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 世界を踏みにじる蛇と銭ゲバ  ◆ubyc5N5K3uqR

「いやあ、素晴らしいラインナップですよ。ミス・へクマティアル」
「お褒めに預かり光栄です。あ、今回は観光も兼ねて来ているので、
何か解らない点があればこの番号まで。アドバイスしますから」
と言って笑顔で名刺を渡すのは、欧州に本拠を構える巨大海運会社・HCLI社に所属する武器商人、
ココ・へクマティアルだった。まだ20代半ば、しかも女性、しかも美人でありながら
あらゆる武器弾薬の知識を記憶し、それを仕入れ世界各国の様々な組織に合法価格で売りさばくのだ。

世界各国を部下の私兵9人と共に渡り歩く彼女が生まれたのは、病院などではなく、
コンテナ船の上だった。つまり、彼女には母国がない。愛国心と言われても何のことやら。
だからこそ彼女は世界の様々な国の組織に自分の武器を売るのだ。愛国心がないから、
どの国がどうなろうと知ったこっちゃない、かというと決してそうではなく、その理由を彼女はこう語る。

「世界平和のため」
武器を売り戦争を起こし更に武器を売るのが武器商人のセオリーだが、
それと真逆のことを語る彼女の真意が何処にあるかは彼女にしか解らない。
さて、ココを語る上で外せないことが3つある。1つは、いつも笑みを浮かべているということだ。
かつての部下と『ボスは常に笑っているべき』という約束を交わし、ココは今もそれを守っているのだ。
2つ目は、彼女の父親はHCLI社のトップ、フロイト・へクマティアルの実の娘だということだ。

ただココは、父親を『フロイトさん』と呼びかなりよそよそしいのだが。
そして3つ目。彼女が幼い頃から世界を旅して来た中でスカウトした9人の私兵だ。
ただ、彼らには休暇を出し、今回ココはその私兵の中でも最年少、元少年兵である
ジョナサン・マルを連れて来た。ちなみにジョナサンは仲間内ではヨナと呼ばれ、
ココも彼をそう呼んでいる。まだあどけなさの残る色黒な少年だが兵士としてのレベルは間違なく一流である。

それは、彼がココの手下になる少し前に引き起こしたある事件によって証明されている。
その事件を起こした原因に起因して彼は武器一切を果てしなく憎悪しているが、
同時に武器の頼もしさを誰よりも理解しているために武器を手放せず、
ココの元で今も兵士を勤めているのだ。また、ヨナは基本的に氷のような表情をしていて、
仲間以外に笑顔を見せることはまずない。というか、仲間ですら彼の笑顔を見ることは滅多にない。

今回ココがこのセント・マデリーナ島にやって来た理由は、アメリカで起きたテロ、
『ナカトミタワー事件』を受け、アメリカ連邦捜査局、通称FBIはアメリカ全土の警察の
武装強化を決定。そのための大量の武器弾薬の発注先がHCLI社だったというわけだ。
ココが乗って来た中型のコンテナ船には、拳銃はもちろん、ショットガン、マシンガン、スナイパーライフルなど
上手く運用すれば軍隊にも引けを取らないほどの武器が詰まっていた。

代金は前払いでもらっているため、ココはさっさと武器を引き渡し、ヨナと一緒にこの島で
観光を楽しもうと考えていた。
ココから名刺を受け取った若い警察官は、それを手帳にしまいココに笑顔を送り
武器をトラックに詰め込む作業を手伝いに行った。その様子を眺めるココは溜め息をつく。
武器とはその性能を使いこなす人間が持って初めて意味を成すものだ。

はっきりいって平和ボケしているこの島の警察がココの武器を使いこなせるようになるには
一年近い訓練期間が必要になるだろう。もっとも、ココの仕事は武器を売ることであり、
売った相手が売った武器で何をしようと彼女には関わりのないことであり、興味もないことだった。
「さて、仕事も片付いた事だし、行こうかヨナ。観光へ」
やはり笑みを絶やさずヨナに話しかけるココと、それとは対照的に氷の仮面を
被る少年はココに返す。「ココと一緒に旅するだけでもう観光だよ。別に今に始まったことじゃない」
「フフーフ。そう言ってくれると私もキミと旅をして来たかいがあったというものだよ」
このココの笑い方は彼女の特徴の一つである。埠頭から歩きだし、港湾施設に面する公道で
タクシーを引っ掛け、乗り込む2人。行き先は、セント・マデリーナ警察署だ。
納品後、署長に挨拶に行くことになっているからだ。
その警察署までの道中、運転手が後部座席に腰掛けるココに話しかける。

「その隣の男の子、お姉さんと違って色黒だけど、兄弟か何かかい?」
「そう!小さいのにすごい頭がよくて頼りになるんだよ。ね、ヨナ」
そう言ってヨナに微笑むが、ヨナは訝しげな表情でココと目を合わせ、
そしてまた窓の外の風景に目を向けるのだった。
「愛想はあんまりよくないみたいだね…」
ハンドルを握る運転手がバックミラーからその様子を見て苦笑する。

「それだけがネックなんだよね」
ココも笑いながら話す。その後、他愛ない雑談をするうちに、タクシーは警察署前へとたどり着いた。
料金を支払うココ。もともと小さい島なので、料金はそんなに高くない。10ドル程度だ。だが…
「運転手さん、お釣はとっておきたまえ。楽しい会話のお礼だよ」
ココがそう言って手渡したのは、100ドルだった。
「え?!いいのかい?最近不景気気味でお金は大事にしないと」

お釣の金額の多さから慌てる運転手。そんな運転手にココは
車から降りて窓の向こうの運転手にニッコリと笑っていった。
「フフーフ。ご心配なく。私の仕事はどんな時でも儲るからね。それじゃ縁があればまた会おう」
そして、警察署に向かう2人。背後ではエンジン音がして、先程のタクシーが走り去っていった。
「あの運転手、レームに似てなかった?」
歩きながらヨナが話しかける。レームというのはココの私兵の一人でヨナを含めた
9人のリーダーを勤める初老の男性だ。元デルタフォースという経歴の持ち主でもある。

