仲上家の騒々しいひな祭り


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=比呂美END後のお話です。

仲上家の騒々しいひな祭り


3月3日、ひな祭りの日。
比呂美は眞一郎の母の手の助けを借り、振袖を着ていた。振袖を着たのは、正
月以来となるが、何回着ても窮屈で動きにくい。しかし、眞一郎が褒めてくれ
てたり、見惚れてくれる顔を想像すると着物もいいものだと考えてしまう。
当の眞一郎は、仲上家総出でひな壇を飾った後に、彼自身も紋付を着るために
父親と別室に行っている。
広間で比呂美は正座して、時折ひな壇を見ながら眞一郎とその父親を待ってい
た。

「やっぱり着物って、面倒だよなぁ」
愚痴をこぼしながら眞一郎がやってきた。比呂美は立ち上がって出迎える。
「できたの?」
「ああ、何回も着直し…」
自分の着付けを確認しながら広間に入ってきた眞一郎は、返事しながら目線を
比呂美に移す。そして、言葉に詰まった。
「ん?どうしたの?どこか変かな?手伝ってもらったから、大丈夫だと…」
「…」
無言で自分の姿を上から下まで眺めているので不安になる、問いかけても返事
が無い。それどころか、固まり始めた。
「?」
顔を覗き込んでみた。
「あ…わ…わ…」
「あわわ?」
何を言っているのか、さっぱりだが、またしても比呂美は自分の姿に自覚がな
いようで、控えめに化粧された可愛らしい顔を、さらに眞一郎に近づける。
「お…ひょ…ひょ…」
「おひょひょ?って何?」

眞一郎は、着物姿に見惚れて頭が混乱しているようだ。見かねた母親が不機嫌
そうに声をかける。
「しんちゃん!私も着物なのよ!こっちも見なさい!」
残念、比呂美の勝利は確定している。視線の移動は見られない。
「しんちゃん!」
もう一度、今度は怒りまじりの声で眞一郎の肩を掴みながら、言った。
「はっ…はい!何でしょう?」
さすがに、我に返ったようだ。動揺していたが。
「私も着物なの!見なさい!」
いい年をして比呂美と張り合うあたり可愛げがあるが、眞一郎にとっては迷惑
な話だった。最近、新しい服や化粧品を買った時には二人で、
「どう?どう?」
と連呼して感想を求められるため、正直言って彼は疲れていた。父親に聞けば
いいのに、とも思ったが、返す回答を父親は決めている。
「うん、いいな」
それを先に言われると、眞一郎は何か変化をつけて、より具体的な褒め言葉を
要求されることになってしまう。どうやら、今日もそうらしい。

「どう?どう?私もまだまだ、でしょう?」
「どう?どう?綺麗に着れているでしょ?似合ってる?」
二人揃って眞一郎の前で一回りして、評価、つまり褒め言葉を待っている。そ
の期待に満ちた目を見ると、何か言ってあげたい。
しかし、彼にはその方面の言葉に長けていない。簡単に済ますと二人揃って機
嫌が悪くなり、著しくその日一日の待遇が悪くなる。逃げ場はない。父親はい
つもの回答の後、一人で甘酒を飲み始めていた。助けもない。彼は自分で自分
の待遇を確保しなくてはならない。
「あ…」
二人を見比べながら、眞一郎の口が開けっ放しになってしまう。通常なら早い
回答を求められるところだが、今日はひな祭り、二人の機嫌が良いようで彼に
幸運がやってきた。
「見惚れちゃった?母さんも捨てたもんじゃないってことね♪」
「そんなに似合ってる?良かったぁ♪」
眞一郎は回答に困っていただけだが、良い方向に勝手に解釈してくれたようで、
上機嫌で彼を座らせ、甘酒などを振舞い始めた。

ここまでで、眞一郎の今日の幸運が使い果たされることになろうとは、彼に知
る由もない。

しばらくの間、広間で団欒が続いていた。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「「こんにちはーっ」」
どうやら、お客様らしい。比呂美が出迎えると、何人かの若い母親とその娘達
が次々に広間へとやってきた。

