クロスポイント ◆7mznSdybFU

 現在でこそ風光明媚な観光地として知られるセント・マデリーナ島であるが、
過去、アメリカ合衆国に併合される際には、血で血を洗う戦争があった。
19世紀末、『現地のアメリカ人の保護』を名目に始まったアメリカ軍と原住民の戦闘は、
当初、物量と装備の差により長くても1〜2ヶ月程度でアメリカ側の勝利に終わるとみられていたが、
原住民の反攻は熾烈を極め、アメリカ側が予想以上の犠牲を払いながらも勝利を収めたのは
戦争開始から実に11ヶ月と12日後のことであった。
アメリカ側が苦戦した理由の一つとして、兵士たちの間に「原住民による呪い」の噂が蔓延し、
戦意が著しく低下したという事情がある。曰く、「呪いによって原因不明の熱病が広がった」
「殺したはずの敵が再び起き上がって向ってきた」等というものである。
しかし現在では、前者はマラリヤ、後者は兵士の事実誤認か、相手が薬物による極度の精神高揚状態に
あったため、とされている。
 それから百余年、セント・マデリーナ島はほぼ完全に本土の文化に染められ、原住民族の文化は
島の東にある遺跡と、博物館の資料の中にその名残を残すのみとなった。
そして、かつてアメリカ軍の駐屯地があった島の南西部には現在射撃場が建っている。




――――A.M.10:00




 島の市街地から外れ、海沿いの道路を車で十数分走ると、シンプルな外観の白いコンクリート製の建物が見えてくる。
この射撃場は古い骨董品のようなものから最新式のライフルまで幅広い銃を取り揃えており、
国外の観光客のみならず、アメリカ本土からも銃愛好家たちがやってくる。
銃愛好家とは読んで字の如く、兵器である銃をこよなく愛する人々のことだ。
当然中には結構な変人も混じっていたりする。
例えば彼のような――――



「あの、お客様、当射撃場ではそのような銃の使用はお控えいただきたいのですが……」
「何が問題なんだ!? ここは銃の持ち込みはいいんだろうが! 所持許可証だってちゃんと持ってきてある!」

射撃場の受付で一人の男が職員に食って掛かっている。
サバイバルベストを羽織り、下半身は頑丈さと機能性重視のカーゴパンツ。
頭髪はいささか寂しいものの、それに反するように口ひげを蓄えた表情は非常に活力に満ちている。
過剰なまでに、と言ってもいいかもしれない。見る者のほとんどに『タフなオヤジ』という印象を与える。
男の名はバート・ガンマー。自称モンスター・ハンターである。

「いえ、ですから、当射撃場は対物火器の使用は――」
「対物火器じゃあない。コイツはグリズリー・シングルショット50口径BMG、俺が大戦中の
対戦車ライフルを改造して作った対モンスターライフルだ。以前使った時にはシュリーカーを一発で
ミンチにしてやったもんだ。まあ、勢い余ってトラックをついでに一台オシャカにしちまったんだが……」

彼が熱く語っているのは背中に担いでいる巨大な銃のことだ。全長は1メートル半をゆうに超える。
人間はおろか、象相手に使うにしても威力過剰に見える。バートの主張は理不尽だが、彼がこの銃を
島に持ち込むために書いた膨大な書類の量を考えると、多少同情の余地はあるかもしれない。

「申し訳ありませんが安全上の問題ですので……」
「む……分かった、仕方が無い。じゃあコイツを預かっておいてくれ。くれぐれも扱いは慎重にな」

職員は明らかにホッとした表情を見せると、グリズリーを担いで施設の奥へと消えていく。
それを見て、バートは大きな溜め息を吐きながら受付ホールのソファーに腰を下ろした。
ホールに備え付けられたモニターには島のローカルニュースが流れている。退屈な内容だった。

パーフェクションで、日々を核戦争とグラボイズ対策に費やし続けていたバートが旅行を思い立った
のには、特に大した理由は無い。ただ女房と離婚し独り身になった自分をふと振り返った時、
たまには気晴らしが必要なのではないかと考えたのだ。
そこで射撃場のある観光地をピックアップし、その中からセント・マデリーナ島を選び出した彼は、
自慢のライフルを担いで意気揚々と上陸したのだが、出鼻をくじかれた形となった。

