【キャンパス・ライフ3 「大学の学食」】

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 &bold(){特別編は5まで書いたら凹凸続編待ちとして抑止かけます}  &bold(){「3」は大学生活について取り上げてみようと思います}  その1「大学の学食」  秋晴れの空に向かって伸びる、真っ白な講堂。  数羽の鳩が、穏やかな昼の空をのびのびと泳いでいった。  建物の前で、高等部の生徒たちが十人ほど固まっていた。 「お待たせしました」  彼らの前に現れたのは、背のやや低くて、髪の短めな女子大生である。女子大生といっても、私服を着ているからそうだとわかっただけで、外見の幼さときたら高等部の生徒と大差ない。  誰もが目を引いたのは、女子大生の頭の上にふさふさと揺れている、白い犬耳であった。「なんかカワイイ」という声が沸き、犬耳の子は顔を赤らめて照れる。 「今日、大学の学食を見学したいという生徒さんたちだね」  と、彼女が彼らに対してそうきいた。誰かが「はい、そうです」と答える。それに女子大生は笑顔で応えると、A4サイズの書類を取り出し、点呼を始めた。 「全員いるようだね。それでは、改めましてこんにちは」 「こんにちはー」 「オープンキャンパスで学食を紹介する、川又ふみと言います。よろしくね」  本日、大学では「オープンキャンパス」が催されていた。  内容自体は、一般的な大学で催されるオープンキャンパスと変わりない。教授による体験授業や施設の見学、サークルの紹介などが行われている。  今回川又が担当するのは、土曜日午後の学食見学であった。これから学食のある建物に行き、その様子を見てもらうのだ。 「まず、うちの大学についてはどれぐらい知ってるのかな」 「異能やラルヴァについて深く学べる学部がたくさんあるのは知ってます」 「うん。研究施設と密接に繋がってるから、好きなだけ勉強できるよ」 「卒業後の進路を教えてください」 「うんとね、まず双葉島や学園に関わる仕事に就くのが多いかな。次に多いのは地方に出てラルヴァと戦う仕事。あと、成績がすごくいいと、国や巨大企業からスカウトが来るって聞くね」  おー、と生徒たちから感嘆の声が上がった。 「大学に受かるために必要な偏差値はどれぐらいですか?」 「日ごろの授業で赤点取らなければ大丈夫だよ。まあとっても強い人は、成績悪くてもぽーんと受かっちゃうらしいけどね」 「この学園は異能が第一ですものね」 「そうだね」  にこっと川又は微笑む。 「そして、ボクは獣医学部に通う大学一年生。だから将来の夢は獣医さん」 「やっぱり、動物の力を持ってるからですか?」  と、男子が川又の犬耳を見つめながら言った。 「キミの言うとおり。ボクは犬の血が流れていて、ほとんどの動物の話す言葉がわかるんだ。動物たちの気持ちが理解できるから、獣医はボクの力を活かせる仕事だと思ってるの」  高等部の生徒たちは川又の言葉に深く感心していた。 「それじゃ、そろそろ行こうか。ついてきてね」  白い犬耳をふさふさ揺らして歩き出した彼女に、生徒たちは続いていった。 「ここが食堂だよ」  ガラス張りの建物の一階に、大学の学食はあった。  この建物は二階より上が教室となっており、一階は学食と購買と、コピースペースによって構成されている。 「まず、入ったところに設置されている食券を買ってね、おばちゃんに渡すの」  高校生たちが川又の指を差したほうを見ると、食券の白い自動券売機がずらりと並べられていて、たまらず目を丸くする。 「とっても混雑するからね、しょうがないんだ」と、川又も苦笑している。  次に彼らの度肝を抜いたのは、大学の学生たちによる食事風景だった。  がつがつと貪りつくすかのように、箸を乱舞させては食物をかきこんでいる。  彼らの目に周りの景色など入らない。ひたすら一心不乱に、必死になって米や肉を喉に流し込んでいた。 「みんなすごく食べてるねぇ」  などと、川又がのんきに言った。 「理解できる気がします。僕たちも異能を使ったあとは、ああなりますし」 「だね」と、川又が言った。「ふだん体力や異能力をたくさん使うボクたちにとって、食はとっても大事な要素」 「ちゃんと食べないと午後の訓練とか無理ですよね」 「異能力者は食欲もそうだけど、性欲や睡眠欲も一般人より強いようなの。仕方ないね」 「では、ふみ先輩は性欲強いんですか?」 「え? はうう・・・・・・」  質問をした男子を、女子がひっぱたく。  