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 セント・マデリーナ島の自然公園は、緑豊かな観光名所として有名だ。
 島の南半分は人工的な要素が強いのに比べて、北半分は出来るだけ人の手を加えずに、島本来の姿を維持することに重点が置かれている。
 園内の散歩道はある程度整えられていたが、コンクリートなどの舗装はほとんどされていない。
 無機質な都会に息苦しさを感じる人にとっては、優しい安らぎを得られる憩いの園として有名だ。
 だが、島の他の地域と同様、その麗しき園にも、この世ならざる存在が跳梁跋扈していた。
 
 振り下ろした一撃が、頭をざくろのように割り、ゾンビはその場に崩れ落ちた。
 「畜生、これで何体目だよまったく……」
 衛宮士郎は吐き捨てるように呟いた。周囲には彼が倒したゾンビの遺体がいくつも転がっている。景観を損ねる存在だが、そんな事に構っていられない。
 彼の手には杖のような棒が握られていた。強度的に頼りなさそうな外見だが、幸いにも「強化」の魔術が成功して、鋼のように硬くなっていた。
 
 「疲れたな……。ちょっと休もう」
 士郎は呟いて1m程の草木が密集している茂みの奥に身を潜めた。ゾンビは目がそれほど見えないようだし、何より知能が低い。
 音を立てずにじっとしていれば、奴らに見つかるリスクはかなり軽減できる。 

 士郎は姉的存在の藤村大河とともに、この島に来ていた。彼女曰く、弓道部の合宿をセント・マデリーナ島でやるので、その下見に行くのだと言う。
 それはもう合宿じゃなくバカンスだろうと思ったが、大河はとっくに弓道部を辞めていた士郎を無理矢理同行させてきた。
 そもそも下見が必要かどうかも疑わしいが、要は口実が欲しかっただけなのだろう。彼は話し相手兼荷物持ちというわけだ。
 
 最初は渋々ついて来たのだが、ほどなくして士郎も島の素晴らしさに魅了された。
 大河は元々子供っぽい性格だったが、ここではそれに拍車がかかって、はしゃぎまくっていた。
 (こういうのもたまには良いか)
 融通がきかな過ぎる面のある士郎でさえ、そう思っていた。ほんの数時間前まで……。

 「藤ねえ、大丈夫かな。無事だといいけど」
 士郎は今朝から今までの経過を回想していた。
 朝ホテルを出る前は何事もなかった(筈だ)。公園に着く頃、悲鳴やパトカーのサイレンらしき音がして、案外物騒だなと呑気に考えていた。
 そのまま公園を2人で散策していたら、悲鳴に怒号が混じるようになり、何か変だという思いが強くなった。
 大河に声をかけて、ホテルに戻るようにさりげなく話題を誘導する。

 最初は反対していた大河だが、実は射撃場で銃を撃ってみたい、と言うと、
 「なあんだ、そういう事か。なんだかんだ言って、やっぱり士郎も男の子よねぇ」
 と苦笑混じりに言った。士郎は彼女を説得できて、ほっと息をつく。だがすでに手遅れだったらしい。
 「ヒッ」と大河の息を呑むような悲鳴に周囲を見回せば、ゾンビ達が遠くから近づいてくる光景が目に入ってきた。
 
 それを見た士郎は自分の「志」を思い出した。今こそ「正義の味方」になる時だ。
 大河の制止もきかず、ゾンビに襲われる観光客や地元住民を助けるべく動いていた。
 「強化」に成功した棒を持って、逃げ遅れた母親と幼児がゾンビに囲まれている所に飛び込むと、手当たり次第ゾンビを殴りつけてどうにか助け出すのに成功する。
 さらに他の人達を助けようとゾンビに戦いを挑んでいる内に……いつの間にか大河と離ればなれになっているのに気付いた。

 今になって士郎は後悔した。大河の安全を優先して考えるべきだったのだ。だが自分の「正義の味方」を意識するあまり、後先考えずに行動しすぎていた。
 (いや、藤ねえなら大丈夫だ。あんな奴らに簡単にやられたりするもんか!)
 彼は無理矢理自分に言い聞かせる。何と言っても大河は剣道五段の腕前で、かつては「冬木の虎」の異名で呼ばれた女傑だ。彼女なら自力でどうにか――。

