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SECRET AMBITION(前編) ◆0RbUzIT0To






『―――午後六時をお知らせします』

一時の休息を得、大して美味しくもない食事をしていた一行の耳に入り込んできた悪魔の声。
談笑をピタリと止め、八人はその言葉の端々に注意しながら聞き入った。数少ない主催者の状況がわかる放送、何気ない言葉の中に何かのヒントがあるのかもしれない。
そう思いながら聞き入るが……次第に、その顔に悲しみの色が浮かぶ者が数名いた。

「そんな……真が……それに、フシギダネってピカチュウが言ってた仲間じゃ……」
「谷口君……」
「……外山さん、圭一くん」

思わず放送で呼ばれた名前を繰り返し呟く。
これで三回目の放送となるが、矢張り未だにこの瞬間だけは慣れる事がない。
放送が終わり、奇妙な静けさだけが辺りを包み込む。
顔を伏せ救えなかった事を後悔している少女達だったが、しかし、それでも少女達は顔を上げた。
死んだ彼らに報いるためにも、上を向く。つい先ほど、そう誓ったばかりのはずだ。
気持ちを切り替えて、放送で得られた情報を整理してゆく。

「三十七人か……その中に、どれだけこのゲームを壊すって考えてくれてる奴がいるのか」
「ゴマモンに、圭ちゃんが言っていたロックマンや武藤君……、真の仲間だっていう三人。
 それに、つかさはきっとこんなゲームなんかに反対してくれてるよ」
「それに加えてレナの仲間の二人、妹ちゃんが言ってるハルヒっていう女の子ね」
「えっと、それじゃあ全部で十人の人が仲間になってくれるって事?」

妹の出した答えに、周りの者が頷く。
無論、又聞きにした情報だけを鵜呑みにするのは危険ではあるが少なくとも自分達が直接知っている人間達に関しては大丈夫だろう。
少ないとも多いとも言えない人数だが、仲間がいるという事実はそれだけで心強い。
それに、残りの者達の中にも自分達に協力してくれるような人がいるかもしれない。

「当面は、その人たちとの合流が目標ね……レナ?」

全員がティアナの意見に同意しようとしている中、レナは一人虚空を見ながら何かを呟き考え事をしていた。
そして、おもむろに名簿と地図表を取り出すとそれを穴が空くほど見つめながら口を開く。

「やっぱりおかしいよ……」
「おかしいって何が?」
「……みんな、名簿と地図を見てくれる?」

言われるがまま、各々(博之は目が見えない為に微動だにしなかったが)名簿を取り出す。
約半数が亡くなり、死者の名前の上には線が引かれているがそれ以外には別段変わったところはない。
一体何を始めるというのか、と皆の意識がレナに集中する。

「この場所に連れてこられる前、大広間で起こった事覚えてる?
 ……男の子と女の子が一人ずつ、首輪を爆破されたの」
「う、うん……」

悲惨な場面を思い出し、あからさまに嫌な顔をする面々。
しかし、それには構わずレナは話を進めていく。

「こなたちゃんの話だと、あの時の女の子の名前は双海真美ちゃんっていうんだよね?」

こなたが頷くのを確認してから、再び口を開く。

「でね、ここからが問題なんだけど……その女の子の名前が、この名簿には載ってないの」
「……何を言うかと思えば、そんな事ぉ?」

レナの発言に水銀燈が茶々を入れる。
なにやら重大そうな事を言うかと思えば、そんな事か。

「あの場で殺された者達は参加者としてノーカウントという事なんでしょう?
 ……博之には言ったと思うけれど、私の知り合いもあの場に集められる前に殺されてるわぁ。
 でも、名簿には名前が無い。 ……このフィールドで死んだ者しか参加者として認められない、そうじゃないかしら?」
「違うと思うよ」

しかし、レナは水銀燈の結論をあっさりと取り消す。
「ピッピちゃんと、コロネちゃんやヲタチちゃんは同じ種類の生物なんだよね?
 だけど、ピッピちゃんは参加者扱いされてるし他の二匹は支給品扱い……どうしてだと思う?」
「……もしかして、首輪?」

ティアナが出した答えにレナが深く頷いて同意を示す。
モンスターボールに入っていないだとか、トレーナーの命令は絶対だという事を除けば三匹の決定的な違いは首輪だ。
仮にボールが破壊されたりしてポケモンが野に放たれたも同然になった際、コロネやヲタチは逃げ果せる事が出来るだろうが首輪をつけられているピッピにはそれが出来ない。
支給品であるコロネやヲタチがいなくなっても構いはしないが、参加者であるピッピには逃げられては困ると。つまりはそういう事なのだろう。

