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ベルンカステルの07(前編) ◆cpYAzLvx8.











          平成5年 初夏








濡れた砂利道を一台の車が走る。
朝露に濡れた木々が、6月にしては珍しい太陽に照らされてキラキラと輝いていた。
ろくに整備もされないまま放置され、そこかしこに水溜りだらけの道路は、車にとってすこぶる環境が悪い。
その道路を一台の車が走る。
その村にはもう誰も居なかった。誰も居ない家、しかし痕跡として残る生活の後だけが痛々しい。

誰も居ない村をひた走る車は、やがて村にあるたった一つの神社の前で止まる。
そこから現れたのは公安のベテラン捜査官、赤坂衛だった。
続いて興宮署の元ベテラン刑事、大石蔵人がそれに続く。

「それにしても、早いもので10年ですか」
「長かったですよ、ここまで来るのにどれだけの回り道をしたか……」

神社へと続く長い階段の先には、古手神社の本殿があった。
そこには一人の女性と、一つの過ぎ去った惨劇の遺恨だけがあった。

「おやおやレナさん、早いですね。もう到着していたんですか?」
「ええ、梨花ちゃんを早く楽にしてあげたかったから……」






政治的意図から消された村、雛見沢。
これは、ある一人の少女と、雛見沢の名誉回復の物語……。



◆   ◆   ◆
「レナ、幻想郷に残る気は無い?」
「え?」

レナ達ニコレンジャーがバトルロワイヤルから脱出し、火急の用ということで幻想郷に到着してから数日が経過していた。
バトルロワイヤルから脱出したメンバーは皆疲れきっており、霊夢と紫の提案で人里に滞在し疲れを癒した。
3日ぶりにぐっすりと眠り、誰からも殺されたり、殺したりといったことはない穏やかな環境で、焦燥しきった心と、体を癒した。
そうするうちに数日が過ぎ、ニコレンジャーやゆとり達も紫のスキマを通って元の世界へ戻り始めていたため、レナも同じ様に戻ろうとしたのだ。
しかしスキマを開く前に、紫は意外な提案をレナに吹っかけてきたのだ。

「……よく、分からないんですけど」
「そうね、貴方は幻想郷に残った方が幸せになれると思う、これでいいかしら?」
「……詳しく話してください」

紫はレナに、幻想郷への定住を勧めている。
それは紫がレナを気に入って幻想郷へ残って欲しいと頼むのではなく、元の世界へ戻らない方がいいという忠告。
そしてそれはレナが知らない、暗に気が付いているが未だに底が知れない、雛見沢の暗部。

「貴方の世界、昭和58年の雛見沢だったかしら?
 そこにあるのは災厄と死の運命、どれだけもがいた所で、あなたは幸せな未来は掴むことはできない。
 運命を乗り越えても全ては失われている、手に入るものはたった一つの真実だけ。
 竜宮レナ、それでも貴方は試練を望み、元の世界を求めるか?」
「…………はい」

少し迷ったが、レナは紫の言葉を理解し、それを肯定する。
それが紫にとっては意外だったようで、再び言葉を続ける。

「……貴方が望むなら、私が幸せな雛見沢を提供することも出来るわよ。
 そこには貴方の欲しかったものがすべてある、真実の扉も開くことが出来る。
 まぁその場合は元の世界に戻れないと言う意味で、幻想郷に残るのと余り変わらないけど」
「それでも私は、私のいた雛見沢に戻りたいんです」
「竜宮レナ、あなたは3つの選択肢のうち、最も過酷な未来を選ぶ。
 そういう意味でいいのですね?」

