新年度の始まり-13


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新年度の始まり-13


休日前の下校時。
「仲上くん! 比呂美! また明日!」
「また明日ね! 仲上くん! 比呂美!」
朋与とあさみが、分かれ道で二人に手を振りながら歩いていった。
「はぁ…」
思わず溜息が出てしまうのは眞一郎。
「…」
言葉がないのは比呂美。

"ある朝の一件"以来、朋与とあさみは、微妙なアプローチを眞一郎に対して繰
り返し行っていた。明確ではない、あくまでも、微妙だった。

教室を移動する時…、
「あ、仲上くん。次の実習、よろしくね?」
朋与が眞一郎に並んで話しかけた。
「え? 何で?」
「仲上くんの班は他よりも少ないし、今日は1人休んでるでしょ?」
「いや、でも…」
「先生には話してあるから大丈夫よ~。だから、よろしくね?」
「あ…あぁ…」
「…」
眞一郎を挟んで反対側にいる比呂美は無言。

掃除をする時…、
「あっ! 仲上くん! ゴミ捨てに行くの、手伝って! これ、重いの…」
大きいゴミ箱をよろよろと持ちながら、あさみが声をかけた。
"よろよろ"は鏡の前で練習した"可愛いポーズ"その14だ。
「あ…あぁ…」
「…」
掃除用具を片付けながら、比呂美は無言。

この様に、朋与とあさみは微妙なアプローチをしていた。今の時点で決定的な
事をすると"結果"が分かっている2人は、それぞれ打ち合わせもしていないの
に同じ結論に達したらしく、話すチャンスを少しでも多く作って、とにかく自
分をアピールする事に徹していた。

眞一郎に対する態度、距離、言葉使いは、明らかに"友達以上、恋人未満"。

これでは比呂美が怒ることも、止めることも難しい。2人のしている事ははあ
くまでも、仲が良いから、と言い訳ができる範囲である為、如何ともしがたい。
一方、二人はストレスに感じている。
「毎日、疲れる…」
「わ、私も…」
元気が無かった。何となく足取りも重い。二人は"ある朝の一件"があった日、
お互いに気持ちと絆を確かめ合ったので動揺することはないが、友達である以
上、邪険にもできず、困っていた。
今や、比呂美は完全に朋与とあさみの眞一郎に対する気持ちに気付いている。
しかし、分かっていても"決定的な事"がなければ、どうしようもない。自分と
仲の良い友達が、恋人(比呂美「きゃ♪」)と親しいのは、ある意味、嬉しい。
嬉しい事のはずなのだが、心は晴れない。やはり、ある程度の親しさ以上を示
されては面白くない。面白くはないが、止められない。
どうしても不安が付きまとう。こんな気持ちは、状況は違うが"あの頃"以来だ。
「眞一郎くん…」
二人きりになると、"隣"にいる恋人(比呂美「もっと言って♪」)に、何度も視
線と言葉を投げかけていた。
「比呂美…」
応えながら握った手に力を込める。…きゅっ…「大丈夫、ここに居るぞ」だ。
「眞一郎くん…」
家まで何度も繰り返される、このやりとり。
「比呂美…」
何度でも握った手に力を込める。…きゅっ…「俺はここだぞ」だ。