大学生の昼食は、主に学食を利用する者と、家から弁当を持ってくる者に二分される。購買で適当に揃えてくる学生もいるし、商店街のお店に行く学生もいるそうだ。 「金欠に苦しむ人は、街中の中華料理店に行くみたいだね」 「ああ、知ってます」 「安くてたくさん食べられるそうだね。ボクはあんな怖いところ、一人では入れないなあ・・・・・・」 「ふみ先輩は、お昼はどうしているんですか?」 「お弁当だよ。ボクは毎朝、お母さんとお弁当を作ってるんだ。弟が二人いて、お父さんのぶんも合わせて、四人前、だね!」  ころころと笑顔を向けながら川又は言った。  川又は高校生たちをクリアケースの前に連れていった。 「これがメニューだよ」 「けっこう多いですね・・・・・・」 「うん。学生の生活を全面にサポートするため、種類も量も圧倒的だよ」  そう、ずらりと並べられた百個ほどの皿を前に彼女は解説する。 「とにかくたくさん食べたいのなら、学食行けば間違いないね。表で食べるよりもずっと安上がり」 「けっこう値段が安く設定されてますよね」 「この春からうんと値下げされたんだ。さて、もっと詳しくメニューを見てみよう」  クリアケースに収められている料理の模型を、川又は上から下にかけて順に解説していった。   双葉学園カレーセット(サラダ付き)。  御鈴会長監修『しゅくじょのごはん』。  龍河弾全面協力『スタミナしょうが焼き定食』。  原案・遠野彼方『びゃこにゃん定食』。 「――などなど、大学には、双葉学園らしいアイディアのご飯がいっぱいあるんだよ」 「たくさんあるメニューのなかで、どういうのが人気あるんですか?」 「難しい質問だねぇ」  と、川又は少し考えてからこう答える。 「早く出てくることから、どんぶりものや麺類が男子生徒には人気かな。ボクたち女の子は、量の少なくて野菜の付いている、ヘルシーなセットを好むかも」  なるほど、と呟きながら女子生徒は律儀にメモを取った。 「そろそろお昼にしようか。今日はオープンキャンパスに来てくれたお礼として、一品、なんでも無料で提供するよ!」  川又がそう言うと、高校生たちは大喜びで調理室のおばちゃんにオーダーしていった。  あらかじめ予約しておいたテーブルに生徒たちは座る。大学生たちが高等部の制服を懐かしみ、気さくに話しかけてくれた。  学食見学を終えたあと、川又たちは講堂前に戻ってきた。 「今日はオープンキャンパスに来てくれてどうもありがとうございました」  ぺこりと頭を下げたとき、生徒たちから「ありがとうございました!」と声をそろえて言われてしまった。彼女はてれてれと顔を赤らめる。 「今回紹介した学食のほかにも食堂があったり、小さなカフェがあったりするね。あとコンビニ顔負けの大きな購買もあるから、そこで買い物を済ませて教室で食べてる人もいるかな」  川又は腕時計をちらりと見てから、高校生たちにこうきいた。 「最後に質問を受け付けるね。大学のこととか何でも聞くよ」 「ふみ先輩の趣味は何ですか?」 「え? ボクの趣味?」と川又は目をぱちくりさせる。 「えっとねー、やっぱりお料理が一番好き。その次にワンちゃんとお話することかな。スポーツは、卓球をずっとやってました」 「ふみ先輩はどうして獣医の道に進もうとするのですか?」 「そうだねー・・・・・・。やっぱり、犬と人間の血が流れているボクに合った仕事だと思ったからだね。ボク、実はこういう種族であることがとってもイヤだった頃があったの」 「嫌だったときがあったんですか?」 「うん。みんなにいじめられてきたのがイヤだったし、特に高校の頃は、一部の人たちによって差別されたこともあった。だからずっと耳を隠しててね、びくびくしながら過ごしてたの」 「そんなことがあったんですか! 色々な異能者がいる今の高等部では、考えられません・・・・・・」 「でも、三年前のある事件がきっかけだった。ボクはもっと強くならなきゃいけないんだということと、自分の異能に誇りを持たなきゃいけないんだってことを、痛いぐらいに学んだんだ」  川又は胸に手を当てて、箱の奥にしまってきた思い出を丁寧に拾い上げる。 「大切な友達を――自分と同じような種族の友達を、見殺しにしてしまったの。ボクはそのことをずっとずっと後悔してきた。ボクはもっと殲滅派の・・・・・・いや、自分たちを悪く言うような人たちに対して、堂々とするべきだった」  高校生たちはメモを取るのも忘れて、川又の話に聞き入っていた。 「だからもうボクは耳を隠さない」と、川又はスピッツの白い犬耳をぴこぴこ動かしてみせた。