「……あの時真紅は首輪を付けてなかったわねぇ、だから参加者としては認められてはいなかったという事かしらぁ?」
「レナの理屈は道理に適っていると思うわ。
 首輪をつけているものは参加者であり、それ以外は非参加者……だからこそあの時殺された二人は参加者のはずなのに、名簿に載ってないのがおかしいと言いたいのね?」
「うん……だからこそ、色々と思うところがあるの」

一拍を置いて、レナが続ける。

「この名簿に名前が浮かび上がったのは一度目の放送が終わってから。……多分、主催者達は修正作業をしていたんだよ。
 一番最初に作っていた名簿には二人の名前が入っていたけれど、それを渡すのは問題があったから白紙のものに急遽取替えて魔法を使って文字を浮かび上がらせた」
「なるほどなぁ……確かに放送が終わってから名簿に文字が浮かび上がるってのもおかしい話だとは思ってたが、そういう事だったのか」
「でも、問題って一体何が? そのまま渡しちゃってもいいと思うけどなー」
「……そらお前が一番よおわかっとるやろ」
「え?」

仮に双海真美と殺された少年の名前が追加されていた名簿が最初から配布されていたとしよう。
そして、その名簿によく似た名前を見つけた場合良心を持つ人間ならどうするか?

「肉親を失うってのは辛いからの……普通の感性やったら、そいつに同情する。そしたら、人を殺す事に躊躇おうゆう奴が増える……」
「だから、主催者達は隠した……亜美ちゃんという同情の対象を消し殺し合いを円滑に進める為に、真美ちゃんの名前を」
「……そっか」
妹も、キバ達と出会った時は自らの境遇を告白して同情を買おうとしたのだ。
その効果についてはわが身を持って知っている。

「つまり、ここには七十人と書かれているけれど本来の人数は七十二人のはず。
 ……ここまではいい?」

皆の同意を確認してから、再び続ける。

「さっきの放送で『いよいよ残りの参加者も半分!』って主催者が言ってたのは覚えてると思うけど……。
 今の人数は三十七人……半分じゃないよね?」
「まあ……確かにそうだな。 普通なら、大体半分とか言う所だろうが……」
「普通ならそうだよね。 でも、主催者達は言わなかった……それはどうしてなのか。
 答えは単純、本当に参加者は半分になっていたからだよ」

そう、本当に参加者が半分になったのだと考えれば辻褄は合う。
だがそれには数が足りない。
もし仮に参加者が半分になったとしたならば総参加者の数は七十四人になるはずだ。
レナの言うように、最初に殺害された二名を入れても参加者の数は七十二人。
あと二人足りない。足りない……が。
その二人が、双海真美達のように名簿に存在しない人物だったとしたなら?

「う~ん、なんかインチキ臭いなぁ。 それにちょっと強引なような気がするんだけど」
「でも、大広間の二人という前例がある以上可能性はゼロパーセントとは言い切れないわ」

単純に主催者が約半分の約を省略しただけかもしれない。
だがそれでも、可能性は低いもののその隠された参加者がいる事に関しては否定が出来ない。
いるとは言い切れないものの、いないとも言い切れないのだ。

「まああくまで可能性だし頭の片隅に置いておくくらいでいいだろ……それでレナ、地図の方に関しては何があるんだ?」

レナは名簿と地図を取り出すよう言ってきた。
ならば、地図の方にも何か問題があったと考えるのが自然だ。

「うん、まずは禁止された場所を見てほしいんだけど……今現在禁止になっている場所は四つ。
 そして、さっきの放送で言われた二つを合わせて合計六つ。
 エリアは全部で二十五あるからようやく五分の一くらいが禁止にされたってところだね」
「そうだけど、それが何か問題あるの?」
「ううん、本題はここから……その六つの内、内側のエリアを指定されたのはたった一回だけなんだよね。
 確かに外側の方が数が多いからそっちに禁止エリアが集中するのはしょうがない事だけど、だとしても少ないと思うんだ」

二十五あるエリアの内、外側に分類されるのが十六エリア。内側に分類されるのは九エリアだ。
確かに外側の方が多いとはいえ、もう一つ二つほど禁止されていても不思議ではない。
だが、それもただの偶然……主催者の気まぐれと取れる範囲だ。
しかし、レナはそう考えてはいない。その禁止エリアの選択方式にも理由があると考えている。