レナは再び紫の言葉を受け、再び考え込む。
それでも、レナの意思は変わらない。
その瞳中は、青い炎で染まっている。

「それが、私にとっての罪滅しです」
「そうね、そこまで言うならもう私は止めないわ。
 ところで、そこの変態式神さんはどうするの? 竜宮レナについて行くつもり?」

レナの意思が固いと知り、紫は諦めの意思を示す。
それで話は終わったと思ったが、レナの手に持つデバイスの方へと言葉の矛先を曲げる。

『最初はミッドチルダに戻ろうかとも思ったけどさ、俺の嫁ティアナが居ないのに戻ってもつまんないしなー。
 だったら新しい愛人のレナちゃんに、あーんなことやこーんなことをして遊ぶ方が楽しそうだからさ、フヒヒヒ……』
「あらあら、愛されてるのねレナさん」
『……まぁそういうわけだからさ、起動六課の面子とスバルにはよろしく伝えて欲しいんだ。
 辛い話だがよろしく頼むぜ、パツキンねーちゃん!』
「分かりましたわ、この好色一代男」
『フヒヒヒ……サーセンwwww』

更に続くクロスミラージュのセクハラを華麗にスルーし、紫はスキマを開く。

「最後に一つ、私からアドバイスをあげるわ。
 雛見沢で最善を尽くせば、貴方は必ず全ての真実にたどり着くことが出来るわ」
「ありがとうございます、紫さん」
「うふふ、お礼なんて無用ですわ」
「最後に一つだけ教えてください、どうしてもあのバトルロワイヤルを無かった事には出来ないんですか?」
「それは私にはできるけどできない。切れてしまった糸をつなぎ合わせてたとしても、それは繋がっているけど元通りではない。
 歴史の糸と言うのは常にそう。バトルロワイヤルが必然の出来事なら、どうやっても歴史の糸は元通り切れてしまうのですわ」
「わかりました、今までありがとうございました」

レナは紫にぺこりとお辞儀を下後、深呼吸を一度してからスキマへと飛び込んだ。
スキマの奥に消えたレナを見送り、紫はその亜空間を閉じる。
そしてレナに聞こえるはずは無いのに、一言呟いた。






「竜宮レナ、貴方はベルンカステル卿の賽に打ち勝てるかしら?」




◆   ◆   ◆





      昭和58年 6月27日





私の視界がブラックアウトしてから数秒立っただろうか。
茂みがガサガサと揺れる音と、私が地面に降り立った音がして、光景が移り変わった。
木々の奥から見える光景から、そこが古手神社の裏だと言うことに気が付いた。
ただ少し違うのは、雛見沢の村からの明かりはとても不規則で、普段と違うこと。
それは酷く異質で、さっきから鼻を突く硫黄の香りが、私に明らかな異常を伝えていた。
周りをキョロキョロと確認し、人の気配が無いことを確認してから、クロスミラージュにバリアジャケットの展開をお願いする。
エリアサーチも頼もうと思ったが、貴重な魔力を浪費するわけには行かないので、今はまだ我慢する。
とはいえ私の視覚も聴覚も以前と違って格段に鋭い、エリアサーチをしなくとも、地の利がある雛見沢ではそれほど索敵に苦労することはないだろう。
だが、これから目指す目的地、入江診療所は違うだろう。
デジモン達からなんとか聞き出せた雛見沢症候群、入江診療所の研究を考慮するなら、この異常な環境はそのせいだとさえ考えられる。

『それにしてもくせぇなぁ……これじゃあ萎えるぜ』
「お願い、後でいくらでもコスプレとエッチな事には付き合ってあげるから、今は黙って私に従って」
『当然です、レナ様』

クロスミラージュを適当に黙らせた後、私は古手神社の本殿の方をキョロキョロと覗く。
そこには相変わらず誰も居ないし、気配もしない。
だから私は本殿の方へと向かった。
そして見てしまった。




梨花ちゃんの、死体を。

『貴重なようj……!!』

クロスミラージュが煩いので石畳にぶつけて再び黙らせる。
そこには全裸の梨花ちゃんが、腸を引き裂かれて死んでいた。

「ごめんね、ごめんね……」

私は梨花ちゃんの死体に手を付けなかった。
埋葬をしたくても、状況が分からない。
そしてその状況は、恐らく危険であると分かっている。
私は泣けなかった。泣いてはいけなかった。
茂みに戻った私は泣きそうになるその衝動を押さえ、立ち上がる。

