【時計仕掛けのメフィストフェレス 劇場版第最終回「天国編」6】

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[[ラノで読む>http://rano.jp/1666]] [[完全版をラノで読む>http://rano.jp/1666]]  エピローグ  A.D.2019.7.12 09:00 東京都 双葉学園  その日。  双葉学園校舎に、生徒の姿は無かった。  それもそのはずだ。  あの戦いは学園都市に少なからずの傷痕を与えている。  故に、平常どおりに授業を行うことは難しいとのことで、臨時休校となった。  壊れた建物を直す人たちがいる。病人怪我人の世話をするものもいる。  休日をこれ幸いと、のんびりと羽を伸ばし、遊ぶものたちもいる。  あれだけの事件の後だが、それでも――奇跡的に死者はでず、そして生徒達も……今までと変わらずすごしている。  A.D.2019.7.12 11:40 東京都 双葉学園 風紀委員会棟 「んじゃ私、チャーハン食いに行ってくるっすー!」 「行ってらっしゃい」  神楽二礼がそう叫んで出て行くのを、束司文乃は声だけで見送る。  机の上にはいまだ溜まっている書類の数々がある。 「貴女は行かないの?」  文乃にリーリエが声をかける。 「何処に?」 「打ち上げよ」 「ええ。仕事もあるし、それに騙されていたとはいえ、彼らに酷いこともしたのよ。  行ける筈がないでしょう?」 「気にするような彼らじゃないと思うけど」 「ええ。気にするような連中なら、逆に堂々とこのツラさげて行ってるわよ。  気にしない連中だからこそ、逆に行ったら負けと思ってる」 「……ひねくれものね」  というか性格が案外悪いわね、とリーリエは小声で言う。 「何か言ったかしら?」 「いいえ何も」 「ていうか、篠崎。お前俺に仕事押し付けてないでお前が働けよ風紀委員」  何故か、部外者のはずの戒堂絆那が種類の整理をしながら言う。  前回の戦い、エンブリオ内部でのことで事情を聞きたいと呼ばれ仕方なく出向いたら、気がついたら手伝いをさせられていた。 「ていうか俺、この後剣道部の練習が……」 「学園の風紀とどちらが大事?」 「それ風紀委員の仕事だろうが俺には関係ないっ!」 「仕方ないわね。じゃあ今から名誉風紀委員にしてあげる。特権は無し、義務と責務は沢山よ」 「いらねぇよっ! パシリだろうがそれ! ざけんなよこの性悪がっ!」 「何か言われてるわよ、総司」 「お前にも言ってんだよこの性悪人形がっ!」 「そんな事より、絆那。実は新しいグリムが……」 「ああもう無視してんじゃねえ! あと何処だそこ!」  その光景を文乃は見て、ため息をつく。  それは、普段の険のある彼女の表情とはとても違うもの。  暖かく、柔らかな微笑みを浮かべながら。  サクっと心臓麻痺か何かで死なないかなぁ、こいつら。  A.D.2019.7.12 12:00 東京都 双葉学園 商店街 中華料理屋「大車輪」 「というわけで、改めて稲倉神無ちゃんの歓迎会と、そして事件解決の打ち上げパーティーを……」  春奈・C・クラウディウスが乾杯の音頭を取る。 「……って多っ!? 先生聞いてないよっ!?」  中華料理屋は大量の人間がおしよせていた。  対ダイダラボッチ事件の時に加え、昨日のエンブリオ事件の打ち上げまで兼ねているのだ。  直と宮子のコンビも改めて打ち上げに参加してくれる、それに加えてカテゴリーFの七人も追加。  久留間戦隊のみなさんも参加。  色々と大所帯である。 「まあ、多けりゃ多いほど店も儲かるしいいけどなー」  拍手敬が苦笑する。大忙しというやつだ。 「えー、こほん。では改めて……乾杯っ」 「かんぱーいっ!」  グラスを打ち付けあう音が店内に響く。 「龍河さん来ないのっ!?」 「いや、あの全裸は醒徒会の仕事とかで忙しいでしょ」 「じゃあ差し入れに行ってきますっ!」 「あのちょっと居場所……も聞かないで言ったし」 「レーダーで見つけるでしょ、乙女的な」  から揚げをカバンにつめ、慌てて店を出いくヘンシェル。  食べ放題のバイキング等ではやっちゃいけない行為だ。 「ぐぉ、この中華まんでけえ!」 「ふたつ並べれば……形といい……どうよっ」 「なーにやってるっすかあんたら……」  孝和と敬を、二礼と真琴が後ろからトレイで殴る。 「いや、男の夢だし!」 「そんなに中華まんが好きならいいバイト紹介するっすよ。  ベルトコンベアーから流れてくる肉まんやあんまんを、ひたすら移動させたり、食紅をぷつぷつと突き刺すだけのサルでも出来る仕事っす」 「サルしかできねえ!」 「なにその拷問ッ!?」  まさに拷問であった。 「……って、うわもう平らげてるっ!?」  祥吾がビビる。  神無の前にある、いや、あった大盛りの酢豚の皿が空になっていた。 「すごいな、お前」 「……その、山では小食でしたから、反動で、つい」 「ああ、まあ仕方ないか。遠慮せずにたらふく食べたらいいさ」 「はい。山では、食べられる時にイノシシ一頭食いだめするとかぐらいだったし……」 「前言撤回! 自重して!」  大人しい顔をしながら、流石は山育ちだった。  というか、そういう問題ではなかった。 「今更ながらに明かされる大食いキャラですねー、これは負けられないかも……」  そういいながら、春奈はチンジャオロースのおかわりをする。  