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friend ◆2VgTRcP6n6




TASは、イチローを親指で刺し殺し彼の持ち物を奪った後、参加者を探すために北へと向かった。
その途中で彼は戦利品を確認したが、武器として使えそうな物は特に無かった。
五寸釘は先端が鋭いため殺人に使えないこともないのだが、武器として使うには少し扱いづらい。
それに彼は所詮ゲーマーであり、人殺しのプロではないのだ。
ナイフのような扱いやすい刃物や鈍器、もっと言えば銃などの遠隔攻撃が可能な武器が欲しかった。
五寸釘は念のためポケットに何本か入れておく。いざという時に役に立つかもしれない。
他には、役立ちそうな道具にオミトロンという物があったが、彼にとっては必要のないものだった。
どうせ殺す相手の名前など、彼にしてみればさして重要でもないからだ。
戦利品の確認を終えた彼は、今度はデイパックから水を取り出し、未だイチローの血で汚れていた右手にかける。
やはり、いつもコントローラを握っているその手を他人の血で汚れたままにしておくのは気分が良くなかったのだ。
すぐに血は洗い流され、元の綺麗な右手に戻る。これでいい。
ついでにイチローの支給品一式はここに捨てていくことにした。食料や水も含めてだ。
地図や名簿、デイパックは一つあれば事足りる。そんなものを二人分持っていても行動の阻害にしかならない。
食料や水を捨てたのは、これも一人分で十分だからだ。
彼は最速クリアをし続けるため、一日の大半はゲームの前にいる。寝る間を惜しむどころか、飯を食う間も惜しむことさえしばしば。
そのため、一日二日の飲まず食わずには慣れており、水食料は最低限のものだけで良いのだ。

一通り荷物の整理を終えた彼は、再び参加者を探して歩き出す。
E-5からD-5へ、D-5からD-4へと、街の周りを回るように参加者を探し続けるが、一向に人の気配はない。
途中、墓のような物を見つけたが、それだけだった。
あれからかれこれ二時間は経ってしまっている。早く参加者を減らさなければならないのに。
一度街へ戻ってみるか? と、そんなことを考え始めた時だ。
五人……いや、二人と三匹を発見したのは。

厄介だ、とTASは思った。
百メートルほど離れた前方に見える参加者達。恐らくこちらにはまだ気付いていない。
これは一気に参加者を減らせるチャンスである。しかし、いくらなんでも数が多すぎるのだ。
相手が一人ならいい。邪魔する者がいないため、ほぼ実力で勝敗が決する。
だがこの数はどうだ。
勿論、前方の参加者達が何の力も持たない一般人ばかりで、武器もハズレばかりなら簡単に全員を屠ることができる。
しかし、そう上手くはいかないという確信が彼にはあった。
街であの魔法使いの格好をした少女を襲った時、彼は見たこともない緑色の小動物に気絶させられた。
前方に見える三匹の小動物も、そのような力を持っている可能性が高い。
この殺し合いの参加者には、彼の予想の範疇を超えた者が多く潜んでいるのだ。何ら不思議なことではない。
恐らく、ここから彼らに向かって突撃しても、今の疲労した状態では身体能力も落ちているし、肝心な武器も無いため、まず間違いなく迎撃される。
そうなれば、ますます最速クリアへの道は遠ざかってしまうだろう。
しかし、ならばどうする?
このまま彼らを見逃すのか。いや、それはできない。
あの集団……方角から推測して、街へ行こうというのだろう。
街で活動している殺戮者が彼らと相打ちになってくれれば御の字だ。これほど嬉しいことはない。
だが、もしあの集団が更に大きなものとなってしまったら。非常に厄介なことになる。
害悪の芽はなるべく小さい内に潰しておきたい。ここで奴等を放っておく訳にはいかない。

TASは改めて周囲を確認する。
前方に二人と三匹の集団。辺りは見通しの良い草原。
複数人の集団に有効なのは、不意打ちだ。一人を攻撃して他の者達が驚いている隙に、一気に全滅させる。
しかし、今の彼には遠隔攻撃ができる武器はない。この地形のため、隠れながら敵に近付いて行くこともできない。
以上のことを考えて、弾き出された結論。まどろっこしい方法だが、仕方ない。
それは、一見無害を装って近付き、騙し討ちを仕掛けることだった。