「そもそもあの主催者がどうして禁止エリアを定めているのか……。
 それは多分、数が減って分散しがちな参加者を一ヶ所に集める事を意図してるんだと思うの。
 でも、その本質はそれだけじゃない……。
 ……私ね、この塔の頂上から降りてくる前に山を見てたの」
「山? っていうと、フィールドの外側か?」
「うん……でもね、なんだかおかしかった。 その山の向こう側が見えなかったんだ」
「そら山があったら向こう側は普通見えんやろ?」
「でも、流石に全てを覆い隠すように山が密集してるのは不自然だと思いませんか?」
「……まぁ、そらな」

そんな山脈、愛媛のド田舎にもありはしない。
ならば、人の手で創られたという事なのだろうか?
莫大な資金と労力を使う事になるだろうが、まだそちらの方が現実的な気がする。

「私達を隔離して、脱出出来ないようにさせてるんじゃないの?
 そこに山が無かったらきっと誰かがフィールドから出ちゃうよ、だってこんな所にいたくないもん」
「それもあると思う……でも、それだけじゃない」

確かに山がなければフィールドから出る参加者が続出するだろう。
だが、それを防止するならば境界線沿いに目印になりそうなロープや何かを張り巡らせ、そこから出ては首輪が爆発すると脅せばいいだけだ。
何も山を建造するなどという行いに労力を費やす事はない。

「本来の目的は……あの山の向こう側に、見られたくないものがあるんじゃないかな?」
「……見られたくない、もの?」

あの山はつまり、壁と同じだ。だとすれば考えられる事は家などにおける壁の役割と同じ。
不審者の侵入を防ぐ――即ち、フィールド外への参加者の侵入を防ぐ事ともう一つ。
自分の家の様子を見られたくない――フィールドの外側を、見せたくはないというもの。

「見せたくないって、一体何があるんだ?」
「これはただの推察に過ぎないけど、でも検討なら大体ついてるよ……」
「……主催者の本拠地」

続けようとしたレナの代わりにポツリとティアナが呟く。徐々にだが、ティアナにもレナの言いたい事が見えてきた。
そして、あくまでレナにとっては推察に過ぎなかったその結論もティアナの知識によってカバーされつつある。
ティアナの持つ、"魔法"という知識によって。

「私達は最初あの主催者達が居た大広間に集められていたけど、一瞬でここまで連れてこられた……そうだったわね?」
「あ、ああ……あれは頭がどうにかなりそうだった。 催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃねぇ。
 もっと恐ろしいものの片鱗だったような気がするぜ……」

何故か無駄に汗をかきながら答えるキバ。
だが、あえてそれを無視しつつティアナは進めていく。

「あれは恐らく、転移魔法を使われたのよ」
「転移魔法?」

「人や物を移動させる魔法……私は使えないけれど、高位な術者になれば複数の人数を一度に違う座標に飛ばせるわ」
「全体攻撃のバシルーラってとこか」
「うーん、経験値入らないのは痛いねぇ」
『"吠える"とか"吹き飛ばし"みたいなものかな?』

自分達にわかりやすく噛み砕いて解釈するキバとこなたとピッピに、しかし突っ込みは入れない。

「でも、流石に七十人近くの人間を一度に飛ばす事は出来ない……。
 出来たとしても、近くの場所になるし飛ばされる座標は不安定なものになるわ」
「なるほどねぇ……裏を返して考えればそれを成功させたあいつらはは比較的近くにいるって事ぉ?」
「あの時使われたのが転移魔法なのだとしたら……ね。 ただ、あいつらが術式を展開していた様子は無かったけど」

だが、もし仮にそうなのだとしたら主催者達があの山の向こう側にいる事にほぼ間違いは無いだろう。
あの山を創った事も、自分達がばらばらの場所に降り立った事もその理論ならば説明が出来る。
いや……そもそも、どうやって自分達をこの場所に移せたのか手段がわからない以上、ティアナの言う転移魔法を使ったという説明はこの場の皆を納得させるに十分するものだった。

「だからこそ周囲を禁止エリアにして山に登ろうとする奴を封じてるって事か。
 そうだよな……いくら急斜面だからって、何かの手違いで山の向こう側を見る奴がいるかもしれない」
「それに、仮にティアナの知る魔法じゃなかったとしてもあれだけの大人数を一度に転送するなんて常識じゃ考えられないわぁ。
 どっちにしろ主催者達が近くにいる可能性は高いわねぇ」
「じゃあここまで……隠された参加者がいる可能性、そして山を越えた場所にいる存在についてはわかったかな?」