「あーっ、やっぱり綺麗なお雛様だねーっ!」
「すごーい!」
「上が見えないよぉ」
珍しく小学校高学年の女の子達が、それぞれ着物を着ての訪問だ。あまり、こ
の家に大勢の子供達が来ることは無いので、眞一郎も珍しげに見ていた。
「大勢で押しかけて申し訳ありません」
「こちらのひな壇はご立派なので、この子達に見せてあげたくて…」
若い母親達は順番に眞一郎の両親に挨拶し、手土産などを渡していた。眞一郎
の母は上機嫌が継続しているので、にこやかに対応している。
比呂美と眞一郎は、笑顔で近所からきた女の子達の相手をしていた。

和やかな雰囲気は、長く続かなかった。

「しん兄ちゃん、写真撮ってっ!」
これが、本日の騒動の始まりだった。一人の女の子が眞一郎にまとわりつき、
写真をねだったのだ。
「おお、いいぞ。そら、そこに立って」
「綺麗に写してねっ!」
「はいはい…、はいっ、チーズ!」
一人がすると、その他の子達も要求するのは自然な流れであるが、何回もそう
している間に約一名の機嫌が損なわれることになる。
「眞一郎くん、私も…」
と、比呂美も声をかけようとするが…
「しん兄ちゃん!今度は二人で撮ってっ!」
積極的な子供達の行動力は、慣れない振袖の比呂美を遥かに凌駕している。何
もできないどころか、眞一郎に近づくことさえできない。相手が子供というこ
ともあって、面白くはないが我慢していた。

この時までは…

子供達は、この1年半くらいの間、少しも遊んでくれなくなった眞一郎を掴ま
えることができて、上機嫌かつハイテンションになっている。そのパワーは凄
まじく、とても比呂美一人で太刀打ちできるものではない。
と、その時、一人の子が言った。
「ねぇ、ねぇ、しん兄ちゃんは恋人いるの?」
ゴングが鳴り響いた。
「えっ?…ああ…、いるよ?」
もちろん視界には振袖を着た姿が入っている。
「えーっ!?誰?誰?」
「うっそーっ!?」
「ほんとぉ?」
その反応に顔が綻んだのは、もちろん比呂美である。
「ほら、そのお姉ちゃん。比呂美っていうんだよ」
照れながら、眞一郎は紹介したが…

「しん兄ちゃん!別れて!今すぐ別れて!」
「はあっ?」
「なっ!!!!」
予想外の返答に、比呂美と眞一郎は驚いた。

「だって!私の方がそのお姉さんよりも若いよ!」
「…」
「な゛っ!!!!」
もの凄いことをその子は言い始めた。比呂美の反応が気になるが、そちらを見
ようとすると、頭を掴まれて方向を修正される。

「私、あと何年かすると結婚できるよ!だから、そのお姉ちゃんと別れて!」
「…」
「な゛な゛な゛な゛っ!!!!」
眞一郎は言葉も無い。比呂美はまともな言葉すら出ない。

「だってっ!男の人は若い女が好きなんでしょっ!?」
「…」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!!!!」
攻撃は続く。というか、どこからそんな知識を得たのだろうか?

「だからっ!私をお嫁さんにした方がいいよっ!そのお姉ちゃんと別れて!」
「…」
「え゛え゛え゛え゛ぇっ!!!!」
比呂美の中で渦巻く怒りが外に発散され、オーラを纏い始める。

「ね!そうでしょ?私、もっと綺麗になるよっ!お嫁さんにしてっ!」
「…」
「フッ…」
あまりのことに何も言えない眞一郎。比呂美の怒りが限度を超えた。何故か、
"親"達は近くにいない。途中で非難したようだ。

その後、比呂美は眞一郎に結婚を申し込んだ女の子の口論となり、さらに他の
子らも加わり、大変な騒ぎとなった。
眞一郎は髪の毛や着物を引っ張られたり、掴まれたり、もみくちゃにされてい
た。実際問題、女の子達と比呂美の力は男とはいえ一人で到底敵うものではな
く、なすがままに翻弄されていた。

その場にいた全員が、体力を使い果たすまでその不毛な戦いが続いた。
勿論、最初に根を上げたのは眞一郎である。比呂美は最後の一人に勝つまで頑
張ったが、そこで力尽きていた。
女の子達は親達に回収されたが、二人はその場で倒れている。母が毛布をかけ
てくれなければ、風を引いていただろう。