これもまた、大盛りの皿ではあったが……見る見るうちになくなっていく。 「……全くだ」  皆槻直も、大盛りの中華そばを一気に啜る。  神無の食べっぷりに、春奈と直も負けじと皿を次々と空にしていく。  というか、皿が詰みあがっていく。 「……オレタチ、恐ろしいもの見てる気がする」 「全くっス……」  孝和と市原がその光景を見て青ざめる。  人は食べられるのだ。  物理的に、自分の体積を越えるような大量の食料を食らうことが、可能なのだ。 「ありえねー」 「ありえねっス」  ありえなかった。 「ね~お姉さま~ん、ほらほらのんれくらひゃいよ~!」 「わっ、君は酔っているのか!?」 「よっへいらひぇんよほう、おひゃげのばないのになんげよぶんぐはぁ?」 「……日本語で喋ってくれ」  鶴祁にしなだれかかりゲラゲラと笑う綾乃。 「まあ、雰囲気酔いってのも普通だよね」 「あそこまで雰囲気で酔うのもありえないと思うけど」  遠野彼方の言葉に、藤森飛鳥が突っ込みを入れる。 「でもまあ、平和だよね、うん」  飛鳥が笑う。  平和であった。  昨日の凄惨な戦いが、嘘であるかのように。  いや、違う。それでも嘘ではない。戦いはあった。  だが、だからこそ。  皆笑うのだ。楽しむのだ。このかけがえのない日常を。 「「「「おかわりーっ!」」」」 「あいよーっ!」  今日も中華料理屋大車輪は、騒がしかった。  A.D.2019.7.12 12:30 東京都 双葉学園 貧民街 野鳥研究会秘密基地三号 「くっくっく、ウロボロスファントムを量産すれば圧倒的ではないか我が裏醒徒会は!」  蛇蝎兇次郎は笑う。  先日の戦いのデータにより、ウロボロスファントムは実用に使えることが判明した。  あとはこれを量産すればよい。  そして、双葉学園を支配する計画が始まるのだ! 「蛇蝎さん」 「おお、克己か。どうした? 「蛇蝎さん、その……綾理さんの寝よだれで設計図がグショグショで解読不可能に……」 「なんだとぉーーーっ!?」  そもそもなんでそんなものの上で寝ているのだあの妖怪寝女は!  まあいい、もう一度設計図を作らせれば…… 「しかも開発協力者の人が「えー、俺って偶然というか天啓でビビっと来る派だしぃー、同じもの二度作れないんだよねぇー」って」 「なんですとぉーーーーーっ!?」 「つまりウロボロスファントムはもう造れなく……」 「…………我輩の完璧な計画がハァッ!?」  挫折した。  見事に。  完璧に。  だが、蛇蝎兇次郎は諦めない。  悪とは、不屈不倒なのである。  A.D.2019.7.12 12:45 東京都 双葉学園 外苑部道路 「結局、タダ働きやったなぁ、色々と。骨折り損や」  自転車で鼻歌を歌いながら、スピンドルは学園都市を回る。 「……ていうかアホやな。なんでわざわざんなことしたんやろ。逃げりゃええだけやん」  何故、学園都市を守ろうと戦ったのか。そんな理由も必要も無いのに。 「……ま、俺もアホやしな」  答えは出ない。  出ない以上、まあどうでもいい事だろう。  A.D.2019.7.12 12:50 永劫図書館  夢語りのアリスは、本を閉じる。  その顔には、安堵の微笑が浮かんでいた。そして、振り返る。 「お疲れ様でした」 「ああ、ほんっと疲れた」  ソファーにすわってぐったりとしているのは、シズマ・ノーディオ。 「短期間になんつーか、あんだけハードなのも久しぶりだったわ。鎧もまた壊れるし」 「ご苦労様です」  だが、やりがいはあった。世界は救われたのだ。  シズマのその働きを、褒めるものはいないだろう。ワンオフラルヴァとして認識されるあの姿。  いくら戦おうと、褒めるものなどいない。讃えるものなどいない。  いや――此処にいる、か。  シズマの膝の上をベッドにして寝息をたてる小さな獏と、そして傍らの司書が。 「そういえば」 「?」 「結局、トキサカショーゴを土下座させられなかったな」 「……」  正座して説教、じゃなかったっけ? とアリスは思う。  いや、それよりも。  時逆零次から庇ったあの少年が時坂祥吾本人だと、シズマは気づいていないようだ。  教えるべきか、黙っておくべきか―― 「……ですね」  黙っておくことにした。  後で自分でその事実に気づいたほうが、きっと面白いだろう。  その時、彼はどんな表情を見せてくれるのか。  アリスは、それを楽しみにしておくことにした。  A.D.2019.7.12 13:00 東京都 双葉学園 醒徒会室 「――以上が、様々な方面から集めた情報を統合した結果の、今回の顛末だよ」  語来灰児が、レポートを提出する。 「なるほど、そういう背景があったんですね」  理緒が目を通す。 「随分と荒唐無稽な話では、あるがね」 「教授の考えは?」 「だから僕は教授じゃない。  ……まあ、概ね信頼は出来るだろう。それに、未来がどうとかいう事を眉唾の戯言としたところで、起きた事実に変わりはないさ」 「まあ、確かになあ」  龍河が言う。 「どのみち、その計画ぁ潰せたんだ。ならよしってことだ」 「単純だな。まあ、それでいいか」 「おうよ」 「いや、単純でよくねぇっつーの」  龍河とルールの会話に、金太郎が口を挟む。 「学園都市全土の改築修理にこっちはてんてこ舞いだよ。暴れすぎだっつーの」 「HAHAHAHA、マア仕方ナイヨ!」  アダムスが笑う。 「ねー、そういやはやはやは?」  紫穏が、この場にいない少年の事を口にする。 