「そう!私もそう思った。100ドルを握らせたのはそれが主な理由なんだよね実は」
などと会話しながら警察署受付にたどり着き、係員に用件を伝えるココ。
「申し訳ございません。署長はただいまFBIの捜査官の方と取り込んでおりまして…」
と、申し訳ないという表情で署長不在の旨を伝える係員。ココは彼女にニコリと笑って言った。
「では伝えておいてくれたまえ。あなたが待ち望んでいたモノは無事に送り届けたと」

「は、はぁ…」
今度は困惑の表情を浮かべる彼女にココは再び笑ってその場を後にした。
警察署正面玄関。そこで2人はこの島での今後の予定を立てていた。
壁に張り付けてあったポスターを見て、ココは呟く。
「なになに…射撃場にて射撃大会開催。優勝者には豪華賞品贈呈。面白そうだ。ヨナ!やってみないかい?」
「やだ」
即答するヨナ。取り付く島もない。彼は武器の類を果てしなく憎んでいるために
必要以上に武器に触れようとしないのだ。

彼の反応に苦笑いを浮かべるココ。だが、ここは不参加が妥当だろう。参加者は大方平和ボケした観光客か
ちょっと銃をかじってガンマンを気取っているカウボーイもどき程度だろう。
そんな所へココが認めた一流のソルジャーを送り込んだところで結果は見えているというものだ。
さて、射撃大会に参加しないのなら何をして過ごしたものか。
常に刺激を追い求め、退屈を嫌うココにとってこの状況はかなりまずいものだった。

ココが苦しそうに悩んでいるのを完璧な無表情で見つめるヨナ。
こんなことなら残りの部下に休暇など出さずに連れて来ればよかったのにと彼は思った。
しかも、この少しあとに起こる出来事によりその思いは更に強くなるのだった。
ココが地図を眺めながらう〜んう〜ん唸っている時、十数名の警官が署内から飛び出し
パトカーで出動して行った。もともと5台程度しかないこの警察署のパトカーは
先程の出動であっという間になくなった。

「何か事件みたいだね、ヨナ」
先刻のパトカーの出動により、事件のにおいをかぎつけたココは、再び笑みを取り戻し、ヨナに笑いかけた。

「この島で何が起きようと僕たちには関係ない。ターシンハイコンスやスケアクロウがいるなら話は別だけどね」
無表情の究極完全体という表情でココに返すヨナ。ターシンハイコンスとはココの商売敵であり、
スケアクロウとはココの逮捕とそれによる手柄、果ては懸賞金を狙うCIAのエージェントだ。
「まさか。いるはずないって。ターシンハイコンスは君とバルメが押さえたし、
スケアクロウにしたって
まさかこんな島まで追ってはこないさ」

「だといいけど。それはそうと、他のみんなも連れてくればよかったんじゃないかな。
あの程度の仕事だったらみんなも付いてきたと思うし、ココだって退屈せずに済むだろう?」
「フフーフ。私にも彼らの騒がしさから解放されてゆっくり過ごしたい時もあるのだよ、ヨナ」
しかし、この20分後にはそのココの企みは完膚なきまでに粉砕されることになるのだが。
ココとヨナが他愛ない世間話を繰り返してから10分、なにやら警察署内が騒がしい事に気が付く。

先ほどの受付に戻ると、オフィスの電話が鳴りやまず、署員の警官たちはてんわやんわという状況だ。
繁盛するのは結構だが歓迎できないものが4つある。消防、救急、軍隊、そして警察だ。
いったいこの平和な島で何が起こっているというのか。数々のデスラインを潜り抜けてきたココにとって
この状況が異常だというのは容易に想像がついた。しかし、事態を把握するには情報が少なすぎる。
警察関係者ではないココが署員に尋ねたところで何も得られはしないだろう。

情報に関しては先ほどパトカーで出動した警官隊がもたらしてくれるだろう。ならば、半ばパニック状態に
陥ってしまっている署内にとどまるのは得策ではない。表へとでて、自分の目で何が起こっているのか確認する必要がある。
いったいこの平和な島で何が?ココの頭はそれだけでいっぱいだった。テロ?確かにこの島は平和で
住民も危機に対する対応力が薄いのは事実だろう。しかしつい先日、米本土のナカトミタワーであれだけ
大きなテロが起こったのだ。警察も全土にて武装を強化することなどテロリストでも想像がつくというものだ。
しかし、考えていても結論など出ようはずもないというのもまた事実。百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。
「ヨナ。万一に備えて銃のセーフティをはずしておこう」

ココのその言葉にヨナは既にセーフティの外れたコルトMK?を彼女の完全に無言で見せつける。
「さすがはヨナ君だ。さて、事態を把握したい。表へと急ごう」

ロビーから駆け出し、先ほどの警察署正面玄関に飛び出した二人が目にした光景はつい20分ほど前と同じ場所とは思えぬほどに変わり果てていた。鳴りやまないサイレンの音、町中のいたるところから立ち上がる煙と炎。
絶えない人々の悲鳴、そしてなにより…
「ヨナ。ほっぺを抓ってみるといい。夢から醒めるはずだから」
ココに言われて彼は自らのほほを抓る。しかし、彼は一言「痛い」とこぼしただけで目の前の光景を
見ても冷徹な表情をかけらほども崩してはいない。

「だよね…だとするとこれは、現実ってわけか…」
ココが珍しく弱腰な口調でぼやく。ココとヨナが目にしたもの、それは腐り果ててとうに生命活動を停止したはずの人間の
無数の死体がこちらへと向かってくるものだった。そしてそれから逃げ惑う人々は全力でこちらへと向かってくる。
呆然と立ち尽くすココとヨナを尻目に人々は次々に警察署内へと逃げ込んでいき、署内のパニックはさらにひどくなる。

しかし、人々の話から事態の重大を把握した警察は武装警官隊を出動させる。正面玄関前広場にバリケードを構築する。
しかし、その手際は(ココの目から見れば)拙く、そのすきに生きた死体の接近を許してしまっていた。
さらに出来上がったバリケードも完成度はそれほど高くなく、彼らが大挙して押しかければおそらく突破されるだろうとココは読んだ。
やがて警官隊の配置が完了し、眼前の生きた死体、もといゾンビに銃を向けるがそれらはえてして
拳銃であり、機関銃といった連射性能の高い重火器を装備している隊員は一人としていなかった。

