※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

D-2ブリッヂの死々闘(前編) ◆0RbUzIT0To





◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

橋の下、一人の男と一体のロボットは静かにその作業に没頭していた。
放送が聞こえた、突如出現した新たな参加者の情報も得た。
だが、そんな事は今の二人にとってさして重要なものではなかった。
禁止エリアは今自分達がいる場所とは遠く離れた場所、新たな参加者というのもたった一人だ。
それよりも二人に多大なショックを与えたのは、先ほどの放送までにたった五人しか死亡していないというものだ。

「……やはり、雑魚どもが徒党を組み無駄な足掻きをしているようだな」

ロックマンの残骸を使いエアーマンのボディの修復作業をしながら、TASがぽつりと漏らす。
その言葉にエアーマンは頷くかのように体を動かし、しかし何も言わずにされるがままにしていた。
エアーマンにしてみれば、その五人の中にロックマンの名が入っていただけでも自身の誇りは保てたのだ。
勿論、五人しか死亡していないというショックは大きいがそれよりも主人の憎き宿敵にしてこのゲーム最大級の強者を倒せた事が嬉しい。

「ロックマンを倒した以上、残った者の中に脅威となりそうなものはいない。
 我らがしばらく手を組めば、そう遠くない未来に雑魚は淘汰出来るだろう」
「そう遠くない未来か……それでは、遅すぎる」

最後の部品を交換し終え、TASはため息をついた。
最速クリアを目指すからには、そう遠くない未来ではなく限りなく近い未来にそうならなければならない。

「それよりどうだ、調子は?」
「……問題無い。 完璧ではないが部品も道具もろくに無いこの状況では上出来と言っていいだろう」

立ち上がり、修復されたボディのチェックを開始するエアーマンを見やる。
TASはその自立稼動するロボットの性格を、紳士的な男だと認識していた。
残忍性もあるし、人を殺す覚悟も十分にある。
だが、その本質は殺戮者というよりも決闘者と呼ぶに相応しい。
一対一の争いなどではその力を発揮出来はするだろうものの、このゲームにおいては勝ち残るのは難しいと思っていた。
しかし、その彼も要は使いようである。
強大な力を持っているというのなら利用すればいい、流石のTASも一人だけで残り30人近くを相手するのは手間隙が掛かる。

「言っていた城での行動……お前に任せていいな?」
「……無論だ、城の連中は俺の正体には気付いていないはず。
 ならば俺が行くのは道理というものだ」

その言葉に頷きつつ、TASも立ち上がった。
城には今、少なくとも二人の人物――いや、あの場を守ろうとしていた二人の行動から考えて、二人以上の人間がいる可能性が高い。
もしエアーマンの計画が成功し、その全てを死に至らしめる事が出来たならばこのゲームの最速クリアに一層近づく。

「俺は邪魔が入らんようにこの橋を通らんとする者を抹殺する。
 お前は気兼ねなく暴れまわって来い」
「ふ……言われずとも、そのつもりだ」

その言葉を残し、城の方へと歩き行くエアーマンを見送る。
踵を返し、今一度橋の下でこのゲームの参加者を待とうと戻ったその時。
自分がずっと待機していた橋の下の定位置に、一人の少女が立っているのが目に映った。
少女は不敵に笑いながらこちらを見ている。そして、その後ろには自分が監視を命じた二体の『仲間』の姿。

だからこそ、TASはその少女の正体にすぐさま気付いた。
にやつく自身の表情を抑えようとしないまま、TASは言った。

「何用だ?」

少女も、更に笑みを増しながら返す。

「あなたに益がある話を持ってきたわ」

【D-2 平原/二日目・深夜】
【エアーマン@ロックマンシリーズ】
[状態]:疲労困憊、全身ボロボロ(ほぼ修復)
[装備]:サテライト30@真赤な誓い
[道具]:支給品一式*2(水一本消費)、ねこ鍋@ねこ鍋 、テニスボール、XBOX360、ピーピーマックス
[思考・状況]
1.テニスボールを利用して城組を混乱させる。失敗したらケラモンと協力して皆殺しにする
2.他の獲物を捜しながら、元の世界にはなかったデータを集める
3.ロール。そして俺の邪魔をした者たちは必ず倒す
4.しばらくはTASと同盟を組み、協力する。ムスカは生きていれば協力してもいい。
5.優勝して元の世界に帰り、ワイリー様の世界制服計画を再開する
6.春香の支給品。特に核鉄が欲しい。
【備考】:首輪の代わりに動力源に爆弾が埋め込まれていることに気付きました
※:ロックマンの残骸はボディ修復の為に全て使いました。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