「バシリ」  金太郎があっさりと言う。 「あー、なるほろ」  そして納得した。  今頃彼は、金太郎の使いで色々と走り回っていることだろう。  一方灰児は、誰のことだろうと訝しがるが、まあどうでもいいことなので忘れた。 「未来から過去を変えに、ねえ。アタシにゃわかんないなー」  そもそも変えたい過去もないし、にゃはは。と紫穏は明るく笑う。 「どう足掻いたって、未来しかないと思うんだよねアタシは。  でもこれが本当としてさ、未来って結局変わったのかな」 「さあ、どうだろうな」  御鈴が言う。 「その未来に辿り着かないと、わからんだろう。そもそも未来なんて、決まっていないから未来なのだ」 「確かにそうですね。  ……では、会長はどう思います? 未来は……どうなると思いますか?」  その理緒の言葉に、御鈴は言った。  何の迷いも淀みもなく、まっすぐに。 「未来は、夢と希望が詰まっているに決まっているだろう?」  A.D.2019.7.12 13:15 東京都 双葉学園 双葉神宮 「滅びは、回避されましたか」  巫女装束の少女が言う。  その周囲には、半透明の幻想的な蜻蛉が舞っている。 「うん、俺ももうあの夢は見なくなった」  未見寛太が言う。  繰り返し何度も見続けた、滅びの悪夢。  それがもう、見なくなった。 「……これで、ひとつの滅びが回避された。でも……」  神那岐観古都は、目を細める。  ひとつの滅び、にすぎない。  エンブリオで奇しくも零次が言い残したように――滅びの要因は、無数に、夢幻に存在する。  だが、それでも。  今もって世界は存在している。  儚く、幻想的に――だが、確固として。 「世界は、滅びに瀕している」  くるってしまったから。  だけど、それでも。 「それでも、世界は――」  生きようと、しているのだ。  明日を、望むのだ。  A.D.2019.7.12 13:00 東京都 双葉学園 住宅街 「お土産、よろこんでくれるでしょうか」  帰り道、メフィは言う。  タッパーには、色々な中華料理がぎっしりと詰まっている。 「だろうな」  本当は一観も誘ったのだが、部外者だから、と遠慮された。  昼間のどんちゃん騒ぎを鑑みると、いたところで問題ないだろうが、しかし逆にあの連中の影響を受けるかもしれないと考えると……  確かに遠慮してもらって正解だった。  妹にはまっすぐに育って欲しい。全力で直立不動に歪みまくった変人エリートどもの朱に交わって赤くなって欲しくないというのは、兄としての当然の思いだ。  そして、二人で帰路を歩く。  互いに、無言だ。しかしそれは気まずいものではない。  ただただ自然に、二人で歩く。  そして―― 「「あの」」  二人同時に、声が出た。 「……」  そして無言。今度はさっきと打って変わって、少し気まずい。 「……なんですか?」 「あー、いや」  祥吾は頭をぽりぽりと掻く。 「色々と、言っておかなきゃなんねぇかな、とやっぱ思って」  先日の戦いで無茶をして、一度は死なせてしまった。  そこら辺についての謝罪がまだだった。色々と忙しくて忘れていたが、それでもそのままではいけない。  けじめだ。 「悪かったよ。その、色々と」 「そうですね、死ぬほど痛かったですよ、あの時は」  頬を膨らませるメフィ。 「悪かった」 「口だけでの謝罪ですか、ふーん」  メフィは意地悪く言う。 「どうすればいい?」 「とりあえずぶん殴りますかね」 「う」  やばい。笑顔のままだがかなり怒っていらっしゃるようだ。  ……甘んじて受けるしかないか。 「目を閉じて全身に力いれて歯ぁ食いしばってください」 「恐っ」  だが、黙っていう事を聞くしかない。  祥吾は、目を閉じる。 「いきますよ」 「……」  歯を食いしばる。  だが、傷みはこない。 「……?」  そして――代わりに祥吾を襲ったのは、唇に柔らかい衝撃だった。  驚いて目を開ける。  メフィの顔がすぐそばにあった。 「――――――――――」  祥吾は完全に硬直する。  るそしてメフィがそっと、離れる。 「怒ってませんよ。むしろ、嬉しかった」  メフィは言う。 「本心から――私を呼んでくれましたから」 「あ……」  祥吾の顔が、赤く染まる。 「あー、いや、その」  何と言えばいいのか、わからない。  わからないまま、祥吾はそのまま歩き出す。 「は、はやく帰ろう……うん、一観やコーラル待たせてるし」  早足で歩く。  その後姿を見てメフィは笑い、そして後を追う。  そう、時間がない。だけどそれでも時間はたっぷりとある。  だから、歩く。   家路へと。  そして――明日へと。  そしてそこには、いつでも…… 「お帰りなさい、お兄ちゃん!」 