レナの問いかけに全員が頷き答える。だが、これだけの話で全ての疑問が晴れた訳ではない。
先の推測に関してはレナの持つ知識と勘と推理の腕のみで解けたものだが、それが通用しなかったものもある。
それは、何故自分達がここに集められたのか……そして、何故自分達の仲間も複数存在するのか。
冷静に考えてみれば、それはおかしい話なのではないだろうか。今現在、ここに揃っている八人を見ても女子高生にフリーターにポケモンに魔法使いに動く人形と全く共通点が見つからない者達ばかりだ。

ならば無作為に選ばれたのかと思えばこれもおかしい。無作為に選ばれたというのならば仲間が存在する事象に矛盾が出てしまう。
仲間が存在するという事は即ち、主催者側にその仲間を集めるという目的と労力があったはずなのだ。
博之のように家族だけを集めるというのならその労力も幾らか軽減されるだろう。
しかし、レナやこなた達のように友達や知り合いを呼ばれているというのは自分達の交友関係などを知らないと不可能な事。
それは即ち、自分達の生活や日常を集めた側が知っているという事だ。これは一体どういう事なのか。何故主催者達は自分達を知っているのだろうか。

「仲間を集めてその殺しあう様を見て悦に浸るというのならもっと効果的な手段があるんだ。
 例えば学校の一クラスを集めればそれだけで仲間同士の殺し合いが見れるんだよ? なのに主催者達はそれをしなかった。
 わざわざ私達の特別仲のいい人たちだけを集めるなんて事しなくてももっと楽で、もっと仲間同士で殺し合う様が見れる手段があるのにそれをしなかった。
 そこにはきっと、理由があるはずなんだよ」

だからこそ疑問が浮かび上がる。何故自分達を集めたのか……そこにあるものが、一体何なのか。
それが解れば、或いは主催者達の目的も垣間見えるかもしれない。そうすれば脱出の手がかりになるかもしれない。

「でも、私のように知り合いが一人もいない参加者だっているわぁ。 何で私まで呼ばれたのかしら」

そう、水銀燈に関しては知り合いがこのフィールドに一人として存在しないのだ。
真紅は参加者として参加する以前に主催者によって殺されている。
レナやこなた達のように仲間と殺し合いをさせるという仮定に矛盾が生じる以上、水銀燈がここにいる理由が不明瞭になる。
いや、それは水銀燈だけではない。
キバにしたってKASやTAS、外山恒一らは知っていたがそれらは単にこちらからの一方的な認識だけだ。
決して仲間だという訳でもないし、知り合いという訳でもない。

仲間や知り合いではない……?
ならば、何故キバは外山達を知っていたのか?外山は政治家だ、確かにそこらにいる一般人に比べれば知名度はあるかもしれない。
だが、それでも勿論万人が知っているという人物ではない、むしろ知らない人物の方が多いだろう。
それを何故キバは知り得たのか? どこであの政見放送を見たのか?そうだ、あれを見たのは……。

「ニコニコ動画だ!」
「うわぁっ!? ど、どうしたのキバ君?」

ニコニコドウガ――? 聞いた事もない言葉に皆の顔に不安の表情が浮かび上がる。
皆? いや、違う。全てが繋がった、といった表情のキバのほかにもう一人。
その顔に不安とは違う表情を浮かべている男がいる。

「ニコ房はじじゅうしろ! ニコニコは今関係あらへんやろが」

瞳を閉じ、腕を組んだまま冷静に言う博之。
しかし、キバはそれを否定してその場にいる全員の顔を見据える。
博之は確かにニコニコ動画を利用しているが、決してニコ厨という訳でもないしアニヲタでもない。
単に配信の一環として利用しているに過ぎないのだ、だから今キバが持っている考えにはまだ辿り着いていないのかもしれない。
だが、キバは違う。廃人的なまで……とは言わないがそれ相応のニコ厨だ。
だからこそ、ようやく全てがわかった。
この場にいる者達の共通点……何故自分達がここにいるのか、全てが。

「関係なくないんですよ博之さん、むしろこの議論の根本に関わります。
 博之さんは知ってますよね? 自分の配信したスロラジがニコ動にアップされてる事、それに外山さんの政見放送がニコ動で人気だった事も」
「……そらまあの」
「そして、俺もまた自分がプレイした改造マリオをニコ動にアップされてます」

外山恒一の政見放送……ニコニコ動画の歴史を支えた動画であり、数多くの派生MADなどを生み出した人気動画。
永井先生タグもまた、未だに根強い人気を誇る動画だ。
そして、キバのプレイする改造マリオ……俗に言う友人マリオもマリオシリーズのプレイ動画の中では随一の人気を持っている。
いや、それだけじゃあない。
そもそも自分が友人として名簿に載っている以上、ニコニコ動画が関係しているのは目に見えて明らかじゃないか。
まだ記憶が曖昧で確かではないが、他の面々の顔だって見た事がある気がする。
特に、レナや圭一達の事をキバは何故か知っていた。
それはつまり、レナ達の動画をニコニコ動画で見たからなのではないか?

