D-2草原大炎上戦(前篇) ◆jVERyrq1dU




「古泉、私達って相当追い詰められてる気がするの……」
「は? どうしてです?」
古泉が驚いたように聞き返す。しばらく沈黙して歩き続けていた永琳がいきなり口を開いた。
そして自分達は追い詰められていると言う。いったいどういう事か。

「レナ達のチームはほぼ崩壊したけれど、それでも城にはゲーム抵抗者達が沢山集っているようだし……ね」
「でもただ集まっているだけの奴らならただの烏合の衆ですよ」
でも……と永琳は呟く。もう勘弁してくれ。僕にだって限界はある。
これ以上揺れないでくれ。

「あいつらがもし、脱出すれば私達ゲームオーバーじゃない」
「? その時はそいつらに便乗するんでしょ?」
「そういう事じゃないわ。ゲームが破壊されては、願い事が叶わなくなるじゃない……いえ、と、言うよりは……」
しばらく口を閉ざす永琳。

「主催者が本当に願いをかなえてくれるとは限らない。私達の目的は優勝して主催者に願い事を叶えて貰う事。
でも……あのピエロが正直に願いを聞いてくれるかどうかは……怪しい」
「……僕も怪しいと睨んでいますよ」
「だったらどうして!」
永琳の語尾が強くなる。
「貴方は揺れないのよ!? 主催者が信じられないなら、私達の目的は成立し得ないはずよ!?」

なるほどな……と古泉は納得する。
彼女がロール、ニート、遊戯に心を乱され、殺し合いに乗る覚悟を決められなかった原因。
それが漸く分かった気がする。彼女は主催を信じていない。
それなのに優勝して願い事を聞いて貰う事を目的にして、ゲームに乗っている。
明らかな矛盾。この矛盾こそが彼女の決意を鈍らせた根本の原因なのかもしれない。


「私も主催者は怪しいかなと思ってます。ですが私はこれまでに一度も決意を鈍らせた事はありません」
「それはどうして?」
「忘れましたか? あのクソ女、涼宮ハルヒの存在です。
主催者が駄目そうならハルヒの力に頼ればいいや、そう考えているんですよ僕は」

古泉の返答に永琳は明らかな怪訝の表情を示した。

「……本音を言うと、ピエロが願い事を叶えるって話より嘘っぽいわよ。
あんな馬鹿馬鹿しい能力。本当にありえるの?」
「それがあり得るんですよ。まあ信じられないのは当然でしょうね。
とにかく、僕を信用するように涼宮さんの能力も信じてやって下さい」

永琳は厳しい表情をして、何でも思い通りに出来るとか信じるなんて難しいわ、と呟いた。

「まあいいですよ。そういう手段もあると心に留めておいてください。
それより、もうすぐ橋が見えてきます」

古泉は心中で密かに決意を固める。涼宮ハルヒの力を証明しなければ……と。

 ▼ ▼ ▼

唇を噛みしめる。あの女が堪らなく鬱陶しい。何様のつもりか、と言いたい。
デーモンもデーモンだ。あんなクズ相手にどうして手こずる。どうしてさっさと殺してしまわない?
「ふざけんじゃないわよ……」
ハルヒは顔を歪ませて呟く。眉間には幾筋ものしわが入り、目のぎらつきは猛禽類を思わせる。非常に醜悪だ。
「いったい……いったいいつまで続けるつもりよぉッ!」

大口を開けて叫んだ。視線の先では、二匹の怪物が激しい死闘を演じていた。

デーモンが攻撃を仕掛け、閣下が防ぐ。閣下が仕掛け、デーモンが防ぐ。
二匹の怪物はまるで事前に打ち合わせをしていたかの如く、決まった運動を繰り返していた。
もうかなりの時間が過ぎた。すなわち、閣下の思い通りに事は進んでいた。

デーモンの拳を右手で弾き、顔面へと左ストレートを飛ばす。デーモンはそれを最小限の動きで避け、瞬時に膝を飛ばす。
膝は閣下の腹に直撃し、無敵の防護服が閣下の代わりに霧散した。
追撃の拳が閣下に向けて飛んできたが、後方へのパックステップによってなんとか回避する事が出来た。

一見互角の戦いに見える。ハルヒがイラついているのはそのためである。
彼女は、自身のパートナーである魔王デーモンの圧倒的勝利を望んでいるからだ。
ハルヒとは対照的に、閣下の心中は実に冷静で……ある事について恐怖に近い疑問を抱いていた。