 (馬鹿、何勝手な事考えてるんだ。俺は! いくら藤ねえが強くても、超人でも何でもない、1人の女だ。男の俺が助けないでどうする!)
 士郎は自分を罵倒すると、立ち上がった。
 まだ疲れが残っているが、そんな事を気にしている場合ではない。こうしている間にも大河がゾンビに襲われる危険は増えている。
 士郎が茂みから注意深く出てきた時、悲鳴が聞こえた。若い女の声だ。 
 「藤ねえ!?」
 士郎は駆けだした。声の大きさからすると、それほど遠くではない。

 程なくして、少し開けた場所に出た。ここはアスレチック場のようだ。丸太やネット、ロープ等を使った遊具がいくつも見える。
 その一角、50mほど離れた場所で、1人の女性が10体ほどのゾンビ達に襲われていた。
 「やだ! こっち来ないでよ。誰か、誰か、助けて!」
 年齢は士郎と同年代ぐらいか。女の子はハイキングに行くような服装で、腰まで届きそうなロングヘアを振り乱して必死にゾンビから逃れようとしていた。
 だが、どの方向に逃げてもゾンビがいる。すぐにジャングルジムのような遊具の所で包囲されてしまった。

 もちろん、そんな光景を黙って眺めている士郎ではない。すでに士郎はゾンビに気付かれないように動き出していた。
 ギリギリまでゾンビに気付かれないように近づいて、最小限の戦いで女の子を確保して、素早く逃げるつもりだった。

 女の子は今にも泣き出しそうな顔で周囲を見回すと、上に逃げようと思ったのか、ジムの縄梯子を登り始めた。
 だが、恐怖で体が思うように動かせないらしく、手足の動きがもどかしいまでに悪い。1mも登らない内にゾンビに足を捕まれた。
 「キャアッ!」
 女の子がゾンビを振り払おうと足をバタバタさせた時、手が滑ったのか縄梯子から落ちてしまった。
 「嫌、来ないで……」
 絶望的な表情を浮かべながら、尻餅をついたまま後ずさりする。
 ゾンビは哀願の声を完全に無視して、女の子に迫っていく。その頃士郎は、ゾンビに気付かれずに、女の子にあと10mの所まで近づいていた。

 だが1体のゾンビが女の子に噛みつこうと、覆い被さるような姿勢になる。(危ない!)咄嗟に士郎は絶叫した。
 「止めろ、この怪物野郎!」
 ゾンビの動きがピタリと止まり、ゆっくりとこちらを振り向く。
 
 こうなったら突撃あるのみだ。
 女の子への直進ルート上にいたゾンビを横殴りに倒し、続いて右から迫っていた奴の胸を突き飛ばした。
 さらに、唯一士郎の声を無視して、女の子に噛みつこうと屈んでいたゾンビの襟首を掴み、渾身の力で引っ張った。
 引きずられるように倒されたゾンビが恨めしげ(?)に士郎を見上げる。士郎は構わず、「強化」しておいた靴で、思い切り顔を踏みつけた。
 壁にトマトを叩きつけたような呆気なさで、ゾンビの顔が潰れた。

 女の子は、一連の光景を呆然とした表情で見ていた。死の絶望が一瞬で消え、代わりに生の希望らしきものが現れて混乱しているのだろう。
 「立てるか? とりあえずここから逃げるぞ」
 言うが早いか、士郎は女の子の手を掴んで、半ば強引に立ち上がらせた。

 この状況で上に登るのは下策だ。たとえ一時的にゾンビから逃れられても、狭い足場で逃げ場も、水も食料もなく、下はゾンビの集団。
 精神的にも肉体的にも耐えられないのは目に見えている。包囲を突破する可能性に賭ける方が、まだ望みはあった。

 「え、あの……」
 女の子が何か言いたそうにしているが、ゾンビが目前に迫っている。ゆっくり話している暇はない。
 「いいか、絶対に俺から離れるな」
 強く念押しして、士郎は女の子の手を引きながら走り出した。棒は牽制程度に振り回して、ゾンビ達の間をすり抜けるように走る。

