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22 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 22:50:00.49 ID:kyttJn2o
まだまだ夏の日差しが眩しい九月の初め。
もうすぐ始業式が始まろうとしているこんな時期に、私はちょっとした遠足に来ている。
小高い丘と小さな森、絶好のハイキングスポットだ。
いつも背負っているギターをリュックサックに変えて、ひたすら目的地を目指していた。
額に流れる汗が気持ちいい、充実した時間を噛み締めていた。

思えば紬先輩の別荘に合宿に行ってからロクにバンドとしての練習をしていない気がする。
文化祭の練習は部室じゃないと気分が乗らない~、というよく分からない理由によってだ。
しかし、その合宿においてもあまり音楽的に有意義な時間は送れなかった訳なのだけれど。
理由は私自身が遊びすぎたという点にある、今思い出しても顔が赤くなる。
それからしばらくは自宅に篭って譜面とにらめっこをしていたはず、なのだけれど。
何というかいかんせん、体が本能の赴くままに動いてしまった結果が現在の状況なのである。

「一人って結構寂しいな」

相槌を打ってくれるのは小鳥の囀りや木のざわめきくらいなものだ。
最もそれが此方に向いているといった保障はどこにもない。
いつも周りにいてくれる楽しい先輩達の影はない。

「みなさんだらけ過ぎです」

誰も聞いていないのをいいことに悪態をついてみる。
案の定夏休みも終わりを迎えるこの時期とあって、唯先輩と律先輩は課題・宿題・提出物に追われている。
澪先輩は律先輩の、憂は唯先輩の臨時家庭教師として今頃存分に奮闘している頃だろう。
紬先輩はまだ海外から帰ってこないらしい。
今日は本当に一人、一人ぼっちだ。
23 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 22:51:00.93 ID:kyttJn2o
まだまだ夏の日差しが眩しい九月の初め。
もうすぐ始業式が始まろうとしているこんな時期に、私はちょっとした遠足に来ている。
小高い丘と小さな森、絶好のハイキングスポットだ。
いつも背負っているギターをリュックサックに変えて、ひたすら目的地を目指していた。
額に流れる汗が気持ちいい、充実した時間を噛み締めていた。

思えば紬先輩の別荘に合宿に行ってからロクにバンドとしての練習をしていない気がする。
文化祭の練習は部室じゃないと気分が乗らない~、というよく分からない理由によってだ。
しかし、その合宿においてもあまり音楽的に有意義な時間は送れなかった訳なのだけれど。
理由は私自身が遊びすぎたという点にある、今思い出しても顔が赤くなる。
それからしばらくは自宅に篭って譜面とにらめっこをしていたはず、なのだけれど。
何というかいかんせん、体が本能の赴くままに動いてしまった結果が現在の状況なのである。

「一人って結構寂しいな」

相槌を打ってくれるのは小鳥の囀りや木のざわめきくらいなものだ。
最もそれが此方に向いているといった保障はどこにもない。
いつも周りにいてくれる楽しい先輩達の影はない。

「みなさんだらけ過ぎです」

誰も聞いていないのをいいことに悪態をついてみる。
案の定夏休みも終わりを迎えるこの時期とあって、唯先輩と律先輩は課題・宿題・提出物に追われている。
澪先輩は律先輩の、憂は唯先輩の臨時家庭教師として今頃存分に奮闘している頃だろう。
紬先輩はまだ海外から帰ってこないらしい。
今日は本当に一人、一人ぼっちだ。
24 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 22:56:36.63 ID:kyttJn2o
「それでも行くって決めたんだから」

時折そうやって自分に問わなければ足が止まってしまうような気がした。
目的地が見えてくる、もう少し頑張ろう。
この木なんの木ばりの立派な大木がぽつりと丘の上から頭を覗かせている。
少しづつ視界に入っていく様が足取りが続いているのを確認させている。
もうちょっと、もうひとふん張り。

「着いたぁ、です」

ぽっかりと空いた日影に体を突っ込むと体中の熱が抜けていくのが分かった。
さっきまで吹いていた風がやけに冷たく、気持ちよく感じられる。
大きく深呼吸するとマイナスイオンが体の隅々にまで行き渡るようだった。

くるりと振り返って今来た道を眺めてみる。
細い細い一本道は長く続いていて、地平線と一体化した木々の隙間に消えていた。
これだけ長い道のりを歩いてきたのかと、少しだけ自分が誇らしくなった。

「よし。それじゃお弁当お弁当」

ブルーシートを広げて大きな木の影に小さな青を作った。
この時の為に早起きして作った力作のお弁当を出す。
といってもほとんどが冷凍食品の詰め合わせなのだけれど。
25 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:01:57.80 ID:kyttJn2o
「うん、美味しい。でも憂には勝てないかなぁ」