ハルヒ達の後を追っていた妹達は、いつまで経っても追いつけないままついに橋の近くまで来てしまった。
二人はひとまずその手前で立ち止まり、ハルヒの行方を探す。

「どっちに行ったんだろ!?」
「さて……橋を渡っちまったのか、それとも川沿いにどっちかに向かってるか……」

妹はまだ小学生であるのだから、高校生であるハルヒに引き離されてしまうのは致し方ない。
しかし、それでもここに来るまでは背中が見えていたというのに、忽然と姿を消されたのである。
運の悪い事に、妹とキバはここに来てハルヒの姿を見失ってしまったのだ。
もう少し足が速ければ……と落ち込む妹を慰めながら、キバは辺りを見回す。
月の明かりがあるとはいえ、流石に遠くまでは見渡せずハルヒの姿は見当たらない。

「どうしたもんかな……ハルヒも、そこまで遠くには行ってないとは思うけど」
「……ハルにゃん、やっぱり怒ったのかな。
 レナちゃんがあんな事言ったから……怒っちゃったのかな」
「まぁ……そりゃ、怒ったろうな。 あいつは必死に言ってたみたいだし、それを否定されちまったんだから。
 ったく、レナもなんだってあんな事言ったんだか……」

眉間に皺を寄せてキバは呆れたような口調でそう呟く。
レナが考え無しにただ漠然とあの場でハルヒを信じないと言い切ったとは考え難いが、それでもこれはまずいとキバは心を痛める。

「……なぁ妹ちゃん、レナの事、許してやれないか?
 あいつにもあいつの考えがあってあんな事言ったんだろうさ……そりゃ、兄貴の友達をあんな風に言われて怒る気持ちもあるかもしれないけど」
「私は平気……レナちゃんが言った言葉も何か考えがあっての事だっていうのはわかる。
 それを疑ったりしない、だって疑心暗鬼になったりしないって……誓ったから」

でも……と妹は言葉を続ける。
問題はハルヒだ……ハルヒはまだ仲間になったばかりで、レナの性格を知らない。塔での誓いも知らない。
レナの言葉の裏に何かが潜んでいるなんて考えもつかない。

「私はそれが心配なの……ハルにゃんがレナちゃんの事を完全に見限っちゃわないか」
「……大丈夫さ、説明すればきっとハルヒだってわかってくれる。
 レナはきっとハルヒを本当に疑ってない、だけどああ言わざるを得ない理由があったんだ。
 それをちゃんと説明すれば……」

優しく諭すように頭を撫でるキバに、妹ははにかむような笑顔で応える。
二人は……少なくとも、今はハルヒの言った言葉を信じていた。
そして、レナの言葉の裏に何かがあるのだという事も信じていた。
レナはハルヒの事を本当は信頼していて……しかし、何かの考えがあってああいった心無い事を言ったのだと、そう思っていた。

「おぅ~い、キバく~ん、妹ちゃ~ん」

後ろから間延びした声が聞こえ、キバと妹は瞬時に振り向いた。
その声は探し人のそれと余りに似すぎていたから。
だが、その希望は近づけども近づけども一向に大きくならないその影の様子から簡単に打ち砕かれた。
よく考えればその声質は相似しているものの、声色は似ても似つかない。

「こなた、お前も追ってきたのかよ」

キバは若干苦笑気味に言葉を追ってきたこなたに向けて呟く。
こなたは肩で息をしながら、抱えていたピッピを地面へと下ろししばらく息切れの回復に努めていた。
全力疾走をした直後に、返答する余裕なんてあるはずがない。
別に無理に喋らせるつもりも無いらしくキバはピッピへと視線を向けた。
ピッピはしきりに後ろを振り返り誰かが来るのを待っているようだ。

