新年度の始まり-15


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新年度の始まり-15


「聞け!」

眞一郎が始めて怒号を上げた。比呂美がびくっとなる。怒鳴られた、それは初
めてのことであり、衝撃だった。不安が募っていく。
「大きい声出してごめんな? 俺の話を聞いてくれ…」
「…」
言葉が出ない。とうとう、してはいけない事をしてしまったと思っていた。
体が震え、足に力が入らない。眞一郎を怒らせてしまった。
「今日の事は、俺が悪いんだと思う。俺はお前ばっかり考えていたんだと思う。
 お前の友達まで考えてなかった」
「…」
少し、ほっとした。怒鳴られたことは自分の言ったことではなく、感情が高ぶ
り話を聞かないことが、怒られていたことが分かったからだ。
でも、不安だった。
「お前の大切な友達だもんな? ごめんな? 俺のせいで2人が嫌な思いを
 したんだな…。ちゃんと言わないとだめなんだと思う…」
眞一郎は"上手く言えないけど"とは言わない、必死で言葉を考える。
伝えよう、伝わるように話そう、その気持ちで言葉を繋いでいく。
「こんな時、友達なのにお前が言ってしまうと、変になりそうだもんな…。
 俺がお前だったらって考えたら、俺が酷い事をしたんだって思った。
 だから、ちゃんと話して、謝らないとだめなんだと思う」
「でも…」
「いや、俺が話す。お前は話しちゃだめだ」
「でも…」
「俺も友達は失くしたくない。大切なものは失くしたくない…」
「眞一郎くん…」
「俺にとっては比呂美だけ。でも、お前の為に考えてしたことで、
 お前や、お前の友達が嫌な思いしたら、意味無いと思う…」
「…」
眞一郎の気持ちが伝わり、比呂美の心に喜び広がっていく。
「だから、俺が話す。いいか?」
「うん………ありがとう。眞一郎くん…」
「おいで、比呂美」
「眞一郎くん…」
ふわっと抱きつく。お互いに背中に手を回して、力を込める。
「でも…」
「ん?」
「私、さっき言った事…」
「さっき?」
「うん、私が勝手にって、私が勇気無くてって…」
「それの事か?」
「うん…、私、やっぱり――」
「お前、俺を甘く見てんな?」
言葉を遮って、少しだけ体を離して、目を見て話し始める。
「俺がどれだけお前のこと好きか。分かってんのか?」
「うん」
心臓がどきんとした。
「いや、分かってないな。俺、お前が1年まともに話してくれなくても、
 色々あっても、ずっと好きなままだったんだけど?」
「…」
「お前だから、他には何も無いぞ?」
「…」
「分かったか? 俺は比呂美が好きだ」
「…」
無言のままで力いっぱい抱きつく。そして、
「眞一郎くん、大好き…。本当に大好き…、私も眞一郎くんだか……うぅぅ…」
最後まで言う前に泣き出してしまった。嗚咽を抑えずに全身を震わせている。
自分を見てくれている、愛情に包まれ、守られている、本当に嬉しくて泣いた。


「「…」」
朋与とあさみは、木の陰で身動き一つせずにその様子を伺っていた。
「分かってて、好きになったんでしょ? 違うの?」
いつの間にか後ろにいた愛子が、囁くように言った。
「アタシ、先に戻ってるから…」
ゆっくりと歩き去る足音が、2人にとって"何か"が遠ざかっていく音に聞こえ
た。そうだと分かっていても、覚悟があっても、哀しいこと。
2人は抱き合う姿を見ない様にしていたが、一瞬だけ視界に入れた後で、
その場を去っていった。"その時"から少しでも遠くへ逃げるように。