二人とも夕飯時には旺盛な食欲を見せた。父や母は何も言わずに、優しい目で
見守っていた。優しいというよりも、労わり、の方が正しいかもしれない。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

入浴後、眞一郎は自室で正座していた。比呂美に言いつけられていたのである。

「ふぅ、さっぱりしたぁ」
お風呂上りの比呂美が部屋に入ってきた。色気があるというか、何と言うか。
そんな姿に眞一郎の視線が釘付けになるが、比呂美の反応は冷たい。
「なぁ~にぃ?若い女が好きなしん兄ちゃん?」
残念ながら、怒っているようだ。正座している眞一郎を見下ろしている。
「だから…あれはアイツが勝手に…」
「"アイツ"ぅ?仲がいいのねぇ?」
「違うって!」
「へぇ~?そぉ~なのかなぁ?」
「オレが好きなのは比呂美!」
「っとぉ、騙されない、騙されないんだからねっ!」
と言いつつ、赤くなった顔を見られないようにそっぽを向く比呂美。
「ふん!証明してやる!」
眞一郎が立ち上がって詰め寄った。肩を優しく掴まれて比呂美が振り向く。
「あっ、そ~う?どうやっ…ん?…んっ」

<眞一郎が何をしたか、自由にご想像下さい>

「えへへっ♪」
比呂美は楽しそうな笑顔になっていた。
「あれ?怒ってたんじゃないのか?」
「まさかぁ、フリをしただけなの♪」
たまに炸裂する「かまって、かまって」の怒っているぞ、らしい。これ以外に
は、拗ねているぞ、元気がないの…、など様々な種類の"かまって"が存在して
いる。眞一郎としては、毎回付き合うのが楽しいので何とも思っていない。
正座させていたのは、"そういう誘い"を上手くかわせない事への罰のつもりら
しい。
「ちっ、騙されたか…」
一応"やられた"という意思も示す。二人のコミュニケーションの一つだ。
「大変だったねぇ?大騒ぎで」
ここからは、いつもの調子で二人の会話が始まった。
「ああいう展開は予想不可能だな」
「モテたね?すっごく」
「何か違う気がする」
「そ?」
「違うんだよなぁ」
「どう違うの?」
「あの子は比呂美じゃない、だろ?」
照れながら言い切った。ここまで、ずっと見つめ合っていた。
「うん♪」
さらにいい笑顔になった比呂美を、眞一郎がぐいっと抱き寄せ…
「んっ…」
カチッ、部屋の電気が消される。

<この後は二人だけの時間です>

END

-少し長いあとがき-
ひな祭りを題材に、との指示がスレでありましたので書いてみました。
いつもワンパターンな構成で申し訳ない。

本編では登場しない近所の女の子達を出しましたが、これは比呂美に
嫉妬させる為だけに、便宜上出場願ったものです。さらに、眞一郎が
小さい子にモテモテ設定もその為です。
ちなみに2人目のSS書きは、愛情表現等の描写は分かりやすく、ベタ
なタイプを好みます。

あと、読み返してから気付いたのですが、眞一郎の母もこれと同じ様
なことがあったのかな?このSSでの比呂美みたいにその場で何かしな
いで、溜め込んじゃうと本編みたいになるかもしれませんね。
本人達が何とも思っていなくても立場が違えば、というヤツです。
さすがにこんな露骨なものではないと思いますが。これに似たことが
あって、比呂美母の悪口でも言って、確執に発展?な、わけないか。

オチは…気にしないで下さい。続きは?とか言わないで。
ありがとうございました。








-ちょっとした'おまけ'-
天国にいる比呂美のお父さんから、メッセージが届きました。
<父親の気持ちになって、俳優 江守 徹氏の声で脳内再生して下さい>

眞一郎君へ
今回の君の行動はすばらしかった。
娘の身を案じて何もかも振り切っての抱擁、娘の名誉を守る為に普段
しないであろう喧嘩まで、どちらも頼もしい行動だ。
あくまでも君の気持ち次第だが、娘をよろしく頼む。

そして、比呂美
自分の気持ちに素直になって、眞一郎君の胸に飛び込みなさい。
後は彼が何とかしてくれる。
もう泣くなよ?体に気を付けてな…


ベタでしょ?どっかで聞いたとか、読んだとか言わないでね。
今度こそ、ありがとうございました。
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