このことからわかる情報が一つある。先刻ココが納品した大量の最新鋭火器はまだ警察署に届いていないということだ。
ココは頭を抱える。おそらくこの異常事態であのトラックは立ち往生、あるいは横転してしまっているだろう。
つまり、今この警察署内にある火器がすべてだということだ。ココは愕然とする。セント・マデリーナ島という
平和な島の警察というその性質上、火力ははっきりいって期待できないどころか絶望的と言っていいレベルだ。
そんな体たらくでどうやってあのゾンビの集団を撃滅するというのか。状況的に焼け石に水以下だが、ないよりはマシだ。ココは懐に手をやり、STIイーグル6.0のセーフティを解除し、ゾンビの集団に向ける。
ヨナもそれに合わせて、懐のコルトMK?をゾンビの集団に向ける。そしてそれを黙認する警官隊。

ここでそれを咎める者がいたとしたらそいつはおそらく自殺志願者なのだろう。
ただ幸いなことに、
ここにはそんな狂ったやつは目の前のゾンビたちしかいないということだ。ここでこの警官隊の隊長らしき筋肉質の男が隊員たちに指示をだす。
「今から私が目の前の暴徒に最後通牒を行う。それに応じなかった場合、規定に基づき暴徒の射殺を許可する」
「イエス・サー!」
この異常極まりない状況でも警官隊の威勢はいい。悪くない。警察のお手並み拝見といこうか。
「暴徒諸君に告ぐ!今すぐ投降せよ!これは最後通牒である!繰り返す、これは最後通牒である!」
しかし、部隊長の最後通牒にも関わらず、止まる気配のないゾンビの集団。あたり前だ。ゾンビなのだから。
部隊長もそれを分かっていて建前上最後通牒などを行ったのだろう。管理職とは辛いものである。
しかしこれでゾンビの集団を暴徒として合法的に射殺する建前は整った。各々が自らの愛銃を構え、ゾンビに向ける。

「やむをえない。射殺に踏み切る。各員、構え!…発射!」
その部隊長の命令とともに自らの銃のトリガーを引く隊員たち。銃声とともに薬莢が飛び出し、鋼の塊が獲物を求めて解き放たれる。
そしてそれらはゾンビの体を悉く貫いていく。ドスッ!ドスッ!ドスッ!ゾンビの体には
瞬く間に多くの風穴が出来上がる。そして心臓を貫かれ、生命活動を維持できずに死んでゆくゾンビたち。

しかし、その屍を乗り越えてさらにゾンビは近づいてくる。目の前にはおよそ50体のゾンビがうめき声をあげてこちらへと向かってくる。イーグル6.0のトリガーを引きつつココは思った。
ゾンビはなぜうめき声をあげるのか。空腹?それもあるだろう。しかし、最大の要因は…
ココにはゾンビがうめき声をあげる理由は、苦しいからだと考えた。普通人間は苦しくなければうめき声など
あげないだろう。ゾンビも元は人間だったのだ。あり得ない話かもしれないが
ココにはゾンビたちのうめきが
自分たちを苦しみから解き放ってくれと声にならない願いに聞こえるのだった。いいだろう。
君達も望むべくしてその姿になったわけではあるまい。今楽にしてあげよう。せめて苦痛を感じぬように。
ココはゆっくりとイーグル6.0を構えなおし、傍らにて無表情で銃を撃ち続けるヨナに言った。
「ヨナ。頭を狙うんだ。彼らがなるべく苦しまないように。一撃のもとに成仏できるように。君ならできるはずだ」

ヨナは彼女を見上げる。ココのその表情に笑みはない。無言でうなずき、ヨナはいまだ近づき続けるゾンビたちの
頭めがけてコルトMK?のトリガーを引く。ヨナが憎みながらも頼りにしているその銃の口から解き放たれた弾丸は、
ゾンビの眉間を見事に貫いた。

ヨナの腕には警官隊たちも真っ青だ。無表情を保ち続け、トリガーを引きそして弾丸は悉くゾンビの眉間を貫き続ける。
ヨナのその手際をみて一部の警官もマネしようとするが、すぐに部隊長に止められる。

「やめておけ。彼だからできるのだ。お前のような訓練でしか銃を撃ったことのない奴が真似したところで
弾が無駄になるだけだ。わかったらさっさと銃を撃て」
そしてまた応戦を続ける警官隊。すぐに尻尾をまくかと思いきや、なかなかやるじゃないか。
ココは感心していた。しかし、そんな警官隊の尽力にもかかわらず、ゾンビはどんどん近付いていた。

そしてその背後に目を向けると、この島のマスコミだろう。その様子をリポーターが実況しながら
文字通り必死にこの様子を中継していた。ありがたい。この警官隊が必死に戦っている様子を見て
少しでも希望を見出してくれる住人がいればなによりだ。もっとも、今この瞬間にのんびりとテレビを眺めている
人間ははたして何人いるのだろうか。おそらく、ほんの数人だろう。ラジオでも中継されているならば話は別だが。

そして、とうとうゾンビたちはバリケードまでたどり着いてしまった。警官隊の尽力で当初50体近くいたゾンビたちは
20体までその数を減じていたが、この20体をせん滅する前におそらくバリケードは突破させるだろう。
間に合わない!どうすればいい?こんな時レームたちがいればどれほど心強いことか。
ココは彼らに休暇を出したことを今更後悔した。だが、後悔先に立たずという言葉があるように、
後悔ほど役に立たず、そしてしたくないものはない。今は警官隊と自分とヨナだけで目の前の異形を倒し、
生き残らなければならないのだ。

その表情に確実な焦りを浮かべる警官隊。バリケードがギシギシと悲鳴を上げている。正面玄関の屋根の上から
ゾンビを狙い撃ちにするが、正直もはやどれだけの効果があるかすらわからない。
そして、ゾンビが当初の5分の1になったとき、とうとうバリケードは突破された。
リロードにリロードを重ねていた警官隊の銃弾は枯渇していた。そしてそれは、ココとヨナも同じだった。