                     ○

もう一つのグループと分かれた後、僕達は怪我の治療や仲間探しのために街へ向かっていた。
今僕の前を歩いているのが、ここに連れてこられて初めて出会った人である圭一くん。
そしてその隣を並んで歩いている女の子が、少し前に出会ったばかりのこなたちゃん。
僕の隣には、こなたちゃんと一緒にいたピッピ、それにキャタピーのコロネがいる。
因みにコロネが今モンスターボールの外にいるのは、こなたちゃんが
『やっぱり閉じ込めておくのはかわいそうかな』と言ってボールから出してあげているおかげだ。
僕もモンスターボールの中は好きじゃないから、こういう理解のある人と仲間になれてちょっぴり嬉しい。

それにしても、前を歩く圭一くんとこなたちゃんはさっきからとても楽しそうに会話をしてるけれど、
『萌え』だの『メイド』だの僕の知らない単語が沢山飛び交っていて、何を話しているのかはさっぱり分からなかった。
テレパしいやほんやくコンニャクの効果はさっき切れてしまったから、僕達ポケモンは二人の会話に入る余地もない。
まあ、そういった便利な道具をバンバン使うわけにもいかないから、節約にもなっていいのだけれど。
『はぁ……二人の話はよく分からないなぁ……』
『僕もちょっと……』
『まあまあそう言わずに、これでお互いの信頼関係がより深まるなら良いじゃないでゲスか』
二人の会話についていけないのはピッピも同じだったみたい。
でも、コロネの言うことも尤もだ。
こなたちゃんが言ってたっけ。いざという時に皆が皆を信用できるようにって。
他愛もない話をすることで緊張も和らぐだろうし。そう考えると、悪いことじゃないのかもしれない。
「あれ、向こうから誰か近付いてきてない?」
そんなことを考えながら歩いていると、突然こなたちゃんは立ち止まってそう言った。
彼女の発言に、僕を含めた皆も斜め左の方を向く。すると、確かに誰かがこちらに向かってくるのが見えた。
「接触してみようぜ。俺達の仲間になってくれるかもしれない」
圭一くんの提案で、僕達もその誰かに近付いていき、お互いの距離はすぐに縮まっていった。

「俺の名前は前原圭一。あんたの名前は?」
グループの代表者として、圭一くんが皆より少し前に出て、その男の人に声をかける。
男の人は、初めて見る人だ。よく見てみれば、その人は何だか疲れた顔をしていたけれど、目付きがやたらと鋭くて怖い感じがした。
隣にいるピッピもやや怯えた目で彼を見ている。
もしかしたらこの人はこの殺し合いに乗っているんじゃないかと、僕はついそんなことを考えてしまった。
「TASだ……」
短い返答。この男の人はTASさんというらしい。
「TASさんか。あんたに一つ聞きたいことがある。
 俺は仲間を集めて、この糞ゲームをぶっ壊してやりたいと思ってるんだが……あんたはこの殺し合いに乗っているのか?」
その言葉を聞くと、TASさんは何の躊躇いも無くデイパックを地面に投げ捨てて、両手を上げながら後ろに数歩下がった。
彼のその行為に、僕達は呆気に取られた。
「この通りだ」
「あ、ああ、疑って悪かった。あんたがこの殺し合いに乗ってないってことはよく分かったよ。
 そこでなんだが、TASさん。この糞ゲームをぶっ壊すために、あんたも俺達に強力してくれないか?」
TASさんを危険でないと判断したのか、圭一くんが彼に強力を求めた。
仲間は多いにこしたことはないし、僕も当然それに賛成だった。
けど、どうしてか嫌な予感が僕の脳裏を過ぎった。僕の本能がTASさんに対して警鐘を鳴らしていたんだ。
……いや、大丈夫だ。仮にTASさんが殺し合いに乗っていたとしても、あっちは一人。こっちは五人もいるんだ。
そうそう妙なマネはできないはずだ。……多分。
「分かった。協力しよう」
「そうか、よし! 今から俺達とあんたは仲間同士だ。よろしくな!」
圭一くんはそう言ってTASさんのすぐ前まで近付いていき、彼との友好の証に右手を差し出す。

