新年度の始まり-11


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=色々考えましたが、キャラいじめは趣味じゃないので、強引に朋与復活


新年度の始まり-11


(あぁ…熱い…、もっと…もっと…もっと近くで…あなたを感じたい…)

そして、「眞一郎…」と囁いた。

今、朋与にはここが保健室であること、比呂美の存在、これから母親が迎えに
来ること、何も考えていない。自分と眞一郎、2人だけの世界。

始めて名前を呼び捨てにしたのに、反応がない。
「眞一郎…きて…」
今度は、より大きい声を出す。まだ反応がない。薄目を開けて見ると、
「くかぁ~」
寝ていた。どうやら準備に時間がかかり過ぎたようだ。
「…………でも、あたしの気持ちが分かったから…。いっか?」
もう一度目を閉じて呟いた。
しゅ、しゅ…。しゅ、しゅ…。しゅ、しゅ…。
名前を呼んだ時、朋与は布団の中で全裸になっていた。混乱した頭でも、何か
間違った方法で気持ちを確かめたことは薄々分かっている。でも、こうするし
かなかった。きちんと服装を整える。

ブブブ、ブブブ、ブブブ。
「うわっ!」
手に持っていた携帯電話が震えた。
「えっ!?」
「あっ、わりぃ。起こしたか?」
朋与の顔を覗き込んで聞いた。申し訳なさそうな表情と優しい目。
「ううん、大丈夫よ。起きていたから…」
心が落ち着く。頭の中のもやもやが消えた。
(あたし…あたし…、やっぱり…そうなんだ…)

「あ…うん、起きてる。…………………うん…分かった」
通話を終えた。
「比呂美がお母さんと会えたって。もうすぐ来るぞ。本当に大丈夫か?」
「ええ、大丈夫。ここに居てくれて、ありがとう…」
朋与は心から喜んでいた。

(よかった、残った。これだけが、残った。違う、支えてくれたんだ…)

その後、朋与は母親と共に帰宅した。元気の無い様子だが、瞳にはしっかりと
した光が宿っている。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

朋与は自室の布団で寝ている。天井を見上げたまま、ただ寝転んでいた。
時折呟きながら、これまでの事を思い返してみる。
最後まで朋与を支えていたのは、

「仲上くん…。あたし、本当にあなたのことが好きみたい…」

眞一郎への想いだけだ。
あさみが"あいちゃん"で自分の気持ちに気付き始め、その事について相談を
受けた後、忘れ去ったはずの想いが復活してしまった。その想いに戸惑い、
疑問を感じた。苦しみが始まった。その苦しみで心が壊れかけ、気が狂いか
けていた。今日、その想いを確かめることができた。
今、朋与が感じるのは、充実した達成感。

「あ~あ、やっぱね~、"ヤンデレ"なんて、ワケ分かんないっつ~の」

枕元にある推理小説のタイトルを見る。"学生時代"、"混ぜる"この2冊が
お気に入りだった。

「話は面白いんだけど…」

1冊は恋愛感情から、想い人への殺意にまで発展するもの。主人公は、自分に
好意を持つ女性達に疑いをかけ、悩みながらも事件の解決へと向っていく。
この物語そのものは面白いと思うが、主人公が嫌いだった。ふらふらと複数の
女性に手を出すことは許せない。登場する女性キャラクター達に感情移入する
ことも難しかった。

「やっぱ、"から なべこ"、最高」

もう1冊、複数の女性に好意を持たれることは同じだが、その女性達のキャラ
クターが様々で、"ヤンデレ"と称されている"空 鍋子"がお気に入りだ。
彼女の境遇は比呂美に近いが、物語の中での恋愛に関しては自分に近かった。
想い人には既に心に決めた女性がいて、それに気付いて苦しみ、心が壊れてい
く。挿絵を見た時に、ちょっと自分と髪型が似ていたこともあって、感情移入
して何回も読み返していた。