 メキシコでのグラボイド狩りで莫大な賞金を稼いだ今では、経済的に不自由することはない。
だが、何か物足りなさを感じるのだ。かつて共にグラボイドと戦ったバル・マッキーは結婚して
幸せな家庭を築き、アール・バセットは実業家として成功しつつある。自分には何が足りないのか。
女房が家を出る時、冷戦が終わってから自分は腑抜けたと言われた。当時は勝手なことをぬかすな
と思ったが、あれは当たっていたのかもしれない。自分は命懸けの局面に向き合って初めて――

 ふと正面玄関の方が騒がしいことに気づいた。視線をやると足元がおぼつかない男を警備員が制止している。酔っ払いらしい。警備員は穏便に事を済ませようと、酒気を帯びた状態での銃使用の危険性と
射撃場の規定を説明し追い返そうとしている。だが男のほうは聞こえているのかいないのか、生気のない表情で警備員ににじり寄るばかりだ。

(あんなアホの相手までしなきゃならんとは、警備もご苦労なこったな)

 受付を見ると、係員が書類を捲っている。自分の手続きが終わるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
特にやることもないし、憂鬱な気分になっていたところへのこの騒ぎに少々苛立ったということもある。
警備員に加勢してやろうと立ち上がる。

「おい、そんなザマじゃ銃なんぞ撃っても当たらんだろうが。酔い醒まして出直したらどうだ、あん?」

 男はバートの声にも反応しない。ただ救いを求めるように警備員に向って両手を伸ばししがみついた。

「具合が悪いんですか? それなら医務室の方へ――っあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 突然男が警備員の喉下に噛み付いた。いや、噛み付くなどという生易しいものではない。警備員の悲鳴
にも臆せずその肉を食いちぎろうと歯を更に食い込ませ、顎と首の力で引きちぎろうとしている。
あまりの出来事に流石のバートも足が一瞬止まった。が、我に返ると男に向かい突進する。

「この野郎! イカれてんのか!」

男を警備員から引き剥がし突き飛ばす。男はその勢いのまま玄関脇の柱に頭をぶつけるとズルズルと
崩れ落ちた。

「そこのお前! 彼の首のところを押さえてやってくれ! それと誰か担架だ! 担架を持ってくるんだ!」

 ホール内は騒然となった。職員と利用客が何事かと駆け寄ってくる。周囲の人間に声を掛けるバートの
視界の隅に、立ち上がろうとする男の姿が映った。舌打ち一つ、自前のベレッタM92を引き抜き男の方に向ける。

「動くんじゃあない! これ以上妙なマネしてみろ、そん時ゃお前……!?」

 舌が強張るのをはっきりと感じた。背後の職員や野次馬の声が凍りつく。
 立ち上がった男の頭部は、柱に衝突した衝撃で大きく陥没し赤黒い中身をはみ出させていた。
傷口からは血と脳漿が混ざり合った粘性の液体を溢し続け、床にその染みを引き摺りながら尚も
バートに迫ろうとしている。
その異様な姿に戦慄しながらも更に怒鳴る。

「動くなって言ってんだろうが! 聞こえねぇのか!?」

 男は焦点の定まらない眼をバートのほうに向け再び手を伸ばす。死に掛けの蜘蛛のように曲げられた
指がバートの首にかかろうかというその瞬間、彼はトリガーを引いた。
 至近距離で放たれた銃弾が眉間に命中、脳をかき回しながら後頭部へと貫通、衝撃で男は後ろへと吹き飛び
今度こそ動かなくなった。
 荒い息を吐きながら銃をしまう。固まっていた回りの人間たちがようやく動き出した。奥の医務室へ
運び込まれる警備員、消防へと連絡する職員、客の一人がバートに声を掛ける。

「危なかったなあんた。もし後で警察に何か訊かれたら正当防衛だったって証言しとくよ」
「ああ、ありがとよ」

 ソファーに戻りどっかと腰掛ける。振り返ると職員が男の死体から野次馬を遠ざけていた。
 あの男があの重症でなぜ動けたのかは分からない、まるでゾンビのようだった。グラボイドとはまったく別の脅威だ。だがそれも死んでしまえばそれまでだ、後は警察にでも任せればいい。
 デイパックの中を探り携帯食料――女房と別れてからはこればかり食べている――を取り出した。
包装を破ろうとした時、モニターに緊急報道が流れた。
島の各地で起きている暴動。警官隊に撃たれ、重傷を負っているにもかかわらず動き続ける暴徒たちの
姿が映されている。

(さっきのヤツで終わりじゃなかったのか!?)