しかし次の瞬間、予想だにしないことが起こった。

「うぐあああああああああああ!!!」
TASさんと握手を交わそうとした圭一くん。その彼が、急に後ろに突き飛ばされたんだ。
圭一くんの体は僕達のいる所まで飛んできて、真後ろにいたピッピが彼の下敷きになってしまった。
「ピカ!?」
あまりに突然のことに僕は思わず困惑の声を上げた。
圭一くんが突き飛ばされた。一体誰に? 考えるまでもない。

「ピィィィカァァァ……!」
僕は咄嗟に電撃をTASさんに……いや、TASに浴びせようとする。
でもそれよりも早くTASが、僕に向けて何か……針みたいなものを数本投げつけてきた。
「ピカッ!?」
僕はすごい速さで飛んできたそれを、攻撃を中断して避けようとしたけど、その際バランスを崩して転んでしまった。
しまった! と思った瞬間にはもう遅かった。そのすぐ後にはTASの足が目の前まで迫ってきて……。

僕の体に、衝撃が走った。

                     ○

まさかこれほど上手くいくとは、とTASは思った。
TASは頭の中で目の前の五人をどう始末するか脳内でシミュレートしながら、集団に接触した。
演技には自信が無かったが、前原圭一と名乗った少年は割と簡単に自分を信用してくれた。
五人もの集団だ、そこには必ず油断や隙ができる。そこに付け入れば、奴等は必ず騙されてくれると踏んだのだ。
デイパックを捨ててみせたのは、殺し合いに乗っていないように見せかけるためだけではない。
荷を減らすことで、より素早い動きを可能にするためでもあった。

握手を求めて自分に近寄ってきた少年に対し、チャンスと思ったTASはすかさず現在可能な限りのスピードを乗せた拳を放つ。
その衝撃により、少年は叫び声を上げながら数メートル後ろに吹っ飛んだ。
ピンク色の小動物がその体に押し潰されたのは、TASにとっては嬉しい誤算だった。
驚きの声を上げる彼らに対し、TASは攻撃の手を緩めない。
ポケットから五寸釘を数本取り出し、こちらに攻撃を仕掛けようとした黄色い小動物へ向けて投擲する。
辛うじて避けられるが、計算済みだ。TASは五寸釘を投擲するとほぼ同時に、自らも地面を蹴り、駆け出していた。
案の定バランスを崩し転倒した黄色い小動物の腹に、TASは渾身の蹴りを叩き込む。
その小さく軽い体は、十数メートルほど吹っ飛び地面に叩き付けられた。
これで三人を行動不能にすることに成功。残りは二人。

「コロネ! たいあたり!」
TASが残る二人を視界に捉えるのと、声が聞こえたのはほぼ同時。
青い髪の少女が足元にいた芋虫のような小動物に命令を下すと、それが予想外の速さで迫ってくる。
TASはやや驚いた表情を見せたが、それでも尚、彼の方が速い。
彼は地面に落ちていたフライパンを蹴り上げてキャッチし、それと同時に体を回転させ、
遠心力によって勢いが増したフライパンを飛びかかってきた芋虫に叩き付ける。
彼は回転を止めすぐに体勢を整えると、弾き飛ばされていく芋虫を驚愕の表情で見つめる少女に向けて狙いを定めた。
少女はデイパックの中から何かを取り出そうとする。どうやらまだ攻撃手段が残っているらしい。
だがそれならば、反撃される前に潰せば良いこと!

TASは一気に少女との距離を詰め、その頭に向けてフライパンを振り下ろす。
だがその一撃は少女が咄嗟に顔の前に腕を翳したことでガードされる。しかしTASは隙を与えず、その無防備な腹に追撃をかける。
蹴り飛ばされた少女は地面を転がり、その際彼女の手から何かが零れ落ちるのをTASは見た。

「! これは……」
TASはそれを拾い上げる。それは彼がとてもよく知っている物だった。
そう、それこそはマリオシリーズでおなじみのアイテム、ファイアーフラワー。
使用すると、手から火の玉を放つことができるようになるアイテムだ。
ゲームの中だけにしか存在しないはずのそれが、何故ここにあるのかは分からない。
だが、もしゲームと効果が同じだとすれば。

