【ラルの新連載】

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 一介の漫画家・蘭葉ラル(らんば・―)こと東方 観穢(ひがしかた・みつみ)は、デミヒューマンにカテゴライズされる上級A-0の『ラルヴァ』であったりする。  体長153センチの体躯と前髪を添えたセミロングの金髪に青の瞳といった人相は、一見『欧米人の少女』と変わらぬように見える。がしかし、彼女の背には翼竜を思わせる蒼い皮の羽根とそして、肩口からイチョウの枝葉のように別れた計4本の腕が生えている。  歳の頃は今年で17歳になった。当然の如く学校には通っていない。しかしながら彼女は、中学を卒業するその日まで『人間』として育てられ、また彼女自身も自分の正体について知ることはなかった。  家族構成は祖母が一人。しかしその祖母も2年前に天に召され、今では双葉区にほど近い湾岸沿いの洋館にて一人暮らしをしている。  そもそもこの祖母自体、実の家族ではなかったりする。  これより17年前の1997年、ラルは発生した。七夕のその夜、庭で赤子の泣き声を聞きつけて祖母が赴くと、そこには全裸の赤ん坊が一人、元気な泣き声をあげていたのだという。それがラルであった。  その頃すでに一人暮らしをしていた祖母は、彼女の引き取り手がないことを知るとすぐにラルを自分の養女として迎え入れた。  それからというもの、ラルは『人間の少女』として健やかに育っていく訳ではあるのだが――その蜜月も長くは続かなかった。  15歳になり中学3年生に上がろうとした頃、彼女の体に異変は起こる。  それは始め、背から正体不明の突起物が生えることから始まった。  最初のころは疣やおできの類に考えていたそれも、わずか数日で今の皮の翼の原型を思わせるほどにまで成長した  異変はそれだけに留まらない。  さらには両肩の肩甲骨付近から「指」と思しき異物がキノコのよう生えてきたかと思うと、それも数日の内に「人間の腕」と思しき姿にその形を整えたのであった。  その時にいたり、初めてラルは自身が「人間」ではなかったことを悟る。そして祖母は、自分の出生の秘密もまた、その時になって初めて語ったのであった。  自身が「人間」ではないという事実を知ることはラルにとってもショックなことではあったが、それ以上にラルは、こんな自分の悲運を我が事のように悲しんでくれる祖母の方が心配であった。  ゆえにその頃は、自分の運命を嘆くことよりも、そんな祖母を悲しませまいと振るまい、そして元気づける日々の方が多かった。  当然のことながら学校へも通えなくなる。まだ症状が出始めた頃は衣類を着込んだりして誤魔化すこともできたが、それら特徴がもはや隠すことすら叶わぬほどに現れるようになってからは、自然と学校へ赴くことも叶わなくなってしまった。  そして中学生最後の時を、ラルは独り自宅にて迎える。卒業式も涙もなく、ただ後日送られてきた卒業証書に自分の名前を確認し、ラルの生涯最後となる学生生活は終わりを遂げたのであった。  時同じくしてその年、祖母も天に召された。そうして大きな屋敷には莫大な遺産と共にラルが一人残されることとなった。  いざ一人になりラルは自分の生き方というものを考えあぐねた。  生涯を食べられるだけのお金は祖母の遺産によって保障されている。しかしだからと言って、それに甘えて生きるのもラルは嫌だった。  それでは生きているのか死んでいるのかすら判らない。そんな生き方をしてしまっては祖母も悲しむことだろう。  なんとかして仕事のひとつでもと思うラルではあったが、いかんせんこの異形である。  その俗称を『ラルヴァ』と呼ばれる自分達異形は、世間一般においては「害悪」とされ排除される対象であるのだという。そうなると尚更のことラルはこの屋敷を出ることは叶わず、ただ無為に日々を過ごすばかりであった。  しかしそんなラルにも転機は訪れる。  ある時ラルの電子メールに一通のメールが届いた。それこそは某出版社からの漫画原稿執筆依頼に関するものであった。  かねてよりオタク趣味のあったラルは、その在学中より様々な同人作品を描き頒布をしていた。