「そんな……だって、私はそんな場所知らないよ?
 言ったと思うけど私は昭和五十八年から来てるんだもん。 そんな……えっと、動画サイト……っていうものなんて知らないし、
 仮にあったとしても私達の様子をカメラとかで撮影して皆に見せるなんて出来ないと思う。
 キバさんが感じている、そのニコニコ動画で私を見たっていうのは絶対に勘違いだよ!」
「そうよ、それにその理論には根本的に欠陥があるわ。
 ……私はあなた達が住んでいる、地球とは違う場所で住んでいるもの。
 一度だけ行ってみた事はあるけれどそれだけ……私の世界にいる私の様子を動画投稿サイトなんてものに上げられるはずがないわよ」

そう、キバのその結論にはその"世界"の違いという概念が抜けていた。
レナの言う通り、昭和五十八年の日本には動画投稿サイトというものが存在しない。
存在しない以上、レナ達がそのサイトに関連するはずがない。
それに加え、ティアナの言うように住んでいる次元そのものが違う参加者だっているのだ。
その者達の動画が地球上に存在するはずがないし、それが動画投稿サイトに投稿されている訳がない。

「……そうかな?」

キバの話を否定したレナとティアナの方を向き、こなたが言う。
確かに非現実的な話……過去の存在であるレナや次元そのものが違うティアナの動画があるというのもおかしな話だ。
だが、それを言ってしまえばそのレナとティアナをどのようにしてこの場所に連れ出したのかという疑問も出てくる。
時を超える、次元を超える……後者は、ティアナの世界が持つ技術ならば可能なのかもしれない。
しかし前者に関しては不可能だろう、時を越える手段なんてアニメの世界にしか存在しないはずだ。

「そう、アニメの世界にしか存在しない……ううん、むしろ私達にとってはティアナの持ってる魔法の力も。
 それに、水銀燈やピッピのような存在もアニメの中のものでしかないんだよ」
「……何を言ってるのかしらぁ?」
「つまり……こういう事だよ」

ティアナの持つ魔法の力……これは、明らかにこなたの世界の常識では考えられない事だ。
そのようなものが存在するのはアニメの中だけ……つまりこれは、この場所は。
そして、ティアナ達が住む世界は。

「アニメや漫画の世界……そう考えたら、全部簡単に説明出来ないかな?」

そう、ティアナやレナのいる世界がアニメの世界なのだとしたら説明は簡単だ。
アニメは勿論動画であるからして、それが動画投稿サイトに投稿される事は容易に想像出来る。
確かにそう考えた方が簡単だ、説明がし易い。だが、その理論は同時にティアナがアニメの登場人物である事を意味する。
いや、ティアナだけではない。
こなたの感覚では水銀燈やピッピ……それに、時間を超越したというレナでさえもアニメの中の登場人物という事になってしまう。

「……何を言うかと思えばそんな事? そんな話、推察でも何でもない、ただの妄想じゃない。
 私がアニメの登場人物なのだとしたら、あなた達はどうなるの? 私と今、こうして話しているあなた達はどうなるのよ?」
「確証ならあるよ。 私……知ってたんだ」

そう、こなたは知っていた。
本来なら知りえない事柄、過ちを彼女は知っていたのだ。

「圭ちゃんがかつて犯した過ち……その事を、私は知ってたんだ。
 それに、それだけじゃない。
 ティアナが言ってるなのはさんっていう人の事も……私は知ってる。 曖昧だけど……ね」
「知ってるって……」
「茶色い髪を二つで括ってるでしょ? それと、服装は白で赤いリボンをつけている。
 それで、桃色のビームのようなものを撃つ魔砲少女……違うかな?」