――仲間のために泣くのは、梨花ちゃんの敵を討ってからだ。
そう誓って、私は入江診療所を目指す。


そして私は見た。
ガスマスクを付け、ライフルで武装をする異質な存在を。
その言葉尻からは日本人である事が分かり、軍人であろう事も。
茂みに隠れてその軍人、恐らく自衛隊を避けながら、掻い摘んで雛見沢の異質さを知る。

突如鬼ヶ淵から火山性ガスが噴出した事、村人は誰も助ける事ができなかった事。
どれも私の理解の範疇を超えていた。何故? 何故雛見沢がこんなことに?
紫が言っていた言葉を思い出す、"全ては失われている"と。
それでもレナは挫けない、諦めない。
きっと、入江診療所にはまだ何かがある。梨花ちゃんやみんなの仇を討つ、真実の扉が……。

『……それにしても厳重な警備だな、軽くサーチしてみたがあの中には村ですれ違った人間よりもっといっぱいいやがるぜ』
「ありがとう、クロスミラージュ」

入江診療所の茂みから、入江診療所周辺を観察する。
そこだけ警戒レベルが一段階違う事が見て取れる。
診療所の表にも裏にも大量の軍人が居る、しかもそれはすれ違った自衛隊員よりさらに重武装だ。

「クロスミラージュ、幻影は何分ぐらいいける?」
『持って五分……かな?』
「……最悪、脱出は強行突破かもね」
『レナさん、やっぱ今日は諦めませんか?』
「駄目、今諦めたら全ての証拠が消されてしまう、それだけは絶対に認められない」
『分かりましたよ、もう』
「そうね、もう少し時間が経過してから行きましょ、まだ少し早いから」

私は星光る月夜が欠け始める早朝、厳戒態勢の軍人達でさえ警戒が緩むその時間を使って行動を開始する。

『Optic hide』

私の姿はそれで掻き消える。
激しく動くと周りの光景が多少ブレちゃうけど、それでも正面を突破するには十分すぎるほどの迷彩だった。
余りにも簡単に、入江診療所の内部へと侵入する。
中に居た人間の殆どは仮眠を取っていたり、書類や薬品を整理しているのが殆どであった。
その中には、あのバトルロワイヤルで見つけた、C-120さえも見られる。
急がないと、本当に必要な証拠さえも消えてしまう。
そこでは整理中と見られる書類や薬品の山がどっさりと積まれていたため、証拠品となるべきC-120や書類を掻い摘んでディパックに詰め込む。

あまり拝借しすぎると異常に気が付かれる為、気のせいで済む程度の量しか掠められない。
誰もおらず、誰も近寄らないであろう女子トイレの個室でオプティックハイドを解除し、証拠品の薬品を検品する。
掻い摘んで読んだ書類からは、雛見沢症候群の諸症状、滅菌作戦、女王感染者と言った謎の内容の書類もある。
掠め取った薬品の殆どはレナには理解できなかったが、C-120だけは確実に確保することができた。
雛見沢症候群とこの雛見沢の真実を解き明かす上で、これは強力な証拠になる。
だが、まだ足りない、これでは証拠にならないのだ。

私は入江先生の部屋へと向かった。
これだけの秘密を抱えた診療所だ、きっと院長の入江先生の部屋には何かが確実にある。
そう信じて向かった、それは間違っては居なかった。

「ふぅ、やっと開いたぜ」
「それにしてもなんでわざわざ鍵を探して机を開けるんだ? ぶっ壊せば早いだろう」
「お上の指示でな、20年ぐらいしたて全ての証拠を隠蔽したらここを開放するから、不審な証拠隠滅は止めろって言われたのさ」