「自分はそう、ラルヴァハーフの川又ふみとして、堂々としていきたいと思ってる。獣医になりたいと思ったのも、ラルヴァハーフの自分にしかできないような仕事だと考えたからなんだ。理由については以上。ごめんね、話しすぎちゃって」 「いえ、ラルヴァハーフという事実まで教えてくださって、どうもありがとうございました・・・・・・」 「どういたしまして。じゃあ、最後の質問をどうぞ!」 「ふみ先輩には彼氏とかいますか?」  と、元気の有り余った男子生徒がそんなことをきいた。 「さ、さっきから大学とは関係ないことばかりだねえ・・・・・・?」と、川又は困惑する。「えーと、んーと、うう・・・・・・。いません。いません! 恥ずかしいよう・・・・・・」  川又は耳まで真っ赤になって、クリアファイルをぐりぐり顔に押し付けた。 「でもネ、高校の頃からずっと好きな人はいたりします。でも、その人は恋愛には全然興味のなさそうな、その、無表情な人なんです。ラルヴァの霊能力を持っている、変わった戦い方をする人です・・・・・・」  なーんだ、と男子生徒はがっくりうなだれた。 「も、もういいよね? では、これでオープンキャンパスの、学食見学会を終わります! 担当は川又ふみでした。みんな、どうもありがとうございました! ・・・・・・ひゃんっ」  いつの間にか川又の背後に回りこんでいた女子生徒が、川又の耳を撫でた。 「あ、あのう・・・・・・何を・・・・・・? ・・・・・・きゃうん」  もう一人女子生徒が便乗して、後ろから頭をナデナデした。川又はぎゅっと手を握り、ふるふると小刻みに震えた。 「ねえ・・・・・・どうしたのみんな・・・・・・?」  川又は後ずさった。涙を溜めてびくびくして、獰猛な野獣の表情をしている高等部の生徒たちから離れようとした。  しかし、遅かった。 『かわいい!』 「きゃあー!」  みんなは同時に大声を出すと、一斉に川又に飛び掛って彼女を捕まえてしまう。 「た~す~け~て~~~」  元気な高等部の生徒たちの気が済むまで、川又は思う存分モフモフされたのであった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]
 &bold(){特別編は5まで書いたら凹凸続編待ちとして抑止かけます}  &bold(){「3」は大学生活について取り上げてみようと思います}  その1「大学の学食」  秋晴れの空に向かって伸びる、真っ白な講堂。  数羽の鳩が、穏やかな昼の空をのびのびと泳いでいった。  建物の前で、高等部の生徒たちが十人ほど固まっていた。 「お待たせしました」  彼らの前に現れたのは、背のやや低くて、髪の短めな女子大生である。女子大生といっても、私服を着ているからそうだとわかっただけで、外見の幼さときたら高等部の生徒と大差ない。  誰もが目を引いたのは、女子大生の頭の上にふさふさと揺れている、白い犬耳であった。「なんかカワイイ」という声が沸き、犬耳の子は顔を赤らめて照れる。 「今日、大学の学食を見学したいという生徒さんたちだね」  と、彼女が彼らに対してそうきいた。誰かが「はい、そうです」と答える。それに女子大生は笑顔で応えると、A4サイズの書類を取り出し、点呼を始めた。 「全員いるようだね。それでは、改めましてこんにちは」 「こんにちはー」 「オープンキャンパスで学食を紹介する、川又ふみと言います。よろしくね」  本日、大学では「オープンキャンパス」が催されていた。  内容自体は、一般的な大学で催されるオープンキャンパスと変わりない。教授による体験授業や施設の見学、サークルの紹介などが行われている。  今回川又が担当するのは、土曜日午後の学食見学であった。これから学食のある建物に行き、その様子を見てもらうのだ。 「まず、うちの大学についてはどれぐらい知ってるのかな」 「異能やラルヴァについて深く学べる学部がたくさんあるのは知ってます」 「うん。研究施設と密接に繋がってるから、好きなだけ勉強できるよ」 「卒業後の進路を教えてください」 「うんとね、まず双葉島や学園に関わる仕事に就くのが多いかな。次に多いのは地方に出てラルヴァと戦う仕事。あと、成績がすごくいいと、国や巨大企業からスカウトが来るって聞くね」  おー、と生徒たちから感嘆の声が上がった。 「大学に受かるために必要な偏差値はどれぐらいですか?」 「日ごろの授業で赤点取らなければ大丈夫だよ。