「明日のピクニック、あんまり楽しみじゃないの…」
2週間程前、仲上家での"集まり"に4人を招いた。愛子や三代吉の様に慣れて
いない朋与とあさみの親達は、せめて二人に何かお礼をしたいと、自分達の子
供を通して申し出てきた。
別にそんな事しなくても…と思っていたが、最初で最後だから、と言われては
断ることも出来なかった。お礼としてあまりお金をかけず、しかも春休みに楽
しかったと聞かされていたピクニックなら丁度いいのではないか?と言われて
は、断る方が気が引けた。
"ある朝の一件"があったので、休日まで一緒になるのは正直遠慮したい。
2日前に、もう一度断ろうとしたが、笑顔で却下されてしまった。
「俺もだよ…。でもな、いい事考えたんだ。聞きたいか?」
眞一郎は最初比呂美から2人の事を聞かされた時、信じられなかった。変だな、
とは思っていても"そういう気持ち"を自分に抱いているとは考えていなかった。
丁寧に説明されて、渋々理解した、という感じだった。そして、自分達の事を
知っているのに、そうなった事に対して困っている。2人は比呂美の友達であ
るから冷たくはできない、かと言って、そのままにもできない。
「えっ! なに? なぁに?」
眞一郎の悪戯っ子の様な表情を見て、期待した。先程までの沈んだ顔はどこへ
やら、にこにこしながら全身を押し付けて顔を覗き込んだ。
「あのな? ちょっと恥ずかしいかもよ? それでもいいか?」
自分でも大胆だと思っていたから、少し頬を染めていた。今までは二人きりの
時だけしか、比呂美にしていない態度を自分も取らなくてはならない。
「うんっ、何でもするよ?」
比呂美は知っていた。眞一郎がこの表情をする時、何かいい案が浮かんだ時で
あることを。特に付き合い始めてから顕著になっている。それは、多くの場合
喜ばしい結果が舞い込んできた。
「えっとな? 明日、みんなの前で、思いっきりベタベタしまくる」
体を押し付けてくるのを受け止めながら、提案する。自分達が"どうなのか"、
はっきり見せようと考えていた。
「ベタベタ?」
意味が分かって頬を染めながら、比呂美が聞いた。もっと具体的に言って欲し
かった。
「今みたいにな? 明日、ピクニックだからお弁当だろ?」
「うんっ!」
瞳は輝き、表情には晴れ晴れとした笑顔が浮かぶ。
「食べさせたり、食べさせてもらったり…」
「うんっ!」
飛び上がらんばかりに喜んでいた。
「俺達のことを、思いっきり見せれば…」
「うんっ! するする! いっぱいする!」
「する?」
口調には、"別のニュアンス"が含まれていた。
「うんっ!………あ、そ…そういう意味じゃなくて、あの…………その…」
「俺はいいけど?」
「もうっ! そんな事言うとしないよ!?」
「いいのか?」
「あっ…………えっとぉ……あのぉ………そのぉ…」
比呂美は困ってしまい、耳まで赤くしながら眞一郎の胸に顔を埋めた。二人き
りだと恥ずかしがるのを知っているのに…、と思いながら。でも、自分の気持
ちを分かっていてくれているようで、眞一郎の提案が嬉しかった。
「はははっ」
眞一郎が雰囲気を変える為に笑う。
「あはははっ♪」
比呂美も笑う。そして、
「眞一郎くんっ♪」
しっかりと目を見た。比呂美の瞳は潤んでいる。
「ん?」
「大好き…」
力いっぱい抱きついた。…むにゅ&ぎゅ…。頬をすりすり、蕩けた笑顔。
「俺も、比呂美が好きだ」
二人は抱き合ったまま、その場で立ち尽くす。そんな時は、いつもの…

「私はね? 何も怒っているわけではないのよ? ただね、帰ったら
 『ただいま』くらい言ったら?って"お ね が い"してるのよ?」
抱き合っている所を、またもや眞一郎の母が見ていた。
「「た、ただいま…」」
何とか声を絞り出した。今の会話を殆んど聞かれていたようだ…。

どうやら歩きながら話している間に、また眞一郎の家に着いていたようだ。
休日前に比呂美の部屋に泊まってばかりいると、"疑われる"。だから、今日は
珍しく眞一郎の家に泊まることにしていた。着替えなどは、予め何日か分は置
いてある。明日は揃ってお出かけする日でもある。"警戒"の意味も込めて、こ
ちらで泊まることにしていた。たまには待ち合わせしないで、"同じ家"から出
かけるのも、いいものだ。

