ご褒美は温泉旅行


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32スレ目の保管庫管理人の妄想リクエスト」の管理人の妄想を小ネタ氏が文章化してくれました。
感謝!


 ご褒美は温泉旅行


 第一話「いないし…」

「雨、止まないな」
「日頃の行いには自信あったんだけどなー」
「俺は自信ない」
「そっか。眞一郎くんの所為か」
「…あっさり言うなよ」
「ふふっ。ごめんなさい」

大きさこそ控えめだが、そんな会話が、人気の少ない車内に響いている。
空模様を嘆く内容とは裏腹に、実に楽しげだ。

「でもよく来られたよな」
「そうね」
「ホント言うと、絶対無理だろうなって思ってたんだけどさ」
「あたしはそんなに心配してなかったけど」
「そうなのか?」
「うん。だって、おばさん達、知ってたし」
「えっ? ウソ!?」
「応募画面、開きっぱなしだったって」

話は一月ほど前に遡る。山のように出された宿題と格闘していた眞一郎。
突然立ち上がると、軽快な足取りで階段を降りてゆく。

「比呂美ぃ…っていないし…」

一階にあるパソコンの前。
そこに期待した姿は無く、眞一郎は、軽く上げた手を降ろす。

「少し待ってみるか」

軽く息を吐いてからそう呟くと、椅子に腰掛ける。パソコンの電源は入ったままだ。

「これならすぐに戻ってくるか」

さして意味もなく、ブラウザを立ち上げる。
ニュースサイトから適当にリンクを辿っていくと、目に飛び込んできた一つのバナー。
リンク先は、インターネットの懸賞サイト。ページの読み込みももどかしく、内容を確かめていく。
眞一郎は、気が付くと申し込みを終え、確認画面に映る申し込み件名を、じっと見つていた。
バナーのコピーにもなっていたその件名は…。

『二人だけで行く ○○温泉の旅』


 第二話「もうすぐ着くね」

「初めてね」
「あれ? 比呂美は温泉初めてなのか?」
「………ち、が、い、ま、す!」
「な、なんだよ…」

目を瞑り、頬を膨らませそっぽを向く。
だが、それもどこか楽しそうだ。
比呂美は片目を開け、眞一郎の顔をちらっと見ると、すっと向き直る。
膨らんでいた頬は元に戻り、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「わからない? 本当に?」
「う~ん…ヒント頼む」
「しょうがないなぁ。それじゃ、一回だけ」
「うんうん」

大袈裟に頷いてみせる眞一郎。
それを見て、比呂美は、澄まし顔でヒントを口にする。

「バナーのコピー」
「あ~それっ! …か…ははは…」

 眞一郎は思い出す。『二人だけで』のキャッチコピーを。

「眞一郎くん、照れてる」
「そ、そういうお前だって顔赤いぞ」
「そんなことないです」
「あるって…あ、虹だ」
「えっ?」

比呂美は、眞一郎が指した指先を追って、上半身全体を窓に向ける。
目的地まであと少し。ふと見れば雨は上がり、陽光が満ちている。
その光景に目を細める比呂美。
視線の先には大きな虹。
眞一郎の目は、一瞬の間に、比呂美の横顔に吸い込まれる。

「この辺は雨…降ってないのね」
(降ってたっていいさ。お前と一緒なら)
「綺麗…」
(綺麗なのはお前だって)
「眞一郎くん」
(なんて恥ずかしくて言えるかよ…)

比呂美の横顔に見とれ、思考と顔の筋肉が、なにやら面白い事になる眞一郎。
比呂美の問いかけに気付かないようだ。

「眞一郎くん?」
(そうそう、眞一郎…)
「っておわっ!?」
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。ははは…」

両手を顔に押しつけ、マッサージするように、表情を整える眞一郎。
それを見て、くすくすと笑う比呂美。実の所、こんなやり取りは、それほど珍しい事ではない。
三代吉や愛子、朋与達はおろか、先日など、理恵子とヒロシにまで呆れられたばかりだ。

「もうすぐ着くね」
「そ、そうだな。荷物、降ろしておくか」
「うん」
「よし。それじゃ───」


 第三話「あの…一緒に…」

「それでは、ごゆっくりおくつろぎ下さい」

 仲居さんの声と共に、襖が閉じられる。

「お茶、煎れる、ね」
「あ、ああ…」

 懸賞で当たった温泉旅館の一室。
これで夕飯の時間まで、二人きりという事になる。
揃って恥ずかしがっているのは、その事を意識しているのだろうが、実はもう一つ、理由がある。