「比呂美…」
やがて、泣き止んだと見た眞一郎が話しかける。
「なぁに? 眞一郎くん」
いつもの甘い声。しかし、"意味"が違う。
「今日の立場が逆の時は、お前に頼んでいいか?」
「うん…、勿論だよ? 私だって、眞一郎くんだけなの…」
「ありがとうな?……………あれ?…」
「うん……………………ん?」
心が落ち着いてから、比呂美は"あること"に気付いた。
「な、何、かな?」
言葉に動揺が見られるが…。
「眞一郎くん?」
泣き止んだ顔に、何故か少し怒りが見える。はて?
「え~と…あの…………その…」
「どうして?」
「いや………………男だから、かな? はは…」
「この、お腹の下の方に当たるのは、何?」
「だって、お前を抱き締めてるし」
「ふぅん…」
「あ」
「眞一郎くんって、私をそういう事でしか見てないの?」
「ちっ、違うって! それは違う! 違うぞ!」
「じゃあ、"これ"は? 何?」
くいっと腰を動かした。おいおい…。
「いや、正常な男の反応?」
思わぬ"攻撃"を受け、完全に腰が引けていた。
「知らないっ! 眞一郎くんのバカっ!」
ぱっと体を離して、歩いていく。
「おいっ! 待てってば!」
慌てて追いかけた。
「ふ~んだっ!」
怒っているようだが、顔は笑っている。穏やかな気持ちを感じていた。
「待ってくれ~」
歩き難そうに追いかける後姿は、情けなかった。こちらは必死…。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「あっ! ごめんね~?」
比呂美が皆のところへ戻ってきた。
「何してたの~? ま、まさか!」
愛子が少しわざとらしく、からかう。
「ちっ、違っ!」
「分かってるって! 色々あるんでしょ?」
「う、うん…」
「まぁ、いいから。座れば?」
比呂美が座るまで、朋与とあさみは黙っていたが、愛子があれこれと話してい
る間にいつもの様子に少しずつ戻っていった。
「ま、迷った。完全に…」
歩き回って疲れた表情で眞一郎が戻ってきて、"わいわい、がやがや"に参加す
る。朋与とあさみは、特に話しかけようと無理をするでもなく、"以前"の様に
接していた。比呂美には、意地でも"そんな表情や態度"を見せることなく、話
していた。"いつの日か"話す時が来るのかもしれない。しかし、今は時間を忘
れて友達同士の会話を楽しんでいた。
「あっ! もうこんな時間だ…。帰ろっか?」
確かに今から帰っても、お互い家に着く頃には辺りが暗くなる時間だった。
「ほら! 三代吉ぃ! 起きて!」
「んあ?」
6人はバスで移動して、それぞれの自宅へと帰途についた。
途中、意味ありげな愛子の視線を受けて、眞一郎が困った顔をしていたが、比
呂美はそんな2人を見ても笑顔だった。皆と別れてから、
「愛ちゃん、知ってるみたいだね?」
と、からかう。
「バレる時って、簡単に分かっちゃうみたいなんだよな~」
「ふふっ、"お姉ちゃん"には勝てない?」
「それはお前も同じだろ? 色々知られてるのは、お互い様だし」
「あ、そうだった…」
何故か二人揃うと、愛子の前で"イベント"を発生させてしまうのは、どうして
だろう? 比呂美と眞一郎は不思議に思っていた。そして、帰宅すると…、

居間で夕飯が並んだ食卓にて、こんな質問を受ける。
「どうだったの? "思いっきりベタベタ"ピクニックは? 楽しかった?」
「「あ…」」
二人とも何も言えない。当初の予定とは違ったが、"ベタベタ"だったことには
変わりないことを思い出していた。
「と、ところで、母さん。俺の箸は?」
「あら? ごめんなさいね? ついでに"食 べ さ せ て"もらったら?」
冷たい視線と言葉。言い逃れや嘘は通用しない。聞かれているから。
「い、いや、あの…」
「それとも、私が"食 べ さ せ て"あげましょうか? しんちゃん?」
「取ってくる…」
「あ、私が…」
比呂美が先に動いて、台所へ向った。残された眞一郎は、
「ん? 何の話だ?」
父親に聞かれて、
「…」
何も答えられなかった…。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

あさみは自室のベッドで寝転んでいる。

「はぁ…」

溜息が出てしまう。これで何回目だろうか。しかし、すっきりした気持ちでも
あった。この2週間くらい、"何か"を求めて"何か"をしてきた。今までで、最
も充実した時間を過ごしていた気がする。それに終わりが訪れようとしていた。

「明日、かな?」

学校でどんな顔をしたらいいのか、どんな言葉をかければいいのか、どんな態
度で接すればいいのか、あさみには分からなかった。あんなに毎日学校へ行く
のが楽しかったのに、今日は違う。

「明日、か…」

おそらく、眞一郎が自分と話をするだろう。そして、"結果"が出る。分かって
いても、決意を持って覚悟していても、できれば聞きたくない。でも、自分の
為にも比呂美の為にも、"結果"が必要だった。友達を失いたくないのは同じだ。

「仲上くん…」

あさみは"その呼び方"で眞一郎のことを考えた。"あの目"、あの時の言葉を思
い出してみた。涙は出なかった。気持ちが変わっていたことを知った。
それが哀しくて、泣いた。生まれて始めて流す種類の、"涙"。

「な、なか…」

耐えなければ…、そう思った。まだ体に力は入らない。胸が苦しかった。
過去に経験したことがない、生まれて始めて感じる種類の、"痛み"。

「な…」

あさみは眠りについた。生まれて始めて感じる種類の、"疲れ"。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

朋与は机に座り、デスクトップ画面の壁紙を見ている。

「…」

いつもの様な呟きもない。ただ、黙って見ていた。

「…」

空虚な心には、何も浮かんでこない。

「…」

何も感じない。


それでも抑えられない気持ち。何も無い自分に、たった一つだけ残されたもの。

「眞一郎…」

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

翌朝、眞一郎は机で絵本の下書きをしている。比呂美と朋与は朝練でいない。
しかし、既に登校していたあさみは近寄ってこない。"ざわ…ざわ…"。

     (どうした? 今日は無い、のか?)

