【双葉学園の怖い噂 二怪目「穴」】

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[[縦読み版>http://rano.jp/3004]]  テスト勉強をするために、目比《めくらべ》はとある喫茶店の中に入った。  店内はクーラーが効いていて涼しく、客は一人もおらず、小気味いいジャズの音楽だけが流れているだけだ。勉強するには最適の場所だ。目比はこの穴場スポットをよく利用していた。こんな経営状態で大丈夫なのかと前にマスターに聞いたことがある。客が滅多にいないのは昼だからであって、夜にはバーになり、そっちのほうが本業なのだという。  目比はいつもの窓際の席に座った。しかし、店内にはいつもいるはずのマスターがいなかった。どうしたんだろうと思っていると、店の中から一人の少年が出てきた。 「よお目比。お前こんなところに来るなんて変わってるな」  そう言って目比の前にやってきたのは彼のクラスメイトである山本であった。山本はこの店の制服を着ていて、手には注文票を持っている。 「なんだ山本。お前、もしかしてここでバイトしてるのか?」 「ああそうだよ。ちょっと小遣い稼ぎにね。昼にマスターがいないときに出るようになってるのさ」」 「今日学校休んだのは仮病だったのか。それでバイトしてるのがバレたら怒られるぞ」 「へへ、まあ堅いこと言うなよ……」  そう言って山本は目比に注文票を渡した。目比はそれを見ることなく「クリームソーダで」と言い、山本はすぐにクリームソーダを作って持ってきた。そして山本はずうずうしくも彼の目の前に腰を下ろす。 「なんだよ山本。ぼくはこれから勉強するんだよ」 「いいじゃねえか。俺も暇なんだよ。少し話しようぜ」  軽薄そうに山本は笑い、自分も店のコーラをタダ呑みしていた。そんな山本に目比はいらだちを感じた。 「まあそんな嫌な顔するなよ目比。面白い話をしてやるよ」 「面白い話?」  目比は山本の言葉にペンを止める。気晴らし程度には聞いてみるのもいいかもしれない。 「そうさ、ちょっとこの間俺が出会った不思議なことなんだけどな……」  山本はふっと真顔になり、目比の目を見ながら語り始めた。 「そう、あれはいつだったかな。そうだ、確か先週の金曜日の話だ。その日の帰り、俺はゲーセンに寄ってから少し街をプラプラ歩いていたら、ふと奇妙な物が目に映ったんだ。  それがなんだって?  まてまて急かすな。じっくり話してやるから。  俺が見たのはただのサラリーマンだ。双葉区の中にある企業の社員だろうな。高級そうなスーツを身に付けた男だった。そいつが俺の前を歩いていたんだ。だけどその男は少し変わっていた。こう、首の後ろ――うなじだ。うなじのところに大きなホクロがあったんだよ。こう、ちょうど親指と人差し指で作った輪っかくらいの大きさのやつだ。俺は大きなホクロだな。変わってるな。ぐらいにしか思わなかった。  だけど、それは俺の思い違いだったんだよ。  それはホクロじゃなかった。  穴だったんだ。  何言ってるんだって目で見るなよ目比。俺はこれでも真面目に話してるんだぜ。その男が街灯の下に来た時に、はっきり見えたんだよ。その黒い丸はホクロじゃなくて、ぽっかりとうなじに空いた穴だったんだ。見間違いじゃない。ちゃんと奥行きがあった。深い穴のようで、奥が暗くなっていてどうなっているのかはわからなかったけどな。  それを見て茫然とした俺は、その場に立ち尽くした。すると、今度は俺の後ろから妙な老人が俺を追い越してそのサラリーマンのほうへ歩いて行ったんだ  その老人は浮浪者みたいな汚らしい格好をしていて、どこを見てるのかわからないくらいに虚ろな目をしていた。その老人は一瞬だけ俺のほうを向いて、ニヤリと笑ったんだ。それが凄く不気味で、今でも俺の頭にこびりついてる。  その老人は、何を思ったのか前を歩いていたサラリーマンの首筋の穴に手を伸ばした。  ああ、ただでさえ無茶苦茶な話なのに、これを言ったらお前は呆れるかもしれないな。