入江先生の机が開かれた瞬間、私は二人の軍人に拳を叩き込んだ。
右手と左手から同時に放たれた一撃で、二人とも私の姿を拝む事は無くその場に気絶した。
意外と大きな物音がしたし、気が付かれるのは時間の問題だろう。
机の中身を一通りぶちまけ、中身を少しだけ検品する。
それは入江先生の手記らしかった、私の心が衝撃に揺れる。
もはや物音など構わず、手記のページを捲って中身を確認する。

あった、そこにはあった。
雛見沢症候群、連続怪死事件、鬼隠しで消えたはずだった悟史君の行方さえも。

もはやここに用は無い、だがこのまま証拠を掻っ攫って消えるのはリスクが大きすぎる。
私という存在を認知し、そして始末したと誤認してくれるのが望ましい。
よって、私は入江診療所のホールで行動を起こす。
ざわざわとざわめくそこで、私はオプティックハイドを再び解除し、大量の未整理薬品や書類をぶちまける。
再びオプティックハイドを展開し、混乱でざわめく診療所ホールから回収できるだけの資料を回収し、適当な所で再びオプティックハイドを解除する。

「生き残りがまだいやがった、交代先の部隊に見つかる前に追い詰めて殺せ!」
「クロスミラージュ、後どれぐらい持つ?」
『もうホントギリギリよ? 10秒持てばいいんじゃないってレベル』

私は必死に村を流れる川のほうへと向かう。だが別に必死にならずとも良かったようだ。
地の利を生かした走りを生かす私の前では、後ろを追いかける軍人達も追いかけるので精一杯と言った感じだった。

やがて予定通りに私は川へとたどり着く、追い詰められるのも計算のうち。
軍人達が私に一斉射撃を仕掛けた後、私は川へと勢いよく飛び込む。
被弾した銃撃で血飛沫が飛び散ったのも良かった。これで偽造がよりやりやすい。
無事着水し、バリアジャケットのお陰で何とか衝撃にも耐える。
後は川に流されるまま、雛見沢を脱出できればいい。
最後にフェイクシルエットを展開して私の死体の姿を残った魔力で偽造し、死亡を誤認させればいい。
顔は見られていないし服装はバリアジャケットで偽造している、そこから私の身元を確認するのはまず無理だろう。
いずれは追手が来るかもしれないが、それまで騙しきれればそれでいい。



ここからが、私の勝負だ。






◆   ◆   ◆

川に流され、はるか下流からはるばる興宮へと戻ってこれたのは6月29日の事だ。
興宮署には事前に連絡を入れており、大石さんとは無事コンタクトを取る事ができた。
内容はやはり大災害、そして三四さんのスクラップ帳と園崎家、雛見沢のことだった。
私は狙われてるから雛見沢を離れていたということにして、後は全て話すと連絡をしておいた。

さて、大石蔵人という人間は信用できるのか。
私が手に入れた入江先生の手記、そして証拠のC-120やその他の試作薬品、それを裏付ける数々の書類。
この明白な証拠を、大石に渡してもいいのだろうか。
もし、大石があの軍人達とグルであったら?
想像しただけで恐ろしかった。
だが、それしか道は無い。雛見沢の人間、大切な仲間や父も含めた私の知り合いは、もうどこにも居ない。
この界隈で頼れる人間は、残念ながら大石しか居ないのが現状だ。
園崎分家の方は興宮にあったため大災害の被害は逃れたのだが、大石の話のよると園崎組にも暴対法関連で大規模査察が入っているとの事。
いずれにせよ、選択肢は無い。
今大石を信頼するか、当ての無い先を、一人で戦い抜くか。

答えは最初から決まっていた。
大石に、全てを話して、協力してもらう。
それがあのバトルロワイヤルで学んだ、圭一君に教えてもらった大切な教訓。
絶対に無駄にしない。そう、絶対に。