ミートボールを放って噛み締める。
味はよく口にしているそれと同じなのだが、環境が味にプラスアルファをしてくれているようだった。
新緑の香りが食欲をそそらせる。

景色を眺めつくすのに飽きると今度は地面をよく観察する。
一面の緑の中にうごめく何かを見つけた。
風のせいかなとよく目を凝らしてみると小さなバッタだった。

あまり昆虫といった類は得意ではないのだけれど、自然とその様子を見つめていた。
決して一人ぼっちだとか黙々と食事をしている様に今の自分を重ねていた訳ではない。
なんとなくだ、ただなんとなく目を背ける気にならなかっただけ。

「ご馳走様でした」

勝手にバッタを競争相手にしていたらあっという間にお弁当箱は空になっていた。
しかしお腹には少し余裕がある、お菓子がまだ残っていたはずだ。
チョコレートの袋をいくつか取り出す。

「これちょっと甘すぎるかな」

瞬間的に脳に栄養を補給するには糖分がよいという。
なのであまり口にしない砂糖の塊を買い込んでしまったのだけれど。
どうにも失敗したみたいだ、いくらお茶を飲んでも喉に溜まる甘ったるい感触が取れない。
26 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:04:57.54 ID:kyttJn2o
それでも急ぐことはないだろう。
時計を見るとまだ正午にも針は達していなかった。
もし迷子になったら~、という想像は杞憂に終わったみたいだ。
朝早くに家を出たことが裏目に出てしまった。

満腹中枢はじわりじわりとやって来て体を重くする。
早々に帰ってもやることはないのだ、どうせならゆっくりしていこう。
もう一度大きく風を感じるとあくびが漏れた。
欲望そのままに横になると一層と青々しい空気を頬を掠める。

枝と葉の隙間から漏れる光に羊の大群を連想する。
緑風の揺り籠の中で私の意識はゆっくりと落ちていった。
このまま地面に溶けてしまうのではないかと感じていた。


―――――――――

――――――

―――

27 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:07:30.14 ID:kyttJn2o
「あずあずにゃんにゃん、あずにゃんにゃあ」
「こら唯。梓が起きたらどうするにゃん」
「澪だってこないだ机にキスしてたじゃにゃいか。ほら証拠写真はここにあるにゃん」
「こらああ、ネガを渡しにゃさいいい」
「私も澪ちゃんの寝顔見たいにゃん」
「あらあらにゃふふ」

ぼーっとした意識の中で声だけは確実に聞き取ることが出来た。
それでも体は動かない、ふわふわした感覚が気持ちよすぎて動かしたくない。
軽音部の先輩達によるにゃんにゃんショーは私を中心に公演されていた。
スポットライトの中はいやに暑いくて光が眩しい、目を開けるのにも一苦労だ。

ちらりと見えた隙間からネコミミが覗いていた。
ちょいちょいと動いては生きているかのように振舞う。
そうしているとまだ別のネコミミが視界に入ってきてまだら模様を見せつける。
先輩達、調子に乗りすぎですよ、全くもう。

「にゃぁ」

耳元で甲高い音が響くと一気に意識を戻された。
体にかかる重圧を感じる、寝起きのせいもあってかまともに動かすことができない。
そしてやけに暑い、湧き出た汗がブラウスの内側まで濡らしていた。
明らかな異変に戸惑いながら体は言うことを聞いてくれない。
私は怖くなって、つい叫んでしまった。
28 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:09:44.93 ID:kyttJn2o
「わぁあああああああ!」
「にゃああああ! ふぎにゃあああああ!」

周囲を覆っていた熱源は瞬く間にどこかへ去った。
視界に映る黒かったり白かったりする物体が尻尾を揺らせて走っていく。
ハッとして身を起こすと体の無事を確認した。
周りの状況を確認する、一息ついてよく考えてみると事態を把握できた。

「猫、かぁ」

きっと野良猫だろう、まだそう遠くないところに散らばって此方を見つめていた。
何匹かと目が合うと少しだけ気まずい空気が流れる。
こんな時、何て話しかければいいんだろう。

「えっと、ごめんね。びっくりさせちゃって」

特に大した返事は返ってこない。
にゃあ、という泣き声だけが草原に響いていた。
次の言葉が見つからずぬるい時間がこんこんと流れる。

どうしようかなとあくせくしていると途端に妙な感触に襲われた。
後ろ手を着き直した時、手のひらから指先にまで暖かくてぬるっとした何かが絡みついた。
びっくりして見てみると、それは暑さに耐え切れなくて溶けてしまったチョコレートだった。
そうか、手に持ったまま寝ちゃってたんだ、だから。
29 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:12:14.54 ID:kyttJn2o
「私が悪かったのかな」

こびり付いたチョコレートペーストが甘い匂いを漂わせる。
ここまでだと蛇口の水で洗わないと綺麗に落ちてくれなさそうだ。
と、そんなことを考えていると頭上に電球が光って名案が浮かんだ。

「そうだ。ほらっ、食べていいよ。おいで」

右手を伸ばすとひらひらと風に泳がせて猫たちに見せつける。
草むらの影から鼻をひくひくさせて此方を凝視している、ちょっとした優越感を覚えた。
自然にほーれほーれ、と誘う甘い言葉が出ていた。