「……レナ達は?」
「うん……まだ来ないかな。 もちょっとしたら来ると思うけど」

ようやく普通の呼吸が出来るようになったらしいこなたに問いかけると、こなたも同じように後ろを振り向いた。
暗闇の向こう側から誰かが走り来る様子は見られない。
だが、それでも彼らはレナ達が必ず追ってくると信じていた。
先ほどのいざこざで崩れるほど、彼らが結んだ契りは軽いものではない。

「それはまぁさて置いて。 ハルヒはまだ見つかってないの?」
「この橋の方まで走ってきたのは確かなんだが……見失っちまった。
 どっちの方向に行ったのか皆目見当がつかないんだ」

こなたの言葉を受けてキバは橋の向こう側と川岸の両方向へと指を向ける。

「いつまでもここで立ち止まってても解決しないし、こうなりゃ適当な方面を捜索するか?」
「うーん、確かにそうだねぇ……それじゃとりあえず橋でも渡っとく?」
「なんで橋?」
「そこに橋があるからさ!」

無い胸を精一杯張ってこなたが主張する。
理屈はよくわからないが、ハルヒがどこに向かったのかわからない以上向かう先はどこでも構わない。
キバを先頭に、ピッピを再び抱えたこなたと妹が続けて橋の上を渡っていく。
橋の下は中々の大きさを持つ川が流れており、水が流れる音を四人は無言のまま聞き歩いていた。

ふと、先頭を歩くキバは橋の上に人影があるのを見つけた。
辺りは暗がりの上、遠くの場所にいる為にそれが誰なのかはわからない。
ただ、その背格好から見てハルヒでない事だけはわかった。
キバは何故か、自分の体が震えている事に気付いた。
――接触を図ってはいけない、その者に話しかけてはいけない。
頭でもなく、心でもなく、体がそうキバに告げていた。
その橋に立つ者から放たれている目には見えない気配が、知らずの内にキバを恐怖に陥れていた。

「……キバくん?」

突然立ち止まったキバを怪しむように妹が声をかける。
妹も行く先にいる人影に気付いてはいるようだが、その人影の気配までは気付いていないようだ。
キバは妹の手を取り……一歩、後ろへ下がろうとした。
逃げるつもりだった、妹を連れて……こなた達と一緒に一目散に逃げ出すつもりだった。
ハルヒは心配だが、それよりも目の前の恐怖が勝っていた。

「……逃げられるつもりか?」

氷のように冷たい声が聞こえた。
その瞬間、キバは金縛りにでもあったかのように動けなくなった。
妹もその声にようやく目の前の人物が只者ではないとわかったようで、咄嗟にキバの影に隠れた。
ただ、その中で一人悠然と二人の前に立った者がいた。

目の前に仇がいる。大事な仲間を屠った仇がいる。
見間違えるか、聞き間違えるか――! その姿、その声!
幾ら暗がりだからってそれくらいわかる!

「――TAS!!」
「……いつかの女か、まだ生きていたとはな」

こなたはピッピを下ろし、声が張り裂けんばかりに叫んだ。
ピッピもまた、叫びこそしなかったものの普段は愛くるしい顔に怒りの表情を浮かべて目の前の人物を睨む。
しかし、その男はただ静かにこなた達を一瞥し、苦笑交じりに呟いただけだった。
その馬鹿にした態度に、こなたは更に怒りを募らせる。

「ここで会ったが百年目って奴だよ!」
「それはこちらの台詞だ、貴様らのように最速クリアを否定する者は一人たりとも生かしてはおかん」

そう言い張ると、TASは靴音を響かせて徐々に近づいてくる。
咄嗟にこなたとピッピは構えを取り、キバも慌ててロールバスターの照準をTASに合わせた。
怖いだなんて、言ってられる状況じゃない……キバの後ろには、妹がいる。
彼女を守らなければならないと誓ったばかりだというのに、怖がってただ震えている訳にはいかない。
……キバにはわかっていた、TASのスピードが――だからこそ、もう逃げる素振りは見せなかった。
震える体に渇を入れ、思うように動かない口を動かしてどうにか目の前にいる男に言葉を投げかける。

「お、お前……やっぱり、乗っちまってるの、か?」

何を今更……と言った様子でTASはキバを見る。
先ごろ会った時にはいなかった青年だ、銃口をこちらに向けてはいるもののその先端は震えている。
自分に恐怖をしているのだろうが……とすると、青年は自分を知っているのだろうか。
自分の力を青い髪の女から聞いただけではここまで恐怖する事はあるまい。