TASは間髪容れずにファイアーフラワーを口に入れる。
瞬間、全身が燃え上がるように熱くなり、だがそれと同時に何かの力が湧き上がってくるのを彼は感じた。
ファイアーマリオならぬ、ファイアーTAS、覚醒。
彼は今この瞬間、ファイアーフラワーの力により、ファイアーボールを放つことができる能力を手に入れたのだ。
更に彼は、この能力の強力さ、そして扱い方をよく知っていた。
故に、この能力を手に入れた今、TASはこの場にいる自分以外の全員を速攻で焼き殺すことができる!

目の前の少女に狙いを定め、ファイアーボールを撃ち出そうとするTAS。
彼の圧倒的な強さにより、子供達は窮地に追いやられていた。
果たして、彼らはこのままTASの手によって舞台から退場させられてしまうのだろうか。

否。惨劇を止めようと必死に抗う強い意志は、断じてそれを良しとしない。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「!?」
突然の大声にTASは後ろを振り返る。
彼の視界に映ったのは、鋸を思い切り振り上げる少年、前原圭一の姿。
刹那、鋸がTASに向けて振り下ろされるが、彼はギリギリのところでその一撃を受け止めた。
馬鹿な、とTASは思った。
あの時放った一撃は、確かに目の前の少年の胸に直撃したはずだ。骨が砕けこそしないものの、相当なダメージを与えたと思っていた。
それに彼は人外ではないし、戦闘慣れもしていなさそうな、どう見ても普通の少年だ。
それがまさか、こんなにも早く立ち上がるとは思いもよらなかったのだ。
「貴様……!」
困惑するTASに向けて、圭一は言い放つ。
「TAS!! あんたが何でこの糞くだらねぇ殺し合いに乗っちまったのかはこの際どうでもいい!
 でもなぁ、これだけは言っとく!!」
圭一は大きく息を吸い込み、言った。
「あんたは俺達には勝てねぇ!! 絶対にだ!!」
「なに……?」
「聞こえなかったか? ならもう一度言ってやる!
 あんたは俺達に勝てない! あんたなんかにゃ絶対に負けねぇ!!」
一体何の根拠があって、このようなことを言っているのだろうか。
現に、この集団は今TASによって壊滅寸前のところまで追い込まれている。
そのような口を叩ける余裕など、微塵もあるはずがないのにだ。
訝しげに思うTASへ、圭一は言葉を投げ続ける。
「何故なら!! 俺達には沢山の仲間がいるからだ!
 ピカチュウもこなたもピッピもコロネも、今ここにはいないかがみも真もゴマモンもロックマンもレナも魅音も富竹さんも詩音も!
 全部、俺の大切な仲間達だ! 俺はそいつらの、仲間の力を信じてる!
 TAS! あんたにはいるか!? 殺し合いに乗っちまったあんたに、信じられる仲間がよ!!」
「!!!」
TASの表情に、明らかな動揺が浮かんだ。

彼は、最速クリアを行うためだけに生まれてきた存在だ。
ほぼ一日中ゲームの前で過ごし、幾度となく試行錯誤を繰り返しては一秒でもクリアタイムを縮めるため、
膨大な数のゲームに膨大な時間を費やしてきた。
それ故、彼は常に孤独だった。
最速プレイ動画を山ほど投稿し、腐るほど賞賛を浴びてきたが、彼らは観客であって仲間ではない。
最速クリアを求め続けるということは同時に、孤独と戦うことでもあったのだ。
イチローに説得された時に迷ってしまったのは、彼のその孤独によるものもあったのかもしれなかった。

だがそれでも、TASの『最速クリアを目指す』という強い意志は曲がらない。
仲間など何だと言うのか。結局のところ、それは単なる数の差だ。
数で劣るというのならば、それにも勝る意志の強さで捻じ伏せるまで!