「"あの目"を見てから、ちょっと後かな? 読み始めたのは?」

朋与の推理小説を読むきっかけは、約1年前の出来事だ。
比呂美、眞一郎と同じクラスになり、始業式から数日経ったある日。比呂美の
視線に気が付いた。眞一郎を目で追っていたのだ。何回も、何回も。
それで彼女の気持ちが分かった。それから、比呂美を通して眞一郎を見るよう
になった。最初は比呂美を通して見ていたものが、気が付くと違っていた。
朋与は自分の心にある気持ちに戸惑ったが、ある日、聞いてみた。
「あたしが何とかしてあげよっか?」
「放っておいてくれ」
そう言った眞一郎の目は、あさみも見た"あの目"だった。その頃には比呂美と
眞一郎の、お互いの気持ちに気付いていて、自分がその間に入ってどうこうし
ようとは考えなかった。その後、朋与は"あの目"を忘れることができない。
押し込めようとしても、難しかった。それだけ強烈な印象を受けていた。

「あん時は、忘れられたのにね~」

唯一の方法は忘れ去る事。無かった事にして、比呂美を通してでも、直接でも
眞一郎を見ることを止めた。その時は、まだ自分の抱いた気持ちが強いとは思っ
ていなかったので、比較的簡単にできた。
しかし、何かの拍子に思い出しそうになっていく。特に一人でいる時が多かっ
た。元々興味があった推理小説を読むようになっていった。読んでいる間は他
の事を考えずに済む。一人でいても眞一郎への想いが湧き上がるようなことは
無くなっていった。少し時間はかかったが、上手くできた。

朋与は、眞一郎への想いの強さを知らないまま、忘れ去ろうとしていた。

「もっと早く気付けばよかった…。そしたら、こんなに苦しくなかった…」

1週間と少し前、復活してしまった眞一郎への想いを、疑った。
その強さに戸惑い、疑問を持った。
本当に好きなのか? 本物の想いなのか? 思い出を勘違いしていないか?

「そりゃ、困るっつ~の」

勘違いではなく本物と思いたい、でも、それでは弱かった。思いたい、では、
足元がぐらつく気がした。確固たる"何か"が欲しい。
そんな時、頭に浮かんできたのが、"空 鍋子"という登場人物。
"空 鍋子"は自分を追い詰め、苦しめて、"何か"を掴む。そんな事をしていた。
朋与は真似するのを決めた。"ヤンデレ"は自分と最も離れた場所に位置する性
格だ。それを演じて、自分をとことん追い詰め、心が壊れるまで、気が狂うま
で苦しんで、苦しみ抜いて何が残るのか、試したかった。
二人を茶化すのではなく邪魔をした、せっかく撮った写真を改造した、なるべ
く眠らずにその写真を見つめ続けた、空腹を満たしてからわざと吐いた。
自分を嫌い、睡眠時間を削り、栄養を取らず、自分を痛めつけて、苦しませて
みた。朋与は賭けに勝った。倒れるまで自らを追い詰めても眞一郎への想いは
消えなかった、むしろ、想いそのものが朋与を支えていてくれた。

目が覚めた時、その声が、その姿が自分の心にあるそのままで、近くにいた。

喜び。心の底から求めていたもの、本物の想い。
驚き。自分がこんなにも人を好きになるとは、考えていなかった。

「仲上くん…。あたし、本当にあなたのことが好きみたい…」

朋与は想いの強さを実感し、決意を固めた。前へ進み、何かを掴む、その為に。

「そんなら、ご飯食べて、ガスター10飲まなきゃ。あ゛~、胃が痛い…。
 ちょっと無茶しすぎだっつ~の。…………………………でも、良かった…」
何となく笑顔になりながら、自室を出て台所へ向った。

「お母さ~ん、お腹空いちゃった~。何か、食べる物、な~い~?」
"本当の私"の気持ちを抱きつつ、とてもいい笑顔を浮かべた朋与がいた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