でもこれは本当に見たことなんだ。  いいか、その老人の指がサラリーマンの首の穴に触れた瞬間、老人がその穴の中に吸い込まれたんだよ。  ほら、お前のその顔、絶対信じてないだろ。だけど本当なんだ。その老人はスパゲティーみたいに細くなって、その穴の中に入っていったんだ。俺も最初は夢だと思って目をこすった。  そうしたらさっきまでの光景が嘘のように、そのサラリーマンの穴は綺麗さっぱり無くなっていた。  ほらやっぱり幻覚だって? 馬鹿言うな。確かにそれだけなら俺だって夢だって思ったさ。だけどな、その直後そのサラリーマンに異変が起きたんだ。いきなり奇声を発し始めて、道に落ちていた鉄パイプを拾い上げたんだ。それでいきなり人通りのある道路に飛び出して、歩いていた女の子に殴りかかったんだよ。しかも何度も何度も、執拗に殴って、女の子がぐったりとしたら、今度は別の標的を探してそれを殴っていた。すぐに取り押さえられたけど、大惨事だ。ありゃ気狂いだよ。あれを見て俺は心の底からぞっとした。  でもなぜあの温厚そうだったサラリーマンが突如発狂したかのように人を殴りつけたのかわからない。  だけど俺は、それがあの穴と老人のせいだと俺は思うんだ。関連性なんてまったくわからないけど、どう考えてもあれが原因だとしか思えない。だけど怖くて俺はそのことを警察や学園関係者に話す気はなれなかった。  それ以来、俺は何度も見た。  人のうなじに穴が空いているのを。  そしてあの不気味な老人のように、その穴の中に入ろうとする連中も何人も見た。それは老人の姿をしてる奴だけじゃない。女や若い男、中には子供もいた。  みんな人間とは思えない虚ろな目をしていて、奴らが穴の中に入ると穴は閉じて、その人間はまるで突然発狂したように犯罪行為をするんだ。強盗や強姦、暴行に殺人未遂。トラックの運転手がコンビニに突っ込むのも見た。  理屈も正体も不明だけど、そいつらが人の穴に入ると、入られた人間は理性を失うんだよ。  変な話だろ? でも実際に俺は見た。  なぜだか俺以外の人間にはそれは見えていなかった。だからだれにも言えなかった。  俺は連中を悪魔だと思う。『魔が差す』って言葉があるだろ。それは本当に言葉通りで、きっとあの穴は心の隙間なんだ。その中に悪魔が入り込んで、人間に悪いことをさせてしまう。これは俺の推測でしかないが、きっとそうだ。  それでな目比……。  今日の朝、起きてなんだか首筋がスースーすると思ったんだよ。  鏡では上手く見えないし、どうしたらいいかわからないんだ。  なあ目比。  俺のうなじを見てくれよ。  穴が空いてないか、お前の目で確かめてみてくれ……」  そう語り終えた山本の目はギラギラと血走っており、手が震えていた。ガチガチと奥歯を鳴らして、必死の形相で目比を睨む。  その山本の雰囲気に呑まれ、目比はゴクリと喉を鳴らす。もし彼の言うことが本当ならば、彼は一体どうなってしまうのだろうか。  そして山本はゆっくりと後ろを向き、目比に自分の首筋を見せた。 「これだ、見てくれよ……」 「!」  そこには、何も無かった。  普通の、日に焼けた少年の肌があるだけで、彼の言うような穴なんて一ミリも空いてはいない。ふうっと安堵の溜息を漏らすのと同時に、目比はふつふつと怒りが湧いてくるのを覚えた。  担がれた。  きっと全部出まかせだったんだ。山本は怖い話を自分に聞かせ、怖がらせようということだったのだろう。そう思った目比は、ぷいっと顔をそむける。 「お前ぼくを騙したな。そんなくだらないこと言って、勉強の邪魔したいだけだろ。もうぼくに話しかけないでくれ!」  バンっと机を叩いてそう目比は言った。しかし、目の前の山本は、後ろを向いたまま凍りついたように固まっていた。 「お、おい山本……」  不穏な空気を悟り、目比は彼に話しかけた。すると彼は体を震わせ、ゆっくりとこっちを向き始めた。 「なんだよ。なんなんだよ目比。俺は本当のことを言ってるんだ。なのに、なのにお前も俺の言うこと信じてくれないのか!」  