出演   時坂 祥吾   メフィストフェレス   稲蔵 神無   時坂 一観   コーラル   敷神楽 鶴祁   アールマティ   米良 綾乃   菅 誠司   市原 和美   星崎 真琴   三浦 孝和   拍手 敬   神楽 二礼   藤森 飛鳥   藤森 明日人   遠野 彼方   遠野の友人の退役軍人A   春奈・C・クラウディウス   ヘンシェル・アーリア   フリージア・フローレス   マリオン・エーテ   パラダイム・桜子   黒井 揚羽   九十九 唯   南雲 小夜子   皆槻 直   結城 宮子   語来 灰児   リリエラ   久留間 走子   スピニング・スピンドル   束司 文乃   シズマ・ノーディオ   夢語りのアリス   グリム・イーター   蛇蝎 兇次郎   工 克巳   竹中綾理   未見 寛太   神那岐 観古都   吾妻 修三   戒堂 絆那   篠崎 総司   リーリエ   ウォフ・マナフ   ロスヴァイセ   時逆 零次   アリギエーリ   ベアトリーチェ   ウェルギリウス   チクタクマン   藤神門 御鈴   龍河 弾   水分 理緒   加賀杜 紫穏   成宮 金太郎   エヌR・ルール    アダムス   早瀬速人 参考文献   ダンテ「神曲」   ゲーテ「ファウスト」   時坂文書 美術   美術部   写真部   特撮研究会   漫画研究愛好会   家庭科部   コスプレ同好会   マスカレード・センドメイル   黄金仮面舞踏会 音楽   軽音部   音楽部   吹奏楽部   ダダドムゥ 脚本   文芸部   漫画研究愛好会   ナイトヘッド 撮影   映像研究会   映画研究部   PC研究会 演出   黄金卿 協力   双葉学園醒徒会   双葉学園風紀委員会   双葉学園文化祭実行委員会   国際風紀委員会連盟   歯車大将   機甲兵団 監修   双葉学園映画倫理委員会 監督   藤神門 御鈴 製作   劇場版 時計仕掛けのメフィストフェレス製作委員会  アナザーエンド  A.D.????.?.?? 13:00 東京都 双葉学園   そして、彼の時は――再び刻み始める。  まず認識したのは闇だった。暗く深い闇。  そしてそこに、光が差す。 「っ、――」  眩しい。  まるで目が焼かれるようだ。視界がなれるのにしばらくの時間が掛かる。  そして、認識されていく世界。  ひびのはいった白い天井だ。  病院? 「おはようございます、祥吾さん」  柔らかい声で、その名を呼ばれる。  そう呼ばれたのは、どれくらい久しぶりだっただろうか。  そう、思いだす。  自分は――時坂祥吾。世界を滅ぼした男だ。  ではここは地獄なのだろうか?  いや、違う。  これは―― 「メ、フィ……?」 「はい」  目に涙を浮かべて、その少女は微笑む。 「やっと……やっと、目を覚ましたんですね。よかった……もう二度と、起きないかと」 「……」  思い出す。  そうだ、自分は世界を滅ぼし――そしてそれを覆すため、永劫回帰の力で世界を繰り返した。  そして――最後に、過去の自らと、その仲間たちによって敗北した。  ではその後どうなった。  永劫回帰のシステムが破却された事により――本来の時間軸へと戻された?  だがおかしい。  この世界は、滅びたはずだ。  未来は、閉ざされたはずだ。 「やあ、おはよう……かな?」  病室のドアが開く。  そこから現れた少年は―― 「遠野……彼方……」 「うん、覚えてくれてる? なら記憶に問題はないのかな。心配したよ、君は三ヶ月も眠っていたんだ」 「さんか……げつ?」 「ああ。世界が大ダメージを負ったあの日から、ね」 「世界が……」  大ダメージ。  滅びた……のではないのか? 「遠野……教えてくれ、何が……」  体を必死に起し、聞く。 「何が、って。君の知ってる通りだよ。世界は確かに滅びた。そして未来は閉ざされた」  彼方は言う。 「だが滅びたなら再興すればいい、閉ざされたなら開けばいい。  それだけのことさ」  それだけのこと、と遠野彼方はさも普通のことのようにいう。  だがそれは果たして、どれだけのことなのか。 「……じゃあ」 「傷ついた人も多く、命を失った人もいる。だけど……それでもみんな、滅びを乗り越え、前に進んでいるよ」  なんという事だ。  前に進もうとしなかったのは――自分だけだった。  だからか。  だからあんな妄執に取り付かれ……そして、永劫の繰り返しを。  では、戻ってきたのは――戻ってくれたのは。  あの世界での、かつての自分が……そしてその仲間達が。  この過ちに気づかせてくれた、だからか。  そして気づくことが無ければ、間違ったまま――ずっと繰り返していたのだろう。  未来永劫に、絶望を抱いたままで。 「過去が希望をくれる――か」 「?」 「いや、何でもない」  あの過去は――今となっては、夢か現かもわからない。  だが、どうだっていい。  確かな答えは、得たのだから。 「どうするんだい、これから」  彼方が聞く。 「決まってる、さ」  祥吾は言う。 「罪を償う。俺が滅ぼしてしまったこの世界を立て直すために――俺に出来ることをする。  ついてきてくれるか、メフィ」 「……はい。貴方が望むなら、伴侶のように、召使のように、奴隷のように」  祥吾は、立ち上がる。ずっと眠っていたのだ、体中が弱くなっている。  だが、それでも立ち上がる。  あの世界の自分は、どんなに倒されても立ち向かってきたのだから、だから自分に出来ないはずは無い。  それを、彼方は見送る。 「うん、そうだね。確かに世界は滅びた。だけど、人の意志がある限り、幾度だろうと世界は蘇る。  人が諦めてしまわない限り。  人々の思いが集まる限り――ね。  この世界は、みんながよりよい未来を作ろうとした結果なのさ。  そう思うだろう――」  遠野彼方は言う。  あくまでも普通の声で、何気なく、さりげなく。 「ねえ、時逆零次?」  END ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品投稿場所に戻る>作品投稿場所]]