「やぁやぁレナさん、ってどうしたんですかその格好は?」
「……逃亡中に突然大災害なんてあったから、ろくに家にも帰れなくて」
「いやはや災難でしたねぇ、でもあなたが生き残ってくださって本当に良かった。
 さぁ、一緒にあなたが掴んだ証拠で、お魎のババァの陰謀を解き明かしまっしょう」

大石の言葉に相槌を適当に打ち、誰にも話を聞かれない個室へと案内してもらう。
私はそこでブラインドを下ろし、監視、盗聴を隅々まで確認、さらにクロスミラージュにこっそりとサーチをしてもらった。

(……大丈夫だ、何もないしこのエリアに特別人が集まってたりとかはしてないよ)
(……ありがと)

「さぁさぁレナさん、お茶でも飲んで落ち着いて……」
「一つ、大石さんに聞きたい事があります」
「何ですかぁ?」
「大石さんは、どうしてこの雛見沢怪死事件を解決したいと思っているんですか?」
「そりゃレナさん、5年連続で祟り染みた事件で警察がコケにされちゃ……」
「そうじゃないです。大石さん個人が、……ですよ」
「……」

私は大石さんの目をじっと見つめる。
大石さんの情熱は他の刑事と比較できないほどだ。それは異常とも取れるほど。
だからこそ私は、どうしてこの事件を解き明かしたいのか、それが知りたかった。
それが、大石さんを信じる上で、どうしても避けられない謎。

「……ふぅ、どうしてもお話しないといけないですかぁ?」
「どうしても、です」
「……わかりました、でも一つこちらからも教えてください。
 あなたの手に入れた証拠ってのは、この怪死事件を確実に解決できるほどの有力な証拠なんでしょうね?」
「そうです、だから私は大石さんがどうして解決したいのかを知りたい。
 それを見極めないと、私は大石さんを信頼できない」
「……なら、話すしかないか」


大石さんからの話は、意外なものだった。
ダム戦争に反対した現場監督と言うのが大石さんの古い知り合いで、大変な恩人だったらしい。
そのおやっさんと言う人物は若い頃の大石さんの死んだ父親の変わりみたいで、また、人生の兄貴だったそうだ。
おやっさんが一年目の事件で殺されて、犯人も、おやっさんの右手も見つからない。
それが大石さんにとってはたまらなく悔しい、だから怪死事件を解決する事は、おやっさんの敵討ちでもあるとのこと。

「……これで全部ですよ、ちっぽけなものでしょう。
 でもね、私はおやっさんの敵が取れるなら、何だってしますよ」
「……分かりました」

大石さんの話に嘘はない。目でわかった、言葉で分かった。
大石さんがどれだけおやっさんを慕っていたのかという言葉に、嘘偽りは無い。
だから言える。
大石さんは、シロだ。
この人は、信頼してもいいんだ。

私は入江先生の手記をまず取り出し、その内容を大石さんに見せる。
そして驚愕の表情に包まれる大石さんに、時系列順に整理した書類を見せる。
その内容に関する考察を逐次伝え、そして最大の証拠品であるC-120も一つテーブルに置く。
全ての真実を知った大石さんは、その場でわなわなと震えて、何も言葉をしゃべらなかった。

「……信じられない」
「ですが、それは真実です。
 それだけじゃなくて、私は更に大石さんに言っていない事があります。
 きっと信じてもらえないし、それは雛見沢と関係ないから話さなかったのですが、聞きますか?」
「……お願いします」

私はバトルロワイヤルの事も話した。
そこで私が雛見沢症候群の末期に発祥した事、そこから生還した事も伝えた。
バトルロワイヤルに参加する前の私が、雛見沢症候群の妄想に取り付かれていて、三四さんのスクラップ帳についても雛見沢症候群で生まれた妄想であり、中身は殆どがトンデモだったこと。
そして、バトルロワイヤルで生還した私が、入江診療所から決死の覚悟でこの資料を盗み出した事も。