こなたの出した答えにティアナが絶句をする。
その反応はその答えが間違ってはいない事を表していた。

「知ってるんだ、私……。 頭に靄がかかったみたいにはっきりとは思い出せないけれど、確かに知ってる」

自分に言い聞かせるようにこなたは繰り返し呟く。
或いは、キバならば正確にティアナ達にアニメの世界の説明が出来なかったかもしれない。
彼はニコニコ動画を知っていたかもしれないが、全てのアニメを網羅していた訳ではない。
しかし、こなたは自他共に認める"オタク"だった。アニメの事ならば専門分野である。
専門分野であるからして、その筋ではかなりの知名度を誇るそのリリカルでマジカルなアニメに関しての知識は多少なりとあった。
この世界では何一つ役に立たなかったかもしれないそのオタクとしての知識。
その誰よりもアニメを知っているという能力が、閉ざされている真実への扉を開こうとしている。

「信じられない……というか、信じたくないわ。
 私が……私達がアニメの中のキャラクターだなんて」

ティアナの言う事は尤もだ。
誰だって、自分の住む世界がアニメの世界で……自分自身が作られた存在だなどと言われて受け入れられる訳がない。
だが、こなたは確かになのはの外見を言い当てた。しかも正確に、戦闘スタイルと魔力光の色さえも。
ティアナはこなたになのはの事は説明していたが、外見などについては何も話してはいない。
だからこなたがそれを知るには自分の知らない内になのはに接触をしていたか、或いは何か参加者のデータがわかる道具を使わなければ不可能。
しかし、こなたはそのどちらもしていないはずだ。
ティアナの頬に嫌な汗が流れる……そんなはずはない、と言いたい……だが。

「でもぉ、それっておかしくなぁい?
 さっきティアナも言ってたけれど、もし仮にティアナが空想上の存在であったのだとしたら今この場にいる私達はどうなるのよ?
 まさか私達までアニメの中の存在だなんて言わないわよねぇ?」
「それは……えっと……」

思わず口を噤む。それについては考えていなかった。
水銀燈の言うように、ティアナをアニメの中の存在だと言い切ってしまうと自分達までアニメの世界の中の住人という事になってしまう。
空想と現実が交じり合う事などあり得ないのだから。

「それにぃ、それだとそこの鉈女達までアニメのキャラだなんて言ってるようなもんじゃない。
 あんたは要するに、そいつらの今までやってきた事を"作り物"だって言ってるようなもんなのよぉ?
 そこのところ、わかってるのかしらぁ?」
「っ! それは……!」

違う、そんな事を言いたかったのではない。
圭一の覚悟や言葉は確かなものだったし、レナの決意だって作り物なんかじゃない事はわかっている。
彼らの事を知っていた事は確かだが、それを認めてしまっては彼らのやってきた事までも否定してしまう事になってしまう?
……それだけは、駄目だ。許されるような事じゃない。
だが……今こなたが持っているその記憶がただの勘違いや、偶然だとは思えない。

「違う……圭ちゃんやレナやティアナは作り物じゃないよ。
 でも……でも、私は覚えているんだ……だから……」
「ちょ待て」

混乱するこなたにここまで大人しかった博之が静止の声をかける。
一瞬、皆がそちらを見つめるが博之は瞳を閉じたまま微動だにせず口を開いた。

アニメだから、それは作り物……確かに常人ならそう考えてしまうはずだ。
だが、博之は常人であって常人ではない。
奇想天外奇妙奇天烈な発想を持つ愛媛のチンパンジーの実の弟にして自身もたまにズレた事を言う愛すべき三男だ。
そんな博之にとって常人では考えつかない、微妙にズレた議論は十八番でしかない。

「お前らがアニメやないゆうんはわかるし、俺もそう思う。
 やけどこなたがそこまで真剣に言うお前らがアニメのキャラやゆうんもよぉわかる」

そう、双方の主張は間違ってはいないはず。
ならば間違えているのは一体何なのか……決まっている、自分達のその常識だ。

「ティアナ、お前ゆうとったな? 俺らの住む地球はお前らのとこの言い方やと第なんやら管理外世界やて」
「え……ええ。 第九十七管理外世界……時空管理局は、博之さん達の住んでいるその場所をそう名づけていますけど……」
「第九十七、ちゅうことはまだまだあるんやろ?」

詳しい事は末端の兵士であるティアナにもわかりはしないが、まだ管理外世界が多くあるのは事実だ。
少なくとも九十七個……或いは、もっとあるのかもしれない。
管理している世界も含めるとなれば、その数は莫大なものとなるだろう。

「つまりそれだけの数、次元――ってなんかようわからんけど、要するに宇宙みたいなもんが沢山あるんやろ?
 違うんか?」
「そう……ですけど……」
「……何考えてるの博之、それが何か関係するのぉ?」
「知らん、けど話すだけやったらタダや。 無駄話になるかもしれんけど聞け」