 この島で何か異常な事態が進行している。それもグラボイドとは全く別のとてつもなくヤバいヤツだ。
先刻以上の戦慄がバートを襲った。
 しかし、同時に戦慄以上の何かが胸のうちに沸々とこみ上げてくる。
 バートは踵を返し、受付へと駆け込む。係員が驚愕のあまり身を引くのにも構わず怒鳴った。

 「オーナーを呼べ!!」




――――A.M.11:30



『いい? くれぐれも目立つ行動は避けること。それから――』
「大丈夫だって。来てみれば判るけど、この島は本当にのんびりした場所だよ。ママがしばらく身を
隠すにはちょうどいいよ」
『それならいいんだけど、どうも胸騒ぎがするのよ。何か良くないことが起こりそうな気がするわ』
「平気だって。それよりもママは自分の心配をしなよ、今までずっと戦い続けて、まだ怪我も治って
ないんだしさ。じゃあそろそろ切るよ」
『ええ、愛してるわ、ジョン』
「僕も」

 島の市街地の中央部から西部にかけては大規模なショッピングモールをはじめとした観光客向けの
娯楽施設が立ち並んでいる。島を訪れた観光客達は、午前中から昼間はビーチで泳ぎ、夕方からは
商店街やショッピングモール、映画館を回るというのが定番コースだ。
 映画館は、島の大きさから考えると、非常に大きい。建物は2階建て、遊園地のように派手な外観で
恐竜や宇宙船を模した看板が2階部分から突き出ている。内部は大小合わせて5つのシアターがあり、
各種売店も完備されている。 
 映画館の周りには「オズの魔法使い」を意識した黄色い石畳が敷き詰められ、土産物やファーストフードの
露店が並び、少し離れた場所には公園もある。
 その公園のベンチでジョン・コナーは電話を切った。
 
 T−1000との決着とT−800との別離から数週間。母であるサラ・コナーはサイバーダイン社
襲撃の犯人として指名手配されていた。そのサラはT−1000によって肩と脚に重傷を負わされ、
その怪我の治療に専念していたが、手配犯である以上、当然正規の医療施設を利用するわけにはいかず
思うようには回復していない。 
 そこで未成年ゆえ指名手配から外れたジョンが、潜伏兼療養先の候補としてこのセント・マデリーナ
島を下見に訪れたのだ。
 ベンチに座ったままジョンは空を見上げた。雲ひとつない快晴。午後は暑くなりそうだ。わずかに
潮気を含んだ風が柔らかい前髪を弄ぶ。
 視線を下ろすと、公園の真ん中で父親と戯れている子供たちの姿が目に映った。グローブを構え父親に
ボールを投げるようせがむ子供。笑いながらボールを放る父親。幸せそうな家族の光景。
 それを眺めているとジョンの胸にかすかな痛みが奔る。
 父親のいない自分にとってT−800は初めて信頼できる大人だった。たとえそれがメタルとオイル
で構成されたターミネーターだったとしても。
でも彼はもういない。人類の未来を守るために自ら溶鉱炉の中へと沈んでいった。
その犠牲のおかげで何億何十億という人間が救われたのは分かっている。マシーンが人間を支配する
未来は回避されたのだ。しかし、それと自分の寂しいと思う感情はまったく別だ。
 そしてもう一つ、ジョンは幼い頃から人類の指導者となるべく、母に連れられ世界各地であらゆる
技術を叩き込まれた。戦闘、諜報、破壊工作、電脳戦etcetc。だが、人類の破滅が回避された以上、
自分が指導者になる未来は無くなった。これからどんな人生を送れば良いのか、漠然とした不安が
ジョンを包んでいた。

(……今は考えてもしょうがない。僕とママの体を休めることだけ考えよう)

 そのままベンチに横になる。飛行機の中でよく眠れなかったためか、うとうととし始めた。



 突如として響き渡った絶叫と共にジョンは跳ね起きた。状況を把握できないまま周りを見回す。人々
が走ってどこかへと向かっている。

(違う……逃げてるんだ!)