さっきから……デーモンの戦闘スタイルが変わってきたような気がする。
あいつは、戦いが始まった頃、確か距離を取ろうとしていた。
それが今ではどうか。自ら肉弾戦を望んでいるような気がする。ほら……また距離を詰めてきた。
そして……あいつ、なんだか知らないけど……だんだん強くなっているような……。

デーモンは閣下との距離を一気に詰め、顔面に向けて渾身の蹴りを放った。
隕石のような圧倒的破壊力が閣下の頭部に迫る。
閣下は瞬時に、シルバースキンだけでは耐えきれない、と判断を下し右手を防御に回した。
デーモンの蹴りが迫る。閣下は全神経を集中させ、腕を蹴りの軌道に合わせる。防げなければ……

彼女は一つだけ判断ミスをしていた。間違えた個所というのは勿論デーモンの蹴りについて。
デーモンの蹴りの威力を、そしてデーモンの成長を、完全に見誤っていた。

(片手じゃ……! 足りないッッッ!)

直撃する凶暴な破壊力。閣下の右腕を覆うシルバースキンが弾けた。そして、蹴りの衝撃は勿論頭へと貫通する。

「ぐあァッッ!」
「けひゃ!! さあいきなさいデーモン!」
防護服が霧散しつつ吹き飛ぶ閣下を見て、ハルヒが狂喜した。

「分かってますよ神ィ」
閣下へと迅速に距離を詰めるデーモン。視線はがっちりと閣下を捕えて離さない。
さあ、次はどう動く?どう時間を稼ぐ?どう逃れる?

「悪いけどォッ!」
倒れ、未だ立ち上がらない閣下の頭を、まるでサッカーボールかの如く
「この体にも慣れてきたァッ!」
蹴り飛ばした。再びシルバースキンが霧散し、閣下は頭を中心に軸回転しながら吹っ飛んだ。
一時後、閣下は川へ水飛沫を上げて墜落した。

「あははは!ナイスシュートですねぇ」
「調子に乗ってんじゃないわよデーモン!あのクズのタフさは身に染みて分かってるでしょう!?
さっさと捕まえて今までの仕返しをしてやりなさい!」
「アハッ、勿論よ!神ィ」

閣下を蔑むように睨みながら、デーモンは川原ではあはあ喘いでいる閣下へと歩みを進めた。
デーモンの姿が目前に現れたので、閣下は気を引き締め睨みかえす。
彼女の睨みを、未だに無駄な抵抗を続ける気かと滑稽に感じたのか、デーモンは睨むのを止め、にたにた嘲ら笑った。

「あんた……見抜いていたわね……私が時間稼ぎしている事を……分かっていてあえて……」
川の中で水を大量に飲んでしまった。閣下の息は荒い。
「どうして……私に付き合ったのよ……」
「練習です」
微笑みを浮かべてデーモンは言う。悪魔的な外見だが、声色は少女のそれなのでひどく不気味だ。

「練習……?」
「なんていうかぁ……進化する前の方が強かった気がするんですよね、私。あの強い三人組相手にも負けなかったし、やりたい放題だった。
それが進化したら一変……ロールにまで危うく負けるところだったわ。どうしてかなあって考えてみると……」
「経験が……足らなかったと?」
「そういう事。私には完全体の経験はあったけど、究極体の経験は今までなかったわ。
この力……強大すぎて使いこなせなかったのかしら……使いこなせる今だから言えることだけど、私────最強よ?」

くすくすくす……あはあはあは
デーモンの笑みが控えめな微笑から、明らかに人を馬鹿にした嘲笑に変わった。

「くすくす……時間稼ぎなんて無駄なのに……くすくす……どうせ皆私に食われてオシマイなのに……くすくす」

閣下の心中の奥底から、ふつふつと熱いものが沸き立ってきた。
デーモンは明らかに強くなった。皮肉な事に、必死に闘っていた自分がデーモンをパワーアップさせたらしい。
こんな馬鹿な事があるか?この世の誰よりも殺したい奴を、自分は手助けしてしまったのだ。

「くすくす……ばかばか」
「笑うなァッ!!」
閣下は猛烈な勢いでデーモンに飛びかかった。彼女の表情は怒りに染まり、見るからに凶暴だ。
こいつに一矢報いてやる。閣下は渾身の力を右手に込め、デーモンの顔目がけて思いきり振るった。