「貴様……一体、誰だ? 俺を知っているのか?」

言葉を受け、キバは一瞬体を硬くした……が、すぐに口を開く。

「あ、ああ、知っているさ、よく知ってる……俺はキバ――友人マリオのキバだ」
「友、人……?」

それはTASも聞いた覚えのある言葉だった。
一体なんだったか、思い出すようにTASは瞳を閉じて考え込んだ。
勿論、その際にも隙は一切見せない――瞳を閉じていようと周囲に気を配る。
友人……友人マリオ……そんなマリオのシリーズがあっただろうか?
初代FC時代から数多くのマリオシリーズをやったが、そのようなタイトルのゲームはとんと記憶にない。
しかし、妙に気にかかる……そこでTASは考え方を変えた。
ゲームは何も正規に作られたものばかりとは限らない、世には多くの改造ROMというものがある。
もしかしたら、彼の言う友人マリオというものもその中の一つなのではと考え――思い出した。

「なるほど……あの容易く温い改造ROMのプレイヤーか」
「ッ! 容易く……?」
「あれほど短いステージばかりのものも珍しいからな、俺としても中々満足のいくタイムでクリアが出来た」

含み笑いを浮かべたまま近づくTASに、キバは狼狽しながら先ほど放たれた言葉を理解しようと努める。
TASは言った、友人マリオが容易い改造ROMだと。
キバはTASの実力を知っている、彼が最高のゲームプレイヤーだという事も知っている。
だが、それでもそれは嘘だと思った……いや、思いたかった。
自分が苦労し、何度も死に、クリア出来ずに涙したその改造ROMを簡単だと言ったTASを否定したかった。

「そんな訳ねーだろ!? お前だって苦労したはずだ、あの鬼畜改造マリオに!
 あんなの簡単にクリア出来る訳が――!!」

そう言い、即座にメタルブレードを射出しようとした瞬間。

目の前にTASがいた。

回避する暇など無い、キバは無防備な姿のまま拳を腹に受けて吹き飛ばされ、後ろに立っていた妹もそれに巻き込まれる。
背後に殺気――と感じた瞬間、TASは振り向いてこなたの突き出していた拳を腕の部分を掴んで塞いだ。
拳と拳をかち合わせては危険だと、瞬時に判断したのである。
腕を掴まれてもがくこなたの背後からピッピが躍り出る。
指を振りながらTASを睨みつけているが特に何をするでもなく、ただそれだけのようだ。
こなたを突き飛ばしてピッピもろとも吹き飛ばし、その場から飛び去り吹き飛ばされたキバの方へと即座に脚を向ける。
しかし、その行く道を醜悪な姿の丸い昆虫が阻んだ。
その昆虫――ゴキボールは飛び跳ねながらTASへと向かっているがTASは一跳びするだけでゴキボールの遥か上空を行き、それを踏みつける。
TASにとってただ飛び跳ねるだけの存在など障害物ではなく踏み台だ。

ゴキボールはその瞬間消えうせ、TASは下降する。
その間にもキバと共に吹き飛ばされた妹はカードを手に取り、使えるカードは無いかと思案する。
だが、間に合わない――TASの速さの前ではその行動の速さなど加速テッカニンの前のロリーパーの如し。
TASの足があと数秒で妹へと直撃する――その刹那、こなたの繰り出したコロネがTASの横っ腹目掛けて思い切り体当たりした。

「むっ!?」

咄嗟の事態にややうろたえるものの、TASはその体当たりを受けながらコロネを叩き落とし自身も体勢を立て直して着地する。
背後を見ればまだ諦めていない様子のこなたとピッピが走り近寄ってきている。
叩き落としたコロネもふらふらと飛び回り、主人の指示を待っている。
軽く舌打ちをしながらTASは再度目の前の倒れている男達に目を向けた。