 ――10分後。
 どうにかゾンビを撒く事に成功した2人は、さっき士郎が隠れていたのとは、別の茂みに潜んでいた。
 「ここなら一息つけそうだな。俺は衛宮士郎。君、名前は? 大丈夫? 怪我は無いか?」
 ゾンビ突破戦の興奮が抜けきらないまま、士郎は畳みかけるように尋ねた。

 「……離してくれる?」
 女の子の口から予想外の台詞が漏れる。「え?」となった士郎は、まだ彼女の手を強く握ったままなのに気付いた。
 「ご、ごめん!」
 慌てて手を離す。女の子は掴まれていた所をさすりながら、
 「……さっきはありがとう。私の名前は、成瀬川なるよ。衛宮さん」
 成瀬川なると名乗った女の子は、疲れた口調で自己紹介した。
 
 「礼なんていいよ。女の子を守るのは当たり前の事じゃないか」
 士郎は何でもないような顔で言いながら、背中のリュックからペットボトルを出して、なるに差し出した。
 「ほら成瀬川さん、飲みなよ」
 「え?」
 「喉渇いただろ。水分補給は大事だぜ」
 「でも、衛宮さんは?」
 「気にしなくていいよ。まだ予備もあるし」

 それを聞いたなるは少し躊躇った末、女子としては豪快な勢いで飲み出した。
 「ングング……っぷはぁ!」
 やはり相当喉が渇いていたようだ。一気に半分ほど飲み下した。だが、はしたない飲みっぷりに気付いたのか、顔を赤くする。
 「ま、待って。私普段はこんなんじゃなくて、えとそのもっと上品に」
 なるは少し焦った調子で弁解し始めた。
 「はは、気にしなくていいよ。こんな状況でマナーもへったくれもないし」
 そう言った瞬間、士郎は思い出した。
 
 (そうだ、『こんな状況』でのんびりしている場合じゃない。藤ねえを捜さないと!)
 急に立ち上がった士郎に、なるは目を丸くした。
 「どうしたの?」
 「俺、人を捜してるんだ。その人と島に一緒に来ていたんだけど、ゾンビと戦ってる内にはぐれてしまったんだ」
 「人を?」
 なるの顔が驚愕に満ちた。かと思うと、一転、真剣な面持ちになる。
 「大丈夫、成瀬川さん、君を安全な所まで連れて行ってからにするから、心配いらないよ」
 (ごめん、藤ねえ。少しだけ我慢してくれ。必ず助けてやるから)
 大河には悪いが、なるを見捨てる訳にはいかない。士郎は心のなかで大河に謝った。

 「私も手伝うわ」
 なるが立ち上がった。
 「だからそれまで我慢……って、手伝う? それは危険だ。またさっきの連中、多分ゾンビって奴だろう、あいつらに襲われるぞ!」
 士郎としては、彼女をそんな危険な目に遭わせるつもりは全くない。
 「もちろん、覚悟の上よ」
 「それが分かっていてどうして……」
 「私も捜しているから、大事な人を」
 なるが決然とした表情で言った。

 士郎の目が驚愕に見開かれる。
 「そんな……君も、なのか?」
 「ええ、私もその人と一緒に島に来たんだけど、あなたに助けられる少し前に離れ離れになったの」
 なるが目を伏せる。
 「お願い、私と一緒に捜すのを手伝って。その代わり衛宮さんの人捜しも手伝ってあげるから」
 「うーん。お互いの知人を協力して捜索するわけか」
 どうするべきか、士郎はしばしの間思案した。
 (そうだな、今のままじゃ手がかりもないし、1人より2人の方が何かと好都合だ。それに、彼女を安全な場所に連れて行ける保証もないしな)

 「衛宮さん?」
 黙って考え込む士郎を、なるが不安そうに見つめる。
 「分かった。成瀬川さんの提案に乗ろう」
 「え、それじゃ……」
 なるの顔に喜色が浮かんだ。
  
 「とは言っても、お互い手がかりらしいものはないしなあ。そうだ、俺の連れは藤村大河っていう女の人なんだ。髪はショートで……」
 と士郎は大河の身体的特徴や服を説明した。
 「うん、大体わかったわ。私の連れの名前は浦島景太郎。で、メガネをかけてるの……」
 今度はなるが彼女の連れ――浦島景太郎――の説明をする。
 