「ばーか、ですねぇ」
唐突にデーモンの爪が異様なほど伸びる。どんな刃物よりも鋭く輝いている。
あんなもの今までに見たことがない。

乾いた風切り音が閣下の耳に届いた。
何かが目の前を通過していったらしい。通過していったものはほとんど見えなかったが、黒っぽかった。
いや、白く輝いていたかもしれない。

「嘘でしょ……」

こんな事って……私はシルバースキンを着ている。変な力だって手に入れた。それなのに、それなのにどうしてこうも簡単に……
閣下は目を疑う。視点を右肩から腕に沿ってどんどん伸ばしていく。

右肩はある。二の腕はある。肘もある。それから先は────無かった。
私の腕は地面に落ちていた。地面を赤黒く染めていた。私の首筋に、冷や汗が流れる。

「シルバースキンを……貫通した!?」
「正解です!そして第二波!」
閣下に悪寒が走る。しかし、その反応は悲しいほどに遅すぎた。覚醒したデーモンの圧倒的スピードの前では何の意味ももたない。
懸命に防御しようと、残った左腕をデーモンの爪の軌道に合わせる。
左腕に強く、強く力を込める。こんなところでやられるわけにはいかない。
私は皆を纏めてこの馬鹿な殺し合いを終わらせる義務がある……。

────こんなところでは死ねない。


「どう?首尾は」
ハルヒがデーモンに近付いてきた。
戦闘に巻き込まれてはひとたまりもないと警戒しつつの接近だったが、怪物達の死闘の結末を見て、ハルヒは警戒を解き駈け出した。
「くっ、くっ、ぷ」
ハルヒが妙な声を出すのは、懸命に笑いを堪えているため。その狙いは何か……。

「ぷっ、く、し……死んでるの?」
「いいえ、生きてますね。こいつやっぱり人間じゃない」
「でも……瀕死よね?」
デーモンはこくりと頷いた。ハルヒは閣下を見る。
閣下はデーモンの爪に腹を貫かれたそのままの状態で、悪魔に吊り下げられていた。
誰がどう見ても瀕死の状態だが、時折、瞳に光が戻り、デーモンを凝視している。

「ぷっ……くす、くすくす……くぅ」
「さっきからどうしたの神?あんまり近寄らない方がいいですよ。体力を吸われます」
「ぷっ、くすくす……も、もうだめ」
ハルヒは突然閣下の髪の毛を鷲掴みにし、閣下の顔を無理やり自分の方へ向けさせた。
閣下は短く苦しみの声を上げた後、ハルヒを正面から睨みつけた。

も……だめ……堪えきれない。だってだって……面白いんだもの。こいつの顔

「けひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃッッッ!!! アーハッハッハッハッハッハ!!」
ハルヒはこれ以上ないほどの大口を開けて、閣下の目の前で爆笑する。
「弱いィ!弱いわよあんたッ!馬鹿なんじゃないの!? ぷっ、くっ、けひゃひゃひゃひゃひゃッッ!!」

「ぷっ、くすくす」
ハルヒにつられてデーモンを笑い始める。
「弱いのよブァァーーーーーッッカ!!! クズのくせに出来もしない事やるんじゃないわよ!時間の無駄なのよッけひひッ!」
「あはははは、神ィ!いい事いいますねぇ」


「っさい……」
小さな抵抗が聞こえてきた。
「うっさいのよ!馬鹿はあんた達の方よッ!」
「…………ぷっ、けひひひひ」
必死に叫ぶ閣下を見て、ハルヒはにんまりと微笑んだ。
ハルヒは掴んでいた閣下の髪の毛を強引に毟り取る。そして彼女の頬を何度も何度も平手打ちする。
閣下は叩かれるたびに血を吐いた。次第に元気がなくなっていく。

「ぷっ……くすくす……馬鹿なんじゃないのこいつ馬鹿なんじゃないのねぇデーモン頭悪いわよこいつクズすぎ」
笑いを堪えた後、ハルヒは人を馬鹿にした笑みを浮かべて一気にまくしたてた。
ハルヒは弱者をいたぶり続ける。神であるから、何をしても許されるのだ。

「あっ、いい物見ぃつけた」

ふいにハルヒは駆け出し、近くに落ちていた閣下のデイパックを拾った。中を弄り、閣下にとって馴染み深い得物を取り出した。
星でも砕けると言われる、洞爺湖の木刀だ。閣下はそれを見て、表情を一変させた。
さすがの閣下も、当然死ぬのは嫌だ。死に対する恐怖も勿論ある。