[[ラノで読む>http://rano.jp/1666]] [[完全版をラノで読む>http://rano.jp/1666]]  エピローグ  A.D.2019.7.12 09:00 東京都 双葉学園  その日。  双葉学園校舎に、生徒の姿は無かった。  それもそのはずだ。  あの戦いは学園都市に少なからずの傷痕を与えている。  故に、平常どおりに授業を行うことは難しいとのことで、臨時休校となった。  壊れた建物を直す人たちがいる。病人怪我人の世話をするものもいる。  休日をこれ幸いと、のんびりと羽を伸ばし、遊ぶものたちもいる。  あれだけの事件の後だが、それでも――奇跡的に死者はでず、そして生徒達も……今までと変わらずすごしている。  A.D.2019.7.12 11:40 東京都 双葉学園 風紀委員会棟 「んじゃ私、チャーハン食いに行ってくるっすー!」 「行ってらっしゃい」  神楽二礼がそう叫んで出て行くのを、束司文乃は声だけで見送る。  机の上にはいまだ溜まっている書類の数々がある。 「貴女は行かないの?」  文乃にリーリエが声をかける。 「何処に?」 「打ち上げよ」 「ええ。仕事もあるし、それに騙されていたとはいえ、彼らに酷いこともしたのよ。  行ける筈がないでしょう?」 「気にするような彼らじゃないと思うけど」 「ええ。気にするような連中なら、逆に堂々とこのツラさげて行ってるわよ。  気にしない連中だからこそ、逆に行ったら負けと思ってる」 「……ひねくれものね」  というか性格が案外悪いわね、とリーリエは小声で言う。 「何か言ったかしら?」 「いいえ何も」 「ていうか、篠崎。お前俺に仕事押し付けてないでお前が働けよ風紀委員」  何故か、部外者のはずの戒堂絆那が種類の整理をしながら言う。  前回の戦い、エンブリオ内部でのことで事情を聞きたいと呼ばれ仕方なく出向いたら、気がついたら手伝いをさせられていた。 「ていうか俺、この後剣道部の練習が……」 「学園の風紀とどちらが大事?」 「それ風紀委員の仕事だろうが俺には関係ないっ!」 「仕方ないわね。じゃあ今から名誉風紀委員にしてあげる。特権は無し、義務と責務は沢山よ」 「いらねぇよっ! パシリだろうがそれ! ざけんなよこの性悪がっ!」 「何か言われてるわよ、総司」 「お前にも言ってんだよこの性悪人形がっ!」 「そんな事より、絆那。実は新しいグリムが……」 「ああもう無視してんじゃねえ! あと何処だそこ!」  その光景を文乃は見て、ため息をつく。  それは、普段の険のある彼女の表情とはとても違うもの。  暖かく、柔らかな微笑みを浮かべながら。  サクっと心臓麻痺か何かで死なないかなぁ、こいつら。  A.D.2019.7.12 12:00 東京都 双葉学園 商店街 中華料理屋「大車輪」 「というわけで、改めて稲倉神無ちゃんの歓迎会と、そして事件解決の打ち上げパーティーを……」  春奈・C・クラウディウスが乾杯の音頭を取る。 「……って多っ!? 先生聞いてないよっ!?」  中華料理屋は大量の人間がおしよせていた。  対ダイダラボッチ事件の時に加え、昨日のエンブリオ事件の打ち上げまで兼ねているのだ。  直と宮子のコンビも改めて打ち上げに参加してくれる、それに加えてカテゴリーFの七人も追加。  久留間戦隊のみなさんも参加。  色々と大所帯である。 「まあ、多けりゃ多いほど店も儲かるしいいけどなー」  拍手敬が苦笑する。大忙しというやつだ。 「えー、こほん。では改めて……乾杯っ」 「かんぱーいっ!」  グラスを打ち付けあう音が店内に響く。 「龍河さん来ないのっ!?」 「いや、あの全裸は醒徒会の仕事とかで忙しいでしょ」 「じゃあ差し入れに行ってきますっ!」 「あのちょっと居場所……も聞かないで言ったし」 「レーダーで見つけるでしょ、乙女的な」  から揚げをカバンにつめ、慌てて店を出いくヘンシェル。  食べ放題のバイキング等ではやっちゃいけない行為だ。 「ぐぉ、この中華まんでけえ!」 「ふたつ並べれば……形といい……どうよっ」 「なーにやってるっすかあんたら……」  孝和と敬を、二礼と真琴が後ろからトレイで殴る。 「いや、男の夢だし!」 「そんなに中華まんが好きならいいバイト紹介するっすよ。  ベルトコンベアーから流れてくる肉まんやあんまんを、ひたすら移動させたり、食紅をぷつぷつと突き刺すだけのサルでも出来る仕事っす」 「サルしかできねえ!」 「なにその拷問ッ!?」  まさに拷問であった。 「……って、うわもう平らげてるっ!?」  祥吾がビビる。  神無の前にある、いや、あった大盛りの酢豚の皿が空になっていた。 「すごいな、お前」 「……その、山では小食でしたから、反動で、つい」 「ああ、まあ仕方ないか。遠慮せずにたらふく食べたらいいさ」 「はい。山では、食べられる時にイノシシ一頭食いだめするとかぐらいだったし……」 「前言撤回! 自重して!」  大人しい顔をしながら、流石は山育ちだった。  というか、そういう問題ではなかった。 「今更ながらに明かされる大食いキャラですねー、これは負けられないかも……」  そういいながら、春奈はチンジャオロースのおかわりをする。  これもまた、大盛りの皿ではあったが……見る見るうちになくなっていく。 「……全くだ」  皆槻直も、大盛りの中華そばを一気に啜る。  