欠けた翼


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『欠けた翼<てんしのしずく>』






(<聖人>・Michael Ochs。
幼き頃より神童と呼ばれた彼は、やがて目を見張るほどに美しい青年となった。
彼は日頃よりこう唱える――)



「人は皆美しい! この世に悪人なんていないんだ!
人々が言う悪人は、きっと心が曇っている、ただそれだけなんだ!
曇った硝子球だって、磨けば輝く。そう、僕達は皆、澄んだ宝石の原石なんだ!」



(――彼はその考えを広めるべく、各地を放浪した。
行く先々で、彼は多くの困難に見舞われた。
しかし彼は挫けなかった。
いつかきっと、世界が綺麗になる、そう信じて……)



歓喜に弾む顔 子供達のあどけない笑顔
それが僕を創り 僕の脚を動かした
温もりを確かに感じ 冬の街道をもまっすぐ歩けた
嗚呼 ありがとう この道はとても明るい



学校…集会場…教会…期待に満ちた人々の顔
それに応えるべく僕は在る さあ口を開いて 紡ぐんだ



開いてくれ 心を一つに
紡いでくれ 同じ夢を
叶えてくれ 世界の理想を



憤怒に歪む顔 大人達の忘れえぬ形相
それは僕を崩し 僕の脚を止めた
冷淡な棘が敷き詰められた道でさえ 僕はただ歩いた
嗚呼 負けないよ 例え今は道が暗くとも



道端…路地裏…屋上…僕は兄弟を選ばない
等しい愛を 悲しい君へ さあ胸を張って 歌うんだ



信じてくれ 僕は負けない
許してくれ 僕は止まらない
護ってくれ 僕の世界を



(ある朝。Michaelは小さな村の古びた宿に泊まった。
明くる日、小規模な広場で演説を終えた彼は、充実した表情(かお)で歩いていた。
そんな彼の前に、佇む影が、一つ。
それは、まるで童話の住人の様に美しい、<人形>の様な少女。
眼の眩むような金色の髪。透き通る様に白い肌。総てを飲み込む深い蒼の瞳(め)。
危なげな足取りでに歩み寄る少女。
やがて。少女は静かに口を開く――)



「人は汚く、醜く、黒い。嗚呼、人など神の搾り滓に過ぎないわ」
夜(現実)が囁く



「人は清く、美しく、白い! 嗚呼、人こそが神の最高傑作だ!」
朝(理想)が叫ぶ



「平等なんて気持ち悪い。不幸が在って人は初めて幸せを理解出来るの」
「そんな話は聞きたくない! 不幸が在っては人はいつまでも幸せを掴めない!」
紅(夢)と蒼(現)が交差する



「アナタは自分以外を低く見ている、違って?」
<人形>の言葉 揺らぐ<聖人>
「アナタは自分が人より上に立っていると思っている。だから自分より劣っている人間に恩を売り付けている」
<人形>はただ淡々と音を紡ぐ 目を見開く<聖人> 震える手を必死に押さえ付ける<聖人>
「アナタは勘違いをしているわ。とても大きな、勘違い」
<人形>が<聖人>の首に手を回す <聖人>は 言葉も発さず ただ<人形>を見つめるのみ
「とてもとてもとてもかわいそうな人。そうだ、アナタに良い事を教えてあげるわ」
<人形>はそして 唱えた <聖人>(神の子)を堕とす 忌避すべき呪詛の音を――



「人は何故、生きている必要があるの……?」



紅い太陽が沈み、村を夜の蒼が包んだ――



(<聖人>・Michael Ochs。
とある村の住民63人を皆殺しにした<聖人>。
そこから47km離れた港で一人の少女を連れて歩いていると言う目撃情報を最後に、行方を眩ました<聖人>。
彼は、旅の果てに何を見たのか。それは誰にも、解らない。
そう、それこそ正に、神のみぞ、知る――)