「ねぇデーモン。こいつ異常にタフだし変な防護服も着てるけど……私でもこの木刀で頭を殴り続けたら殺せるかしら?」
「ん~大丈夫なんじゃないでしょうか。さっきからこいつの防護服も調子が悪いようですし」
ハルヒがにんまり笑い、木刀を握りしめ、ブンブン素振りした。

「けひひ、それは嬉しいわ。今まで放置されてイライラしてたのよ。デーモン念のため抵抗しないように抑えておきなさい」


近づく近づく。ハルヒが木刀を握りしめ、嬉々とした様子でこちらに歩み寄る。時折素振りの音が聞こえてくる。
デーモンに比べたら遥かに弱い。神などという大そうなものではなく、虫けらに等しい存在だ。

私は────ここで死ぬのかな。訳の分からないまま殺し合いに参加させられて……
訳の分からないまま殺し合いに乗って、改心して、変な力を手に入れて──皆と合流して、もう少しで殺し合いを壊せるところまで来て……
もう少しで殺し合いを壊せるところまで来て……私は、死ぬのかなここで……。

嫌だ、死ぬのは嫌だ。と言うより、このまま死ぬなんて嫌だ。この人間を逸脱した怪物二人のどちらかを道連れにしてやりたい。
こいつら二人は私の相手。このまま死んで、レナ達に任せるなんてしちゃいけない。
私の仕事は時間稼ぎだけど……倒しちゃっていいよね。後は……皆に任せるから……死んでしまった皆の恨みをどうか────

「は……な……せ……」
「んん?まだ喋れるんですか。さすがに呆れるわ」
「だま……れ……殺してやる……わ……あんた達を……道連れよ……」
デーモンはぽかんと口を開け、無言で閣下の顔を殴った。
血反吐を吐き、それきり閣下は話さなくなった。

「何やってんのよデーモン。私が殺すんだから」
「すいません神ィ」
「ふん、まあいいわ。それより、何回目で死ぬと思う?」
相変わらずの嬉々とした表情でハルヒは言った。
「さあ……放っておいても死にそうだわ」
「そんなの面白くないわよ……まあいいわ。じゃあまず一回目────」

ハルヒが木刀を振り上げた。

うう……死ぬ。死んでしまう。嫌だ。一矢報いたい!嫌よ!死んでも死にきれない!
誰か、誰でもいいから助けて!私はまだまだ生きたい。皆と一緒にこの悪趣味なゲームをぶち壊したいのに────

「けひひ……痛いわよぉ。 一回目~~~♪」

────ガッ!

頭に……衝撃が走った。

「二回目~~~♪」

────ガッ!

シルバースキンの調子がおかしい。私が瀕死だからか?

「三回目~~~♪」

────ガッ!

私の意識はついに 途切れ……    途切れ……





途切れ……?





「閣下ちゃん言ったよな?敵に会っても無茶するな」

聞き覚えのある声が聞こえてきた。私は静かに瞼を開く。
ある男がそこにいた。ハルヒと私の間に立ち、木刀を受け止めている。
ハルヒはぎりぎりと木刀に力を込め、必死にその男を押し返そうとしている。
デーモンはその男にフライングボディプレスを食らったのだろう。苦痛にまみれた表情をしている。

全くこの男は……いつでもどんな時でもこちらの意見など無視して突っ走る。
私は言ったはずだった。敵を見つけても戦闘をするなと……。

「か……す……」
助けに来てくれたのね。



「悪いけど約束無視するぜええええぇぇぇぇぇぇぇ!!!それと閣下ちゃん俺はカスじゃなくてKASだっていう」



「あ、あんた何なのよぉッ!」
当然の反応だ。突然奇人が空から降って来たのだから。ハルヒの持つ木刀はKASに受け止められたままぴくりとも動かない。
「俺か!? よーしなら教えてやるっていう! 俺は故人TASを唯一圧倒的に超えまくっていた男、KAアアアアアァァァァァァSッッッ!!!」

「ふッッざけんじゃないわよ!あんた、あんたなんかに神である私が……」
木刀をどう揺さぶっても相変わらずびくともしない。
「あーあーおほん。久々にシリアルモード行かせてもらうぜ。レムーには禁止してやったけどな」
「何がシリアルよ!朝ご飯じゃないんだからッ! くそ!離しなさいよ!」

「弓道やってるからかなぁ。もしかして視力がA飛び越えてSぐらいにいってんのかもしれない。うん、弓道関係ねーよwwww
まあいいやとにかく見えた。空飛んでる時に見たぜ。お前らが閣下にした事……」