 人が逃げてきた方へと振り向く。公園の中央で倒れこんだ男性に大勢の人影が群がっている。最初、
男性がリンチにあっているのかと思った。だが違う、群がっている連中は男性に喰らいつき、その肉を
貪っていた。そのおぞましさに体が硬直する、こんな残虐な殺人方法などターミネーターでもやりはしない。
 デイパックを引っつかみベンチを乗り越え自らも逃げ出す。当てなどないがとにかくここを離れなければならない。
 
「うわっ!?」

近くを走っていた少年が足をもつれさせて倒れこむ。咄嗟にジョンは少年の手を掴み強引に引き摺り
起こした。
少年が何か叫ぶのにも構わずそのまま走り出す。答えたくても自分自身何も理解できてないのだ。
わき目も降らず公園の入り口へ向かう。
 入り口は大混乱だった。逃げようとする人々が団子のように固まってほとんど進んでない。

(先に逃げた人たちが進んでない……前にも『あいつら』がいるのか!?)

 推測を裏付けるようにはるか前方から悲鳴が聞こえてくる。入り口付近の混乱はさらに加速した。
逃げる人と戻る人が衝突し、もはや収拾がつかない状態だ。少年が不安そうに見上げてくる。

「こっちだ!」
即座に決断できたのはサラからの指導とあの数日間の経験の賜物だったかもしれない。大通りに
面した柵を先に乗り越え、少年を引っ張りあげる。
 道路に着地、入り口の方を確認すると、そこは予想通り惨状と化していた。足を引きずるようにして
一様に虚ろな表情を浮かべた一団が人々に襲い掛かっている。中には内臓をはみ出させたまま人間に
食らいついているものまでいた。

「見るな! 逃げるんだ!」

 再び固まっていた少年の手を引いて走り出す。すでに大通りのそこかしこに奇妙な連中がうろついていた。だがなぜか走ろうとはしない。走れないのか。

(なら好都合だ!)

 不審者たちが接近する前に、裏路地へと滑り込む。こちらにはほとんど人の気配はない。このまま
上手く逃げられるかもしれない。念のため、母から護身用に持たされたスタンガンを取り出し、後ろの
少年の無事を確認する。
 今になって気づいたが少年はアジア人だった。メガネとサンバイザーを着け、年齢はジョンよりも
やや下のようだ。不安がらせないよう青い顔をしている少年に向かって無理に笑ってみせた。

「大丈夫だよ、僕はこの手のトラブルには強いんだ」

 自分のような子供に言われても気休めにしかならないだろうが、ともかく少年はうなずいた。
 ここには母もT−800もいない、自分の力で生き延びるしかない。深呼吸をする。

「僕についてくるんだ、行くよ!」

一気に駆け抜けようとした瞬間、人影が路地の出口を塞いだ。
加速がついて足を止められないジョンは、「それ」を間近で見てしまった。左半分が削げ落ち、筋肉
と骨がむき出しになっている顔。眼窩からは眼球がこぼれかけ、視神経によってかろうじてぶら下がっている。半分以上へし折れた歯の間からは、獣のようなうめき声が漏れていた。
攻撃によって金属骨格が剥き出しになったT−800を見たことはあるが、これはそれとは違う、
知性も何もない、まるでモンスターのようだった。
 「それ」がジョンを捕らえようと手を伸ばす、その腕をかいくぐりジョンはスタンガンを脇腹に押し付けた。激しい放電音と共に「それ」が全身を反り返らせ、硬直、倒れこむ。肉が焼けたような焦げ臭い
臭いがあたりに立ち込める。

(これ護身用って威力じゃないだろ!?)

 サラが改造していたらしい、一応感謝しつつ勢いのまま大通りへと飛び出した。だが、少年が「それ」
を飛び越えようとした時、体に躓いて再び転んでしまった。さらに――

「左から来る!!」

 手を貸そうとしたジョンは少年の叫びに振り向く。そこには2メートルほどの距離に迫る奇怪な一団が。
今から少年を引き起こしても捕まる。戦るしかないと覚悟を決め少年の前に立ちふさがったその時。
「頭を下げて!!」
「どぉりゃああああああああぁぁぁぁ!!」

突然の謎の指示に訳がわからないながらも従う。咆哮と同時に飛来した何かが二人の頭上を通過し、
不審者達に直撃、後ろにいた数人も巻き込んで倒れこむ。それは露店の前に置かれていたベンチだった。
 思わず逃げ出すのも忘れて唖然とした。大部分がプラスチックとはいえ、四人掛けは出来そうな
ベンチを遠投するなんて芸当ができるのは、自分が知る限りターミネーターぐらいのものだ。
 飛来した方を確認する。そこにいたのは二人の女性警察官だった。長い髪を三つ編みにした方の女性が叫ぶ。