最近となっては即売会に赴くことも出来なくなってしまったが、それでもDL通販サイトを通じて活動しているうちに、その働きが出版関係者の目に止まったのである。  とはいえ夢のある話ばかりではない。そこから依頼された漫画の内容というのは、いわゆる「エロ漫画」としてのそれであった。  今も使っている「蘭葉ラル」のペンネームは当時から使っているものである。幼少より大好きだったロボットアニメの登場人物をもじった名前ではあったが、どうやら件の編集者もその名前からラルを「男性」と勘違いしたようであった。  これにはラルも悩んだ。いかに異形とはいえ、その中身は15歳の少女であるのだから。当然のごとく処女だ。  最初は断ろうと考えていたラルではあったが、その時になりこれこそが自分の社会参加への道であるのかもしれないと思いとどまった。  かくしてラルはその年、ケモノ系エッチ漫画をひっさげて華々しくデビューを果たす。  漫画家・蘭葉ラルの――東方 観穢の第二の人生の始まりであった。    軽い気持ちで始めたラルの思惑とは裏腹に、彼女の描く漫画はたちどころに評判となる。  ラルが想像するキャラクターは、エロ漫画の範疇を超えた個性と表現力を発揮し、ついにはそのキャラを用いて商業誌へと移行するまでになった。  そこには彼女の独創性も然ることながら、そのキャラに対して己が人生を反映させた悲哀もまた、大きく読者の共感を呼んだのである。  かくしてラルは漫画家として念願の社会参加を果たした。  そして今、ラルは一本の企画に取り掛かっている。    正式名称こそはまだ決まらないそれであるが、受け取った企画所には大きくマジックで『双葉学園』と記されていた。  その内容は、物語世界に存在する「異能力者」と「ラルヴァ」とが、東京24区目に設置された浮島「双葉学園」においてバトルを繰り広げるという、少年漫画的なものであった。  すでにお気づきの通り、これはフィクションではない。  設定の中に散見する「異能力者」も「ラルヴァ」も、そして「双葉学園」の存在も全ては現実の出来事なのだ。  企画自体は出版社発のものとして、ゲーム・アニメ・ライトノベルと、商業的に大々展開されているそれではあるが、その裏には何者でもないこの国『日本国家』の企みが働いている。  1999年を期に始まったこれら抗争に対し少しでも国民(主に若年層)の支持を得ようと、さらにはラルヴァの絶対悪性を刷りこもうと、国が関与した「国防事業」の一端なのであった。  それなのに、その怨敵ラルヴァであるところのラルに原稿依頼をしているのだから皮肉と言う他はない。  そもそもラルの養母であった祖母が、この国における要人の関係者であった。それゆえにその家族であるラルが余計な詮索を受けることはく、それが今の間抜けな関係を築くに到っている。  閑話休題。  ともあれこの仕事を受けるに際して、ラルの胸中には何とも複雑な想いがあった。  出版社より受け取る資料そこに描かれているラルヴァは、そのどれもが害悪なものと描かれているのである。 「そんなことあるものか」――ラルは強くそう思った。  ラルヴァの中にだって静かな幸福を望むもの者もいる。最愛の者の死を看取り涙する者や、それに生まれてきたことに疑問を持つ者だっているのだ。    ラルヴァだって――私だって、この世界の一員として生きているのだ!    不意に涙が溢れた。  こぼれた涙がネームノートの紙面に弾けても、ラルはシャーペンを走らせる手を止めなかった。  そんなラルの描く物語が、事の当事者たちの目にどう映るのかは判らない。もしかしたら世間知らずの夢物語と一笑に付されて読み捨てられるのかもしれない。  それでもラルは、この作品はこの世に生きる全ての者に捧げよう、と決意して描いた。  狩られるラルヴァ、それを狩る年端もいかぬ子供たち――そんな全ての者達の悲哀と、そして存在することの喜びと素晴らしさを伝えるのだ。    かくしてラルの描く『双葉学園』はここに新連載を始める。  一介の漫画家・蘭葉ラルの戦いが今ここに、その幕を開けたのだった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