ぐるんっとこっちを向いた山本は、テーブルに置いてあったフォークを掴み上げ、思い切り目比の手の甲に突き刺した。 「ぎゃっ!」  目比は悲鳴を上げる。手からは血が流れ出る。 「何するんだ山本!」  そう呼びかけるが無駄だった。彼の顔は悪魔のように醜悪になっていた。眼は焦点が合っておらず、頭には血管が浮き出ている。そして勢いよく彼は目比に飛びかかってきた。 「どいつもこいつも俺のことを嘘つき呼ばわりしやがって! マスターだってそうだ! みんな殺してやる! 殺してやる!」  彼の右手には血まみれのナイフが握られていた。山本はそれを目比に向かって振り回す。 「や、やめろ。やめてくれ!」  目比は腕でナイフを防ごうとして、腕を切られる。血がテーブルに飛んでいく。このままでは殺されると思った目比は、テーブルのクリームソーダを山本に思い切り投げつけた。 「ぐふ!」  山本が一瞬ひるんだ隙に、目比はその場から駆けだして命からがら店の外へと飛び出した。 「誰か、誰か助けてください!」  そうしてやがてやってきた警察に、山本は逮捕された。  その後、警察に聞いた話によると、あの店のマスターは目比が来る前に殺されていたのだという。山本は逮捕されたあとも「穴」や「悪魔」などと意味のわからないことを供述しているらしい。ラルヴァや異能者と何か関わりがあるのか、調べが進んでいる。  それを聞き、目比はある考えに至る。やはり山本の首には穴があったのだ。  そして、あの時目比が見た時に穴が無かったのは、既に悪魔に入りこまれた後なのではないか。『魔が差してしまった』のではないのだろうか。  目比の怪我は浅く、一ヶ月ほどで完治した。  もう過去の忌まわしい記憶は忘れ去ろうと、山本のことは考えないようにしようとしていた。  そんなある日、朝目が覚めると、なんだか首の後ろがスースーするのを、目比は感じた……。  オワリ ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
[[縦読み版>http://rano.jp/3004]]   「穴」  テスト勉強をするために、目比《めくらべ》はとある喫茶店の中に入った。  店内はクーラーが効いていて涼しく、客は一人もおらず、小気味いいジャズの音楽だけが流れているだけだ。勉強するには最適の場所だ。目比はこの穴場スポットをよく利用していた。こんな経営状態で大丈夫なのかと前にマスターに聞いたことがある。客が滅多にいないのは昼だからであって、夜にはバーになり、そっちのほうが本業なのだという。  目比はいつもの窓際の席に座った。しかし、店内にはいつもいるはずのマスターがいなかった。どうしたんだろうと思っていると、店の中から一人の少年が出てきた。 「よお目比。お前こんなところに来るなんて変わってるな」  そう言って目比の前にやってきたのは彼のクラスメイトである山本であった。山本はこの店の制服を着ていて、手には注文票を持っている。 「なんだ山本。お前、もしかしてここでバイトしてるのか?」 「ああそうだよ。ちょっと小遣い稼ぎにね。昼にマスターがいないときに出るようになってるのさ」」 「今日学校休んだのは仮病だったのか。それでバイトしてるのがバレたら怒られるぞ」 「へへ、まあ堅いこと言うなよ……」  そう言って山本は目比に注文票を渡した。目比はそれを見ることなく「クリームソーダで」と言い、山本はすぐにクリームソーダを作って持ってきた。そして山本はずうずうしくも彼の目の前に腰を下ろす。 「なんだよ山本。ぼくはこれから勉強するんだよ」 「いいじゃねえか。俺も暇なんだよ。少し話しようぜ」  軽薄そうに山本は笑い、自分も店のコーラをタダ呑みしていた。そんな山本に目比はいらだちを感じた。 「まあそんな嫌な顔するなよ目比。面白い話をしてやるよ」 「面白い話?」  目比は山本の言葉にペンを止める。気晴らし程度には聞いてみるのもいいかもしれない。 「そうさ、ちょっとこの間俺が出会った不思議なことなんだけどな……」  山本はふっと真顔になり、目比の目を見ながら語り始めた。 