それにしても、よく見つかってしまう二人だな…。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

朋与は自室でパソコンの前に座っている。そして、呟きながら考えていた。

「はぁ…、明日か…」
やはり1人でいると、思い詰めた表情になっていた。壁紙にしている写真の眞
一郎の見る時間が増えている。今、感じているのは、倒れる前とは違う意味で
見れることがとても嬉しい、ということ。
でも、それはあくまでも写真だ。欲しい、という気持ちが先に立ち、現実でな
いものでは満たされない。
そこで、純粋に眞一郎の写真を見て、声を、姿を思い出す。心が温かくなり、
満たされている気持ちになる。そうすると少しずつ表情が穏やかになっていく。

「眞一郎…」
写真へ呼びかける時は、苗字はではない。"いつの日か"、目を見て、言いたい。

「眞一郎…」
"いつの日か"、抱きしめて欲しい。

「眞一郎…」
"いつの日か"、特別な好意を向けて笑いかけて欲しい。

「眞一郎…」
"いつの日か"、想いを込めて「朋与」と呼んで欲しい。

「眞一郎…」
"いつの日か"、自分をかけがいのない存在として認めて欲しい。

「眞一郎…」
"いつの日か"、自分の全てを受け取って欲しい。

何度も写真へ向けて呼びかけている間に、朋与の表情が崩れていく。胸が苦し
くなり、体が震え始める。

「比呂美、ごめん…。分かっていても、気持ちを止められない…」
朋与は知っている。自分の願望が満たされる事があっても、それは良い結果で
は無いかもしれないことを。そして、それは朋与にとっても同じかもしれない。
しかし、復活してしまった想いは、強すぎた、大きすぎた。とても自分だけで
何とかできるものではなかった。
比呂美の存在があっても、今までの事を聞いていても、自分が影響したことが
あったとしても、止められなかった。
「あたしにしては、がんばったと思うな…」
今週に入って、眞一郎に対しての態度を変えている。比呂美に対しても。
今までしたことのない事を、全力でしたつもりだった。"決定的な事をする"と
出る"結果"、それは最初から分かっていた。
何も無いと思った時に、"何か"を得るには"何か"をしなくてはならない、
そう感じて、頑張ってきた。
不思議な事に"何か"をすると、少しだけ"軽く"なった。朋与は倒れる前の様に
は、推理小説を読まない。眞一郎への想いを実感した、その時から必要なくなっ
たから。その時間を"何か"をする事を考える為に使った。楽しい、心の底から
感じて、もっと、もっと考えるようになった。それは、初めての経験だった。
「あれが、始まりだったのかなぁ…」
明日はピクニックだ。思い返すと、春休みの時にも行った。比呂美が少し暴走
した"ある出来事"が、始まりだった気がする。
それが原因で、比呂美への罰として自分とあさみを名前で呼ぶ事を眞一郎に強
制したのだった。
今でも思い出す「朋与」と呼ばれた時、冷静な表情を保つことで精一杯だった
ことを。後にも先にもあれ1回だけ。その時はどうしてあんなに動揺しそうに
なったのか、分からなかった。でも、今は理由が分かる。

「眞一郎…、『おい、朋与』って言って、お願いだから…」
震える声でパソコンの写真に懇願した。
苦痛に顔を歪め、全身を震わせ、手を力いっぱい握り締めながら。

朋与はまだ苦しみの中にいた。以前とは意味が違うが、苦しみには変わりない。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

あさみは悩んでいた。
「うぅぅ…、どっちがいい?」
明日の為に用意した、真新しいブラウスを2つ持って鏡の前にいる。既に30
分が経過していた。ちなみに、まだ1品目だ。先は長い。
ベッドにはこれから検討されるべき服が、積まれたままで順番を待っている。
先が思いやられるので、なるべくそっちを見ないようにしていた。

朋与が、自分と同様な方法で眞一郎にアピールしてきた。初めはびっくりした。
でも、眞一郎に少しでも自分を見てもらいたい気持ちが先行していて、そんな
事にはかまっていられなかった。笑顔を向けて、体全体で気持ちを表し、話し
かけて、その声を姿を少しでも近くで感じたい。あさみは純粋に眞一郎を想っ
ている。眞一郎が自分を見る時間を増やす為に努力する、それが楽しい。