「でも、さっきは参ったよな。確かに、それっぽい人達多かったけどさ」

一息にお茶を飲み、少し落ちついたのだろうか。
眞一郎はほっとしたように、受付付近での出来事を思い出す。

「…ごめんね」
「な、なんで謝るんだよ」
「流石に迷惑って、思ったのかなって…」

宿帳に記入された『仲上眞一郎・比呂美』の文字。
気負い無く、自然に名前で呼び合う二人。
旅館側が『新婚さん』と勘違いするのも、無理ないだろう。
眞一郎としては普段通り、何も考えずに記帳しただけなのだが。

「そんな事っ! …ないって…う、嬉しかったし、さ」
「っ! そ、そうなんだ…」
「第一…書いたのは俺だし…」
「うん…」
「…比呂美はどうなんだよ」
「どうって…わたしは…わたしも…」
「………」
「………」

再び俯き合う二人。
こんなにも、テーブルという存在を、邪魔に感じた事はないだろう。

(誰だよ、テーブルなんてもんを考えついた極悪人は…)

などと、身勝手な考えを頭に浮かべる眞一郎。
やがて、沈黙に耐えかねた比呂美が、口を開く。

「あ、あの、お風呂、行ってみるね」
「俺も行くよ! あの…一緒に…」
「えっ!?」
「いや、そうじゃなくて…その…そこまで…」
「そっか、そうだよ、ね…」
「そうだよ、ははは…」

 未だ初々しさが抜けない二人。
それこそがキス止まりの理由なのか、キス止まりだから初々しいのか。
周囲からすれば、こんなにも焦れったく、からかい甲斐のあるカップルは、そうそう居ないだろう。

「じゃあ、後で」
「うん」

大風呂の入り口前。
はにかむように微笑み合う二人。
まるで名残を惜しむかの様に、暫くの間、暖簾をくぐろうとしなかった。


 第四話「うまくやるんだぞ」

「もう着いてる頃だな…」

新聞を読みながら、誰に言うでもなく、呟くヒロシ。
少し落ち着かない様子だ。

「あの子達ですか?」
「ん? ああ…」
「そうですね。今頃、部屋でくつろいでるんじゃないかしら」

ヒロシとは対照的に、理恵子は落ち着き払っている。
その顔には、柔和な笑顔さえ浮かんでいる程だ。

「良かったのか?」
「何がです?」
「一応はまだ学生なんだぞ」
「たまにはいいじゃありませんか」
「だがもし、間違いでもあったら…」

ヒロシの心配は、当然と言えば当然だろう。
卒業間近とはいえ、二人はまだまだ若い。
まして、実の息子の相手は、親友の忘れ形見であり、今では自分達の娘でもある、つもりなのだ。

「あの子達の場合、間違いじゃありませんし」
「それはそうだが…」
「そんな事よりあなた、そろそろお時間じゃありませんか?」
「ん? ああ…もうそんな時間か」
「お着替えは部屋に用意してありますから」

理恵子の言う事は理解出来る。
それでも、眞一郎は兎も角、比呂美は女の子だ。
やはり心配せずにはいられない。
形式的にもちゃんとしてさえいれば、心から喜ばしい事だと思えるのだが…。
今日では、稍古いと言わざるを得ない、貞操観念を持つヒロシ。
この辺りの感覚は、この親にしてあの子(眞一郎)あり、といった所か。

(理恵子のやつ…すっかり物分かり良くなったな…。
こうなったらしょうがない、その時は、変な言い方だが、うまくやるんだぞ、二人共)

どちらかと言えば、眞一郎の方に不安を感じつつ、心の中でそう呟くと、会合に向かう準備を始めた。

「美味しかった」
「ホント、美味かったよ」
「お茶、飲む?」
「頼む」

 浴衣姿ですっかりくつろいでいる二人。
仲居さん達の、好意溢れる“ひやかし”にも、徐々に慣れてきた様子で、夕食時の会話を思い出しては、笑い合っている。

「もう一回、お風呂行って来ようかな」
「あ…それだけどさ」
「え?」

 ふっと視線を外に向け、眞一郎が言う。

「部屋付きの露天風呂、入らないか」



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