「キバくん! キバくん!!」

妹は倒れたキバを必死に起こそうと揺するが、キバは一向に起きる様子は無い。
当然だ、とTASは笑みを浮かべる。
TASの拳をまともに受けて気絶しない方がおかしい、正常な一般人なら昏倒してもおかしくない。
倒れこんだ男は放って置き、まずは目の前の少女から抹殺する。
即急、即座、即時、即効でそう決め、TASはその拳を少女の方へと伸ばした。
妹はそれに気づく……が、気づくだけで反応は出来ない。
目の前の男は自分を殺そうとしている、しかもそれからは決して逃げる事が出来ない。
それがわかった瞬間、妹はただ叫んだ。
恐怖に駆られ、絶望に駆られ、何を望むでもなく悲鳴を上げた。
今からではこなたもピッピもコロネも間に合わない。
まずは一人――慢心でもなんでもなく、ただ事実だけを確信したTASは拳を妹へと差し向け。

その拳の前に回転刃が突如出現した。

「ッ!?」

TASは咄嗟に拳を引き戻して傷を負うのを避ける。
だが、回転刃はまだTAS目掛けて迫っているこのままでは拳だけではなく全身を切り刻まれる。
そう判断し、TASはおもむろに飛び上がり回転しながらその刃をやり過ごした。
城ステージなどで出現する回転鋸を日夜乗り物代わりにしているTASにとってこの程度は造作もない事だ。

再び地面に着地し、TASはその回転刃を放ったと思しき人物を見る。
その人物はよろよろと立ち上がりながらも、銃口を確実にこちらに向けていた。
TASはその目を疑う、何故ならその男はつい先ほど自分が気絶させたばかりのはずなのだ。
だとしたら気絶などしていなかったというのか? ただの一般人ではなく、超人の部類に入る者なのか?
思わず口を開き、疑問をぶつける。

「貴様……! 気絶したフリをしていたか!?」
「いや、気絶してたさ……さっき起きた」

怒気を含んだTASの言葉に、その起き上がった人物――キバは血に濡れた唇を拭いながら答えた。
馬鹿な、と今度は耳を疑う。
気絶をしていたのならこんなに早く復活を果たすはずがない……それに、そもそも立てるはずがない。
ならばこの中で一番危険な人物はキバかもしれない、とTASは心の奥底で思う。
自分の拳を受けて立ち上がれる人物などそうそういない。

「キバと言ったな……少なくともあのKASとかいう奴と同程度にはやるらしい。
 いいだろう、次は一撃で屠ってやる」
「!? お前、KASとも会ったのか?」
「ああ、やたらとやかましい男だったな……次に会う時は必ず奴もこの手で殺してやろう」
「そいつは無理だぜ、TAS」
「……ほう、何故だ?」

ロールバスターを構え、メタルブレードを射出しながらキバは叫ぶ。

「お前はここで、俺達に倒されるからさ!」

「よくある台詞だ……このゲームの主役にでもなったつもりか?
 だが残念だがお前は主役ではない、主役はこのTASだ……このゲームのエンディング画面を見るのはこの俺だ!」

射出されたメタルブレードを見ながらTASは叫び、飛び上がる。
メタルブレードは三つ、その全てをスピンジャンプで乗り継いで着地する。
キバはその隙にチップを外して今度はロールバスターを三連射した。
だが、これも軽々とTASに回避される。
舌打ちをしながらキバは更にロールバスターを連射するが全て回避された――一発も当たらない。

「遅いな……欠伸が出るほどだ」

にやりと笑みを浮かべながらキバへと接近するTAS。
と、背後から何かが接近しているのに気づき振り向いた。
そこには再び指を振っているピッピと、そこから生まれ自分目掛けてかなりのスピードで接近してくる星型の物体の群れ。
しかし、とTASは再び回避行動を取ろうとする。
かなりのスピードではあるものの、自分を当てようとするにはまだ速さが足りない。
そう思い、足を動かしてその星の射線上から離れようとした瞬間。
星が速度を増し、TASの全身に降り注いだ。

「がっ……!?」

一瞬、TASは何が起きたのか理解が出来なかった。
その速さに驚いた訳ではない、何故急に加速をしたのかに驚いた訳でもない。
自分の体に受けたそのダメージが、予想外に大きかったのだ。
拙い、とTASは反射的に一歩後ろへと下がる。
しかし、まだ残っている――敵はピッピとキバだけではない。