「……悪いですが、そっちの話は信じられないですね。
 さっきから衝撃の話が怒涛のように続いて、まるで理解が出来ません。
 オヤシロ様の祟りの方が、よっぽど信頼性があるようにさえ感じますわ」
「それは私も思ってます、信じてもらえないと思ったし、今は信じなくてもいいです」
「……でも、この資料に関しては信じて欲しいと」
「はい」
「……」

大石さんがタバコの煙をふぅと吐く。
それから何の言葉も無かったけど、きっと大石さんは余りに突拍子も無い話についていけないだけだと思った。
しばらく無言の状態が続き、タバコが灰皿に積まれ、そこへ涙がこぼれたと同時に大石さんは口を開いた。

「……信じられないですよ、おやっさんがこんなくだらないことで死ぬなんてさ……。
 しかも、血眼になって探していた馬鹿野郎は、今頃ミンチになって地面の底かよ……。
 加えて園崎の鬼どもも関係ないと来たもんだ、まったく信じられない……」
「……大石さん」
「大丈夫ですよレナさん、私はおやっさんを弄んだやつらを、絶対に許す気はありません。
 もう敵は討てないけど、この真実を解き明かすまでは、おやっさんに顔向けできないですからね
 約束します、私は必ずこの糞ッタレな奴らを表に引きずりだし、正義の鉄槌を浴びせてやりますよ」
「大石さん、ありがとうございます」
「それじゃレナさん、一つ聞いて欲しい事があります」
「何ですか」
「信頼できる人間に、この資料と薬品の事を伝えたい。
 ええ、資料の方はコピーで構いません、でもそのC-120と言う薬品は、一つサンプルをいただけないでしょうか?」
「……その人に会わせてください、それから考えます」
「おやおや、しょうがないですねぇ」

私は大石さんに案内され、鑑識の爺様、熊谷勝也こと熊ちゃんと呼ばれる人を紹介してもらった。
大石さんとは事前に打ち合わせており、雛見沢の真実を掻い摘んで話す。
そこで反応を見て、恐らくシロだと判断する。
熊谷さんと鑑識の爺様に全てを話した後、C-120を手渡す。

「……お願いします」
「ああ任せとけ! これでワシの心残りが無事晴れるワイ」
「寒村に訪れた悲しい死の裏で暗躍する秘密の組織。くぅ~、正義の血が騒ぐッス!」

正直見知ったばかりの二人に話すのは抵抗があったけど、結果として協力が増えたと言うのはありがたかった。

「これで富竹殺しの謎が解けるわい」
「え、富竹さんが……?」
「なんじゃ、知らんのかい、5年目の祟りは富竹の奴が首を掻き毟って死んだんじゃぞ」
「……大石さん」
「ええ、まぁ後で話しますよ、ええ」

私は鑑識の爺様にC-120を手渡し、熊谷さんに資料の一部を手渡した。
その間は大石さんに、先ほど告げられた富竹殺しについて聞く。
富竹さんは私と同じ様にバトルロワイヤルに参加させられたはずであり、この雛見沢で発見されるはずがないのだ。
ところがそうではなかった、富竹さんはやはり6月19日に死んでいる。
私は大石さんに仲間の消息を尋ねる。すると不思議な事に私と圭一君だけが6月21日に行方不明になっているのだ。
そう、私と圭一君だけが、バトルロワイヤルに参加させられた可能性が高い事。
雛見沢大災害の行方不明者の消息だけでも手に負えないのに、おまけに死んだはずの富竹さんがバトルロワイヤルに参加していた。
そんなおかしな話は、大石さんだけじゃなくて私さえも信じる事はできない。
でも、私が出会った、見聞きした情報を考えるなら、平行世界という存在を認めるのが最も妥当だと思った。
さすがの大石さんでも、スケールが大きすぎて付いていけないと言った感じだった。