今朝も楽しみにしてたギャラリー達は、"イベント"が無い事をがっかりしてい
るようだが、今の静かな状態を固唾を飲んで見守っている。
そこへ、待ちに待った"主役達"が登場した。
「おはよう、あさみ」
「おはよ」
「あっ、おはよー。比呂美、朋与」
3人は机を囲んで、"これまでの様に"雑談を始めた。"ざわ…ざわ…"。

     (なっ? 何がどうなって? ま、まさか…、ハーレムEND?)

楽しそうに話している3人の様子に、ギャラリー達は戸惑っていた。休日にあっ
たことを知らないので致し方ないが、それにしても"イベント"が終わってしま
うのは残念なようだ。しかし、眞一郎が動く。"ざわ…ざわ…"。

     (つ、遂にターゲットが動いた! 動いたぞ!)

「ごめん、ちょっといいか?」
あさみに近寄り、話しかけた。"ざわ…ざわ…"に"どよっ"が加わった。

     (あさみルート!? そんな…嘘だろ?)

2人は廊下に出て、一言二言話していた。時間はかからずに教室に戻ってきた。
"ざわ…ざわ…"のボリュームは最高潮。盛り上がっている。

     (オッズが…、今月の小遣いが…)

どうやら、賭けまで行われているらしい。そんな様子にお構い無しの眞一郎は、
あさみと共に比呂美、朋与と雑談を始めた。三代吉もやってきて、5人が元に
戻ったようにも見える。"ざわ…ざわ…"。

     (ま、まだ終わらんよ…)

今の状態では、結末はまだ分からない。ギャラリー達は結局楽しんでいた。

その後、"イベント"に動きは無く、昼休みもいつも通りだった。
ギャラリー達の知らない所で事態は推移している。放課後に"それ"があった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
<サントラ"一陣の風"を再生しながら読むとアニメ風、です>

放課後、眞一郎があさみを呼び出し、校庭に面したベンチに座った。
「ここでいいか?」
「うん…」
2人が座る間隔には明確な距離があり、"友達"だ。体に触れるには、決定的な
"あと少し"が足りない。視線を交わすことなく、前を向いていた。
分かっていても、あさみは哀しい。慣れなくてはならない、気持ちを切り替え
なくてはならなかった。昨日の夜に1人で考えたことを思い出し、覚悟した。

「あのさ、俺の勘違いかもって思うんだけど…」
「うん…」
静かに、眞一郎は話し出す。
「前に言ってた、"映画"の話なんだけど…」
「…」
どきっとした。
「あれって、言い訳…か?」
「…」
「本当は違って。ひょっとしたらと思ってたんだけど…。
 "あの時"から、妙に態度が違うし…。色々考えて、もしかしたらって…」
「ぷっ!」
「何で笑うんだよ?」
「だって! あはははっ!」
顔を歪め、泣きそうな表情で笑っている。精一杯の強がりだった。
「…」
「だって、"映画"だよ? "あの時"も言ったでしょ? その場面と似てたって」
「いや…」
「だから! 凄くいいシーンと似てたの! 仲上"君"って自意識過剰?」
「いや…あの…な?」
「仲上君には比呂美がいるでしょ? どうして私が…」
「でも…、ちょっとおかしかっただろ? あの後…」
「"映画"なの!」
そして、あさみは言い張る。"映画"だったと、それは架空の話であったと。
「…」
「分かった? もう、勝手に勘違いしないでよ! 迷惑って事じゃないけど…、
 そんな事ばっかり言ってると、比呂美に怒られちゃうよ?」
「いいのか? それで?」
「"映画"なら、仕方ないでしょ? 見たら、"終わる"んだから…。
 ずっと続く"映画"なんて、無い…。どんなに面白くても、どんなに………」
最初から結果は分かっていた。でも、止められなかった。
"映画"は、それくらいあさみの心に深い印象と、喜びを与えてくれたから。
「…」
「だから、私はそれでいい…」
「…」
「"映画"だもん…。"映画"…」
「でも、いつか…」
「…」
「その"映画"の話、できるといいな?」
「うん…。思い出としてなら………………………話す…かも…」
「そっか」
「うん…。でも面白かったよ? 楽しかった…、今までで一番…。
 本当に、心から、心の底から…、嬉しかったその"映画"に出会えて…」
「…」
「だ、だから…、な、仲上君には、一応、ありがとって思って…」
あさみの声が震え始めた。眞一郎はあえてそれを無視する。
「あぁ…」
「も、もういいかな? な、仲上君が"映画"の話なんてするから…、
 また、お、思い出しちゃって…」
「あぁ…」
「ひ、ひとりで"映画"のあのシーンに…ひ、浸りたいから…」
「分かった。行っていいのか?」
「う、うん…。あの"映画"はね…、私に、と、とって"1人だけ"のものなの…」
「明日から…」
「大丈夫…、毎日思い出してたら、た、大変だもん…。なるべく…は、早く…」
「また、明日…な?」
「うん…。も、もう少し…ここに…いるから…………………………うぅぅ…」
眞一郎はそれきり何も話さず、ゆっくりと歩いていく。振り返らなかった。
最初から最後まで、2人は視線を交わすことなく、"話"は終わった。