神無の食べっぷりに、春奈と直も負けじと皿を次々と空にしていく。  というか、皿が詰みあがっていく。 「……オレタチ、恐ろしいもの見てる気がする」 「全くっス……」  孝和と市原がその光景を見て青ざめる。  人は食べられるのだ。  物理的に、自分の体積を越えるような大量の食料を食らうことが、可能なのだ。 「ありえねー」 「ありえねっス」  ありえなかった。 「ね~お姉さま~ん、ほらほらのんれくらひゃいよ~!」 「わっ、君は酔っているのか!?」 「よっへいらひぇんよほう、おひゃげのばないのになんげよぶんぐはぁ?」 「……日本語で喋ってくれ」  鶴祁にしなだれかかりゲラゲラと笑う綾乃。 「まあ、雰囲気酔いってのも普通だよね」 「あそこまで雰囲気で酔うのもありえないと思うけど」  遠野彼方の言葉に、藤森飛鳥が突っ込みを入れる。 「でもまあ、平和だよね、うん」  飛鳥が笑う。  平和であった。  昨日の凄惨な戦いが、嘘であるかのように。  いや、違う。それでも嘘ではない。戦いはあった。  だが、だからこそ。  皆笑うのだ。楽しむのだ。このかけがえのない日常を。 「「「「おかわりーっ!」」」」 「あいよーっ!」  今日も中華料理屋大車輪は、騒がしかった。  A.D.2019.7.12 12:30 東京都 双葉学園 貧民街 野鳥研究会秘密基地三号 「くっくっく、ウロボロスファントムを量産すれば圧倒的ではないか我が裏醒徒会は!」  蛇蝎兇次郎は笑う。  先日の戦いのデータにより、ウロボロスファントムは実用に使えることが判明した。  あとはこれを量産すればよい。  そして、双葉学園を支配する計画が始まるのだ! 「蛇蝎さん」 「おお、克己か。どうした? 「蛇蝎さん、その……綾理さんの寝よだれで設計図がグショグショで解読不可能に……」 「なんだとぉーーーっ!?」  そもそもなんでそんなものの上で寝ているのだあの妖怪寝女は!  まあいい、もう一度設計図を作らせれば…… 「しかも開発協力者の人が「えー、俺って偶然というか天啓でビビっと来る派だしぃー、同じもの二度作れないんだよねぇー」って」 「なんですとぉーーーーーっ!?」 「つまりウロボロスファントムはもう造れなく……」 「…………我輩の完璧な計画がハァッ!?」  挫折した。  見事に。  完璧に。  だが、蛇蝎兇次郎は諦めない。  悪とは、不屈不倒なのである。  A.D.2019.7.12 12:45 東京都 双葉学園 外苑部道路 「結局、タダ働きやったなぁ、色々と。骨折り損や」  自転車で鼻歌を歌いながら、スピンドルは学園都市を回る。 「……ていうかアホやな。なんでわざわざんなことしたんやろ。逃げりゃええだけやん」  何故、学園都市を守ろうと戦ったのか。そんな理由も必要も無いのに。 「……ま、俺もアホやしな」  答えは出ない。  出ない以上、まあどうでもいい事だろう。  A.D.2019.7.12 12:50 永劫図書館  夢語りのアリスは、本を閉じる。  その顔には、安堵の微笑が浮かんでいた。そして、振り返る。 「お疲れ様でした」 「ああ、ほんっと疲れた」  ソファーにすわってぐったりとしているのは、シズマ・ノーディオ。 「短期間になんつーか、あんだけハードなのも久しぶりだったわ。鎧もまた壊れるし」 「ご苦労様です」  だが、やりがいはあった。世界は救われたのだ。  シズマのその働きを、褒めるものはいないだろう。ワンオフラルヴァとして認識されるあの姿。  いくら戦おうと、褒めるものなどいない。讃えるものなどいない。  いや――此処にいる、か。  シズマの膝の上をベッドにして寝息をたてる小さな獏と、そして傍らの司書が。 「そういえば」 「?」 「結局、トキサカショーゴを土下座させられなかったな」 「……」  正座して説教、じゃなかったっけ? とアリスは思う。  いや、それよりも。  時逆零次から庇ったあの少年が時坂祥吾本人だと、シズマは気づいていないようだ。  教えるべきか、黙っておくべきか―― 「……ですね」  黙っておくことにした。  後で自分でその事実に気づいたほうが、きっと面白いだろう。  その時、彼はどんな表情を見せてくれるのか。  アリスは、それを楽しみにしておくことにした。  A.D.2019.7.12 13:00 東京都 双葉学園 醒徒会室 「――以上が、様々な方面から集めた情報を統合した結果の、今回の顛末だよ」  語来灰児が、レポートを提出する。 「なるほど、そういう背景があったんですね」  理緒が目を通す。 「随分と荒唐無稽な話では、あるがね」 「教授の考えは?」 「だから僕は教授じゃない。  ……まあ、概ね信頼は出来るだろう。それに、未来がどうとかいう事を眉唾の戯言としたところで、起きた事実に変わりはないさ」 「まあ、確かになあ」  龍河が言う。 「どのみち、その計画ぁ潰せたんだ。ならよしってことだ」 「単純だな。まあ、それでいいか」 「おうよ」 「いや、単純でよくねぇっつーの」  龍河とルールの会話に、金太郎が口を挟む。 「学園都市全土の改築修理にこっちはてんてこ舞いだよ。暴れすぎだっつーの」 「HAHAHAHA、マア仕方ナイヨ!」  アダムスが笑う。 「ねー、そういやはやはやは?」  紫穏が、この場にいない少年の事を口にする。 「バシリ」  金太郎があっさりと言う。 「あー、なるほろ」  そして納得した。  