突如、ハルヒに悪寒が押し寄せた。木刀から手を離し、KASに背を向け一目散に逃げる。

「もう謝っても許してやらんッ!!」

KASは木刀を握りしめ、ハルヒの頭部目がけて振るう。しかし、

「ぐあぉぅッッ!!」

デーモンの蹴りが先に入った。KASはバランスを崩しその場に倒れる。
幸いな事に苦し紛れの蹴りだったため、ダメージはほとんどない。

「雑魚が一人来たくらいでは何も変わらないわ」
「ぐぎゃぎゃ、私を忘れないで下さいねぇ」

デーモンの声を聞き、KASは目の色を変える。
聞き覚えのある声だ。ロールを洗脳し、でっていうを殺した奴と同じ声。こいつはあのオカマだ。

「またおまえか!いい加減にしろよ!」
「ふふ、どれだけ怒ろうと、結果は決まっています」
デーモンは閣下を乱暴に投げ捨て、KASへと爪を伸ばした。

爪と言う切れ味鋭い刃物は凄まじいスピードで、KASのいる空間を横薙ぎした。
この爪を避けられる者はいない。何人たりともこの絶対のスピードの前では無力となる。
デーモンは爪がKASを切り裂いたと確信する。KASの体は真っ二つに別れ、地面に転がっているものだと思った。

しかし

「お前らが神なら俺はキリストになってやる!」
「!?」

デーモンの頭上から声が聞こえてきた。
KASはデーモンの爪の軌道を瞬時に見切り、上空へと回避したようだ。
それでもデーモンは笑みを絶やさない。空中では思うように動けない。
つまり次の攻撃は必ず当たるはずだ。

「ま た 座 薬 か!!」
「ざ、座薬じゃない!」

KASには座薬と馬鹿にされたが、うどんげの弾幕はそんな生易しいものではない。
一つ一つはそれほど威力を持っていないだろう。しかしそれらはKASの動きを制限してくれる。
その間に、ディバインバスターなどの大技の準備を虎視眈々と進めればいいのだ。

しかしまたもやデーモンの予想は外れる。KASは空中でスピンし、弾幕を全て弾き飛ばした。
自らの戦略が二度も破られたデーモンの心中は、さすがに穏やかではなくなった。

(ならば格闘で迎撃するまでだ)
KASの落下にタイミングを合わせ、デーモンは爪を伸ばし迎撃の用意を整える。

KASは空中で器用に方向転換し、デーモンの後方に着地。即座に拳を放つ。
KASのスピードは明らかに超人級であったが、そこはやはりデーモン、彼の動きを瞬時に読み、振り向き様に爪をはらう。

(どちらが速いか……)

(勝負……!)

「ぐおッ!!」

KASの拳が爪を掻い潜り、怪物のボディにヒットする。
めりめりとボディにめり込む拳。あまりの速さにシールドすら間に合わなかった。
さすがのデーモンも怯み、バランスを崩す。狙いの狂った爪はKASの頬に切り傷を与えるだけに終わった。

(だが……軽いわ。そんなパワーじゃ……どれだけ食らっても大したダメージじゃない)

「非力なんだよぉッッ!!」

「うおおおぉぉぉおおぉ!!教えてやるぜオカマ野朗ッッ!!
カスも積もれば山となる!俺の怒りは積もりに積もってエベレストだァーーーーーッ!!」

KASは何を思ったのか、両腕を後方に引いた。何かの予備動作か、それとも意味の無い行動か。
何をする気だとデーモンは怪訝に思う。

絶対に避けきれない攻撃を仕掛ける。
弾幕をばら撒き、ヤドリギの種を放ち、ケイオスフレアを吐き、爪と拳のラッシュを放つ。
少々きついかもしれないが大丈夫。成長した私なら出来るッッ!
無論シールドも忘れない。究極体のボディならこれくらい全部出────

デーモンが攻撃を開始する直前、KASの光速のラッシュが怪物に届いた。

「KASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKASKAァァーーーーーッッS!!!」

「ぬるいぬるいぬるいわッ!」

シールドも間に合わず、KASのラッシュをもろに食らい続けるデーモン。しかし、怪物は怯まない。
ラッシュを全て筋肉を硬直させた鋼のボディで受け止めつつ、KASへと歩み寄る。

そして──

「つかまえた……」
デーモンがKASの頭を掴む。
「捕まったのはお前だぜ」
それでもKASは諦めない。瞳は真っ赤に燃え続ける。

「フッブーキ☆スペクタクル」
KASは自らの服の中に入っていたアイスソードを取り出し、吹雪を放った。
至近距離であるため、デーモンは避けきれないはずである。

この時、デーモンの顔が始めて青ざめた。

「ギャアアアアアア!!」
「デーモンッ!」
凍てつく吹雪をもろにくらい、デーモンは苦痛と共に吹き飛んだ。

か、体が凍る。今のはまずい……!今の技は危険だ……!