 「よし、これで一応、把握したな。早速捜しに行くとしよう。あ、ところでちょっと聞きたいんだけど」
 「どうかした?」
 「その浦島っていう人は、成瀬川さんの彼氏なのかい?」
 「な……! バ、バカ、そんな訳ないでしょう! あんなバカでドジでスケベな奴が彼氏な訳ないじゃない! ただの浪人仲間以外の何でもないんだから!」
 なるは顔を真っ赤にして、すごい剣幕でまくし立てた。
 「いやちょっと気になっただけなんだ。気に障ったなら謝るから落ち着いてくれ」
 士郎がなだめるが、なるの勢いは弱まらず……と思ったら不意に剣幕が止まった。

 「でも、あの時、私のために、ゾンビ相手に立ち向かってくれた。臆病な癖に、棒きれ一本で奴らに殴りかかって、大声で奴らを引きつけて、
 私の周りからゾンビが大分減った頃『今だ成瀬川、逃げろ! 大丈夫、後で追いつくから!』って言って、ますます遠ざかって……」
 なるはいきなり士郎のTシャツを掴んで、顔を士郎の胸元にうずめた。表情は伺えないが、嗚咽のような声が漏れている。

 (わわっ、成瀬川さんの胸が当たってる……うーん困ったなあ、こんな時どうすればいいんだ?)
 女性の扱いに慣れていない士郎はどうしていいか分からず途方に暮れてしまう。
 幸い、なるは10秒ほどで顔を上げた。目から大粒の涙が滝のように流れている。

 「ごめんなさい。景太郎は1人で大変な目に遭っているかもしれない。だから早くみつけてあげないと……」
 「もういいよ、よく分かった。浦島君は強くて、優しくて、勇敢な男だ。きっと無事でいるよ」
 「衛宮さん、ありがとう……」
 士郎は堅く誓った。藤ねえも、成瀬川なるも、浦島景太郎も、必ず助けると。

【D−05/アスレチック場近くの茂み/1日目・日中】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
 [状態]:疲労(小)。擦り傷。過剰な正義感と責任感。
 [服装]:原作と同じ服装。
 [装備]:「強化」魔術で鋼の強度を持つ棒。
 [持物]:リュック。日用品(パスポート、携帯電話、500mlペットボトル×1、観光ガイド兼地図)
 [方針/行動]
  1:成瀬川なるを守る。
  2:藤村大河と浦島景太郎を捜す。
  3:2人を捜しながら、水、食料を確保する。できれば武器も。
  4:無事な島の住民や観光客を助けて、協力し合う。
 
 [備考]
  ※ 「強化」の魔術の適用範囲は自分の「身の回り」程度に限定されます。また、体力を消耗(100m走の全力疾走並み)し、失敗もよくある設定です。
  ※ 固有結界「無限の剣製」は絶対に発動しません。
  ※ 構造把握能力は健在で、機械類の構造を把握可能なので、しかるべき工具があれば修理できます(扱えるかどうかは別です)。
  ※ 「正義の味方になる」という目標のため、他人を見捨てるという行為が基本的にできません。

【成瀬川なる@ラブひな】
 [状態]:疲労(中)。擦り傷。不安と焦慮。少し安心。
 [服装]:ハイキング向きの服装。コンタクトレンズ装着(裸眼視力だと0.1未満)。
 [装備]:なし。
 [持物]:ウェストポーチ。日用品(パスポート、携帯電話、500mlペットボトル×1(残り半分)、観光ガイド兼地図)。予備のメガネ。
 [方針/行動]
  1:衛宮士郎の方針に従う。。
  2:藤村大河と浦島景太郎を捜す。

 [備考] 共通事項
  ※ 士郎もなるも、互いに景太郎と大河の容姿や服装を把握しています。


 自然公園のかなり奥に、普段の散策コースからかなり離れいて、森林を定期的に手入れする業者でもなければ、誰も立ち入らない場所があった。
 衛宮士郎と成瀬川なるが出会う30分ほど前、1人の青年がその場所を彷徨っていた。
 青年の名は浦島景太郎。彼も、なるのようなハイキング向きの服装をしており、デイパックを背負っている。

 荒い息づかいで、足取りはかなりおぼつかない。普段運動をしていない人が、急にマラソンをした時のような状態だった。 
 「もう、駄目だ、歩けない〜」
 景太郎は、力尽きたように、その場にへたり込んだ。