翌朝。眞一郎は昨日と同じ様に机で寝ていた。
比呂美が登校した時、それを見つけると、早速近寄って声をかける。
「眞一郎くん、起きて」
「…」
いつも通り、無反応。そこで、比呂美は耳元に口を近づけ、
「お・き・て♪」
甘ったるい声で囁く。
「ん゛~」
少しだけ反応があった。教室は、"ざわ…ざわ…"。
そう、既に殆どの生徒が登校していた。当然"イベント"観戦の為である。いつ
もより、皆早起きして気合が入っている。昨日、あんなものを見てはゆっくり
していられるはずがない。登校していない生徒はあと2人。
"ざわ…ざわ…"した理由は、比呂美が"話題の女子生徒"よりも早く眞一郎を確
保し、かつ先手を打って起こし始め、しかもその甘い声が聞こえてしまったか
らである。教室なのに耳元で囁くなど、ちょっと類を見ない。"ざわ…ざわ…"。

「あ~、もうっ! 少し遅くなっちゃったぁ」
あさみは駆け足で教室へ急ぐ、昨晩も可愛いポーズの研究に力が入ってしまい、
少し予定よりも登校が遅くなってしまった。でも、後悔は無い。いくつかバリ
エーションを増やすことに成功した。教室に入った、眞一郎を探す、いた。
「!」
それは、比呂美が次の起こし方をしている時だった。

「眞一郎くぅん♪、起きて、起きてぇ♪」
「ん゛~」
何と、比呂美は眞一郎の頭に頬ずりしながら甘い声を出していた。すりすり。
普通すんなりと起きない場合、手荒な方法になる。でも、比呂美は違う。起き
なければ起きない程、より大胆に優しく、甘くなっていく。"ざわ…ざわ…"。

そして、あさみ登場。"ざわ…ざわ…"に一瞬だけ"どよっ"が加わる。

    (きたーっ!)<以下、同じ教室にいる生徒の気分で読んで下さい>

あさみ、鞄を自分の机に置いて、眞一郎の元へ。自分だって起こしたい。
軽やかに突進。そして、"ざわ…ざわ…"。

     (い、いきなり行くか! いいぞ! もっとやれ!)

「おはよう! 比呂美!」
必要以上に大きい声で自分の存在をアピール。ついでに眞一郎が起きればこち
らの勝利は近い。
「あっ、おはよう。あさみ」
頬ずりを丁度止めたところだったので、挨拶を返す。三代吉が参加する。
「おはよーさん」
「比呂美。仲上くん、また寝てるの?」
三代吉が無視された。"ざわ…ざわ…"。

     (ゴ、ゴングが鳴った! 鳴ったよ!?)

「うん、昨日は遅くなったのに、今日は早起きしたみたいなの」
「ふ~ん、昨日、遅かったの?」
あさみの声は少し冷たい。何かを含んでいる。
「あ、うん…」
比呂美は何故か頬を染めて少し俯いた。"ざわ…ざわ…"。

     (な、何で遅くなって、頬染めんの? ねぇっ!?)

「どうして遅くなったの?」
「電話したの。絵本描いてるって言ってた」
「ふ~ん、どうして早起き?」
「どっかにスケッチ行ったみたい。朝じゃないとダメなんだって…」
"ざわ…ざわ…"。

     (すげぇ、何でこっちがこんなに緊張すんだろ?)

「でも、もうすぐ先生来ちゃうね? 仲上くん、起きないの?」
「あ、うん。でも、いっつもこんなんだよ?」
"ざわ…ざわ…"。

     (い、いつも?)

「どうやって起こすの?」
「あ…あの………えと…………その…」
比呂美、さらに頬を染める。"ざわ…ざわ…"一時停止。

     (ゴクリ…)

「こうすれば、いいんじゃない?」
あさみ、アクセル全開。
「あっ!」
比呂美が気付いた時にはもう遅い。あさみは既に眞一郎の肩に手をかけて、耳
元に口を寄せていた。
「「おはよう、仲上くん。起きて?」」
2人の声が同時に起こしにかかった。え? 2人?
"ざわ…ざわ…"再開、そしてボリュームアップ。

     (な、何で!? 黒部までっ!?)