「また来るわ! 夏実、もう一回お願い!」
「りょお……っかいいいいいいいいぃぃっ!!」

ミディアムショートの女性がベンチを抱えあげた。さして筋肉がついているとは思えない両腕に力が
込められる。次の瞬間には再びベンチが宙を舞った。先ほど以上の不審者を巻き込みながらなぎ倒す。
 その隙にジョンは少年を助け起こし、女性警察官たちのほうへと走り出した。

「早くこっちへ!」

 彼女らに導かれるまま通りを走る。不審者たちはやはり走れないらしく、振り向くと姿はもう見えなかった。

「ひとまずあそこに身を隠しましょう」

 三つ編みの女性が指差したのは映画館だった。





「よーし、よく頑張った! えらいぞ男の子!」

 映画館内はひっそりと静まり返っていた。すでに避難活動は終了していたらしい。
チケット売り場前のソファーに座り込んで一息ついていると、ミディアムショートの女性に頭を
わしわしと撫で回された。かなり豪快な女性のようだ

「もう男の子って齢じゃないよ、これでも十三歳だ」
「ゴメンゴメン、あたしは辻本夏実。こっちのおさげの方が――」
「小早川美幸よ、よろしくね。そっちの君も日本人?」
「木手英一です」

 少年は思っていたよりもしっかりした返事を返してきた。見た目よりはタフなのかもしれない。

「それで君は、えーと……」
「ジョン、ジョン・リース」

 申し訳ないが念のため偽名の方を答えておく。なるべく無用な誤解やトラブルは避けたかった。
どうやって自分のことを説明しようか迷っていると、英一が口を開いた。
「辻本さんと小早川さんは日本人ですよね。どうしてセント・マデリーナ島に?」
「よくぞ訊いてくれました。っていってもたいした理由があるわけじゃないんだけどね。あたし達は
日本の墨東署ってトコで働いてたんだけど、今はロサンゼルス市警に出向しててね。この島には仕事で
来てたんだ」
「たまたまこの事件に巻き込まれてね、私たちは島の警察の人たちと一緒に避難活動を手伝っていたの」
「ロサンゼルスに出向なんて凄いですね……あれ、じゃあ他の警察の人たちはどうしたんですか?
さっきはいなかったみたいだけど……」

 英一の指摘に美幸の表情が若干曇る。

「ごめんなさいね。私たちの方も避難活動で混乱している最中にはぐれてしまって……」
「そうだったんですか……」

場の空気が沈みがちになる、が

「だーいじょうぶ! 君達の事はあたし達がしっかり面倒見るから! そんな暗い顔しない!」

夏実が豪快に笑いながら子供たちの背中をはたく。その豪力に二人ともつんのめりそうになった。
その様子に美幸の表情もほころぶ。

「そうね、私達が責任を持って君達を安全な場所まで送りとどけるわ。その点は心配しないで」
「よし、じゃああたしたちは奥を確認してくるから、二人はここで待っててくれるかな」
「もし何かあったら大声を出して逃げるのよ。無茶はしちゃ駄目、約束よ?」

映画館の奥へと向かう二人を見送る。二人の姿が見えなくなるとジョンは肩を落とした。自分が万能
などとは思ったことはないが、それでも英一をつれてあたふたと逃げ回るので精一杯だった。T−800
と出会ってからも全く実感が湧かなかったが、自分が人類の指導者になるなどと言う未来は何かの間違い
じゃないのだろうか。現実にはプロの大人に助けられてばかりなのに。
 一人悶々と考え込んでいると英一が声を掛けてきた。

「さっきはありがとうございます、リースさん。おかげで助かりました」
「ジョンでいいよ。あと敬語も要らない」

 そう返しながらもジョンは少し驚いていた。英一はすでに冷静さを取り戻しているように見えた。
少なくとも表面上の動揺は見られない。先ほども思ったが外見以上に芯が強いようだ、この少年も場数
を踏んでいるのだろうか。

「ジョンは一人旅? 家族の人はいるの?」
「家族はママだけさ、今は怪我でこの島には来てないんだけどね。英一の家族は?」
「パパとママ、あと――」

 そこで英一は言いよどむ。
「――あと、友達と一緒に住んでいたけど、その友達とは別れたんだ」
「……別れた?」
「別れたっていっても別に喧嘩別れとかじゃないんだ。辛かったけど、お互いに納得してそれぞれの
道を行こうって決めて別れたんだ」
「……その友達とはもう会えないのかい?」
「死に別れたわけじゃないけど、多分もう二度と会えないと思う……」