「そう、あれはいつだったかな。そうだ、確か先週の金曜日の話だ。その日の帰り、俺はゲーセンに寄ってから少し街をプラプラ歩いていたら、ふと奇妙な物が目に映ったんだ。  それがなんだって?  まてまて急かすな。じっくり話してやるから。  俺が見たのはただのサラリーマンだ。双葉区の中にある企業の社員だろうな。高級そうなスーツを身に付けた男だった。そいつが俺の前を歩いていたんだ。だけどその男は少し変わっていた。こう、首の後ろ――うなじだ。うなじのところに大きなホクロがあったんだよ。こう、ちょうど親指と人差し指で作った輪っかくらいの大きさのやつだ。俺は大きなホクロだな。変わってるな。ぐらいにしか思わなかった。  だけど、それは俺の思い違いだったんだよ。  それはホクロじゃなかった。  穴だったんだ。  何言ってるんだって目で見るなよ目比。俺はこれでも真面目に話してるんだぜ。その男が街灯の下に来た時に、はっきり見えたんだよ。その黒い丸はホクロじゃなくて、ぽっかりとうなじに空いた穴だったんだ。見間違いじゃない。ちゃんと奥行きがあった。深い穴のようで、奥が暗くなっていてどうなっているのかはわからなかったけどな。  それを見て茫然とした俺は、その場に立ち尽くした。すると、今度は俺の後ろから妙な老人が俺を追い越してそのサラリーマンのほうへ歩いて行ったんだ  その老人は浮浪者みたいな汚らしい格好をしていて、どこを見てるのかわからないくらいに虚ろな目をしていた。その老人は一瞬だけ俺のほうを向いて、ニヤリと笑ったんだ。それが凄く不気味で、今でも俺の頭にこびりついてる。  その老人は、何を思ったのか前を歩いていたサラリーマンの首筋の穴に手を伸ばした。  ああ、ただでさえ無茶苦茶な話なのに、これを言ったらお前は呆れるかもしれないな。でもこれは本当に見たことなんだ。  いいか、その老人の指がサラリーマンの首の穴に触れた瞬間、老人がその穴の中に吸い込まれたんだよ。  ほら、お前のその顔、絶対信じてないだろ。だけど本当なんだ。その老人はスパゲティーみたいに細くなって、その穴の中に入っていったんだ。俺も最初は夢だと思って目をこすった。  そうしたらさっきまでの光景が嘘のように、そのサラリーマンの穴は綺麗さっぱり無くなっていた。  ほらやっぱり幻覚だって? 馬鹿言うな。確かにそれだけなら俺だって夢だって思ったさ。だけどな、その直後そのサラリーマンに異変が起きたんだ。いきなり奇声を発し始めて、道に落ちていた鉄パイプを拾い上げたんだ。それでいきなり人通りのある道路に飛び出して、歩いていた女の子に殴りかかったんだよ。しかも何度も何度も、執拗に殴って、女の子がぐったりとしたら、今度は別の標的を探してそれを殴っていた。すぐに取り押さえられたけど、大惨事だ。ありゃ気狂いだよ。あれを見て俺は心の底からぞっとした。  でもなぜあの温厚そうだったサラリーマンが突如発狂したかのように人を殴りつけたのかわからない。  だけど俺は、それがあの穴と老人のせいだと俺は思うんだ。関連性なんてまったくわからないけど、どう考えてもあれが原因だとしか思えない。だけど怖くて俺はそのことを警察や学園関係者に話す気はなれなかった。  それ以来、俺は何度も見た。  人のうなじに穴が空いているのを。  そしてあの不気味な老人のように、その穴の中に入ろうとする連中も何人も見た。それは老人の姿をしてる奴だけじゃない。女や若い男、中には子供もいた。  みんな人間とは思えない虚ろな目をしていて、奴らが穴の中に入ると穴は閉じて、その人間はまるで突然発狂したように犯罪行為をするんだ。強盗や強姦、暴行に殺人未遂。トラックの運転手がコンビニに突っ込むのも見た。  理屈も正体も不明だけど、そいつらが人の穴に入ると、入られた人間は理性を失うんだよ。  変な話だろ? でも実際に俺は見た。  なぜだか俺以外の人間にはそれは見えていなかった。だからだれにも言えなかった。  俺は連中を悪魔だと思う。