 デイパックから缶ジュースを1本取り出すと、一気に飲み干し、やっと人心地がついた。
 「成瀬川の奴、無事かな。俺より運動神経良いから大丈夫だと思うけど……」
 あの後――ゾンビをなるから引き離してから――、景太郎はオオカミの群れに放り込まれた羊のような状態だった。
 
 幸い、「オオカミ」の運動能力が低かったお陰で、「羊」はどうにか逃げ切れた。問題は、ここがどこか全く見当がつかない事だ。
 観光地図を広げてみるが、公園の散歩道については、それほど詳しく書いていない。詳しい見取り図でも手に入ればいいのだが。
 「考えても仕方ないな」
 景太郎は地図を畳むと、音を立てないように注意深く歩き出した。じっとしていたら、いつまで経ってもなるを見つけるのは不可能だ。

 しばらく歩いていると、少しずつ目の前が開けてきた。散策ルートに近づいたのだろう。 
 (よし、これで成瀬川を捜しやすくなるぞ!)
 景太郎は少し駆け足になった。まだ少し息が切れる。

 そして、草むらを掻き分けて舗装道路に出た瞬間、
 「うわあああぁっ!!」
 目の前に1体のゾンビが現れた。客観的に見れば、景太郎の方からゾンビに近づいていた事になるのだが。

 ゾンビは痰が詰まったような唸り声をあげながら、景太郎に掴みかかる。
 彼の手元に武器になりそうな物はない。逃げようと身を翻したら、反対側にもゾンビがいた。
 「あわあわわわわ」
 半ばパニックに陥った景太郎は、別の方向に逃げようとして、足をもつれさせて転倒してしまった。そこにゾンビが寄ってくる。
 「畜生、来るなあっ!」
 
 景太郎は道路に落ちていた石ころを拾って、無茶苦茶に投げつけた。一発がゾンビの胸に当たるが、その程度でどうにかなる筈もない。
 立とうとしたが、疲労とパニックで体が思うように動かない。
 (もうだめだ、成瀬川、ごめん……)
 観念したように目を閉じる。

 「そこっ! 諦めるんじゃないっ!」
 いきなり若い女性の声が響いてきた。
 (え!?)
 まさか成瀬川、と目を見開いた景太郎の視界の端に、突進してくる人影が映った。
 誰なのか景太郎が確認する間もないまま、人影は持っていた金属棒を振りかぶって、
 「とりゃあぁっ!」
 裂帛の気合いと共にゾンビの側頭部に振り下ろした。

 金属棒はゾンビの耳までめり込んで止まったが、人影はそれをあえて引き抜かずに、ゾンビを突き出すように押して、もう1体のゾンビにぶつけた。
 無傷のゾンビが仲間を支えきれずに倒れた所で、人影は金属棒を抜いて、両方のゾンビを殴りつける。
 2体とも完全に動かなくなるのを確認すると、人影は景太郎に向き直った。
 やはり若い女性だった。年齢は20代半ば、髪はショートカットで、身長は170?弱といった所だろう。
 「あなた、大丈夫だった?」
 その声で景太郎は我に返った。
 「は、はい。ありがとうございます」
 「どういたしまして。ところで」
 女性は少し小声になぅた。ゾンビを警戒しての事か。
 「はい?」
 「あんなアッサリと諦めるなんて何考えてるの、まったく! あなたが死んだら家族や友達をどれだけ悲しませると思ってるの?
 命を粗末にしちゃいけません。最後まで生きる努力をしなさい!」
 女性は押し殺した声で叱りつける。その口調は出来の悪い生徒に対する教師のそれだった。

 「すいません。気をつけます……」
 景太郎はシュンとなった。
 確かに、いきなりゾンビと鉢合わせて動転していたとはいえ、成瀬川を助けるという重大な使命があるのに、あまりにも情けない態度だった。
 「うん、分かればよろしい」
 女性はニッコリ微笑んだ。とても爽やかな笑顔だった。

 「そうそう、自己紹介がまだだったわね。私の名前は藤村大河。あなたは?」
 「あ、俺、浦島景太郎っていいます。藤村さん」
 「あはは、大河でいいよ、景太郎君」
 「そうですか。じゃあ、よろしくお願いします。タイガーさん」

 「タイガーって言うなーっ!!」
 「どわああああっ!?」
 突然の魂の叫びに景太郎は飛び上がった。い、一体何がどうしたんだ?

