛ばしてきちゃったんだよ」
梓「そんなの信じられるわけないでしょ」
唯「本当なのにー」

それでも本人しか知らない単語が次々と口から出てくる。
彼女の存在が一向に掴めない。


196 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:05:19.66 ID:JgN7LOO90
 >>194
唯「ここは扉をくぐったあずにゃんをそのまま大人にした世界。
  純粋に夢だけが叶えられた世界なんだよ」
梓「それじゃ、デビューライブで曲が分からなかったのも」
唯「そのとーり。納得できたでしょ?」
梓「でもさ。今更そんなこと言われたって意味ないよ」
唯「今更でなくすればいいんだよ」
梓「え?」
唯「おいで、こっちへ。あの時の私達へ」

差し伸ばされた手を自然と掴んでいた。
その手は暖かくて凍っていた私をゆっくり溶かしていく。
体の芯までそれが行き渡った時、意識が飛んだ。



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197 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:10:24.62 ID:JgN7LOO90
 >>196
律「よし、開けるぞ」
澪「うん……」

太陽が色をオレンジに染める頃、準備室の前に二人分の影があった。ノブに手をかけて勢いよく回して押す。

律「おい一体どうなって、ってあれ」
澪「お菓子がなくなってる」
紬「二人共そんなに怖い顔してどうしたの?」

部屋の隅々まで並べられていたお菓子は消えていた。いつもの音楽準備室、いつもと変わらない部室の姿だ。

律「あのさ、色々聞きたいことがあるんだけど」
澪「私なぜかペンを食べてちゃって、飲んじゃってそれから」
紬「とりあえず座って紅茶でも飲んで落ち着いたら?」

机にはティーカップが二つ、ポットからいい匂いが漂っている。

紬「とりあえず。さあさあ」
律「そ、そうだな。まずは飲んでから考えようか」
澪「こんな時でも欲望に負けるのか」

誘われるままに一杯を飲み干す。美味しいが少し変わった味をしている。

律「それで本題なんだが、お菓子はどうしたんだ? こんな短い時間でどこかにやれるとは思えないんだけど」
澪「あと唯はどこに行ったんだ? 梓も来てる時間だろうし」
紬「もう少ししたら分かるから」

何を質問しても紬はそれだけしか答えなかった。紅茶が効いてきたのか体中がぽかぽかと暖かくなってくる。
気持ち良さに従うように私達は自然と机に突っ伏していた。


198 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:16:00.81 ID:JgN7LOO90
 >>197
視界は黒。
何かに包まれている感じを覚えたが圧迫感はなかった。
どこからか頭の奥に唯先輩の声が響いてくる。

「私の夢の半分は私と出合った全ての人が幸せになること。
 魔法を独り占めしちゃうのは悪い気がしたから。
 だから軽音部のみんなにもおすそ分け。
 もう一つの世界に行ったのはその必要があったからだよ。
 あずにゃん頑固なとこあるから他人から何か言われても突っぱねちゃうよね。
 方法はちょっと乱暴だったかも、ごめん。
 でも自分に欠けていたところ、もう見つかったんじゃないかな?」

梓「私に欠けていたところ……」

自然と呟くと意識が戻っていた。
周りは薄暗く光に慣れていない目でも見ることができた。
ここは軽音部の部室、目の前には机に突っ伏した澪先輩と律先輩が見える。

紬「おはよう梓ちゃん、といってももう日が沈むけど」
梓「……おはようございます」
紬「そろそろ起こさないとね。りっちゃん澪ちゃんもう帰る時間よ」

そう言って背中を揺する紬先輩。
あくびと共に顔を上げた二人は周囲を見渡している。

律「ふあぁあ。なんだもう夜か、帰らないと」
澪「私達、随分と寝てたんだな」
梓「そうみたいです。あれ唯先輩は?」
唯「こっちだよー」


199 :おかしな部屋へようこそ ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:27:22.72 ID:JgN7LOO90
 >>198
ベンチからひょいと顔を上げてみせる。
唯先輩も向こうで寝てしまっていたのだろうか。

唯「へっへっ、ふぇくしゅん! あ゛ー風邪引いたっぽい」
律「そんなとこで寝てるからだぞ全く」
澪「お前が言うな」
梓「あはは」

寒がる唯先輩の姿には見覚えがあった。
しかし、いつどこでと考えると一向に浮かんでこない。
そもそも私が軽音部に入ったのは五月からだったし。

唯「ごめんごめん。
  そうだ! あのさ文化祭でライブやるのもいいんだけど」

ごくりと唾を飲み込む。

唯「出展は部室をお菓子の部屋にするっていうのはどうかな?」

目を丸くすると律先輩と澪先輩と視線が合った。
まさかそんな偶然、……ねぇ。


200 :おかしな部屋へようこそ(後付け) ◆daxooZJcq2 :2009/10/08(木) 01:34:58.35 ID:JgN7LOO90
 >>199
平沢唯の三日前。


唯はご機嫌に散歩をしていると黒光りしているブリーフケースを見つけた。
いかにも機密文章が詰まっていそうな作りをしている。
とりあえず一番近い家のチャイムを鳴らして事情を伝えてみる。
すると偶然にも落とし主だと言うので特に感慨もなく城門をくぐって屋敷に入る。

唯「はいどうぞ。すぐに見つかってよかったー」
○「いやはや、本当に申し訳ない。善意ある方に拾って頂けるとは私も運がいい」
唯「どういたしまして」
○「何かお礼をしないといけませんな」

そう言うと眉間にシワを寄せて野太い眉毛をこれでもかと細く見せる。

○「あなたの願いを叶えて差し上げましょう。何でもよろしいので言って下さい」
唯「願い……夢……。はい! お菓子の部屋に一度住んでみたかったんです」
○「そうですか。では早速、んん?」
唯「どうかしました?」
○「どうやらあなたの願いは他にもあるようですが私には見えてこない。
  チカラを少し差し上げますのでご自分で叶えるのがよろしいでしょう」

唯の周りに光が混ざり合い花火のような鮮やかさを放った。
体の奥からエネルギーが満ちてくる、今なら魔法だって使えるかもしれない。

もう二言三言挨拶を交わして屋敷を出る。門を通り抜ける時に“琴吹”という表札が目に入った。


おしまい