絶望の表情を浮かべる警官隊とココ。無表情で迫りくるゾンビを眺めるヨナ。これまでか…
ココがあきらめたとき、背後で何かシューと音がするのに気づく。驚いて振り返ると、
長髪の青年が前髪にその両目を隠して立ち尽くしていた。そして、その手には…ダイナマイトの束が握られていた。

「お姉さん、こんなところで死になくないでしょ?ならここは僕に任せてとっとと引っこんでてください」

見知らぬ青年になれなれしくお姉さん呼ばわりされた挙句、引っこんでてと言われココは正直
ご立腹だったが自分にはもう打つ手がないのもまた事実。
「期待しないで待ってるよ、坊や」
ありったけの皮肉を込め、笑みを浮かべヨナを引き連れ青年の言葉通り建物の中へと避難し、
ドアのガラス越しから青年の様子をうかがう。
青年の手に握られるダイナマイトの束の導火線はもう5センチ程度しかなかった。
「安心しなよ。全員まとめてあの世に送ってやるズラ」
奇妙な語尾を言い終えるとともに青年は手に握られたダイナマイトの束をゾンビたちに放り投げた。
放られたダイナマイトがゾンビの許へと届くのと、爆発するのはほぼ同時だった。
鼓膜を突き破るかのごとくに爆発音が響きわたり、それとともに燃え広がるのはすべてを焼き尽くす業火。
ココが玄関の扉を開け外へと飛び出す。それに続くヨナ。炎に包まれ、身もだえるゾンビたち。
炎はゾンビたちの体を容赦なく焼きつくす。その様子をただ茫然と眺めるしかないココと警官隊。

相も変わらずにヨナは無表情を保ち続けているが、ダイナマイトを放った謎の青年だけは只一人笑みを浮かべ呟いた。
「化け物は、はやく燃え尽きて灰になるといいズラ」

そして、10分ほどが経過したとき、炎はようやくその姿を消し、いずこかへと去っていった。
残していったのは、焼け焦げたアスファルト。そして…10の人の形をした炭の塊だ。
青年はその炭の塊へと歩いてゆく。そして、おもむろにかつて頭だった部分をグシャリと踏みつぶしていく。

ゾンビと化し、腐りかけていたその肉体は燃やされることでさらにもろくなり、容易に踏みつぶされてしまう。
そして最後の一つを踏みつぶし、ココの許へと戻る青年。青年は何かを言おうとしたが、
それよりも早くココが彼の頬に平手打ちを見舞う。先の光景を目の当たりにし、屋根から下りてきていた
警官隊も驚きの表情を隠せない。ヨナもこの時ばかりはわずかではあるが無表情を崩し、驚いていた。

ココが商売上のトラブル以外で他人に手を挙げることなどまずないことだったからだ。
ココが風太郎を殴ったのにはもちろん理由がある。ようやく死という永遠の解放を得られた
彼らの亡骸を踏みにじるという行為が許せなかったからだ。
そんな中、唯一表情を崩さなかった人間がいる。ココに平手打ちを食らった張本人である青年だ。
「痛いですよ。お姉さん」
はたかれた頬をさすりながら青年は無表情でつぶやく。
「お姉さんじゃない。ココ・ヘクマティアルだ。よく覚えておくんだね、坊や」
「僕も坊やじゃないですよ。蒲郡風太郎です。ココさん」

ココはその名前に心当たりがあった。日本の企業、三國造船の社長が最近亡くなり、その代りに
新たに社長に就任したのが確か蒲郡風太郎という青年だという話をHCLI社本部から小耳にはさんでいたのだ。
HCLI社は海運会社であるため、少なからず世界の造船会社とは縁があることだ。
ココは内心少し後悔していた。日本の企業とはほとんど接点がなかったココにとって彼は
ココの日本進出のパイプラインとなりえる存在だ。そんな風太郎を殴ってしまった以上、
もはや彼と友好的な関係を築くのは不可能だろう。

しかし、そんなココの考えとは裏腹に、風太郎の口から思いもかけない言葉が出てくる。
「ココ・ヘクマティアル。巨大海運会社・HCLI社の最高経営責任者であるフロイド・ヘクマティアルの実の娘ですか。
これからいいお付き合いができるといいです。先ほど殴られたことについてはなかったことにします」

なんと風太郎はココの素情を知っていた。しかも先ほど殴られたことについては水に流すという。

風太郎の器の広さにココは正直感心した。今までココと付き合ってきた商売相手の一部は、ココを小娘とたかをくくり
取引に麻薬などを持ち出し、そしてココはそんな奴らを悉く抹殺してきたのだが、
風太郎はそんな素振りは微塵も見せない。そういう人間にはココも相応の態度を取ることを流儀としていた。
「こちらこそ。この島から生きて出てこられたら早速提携を結びたいものだよ」
と、満面の笑みを浮かべて
右手を差し出すココ。そのシェイクハンドに応じる風太郎。二人の手が固く結ばれる。

この場にバルメがいたら多分やきもちを焼くだろうな、とヨナは心の中で思った。
「それで、これからどうします?部隊長さん」
唐突に風太郎が切り出す。突然に意見を求められ、一瞬困惑するがすぐに冷静になり、答えた。
「とりあえず我々も署内に避難し、今後の例の暴徒、これからはゾンビと呼称するが、対策を練ることにする」
そんな部隊長の返答に風太郎はあきれ顔を浮かべて言った。

「対策?武器弾薬の数はたかが知れているのにどうやってゾンビと戦うんですか?
連中はこれからも増えていくでしょう。こっちにはもうこの警察署にある武器がすべてなんですから」

風太郎のその言葉に眉をしかめる部隊長。しかし彼がどんな顔をしようとも
確かに風太郎の言う通りだった。結局のところゾンビを比較的安全に倒すには重火器の使用は絶対条件であり、
それが使えなければ危険を犯して刃物などで倒すしかないが、囲まれたらアウトだ。
どうすればいい?その場にいる人間全員が首をもたげる。
そんな時、普段は無口なヨナが珍しく大人数に対して口を開いた。