次元――つまり宇宙は莫大な数……それこそ、無限に存在するのかもしれない。
ならば、存在するのではないだろうか?
自分達が住んでいるというこの地球によく似た、もう一つの地球が。
そして、博之達が住んでいる場所では平成となっているのに、その世界ではまだ昭和で止まっている地球もまた、存在するのではないだろうか。

「……それ知ってる! パラレルワールドって奴でしょ?」
「呼び方なんざ知らんわ、とりあえず俺が言いたいんはそういう世界があるんちゃうんかって事やが」
「……そのパラレルワールドがあるかもしれないっていう話?
 でも、それがアニメの世界の話とどう繋がる……」
「ええから黙って聞けや」

パラレルワールドがあったとして……その数が無限の数ほどあるとする。
だとすれば……アニメの世界、そっくりそのままのものがあるという宇宙も存在するのではないか?
その世界が存在する可能性は、億分の、兆分の、或いはもっと……数え切れないほどの中の一つかもしれない。
だが、だとして……無いと言い切る事が出来るのだろうか?

「何万、何億、何兆の数の宇宙があったら……一個くらいアニメと全く同じ世界ある。
 そう考えたら、お前らが言うお互いの意見に食い違いは出てこんやろ」

確かに、もしそうなのだとしたらレナ達のいる世界が嘘偽りではないという事になり。
また、こなたが持っているその知識も間違っているものではないという事になる。
お互いの意見に食い違いが出ない……それは確かだ。だが……。

「でもさ、それだけ多くの宇宙の中から都合よくアニメと同じ世界の人が集められたりするのかなぁ?」

博之のその理論に、疑念を挟む妹。
もし仮に存在していたとしても妹の言う通り、偶々知っているアニメの世界から知っている人物が来る可能性は限りなく低いだろう。
だが、それは何の目的も持っていなかったとしたらの話だ。
都合よく見知った世界の者達を集める事が出来るという確証もまた、先の議論では出てきている。
そのアニメのキャラクター達が一同に会するという場――ニコニコ動画という動画サイトの存在が。

「そうだ、アニメの世界がたまたま都合よく繋がったんじゃない。
 その"アニメ"を……ニコニコ動画をよく知る連中が、意図的に俺達を繋げたんだ。
 何万、何億という数の宇宙から俺達を探し出し、殺し合いをさせる為にな」

主催者達は、ニコニコ動画の存在を知ってその登場人物である者達を時空の隅々から集めた。
勿論、その労力は並大抵のものではないだろう。
無限の数ほどもある次元の中からアニメの登場人物と酷似する人物を探し出すなど、まさしく人間業ではない。
しかし、それでも主催者達はニコニコ動画の人気者達を集めたのだ。

「……確かに、そう考えると全てが説明出来る。
 キバさんやこなたちゃんの持ってる私達に関するデジャヴの理由にだって、見当がつく」

キバ達の感じているデジャヴ……それは自分達が知りうる知識を首輪によって制限されている為なのだろう。
何故制限をされているのか? 答えは決まっている、参加者の詳細な情報を知らせない為だ。
もしキバの言う通り、この場にいる参加者の全員がニコニコ動画で見れる者達なのだとしたらキバはそれらの人物のことを少なからず知っている事になる。
つまり参加者全体の情報だ。それはどんな武器、道具などよりこの場では大きなアドバンテージとなる。
加えて、キバの知識を制限していなければキバはこの場に集められている者達がニコニコ動画の登場人物だとすぐに気付いただろう。
逆を言えば、制限しているという事はキバにそれを感づかせたくなかったという事になる。
感づかせたくなかったという事は、それは主催者達にとって不利になるものだという事だ。
不利になる? 何故? 決まっている……集められた参加者の共通点を見つけられ、主催者達の目的を……そして、主催者達の正体を知られたくないからだ。

「そうだよ……あいつらは目的を、正体を知られたくなかったんだ」
「正体?」

妹の言葉に頷き、レナは考え込む。
目的に関してはまだわからない……そこまでの労力を使ってどうして集めたのか、何故殺し合いをさせるのかは見当がつかない。
だが、正体に関してはある程度わかる。
……あの主催者達がキバの言うニコニコ動画を知っているというのは、まず間違いないだろう。
あの人物がニコニコ動画の無い世界――レナやティアナの世界の住人とは考えがたい。
ならばどういう事か……。