「と、とりあえず、コレで…。次は…、えっ!? ウソぉ…」
やっとブラウスが決まったようだ。しかし、スカートを見た瞬間、見落としに
気が付いた。
「ま、まずい…。スカートかどうか、決めてなかったんだ…」
がっくりして、その場に蹲った。頭が混乱して、何も考えられなくなる。
「うぐぐぅ…」
あさみ、行き詰ってしまう。そんな時は、こうする。
「な、仲上くんの"あの目"とあの言葉…」
2人で居残りして資料整理した時のことを思い出す。体中に力がみなぎってき
た。すっくと立ち上がって、鏡の前に立つ。
「その21!」
"可愛いポーズ"を決める。
「よし! 選ぶぞ!」
もう一度ブラウスを2つ手にした。
「うぅぅ…、どっちがいい?」
実はこれで既に5回目。深夜まで、明日の服装が決まりそうにない。

"決定的な事"すると出ると思われる"結果"を、あさみは分かっている。でも、
今はそれを考えることはしていない。比呂美に対する複雑な気持ちを抱えなが
らも、全力で眞一郎にアピールする。それをしない限りは余計なことを考える
だけ無駄だと思っていた。
どういう結果だろうと、自分を知ってもらわないとその"結果"が受け入れられ
ない。簡単には、この想いが消えないと感じていた。
居残りして資料整理した時の事は、あさみにとって、大きい事件だった。
あんなに嬉しい事は経験したことがない。次にチャンスが巡って来る保障はな
い。今、頑張らないとダメだと思うと、不思議と何でもできる気がした。

あさみは楽しさの中に不安を抱えつつも、全力で頑張っている。
"結果"を受け入れることが出来る様になる為に、
それよりも眞一郎に近づく為に、自分を見てもらう為に。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

翌朝、二人は支度をして、出かけるところだ。
眞一郎の母が見送りに門まできてから、比呂美に話しかける。
「今日は、こっちで夕食にするの? それとも、向うで"食べさせてあげる"の?」
やはり、昨日の夕方の会話を聞かれていた。
「あ、あの。こちらでごちそうに…」
目を合わせることが出来なかった。
「そう、分かったわ。はい、二人とも"思いっきりベタベタ"ピクニック。
 楽しんできてね?」
笑顔なのに、目が笑っていない。
「「い、いってきます」」


二人は門を出ても無言だったが、今日の楽しみを思い出して足取りが軽くなる。
最初の角を曲がると、
「えいっ♪」
「うおっ」
「んふふっ♪ 今日はそういう日なんでしょ?」
「うん、まぁな?」
比呂美は、頬を染めながらも眞一郎の左腕を掴んで満面の笑み。眞一郎も笑顔。


朝日に照らされながら、二人はゆっくりと目的地へ向っていく。


次回、らぶらぶピクニック!…の予定。

END


-あとがき-
えーと、いかがでしょう? 比呂美と眞一郎の仲の良さを描いてみました。
こんな風にしていれば、大抵の事は回避できるのではないかと。
好きと言い合うのもこんな場面の方が好みです。嬉しくて自然に出る言葉。
比呂美にとって、朋与とあさみは友達なので、簡単には"排除"できないはず。
だから、眞一郎の助けが必要になる、それを描きました。逆のパターンもある
かも、面倒なので書きませんが。
ここまで長かった…、こんなはずじゃなかったのに…。

朋与とあさみ、どうなるか分かっていても止められない。そんな状態です。
種類は違いますが、単なる玉砕は望んでいない様です。

眞一郎の母の態度ですが、あまり目立つことは避けてもらいたい、という気持
ちがあるだろうと思って描いています。いじわるではなく、二人を厳しく優し
く見守る、感じ。暴走しがちな高校生ですからね、誰かが抑えないと。
後の話で機会があればそういう描写も入れる、かも…。
ラブコメ描写に楽なので使用、ってのが本音ですけどね…。

先の話を考えてはいませんが、使えそうな設定をある程度絞っておいて、登場
人物の動きにまかせ、いいと思われるものを使う、話の進め方はこんな感じ。
長かった…。やっと最後が見えてきて、一安心。もう少し続きます。

 ありがとうございました。
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