「武器ならあるよ。つい二時間くらい前にココが納品した重火器が」
ハッとした表情になるココ。目の前のゾンビを倒すのに精一杯で
それを完全に忘れ去ってしまっていた。武器商人ココ・ヘクマティアルが
この島の警察のために用意した重火器は多種多様化するテロに対応すべく
ラインナップしたものだ。あらゆる状況を想定し、打つ手がないなどということが
起こらないように。拳銃はベレッタ、トカレフ果てはデザートイーグル。
レミントンに代表されるショットガン。5.56mm機関銃MINIMI。
PSG1スナイパーライフル。さらには何かの冗談かロケットランチャーまで。
テロ対策部隊が100%の力を発揮出来るように質だけではなく量も申し分ない。

今回ココが納品した重火器だけで軍隊一個中隊が十分機能出来るレベルだ。
だが…恐らく重火器を積み込んだあのトラックは何処かで立ち往生しているだろう。
街中ゾンビだらけで島はパニック一色だ。はっきり言って今も
車が無事に通行出来る区間がどれ程あるかすら解らない。
もし万が一港から警察署へと続く道の全てが事故によって寸断されていたとしたら…
永遠に武器は届かない。そして自分たちは全員仲良くゾンビのご飯になるか、
あるいは彼らのお友達になるかのどちらかだ。言うまでもなくそんなのは
誰一人として望んじゃいない。しかし、それを回避するためには武器が絶対必要だ。

ここで突然今まで黙っていた風太郎が口を開いた。

「武器がある。だけどこのままじゃ届かない。なら答えは簡単です。
こっちから取りにいけばいいんです」
一斉に風太郎を見る一同。だが、いまだに両目を長い前髪で覆い隠した
このどこか不気味さの漂う青年の真意を推し量ることはさすがのココにも
出来なかった。取りに行きたいのは山々だが島中ゾンビだらけで
いつまた何時襲撃を受けるか解らない。何よりもうこっちには殆ど弾薬が
残っていないのだ。しかし、誰もが解っていることを口に出したと言うことは
彼には何かの策があるのだろう。そう考えたココは彼に問いただした。

「蒲郡くん。取りに行きたいのは山々だけど島の中はあのゾンビだらけだ。
私の武器を取りに行くというのは大賛成だけど何か考えでもあるのかな?」
そのココの言葉に風太郎は上着の長いシャツを脱ぎ捨てた。
そこに現れたのは…彼の体に巻き付けられた大量のダイナマイトだった。
ヨナを除く全員がそれを見てギョッとした表情を浮かべる。
そんな彼らの表情にもなんの興味も示さずに先程脱ぎ捨てた上着を
片手に携えて風太郎は言った。

「何を驚いてるんですか?あのノーベルが生み出した偉大な発明品ですよ。
これを使えばゾンビも撃退出来るし道を塞ぐスクラップも吹っ飛ばせるし
一石二鳥じゃないですか。ちなみにノーベル賞の賞金はこのダイナマイトの
利益から抽出されてるって知ってましたか?」
要するに風太郎の策は、ダイナマイトでゾンビを撃破しながら
恐らくは立ち往生しているであろうトラックを捜索するというものだ。
だがココはここで二つの疑問を持つ。それを口にすることはあえてしなかったが。

一つ目は、トラックが横転していた時風太郎がどうするかだ。
狡猾なこの青年がそれを計算に入れていないとはとてもではないが思えない。
たとえ横転していたとしても武器を警察署に運ぶ確固たる策があるのだろう。
ならば見届けさせてもらおうじゃないか。ココは風太郎に微笑みながら言った。
「大人しそうな見かけと違ってやること考えること結構エグいね。
面白い。私とヨナもついていこう。君の策、見届けさせてもらうよ」

風太郎はただ一言「どうぞご自由に」と言っただけで何ら表情を変えることはなかった。
「それじゃ行ってきます。お巡りさんたちは生きている住人の保護をお願いします」
そして、ジッポーにオイルを足しながら風太郎は武器と言う名の希望を
手繰り寄せるために半ば地獄と化した警察署の外へと足を踏み出した。
それを追いかけ、風太郎の両隣に立ち共に歩を進めるココとヨナ。
「生きるためなら、何でもするズラ」
極めて小さな声でそう呟いた風太郎。金のためならどんなことでもやるのが
銭ゲバならばさしずめ生きるためならどんなことでもやるのは生きゲバ
といったところか。しかし、そう呟くために動いた風太郎の唇をココは見逃さなかった。

そして彼女が先程首をもたげたもう一つの疑問。何故風太郎はこんな
大量のダイナマイトを所持していたか、だ。しかし、それを考えても
無駄だと思い返し、武器を探しに再び前を見据えながらココは歩くのだった。
そんな時、唐突に彼女に話し掛けた風太郎。
「ココさん。あなたは信用出来る相手と出来ない相手、どちらと商売をしたいですか?」
そんなの信用できる相手に決まっているし、実際ココはそう答えた。
「それは僕も同じです。だからあなたを信用出来るか確かめさせて下さい」

確かめる?どうやって?ココがそう口にすると風太郎は今まで
目を隠していた長い前髪を退けて両目を露にさせた。

その左目には…痛々しい傷を負っていた。しかも完全に肌と同化していることから
かなり昔におった傷だと言うことが解る。しかし、その傷を見てもココは
微笑みを崩さず、ヨナは無表情のままだ。
「どうやらあなた方は信用できる人間のようです。安心しました」
風太郎の左目の傷は彼が少年時代に父親の暴力によってつけられたもので
風太郎はその後その目の傷と貧乏が原因でいじめに遭い、さらには
病弱だった母親を失い、自暴自棄になり盗みを働くがそれを咎めた
仲良しの青年を撲殺してしまったのだ。以来風太郎は世の中金がすべてと
盲信するようになり、金のためならあらゆることをする「銭ゲバ」になってしまったのだ。