 奇妙な巡り会わせだった。この混乱の中で出会った少年は自分と同じように別離を経験していたとは。

「僕もさ」
「……え?」
「僕もこないだ友達、っていうか父親みたいな感じの人と別れたばっかりなんだ」

さすがにその友達が未来から来たターミネーターだとは言わなかった。そんなことを言えば昔のサラ
のように信じてもらえないだろう。

「もっとも僕の場合は最後の最後になるまで泣いてゴネて彼を困らせたんだけどね。だから英一は強い
と思うよ。ちゃんと相手の意思を認めて別れたんだからさ、すごく大人だ」
「そ、そうかな」
「そうだよ」

 言いながらジョンは多少吹っ切れた気分になっていた。自分よりも年下の子供が前向きに生きている
のに自分がいつまでも迷ってばかりもいられない。それに未来の指導者どうこうを今気にしても仕方が
ない、現在の自分に出来ることを探そう。

 とりあえず入り口の案内図で非常口の確認を済ませる。脱出口の確保は逃亡生活の中で体に染み
付いてしまっている。
 館内はジョンが想像していたよりも広く、入り口近くには土産物や食品の売店があった。
 ジョンは売店のカウンターを乗り越えると、クーラーの中から飲料水やジュースを取り出し、商品棚
に並べてあったパンをカウンターに並べる。

「え、これってお金は――」
「非常事態だから大目に見てもらうさ」

途惑う英一に食料を持たせる。彼はやや逡巡していたが食料を自分のリュックサックにしまいこんだ。

「君も僕も待ってる家族がいるんだ、お互い絶対に家族のところへ生きて帰ろう」
「……うん!」



映画館の規模に比例して、奥にある事務所はかなりの広さが合った。デスクとコンピューター等、ごく普通のオフィス器具が並んでおり、壁際には職員のロッカーが並んでいる。ここが最後の部屋だ、
ここにも人がいないということは、館内にいるのは自分たち4人だけということになる。夏実は大きく
安堵の息を吐いた。
「この辺はもう避難が済んだみたいだね。それにしても研修の最後になってこんなことになるなんて
ホンットにツイてないわ。オフにはスキューバとかジェットスキーとか色々予定立ててたのに」
「文句言わないの。もっと大変な目にあっている人はきっと大勢いるわ。それにあの子達だってまだ
安全って訳じゃないのよ。何とかして警察署まで避難させないと――」
「分かってる。車かバイクがあればいいんだけど、道路がゾンビと壊れた車なんかで埋め尽くされてる
からちょっと厳しいかな」
「移動手段もそうだけど護身用の武器も足りないわね」

美幸は自分の銃の残弾を確認する。

「残り三発……、夏実は?」
「隣で援護してくれた人が弾切れになったから全部渡しちゃった」
「ほとんど丸腰ね……」

考えれば考えるほど悪状況に陥っているのが理解できてしまう。
 加えて元々美幸は怖い話やモンスターが苦手なタイプだ。昔に比べれば耐性がついたが、ゾンビと
正面から相対するのはあまり気分の良くないものだ。まあゾンビと接するのが好き、などという人間は
いないだろうが。

「あんたまでそんな暗い顔になってどーすんの相棒。いざとなったらあたしがゾンビなんか力技で蹴散
らしてやるから心配しなさんな!」

 こんな時でも夏実は変わらない、そのことに苦笑がもれる。相棒のポジティブさには本当に頭が下がる。

「ありがとう夏実。でも大丈夫よ、この程度でへこたれるほど私はヤワじゃないわ、それは知ってるでしょう?」
「そうこなくっちゃ!」

 現状はホラー映画のような状況だが、現実にゾンビがいる以上そこには何かの原因があるはず。それ
を突き止めれば被害の拡大を防げるかもしれない。それに島には逃げ遅れた人たちがまだいるだろう。
彼らの救出も行わなければならない。

「ひとまずあの子達のところへ戻りましょう。これから具体的にどうするのか決めないとね」
「オッケー。それじゃあ――」

夏実の言葉をさえぎるように轟音が響く。

「今のは!?」
「裏手の方よ!」

裏口に向かって二人は駆け出す。ゾンビの仕業か、偶然なのか、いずれにしても放置するわけには行
かない。生存者がいるかもしれないのだ。
 身長に外へ続くドアに近づくと、向こう側の気配を窺う。ゾンビのうめき声は聞こえない。二人は意を
決するとドアを開けた。
二人の目の前に現れたのは――
「これはまた……」
「派手にやったなぁ……」