「戯言を……抜かすな!!」
互いに押し合った状態で、端から見れば静止しているように見えたフライパンと鋸。
だが、TASの一声と共に込められた力により、その均衡は崩れることとなる。
「くっ!」
押し負けそうになる圭一も負けじと鋸に力を込め、その反動を利用し一旦後ろに飛び退く。
体勢を整え、再びTASに攻撃を仕掛けようとしたが、それは叶わず。次の瞬間にはフライパンで鋸を弾き飛ばされていた。
「! しまっ……うがぁっ!!」
TASの蹴りが直撃し、腹部に凄まじい衝撃が走る。
最初に胸に受けたものよりは威力は低いものの、それでも無視できるレベルではなかった。
吹き飛ばされ背中から地面に叩き付けられる圭一。
彼は痛みに顔を歪ませながらも起き上がろうとするが、その彼へ向けてTASは死刑宣告をするかの如く右手を突き出し、言った。
「終わりだ。死ねっ!」

TASの右手から何発ものファイアーボールが発射され。

圭一の視界が、真っ赤に染まった。

                     ○

恐かった。あと少し気を抜いたら小便をちびってしまいそうなくらい恐かった。
僕達は突然豹変し襲い掛かってきた男に殺されかけていた。
どうして僕ばっかりこんな目に遭うんだろうかと、僕は改めて自分の運の悪さを呪った。

大体この襲い掛かってきたTASとかいう奴は明らかに異常だった。
この殺し合いに連れてこられて最初の頃に出遭ったチートミニスカートや外道少年の比じゃない。
速い。速すぎる。
TASは驚異的なスピードを武器に、五人もいた僕達を次々と薙ぎ払っていったんだ。
僕はコナタがTASに蹴られて吹っ飛ばされるところを、少し離れた位置で呆然と見た。
ケーイチの体の下からすぐに抜け出た後、僕は無意識の内に足が逃げる方向へ向いてしまったらしい。
ああ、もう駄目か。僕じゃとてもあの男には敵わない。
僕達は皆ここであいつの餌食になるんだな、と僕は漠然とそう思った。

そんな時、何とか起き上がった圭一が鋸を持って、無謀にもTASに攻撃を仕掛けたんだ。
……それを見て僕は一瞬だけ、この隙に逃げれば僕は助かるんじゃないかと、思ってしまった。
でも、それはできなかった。
ケーイチが僕のことを大切な仲間だと言ったから。
こんな臆病で、震えて、今にも逃げ出しそうになっている僕のことをだ。
そして彼は信じると言った。仲間の力を。

そんな人を見捨てて僕だけ逃げる? ……できない。
戦わなければ、ここにいる皆は殺されてしまう。そんなのは嫌だ。戦わなければ。戦わなければ。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。

そう思う。
でも。やっぱり……恐かった。
あと一歩。あと一歩だけ。だけど、そのあと一歩がどうしても踏み出せない。
ああ、誰でもいいから僕を叱ってください。そして僕に、勇気をください。

そうこうしている内にケーイチが押され始めた。
ケーイチは一旦距離を取って、再びTASに向かっていったけど、鋸を弾き飛ばされてしまった。
TASはケーイチを追撃し倒れたところで、トドメと言わんばかりに右手を突き出す。
やっぱり駄目か、と僕の中を絶望が支配した。

その時。

目にも止まらぬ速さで、ケーイチとTASの間に何かが飛び込んだ。

「!」
「ピカ、チュウ……?」
二人の顔が驚愕に染まった。いや、僕もだった。
TASの手から飛び出した火の玉は、ケーイチに命中することはなかった。
何故なら、ピカチュウがケーイチを庇うかのようにして全て受け止めていたからだ。

それを見て、僕の中で何かが吹っ切れたような感じがした。
何故かはよく分からない。不思議と恐怖も薄れていた。

「コロネ! いとをはく!」
「っ!?」
TASが動揺している隙を付くかのように、コナタが背後から奇襲を仕掛けた。
動揺に加え、あまりに突然のことで反応できなかったのか、コロネから吐き出された糸にTASは絡め取られていく。

ああ、そうか。僕は思った。
これが仲間の力なんだと。

それに気付いた時、僕の中で消え失せていた怒りの炎が一気に燃え上がった。
許せない。
目の前で仲間を殺そうとしている男が。そして何より、逃げ続けようとした僕自身が。
ケーイチは僕達を信じてくれている。なら、僕もそれに応えなくちゃいけない。
僕はみんなを守るって決めたんだから。
幸いTASはコロネの『いとをはく』で動きが鈍っている。今なら僕の攻撃も当たるはず!