これまでの風太郎の人生でこの傷を見て気味悪く思わなかった人間と
出会ったことは一度もない。そして風太郎はそう言う人間を悉く
遠ざけてきた。しかし、今彼の人生で初めてその例に漏れた人間と出会った。
人を外見で判断せずに内面で判断しようとするこの二人に風太郎は初めて
信頼を覚えると同時にちょっとした驚きを抱いていた。
「信頼してもらったようで嬉しいよ。商売は信用の上に成り立つものだからね」
ココが風太郎の言葉に返す。信用、信頼。風太郎はこの言葉と自分は
生涯無縁だと思っていたが、運命のいたずらかまさかこんな地獄で
手に入るとは。しかし、信用、信頼は絆を育む。絆は希望を生み出す。
ゾンビに対する武器が銃ならば希望は絶望に対する武器だ。
そして、いまここに絆が一つ生まれた。

【G-5/警察署正面玄関前/日中】

【ココ・へクマティアル@ヨルムンガンド】
 [状態]: 肉体的・精神的疲労ほとんどなし
 [服装]: 白いスーツ。タイトなスカート。
 [装備]: STI イーグル6.0(装填数0/7、予備弾0、9mmパラべラム弾使用)
 [道具]: 携帯電話、パスポート、
 [思考]:1、納品した武器の回収
     2、蒲郡風太郎、なかなかのやり手みたいだね。
 [備考]:ヨルムンガンド第6巻終了時の時間軸です。

 【ジョナサン・マル@ヨルムンガンド】
 [状態]: 肉体的・精神的疲労皆無
 [服装]: Tシャツ・半ズボン
 [装備]: コルトMK?(装填数0/7、予備弾0、9mmパラべラム弾使用)
 [道具]: パスポート
 [思考]: 1、ココについていく。
 
【蒲郡風太郎@銭ゲバ】
 [状態]: 肉体的、精神的疲労ほとんどなし
 [服装]: カジュアルな服
 [装備]: ダイナマイト×50本
 [道具]: 携帯電話、ジッポー
 [思考]:1、武器を回収する。
      2、生きるためなら、何でもするズラ
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 結成!西園寺世界捜索隊  ◆ubyc5N5K3uqR

時間は遡り、ココが港にて武器を納品しているとき埠頭に佇み
潮風を浴びている少年と少女がいた。少年は髪を茶色に染め、ネックレスで
着飾るなどしているが少女の方はと言うと黒髪をヘアバンドで綺麗にまとめ
大人しい、控えめな服を着ている。はっきり言って対照的な格好の
二人が一緒にいるというこの構図は端から見ればおかしいものだった。
しかし当の二人は微塵もそんなことを思わずに雑談に興じていた。
その少年、花村陽介が少女、御堂島優と出会ったのは三日前に遡る。

稲羽市という片田舎で暮らしている陽介は自分がバイトで働いている
ジュネスというスーパーマーケットの福引き大会に参加した。
目当ては三等の原付バイクだったのだがガラポンを回したときに
出てきた玉は金色に光っていて、それと同時に係員は鐘を鳴り響かせた。
壁に貼り付けられた賞品一覧に目をやると、特賞(金色)
セント・マデリーナ島7泊9日の旅お一人様ご招待というでかい見出しが
真っ先に目に飛び込んできた。セント・マデリーナ島?どこそこ?
という疑問を抱くが陽介は真っ先に辞退を申し出た。
「いやいや。俺店長の息子じゃないすか。んな俺が特賞なんて烏滸がましいって」

しかし抽選係員を勤める定員のおばさんがいうには
「あら陽介くん。店長の息子だからって辞退しなきゃいけない決まりは
ないわよ。せっかくの機会なんだし、楽しんでいらっしゃい」
と、辞退を断られてしまったのだった。店長である父親に話しても
おばさんと同じようなことを言われた陽介は困り果てた。
「全くなんで俺がそんな名前も知らない…あ、知ってるか。
そんな島に行くことになったんだよ…しかもペアじゃなくてお一人様かよ…
これがペアだったらリーダーとか里中とか天城とか完二とかりせとか直斗とか
声かけんだけどな…まあいいか!いっちょやっちまいますかぁ!」

というノリでセント・マデリーナ島に降り立ったのが丁度三日前だった。

御堂島優と出会ったのはその日の夕食の席でのことだ。
陽介がホテルのレストランにて前菜のスープをすすっていると、
店がどんどん混んできた。カジュアルな服を着た男と神父らしき
格好をした男が入ってきて、陽介の後ろの席でムウがどうとか訳のわからない
話をしている。続いてカルパッチョを口に運んでいると今度は家族連れが
やって来た。陽介の見立てでは五歳くらいの男の子、その父親と母親。

母親の背中には赤ちゃんがおぶさっていた。そこまでは普通の家族だったのだが
この家族はひと味違った。男の子がウェイターの若い女性になにか言ったあと
母親が拳骨を男の子に食らわせた。苦笑いを浮かべつつ案内するウェイター。
案内したのは、陽介の隣の席だった。家族が席につく際に母親と目が合い、
会釈をかわす陽介。その後も店の混雑は止まらずに、ついに満席になってしまった。
携帯をいじりながらメインディッシュを待っているとウェイターが声をかけてきた。
「お客様、大変申し訳ないのですか相席をお願いしたいのですが…」
もともと顔見知りしないタイプだった陽介はそれを承諾した。

一礼したウェイターは入り口の方へと向かい陽介の席へと案内したのは…
陽介と同じ年頃の少女だった。ヘアバンドで綺麗に髪をまとめた
大人しそうなその少女は陽介の目の前の席に座るとメニューをさらりとみた後、
陽介に話し掛けた。
「あ、あの…相席に応じてくれてどうもありがとうございます…」
「ああ全然大丈夫っすよ。俺も一人きりの飯は寂しいって思ってたんで」
「あの、私は御堂島優といいます…もしよければお友達になっていただけないでしょうか?私、友達がいないので…」
陽介は驚いた。陽介の見立てでは彼の友人、天城雪子に並ぶ
美少女である優に友達が一人もいないというのは陽介の常識では考えられないことだった。

「もう全然いいっすよ。こんな俺でよければ友達にだってなんだってなってやるさ」
その言葉を聞いて優は初めて明るい笑顔を浮かべて、陽介に言った。
「ありがとうございます!それでは早速…」
と言って優がポケットから取り出したのは携帯電話だった。なるほど、友人なら番号・アドレス交換位は当然だ。
「あの…あなたのお名前まだうかがってなかったですね…なんておっしゃるんですか?」