「まだ終わっちゃいないんだよぉ~!」

その少女は大きく振りかぶり、その拳を力いっぱいTAS目掛けて振り下ろした。

「コナタノキワミ、アッー!!」

その拳をまともに受ける訳にはいかなかった、だからこそ、TASは腕を伸ばす。

「ファアアアアアアアアアアイ!」
「うあああああああっ……はぁん」

よくわからない叫び声を上げて突き出した腕は、こなたの腕よりも長い。
リーチの差を生かし、TASはどうにかその一撃を阻止した。
TASの拳を受けたこなたは盛大に吹き飛び、これまたよくわからない呻き声を上げて倒れこむ。

「ピッ!?」

一瞬、ピッピはそちらの方に気を取られた……故に、TASの速攻に気づくわけがない。
TASは速さを重視し己の体勢も整わぬままその足でピッピを大きく蹴り飛ばす。
ピッピはこなたと同様、同じ場所に吹き飛び倒れこむ。

「俺はTASだ……TASに奇策や奇襲が通じようと、それはあくまで奇だ……冷静に対処すれば問題は何も無い」

痛む全身を叱咤しながら、TASはそう呟く。
その間にも浴びせられるロールバスターの雨を回避しながら、TASは少しずつこなた達に近づいていく。
こなた達は、それでもどうにか起きて戦おうと必死にもがいていた。
TASの攻撃は完全ではなかった、無理な体勢から攻撃をした為に彼女達の意識までは奪えなかった。
だが、それでもまともに立てないレベルにダメージを与えるには十分だった。

「これで終わりだ……一人と一匹!」

その腕を伸ばし、よろよろと立ち上がろうとしていたこなた達に向けてとどめを刺そうとした瞬間。

無数にも思える拳の雨が、TASの体を襲った。

TASはその拳の雨を感知していた、感知していたからこそその拳を止めようと再び腕を引き戻しそちらへと動かした。
だが……雨の全てを掌一つで受け止めきれる訳が無い。
その雨のほぼ全てを体に受け、TASは吹き飛ぶ。
吹き飛ばされながら、TASはその雨の正体を見た。
少女だ――まだ若い、恐らくは中学生くらいだろうか弱い少女が拳を構えてこちらを睨みつけている。
思わず、嘘だッ!と叫びたくなった。
ただの少女に吹き飛ばされるなど、恥辱の極みだと泣き叫びたくなった。

しかし、それでもTASは叫ばなかった……その少女の瞳にかつてどこかで見た事のあるようなナニカを見つけたからだ。
それはいつの日か、TASは決して自分達には勝てないと豪語した少年のものだったか。
その少年の瞳の色は赤だったし、少女の瞳の色は青だ。
似ても似つかない瞳の色だ……が、何か同じものを感じる。
それが何かまでは、今のTASにはわからないが。

「こなちゃん、ピッピちゃん、大丈夫!?」
「おぉ~、レナちゃん遅いよぉ~……いくら真打登場が遅い方が燃えるって言っても、ちょとやりすぎ。
 でもまぁ、ギリギリの所でヒロインを助けるのはお約束だから仕方ないかなぁ~」

よろよろとしながら軽口を叩くこなたを見て、レナは少しだけ安堵する。
足元のピッピも、どうやらそれ程大きな怪我は負っていないようで既に起き上がっている。
後ろを振り向くと、レナの遅れた到着に怒る様子など微塵にも見せず、むしろ来てくれた事を喜んでいる風な顔をしたキバと妹と目が合った。

「博之さんと水銀燈は?」
「遅れて来るはず……多分、ずっと後だと思うけどね」
「それってまずいんじゃない? 水銀燈はともかく、博之さんがここに来たら……」
「ううん、むしろそっちの方が守りやすい……離れ離れになった方が危険だよ」

こなた達の疑問に答えながら、レナは目の前の男を見ていた。
男は立ち上がっている――己の全力の拳を受けても、起き上がっている。
ほぼ全てとはいえ、一部防がれたものは防がれたのだ。
その分、まともには入らず完全に倒すには至らなかったのだろう。

レナが、こなたが、コロネが、ピッピが、キバが、妹さえもが身構えていた。
レナとこなたは空手となり、肉弾戦ならば任せておけとばかりにTASを睨みつける。
コロネとピッピはその後ろに位置し、コロネはこなたの指示を……ピッピは指を振るタイミングを見計らっていた。
キバはなおもロールバスターを構え、妹もカードを手に取りいつでも召還が出来るよう待機する。