僕は指を振った。
『ゆびをふる』で繰り出される技は完全にランダムだ。この土壇場で『はねる』とか出たら目も当てられない。
運良く攻撃技が出たとしても、果たしてそれでTASを倒すことができるのかは分からない。
でも……でもそんなの関係ねぇ!
失敗を恐れて止めてしまうのは一番駄目なことだ。
やらなければいけないんだ。そして必ず、こいつを倒す!!

それに、僕は腐っても男だ。
意地があんだろ! 男の子にはっ!!





ピッピはいつもと同じように指を振り、そして。

絶大なエネルギーを持った光線が、TAS目掛けて一直線に放たれた。

                     ○

今までのことが走馬灯のように駆け巡る。
サトシと旅をしたこと。それで出会った沢山の仲間や強敵のこと。出会うことと同じくらいあった別れのこと。
色々辛いこともあったけど、楽しかった日々。

「ピカチュウ! しっかりしろ!」
「ピ……カ……」
誰かの声が聞こえて、僕はうっすらと目を開けた。
怒ってるような、焦ってるような圭一くんの顔がそこにあった。良かった……彼は無事だったみたいだ。
圭一くんの横には、僕のことを心配そうに見つめるこなたちゃんやピッピがいた。
TASの姿は見当たらない。誰かが倒した……のかな。
僕が気が付いたことに安堵したのか、圭一くんはデイパックから水を取り出した。
「ほら、飲んでくれ」
そうして圭一くんは僕に少しだけ水を飲ませ、全身火傷した体に水をかけてくれた。
でも、僕は多分もう助からないだろう。
エアーマンから受けた傷もまだ治らない内に、お腹を思い切り蹴られたり、全身に火の玉を受けたりしたんだ。
耐久力に乏しい僕の体は、もう……限界だった。

それでも。そうなると分かっていても、僕は圭一くんを庇った。
TASに蹴られた後、僕はほんの少しの間だけ意識を失った。
そして目を覚ました時には、圭一くんはTASに追い詰められていた。
電撃を放つ時間も、迷っている時間も無かった。
だから僕は咄嗟に『でんこうせっか』で彼とTASの間に飛び込んだんだ。

何でそこまでして彼を守ろうとしたのかはよく分からない。
でも、きっと僕は圭一くんに恩返しをしてあげたかったんだと思う。
エアーマンに襲われたあの時、圭一くんがいなければ、僕は既にここにはいなかったはずなんだから。

「ピ…………カ……」
ああ、皆の無事を確認して安心したら、何だか眠くなってきちゃったな。
僕は、体からどんどん力が抜けていくのを感じていた。それと同時に、酷かった火傷の痛みも退いていく。
「ピカチュウ……? しっかりしろ!! 死ぬな!!」
ぼやけた視界の中で、圭一くんが必死に叫んでいる。
絶対に皆で元の世界に帰るって誓い合ったのに、早くもそれを裏切る形になってしまった。

本当にごめん。
僕は心の中で皆に謝りながら、ゆっくりと目を閉じる。
薄れていく意識の中で、僕は願った。

どうか、皆が無事に生きて帰れますように。

                     ○

TASはその時、自分の身に何が起こったのか理解できなかった。
不意を付かれ、体に粘着性の糸が絡み付いたかと思ったら、その数秒後にはどこから飛んできたのか謎の光線が直撃し、
訳もわからぬ内に吹き飛ばされていたのだ。

TASは生きていた。
ピッピの『はかいこうせん』を喰らい、遥か彼方まで吹き飛ばされても、それでも尚生きていた。
常識的に考えたら、死んでいても何らおかしくないというのにだ。
それもそのはず、彼が使用したファイアーフラワーというアイテムは、
ファイアーボールを放てるようになるのと同時に、ある程度のダメージまでなら一度だけ防いでくれる代物だったのだ。
勿論それだけで全ての衝撃を防ぐことは到底不可能な話であり、TAS自身も相当なダメージを負ってしまったのだが。

「俺は……一人だから負けたというのか……」
花畑の中、TASは仰向けに倒れた状態のまま呟く。
あの少年は言っていた。自分達には仲間がいると。そして、その仲間の力を信じていると。
少年の言葉は現実のものとなり、結果的に自分は彼らに負けてしまった。
果たしてこの調子で、本当にこのゲームの最速クリアなどできるのだろうか……?

