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第8話『今、全てに決着を』


「海……瀬……?」
唯人がつぶやくと、男は倒れたままむりやり笑顔を作ってみせた。
まだ頭の整理ができていない。ふらふらと男の側に歩いていく。
気付いてみるとあの目は確かに雅の目だ。
唯人は雅の隣にしゃがみこんだ。
「どうして……?」
「力が、欲しかったの。私には、魔力は無いから。」
そんなことが聞きたいんじゃない。だけど目の奥が熱くなって、言葉が声にならない。
とうとう目から涙があふれ始めた。
泣きじゃくる唯人にそれでもなお優しく微笑みかける雅。こんなの、逆じゃないか。
唯人の涙が治まるのを待ち、雅は少し顔をそらし気味にして言った。
「私ね、椎名君のこと……、」
その時、二人を光が包んだ。
唯人はとっさにステッキを使ってガードを取った。
しかし強大な力には耐え切れず、ステッキは折れてしまっている。
いや、ステッキのことなどどうでもいい。
吹き飛ばされた唯人は、慌てて再び雅の元へ駆け寄る。
手首を握ってみる。脈は感じられない。
雅の顔に耳を近づけてみるが、呼吸の音も聞こえない。
「そんな……。」
そして唯人は、無意識のうちに自分の唇と雅の唇を重ね合わせていた。

強い力が自分の内側から沸き起こってくるのを感じる。その力を唇から唇へ受け渡すイメージを強く思い描く。
宇宙に二人しかいない。そんな、魔法少女の変身のときのような、しかし全く違うような感覚を受けながら……。

立ち上がった唯は、家を出る前に着ていた男物の服装になっていた。
男とキスをすると男に戻ることはできない。その掟は、本来女である雅との間でも変わることはなかった。
もう二度と変身することもない。
雅と神野を草陰まで運ぶと、唯は闇の中をにらみつけた。
「まったく、親子ともども役立たずめ!」
現れたのは小柄な老人だった。
だからといって唯にためらいの気持ちは全く無い。
唯は試しに指の先から炎を出してみせた。いける。
今まで、ステッキが無いと魔法を使えないと思っていた。
だが考えてみれば魔力の源は自分なのだ。
ステッキは確かに魔力を外に伝導しやすくしてくれたかもしれない。
でも、イメージさえしっかりとつかめれば、ステッキに頼らなくても魔力を行使できる。
それが先ほどの体験で理解できたことであった。

「ふん!」
老人は掌から光球を作り出し、投げつけてきた。
しかしそれは唯に直撃する直前で虹色のバリアに跳ね返された。
もはや四元素に縛られる必要も無い。イメージの続く限り新たな魔法を作ることができる。
ひとつでは無駄と見たのか、老人は光球を自分の周りにいくつも生み出し飛ばしてきた。
唯は焦った。これでは近づけない。流石にバリアを張りながら動けるほどの集中力は無い。
バリアのために当たりはしないが、老人の攻撃は無尽蔵だった。魔族の力の一端を与えられているのだろう。
これではいずれ唯のほうの体力が尽きて負けてしまう。
唯がこの事態をどう打破しようか考えていたとき、倒れていた神野の口が動いた。
「じい……さん……。」
それは、うわ言だったはずなのに不思議に心強く闇に響き、唯の耳にも届いた。
唯はこの戦いの結末を全く考えていなかった。
あの老人を倒したとして、それで諦めるのだろうか。老いた身にとって若さと永遠の命がどれほどの魅力か、唯に量るすべも無い。
だからといって二度と立ち上がれないほど痛めつけたり、殺したり、同じ人間にそんなことができるほど唯は図太くない。
説得? そんなことができるほどならこんなことにはなっていないはずだ。
「でも……。」
でも、唯にはひとつだけ不確かながら希望があった。
言葉で伝わる情報には限界がある。だから人は誤解したり疑ったりする。
一方、魔法とは気持ちの力だ。気持ちに直接気持ちをぶつける。そうすれば分かってくれるかもしれない。
危険な賭けだ。でもこれ以外に全員を救える道は無い。

かなりの時間が経った。
だが無駄に時間を過ごしていたのではない。人がものを適当に並べるとき、そこに必ず癖が出る。唯は光球のパターンを見ていた。
魔力も限界に近い。唯はバリアを外すと、自分に向かってくる光球に手を突き出した。
集中。掌すれすれのところで唯は光球を自分のものにした。
それを別の光球に投げつける。互いに触れ合って爆発する光球。その間を唯は潜り抜け、老人の懐にもぐりこんだ。
「これが……俺の気持ちだ!」
全部の魔力を出し切った唯は、その場に倒れこんで……。

唯が目を覚ますと、そこは自分の部屋のベッドだった。
昨日のことがまるで全部夢だったかのように感じられる。
「あ、起きたんだ。」
タイミングよくつかさが部屋に入ってきた。
「うん……。」
当たり前なのだが自分の声がやっぱり高い声だったのに少しショックを受ける。
もう一時的なものじゃないんだ、早く慣れなくちゃ。
「神野のジジイは改心したってさ。」
なんとなく返事する気になれない。それを聞いてほっとしたことは事実ではあるのだが。
「それにしても、やっぱり血は争えない……か。」
「何のことだよ。」
「……私もね、昔魔法少女やってたんだ。」
やけに詳しいとは思っていたので、特に驚くことも無い。
「元男でね。」
「は?」
それは寝耳に水だった。
「その時も神野は親子で向かってきてね、息子さえ倒せば止まると思ってたんだけど、ジジイのほうが問題だったとはね。」
淡々と話すつかさ。大事な部分をスルーされている気がする。
「それより姉ちゃん、男とキスって……?」
「ああ、あの子の父親いたでしょ。」
「わんっ!」
「ジャッキーがどうしたって?」
ジュニアの父親ジャッキーは、椎名家の実家で飼われていた犬だ。
「うっかり変身解くの忘れてジャッキーと遊んでたんだよね。」
呆れて声も出ない。
どうやら男というのは人間でなくても良いらしい。
「それじゃそろそろ邪魔者は退散しますか。」
「え?」
「彼が家まで運んできてくれたのよ。」

つかさと入れ違いに現れたのは、男の姿の雅だった。
唯は慌ててベッドから立ち上がる。
「海瀬……。」
「みや……ううん、マサって呼んで。」
「雅?」
「私も、元に戻れなくなっちゃって。」
女から男に変身するときも、同じような条件があるようだ。
「ごめん……。」
「気にしないで。」
いたずらそうに微笑むと、雅は唯を抱き寄せた。
唯の肩がビクッと跳ね上がる。
でも、不思議と悪い気はしない。相手が雅だからなのか、それとももう既に女としての感覚が身に付きはじめているのか。
そんなことを考えているうちに、男としてはやわらかそうな雅の唇が近づいてきて……。
唇が離れたとき、唯は「もっと」と言いそうになったが、さすがに恥ずかしすぎてやめた。
「気絶してたから覚えてないんだよね。だから、仕返し。」
楽しそうに話すこの雅の笑顔を、いつまでも守りたい。
唯はそう心に深く誓い、雅に笑い返した。

元レス
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220262396/252-258
最終レス投稿日時
2009/02/08 21:53:16