TASが動いた――即座にレナとこなたが二人がかりで飛び掛り、その必殺の技を見舞う。
レナの無数の拳が左方より、こなたの二重の拳が右方よりTASに襲い掛かる。
だが、TASは慌てなかった。彼はあくまでも冷静になるよう努めていた。
最速クリアに必要なのは圧倒的な力ではない、冷静な思考回路と客観的に物事を見る事が出来る洞察力だ。
常に最速ルートを見つけ出す為にはその二つが何よりも不可欠。
故にTASは冷静になり――その二つの力の回避ルートを即座に見つけた。

右腕を使い、レナの拳を受け止める。
確かにレナの拳を繰り出す速度は速い、それは驚異的だ。
しかし、それでもTASの目には辛うじてだがその全てが見えていた。
無数の拳といっても、元はただの一本の腕。
その威力が高い所以はただ、その一本一本の腕を乱打する事によってのみ生まれ出ている。
ならば一本の腕に込められた力は大した事が無い、比較的楽に己の掌一つで受け止める事が出来る。

左腕を使い、こなたの拳を受け流す。
確かにこなたの拳が持つ破壊力は高い、それは圧倒的だ。
しかし、それでもTASの目にはそれがまるでスローモーションかのように見えていた。
破壊力を持っていようと、当たらなければ意味が無い。
TASはその拳を横からの力を加え、受け流す事に成功した。

「貴様らの温さには心底呆れさせられる……その程度の力の持ち主が徒党を組もうが、俺は負けはせん」

己の全力の拳が――しかも、二人がかりで挑んだというのに、あまりにも簡単に受け流され、受け止められて二人は狼狽する。
TASはその隙を逃さず、二人を叩き伏せた。
だが、こなたはなおも戦い続けようと後ろに待機していた己の使途する相棒に指示を出す。

「っ、コロネッ! たいあたり!!」

その言葉を待ってましたとばかりに、コロネはTAS目掛けて猛スピードで体当たりを敢行する。
しかし、その程度のスピードではTASを捕らえる事が出来ない。呆気なくTASはそれを叩き落すが、まだ後ろにはピッピがいる。
指を振りながら突撃してきたピッピは、そのまま捨て身のタックルを放つ。だが、逆に返り討ちに合いピッピもまたレナやこなた達と同様に倒れ伏す。
こなたは慌ててコロネをモンスターボールへと戻し、レナは再び拳をTASへと向ける。
拳を往なしながら、TASは半歩後ろへと引いた。
その瞬間、それまでTASがいた場所をロールバスターの弾丸が通り過ぎてゆく。
背後から迫っていた、妹の呼び出したコカローチナイトを鉄拳一つで粉砕し、飛び上がる。

TASは矢張り、圧倒的だった。四人と二匹の一斉攻撃を受けてなお、息一つ切らさずに立っている。

しかし、とピッピは痛む体を無理やり起こして上空にいるTASを見た。一度戦った経験則上、TASの能力は相応に把握している。
彼はスピードは速い、その速さは自分の知っているどのポケモンよりも速いだろう。
だが、そんなTASにも弱点はある……それは単純に、防御力の低さだ。
あの時、ピカチュウが犠牲となったあの戦いで放った破壊光線は、TASを吹き飛ばしていた。
ダメージだって相当なものを与えたはずだ。

「ピッ……!」

今日はいつにも増して調子がいいとピッピは思っていた。
最初に出た技はにらみつける――これでTASの防御力を低下させる事が出来た。
次に出た技はスピードスター――必ず当たるその技のお陰で、TASに付け入る隙を作る事が出来た。
最後に出た技は捨て身タックル――外れこそしたものの、当たっていれば大ダメージを与えられたに違いない。
だから今度もまた、何かしら意味のある技を出せるとピッピは強く自分を信じた。
ヲタチとも約束をした、ピカチュウのように勇気を持つと決めた。

「ピッピッピ!」

レナとこなたの倒れる横で、ピッピは本日四度目のゆびをふるを使った。
何が起こるかわからないランダムな選択の中から、強力な攻撃技が出ると信じて指を振るった。
その直後、ピッピとこなたとレナは眩い光に包まれ――。