あさみとは反対側の肩に手をかけて起こそうとしたのは、笑顔の朋与だった。
"ざわ…ざわ…"に"どよっ"が加わり、教室内を駆け巡る。ちょっと混乱。
しかし、やっと起きた眞一郎は、
「えっ!? なっ、何? 何だ? どうした? え? 比呂美? 何で?」
寝ぼけていても、まずは比呂美を視界に入れる。朋与とあさみが唇を噛む。
"ざわ…ざわ…"、さらにボリュームアップ。

     (マ、マジかっ!? そ、そうなのかっ!?)

「うんっ! おはよ、眞一郎くん。私だよ?」
比呂美は朋与とあさみの表情には気付かない。まずは、眞一郎。
「えっ!? あれっ? さっきまで…一緒に買い物…」
どうやら、本格的に寝ぼけている。夢を見ていたようで、その時の比呂美と混
乱しているらしい。夢に出演できた比呂美は、
「んふっ♪ 私の夢を見ていたのぉ♪」
上機嫌で満面の笑み。机を間に挟んでいなければ、抱きつきそうな勢い。
それに不満を感じるのは、
「仲上くん! あたしを無視するなんて、いい度胸じゃない?」
「仲上くん! 私もいるんだけど!」
朋与とあさみだった。2人ともアクセル全開だ。

     (こ、これは冗談で済まされないんじゃ?)

"ざわ…ざわ…"が静まっていく。教室に緊張感がみなぎった。
それを感じないのは4人だけ。
「え!? えっ!? な、何がどうなって? えっ!? あれぇ?」
まだ状況を掴めない眞一郎。
「眞一郎くぅん♪ 夢って、どういう夢♪」
蕩けるような表情の比呂美。
「…」
「…」
無言の朋与とあさみ。睨み合う。
(ふふふのふ、昨日までの"あたし"とは、違うわよ?)
(ちょっと、何? 朋与?)

"イベント"は終了した。あまりの緊張感で正視に耐えない。正直怖かった…

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

お昼休み。
朋与とあさみが動いた。集まっていた3人へ向って、
「ごめん、あさみと話があるから、今日はあたし達、別で食べるわ」
「ごめんね~、ちょっと朋与と話があって…」
比呂美、眞一郎、三代吉の3人は驚きの表情。そして、教室は"ざわ…ざわ…"。

     (ど、どこで試合が見れるんだ!?)

「じゃ、行こっか?」
「うん」
力強い歩調で歩き去っていった。手には可愛らしいお弁当箱。

次回、対決…予定。


END


-あとがき-
ふう、やっと7で出した"朋与の推理小説好き"を回収できました。
本当に先を良く考えずに書いているので、朋与が眞一郎を好きだった設定を
考えたのは、6の終了後です(9のあとがき参照)。
7を書く時点では決まっていたので、予め伏線を張っておきました。
あさみは決まっていましたが朋与が未定になっていて、かなり強引な展開に
なってしまいました。申し訳ない…。やっぱり、鬱継続は好みではないので。
今にして思えば、朋与が悩んでいる描写をちょこちょこ入れておけば良かっ
た、と後悔してます。うぅ…

ガスター10を飲ませたのは"ついで"。意味は無いです。まぁ、比呂美スレ
向けってことで納得して下さい。

文中の表記について:二人と2人。君とくん。
比呂美と眞一郎を表す場合、二人。それ以外の場合は2人、です。
"眞一郎と朋与が2人きりになる"と、書きます。意識的にそうしてます。
仲上君と仲上くんも一応意味が違います。前者は友達に、後者は好意を寄せ
る気持ちが伴う場合に使います。平仮名の方が甘い空気を出しやすい、かな。

 ありがとうございました。
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