 一介の漫画家・蘭葉ラル(らんば・―)こと東方 観穢(ひがしかた・みつみ)は、デミヒューマンにカテゴライズされる上級A-0の『ラルヴァ』であったりする。  体長153センチの体躯と前髪を添えたセミロングの金髪に青の瞳といった人相は、一見『欧米人の少女』と変わらぬように見える。がしかし、彼女の背には翼竜を思わせる蒼い皮の羽根とそして、肩口からイチョウの枝葉のように別れた計4本の腕が生えている。  歳の頃は今年で17歳になった。当然の如く学校には通っていない。しかしながら彼女は、中学を卒業するその日まで『人間』として育てられ、また彼女自身も自分の正体について知ることはなかった。  家族構成は祖母が一人。しかしその祖母も2年前に天に召され、今では双葉区にほど近い湾岸沿いの洋館にて一人暮らしをしている。  そもそもこの祖母自体、実の家族ではなかったりする。  これより17年前の1997年、ラルは発生した。七夕のその夜、庭で赤子の泣き声を聞きつけて祖母が赴くと、そこには全裸の赤ん坊が一人、元気な泣き声をあげていたのだという。それがラルであった。  その頃すでに一人暮らしをしていた祖母は、彼女の引き取り手がないことを知るとすぐにラルを自分の養女として迎え入れた。  それからというもの、ラルは『人間の少女』として健やかに育っていく訳ではあるのだが――その蜜月も長くは続かなかった。  15歳になり中学3年生に上がろうとした頃、彼女の体に異変は起こる。  それは始め、背から正体不明の突起物が生えることから始まった。  最初のころは疣やおできの類に考えていたそれも、わずか数日で今の皮の翼の原型を思わせるほどにまで成長した  異変はそれだけに留まらない。  さらには両肩の肩甲骨付近から「指」と思しき異物がキノコのよう生えてきたかと思うと、それも数日の内に「人間の腕」と思しき姿にその形を整えたのであった。  その時にいたり、初めてラルは自身が「人間」ではなかったことを悟る。そして祖母は、自分の出生の秘密もまた、その時になって初めて語ったのであった。  自身が「人間」ではないという事実を知ることはラルにとってもショックなことではあったが、それ以上にラルは、こんな自分の悲運を我が事のように悲しんでくれる祖母の方が心配であった。  ゆえにその頃は、自分の運命を嘆くことよりも、そんな祖母を悲しませまいと振るまい、そして元気づける日々の方が多かった。  当然のことながら学校へも通えなくなる。まだ症状が出始めた頃は衣類を着込んだりして誤魔化すこともできたが、それら特徴がもはや隠すことすら叶わぬほどに現れるようになってからは、自然と学校へ赴くことも叶わなくなってしまった。  そして中学生最後の時を、ラルは独り自宅にて迎える。卒業式も涙もなく、ただ後日送られてきた卒業証書に自分の名前を確認し、ラルの生涯最後となる学生生活は終わりを遂げたのであった。  時同じくしてその年、祖母も天に召された。そうして大きな屋敷には莫大な遺産と共にラルが一人残されることとなった。  いざ一人になりラルは自分の生き方というものを考えあぐねた。  生涯を食べられるだけのお金は祖母の遺産によって保障されている。しかしだからと言って、それに甘えて生きるのもラルは嫌だった。  それでは生きているのか死んでいるのかすら判らない。そんな生き方をしてしまっては祖母も悲しむことだろう。  なんとかして仕事のひとつでもと思うラルではあったが、いかんせんこの異形である。  その俗称を『ラルヴァ』と呼ばれる自分達異形は、世間一般においては「害悪」とされ排除される対象であるのだという。そうなると尚更のことラルはこの屋敷を出ることは叶わず、ただ無為に日々を過ごすばかりであった。  しかしそんなラルにも転機は訪れる。  ある時ラルの電子メールに一通のメールが届いた。それこそは某出版社からの漫画原稿執筆依頼に関するものであった。  かねてよりオタク趣味のあったラルは、その在学中より様々な同人作品を描き頒布をしていた。最近となっては即売会に赴くことも出来なくなってしまったが、それでもDL通販サイトを通じて活動しているうちに、その働きが出版関係者の目に止まったのである。  