消えた。

「何!?」

上空に位置していたTASはその様子を見て焦った。
それが何かの攻撃手段かと思ったのだ。
だが、その認識をすぐさま改める。
キバや妹も口を開けてピッピ達が居たはずの場所を見ているのだ。
これは攻撃手段ではない、恐らくは何かの技に失敗して消えうせたのだろう。
でなければ、キバや妹がその様子を見てうろたえている事に説明がつかない。
そう確信をするとTASは不敵な笑みを浮かべてキバ達を睨みつける。

「逃がしたのは痛いが、これでより確実に貴様らを殺せるというもの!」

不可思議なカードを使う幼い少女と豆鉄砲を飛ばすだけの男。
たった二人ならそれほど時間をかけずとも、容易に始末する事が出来る。
そう判断するとTASはキバの方目掛けて急降下をする。

「妹ちゃん下がって! それと、あの盾のカード!」
「う、うん!」

妹がその名を叫ぶと同時に、手の中にあるカードが光を放ち再びコカローチナイトがTASの行く手を阻む。
だが、矢張りTASはそれを一撃で屠った。
たかだか攻撃力800程度のモンスターではTASの相手になるはずがない。
続けて、キバがロールバスターを乱射するもののTASは空中で巧みに体を動かして回避する。
キバは咄嗟にロールバスターを取り付けている方とは逆の手で鋸――ゼットソーハードインパルスを持ち、薙いだ。
接近戦ならばこちらの方が使い勝手がいいと、そう判断したからだ。
しかし、その判断はすぐに間違いだったと気付く。
何故ならば、回転刃どころか鋸でさえも――。

「TASにとっては、乗り物でしかない!」

TASがそう叫んだ次の瞬間。
何かが壊れるような、鈍い音が響き……次いで、大きな音を立てて何かが倒れる音が聞こえた。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

それはきっと、少女が目の前の現実を受け入れるのに相応の時間が必要だったからだろう。
その者が倒れてからしばらくしてから、ようやく少女は何が起こったかを理解し叫んだ。信じられなかった、信じたくはなかった。
ずっと一緒にいて欲しかった彼が、ずっと守ってくれると言ってくれた彼が頭から血を流しながら倒れているなんて。
だから少女は叫んだ、力いっぱい、その者が再び起きてくれる事を願って。

「キバくうううううううううううううううううううん!!!」

しかし、返事はない。

「い、やぁっ! どうしてぇっ!!」

その者の体に飛びつき、その大きな瞳から大粒の涙を流しながら揺すり動かす。
動かない、起きる気配もない、血は流れている。
血が手につき、服につき、顔につこうが妹は気にしない。ただ揺する、揺すり続ける。
取り出したカード――ホーリーエルフの祝福を使おうと試みる、だがカードは何も答えない。
キバは動かない――瞳を開けない、答えない。

「当然だ……俺のスピンジャンプを脳天に受けて生きているはずがない」

TASが残酷な言葉を吐いても、妹はキバの側から離れなかった。
故に、TASは妹を蹴り飛ばしまずキバから引き離した。
妹はそれでも尚、キバの名前を呟き続けている。それがキバに届くと信じて。

「キバく……ん……! やだぁ……!」
「安心しろ、すぐにお前も同じ場所へ送ってやる……最速でな」

そう呟き、TASは大地を蹴――ろうとした瞬間、その足に違和感を感じた。
足を何者かが掴んでいる感触……足が動かない。
誰に? レナもこなたもピッピも、光に包まれ消えこの場にはいない。 ならば今、その足を掴んでいるのは誰だ?
TASはその疑問を解消すべく、足元を見下ろす。

血まみれの男が、荒々しい息を吐きながら己の足を強く握り締めていた。



sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 時系列順 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 投下順 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) エアーマン sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 友人 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 涼宮ハルヒ sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) TASさん sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) クラモンC sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 泉こなた sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) ピッピ sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 竜宮レナ sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 水銀燈 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) キョンの妹 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)
sm170:青い炎vs月の頭脳(後編) 永井博之 sm170:D-2ブリッヂの死々闘(後編)



|