「ああ自己紹介してなかったっけ。俺は花村陽介。よろしくな、優ちゃん。あとそれからタメ口でいいぜ。
歳近いみたいだし、友達同士なのに敬語使うなんておかしいじゃん」
陽介のその理論は至極当然のものなのだが、優は首を横に振った。
「私は…人と接するのがあまりうまくないので…私の言った些細なひと言で相手を傷つけるのが怖くて…だからこんな話し方しかできないんです…ごめんなさい…」

陽介は思わず髪をかきあげた。自分とは正反対のタイプの人間だ。こんな時、里中とかいてくれると
助かるんだけどな…と陽介は心の中で思い、まずは俺がこの子と接することで少しずつ変えていけばいい。
そう考えた。その後、電話番号、メールアドレスを交換したのち食事を終えて二人はそれぞれの部屋へと帰っていた。
それから三日間、二人は就寝時以外、ほとんど同じ時を過ごした。その過程で優がこの島にやってきた理由を陽介は聞くことができた。

ひと月ほど前、優は全く身に覚えのない暴行事件を起こし、転校を余儀なくされた。
しかし、転校に伴い引っ越した滞在先で恐ろしい事件に巻き込まれ、その心の傷を癒すためにやってきた、というのだ。
そして時間は再び今現在に巻き戻る。埠頭にて優の内向的すぎる性格を変えるために陽介はさまざまな話題を元に
雑談に興じているが、やはり3日程度じゃ人間はそう簡単には変わらない。

とりあえず、時間も時間ということで昼食をとりにホテルへ戻ろうという話になり、踵をかえして、内陸部へと向かう二人。
「セント・マデリーナ警察署」と英語にて書かれたトラックの横を通り過ぎる時、運転手と助手席に座った二人の男、
おそらくは警官であろう、が苦しそうにうめき声をあげているのに陽介は気づいたが、面倒事に巻き込まれそうな気がしたので
そのままスルーした。ただ、遅かれ早かれものすごい面倒事に巻き込まれることになるのだが。

街中を歩いている途中、昨日までとは一変して町の雰囲気がものすごく奇妙なものになっていることに気が付く二人。
道を歩いていても、誰ともすれ違わず、住宅から聞こえてくるのは苦しそうなうめき声ばかりだ。
優は不安を隠せなかった。でも大丈夫、この「ミコシサマ」があれば…。「ミコシサマ」とは優が幼いころから
肌身離さず持っているお守りのことで、優をいろんな危機から救ってきてくれた。

そんな不安そうにしている優に陽介はできるだけ勇気づけられうように声をかけた。
「心配すんなって。何かあっても俺が守ってやるからさ」
といって懐から彼が取り出したのは…二対のナイフだった。それに驚愕の表情を浮かべる優。
「俺の町にだいだら。っていう骨董店的な店があんだけどさ。そこの親父さんが最高傑作だって
太鼓判を押したナイフなんだよ。いやあ、高かったなあ…」
聞いてもいないことを説明されても困るのだが、優には妖しく光るそのナイフを握る陽介が頼もしく見えた。

その後も奇妙な空気に包まれた街を進み、ようやくホテルの前にたどり着きロビーに入ろうとしたところで、
二人は信じられないものではなく、信じたくないものを目にしてしまった。入口のガラス越しから二人が目にしたもの、それは…
さながら人間の肌に青空の青を塗りこんだかの如くに蒼白になった肌を持ち、所々で筋肉組織が腐敗してそげ落ちてしまったのだろう。

骨が露呈してしまっていた。通常の人間であれば余りの激痛、状況の異常さに発狂しているだろうが、
彼らの顔を見る限りそんな様子は毛の先ほども感じられない。それどころか、その眼からは完全に瞳が
消え去ってしまっていた。だらしなく開け放たれたままの口からはよだれが垂れながされ、手をだらりと前方に垂らしたまま
ただロビーをさまよっている、人の姿をした異形。
「どうなってんだよ…これ…」
いつもは明朗快活な陽介もこのあまりの状況の異常さに、半ばパニック状態になりかけてしまっていた。

とりあえず警察に電話だ。いろいろな感情が混ざり震える手を押さえながら陽介は110をコールした。
しかし、携帯電話から聞こえてきたのは、「ただいま回線が大変込み合っております。おかけ直しください」
という機械のアナウンスだった。舌打ちし、携帯電話をポケットにしまう陽介。こうなれば自分たちが直接警察署に行くしかない。
幸いロビー内の異形はまだこちらに気づいてはいなかった。おびえる優を必死になだめて警察署に向かう旨を伝える陽介。

踵を返して振り返り、優の手を掴んで全力疾走する陽介。この3日間でいろんな所を優とともに歩き、
大体の地理を把握していた陽介。しかし…警察署へとつながる大通りに出てところで2人は
あの異形が大行進しながら警察署へと向かっているところに出くわしてしまった。
あわてて物陰に身を隠し、その様子をうかがう陽介。警官隊がバリケードを展開して必死に応戦している。

傍らではこの島のメディアがその様子を必死に中継していた。馬鹿やってないで早く逃げろよ!と陽介は一瞬思ったが
すぐに立ち消えた。この島に、もはや逃げる場所などどこにもないということに気づいたのだ。
「どうすりゃいいんだよチクショウ!」
陽介は大声で叫んだ。こんな時仲間がいてくれれば、そしてなにより…「ペルソナ」が使えれば…
ふと気がつくと、自分たちも5体の異形に囲まれてしまっていた。しかも壁を背にしてしまっているために逃げ場がない。
ここで陽介は完全に吹っ切れた。うっすらと笑みを浮かべ、優そっちのけで異形たちに啖呵を切った。
「てめえらと俺たちとじゃすむ世界が違えんだよ!とっととテレビの中に帰りやがれ!」
と、訳のわからないことを口走り陽介は異形に突進した。その動きに反応し、一斉に陽介に襲い掛かる5つの異形。
しかし、陽介のとても高校生とは思えぬナイフ捌きにまず一体の異形が心臓を一閃され、その場に崩れ落ち、動かなくなる。