とはいえ夢のある話ばかりではない。そこから依頼された漫画の内容というのは、いわゆる「エロ漫画」としてのそれであった。  今も使っている「蘭葉ラル」のペンネームは当時から使っているものである。幼少より大好きだったロボットアニメの登場人物をもじった名前ではあったが、どうやら件の編集者もその名前からラルを「男性」と勘違いしたようであった。  これにはラルも悩んだ。いかに異形とはいえ、その中身は15歳の少女であるのだから。当然のごとく処女だ。  最初は断ろうと考えていたラルではあったが、その時になりこれこそが自分の社会参加への道であるのかもしれないと思いとどまった。  かくしてラルはその年、ケモノ系エッチ漫画をひっさげて華々しくデビューを果たす。  漫画家・蘭葉ラルの――東方 観穢の第二の人生の始まりであった。    軽い気持ちで始めたラルの思惑とは裏腹に、彼女の描く漫画はたちどころに評判となる。  ラルが想像するキャラクターは、エロ漫画の範疇を超えた個性と表現力を発揮し、ついにはそのキャラを用いて商業誌へと移行するまでになった。  そこには彼女の独創性も然ることながら、そのキャラに対して己が人生を反映させた悲哀もまた、大きく読者の共感を呼んだのである。  かくしてラルは漫画家として念願の社会参加を果たした。  そして今、ラルは一本の企画に取り掛かっている。    正式名称こそはまだ決まらないそれであるが、受け取った企画所には大きくマジックで『双葉学園』と記されていた。  その内容は、物語世界に存在する「異能力者」と「ラルヴァ」とが、東京24区目に設置された浮島「双葉学園」においてバトルを繰り広げるという、少年漫画的なものであった。  すでにお気づきの通り、これはフィクションではない。  設定の中に散見する「異能力者」も「ラルヴァ」も、そして「双葉学園」の存在も全ては現実の出来事なのだ。  企画自体は出版社発のものとして、ゲーム・アニメ・ライトノベルと、商業的に大々展開されているそれではあるが、その裏には何者でもないこの国『日本国家』の企みが働いている。  1999年を期に始まったこれら抗争に対し少しでも国民(主に若年層)の支持を得ようと、さらにはラルヴァの絶対悪性を刷りこもうと、国が関与した「国防事業」の一端なのであった。  それなのに、その怨敵ラルヴァであるところのラルに原稿依頼をしているのだから皮肉と言う他はない。  そもそもラルの養母であった祖母が、この国における要人の関係者であった。それゆえにその家族であるラルが余計な詮索を受けることはく、それが今の間抜けな関係を築くに到っている。  閑話休題。  ともあれこの仕事を受けるに際して、ラルの胸中には何とも複雑な想いがあった。  出版社より受け取る資料そこに描かれているラルヴァは、そのどれもが害悪なものと描かれているのである。 「そんなことあるものか」――ラルは強くそう思った。  ラルヴァの中にだって静かな幸福を望むもの者もいる。最愛の者の死を看取り涙する者や、それに生まれてきたことに疑問を持つ者だっているのだ。    ラルヴァだって――私だって、この世界の一員として生きているのだ!    不意に涙が溢れた。  こぼれた涙がネームノートの紙面に弾けても、ラルはシャーペンを走らせる手を止めなかった。  そんなラルの描く物語が、事の当事者たちの目にどう映るのかは判らない。もしかしたら世間知らずの夢物語と一笑に付されて読み捨てられるのかもしれない。  それでもラルは、この作品はこの世に生きる全ての者に捧げよう、と決意して描いた。  狩られるラルヴァ、それを狩る年端もいかぬ子供たち――そんな全ての者達の悲哀と、そして存在することの喜びと素晴らしさを伝えるのだ。    かくしてラルの描く『双葉学園』はここに新連載を始める。  一介の漫画家・蘭葉ラルの戦いが今ここに、その幕を開けたのだった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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