『魔が差す』って言葉があるだろ。それは本当に言葉通りで、きっとあの穴は心の隙間なんだ。その中に悪魔が入り込んで、人間に悪いことをさせてしまう。これは俺の推測でしかないが、きっとそうだ。  それでな目比……。  今日の朝、起きてなんだか首筋がスースーすると思ったんだよ。  鏡では上手く見えないし、どうしたらいいかわからないんだ。  なあ目比。  俺のうなじを見てくれよ。  穴が空いてないか、お前の目で確かめてみてくれ……」  そう語り終えた山本の目はギラギラと血走っており、手が震えていた。ガチガチと奥歯を鳴らして、必死の形相で目比を睨む。  その山本の雰囲気に呑まれ、目比はゴクリと喉を鳴らす。もし彼の言うことが本当ならば、彼は一体どうなってしまうのだろうか。  そして山本はゆっくりと後ろを向き、目比に自分の首筋を見せた。 「これだ、見てくれよ……」 「!」  そこには、何も無かった。  普通の、日に焼けた少年の肌があるだけで、彼の言うような穴なんて一ミリも空いてはいない。ふうっと安堵の溜息を漏らすのと同時に、目比はふつふつと怒りが湧いてくるのを覚えた。  担がれた。  きっと全部出まかせだったんだ。山本は怖い話を自分に聞かせ、怖がらせようということだったのだろう。そう思った目比は、ぷいっと顔をそむける。 「お前ぼくを騙したな。そんなくだらないこと言って、勉強の邪魔したいだけだろ。もうぼくに話しかけないでくれ!」  バンっと机を叩いてそう目比は言った。しかし、目の前の山本は、後ろを向いたまま凍りついたように固まっていた。 「お、おい山本……」  不穏な空気を悟り、目比は彼に話しかけた。すると彼は体を震わせ、ゆっくりとこっちを向き始めた。 「なんだよ。なんなんだよ目比。俺は本当のことを言ってるんだ。なのに、なのにお前も俺の言うこと信じてくれないのか!」  ぐるんっとこっちを向いた山本は、テーブルに置いてあったフォークを掴み上げ、思い切り目比の手の甲に突き刺した。 「ぎゃっ!」  目比は悲鳴を上げる。手からは血が流れ出る。 「何するんだ山本!」  そう呼びかけるが無駄だった。彼の顔は悪魔のように醜悪になっていた。眼は焦点が合っておらず、頭には血管が浮き出ている。そして勢いよく彼は目比に飛びかかってきた。 「どいつもこいつも俺のことを嘘つき呼ばわりしやがって! マスターだってそうだ! みんな殺してやる! 殺してやる!」  彼の右手には血まみれのナイフが握られていた。山本はそれを目比に向かって振り回す。 「や、やめろ。やめてくれ!」  目比は腕でナイフを防ごうとして、腕を切られる。血がテーブルに飛んでいく。このままでは殺されると思った目比は、テーブルのクリームソーダを山本に思い切り投げつけた。 「ぐふ!」  山本が一瞬ひるんだ隙に、目比はその場から駆けだして命からがら店の外へと飛び出した。 「誰か、誰か助けてください!」  そうしてやがてやってきた警察に、山本は逮捕された。  その後、警察に聞いた話によると、あの店のマスターは目比が来る前に殺されていたのだという。山本は逮捕されたあとも「穴」や「悪魔」などと意味のわからないことを供述しているらしい。ラルヴァや異能者と何か関わりがあるのか、調べが進んでいる。  それを聞き、目比はある考えに至る。やはり山本の首には穴があったのだ。  そして、あの時目比が見た時に穴が無かったのは、既に悪魔に入りこまれた後なのではないか。『魔が差してしまった』のではないのだろうか。  目比の怪我は浅く、一ヶ月ほどで完治した。  もう過去の忌まわしい記憶は忘れ去ろうと、山本のことは考えないようにしようとしていた。  そんなある日、朝目が覚めると、なんだか首の後ろがスースーするのを、目比は感じた……。  オワリ ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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