壁に激突して動かなくなった古い軽トラックと、

「クソ! なんてヤワな車だ! こんなことなら軍用トラックを借りてくりゃ良かった!」

トラックに蹴りを入れている中年の男性だった。

「大丈夫ですか!?」
「嬢ちゃん達、警官か!? ちょうどいい、荷物を下ろすのを手伝ってくれ!」

 美幸たちの心配に反して男性はピンピンしていた。荷台に上って人間が入れそうなほどの大きさのバッグ
を引っ張り出そうとしている。

「ああ、あたしやりますよ」
「気をつけろ、50kg以上はあるからな、二人がかりなら――」
「わ、ホントだ、結構重っ」

 夏実はひょいと荷物を担ぎ上げると、あっけに取られる男性を残してスタスタと映画館へ戻っていく。

「……あの嬢ちゃん、サイボークかなんかか?」
「れっきとした人間ですよ」

男性の問いに美幸は苦笑するしかなかった。





轟音を聞きつけた子供達と合流し、事務所に戻る。

「それでガンマーさん、この荷物の中身は何ですか?」

バート・ガンマーと名乗った男性が持ってきたバッグは部屋のデスクの上に置かれていた。その尋常
じゃない大きさは、異様な存在感がある。
 美幸の問いにバートはニヤリと笑う。

「季節はずれのサンタのプレゼントってとこか、開けてみりゃわかるさ」
「それじゃ、お言葉に甘えて、っと」

 夏実がバッグのファスナーを開け、ひっくり返す。その中出てきたのはから銃と弾薬だった。それも
一丁や二丁ではない。全部で十数丁の銃と大量の弾薬が入っていたのだ。
「これって……」
「戦争ができそうね……」

 夏実達の呟きには驚嘆を通り越して呆れの色が含まれている。よくみると銃の種類はバラバラで、
なかには見るからに年代物の銃もある。

「どうしたんですかこれ?」
「なに、さっきまで射撃場に居たんだがそこのオーナーが話の分かる奴でな、島の連中と一緒にゾンビと
戦うのに銃が必要だって言ったら気前良く分けてくれたんだ。型がばらついてるのは勘弁してくれ、
手近にあった奴をかき集めただけなんでな」
「はあ……それにしてもよくこれだけの数を……9ミリの弾丸を分けてもらえますか?」
「おう、好きなやつを持ってけ」
「じゃああたしはこれにしよ」

夏実が大型の散弾銃を手に取る。

「でもよかったじゃない美幸、これだけ武器があればなんとかなるっしょ」
「そんなこと言っても人間の腕は二本しかないのよ。夏実の腕力がいくら強いからって、一人で何丁も
扱えるわけじゃないし、これ全部を持っていくと逆に動きが取れなくなるわ」
「そうだな、適当にいくつか持って行って、残りはあとからここにくる奴のために残しとけばいい。で、
お前らはこれからどうするんだ?」
「まずこの子達を警察署に避難させます。その後は他の警察の人と協力して救助活動にあたるつもりです。
ガンマーさんはどうされるんですか?」
「俺か? そうだな、とりあえずはっきりしたことは決めてなかったからな、警察署まではお前らに
付き合おう。それからのことはその後で決める」
「いいんですか? ガンマーさんも避難した方がいいのでは?」
「心配すんな、モンスターの相手は俺の専門だ。」
そういってバートは不敵な笑みを浮かべる。

「よっし! それじゃあ準備が出来たら警察署目指して出発! 君たちもそれでいいね?」

夏実の確認に少年たちがうなずく。

こうして奇妙な縁で交錯した彼らのサバイバルが始まる。



【F―04 映画館/一日目/日中】

【バート・ガンマー@トレマーズシリーズ】
[状態]:健康
[服装]:キャップ、サングラス、サバイバルベスト、カーゴパンツ
[装備]:SIG SG551(5,56ミリ弾 30/30 予備弾150)、
    ベレッタM92×2(9ミリパラベラム 弾数15/15、15/15 予備弾30)
[道具]:ツールナイフ、デイパック(携帯食料×6、500ml入り飲料水のペットボトル×4、発炎筒×4、
    マグライト、島の地図)
[思考・状況]
 基本思考:生存者を集めて島から脱出。
 1: 人手と物資を集める。特に銃! 銃がありゃなんとかなる!
 2: ジョンと英一を警察署まで送る。
[備考欄]
 ・「トレマーズ2」以降からの登場