「……なんだか凄いことに巻き込まれてたんですねぇレナさん。
 ひょっとして、巻き込まれ体質でもあるんですかぁ?」
「さぁ……それは」
「まぁ何にしても、一つ言っておく事があります。
 この資料がどれだけ真実を付いていようと、このままでは公表する事は絶対に出来ません。
 あくまで資料だけですよ? バトルロワイヤルなんて言ってもそっちは誰も信じるわけが無いですよ」
「そんな!」
「レナさん、あんたが会った軍人や自衛隊らしき人影が雛見沢で活動している。
 すなわちそれは雛見沢に何らかの政治的圧力がかかっていると見ていい。
 そんな状況で資料をどっかのマスコミにリークしても、お上に握りつぶされて終わりですよ、終わり」

そんな、何で……。
せっかく、みんなの敵を討てると……。

「…………」
「ああでも諦めないでくださいレナさん。大丈夫です。
 私の知り合いに東京で勤めるエリートさんがいましてね、その人に相談すればこの資料を公に晒す事ができるかもしれません」
「……大石さん」
「礼には及びませんよ、んっふっふ」

大石さんによると、警視庁公安部に勤める赤坂衛という人が6年ほど前にこの雛見沢を訪れたらしい。
どうやらダム戦争における建設大臣の誘拐された孫を捜索しに、はるばる雛見沢まで調査した時に知り合ったらしい。
公安の赤坂さんというのは警察では調査し辛い秘密調査をメインに捜査していて、このような政治絡みの事件を扱うなら、避けて通れないとのこと。
さらに、大石さんは言葉を続ける。

「もう一つ聞いて欲しいことがあります、レナさんには戸籍を変更してもらいます」
「……調べられたら危険だから?」
「まぁそういうことになりますね、とりあえず一番近い身内の方に戸籍変更してもらいますが、どこか希望は?」
「……母が居ます、でも」
「ああ分かっています、一応レナさんの身辺は調査させてもらいましたからね。
 そこらへんの事情は簡単には把握してます、レナさん抜きで戸籍変更はこっちで勝手にやっておきますよ」

それで大石さんの話は終わった。
当面の住宅についてだが、大石さんの部屋に居候をさせてもらう事にした。
それからは特に何もなく、興宮で大石さんからの朗報を待つ日々が続いた。
大石さんたちに渡したC-120だが、残念ながら富竹さんを殺した雛見沢症候群には辿り着けなかったとのこと。
ただ、私達の言う雛見沢症候群と違う、テレビで頻繁に報道される雛見沢症候群に対しては効果があったとのこと。
たまたま興宮周辺で正気を失った雛見沢出身者が暴れていたと聞き、興宮署の人間がその人を逮捕したらしい。
その時に極秘でC-120を投与した所、雛見沢症候群の症状が劇的に緩和したらしい。
それは雛見沢症候群が実在する確かな証拠だった。
だが残念ながら入江先生がかつて手記に記した、非道な実験は行えない。
故に、雛見沢症候群の存在は証明する事ができなかった。とはいえC-120という雛見沢症候群の特効薬は実在する。
それはすなわち、雛見沢症候群と、それにまつわる陰謀が真実だと言う確かな証拠を示していた。

それからは特に滞りも無く時は過ぎ、戸籍変更と一緒に興宮の学校へと転校する事が正式に決まった。
戸籍変更は大石さんを通じて、滞りなく済んだ。
かつて母だった人間にもう一度出会い、そして話をした。そこには何の感慨も沸かなかった。
母だった人間もニュースを見たせいか知らないが、雛見沢のこと、そして出身者である私のことを忌引しているようで、大石さんへの親権委託は何のトラブルも無く済んだ。
そして、私は竜宮と言う苗字と、レナと言う名前を失った。




sm233:第三次ニコロワ大戦Ⅴ ――Happily ever after 投下順 ep-1:ベルンカステルの07(後編)
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