「ににゃぁあ」

鳴き真似をしてみるとゆっくりこちらに近づいてくる
私ってこういう才能あるのかも、と少し嬉しくなった。
ほらほらもうちょっと、もうちょっとだよ。

一匹の茶色い猫が率先して引き寄せられてくる。
心なしか後ろからそろりと追ってくる猫たちが心配しているようだった。
既に距離は手と鼻の先だ。
もう一度手を伸ばしてみると小さな舌先がチョコレートを伝った。

――――ペロリ
30 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:15:17.59 ID:kyttJn2o
「おいしいですかにゃあ?」
「にゃあ」

鳴き顔が微笑みを返してくれているように思える。
またペロリ、ペロリと舌先のくすぐったい感触が肌を伝った。
そんな光景を傍から眺めていた黄色まだらの三毛猫が咄嗟に前に飛び出してくる。

「にゃぅ、にゃううう」
「こらっ。仲良く食べなきゃだめですよ」

半ば強引に半分のスペースを確保するとチョコレート目掛けて舌を伸ばす。
もしかして先に食べさせて私が安全な人間かどうか見極めていたっていうことなのかな。
だとしたら猫の割りに凄い賢い部類に入るのかもしれない。

「ふぎゃうにゃあああ」

そんな姿に怒っているかのように、真っ黒い猫が後ろからネコパンチを食らわせてきた。
驚いてとっさに翻った三毛は唸りながら黒と対峙している。
抜け駆けはずるいっていうことかな、変な猫ちゃんたち。

そんな二匹を掻い潜るように清楚さを漂わせる白猫が前に出てくる。
野良にしては飼われ猫以上の毛並みをしているみたいだ。
私の反対の腕がぴくぴくと動き出して、触ってみたい欲望のままに手を伸ばす。

「あったかい。それにふかふかしてる」
「にゃぁぅ」

撫でられても嫌な顔一つしない、これもチョコレートの魔翌力なのだろうか。
そんな姿にちょっとした満足感を覚えてしまう。
自然と頬がつり上がっていた。
31 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:17:29.14 ID:kyttJn2o
「おーい、そっちの二匹。早く来ないとなくなっちゃうよ」
「にゃう。にゃう」

やっぱり誘惑には勝てないのか、簡単に寄ってくる。
私の手のひらを中心としたネコハーレムがあっという間に出来上がった。
上手く手懐けられた自分をちょっとだけ誉めてあげた。

チョコレートは猫たちによって最後まで綺麗に舐め取られた。
甘臭さはなくなったけれど、代わりに唾液まみれになってしまっている。
まぁいいか、と笑って誤魔化した。

「それじゃあお姉ちゃんはもう行くからね」

見ると太陽も結構傾いてきている、時計は四時辺りを指していた。
固まっていた膝小僧を伸ばして背中をうんと反らせる。
明日の為にもそろそろ帰らなきゃいけない。

シートを閉まってリュックにつめて、そうしている間も猫たちはずっと同じ場所にいた。
もしかするとお見送りまでしてくれるのだろうか、猫の恩返しってやつかな。
お話し通りになると後から家に訪ねてくるんだっけ、それもちょっとだけ面白そうだ。

「またくるね。ばいばい」

来た道を久しぶりに辿る、ちょっとだけ名残惜しくて何度か振り返ってみる。
大きな木の根元には未だに四匹の猫たちが群れている。
本当にまた来ちゃうからね、と心の内で約束して前に向き直った。
後ろ耳に、にゃあという泣き声を聞く。

私は家路へついた。


―――――――――

――――――

―――


32 :梓は大きな木の下で ◆daxooZJcq2 :2009/10/31(土) 23:18:52.41 ID:kyttJn2o
鐘の音が待ち遠しい。
今日は始業式、午前中のホームルームと課題の提出だけでお終いだ。
それと同時に久しぶりに部室で軽音部の先輩達と会うことができる。
机の足パイプを上履きで叩いてリズムを取る、文化祭で発表する曲を練習するのが楽しみだ。

――――キーンコーンカーンコーン

よしきたっ、といきり立ってギターを背負う。
まだ教室から出てくる生徒もまばらな中、一直線に部室を目指した。
階段を上がってもう目の前だというところで大事なことを思い出した。

「鐘鳴ってすぐじゃ誰も来てないんだった」

予想通り扉を開けるとがらんとしている。
椅子に座って先輩達が入ってくるのを待った。

どんな夏休みの思い出を話そうか考えていた。
少しだけ思考を回して、やっぱりあの木の下で面白い猫たちと戯れた話かなとほくそ笑む。
先輩達はどんな反応を見せてくれるのだろうか。
扉が開かれる瞬間が待ち遠しかった。
33 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします :2009/10/31(土) 23:20:53.89 ID:kyttJn2o
おわり

「猫 チョコレート」で検索すると知らなかった人は違った見方になると思う