【辻本夏実@逮捕しちゃうぞ】
[状態]:健康
[服装]:警察の制服
[装備]:モスバーグM590(12ゲージショットシェル 弾数9/9 予備弾45)、
    グロック26(9ミリパラベラム 弾数17/17 予備弾34)
[道具]:身分証、財布、伸縮式警棒
[思考・状況]
 基本思考: 生存者の救出
 1: 装備を整えたら警察署へ向かう。
 2: 物資の調達と安全な場所の確保。
 3: ジョンと英一を守る。
[備考欄]
 ・アニメ「フルスロットル」開始前、ロス市警に出向中の時期から登場

【小早川美幸@逮捕しちゃうぞ 】
[状態]:健康 ゾンビに苦手意識
[服装]:警察の制服
[装備]:シテス スペクトラ(9ミリパラベラム 弾数30/30 予備弾120)、
    グロック26(9ミリパラベラム 17/17 予備弾34)
[道具]:身分証、財布、伸縮式警棒
[思考・状況]
 基本思考: 生存者の救出
 1: 装備を整えたら警察署へ向かう。
 2: 物資の調達と安全な場所の確保。
 3: ジョンと英一を守る。
[備考欄]
・アニメ「フルスロットル」開始前、ロス市警に出向中の時期から登場

【ジョン・コナー@ターミネーター2】
[状態]:疲労(小)
[服装]:サマージャケット、ジーンズ
[装備]:改造スタンガン(残バッテリー95%)
[道具]:携帯電話、デイパック(ノートPC、500ml入り飲料水のペットボトル×4、携帯食料×4、島の地図)、財布
[思考・状況]
 基本思考: 生存者たちと脱出。
 1: 自分に出来ることを探す。
 2: 島にいる間は偽名で通す。
 3: 木手英一になんとなく親近感を感じる。
 4: 武器がほしい
[備考欄]
 ・「T2」終了後から登場

【木手英一@キテレツ大百科】
[状態]:疲労(中)
[服装]:原作と同じ服装
[装備]:なし
[道具]:リュックサック(発明用の工具セット、500ml入りジュースのペットボトル×5、スナック菓子×5、クッキー、パン×5、島の地図)、財布
[思考・状況]
 基本思考:生存者たちと脱出。
 1:自分に出来ることを探す。
 2:ジョンになんとなく親近感を感じる。
[備考欄]
 ・アニメ最終回後から登場
 ・奇天烈斎の発明品は島に持ってきていません。




※ 以下の銃と弾薬が映画館の中にあります。
○ 銃
・ S&W M64(38spl弾 6/6))
・ コルト キングコブラ(357マグナム弾 6/6)
・ スタームルガー セキュリティシックス(357マグナム弾 6/6)
・ S&W M29(44マグナム弾 6/6)
・ タウルス レイジングブル(44マグナム弾 6/6)
・ SIG P226(9ミリパラベラム 15/15)
・ CZE CZ75(9ミリパラベラム 15/15)
・ ワルサー P99(9ミリパラベラム 15/15)
・ ジェリコ941(9ミリパラベラム 16/16)
・ ファイブセブン(SS190弾 20/20)
・ スタームルガー Mk.Ⅱ(22LR弾 10/10)
・ レミントン M1889(12ゲージショットシェル 2/2)
・ スパス12(12ゲージショットシェル 6/6)
・ コルト XM177(5,56ミリ弾 30/30)
・ ベレッタ M70(5,56ミリ弾 30/30)
・ スプリングフィールド M1903(30-06弾 5/5)
・ M1ガーランド(30-06弾 8/8)
・ リー・エンフィールド(7,62ミリNATO弾 10/10)
・ スプリングフィールド M14(7,62ミリNATO弾 20/20)
・ グリズリー・シングルショット(オリジナル 1/1 予備弾15)
 ○ 弾薬
・ 9ミリパラベラム×450発        ・ SS190弾×60発
・ 22LR弾×50発            ・ 38spl弾×60発
・ 357マグナム弾×150発         ・ 44マグナム弾×150発
・ 12ゲージショットシェル×180発    ・ 30-06弾×150発
・ 5,56ミリ弾 360発           ・ 7,62ミリNATO弾 260発
どの銃を持っていってどの銃を残すかは次の人に任せます。

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最終更新:2009年08月21日 22:03