 「私の名前は大きな河と書いて、た・い・が! 断じてタイガーじゃありません。そこんとこよーく覚えとく事! いい!?」
 「わ、分かりました。大河、さん」
 「そう、その調子。それはそうとして、聞きたい事があるんだけど」
 大河はマイペースな調子で景太郎を相手にする。
 「何ですか?」
 「景太郎君は、こんな人を見なかった?」
 と、大河は衛宮士郎の容貌や服装を説明した。
 
 「……いや、俺は見てません。奴らに襲われて、それどころじゃなくて」
 実際、ゾンビ発生以来、なる以外の人を気にかける余裕はなかった。
 「そう……」
 「すいません。役に立てなくて」
 「あー、いいわよ気にしなくて。駄目元のつもりだったし」
 「あのう、俺も聞きたいことがあるんですが」
 「いいわよ、何でも聞いてちょうだい」
 それを受けて、景太郎は成瀬川なるについて同様の説明をした。
 「う〜ん。士郎と離れてから、しばらくは他の人と一緒だったけど、その中にいなかったと思うし、
1人になってから無事な人を見たのは、あなたが最初だから、悪いけど分からないわ」
 「そうですか……」
 景太郎が肩を落とした。
 「私達、お互い尋ね人がいるのね……。そうだ、一緒に捜しましょう!」
 「え、ええっ?」
 「だから、協力しましょうって言ってるのよ。1人より2人の方が何かと心強いし、助け合えるでしょ。ね、いいと思わない?」
 「そうか……そうですよね! 俺からもお願いします!」
 景太郎が頭を下げる。

 「あはは、そんな畏まらなくてもいいわよ。あ、そうだ、じゃあこれはあなたに渡しておいた方がいいわね」
 大河がショルダーバッグの中を探る。景太郎が怪訝そうにしていると、大河は目当ての物を見つけたのか「これ」を取り出して、景太郎に渡した。
 「はい、これ。あなたにあげる。上手に使ってね」

 それは1丁の拳銃だった。ゾンビに襲われた警官――すでに致命傷だった――が落としたのを(心の中で手を合わせながら)拾った、と大河は説明した。
 「お、俺こんなの使えませんよ!」
 「私だって使えないわよ。でも男の子ならアクション映画とかよく見るでしょ。それの真似をすれば何とかなる筈だから、任せたわよ」
 景太郎は仕方なく、銃を受け取った。幸い、上着のポケットに入る大きさだったので、そこに入れてファスナーで閉じた。

 「よし、それじゃ早速出かけるとしましょうか。と、その前に」
 大河が右手を差し出した。景太郎は一瞬戸惑ったが、すぐに察して握手した。

 絆が一つ、結ばれた。 

【B−07/B-07の舗装道路付近/1日目・日中】

【浦島景太郎@ラブひな】
 [状態]:疲労(中)。擦り傷。安心、協力。
 [服装]:ハイキング向きの服装。
 [装備]:グロック26拳銃(9mmパラベラム弾。13/17発、予備弾倉なし)。
 [道具]:デイパック。日用品(パスポート、携帯電話、軽食×2、缶ジュース×1、観光ガイド兼地図)
 [思考]
  1:成瀬川なるを捜す。
  2:藤村大河と協力する。
  3:2人を捜しながら、水、食料を確保する。できれば武器も。

【藤村大河@Fate/stay night】
 [状態]:疲労(小)。擦り傷。安心、協力。
 [服装]:原作と同じ服装。
 [装備]:ゴルフクラブ(3番アイアン)。
 [道具]:ショルダーバッグ。日用品(パスポート、携帯電話、350mlペットボトル×1、観光ガイド兼地図)。
 [思考]
  1:衛宮士郎を捜す。
  2:浦島景太郎と協力する。
  3:2人を捜しながら、水、食料を確保する。できれば武器も。
  4:後の事は、4人揃ってから考える。 

 [備考]  共通事項
  ※ 景太郎も大河も銃の名前、正確な使い方、使用する弾薬の種類を知りません。
  ※ 景太郎も大河も、互いに士郎となるの容姿や服装を把握しています。