……愚問だ。
自分は最速クリアの代名詞、TASだ。自分に最速でクリアできないゲームなど、あるはずがない!
彼は起き上がろうとする。早く次の参加者を探し出し、殺さなければ。
今までの遅れを、一刻も早く取り返さなければと思いながら。
だが。

限界だった。
彼の体が再び仰向けに倒れる。
このバトルロワイアルが始まって以来、TASは二度目の気絶を果たした。


【ピカチュウ@ポケットモンスター 死亡】
【残り50人】


【D-4 草原/一日目・昼】

【前原圭一@ひぐらしのなく頃に】
[状態]:全身に軽い裂傷、胸骨にひび、腹部強打、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、チョココロネ@らき☆すた、雛見沢症候群治療セット1日分(C-120、注射器、注射針)@ひぐらしのなく頃に、テニスボール
[思考・状況]
1.ピカチュウを埋葬する。
2.街へ向かい、薬を探す。
3.対主催思考の仲間を探す(出来れば雛見沢の仲間優先)
4.人は殺さない
5.ゲームの破壊

【ピッピ@ポケットモンスター(ピッピのゆびをふるのみで殿堂入りを目指す)】
[状態]:強い決意、悲しみ
[装備]:リーフシールド@ロックマン2(技マシン的な使い方でポケモンは使える)
[道具]:支給品一式、ほんやくコンニャク(1/2)(半分で八時間)@ドラえもん、デジヴァイス@デジモンアドベンチャー
[思考・状況]
1.もう逃げない。仲間のことは絶対に守る。
2.ピカチュウを埋葬する。
3.圭一と街に向かい、薬や仲間を探す
4.あの怪しいポケモンとトレーナーを倒し脱出
※首輪は頭の巻き髪についてます
※緑色の髪の女を危険人物と認識

【泉こなた@らき☆すた】
[状態]:右腕打撲、腹部強打、悲しみ
[装備]:団長腕章@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:支給品一式、DMカード(ブラック・マジシャン・ガール、ホーリーエルフの祝福)@遊☆戯☆王デュエルモンスターズ(現在使用不可)
    コロネ@キャタピーだけでクリアに挑戦(残りHP70%)、テニスボール
[思考・状況]
1.ピカチュウを埋葬する。
2.街へ向かった後はどうしようか。
3.バトルロワイアルから脱出する

※三人はTASさんが死んだものだと思っています。
※TASさんの支給品一式、五寸釘@現実、オミトロン@現実?、初音ミク@現実、ゼットソーハードインパルス@現実、
 ピカチュウの支給品一式、テレパしい@ドラえもん(残り3粒)、ほんやくコンニャク(1/3)@ドラえもんが三人の近くに落ちています。


【D-3 花畑/一日目・昼】

【TASさん@TAS動画シリーズ】
[状態]:疲労困憊、満身創痍、気絶
[装備]:五寸釘数本@現実(ポケットの中に入っています)
[道具]:なし
[思考・状況]
1:気絶中

※カワサキのフライパン@星のカービィがTASさんの近くに落ちています。
※ファイアーフラワー@マリオシリーズの効果は、はかいこうせんにより消滅しました。
※イチローの支給品一式がE-5のどこかに放置されています。



sm88:そして伝説の木の上で 時系列順 sm91:ふたりはヤルキュア
sm88:そして伝説の木の上で 投下順 sm90:チープトリック
sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ ピカチュウ 死亡
sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ 前原圭一 sm109:最初の過ちをどうか(前編)
sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ ピッピ sm109:最初の過ちをどうか(前編)
sm76:勇気を受け継ぐ子供達へ 泉こなた sm109:最初の過ちをどうか(前編)
sm74:イチローのレーザービームでバトロワ会場滅亡 TASさん sm95:ぼくんちのニコロワ(前編)



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