「あいつらは、キバさん達のいる世界から来たんだよ」
「なっ!? ちょ、ちょっと待てレナ! そいつはおかしいぞ。
 俺達のいる世界じゃ次元だ宇宙だなんてものは移動出来たりしない、皆を集める事は不可能なんだって。
 だから、多分ニコニコ動画があって次元があるどこかの世界から――」
「ううん、それじゃあ矛盾しちゃうんだよ」

次元が無限に存在するのだとすれば、確かにニコニコ動画というものが存在しつつ次元を超える技術を持つ世界も存在するのかもしれない。
だが、それでは矛盾が生じてしまう。 キバがニコニコ動画を知っているという矛盾が。

「ニコニコ動画が無限に存在するとして、それが存在する世界の一つが主催者達の住む世界だとする。
 そして、そのニコニコ動画を見た者がこの殺戮の場を設けたとして――どうしてキバさんがニコニコ動画を知っているの?」
「? いや、そりゃ俺の世界にもニコニコ動画が存在するからで……」
「いいえ、それはおかしいんです。 それならキバさんは次元を超える技術を知らないといけない事になる」
「……ちょっと待て、頭がこんがらがってきた。 どういう事だよ?」

つまり、こういう事だ。
この場を設けた主催者達のいる世界には"ニコニコ動画"と"次元を超える技術"の二つが存在するとした場合、
その主催者達はその世界にあるニコニコ動画を元に参加者を集めたはずだ。ならば、キバが次元を超える技術を知らなくてはおかしい事になる。
キバはレナやティアナのようにアニメのキャラクターとして動画を公開しているのではなく、ゲームのプレイ動画を公開しているのだからその世界にいなければおかしいのだ。
だが、キバは次元を超える手段など全く知らなかった。

「キバさんがニコニコ動画を知っているように、或いは私達がそのニコニコ動画を知っている世界もあるのかもしれない。
 でも、ニコニコ動画を知っているのはキバさんと博之さんだけ。 なら、何故キバさん達だけが知っているの?」

そんなもの決まっている……キバの世界を基準として、参加者が集められたからだ。

「そうでなければ説明がつかないんだよ、キバさんがニコニコ動画を知っているという事に。
 もしキバさんも私達と同じようにアニメとして存在する世界の住人なのだとしたら、ニコニコ動画を知るはずがない。
 主催者達と同じ観点から私達を知ってるって事は主催者達と同じ世界にいなければ出来ないことなんだから」

それはそうだ。そうでなければ説明がつかない。
何故ならば、もし仮に"ニコニコ動画"と"次元を超える技術"が存在する世界の住人が後者だけ知らない世界のキバを集めたとして。
それは存在する世界の住人にとっての"ニコニコ動画"ではないのだから。

「んなバカな……! それじゃあ、どうやって皆を集めたってんだ!?」
「そうやの……俺らの世界じゃ月やそこらへ行くくらいが精一杯やゆうにの」

レナの説明には筋が通ってるように思える、確かに主催者がキバ達の世界の住人である可能性は限りなく高くなった。
だが、それならばどうやって次元を超える事が出来たのか。
それについての説明がつかない。
悩むキバと博之を尻目に、レナは冷静に理論を展開してゆく。
本当に説明がつかないのだろうか? キバの世界に次元を超える技術が無い?
いや、そうではないはずだ。 レナの理論は合っているはずだ。
ならば、間違っているのはキバ達の認識の方。
次元を超える事の出来る技術が存在しないという認識が間違っているはずだ。
ただそれをキバ達が知らないだけ。
つまり……。

「全ては宇宙人の仕業だったって事なんだよ!!」
『「「「「「「な、なんだってー!?」」」」」」』

大声を張り上げ、主張するレナの言葉に一同が驚く。
次元が超える事の出来るものなのだとしたならば、キバ達の世界にもその次元を超えてやってきた者が存在しても不思議ではない。
その者がキバ達の世界でニコニコ動画を視聴し、その力を使って集めたとしたならば?
十分に説明がつく話なのではないだろうか?



sm140:スネークイーター作戦 時系列順 sm141:SECRET AMBITION(後編)
sm140:スネークイーター作戦 投下順 sm141:SECRET AMBITION(後編)
sm132:黒い花の向こうへとたどり着けるなら 永井博之 sm141:SECRET AMBITION(後編)
sm132:黒い花の向こうへとたどり着けるなら 竜宮レナ sm141:SECRET AMBITION(後編)
sm132:黒い花の向こうへとたどり着けるなら 友人 sm141:SECRET AMBITION(後編)
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sm132:黒い花の向こうへとたどり着けるなら 水銀燈 sm141:SECRET AMBITION(後編)



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