今頃彼は、金太郎の使いで色々と走り回っていることだろう。  一方灰児は、誰のことだろうと訝しがるが、まあどうでもいいことなので忘れた。 「未来から過去を変えに、ねえ。アタシにゃわかんないなー」  そもそも変えたい過去もないし、にゃはは。と紫穏は明るく笑う。 「どう足掻いたって、未来しかないと思うんだよねアタシは。  でもこれが本当としてさ、未来って結局変わったのかな」 「さあ、どうだろうな」  御鈴が言う。 「その未来に辿り着かないと、わからんだろう。そもそも未来なんて、決まっていないから未来なのだ」 「確かにそうですね。  ……では、会長はどう思います? 未来は……どうなると思いますか?」  その理緒の言葉に、御鈴は言った。  何の迷いも淀みもなく、まっすぐに。 「未来は、夢と希望が詰まっているに決まっているだろう?」  A.D.2019.7.12 13:15 東京都 双葉学園 双葉神宮 「滅びは、回避されましたか」  巫女装束の少女が言う。  その周囲には、半透明の幻想的な蜻蛉が舞っている。 「うん、俺ももうあの夢は見なくなった」  未見寛太が言う。  繰り返し何度も見続けた、滅びの悪夢。  それがもう、見なくなった。 「……これで、ひとつの滅びが回避された。でも……」  神那岐観古都は、目を細める。  ひとつの滅び、にすぎない。  エンブリオで奇しくも零次が言い残したように――滅びの要因は、無数に、夢幻に存在する。  だが、それでも。  今もって世界は存在している。  儚く、幻想的に――だが、確固として。 「世界は、滅びに瀕している」  くるってしまったから。  だけど、それでも。 「それでも、世界は――」  生きようと、しているのだ。  明日を、望むのだ。  A.D.2019.7.12 13:00 東京都 双葉学園 住宅街 「お土産、よろこんでくれるでしょうか」  帰り道、メフィは言う。  タッパーには、色々な中華料理がぎっしりと詰まっている。 「だろうな」  本当は一観も誘ったのだが、部外者だから、と遠慮された。  昼間のどんちゃん騒ぎを鑑みると、いたところで問題ないだろうが、しかし逆にあの連中の影響を受けるかもしれないと考えると……  確かに遠慮してもらって正解だった。  妹にはまっすぐに育って欲しい。全力で直立不動に歪みまくった変人エリートどもの朱に交わって赤くなって欲しくないというのは、兄としての当然の思いだ。  そして、二人で帰路を歩く。  互いに、無言だ。しかしそれは気まずいものではない。  ただただ自然に、二人で歩く。  そして―― 「「あの」」  二人同時に、声が出た。 「……」  そして無言。今度はさっきと打って変わって、少し気まずい。 「……なんですか?」 「あー、いや」  祥吾は頭をぽりぽりと掻く。 「色々と、言っておかなきゃなんねぇかな、とやっぱ思って」  先日の戦いで無茶をして、一度は死なせてしまった。  そこら辺についての謝罪がまだだった。色々と忙しくて忘れていたが、それでもそのままではいけない。  けじめだ。 「悪かったよ。その、色々と」 「そうですね、死ぬほど痛かったですよ、あの時は」  頬を膨らませるメフィ。 「悪かった」 「口だけでの謝罪ですか、ふーん」  メフィは意地悪く言う。 「どうすればいい?」 「とりあえずぶん殴りますかね」 「う」  やばい。笑顔のままだがかなり怒っていらっしゃるようだ。  ……甘んじて受けるしかないか。 「目を閉じて全身に力いれて歯ぁ食いしばってください」 「恐っ」  だが、黙っていう事を聞くしかない。  祥吾は、目を閉じる。 「いきますよ」 「……」  歯を食いしばる。  だが、傷みはこない。 「……?」  そして――代わりに祥吾を襲ったのは、唇に柔らかい衝撃だった。  驚いて目を開ける。  メフィの顔がすぐそばにあった。 「――――――――――」  祥吾は完全に硬直する。  るそしてメフィがそっと、離れる。 「怒ってませんよ。むしろ、嬉しかった」  メフィは言う。 「本心から――私を呼んでくれましたから」 「あ……」  祥吾の顔が、赤く染まる。 「あー、いや、その」  何と言えばいいのか、わからない。  わからないまま、祥吾はそのまま歩き出す。 「は、はやく帰ろう……うん、一観やコーラル待たせてるし」  早足で歩く。  その後姿を見てメフィは笑い、そして後を追う。  そう、時間がない。だけどそれでも時間はたっぷりとある。  だから、歩く。   家路へと。  そして――明日へと。  そしてそこには、いつでも…… 「お帰りなさい、お兄ちゃん!」 出演   時坂 祥吾   メフィストフェレス   稲蔵 神無   時坂 一観   コーラル   敷神楽 鶴祁   アールマティ   米良 綾乃   菅 誠司   市原 和美   星崎 真琴   三浦 孝和   拍手 敬   神楽 二礼   藤森 飛鳥   藤森 明日人   遠野 彼方   遠野の友人の退役軍人A   春奈・C・クラウディウス   ヘンシェル・アーリア   フリージア・フローレス   マリオン・エーテ   パラダイム・桜子   黒井 揚羽   九十九 唯   南雲 小夜子   皆槻 直   結城 宮子   語来 灰児   リリエラ   久留間 走子   スピニング・スピンドル   束司 文乃   シズマ・ノーディオ   夢語りのアリス   グリム・イーター   蛇蝎 兇次郎   