「しっかりしなさいよデーモン!」
ハルヒが倒れたデーモンの元に駆けつける。デーモンの体は吹雪によって所々凍りついている。
「大丈夫……です神……」
「……火よ。火を使って体を温めなさい!あんたさっき口から火を吐いてたでしょ!?」
「ケイオスフレアの事…ですね…分かって……ますよ神。炎を吐きますから……離れて」
デーモンが向こうへ逃げろと手をひらひらと振る。
「ぐっ、私がいったらあんた殺られるじゃない!あいつ只者じゃないわ!」

デーモンは気づいた。ハルヒの様子がおかしい。
神は今までどんな相手を前にしても、尊大な態度をとり続けたはずなのに。

「させるかアアァァァァーーーーーーーッ!」
KASが怒声と共に向かってくる。右手にしっかりとアイスソードを握り締め
「神を……! 舐めんじゃねーわよ!!」
ハルヒは拾った木刀を握り締め、KASの脳天へと振り下ろした。
しかし、木刀の一撃はアイスソードによって簡単に受け止められる。

「死ねっしゃああああああああッ!」
KASが強引にアイスソードを振るい、木刀を弾いた。
ハルヒは木刀をしっかりと握り締め、離しはしなかったが、弾かれたためこのままではKASの攻撃を防ぐ事は出来ない。
「止めだ!オラオラ」

「きゃあッ!」
KASの掃ったアイスソードがハルヒを切り裂く寸前、ハルヒはデーモンに首根っこを掴まれ、後方の川へと投げ飛ばされる。
そのため、アイスソードは空を切るに終わった。しかしKASは止まらない。

「だったら次はお前だッ!」

KASは挫けずにデーモンに向かってアイスソードを振るう。
絶体絶命のピンチにも関わらず、デーモンは何故か不適に冷笑する。
静かに口を開く……。

「フレイムインフェルノ!」
「げっ!?」
デーモンの口から超高熱の地獄の業火が吐き出される。
フレイムインフェルノ、デーモンの必殺技である。

地面が溶解するほどの地獄の業火を前にし、さすがのKASもビビった。

「う、うぉおおお」

あ、あぶねぇ……なんとかTASをも超える超反応で空中に回避出来たけど……
あんなのくらったら死ぬってレベルじゃねーぞ。

マントを駆使し、ゆっくりと空中を飛行するKAS。地面を見ると──デーモンはいなかった──

「えっ?」
「さあて、頭冷やそうか。貴方なら避けるだろうと思ってたわ」

デーモンはKASの回避を読みきり、KASよりもさらに高く跳躍していた。
吹雪によって凍りついた体は業火によって一瞬で溶けていた。もう自由に動ける。
そして今、デーモンの真下には、KASの甲羅に覆われた背中がある。


(今、私達の真下にある地面は真っ赤に燃えている。灼熱の火炎地獄にこいつを……)

「叩き落す!」
KASに向けてデーモンは蹴りを繰り出す。

ヤヴァイ!どうすんだこれ!地面めっちゃ燃えてんじゃん!あんなところに叩き落されたら……死ぬ\(^o^)/
どうするんだ、スパイダーブレスレットはこんな何もない所じゃ使えないし。
あ、そうだあれがあった。

「死ね!」
「ほいっと」
「!?」

ファンKASティック!!
KASは得意の空中鍵ジャンプを使い、デーモンの蹴りを避け、さらに上空へと逃げる。
間抜けなジャンプ音がデーモンの神経を逆撫でする。

「くそ! 調子に乗るな!」
「うわ!追いかけてきた!」
デーモンは翼を広げ、羽ばたき、KASのさらに上空をとる。
「ほいっと」
「また!?」
デーモンに対抗し、KASは再び鍵ジャンプをし、さらに空を取る。

KASに対抗し、デーモンは羽ばたく。デーモンに対抗し、KASは鍵ジャンプをする。
それに対抗してry


────無限ループ!!!────



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最終更新:2010年03月18日 12:10