2体目の異形の喉笛にナイフを突き立て、一気に引き抜く。その胴体を蹴り倒し、先ほどのさし傷を利用して
2対のナイフで首を一瞬ののちに切断した。首がごろごろと転がって行ったがそんなの気にしている場合じゃない。
3体目の異形には、「必殺ローリングスペシャル」をくらわせてやった。陽介自身が回転しながら、
その遠心力を利用して何度も切りつけるという大技だ。その技を受けて、吹っ飛んだところへすかさずとどめの一撃を見舞う。

これで異形の残りは2体だ。しかし、そのうちの一体が優に襲いかかった。大慌てで救出に向かおうとするが、
自分も異形の片割れにつかまれ、振りほどこうともがく。そうこうしているうちに異形は優に掴みかかり、
今にその喉笛にかみつかんとしていた。これまでかよ…守ってやるとかいっときながらこのザマかよ。
情けねえ…。と、異形を振りほどき、倒し優の許へ駈け出した陽介は落胆した。

しかし、次の瞬間陽介は奇跡を目の当たりにした。突如として現れた謎の人影が異形の脳天に
鉈の一閃をたたきこみ、間一髪のところで優を救ってくれたのだ。
「危ないところだった…怪我はない?」
優を救出したその人物、もとい少女がへたり込み半ば放心状態になっている優に手を差しのべながら言った。
その手をつかみ、起き上がる優。陽介もその許へ駆けつける。
「助かったぜ。サンキューな」
優を救ったその少女に真っ先に感謝の言葉を述べる陽介。まだ「マジギレモード」から抜けていないらしい。

初対面にも関わらずタメ口を聞いている。しかしその少女はそれを気にすることもなく、今度は陽介に話しかけた。
「助けに入りに走りながら見てたけど、見事な手際ね。何か武道でもやってた?」
武道というかなんというか。だが、陽介が稲羽市で経験したことをここでのんびり話している場合じゃない。
「話は後にしようぜ。とにかく、俺たちも警察署に一旦避難して…」

陽介が言い終える直前、ものすごい炸裂音が響きわたった。驚いて大通りに出る3人。警察署のほうから聞こえてきた。
見ると、警察署の門のところが真っ赤な炎に包まれていた。これでは警察署への避難は事実上不可能だ。
「ありえねぇ…どうなってんだよ…」
陽介が再び落胆する。それを見て少女がため息をつきつつ、あきれ顔で言った。
「浮き沈みの激しい人ね。人生楽あれば苦あり、っていうじゃない」

陽介からすればこの異常な状況下で冷静さを保っているこの少女も十分おかしいのだが、
今現在、こういうタイプの人間が一番心強く頼もしい人間であることもまた事実。
「だよな。ところで、あなたのお名前なんてーの?」
「清浦刹那と申します、とでも返せばいいかしら?」
「ノリがいいじゃん。気に入ったよ」
「どういたしまして。それより、こんな女の子を見なかった?西園寺世界っていうんだけど」

と言って刹那は一枚の写真を二人に見せる。その写真に写っている美少女は西園寺世界という少女で
刹那の親友なのだそうだ。だが、二人とも見ていないし、たとえ目に入っていたとしてもこの状況だ。
覚えているはずなどない。見ていない、と告げる優と陽介。
「そう…」
ただ一言そう呟き、今度は刹那が落胆した。それを見て陽介は刹那にこう提案した。
「刹那の人探し、俺たちも手伝うよ。君一人じゃ危険だろうし。それに、俺のナイフ捌きみただろ?きっと力になれるぜ」
陽介の突然の提案に一瞬面食らうが、すぐにふっとほほえみうなずいた。

「決まりだな。あ、この子は御堂島優。ちょっと暗い子だけど、よろしく頼むよ」
陽介に紹介され、無言でぺこりと頭を下げる優。そしてそれを見て苦笑いを浮かべる刹那。
しかし、内心少しうれしかった。あの時あの家族にかけた情けが帰ってきたような気がしたのだ。
「世界、無事でいて」
そう呟き、たった3人の西園寺世界捜索隊は今ここに結成されたのだった。

【G-5/警察署前大通り/日中】

【花村陽介@ペルソナ4】
 [状態]: 精神的興奮、やや肉体疲労
 [服装]: ペルソナ4にて来ていた、夏の私服。
 [装備]: ブリッツナイフ×2
 [道具] 携帯電話、島の地図、ウォークマン、
 [思考]:1、西園寺世界の捜索
     2、刹那、結構かわいいじゃん。
 [備考]:ペルソナ4の事件解決後という時間軸なので、結構強いです。ちなみに言うまでもありませんが、ペルソナは使えません。


【御堂島優@クロックタワーゴーストヘッド】
 [状態]: 精神的疲労
 [服装]: 麦わら帽子に水色のワンピース
 [装備]: 特になし
 [道具]: ポーチバッグ(パスポート、携帯電話、島の地図、ミコシサマ)
 [思考]:1、西園寺世界の捜索
     2、島からの脱出
 [備考]:御堂島優は二重人格であり、ミコシサマを手放してしまった時にピンチに陥ると翔」という冷酷非道な性格の持ち主が表にでてきます。
     逆にいえば、ミコシサマがあれば「翔」は出てこれません。
 
【清浦刹那@SchoolDays】
 [状態]:やや肉体的疲労。精神的安定。世界を守る責任感。他人との協調。
 [服装]:目立たないような服。
 [装備]:刃渡り30?の鉈(革ベルト鞘を腰に着用済み)
 [道具]:ショルダーバッグ。日用品(パスポート、携帯電話、500mlペットボトル×2、観光ガイド兼地図)。
      非常用セット×2(1セットにブロック状の固形食糧×9個(3日分)、150ml飲料水パック×6個)。2m四方の防寒・保温シート×2。
 [思考]
  1:西園寺世界を見つけて守る。
  2:野原ひろしとシロを捜す。見つかればみさえ達の無事を伝える。 
  3:花村陽介・・・何者なの?