あさみは静かに泣いている。大好きな"映画"が終わり、エンディングを迎えた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

眞一郎は、適当に時間をつぶしてから教室に戻った。あさみの机には、鞄が無
かった。それを見て、少しだけ哀しい顔をしたが、気を取り直して鞄を持って、
校門へ向っていった。そこで比呂美と待ち合わせしている、もう1人いること
も分かっている。急いでいる訳ではないが、早めに話をすることが必要だと考
えていた。


しかし、部活が早く終わったらしく、比呂美と朋与は既に校門にいた。
「比呂美…、話があるんだけど…」
朋与が突然話し出す。
「うん、なに?」
「昨日の今日だから、ちょっと考えたけど。あたし、諦めない」
「え…」
「今日、仲上くん、あさみを呼び出してたでしょ?」
「…」
「話の内容は想像できる。次はあたしってこと?」
「…」
「二人で相談でもしてんの? 何? ナメてんの?」
朋与は怒っている。比呂美と眞一郎に馬鹿にされているように感じていた。
「そんな事してない。相談なんてしないよ? 眞一郎くんに任せ――」
実際、二人はこの件について一切の相談をしていない。比呂美は余計な事を言
わずに、全てを眞一郎に委ねていた。
疑うようなことはもうしない、する必要が無いと思っていた。不安が全く無い
わけではないが、信じる心が強かった。
「また、眞一郎くん、眞一郎くん、眞一郎くんか…。
 どうでもいいわ。相談しようが、何だろうが…」
「朋与、どうしたの…。ちょっと変だよ?」
その怒りに満ちた表情に驚きを隠せない。
「変にでも何でもなるわよ! こっちは気が狂いそうなの!
 あたし、先に帰る! そんな話なんて聞かないって! 言っておいて!」
言うだけ言ってから、踵を返して歩き出してしまった。
「朋与!」
始めて見る友達の様子に戸惑い、比呂美は追いかけることはできなかった。
そこに眞一郎が現れた。
「あれ? 比呂美…、今日は早かったんだな?」
「眞一郎くん!」
声の主に駆け寄った。
「どうした? 何かあったか?」
「あ、あのね?」
落ち着いた声に励まされ、丁寧に朋与が言ったことを話した。全てを聞き終え
た後に、眞一郎が聞く。
「住所って、知ってるか?」
「う、うん…。電話に入ってる…。どうして?」
「一度、家に帰ってから行ってみる。今、追いかけても無駄だと思う…」
「え?」
「早くしないと、だめな気がする。明日、学校だと遅い気がするし」
「でも…」
「俺に任せろ」
「うん」
力強い声と言葉、それだけで比呂美には十分だった。


次回、どうなることやら…。

END

-あとがき-
前回から続いた二人の言い争い、どうでしたか?
正直言って描写に自信ないです。
比呂美が動くと友達を失いかねないので、眞一郎が、という話なんですけど、
台詞が難しかった。どこまで表現できたか…。
今まで台詞の書き直しって殆ど無かったのに、今回は細部を変更しました。
む、難しい…。
朝のシーンを書いていたら、何故か"ざわ…ざわ…"してしまった…。なんで?
色んなところからネタを引っ張ってきました。中には知らないものも…。

あさみの"映画"が終わりました。こちらは、結構さらっと描けました。
"映画"が9で涙の言い訳だったので、このシーンでも使用です。

 ありがとうございました。
ツールボックス

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