true MAMAN特別編・こんな想い出もいいよね~2日目~


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「……間違えてる。このスケジュール絶対間違えてる」
 眞一郎がぐったりとしながら言う。
「…去年と変わらないはずだよ?キャプテンも言ってたし」
 比呂美がやんわり制すが、こちらもかなり参っているようだ。
「高岡キャプテンも九州が嫌いになりそうな旅行だった、て言ってなかったっけ?」
 朋与が力なく指摘した。
 修学旅行二日目、長崎である。朝旅館を出た後、バスで長崎に向かったが、大渋滞に
巻き込まれ、予定を2時間以上もオーバーしてやっと到着したのだった。
 ここでハウステンボスやグラバー邸を観光し、海路で熊本入りして二泊目、が本日の予
定である。
「ま、これで夕方から船ってんだからきついわな」
「ねー早く行こうよー。時間もったいないよー」
  眞一郎のグループで元気なのは、乗り物に乗ると条件反射で寝てしまうあさみと、ほぼ
徹夜で賭けポーカーをして、同じく道中爆睡の三代吉の2人である。2人のテンションは、他
の3人の疲労を尚更濃くした。
「もうちょっと待ってくれ。それで復活するから」
「お前ら、こんなんで疲れてたら明日の自由行動どうすんだよ。ほら行くぞ」
「……行こ、か」
「…そうだな」
「………あたし、初めてテンションの高い奴が憎たらしいと思った」
 自由行動の開始である。



 眞一郎の気分が沈んだままなのは、バスのせいだけではなかった。
 昨夜、風呂から上がった後、土産コーナーに戻ってみた。
 比呂美の見ていたペンダントを、買おうと思っていたのだ。
 ところが行ってみると肝心のペンダントがない。店員によると自分が交代したときにはもう
売れており、手作りなので全く同じものはなく、類似のデザインも在庫はないと言うことだった。
(買ってやりたかったな)
 眞一郎は残念でならない。
 比呂美が買ったとは考えにくい。真っ先に自分の欲しいものから買っていく性格ではない
し、かなり高価でもある。
 普段から何かを欲しいとは言わない娘なので――これは引き取られる前からだ――こ
ういう時こそ気の利いたところを見せたかったのだが、空振りしてしまった形だった。
 仕方ない、どこかで似たようなデザインを見つけたら買っておこう。そんな事を考えてい
ると、比呂美が困ったような顔でこちらを見ていることに気がついた。
「ん?どうした?」
「え、と」
 何故か比呂美は答えにくそうだ。と、眞一郎は三代吉も朋与もいないことに気がついた。
「…あれ?他のみんなは?」
「それが…ここからは別行動しようって……」



 まったくつまらねえ旅行だ。
 昨夜の賭けポーカーではすっかりスっちまった。今夜再戦して取り戻すか、おとなしく
してて愛子へのプレゼント以外は安い銘菓でごまかすか。
 愛子でもいりゃあ眞一郎みたいに楽しめるのかもしれないが、学校も学年も違うんじゃ話にもならねえ。
 その眞一郎は融通が利かなすぎて、こっちが気を遣ってやらなきゃ湯浅のために2人き
りになってやろうともしねえ。
 気を遣ったはいいが、俺はこの女共とは別に特別仲が好いわけでもない。おまけに計画
性というものを誰も持ち合わせてないから2人と別れたからといってどこを見に行くわけでも
なく、結局離れたところから2人を尾行してる。
 九州まで来て覗きかよ。最悪だな。
 その時、前を行く2人とすれ違った他校の男子生徒が、俺らの手前で立ち止まって話し
始めた。
「おい、今の娘カワイクね?」
「彼氏持ちだぜ」
「ぼんやりした奴だったし、俺らで丁寧に頼み込めば譲ってくれんじゃねえの?」
 へらへらとした、癇に障る笑い声が届く。
 俺の横を歩いていた黒部が俺を追い越そうとした。俺はため息をついて黒部を制し、代
わりに耳障りな笑い声に向かって歩いていく。

 まったくつまらねえ旅行だ。



 眞一郎と比呂美は、ショップを回っていた。
 もしかしたらあのペンダントに似たのがあるかも、と期待したのである。
 だが近いものも見つからない。眞一郎は少し落胆した。
「眞一郎くん」
 少し離れたところで土産を見ていた比呂美が呼びかけた。
「これ」
 比呂美が手にしていたのはキーホルダーだった。どうやらハウステンボスの限定らしい。
ピンクとサックスの2色ある。
「可愛いな」
「でしょ?あの、よかったら――」
「2人でおそろいのつけようか?」
「うん!」
 比呂美の手からキーホルダーを2つ取り上げ、レジに向かう。
「あ…」
「これくらい俺に出させろ。めったに言ってくれなくて嬉しいんだから」
「……うん。ありがとう」
 勿論これだけで済ますつもりはない。旅館でも、明日の自由行動でもあのペンダントを
探してみるつもりだ。しかしそれとは別に、比呂美のささやかな希望に応えてあげようと
思った。嬉しそうな比呂美を見ているだけで幸せだった。
 さしあたり、今日はこの笑顔が見れたからいいか。
 眞一郎は比呂美に一つを渡しながら思った。



「三代吉、もう戻ってたのか?」
「ん?ああ」
「どこ見てたんだ?とうとう会わなかったけど」
「いやまあ、そのへんぶらぶらと」
「野伏君、制服汚れてない?どうかしたの?」
「階段から落ちた」
「大丈夫かよ、おい?」
「だぁーいじょうぶ、大丈夫よ、ね、あさみ?」
「…………」
「あ・さ・み?」
「は、はい!なんにも見てないです!」
「……あさみ?」
「とっとと座れよ。後ろが痞えてんぞ」


                         続 



ノート
悪意でしか打ち消せない悪意がある。善意に溢れる人間には知る必要のない事
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