まあとっても強い人は、成績悪くてもぽーんと受かっちゃうらしいけどね」 「この学園は異能が第一ですものね」 「そうだね」  にこっと川又は微笑む。 「そして、ボクは獣医学部に通う大学一年生。だから将来の夢は獣医さん」 「やっぱり、動物の力を持ってるからですか?」  と、男子が川又の犬耳を見つめながら言った。 「キミの言うとおり。ボクは犬の血が流れていて、ほとんどの動物の話す言葉がわかるんだ。動物たちの気持ちが理解できるから、獣医はボクの力を活かせる仕事だと思ってるの」  高等部の生徒たちは川又の言葉に深く感心していた。 「それじゃ、そろそろ行こうか。ついてきてね」  白い犬耳をふさふさ揺らして歩き出した彼女に、生徒たちは続いていった。 「ここが食堂だよ」  ガラス張りの建物の一階に、大学の学食はあった。  この建物は二階より上が教室となっており、一階は学食と購買と、コピースペースによって構成されている。 「まず、入ったところに設置されている食券を買ってね、おばちゃんに渡すの」  高校生たちが川又の指を差したほうを見ると、食券の白い自動券売機がずらりと並べられていて、たまらず目を丸くする。 「とっても混雑するからね、しょうがないんだ」と、川又も苦笑している。  次に彼らの度肝を抜いたのは、大学の学生たちによる食事風景だった。  がつがつと貪りつくすかのように、箸を乱舞させては食物をかきこんでいる。  彼らの目に周りの景色など入らない。ひたすら一心不乱に、必死になって米や肉を喉に流し込んでいた。 「みんなすごく食べてるねぇ」  などと、川又がのんきに言った。 「理解できる気がします。僕たちも異能を使ったあとは、ああなりますし」 「だね」と、川又が言った。「ふだん体力や異能力をたくさん使うボクたちにとって、食はとっても大事な要素」 「ちゃんと食べないと午後の訓練とか無理ですよね」 「異能力者は食欲もそうだけど、性欲や睡眠欲も一般人より強いようなの。仕方ないね」 「では、ふみ先輩は性欲強いんですか?」 「え? はうう・・・・・・」  質問をした男子を、女子がひっぱたく。  大学生の昼食は、主に学食を利用する者と、家から弁当を持ってくる者に二分される。購買で適当に揃えてくる学生もいるし、商店街のお店に行く学生もいるそうだ。 「金欠に苦しむ人は、街中の中華料理店に行くみたいだね」 「ああ、知ってます」 「安くてたくさん食べられるそうだね。ボクはあんな怖いところ、一人では入れないなあ・・・・・・」 「ふみ先輩は、お昼はどうしているんですか?」 「お弁当だよ。ボクは毎朝、お母さんとお弁当を作ってるんだ。弟が二人いて、お父さんのぶんも合わせて、四人前、だね!」  ころころと笑顔を向けながら川又は言った。  川又は高校生たちをクリアケースの前に連れていった。 「これがメニューだよ」 「けっこう多いですね・・・・・・」 「うん。学生の生活を全面にサポートするため、種類も量も圧倒的だよ」  そう、ずらりと並べられた百個ほどの皿を前に彼女は解説する。 「とにかくたくさん食べたいのなら、学食行けば間違いないね。表で食べるよりもずっと安上がり」 「けっこう値段が安く設定されてますよね」 「この春からうんと値下げされたんだ。さて、もっと詳しくメニューを見てみよう」  クリアケースに収められている料理の模型を、川又は上から下にかけて順に解説していった。   双葉学園カレーセット(サラダ付き)。  御鈴会長監修『しゅくじょのごはん』。  龍河弾全面協力『スタミナしょうが焼き定食』。  原案・遠野彼方『びゃこにゃん定食』。 「――などなど、大学には、双葉学園らしいアイディアのご飯がいっぱいあるんだよ」 「たくさんあるメニューのなかで、どういうのが人気あるんですか?」 「難しい質問だねぇ」  と、川又は少し考えてからこう答える。 「早く出てくることから、どんぶりものや麺類が男子生徒には人気かな。ボクたち女の子は、量の少なくて野菜の付いている、ヘルシーなセットを好むかも」  なるほど、と呟きながら女子生徒は律儀にメモを取った。 「そろそろお昼にしようか。今日はオープンキャンパスに来てくれたお礼として、一品、なんでも無料で提供するよ!」  川又がそう言うと、高校生たちは大喜びで調理室のおばちゃんにオーダーしていった。  あらかじめ予約しておいたテーブルに生徒たちは座る。大学生たちが高等部の制服を懐かしみ、気さくに話しかけてくれた。  学食見学を終えたあと、川又たちは講堂前に戻ってきた。 