工 克巳   竹中綾理   未見 寛太   神那岐 観古都   吾妻 修三   戒堂 絆那   篠崎 総司   リーリエ   ウォフ・マナフ   ロスヴァイセ   時逆 零次   アリギエーリ   ベアトリーチェ   ウェルギリウス   チクタクマン   藤神門 御鈴   龍河 弾   水分 理緒   加賀杜 紫穏   成宮 金太郎   エヌR・ルール    アダムス   早瀬速人 参考文献   ダンテ「神曲」   ゲーテ「ファウスト」   時坂文書 美術   美術部   写真部   特撮研究会   漫画研究愛好会   家庭科部   コスプレ同好会   マスカレード・センドメイル   黄金仮面舞踏会 音楽   軽音部   音楽部   吹奏楽部   ダダドムゥ 脚本   文芸部   漫画研究愛好会   ナイトヘッド 撮影   映像研究会   映画研究部   PC研究会 演出   黄金卿 協力   双葉学園醒徒会   双葉学園風紀委員会   双葉学園文化祭実行委員会   国際風紀委員会連盟   歯車大将   機甲兵団 監修   双葉学園映画倫理委員会 監督   藤神門 御鈴 製作   劇場版 時計仕掛けのメフィストフェレス製作委員会  アナザーエンド  A.D.????.?.?? 13:00 東京都 双葉学園   そして、彼の時は――再び刻み始める。  まず認識したのは闇だった。暗く深い闇。  そしてそこに、光が差す。 「っ、――」  眩しい。  まるで目が焼かれるようだ。視界がなれるのにしばらくの時間が掛かる。  そして、認識されていく世界。  ひびのはいった白い天井だ。  病院? 「おはようございます、祥吾さん」  柔らかい声で、その名を呼ばれる。  そう呼ばれたのは、どれくらい久しぶりだっただろうか。  そう、思いだす。  自分は――時坂祥吾。世界を滅ぼした男だ。  ではここは地獄なのだろうか?  いや、違う。  これは―― 「メ、フィ……?」 「はい」  目に涙を浮かべて、その少女は微笑む。 「やっと……やっと、目を覚ましたんですね。よかった……もう二度と、起きないかと」 「……」  思い出す。  そうだ、自分は世界を滅ぼし――そしてそれを覆すため、永劫回帰の力で世界を繰り返した。  そして――最後に、過去の自らと、その仲間たちによって敗北した。  ではその後どうなった。  永劫回帰のシステムが破却された事により――本来の時間軸へと戻された?  だがおかしい。  この世界は、滅びたはずだ。  未来は、閉ざされたはずだ。 「やあ、おはよう……かな?」  病室のドアが開く。  そこから現れた少年は―― 「遠野……彼方……」 「うん、覚えてくれてる? なら記憶に問題はないのかな。心配したよ、君は三ヶ月も眠っていたんだ」 「さんか……げつ?」 「ああ。世界が大ダメージを負ったあの日から、ね」 「世界が……」  大ダメージ。  滅びた……のではないのか? 「遠野……教えてくれ、何が……」  体を必死に起し、聞く。 「何が、って。君の知ってる通りだよ。世界は確かに滅びた。そして未来は閉ざされた」  彼方は言う。 「だが滅びたなら再興すればいい、閉ざされたなら開けばいい。  それだけのことさ」  それだけのこと、と遠野彼方はさも普通のことのようにいう。  だがそれは果たして、どれだけのことなのか。 「……じゃあ」 「傷ついた人も多く、命を失った人もいる。だけど……それでもみんな、滅びを乗り越え、前に進んでいるよ」  なんという事だ。  前に進もうとしなかったのは――自分だけだった。  だからか。  だからあんな妄執に取り付かれ……そして、永劫の繰り返しを。  では、戻ってきたのは――戻ってくれたのは。  あの世界での、かつての自分が……そしてその仲間達が。  この過ちに気づかせてくれた、だからか。  そして気づくことが無ければ、間違ったまま――ずっと繰り返していたのだろう。  未来永劫に、絶望を抱いたままで。 「過去が希望をくれる――か」 「?」 「いや、何でもない」  あの過去は――今となっては、夢か現かもわからない。  だが、どうだっていい。  確かな答えは、得たのだから。 「どうするんだい、これから」  彼方が聞く。 「決まってる、さ」  祥吾は言う。 「罪を償う。俺が滅ぼしてしまったこの世界を立て直すために――俺に出来ることをする。  ついてきてくれるか、メフィ」 「……はい。貴方が望むなら、伴侶のように、召使のように、奴隷のように」  祥吾は、立ち上がる。ずっと眠っていたのだ、体中が弱くなっている。  だが、それでも立ち上がる。  あの世界の自分は、どんなに倒されても立ち向かってきたのだから、だから自分に出来ないはずは無い。  それを、彼方は見送る。 「うん、そうだね。確かに世界は滅びた。だけど、人の意志がある限り、幾度だろうと世界は蘇る。  人が諦めてしまわない限り。  人々の思いが集まる限り――ね。  この世界は、みんながよりよい未来を作ろうとした結果なのさ。  そう思うだろう――」  遠野彼方は言う。  あくまでも普通の声で、何気なく、さりげなく。 「ねえ、時逆零次?」  END ---- [[トップに戻る>トップページ]] [[作品投稿場所に戻る>作品投稿場所]]

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