「今日はオープンキャンパスに来てくれてどうもありがとうございました」  ぺこりと頭を下げたとき、生徒たちから「ありがとうございました!」と声をそろえて言われてしまった。彼女はてれてれと顔を赤らめる。 「今回紹介した学食のほかにも食堂があったり、小さなカフェがあったりするね。あとコンビニ顔負けの大きな購買もあるから、そこで買い物を済ませて教室で食べてる人もいるかな」  川又は腕時計をちらりと見てから、高校生たちにこうきいた。 「最後に質問を受け付けるね。大学のこととか何でも聞くよ」 「ふみ先輩の趣味は何ですか?」 「え? ボクの趣味?」と川又は目をぱちくりさせる。 「えっとねー、やっぱりお料理が一番好き。その次にワンちゃんとお話することかな。スポーツは、卓球をずっとやってました」 「ふみ先輩はどうして獣医の道に進もうとするのですか?」 「そうだねー・・・・・・。やっぱり、犬と人間の血が流れているボクに合った仕事だと思ったからだね。ボク、実はこういう種族であることがとってもイヤだった頃があったの」 「嫌だったときがあったんですか?」 「うん。みんなにいじめられてきたのがイヤだったし、特に高校の頃は、一部の人たちによって差別されたこともあった。だからずっと耳を隠しててね、びくびくしながら過ごしてたの」 「そんなことがあったんですか! 色々な異能者がいる今の高等部では、考えられません・・・・・・」 「でも、三年前のある事件がきっかけだった。ボクはもっと強くならなきゃいけないんだということと、自分の異能に誇りを持たなきゃいけないんだってことを、痛いぐらいに学んだんだ」  川又は胸に手を当てて、箱の奥にしまってきた思い出を丁寧に拾い上げる。 「大切な友達を――自分と同じような種族の友達を、見殺しにしてしまったの。ボクはそのことをずっとずっと後悔してきた。ボクはもっと殲滅派の・・・・・・いや、自分たちを悪く言うような人たちに対して、堂々とするべきだった」  高校生たちはメモを取るのも忘れて、川又の話に聞き入っていた。 「だからもうボクは耳を隠さない」と、川又はスピッツの白い犬耳をぴこぴこ動かしてみせた。「自分はそう、ラルヴァハーフの川又ふみとして、堂々としていきたいと思ってる。獣医になりたいと思ったのも、ラルヴァハーフの自分にしかできないような仕事だと考えたからなんだ。理由については以上。ごめんね、話しすぎちゃって」 「いえ、ラルヴァハーフという事実まで教えてくださって、どうもありがとうございました・・・・・・」 「どういたしまして。じゃあ、最後の質問をどうぞ!」 「ふみ先輩には彼氏とかいますか?」  と、元気の有り余った男子生徒がそんなことをきいた。 「さ、さっきから大学とは関係ないことばかりだねえ・・・・・・?」と、川又は困惑する。「えーと、んーと、うう・・・・・・。いません。いません! 恥ずかしいよう・・・・・・」  川又は耳まで真っ赤になって、クリアファイルをぐりぐり顔に押し付けた。 「でもネ、高校の頃からずっと好きな人はいたりします。でも、その人は恋愛には全然興味のなさそうな、その、無表情な人なんです。ラルヴァの霊能力を持っている、変わった戦い方をする人です・・・・・・」  なーんだ、と男子生徒はがっくりうなだれた。 「も、もういいよね? では、これでオープンキャンパスの、学食見学会を終わります! 担当は川又ふみでした。みんな、どうもありがとうございました! ・・・・・・ひゃんっ」  いつの間にか川又の背後に回りこんでいた女子生徒が、川又の耳を撫でた。 「あ、あのう・・・・・・何を・・・・・・? ・・・・・・きゃうん」  もう一人女子生徒が便乗して、後ろから頭をナデナデした。川又はぎゅっと手を握り、ふるふると小刻みに震えた。 「ねえ・・・・・・どうしたのみんな・・・・・・?」  川又は後ずさった。涙を溜めてびくびくして、獰猛な野獣の表情をしている高等部の生徒たちから離れようとした。  しかし、遅かった。 『かわいい!』 「きゃあー!」  みんなは同時に大声を出すと、一斉に川又に飛び掛って彼女を捕まえてしまう。 「た~す~け~て~~~」  元気な高等部の生徒たちの気が済むまで、川又は思う存分モフモフされたのであった。 ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品保管庫に戻る>投稿作品のまとめ]]

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